ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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キリスト教政党の台頭

ネパールでは,国家世俗化によりキリスト教会が勢力を拡大し,政治の世界にも進出し始めた。すでに政党もいくつか結成され,2013年制憲議会選挙では,「覚醒党(जनजागरण पार्टी [awareness] Party)」が1議席獲得した。党の本拠はラリトプルで,党シンボルは懐中電灯。

昨日(5月14日)の地方選挙(前期)では,この覚醒党を中心に,キリスト教会系4党が選挙協力に向け協議した。
 ・覚醒党(選管登録済,2017年3月10日現在)
 ・Rastriya Mukti Andolan Party(選管登録済,同上)
 ・People’s Party(選管登録申請中,同上)
 ・PA Christian Party(選管登録申請中,同上)

カトリック系「アジアニュース(www.asianews.it)」(2017年3月17日)によれば,この4党協議では,次のような意見が出された。
ロクマニ・ダカール(覚醒党党首)
「選挙を通してイエス・キリストのことを伝えたい。そうすれば,イエスの名で全有権者に訴えることができる。」
ジャヤワンタ・B・シャハ(Rastriya Mukti Andolan Party党首,4党協議代表)
「[選挙協力実現に向け残るのは]4党連合を誰が代表するかということと,選挙に出る政党の名称とシンボルを何にするかということだけだ。」(「アジアニュース」によれば,十字架とキリストの名を党名と党シンボルに配することを選管に打診中。)

この3月の4党協議は,結局,うまくいかなかったようだが,それにしてもキリスト教会系政党が,ここまで大っぴらにキリスト教を前面に出して選挙出馬を考えるとは,まったくもって隔世の感を禁じ得ない。

こうした宗教団体の政治活動について,現行2015年憲法は,微妙な規定を置いている。
第269条 政党の結成,登録および活動
(1)政党結成の自由  (2)選管への政党登録
(3)政党登録要件 (a)党則が民主的,(b)党役員の定期的選挙選出,(c)党役員の包摂性
(5)党名,党目標,党章および党旗がネパールの宗教的および社会的統一を損なわないこと,また国家の分裂を招かないこと

この憲法規定に,キリスト教会系諸政党は抵触しないのか? 前述のように,すでに2政党は選管登録されている。覚醒党は,懐中電灯で照らし,「目覚めよ!」と訴え,制憲議会に1議席を獲得した。しかし,前述の4党協議で出されたように,十字架を掲げキリストの教えを選挙で訴えるとなると,どうか?

ネパールには牛をシンボルとする有力なヒンドゥー教政党があり選挙でもヒンドゥー国家復帰を訴えているのだから,論理的にはキリスト教政党が選挙でキリスト教国家建設を説いてもよいことになる。矛盾はない。

しかし,こうした行き方には大きな問題がある。もし,これが認められるなら,政治は宗教対立の場と化し,ネパールは際限のない宗教紛争の泥沼に陥る。これまで,キリスト教が不当に抑圧されてきたことは事実だが,だからといって無原則に宗教を政治に持ち込むべきではない。それは,あまりにも危険である。ここはやはり,原理原則に立ち戻るべきであろう――政教分離の。

▼覚醒党FB

 ■FB表紙/2013年選挙用。政党シンボルにマンジ印をつけ投票(2017年4月2日付FB投稿)

▼地方選への覚醒党立候補(選管HPより)

 ■ラリトプル/バクタプル(赤印)

谷川昌幸(C)

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2017/05/15 at 16:48

キリスト教会,連続攻撃される

ネパールのキリスト教会が,2回連続して攻撃された。いずれも犯人は不明。

4月16日午後,「ネパール全国キリスト教連合(FNCN)」のサントシュ・カドカ書記が,ラリトプル・マンバワンのFNCN集会所開催のイースター集会に参加し,帰宅しようと会場を出て100mほど行ったところで,何者かに銃で腰付近を撃たれ重傷を負った。FNCNはプロテスタント教会の統括団体。

その2日後の4月18日午前3時ころ,今度はラリトプル・ドビガートの被昇天教会(Assumption Church)が,何者かの集団に放火された。教会西入口付近と聖職者住居の一部が焼け,バイク2台と車1台が全焼した。この被昇天教会は,ネパール最大のカトリック教会で,2009年には礼拝中を爆破され,3人が死亡している(*3,*4)。

今回狙われたのはプロテスタントとカトリックであり,犯人も具体的な攻撃目的も不明だが,宗派にかかわりなくキリスト教そのものが攻撃目標にされたとみるべきであろう。5月中旬の地方選との関係は,不明。


 ■被昇天教会/放火された住居と車輌(同教会FB)

*1 “Christian Federation concemns shooting of its member,” Kathmandu Post, 19 Apr 2017
*2 “Arson attack at the Catholic Church just after office secretary of Christian federation was shot,” nepalchurch.com, 20 apr 2017
*3 コミュナリズムの予兆(5)
*4 コミュナリズムの予兆(6)

谷川昌幸(C)

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2017/04/26 at 12:21

活気あふれるベトナム

ベトナムのホーチミン(サイゴン)に行ってきた。3泊4日の激安観光旅行にすぎないが,それでも現地に行くと,そこ特有の雰囲気が体感され,興味深い。

ホーチミンやその周辺には,商業ビル,マンション(集合住宅),工場など,巨大な建物が多数みられ,建設中のものも少なくない。街は活気に満ち,デパート,専門店,スーパー(ファミマなど)から商店や露店まで,どこも繁盛しているように見えた。

街は,繁華街はむろんのこと路地裏でも,見た限りでは整然とし,人々も勤勉で,バイク運転を除けば,温和で親切であった。

これが,あの悲惨な戦争から,ほんの半世紀足らずの社会主義国,ベトナムとは,とうてい信じられない。もしこの第一印象が全くの的外れでないなら,ベトナムは今後,急速に発展していくのではないかと思われる。

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■謹賀新年2017年(大聖堂裏)/高層ビルと国旗

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■中央郵便局正面/局内のホーチミン

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■戦争証跡博物館/下町の教会

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■美しい街とゴミ箱

170112f■バイクで子供送迎

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/01/13 at 16:27

クリスマスを国民祭日に,泥縄決定

ネパール政府は24日,キリスト教会からの圧力に押され,翌25日のクリスマスを「国民祭日(国家祭日)」とすると発表した。キリスト教会にとってはありがたいクリスマス・プレゼントだが,それにしても何ともみっともない泥縄の朝令暮改か!

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■Republica,24 Dec. / バブラム・バタライNS党首ツイッター(12月25日)

谷川昌幸(C)

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2016/12/24 at 23:23

カテゴリー: 宗教, 憲法

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クリスマスを国民祭日に戻せ,キリスト者連盟

ネパールでは,クリスマスは,世俗国家宣言後,全国民的な「国民祭日(国家祭日)」とされていたが,ナショナリスト対外硬オリ内閣が2016年4月2日,これを取り消し,キリスト教徒公務員だけの祭日に格下げしてしまった。(参照:クリスマスを国民祭日から削除:内務省

ビクラム暦2073年祝祭日(「ネパールの空の下」)
 [祝祭日の種類]ネパール政府を中心に、全国的に休日となる祝祭日/女性だけ休日となる祝祭日/カトマンズ盆地だけ休日となる祝祭日/公務員だけの休日/教育機関だけの休日
 12月25日 クリスマス(キリスト教徒公務員休日)

この格下げにキリスト教会は激しく反発し,政府に対し,以前と同じ「国民祭日」に戻すことを要求している。ネパールのクリスマスは,華々しい実利主義商戦のチャンスであると同時に,重苦しい政治的宗教闘争の季節でもあるのである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/12/17 at 18:01

カテゴリー: 宗教, 憲法

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タルーのキリスト教改宗も急増

ネパールでは,キリスト教は,クリスマス商戦用には大歓迎だが,本来の宗教としては,昨日も指摘したように,まだ強く警戒されている。タルーのキリスト教改宗に関するこの記事も,その一例。

▼Devendra Basnet, “Conversion to Christianity high among Dang Tharus,” Republica, 14 Dec. 2015.

記事によれば,ダン郡のタルー居住地域では,人民戦争終了以降,キリスト教徒が急増している。そのため,タルー社会の規範が守られなくなり,伝統的な文化や儀式の維持が困難になりつつある。

キリスト教布教は,タルー長老らによれば,ポスターを貼り教会へ誘う,カネや外国援助で釣る,など。むろん,これらの非難は繰り返し用いられてきた常套句だが,少なくとも伝統的社会の側からは,そのようなものと見えるのだろう。

開発格差,経済格差の大きいところでは,神々の争いもカネ絡み,利権絡みと見られる。難しい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/12/16 at 20:43

カテゴリー: 宗教

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キリスト教絵本配布事件,無罪判決

ネパールの裁判所が12月6日,イエス・キリストを描いた絵本(コミック)を生徒に配布したとして6月に逮捕された8人のキリスト教徒に対し,無罪の判決を下した。キリスト教会にとっては何よりの吉報であり,クリスマス集会では神の栄光が大いに称えられるであろう。

1.事件概要
この事件の概況は以下の通り。(参照:キリスト教徒,逮捕

2016年6月,Teach Nepal(カトマンズ本拠NGO)が,地震トラウマの生徒たちのため,ドラカ郡チャリコットのキリスト教系2校(Modern Nationl School; Mount Valley Academy)において,カウンセリングを実施した。その際,生徒たちにギフトバッグを配布したが,その中にイエス・キリストを描いたコミック絵本が入っていた。

これが地元で問題にされ,警察が6月9日,憲法26条(3)の禁止する改宗勧誘に当たるとして,2校の校長とTeach Nepalのメンバー5人を逮捕した。さらに6月14日には,チャリコット・キリスト教会の牧師まで逮捕してしまった。

2.無罪判決
逮捕された8人は,9日後保釈されたが,裁判は続き,ようやく12月6日になって,裁判所が無罪判決を言い渡した。メルヴィン・トマス(Christian Solidarity Worldwide代表)は,こう語っている。

「チャリコットの8クリスチャン無罪判決を歓迎するが,新憲法26条は改正されるべきであり,このことをネパール政府に対し,ネパール市民社会の人々と声を合わせ要求していきたい。」(*6)

3.キリスト教徒激増への反発
今回の事件は無罪判決で一応決着したが,この事件の背後には,キリスト教徒の増加,特に国家世俗化以降の激増へのヒンドゥー教徒多数派のいら立ちがある。

1951年 0人(記載なし)
1961年 458人
2001年 102,000人
2011年 375,699人

しかし,こうした国家統計は,キリスト教徒を過少集計しているという。「キリスト者連盟(Federation of National Christians Nepal)」によれば,現在,キリスト教会は国内に約1万あり,そのうち2千はカトマンズ盆地3郡にある。信者は,約300万人。その60%がダリットだという。

このキリスト教徒激増は,伝統的支配勢力たるヒンドゥー教徒多数派を警戒させ,キリスト教攻撃に向かわせている。「社会福祉委員会」は,キリスト教系外国援助をしばしば禁止しているし,また政府役人がキリスト教系の学校や孤児院を,キリスト教関係の本が1冊でもあれば閉鎖させるとか罰金を科すとかいって,脅すこともあるという。

こうしたキリスト教会との対立の激化は,宗教が大きな力を持つネパールにおいては,対応が極めて難しい。

ヒンドゥー教徒多数派は,新憲法において世俗国家規定を受け入れさせられはしたものの,生命線たる改宗勧誘禁止ないし布教禁止を第26条(3)に書き込むことには成功した。現行憲法の矛盾の象徴ともいうべきこの憲法の宗教規定を,今後どう扱うか? これは州区画以上に難しい政治課題とみてよいであろう。

Teach Nepal HP
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 ”Equipping Children and Teachers for the Glory of God“(表紙掲載スローガン;引用者顔消去)

【参照】
*1 “Christian population shoots up under secula state,” Republica, Dec 9,2016.
*2 Lorraine Caballero, “Christianity in Nepal rising since 2008 secular democracy,” Christian Daily, 5 Dec. 2016.
*3 Andre Mitchell, “More People Turning to Christ in Nepal,” Christian Today, 8 Dec. 2016.
* Kaley Payne, “Nepali Christians freed after court drops case,” Eternity News, 8 Dec. 2016.
*4 “Crackdown on Christians in Nepal hits snag,” Morning Star News, 7 Dec. 2016
*5 Sarah Stone,”Christians Accused of Proselytising in Nepal Cleared of Charges,” Christian Today, 7 Dec. 2016.
*6 Stefan J. Bos,”Nepal Aquits 8 Christians Over Conversion Children,” Bos News Life, 7 Dec. 2016.
*7 ガガン・タパ議員(NC)ツイッター(12月20日)
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/12/15 at 22:38

カテゴリー: 宗教, 憲法, 政治

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