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包摂民主主義の訴え,駐ネ米大使(1)
A.B.テプリッツ駐ネ米大使が,ネパール・メディアに長文の米ネ国交70周年記念メッセージ「包摂的市民参加:民主主義のために」を寄せている。
▼ALAINA B. TEPLITZ, “Inclusive civic participation: Where democracies thrive,” The Himalayan Times, February 20, 2017
テプリッツ大使は1969年生まれで,2児の母。オバマ大統領により2015年3月,駐ネ大使に任命された。初の大使就任。
テプリッツ大使は,オバマ大統領任命ということもあってか,社会諸集団の包摂参加やマスコミなど「市民社会(civil society)」の自由と権利の重要性を力説している。この国交70周年記念メッセージも,そうした立場から書かれており,トランプ現政権との関係という観点からも,またネパール内政との関係(内政干渉ではないか)という観点からも,興味深い。
■米大使FB(2月21日)/クンダ・デグジト氏ツイッター(2月21日)
谷川昌幸(C)
「美しい国」のニュースピーク国語
安倍首相の「美しい国」では,カタカナ英語の導入が進み,いまやニュースピーク文法によるダブルスピークや二枚舌が慣用化している。(ニュースピークは,元来,オセアニア国公用語。下記注参照)
すでにいくどか指摘したが,「美しい国」では,“Proactive Contribution to Peace”は「積極的平和主義」である。これは,「戦後日本」標準国語(オールドスピーク)に翻訳すれば,「戦争は平和である」ということ。新旧国語で意味が逆転している。
「美しい国」ニュースピークでは,このような転倒語法のほかに,ぼかし語法,ずらし語法も多用される。たとえば,先日の日米共同記者会見(4月24日)でも,外交の重要問題について,決定的な点で,ぼかし語法が用いられた。偶然,拝見した”Peace Philosophy(乗松聡子さん)”ブログに教えられ,愕然とした。
Peace Philosophyによると,記者会見の公式同時通訳が,オバマ大統領の”profound mistake(深刻な過ち,重大な誤り)“を「非常に好ましくない過ち」と訳し,またマスコミも,NHKをはじめTBS,フジTV,産経,毎日,東京,日経など多くが「正しくない」と訳し報道したという。
▼大統領発言:(CNN記者質問への回答)
At the same time, as I’ve said directly to the Prime Minister that it would be a profound mistake to continue to see escalation around this issue rather than dialogue and confidence-building measures between Japan and China. And we’re going to do everything we can to encourage that diplomatically.(The White House,Joint Press Conference with President Obama and Prime Minister Abe of Japan, April, 24, 2014)
▼公式同時通訳
同時に総理に言いました。引き続きエスカレーションになってしまうということは、非常に好ましくない過ちになるということ。日中の間で対話や信頼醸成措置を形成すべきだと。我々としてもこれを外交的に奨励したいと思います。
▼NHK同時通訳
同時に安倍総理に申し上げましたが、この問題について事態がエスカレートし続けるのは正しくない ということです。日本と中国は信頼醸成措置をとるべきでしょう。そしてできるだけのことを外交的に私たちも協力していきたいと思います。
■Peace Philosophyの訳語批判
Profound という言葉は非常に強い言葉である。・・・・serious よりもさらに強い言葉だ。もうこれ以上深刻なものはないというぐらい根本的に深刻だ・・・・。オバマ氏は、尖閣問題をこれ以上エスカレートさせるのは深刻な過ちであると安倍首相に私は直接言いました、と共同会見で表明したのである。・・・・これを「正しくない」などとの生ぬるい言葉にすり替えた日本のメディアは大罪を犯している。
Peace Philosophy指摘のとおり,これは巧妙な意味ぼかし語法だ。「美しい国」では,カタカナ英語や,日英翻訳を巧妙に利用し,総動員体制で日本版ニュースピークの普及が図られているのだ。
「美しい国」は「一民族・一言語・一文化」であり,世論操作はいとも容易。たとえば,つい先日まで「韓流」一色だったのが,いまでは一億総「嫌韓」。このような「品格」を持つ国では,ニュースピークへの抵抗は至難と覚悟すべきだろう。
[参照] G・オーウェル『1984年』1949年(新庄哲夫訳,ハヤカワ文庫,1972年)
・ニュースピーク: オセアニア国公用語,オールドスピーク(標準英語)に代わるもの(p.391)。「戦争は平和である。」「自由は屈従である。」「無知は力である。」(p.10)
・二重思考: 一つの精神が同時に相矛盾する二つの信条を持ち,その両方とも受け容れられる能力(p.274)。
谷川昌幸(C)
ルンビニを国際平和都市に,プラチャンダの野望
1.政治家プラチャンダの野望
プラチャンダ議長が,世界政治の檜舞台に立とうとしている。権力欲は政治家の本性であり,プラチャンダ議長が世界的政治家への野望を抱くことは決して悪いことではない。
2.プラチャンダ訪米の目的
すでに紹介したとおり,プラチャンダ議長は,中国系NGO「アジア太平洋交流協力基金(APECF)」の共同議長であり,またネパール政府「ルンビニ開発国家指導委員会」の議長(委員長)でもある。
そのプラチャンダが,ネパール政府ルンビニ開発委員会議長として訪米し,パン・キムン国連事務総長,オバマ大統領,クリントン国務長官らと会談,ルンビニ開発への協力を要請することになった。
またプラチャンダの法螺話かと思われるかもしれないが,決してそうではない。プラチャンダは,APECFの共同議長であり,また自らが果敢に決断し成立させた「和平7項目合意」の手土産もある。さらに,隠し球は,対印牽制。これは凄い,スゴすぎる! やはり,プラチャンダは大物だ。
3.素性不透明のパトロン,APECF
ルンビニ開発のパトロンは,APECF。素性不透明の中国系NGOだが,すでにルンビニ開発に30億ドル拠出を表明しており,現地ルンビニにも覆面調査団を何回もだし,下調べを終えている。また,APECFの実質的運営者と思われるXiao Wunan執行共同議長は2ヶ月前,オーストラリアでパン・キムン国連事務総長と会い,ルンビニ開発について説明,よい感触を得たという。
APECFは,中国の仏教団体を中心に,開発資金を募ることにしている。
■国際ルンビニ開発委員会 議長:パン・キムン国連事務総長(予定),実行委員長:プラチャンダ(予定)
■APECF 執行共同議長:Xiao Wunan,共同議長:プラチャンダ
■ルンビニ総合開発国家指導委員会 議長:プラチャンダ
この希有壮大なルンビニ開発構想は,すでにネパール政府のプロジェクトになっており,「国際ルンビニ開発委員会」が成立したら,APECFもその中に組み込むことになっている。
4.「国際平和都市」ルンビニ
プラチャンダは,抱負をこう語っている。
「ゴータマ・ブッダは,平和のシンボルとして世界中で尊敬されている。われわれは,地球上のあらゆる紛争を解決するためのセンターとして,ルンビニを開発したいと願っている。・・・・ニューヨークに行くのは,ルンビニを国際平和センターとするためである。」(Republica, Nov4)
5.現実主義者プラチャンダの成算
ルンビニを「国際平和都市」に! これはプラチャンダの観念的夢想ではない。国際的な権力関係と利害関係,および地政学的な計算に加え,国内の利害関係へも十分目配りし,さらにはプラチャンダ一族の利益もちゃっかり図りながら,彼はこのルンビニ開発計画を進めていくつもりなのだ。
国連と米中には「平和構築」の大義名分,内外企業には開発利益,そして国内の有象無象には目もくらむばかりの巨大利権配分――誰にも反対の理由はない,インドを除けば。
もし目論見通り,プラチャンダ訪米団がパン・キムン国連事務総長,オバマ大統領,クリントン国務長官らと会談し,たとえ大筋だけであってもルンビニ開発への賛同が得られたならば,プラチャンダは,世界的政治家の仲間入りを果たし,そして新憲法制定後の新生ネパール共和国(大統領制移行予定)の初代大統領となるであろう。民主ネパールの建国の父プラチャンダ! ノーベル平和賞も夢ではない。
* Republica, Nov4, Peoples Review, Nov3.
谷川昌幸(C)
Un-Victim: 「武器を持つガンディー」としてのロイ(1)
「銃をもつガンディー」――あまりにも挑発的で神をも恐れぬ不遜な言葉だ。2009年12月、オバマ大統領がノーベル平和賞受賞演説でこれに近いことを述べた。彼は誠実で偉大な大統領ではあるが、アフガンなど世界各地で無防備な人民を多数殺しているアメリカの大統領であり、この呼称の域にはまだはるかに及ばない。
(参照)ガンジーを虚仮にしたオバマ大統領 広島・長崎「平和宣言」批判 オバマ大統領の新軍国主義と朝日の海自派遣扇動 オバマ核廃絶発言と長崎の平和運動 オバマ大統領と国益と南アジア オバマ大統領の新軍国主義と朝日の海自派遣扇動 無節操なオバマあやかりイベント
「銃をもつガンディー」――あるいは、ひょっとしてこの呼称で呼ばれてもよいかもしれないと思わせるギリギリの域にいるのが、われらがアルンダティ・ロイだ。鋭利な言葉を縦横無尽に駆使して不正義と果敢に戦う作家、インド体制派にとってもっとも危険な知識人。そのロイが、『ゲルニカ』のインタビューにおいて、ガンディーを尊敬するにもかかわらず、なぜ銃を取らざるをえないか、このギリギリの問いに真正面から向き合い、誠実に答えようとしている。
■Arundhati Roy, “The Un-Victim,” Guernica, Feb. 2011
1.愚劣な質問
『ゲルニカ』のインタビュアー(Amitava Kumar)は、まず多くのインタビューを受けてきたロイに対し、愚劣な質問(stupid questions)と思ったのはどのような質問か、と問いかける。
「ロイ: かつて私はチャーリーローズ・ショー(Charlie Rose Show)に招かれ出演したことがある。彼はこう質問した。『アルンダティ・ロイさん、インドは核兵器を持つべきだと考えますか?』 そこで私はこう答えた。『インドは核兵器を持つべきだとは思いません。イスラエルも核兵器を持つべきだとは思いません。アメリカも核兵器を持つべきだとは思いません。』 『いいえ、そうではなく、インドは核兵器を持つべきだと思いますか、と質問したのです。』 私は全く同じように答えた。4回ほども・・・・。ところが、それは全く放送されなかった!」
あらかじめ想定していた回答を引き出すための質問、これはたしかに愚劣だ。次に、前後関係を棚上げにし、想定した回答を引き出そうとする質問。
「ロイ: 『マオイストは学校を破壊し、子供たちを殺している。こんなことが許されますか? 子供たちを殺すのは正しいことですか?』」
マオイストだろうが誰だろうが、子供を殺すのが悪であることは自明だ。その自明なことを答えさせることによって、質問者は、子供を殺すことは悪→子供を殺すマオイストは悪→ロイのマオイスト支持は誤り、という三段論法でロイをやりこめようとしているのだ。
これも愚劣な質問だ。人殺しは悪か、と問われたら、誰だって「人殺しは悪だ」と答えるに決まっている。しかし、現実にわれわれが直面する真の問題は、状況により人を殺さざるをえないときがあるのではないのか、という問いである。これなら本物の質問だ。ところが、腹に一物ある質問者は、状況も前後関係も棚上げして人を殺すのは悪かと質問し、悪だと答えさせ、それをもって人を殺さざるをえなかった人々を一方的に断罪しようとするのである。これも愚劣な質問である。
「ロイ: 愚劣な質問に答えるのは難しい。とてもとても難しい。愚劣は特有の方法で人を打ち負かす。とくに時間がなく、時間が貴重なときは。」
たしかに、そうだ。愚劣な質問は、本物の問題に対峙する勇敢な人々の誠意を踏みにじるものである。
(C)谷川昌幸
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