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カルキCIAA委員長,瀬戸際(2)
2.カルキ任命異議申し立て裁判
(1)異議申し立て棄却
ロックマン・シン・カルキのCIAA委員長任命については,2014年5月16日,プラカシ・アルヤル弁護士が違憲の訴えを最高裁判所に提出した。
▼2007年暫定憲法の規定(現行2015年憲法もそのまま継承)
第119条(5) CIAA委員長の資格要件(要旨)
a 学士号の保有。
b 任命直近において政党に所属していないこと。
c 会計,歳入,工学,法律,開発または調査のいずれかの分野において20年以上の経験を有する卓越した人物。
d 高潔な道徳的資質(उच्च नैतिक चरित्र)を有する人物。
アルヤル弁護士は,憲法規定のこの委員長資格要件をカルキは満たしていない,と訴えた。
▼原告側の主張
1)経験年数と専門知識の不足
カルキは,憲法規定の高度な専門知識を持っていない。また,パンチャヤト期王室雇用の6年間は在職年数に算入するべきではなく,それを差し引くと,20年の経験年数には達しない。
2)「高潔な道徳的資質」の欠如
カルキは,国王親政の書記官長(Chief-Secretary)として2006年人民運動の弾圧に加担した。この事実は,ラヤマジ委員会も認定している。また,トリブバン空港事務所など多くの役所において,管理職高官として様々な汚職に関与した。
このアルヤル弁護士のカルキ任命異議申し立てに対し,最高裁は2014年9月24日,棄却を言い渡した。棄却理由の詳細は不明。
谷川昌幸(C)
新憲法制定,しらける世論
議会主要4党が6月8日,「16項目合意」に署名し,これにより7月中旬の新憲法制定公布がほぼ確実となったとされている。むろんネパールのこと,また先送りの可能性もあるにはあるが,いまのところ4党は“Fast Tarck”すなわち「超特急手続き」ないし「無修正一括承認手続き」を宣言し,7月中旬の新憲法制定を繰り返し公言している。
もし本当にそうなら,待望久しい新憲法,世論は大いに盛り上がるはずだが,実際には,人々は冷めており,期待の声はあまり聞かれない。なぜだろう?
1.現体制の弾よけ
第一にあげられるのは,この唐突とも拙速とも思われる憲法制定への動きが,現体制を守るための窮余の策,攻撃をそらすための弾よけ,と見られていること。
現体制,つまり政府と議会主要諸政党は,4月25日大地震への対応の不手際を内外から厳しく批判され,体制崩壊さえウワサされていた。この窮地を脱するため持ち出されたのが,新憲法の制定。震災対応不手際への非難攻撃は,新憲法制定の錦の御旗で勢いをそがれ,あるいは再び連邦制などに向かうというわけだ。
それと絡んで,いつもの権力闘争もある。「超特急手続き」により新憲法が制定公布されると,それを機に大統領,首相,議長,大使など国家の主要役職者が交代するらしい。新憲法制定は,役職たらい回しの口実。
いずれにせよ,新憲法制定が,大きくは現体制を守るため,そしてその体制内では既成諸勢力の権力闘争の具として利用されていることは否めない事実であろう。
[参照]「わずかの例外を除けば,地震後の政府の行動は惨めなほどひどいものだった。」(”NEPAL: Earthquake exposes crisis in governance,” 5 May 2015. http://www.humanrights.asia/news/ahrc-news/AHRC-STM-069-2015)
2.「暫定」をとっただけの新憲法
第二に,4党合意に基づく新憲法は,内容的には,現行暫定憲法から「暫定」の文言を削除しただけのものになりそうなこと。実質的には現行憲法と何ら変わりは無く,これでは世論がしらけるのも無理はない。
憲法とは「国家構成(constitution)」のこと。現行暫定憲法でも,ネパールは「連邦民主共和国」である。つまり,どこにもいまだ「州」のない,幽霊のような連邦国家だ。逆にいえば,新憲法の最大の課題は,「州」を確定し,連邦国家を名だけではなく,実においても法的に確定すること。ところが,「16項目合意」では,その肝心かなめの「州」の確定が,先送りされている。
「16項目合意」によれば,新憲法成立後,
・州の区画は,連邦委員会が原案を作成し,立法議会が2/3の多数により決定する。
・州名は,州議会が2/3の多数により決定する。
これでは,新憲法ができても,国家構造の基本はいまと同じ。「州」なしの連邦国家。そもそも制憲議会成立(2008年5月)以後,7年にわたって延々審議してきて,それでも新憲法が制定できなかった最大の理由は,「州」の区画と名称が決定できなかったこと。その難問を,「連邦委員会」に丸投げし,それではたして万事めでたく決着となるかどうか?
3.先送りの「委員会・審議会」政治
「委員会」や「審議会」は,決定権を持つ議会や政府が責任逃れをしたり,決定の先送りを図るための道具として日本でも利用されているが,ネパールは日本の比ではない。
問題が大きければ大きいほど,難しければ難しいほど,公式・非公式の「委員会」や「審議会」,そしてその子や孫や曾孫などが次々とつくられ,そのそれぞれに内外の利益集団や圧力団体が関与する。結局,ギリギリのどん詰まりとなったところで,不透明なコネ=ネゴ=ゴネで当面の危機の回避を図るため,とりあえず何らかの決定が下されるというわけだ。
ネパール世論は,今回の新憲法制定への動きも,結局は,震災復興援助国への申し開きと,大統領,首相,議長,大使といった高位顕職の再配分に終わり,州区画などの重要課題は先送りされるのではないかと疑っている。しらけるのもやむをえないだろう。
[参照]
* Krittivas Mukherjee,”Killer earthquake exposes lingering lack of governance in Nepal,” Hindustan Times, 3 May 2015
* Simon Cox, “Where is Nepal aid money going?,” BBC,21 May 2015. http://www.bbc.com/news/world-asia-32817748
谷川昌幸(C)
震災救援の複雑な利害関係(8):統治の不安定化
ネパール震災救援を特に難しくしているのが,政治の不安定,統治(ガバナンス)の脆弱さである。
ネパールでは,マオイスト紛争(1996-2006)終結後も統治が安定せず,諸勢力が入り乱れ離合集散,権力闘争,利権争いに明け暮れ,いまだ憲法も暫定的なもの,正式憲法は制定の目途すら立たない。
これは,換言すれば,ネパールがいまだ近代主権国家として未成熟であり,対内的にも対外的にも,国家権力をそれ自体として唯一・絶対・独立の,客観的で中性的な「最高権力」として保持しきれないということ。ネパール政府諸機関は,国内のあれやこれやの勢力によって私物化されがちだし,また外国の様々な介入にも弱い。
そのネパールが4月25日,大地震に見舞われた。地震は瞬時に大被害をもたらすもので,たとえ日本のような先進国においても自国だけでは対応しきれず,「トモダチ作戦」など,諸外国の政府や諸団体の救援をあおいだ。ましてやネパールは途上国,外国の政府や民間諸団体の救援を受けるのは,当然といってよいであろう。
しかし,外国による震災救援は,ネパールのような途上国の方が,政治的には難しい。日本でも,救援隊,特に軍隊が国内で「作戦」を展開することには,法的あるいは感情的に様々な軋轢が生じる。が,近代主権が確立している先進諸国では,たとえそうしたことがあっても,それによって直ちに政権が動揺したり,ましてや統治が崩壊するといったことは考えにくい。
ところが,途上国ネパールでは,そうではない。外国の政府や民間団体による震災救援活動が内政干渉となり,下手をすると政権転覆,統治崩壊といった事態すら引き起こしかねないのだ。ネパール政府や有力諸政党が,外国の救援活動を警戒し,規制しようとするのも,その限りでは,理解できないことはない。
[例]キリスト教会系救援活動に対する批判
「被災者の皆さん,まもなく救援パックで聖書が届きますよ。」
(Nepali Journalists@jhyal ツイッター2015-05-20. 画像引用元は米聖書協会HP)
こうした観点からネパール政府が打ち出したのが,「単一窓口政策(One-door Policy)」であり,「首相災害救援基金(Prime Minister Disaster Relief Fund)」である。
谷川昌幸(C)
ガバナンス崩壊: ネパールと日本
ネパールのガバナンス(統治)はアナーキー状態。ここまで来ると喜劇的であり,諸外国もそれを想定して交際しているから,害も少ない。国連にUNMIN派遣を要請したくせに,役立たずだから帰れ,と要求する。あるいは,プラチャンダ議長は,「PLAはせいぜい数千人。UNMINには3万人と吹っ掛け,21,602人を認めさせた。どうだ,スゴイだろう」と暴露し,あっけらかんとしている。とんでもないことなのに,みな,そんなもんだよ,と認めている。ネパール人は,天性のネアカなのだ。
これに対し,日本のガバナンス崩壊はジメジメ惨め。10月29日,警察のマル秘テロ情報が大量にネットに流出したと思ったら,今度は4日,尖閣沖の中国船衝突事件の動画がネットに流出した。ガバナンスぼろぼろ。しかも,その対応が実に陰気。ネパール式,プラチャンダ流に,あっれ,出ちゃった,ゴメンネとやれば,楽しめるが,日本の関係者は沈痛そのもの,陰気くさくてたまらん。これでは,事態はますます悪化するばかりだ。
日本の没落については,すでに何回も指摘した。このガバナンス崩壊もその一つだが,ここでもう一つ注目すべきは,日本のHDI(人間開発指数)の下落――
▼HDI(2005年):日本=11位
ついに日本はここまで落ちぶれた。5年後の現在はもっと下落しているだろう。しかし,どうせ落ちるなら,楽しくやろう。情報じゃじゃ漏れ,日本に機密なし。大いに結構。HDI世界11位。それがどうした。清貧こそ日本の伝統だ。それがイヤなら,「長屋の花見」でも楽しもうではないか。
谷川昌幸(C)
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