ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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キリスト教牧師に有罪判決(5)

4.ケシャブ牧師訴追批判
ケシャブ・アチャルヤ牧師の逮捕・訴追については,ネパール内外のキリスト教関係諸機関が厳しい批判を繰り広げてきたことはいうまでもない。たとえば――

▼宗教の自由国際ラウンドテーブル(IRFR)公開書簡(2021年7月19日付)
「[当局の行為は]ネパール憲法の保障する法の支配を無視し,言論信仰の自由を不法に制限するものだ。このままであれば,アチャルヤ牧師の逮捕・再逮捕が悪しき前例となって,憲法26(1)条の定める安全保障がさらに掘り崩され,キリスト教徒や他の少数派諸宗教の人々は,自分たちの宗教信仰の自由を制限され,信仰の大原則を単に表明することさえ困難になってしまうだろう。」(*8)

▼メルヴィン・トマス(Christian Solidrity Worldwide 代表)
「ケシャブ牧師への嫌疑には全く根拠がない。彼の扱いは,正義に反する重大な過ちである。・・・・ネパールには,宗教信仰の自由への権利の保護促進を図っている国際社会の努力を尊重していただきたい。」(*8)

▼タンカ・スベディ(Religious Liberty Forum Nepal 議長)
「アチャルヤ裁判では,民主的世俗的ネパール憲法のもとでの最初の判決が下された。その判決は,ネパール憲法の精神を掘り崩すものであり,不当である。言論の自由や信仰告白の自由を台無しにし,少数派を抑圧するものだ。」(*14)

▼B.P.カナル(Nepal for the International Panel of Parliamentarians for Freedom of Religion or Belief ネパール代表)
「アチャルヤ逮捕の経緯だけをみても,その逮捕が不当なもので,キリスト教に対する計画的な行為であったことは明らかである。」(*14)

ここでB.P.カナルが指摘しているように,ケシャブ・アチャルヤ牧師の逮捕・訴追は,おそらく「計画的な(pre-planned)」権力行使であろう。妻ジュヌ牧師もこう指摘している。

▼ジュヌ・アチャルヤ牧師
「ケシャブ牧師の逮捕・有罪判決は,キリスト教社会全体に対する警告です。彼らは,ケシャブを処罰すれば,その有罪判決を見てキリスト教徒たちが学ぶだろう,と考えています。」(*14)

5.宗教と構造的暴力
ケシャブ牧師の逮捕・訴追につき,キリスト教会側が,内外声をそろえて,信仰の自由への権利を根拠に,ネパール政府当局を厳しく批判するのは,もっともである。信仰の自由は,もっとも重要な万人に保障されるべき基本的人権の一つである。

が,一方,その信仰の自由といえども,社会の中で行使されるのであり,社会の在り方と無関係ではありえない。

とりわけネパールのように,世界的にはむろんのこと,国内社会に限定しても,経済,教育,健康など多くの領域において構造的暴力の犠牲になっている人々がまだまだ多い場合には,たとえ信仰の自由といえども,その現状を十分踏まえ行使されなければならない。

たとえば,次のような報告。善意に疑いはないが,非キリスト教徒のネパールの人々がこれを読んだら,どう感じるか? いわずもがな,であろう。

「世界クリスチャンデータベースの数字によると,ネパールは世界で最もキリスト教人口が増加している国の一つだ。・・・・

改宗は違法のままだが,ほとんど実効性はない。キリスト教団体は社会的支援などのために入国し,その多くは活動とともに福音を伝えた。・・・・

C4Cの提携宣教団体『救い主だけがアジアの人々を贖う(SARA)』のテジュ・ロッカ牧師は,『彼らは病気の人や壊れた家族を見つけては話し掛けて祈りました。すると奇跡的にその人たちが確信を持ち,キリストに従い始めたのです』と述べた。『彼らは人々に,幾らかの食料と衣服を寄付しました。そのため,人々は彼らに耳を傾け始めたのです』」(*3)

【参照1】
*3 なぜネパールには、世界で最も急成長している教会があるのか, christiantoday.co.jp,翻訳:木下優紀, 2016/02/09
https://www.christiantoday.co.jp/articles/19022/20160209/nepal.htm
*8 Religious freedom groups call for dropping of charges against pastor in Nepal, LiCAS, 2020/07/28
https://www.licas.news/2020/07/28/religious-freedom-groups-call-for-dropping-of-charges-against-pastor-in-nepal/
*14 Pastor in Nepal Sentenced to Prison under Proselytism Law, Morning Star News, 2021/12/28
https://www.licas.news/2020/07/28/religious-freedom-groups-call-for-dropping-of-charges-against-pastor-in-nepal/

【参照2(2022/01/28追加】
「それでも、明治政府が天皇を「万世一系」「神聖不可侵」と定義したことには歴史的必然性があることは僕も認めます。幕末にアジア諸国を次々と植民地化してきた欧米帝国主義列強の圧倒的な経済力・軍事力の背景には白人種を人類の頂点とみなすキリスト教的コスモロジーがありました。だから、日本が列強に対抗するには、黒船だけではなくキリスト教にも対抗しなければならなかった。・・・・僕は神仏分離による日本の伝統的な宗教文化の破壊を悲しむものですけれども、「一神教文化に対抗する霊的な物語を創造しないと列強に対抗できない」という政治判断自体にはそれなりの合理性があったと思います。」内田樹「天皇制についてのインタビュー」『月刊日本』2022年2月号

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2022/01/15 at 17:58

キリスト教牧師に有罪判決(4)

3.事件の経過:2020年3月~2021年12月
ケシャブ牧師は,2020年3月の最初の逮捕から現在まで2年近くにわたり裁判を闘ってきた。その経過の大要は,以下の通り。

2020年3月23日
ポカラのカスキ郡警察が3月23日,コロナに関するデマ(虚偽情報)拡散の容疑でケシャブ牧師を逮捕(1回目)。根拠法は報じられていないが,刑法の虚偽情報拡散禁止(84条)などの規定に依拠しているものと思われる。

警察によれば,ケシャブ牧師は,2月22日にユーチューブに投稿し,そこで,神にお祈りすれば,コロナは治る,神がコロナを死滅させてくれる,と説教したという。

牧師自身は,この2月22日のユーチューブ投稿それ自体は全面的に否定しているが,同趣旨に近い発言であれば,牧師は繰り返し行っている。たとえば―

「コロナよ,退散し死滅せよ。主イエスの御力で,お前らの行いがすべて根絶されんことを。主イエス・キリストの御名により,汝,コロナよ,お前を叱責する。その創造の御力,その統治者によりて,汝を叱責する・・・・。主イエス・キリストの御名により,その御力で,コロナよ,立ち去り死滅せよ。」(*8,9,11)

2020年2~3月頃は,ネパールのコロナ感染はまだ始まったばかりであったが,世論はこの未知のウィルスに過敏に反応し緊張が高まっていた。そうした情況で,たとえユーチューブ投稿ではなくても,かりにそうした趣旨の発言が集会か何かにおいてなされていたとするなら,それがかなり危険な発言であったことは,おそらく否定できないであろう。

この3月23日のケシャブ牧師逮捕時の状況について,妻のジュヌ牧師は,こう説明している。彼女によると,その日,一人の男がポカラの牧師宅に来て,コロナに感染した妻のために祈ってほしい,とケシャブ牧師に頼んだ。そして,(お祈りが済んで?)男が出ていくと,すぐ警官が入ってきて,コロナに関するデマを流したという嫌疑でケシャブ牧師を警察署に連行していったという。この説明は,ユーチューブ投稿との関係は不明だが,説明そのものとしては具体的だ。牧師逮捕時の状況は,おそらくそのようなものであったのであろう。

2020年4月8日
ケシャブ牧師は,ポカラのカスキ郡拘置所から保釈金5千ルピーで保釈されたが,その直後,再逮捕(2回目)。今回の容疑は,宗教感情の毀損(刑法156条)と改宗教唆(刑法158条)。

2020年4月19日
カスキ郡裁判所が,保釈金50万ルピーでの保釈を決定するが,牧師は保釈金を納付できず,拘置継続。

2020年5月13日
ケシャブ牧師は保釈請求が認められ保釈されるが,直ちに警察により別の容疑で逮捕され(3回目),そのまま身柄を遠隔地のドルパ郡警察に送られてしまった。

ドルパ郡は,ヒマラヤ奥地の高地で人口3万人余。そのうち「ドルポ」が面積の大半,人口の約半数を占めている。車道はまだ通じておらず,徒歩,馬などで3日間は移動しないと,ここには行くことが出来ない。ケシャブ牧師も,両手を後ろ手に縛られ,3日間かけてドルパに連行された。

ドルパ郡警察によると,ケシャブ牧師の逮捕理由は,牧師がドルパで住民にキリスト教パンフレットを配布し改宗を勧めた容疑。これに対し,牧師は,パンフレット配布は認めたが,改宗を勧めたことは否定した。警察側は,改宗を勧められた証人がいると主張したが,法廷には,結局,その証人は現れなかった。

2020年6月30日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師の保釈決定。保釈金30万ルピーで牧師保釈。

2021年11月22日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師に対し,宗教感情毀損と改宗教唆の罪で有罪判決。牧師は直ちに収監。

2021年11月30日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師に対し,禁錮2年,罰金2万ルピーの判決を言い渡す。

2021年12月19日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師の保釈を決定。

カスキ郡裁判所
ドルパ郡裁判所

【参照】
*1 ネパールの改宗禁止法、信教の自由を侵害する恐れ 専門家が警告, christiantoday.co.jp, 翻訳:木下優紀,2015/07/22
*2 ネパール:昨年の大地震後、教会の数が著しく増加 聖公会の執事区が近況報告,christiantoday.co.jp, 記者:行本尚史, 2016/02/05
*3 なぜネパールには、世界で最も急成長している教会があるのか, christiantoday.co.jp,翻訳:木下優紀, 2016/02/09
*4 ネパール、国の祝日からクリスマスを除外 キリスト者側が反発, christiantoday.co.jp, 2016/04/11
*5 ネパールで「改宗禁止法」成立、大統領が署名 キリスト教団体が懸念,christiantoday.co.jp,翻訳:野田欣一,2017/10/29
*6 Police arrest pastor who said those believing in Christ are safe from coronavirus, Onlinekhabar, 2020/03/24
*7 Pastor in Nepal Re-Arrested, Morning Star News, 2020/05/15
*8 Religious freedom groups call for dropping of charges against pastor in Nepal, LiCAS, 2020/07/28
*9 Nepal sentences pastor to two years for conversion, UCA News, 2021/12/01
*10 Pastor Sentenced to Prison for Evangelism, Christian Solidarity Worldwide, 2021/12/02
*11 Pastor in Nepal sentenced to 2 years in prison for saying prayer can heal COVID-19, by Anugrah Kumar, Christian Post, 2021/12/05
*12 ネパールの牧師、新型コロナ感染症のために祈ったことで禁錮2年, Christian Today, 2021/12/10
*13 KESHAV RAJ ACHARYA,Church in Chains,2021/12/15
*14 Pastor in Nepal Sentenced to Prison under Proselytism Law, Morning Star News, 2021/12/28

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2022/01/06 at 17:23

カテゴリー: ネパール, 司法, 宗教, 人権

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キリスト教牧師に有罪判決(3)

2.牧師夫妻とその教会
ケシャブ・ラジ・アチャルヤ(33歳)さんとその妻ジュヌ・アチャルヤさんは,ともに,アバンダント・ハーベスト教会(प्रशस्त कटनी मण्डलि)の牧師。子供は,2歳と7か月の男子二人。

このアバンダント・ハーベスト教会はプロテスタント系のようだが,そのどの教派に属するかまでは,ネット情報からだけでは不明。それでも,フェイスブックなどを見ると,夫妻の教会が活発に活動し,多くの人々を集めていることは確かなようだ。

夫のケシャブ牧師はまだ33歳。妻も同年代であろう。にもかかわらず,5年前,ポカラから十数キロ東のレクナートに「アバンダント・ハーベスト教会」を開き,メンバーは400人にもなっているという。そして,ほんの数か月前にはポカラに別の教会をつくり,これもメンバーは80人に達しているという。(ケシャブ牧師投獄のためポカラの教会を閉鎖したとされるが,詳細不明。)

フェイスブックやユーチューブでみると,ケシャブ牧師はたしかに情熱的で雄弁,その魅力で多くの人々を引きつけ,夫妻の教会を急成長させてきたのであろう。

なお,ポカラ付近にも,キリスト教会は,驚くほどたくさんある。下掲地図はレクナートを含む広域だが,地図を拡大すれば表示教会数はまだ増えるし,またグーグル登録されていない小さな教会も相当数あるに違いない。ケシャブ牧師逮捕事件の背景には,こうした地域の宗教状況の大きな変化もあるとみてよいであろう。

ケシャブ・アチャルヤ牧師(FB)
ジュヌ・アチャルヤ牧師(FB)
ポカラ付近の教会(グーグル検索church+in+Kaski)

【参照】
ネパール:昨年の大地震後、教会の数が著しく増加 聖公会の執事区が近況報告, 記者: 行本尚史, christiantoday.co.jp, 2016/02/05
なぜネパールには、世界で最も急成長している教会があるのか, 翻訳: 木下優紀, christiantoday.co.jp, 2016/02/09
Pastor in Nepal Sentenced to Prison under Proselytism Law, Morning Star News, 2021/12/28

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2022/01/04 at 14:45

カテゴリー: ネパール, 宗教, 憲法, 人権

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キリスト教牧師に有罪判決(1)

年末はクリスマスの季節,ネパールでも聖俗関連行事が年々盛んになってきたが,その一方,それに危機感を募らせる勢力によるキリスト教攻撃も半ば年中行事化してきた。

今年も,いくつかキリスト教攻撃事件があったが,ネパール国内にとどまらず世界的なニュースとなったのが,ケシャブ・ラジ・アチャルヤ牧師の裁判。

ケシャブさんは,ポカラの「アバンダント・ハーベスト教会」の牧師だが,その教会活動を通して人びとをキリスト教に改宗させたり,人びとの宗教感情を毀損したとして逮捕され,裁判にかけられ,この11月30日,ドルパ郡裁判所で禁錮2年,罰金2万ルピーの有罪判決を言い渡された。

この判決が出ると,欧米のキリスト教会が直ちに厳しい抗議声明を出したし,またネパールでも抗議の声が高まりつつある。

ネパールは,いまや世界で最もキリスト教徒の増加率の高い国の一つ。そのネパールにおいて,情熱的な説教で人気の高いケシャブ牧師が,その教会活動を違法とされ,有罪判決を下された。牧師側は上訴するであろうが,その上級審での裁判や,裁判の進行とともに展開されるであろう抗議活動は,今後どうなっていくのであろうか? 争点が宗教だけに,成り行きが心配される。

【参照】キリスト教攻撃激化と規制強化 キリスト教関連記事 

▼クリスマス満載の新聞

■ゴルカパトラ(2021/12/25)
■ヒマラヤン(2021/12/25)

▼アバンダント・ハーベスト教会/ ケシャブ牧師

■アバンダント・ハーベスト教会(Google)
■ケシャブ牧師(FB)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2021/12/27 at 17:22

京都の米軍基地(119):現場に切り込まない朝日「現場へ!」(4)

5.宗教活動としての「良き隣人」
「良き隣人」としての駐留米軍が,もう一つ熱心に取り組んでいるのが,宗教活動。そもそも「良き隣人」とは,換言すれば「隣人愛」のことであり,これはもともとキリスト教の最も大切な教えの一つだ。

「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」(マタイ 22:39)

「良き隣人」や「隣人愛」が一般的な意味を持つことはいうまでもないが,キリスト教文化圏で使用された場合,それが多かれ少なかれキリスト教的含意を持つことは,まず否定できないであろう。

したがって,「良き隣人」たれと教えられ,また地元からもお願いされた米軍が,これ幸いと自ら積極的にクリスマス,イースターなどのキリスト教関係イベントをしばしば開催し,地元住民,とりわけ子供たちを招き,ご馳走し,ゲームをし,聖歌を歌い,楽しく交流するのは当然といえよう。こうして駐留米軍は,キリスト教を利用して米国文化を地域住民に刷り込み,親米感情・親米軍感情を育んでいくのだ。

むろん,キリスト教それ自体は最も尊敬すべき宗教の一つだし,米軍人・軍属の中には他宗教や無宗教の人もいることは,言うまでもない。米軍人・軍属の宗教は,無宗教も含め,私人としては,その自由を尊重されなければならない。問題は,彼ら軍隊による宗教の政治利用。これは極めて危険であり,断じて許されてはならない。


■クリスマス会ポスター/米軍サンタがプレゼント(14MDB:FB2019/12/15一部修正)

6.お願いではなく権利の主張を
このように見てくれば,治外法権的米軍基地を受け入れ,米軍人・軍属に様々な特権を認めたうえで,その彼らに地域住民の「良き隣人」であってほしいとお願いするのは,自尊心なき植民地根性,あまりにも卑屈と見られても致し方あるまい。

地域住民は,最高法規たる日本国憲法により人および国民としての諸権利が保障されている。それらの権利は,「お願い」ではなく,法的な「権利」として主張されるべきだ。「この憲法が国民に保障する自由及び権利は、国民の不断の努力によつて、これを保持しなければならない。」(憲法12条)

■災害復旧支援も米語会話教室も軍服(朝日夕刊2020/4/30,一部修正)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/11 at 11:02

奄美の自然とその破壊(3)

3.カトリック信仰の村々
予備学習なしだったので全く知らなかったのだが,奄美にはカトリック教会がたくさんある。カトリックは,ある意味,柔軟であり,伝統文化をうまく取り入れ,地方ごとの特色ある教会をあちこちにつくっている。奄美でも,そうした趣が見て取れる。

奄美のキリスト教は,1891年にパリ外国宣教会フェリエ神父の来島に始まり,以後,各地に教会が建てられ信者も増えていったが,国粋化・軍国化につれ信者迫害が激しくなり,教会施設も破壊されたり事実上没収されたりした。また戦争末期には,空襲を受け,名瀬聖心教会などが破壊された。奄美の教会は,そうした苦難を乗り越え,今日に至っているのである。現在の信者数は人口の6%ほど。ちなみに長崎は4%余。

今回は,それら奄美の教会のうち,通りすがりに目にした大笠利教会,瀬留教会,知名瀬教会の3教会を見学してきた。

いずれも南国奄美らしい趣のある教会で,たまたま来られていた信者さんが教会の由来や現状について親切に説明して下さった。

▼大笠利教会
■礼拝堂
■歴代司祭
■ガスボンベ利用募金箱

▼瀬留教会
 

▼知名瀬教会
■全景
■玄関
■マリア像

▼奄美の教会(名瀬聖心教会HPより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/09/14 at 11:09

カテゴリー: 自然, 宗教, 文化, 旅行

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ゴビンダ医師のハンスト闘争(39)

10 参考資料
 (1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」
 (2)グファディ「狂気の権威主義的な医師」

(3)D・カイネー「無為無策の5か月」リパブリカ,2018年8月7日

—————————————
デイビッド・カイネーは極西部出身,トリブバン大学卒。Revival Ministry Nepal ( RMN )代表。人身売買防止,貧困救済等の社会活動に尽力。「リパブリカ」,「カトマンズ・ポスト」等への寄稿多数。この「無為無策の5か月」では,オリ政府の強権化・利権化を阻止し人民の利益を実現するには,市民社会自身が立ち上がるべきだと訴えている。
*David Kainee, “Five months of inaction,” Republica, August 7, 2018
—————————————

KP・シャルマ・オリ政府は,発足後5か月を経過した。その業績は,どう評価されるべきか? 昨年の地方,州,連邦の3選挙において,人民は共産党連合(現在は統合されネパール共産党)に未曽有の大勝利を与え,これによりオリは,近年のネパールにおいて最強の政府を率いることになった。首相は,「ネパール人の幸福,ネパールの繁栄」を約束したのであり,人民は,その約束の実現に向けての確かな前進を期待した。

ところが,オリ政府は次々と問題を引き起こした。政府は権威主義だという批判もあれば,議会で三分の二を握ったため傲慢になっているという声もある。[……]

先月[2018年㋆],政府は,医学教育改革の旗手ゴビンダ・KC医師に対し,この上ない傲慢さと無神経さを示した。政府は,ケダル・バクタ・マテマ委員会勧告無視の国民保健教育法案[医学教育法案]を通そうとした。[これを阻止するための]サティアグラハを行うためKC医師がジュムラに向かうと,ジュムラ郡当局は,連邦政府の要請を受け,抗議行動禁止場所を指定した。そのため,KC医師は,地域病院の暗い部屋で抗議行動を始めざるをえなかった。

オリは,KC医師の品位を汚すようなことを言った。人民の守護者として働くのではなく,自国の高貴な魂と敵対する権力者としての立場を,オリは自ら選び取った。KC医師が意識を失ったときですら,政府はそれを無視した。市民社会やメディアからの圧力が大きくなり始めてようやく,政府は交渉に転じ,結局は彼の諸要求を受け入れることに同意した。このときまでに,以前は愛国的指導者と見られていたオリの評価は,大きく損なわれてしまった。いまや彼は,コネ資本家どもの守護者と見られるようになった。

[オリ政府は公共交通や開発基金など他の諸課題についても,当初は改革を掲げたものの,実際には実行しなかった。……]

ウジャン・シュレスタ殺害事件で]有罪判決を受けたバル・クリシュナ・ドゥンゲルに対する大統領恩赦についても,政府は,多くの人々が指摘してきたように,マオイスト幹部と結託して,これを承認した。司法は政治化されてしまった。首相をはじめ大臣たちは,言葉でも行動においても,傲慢であり不寛容である。2006年人民蜂起において中心的な役割を果たしたわれわれ市民社会は,身内第一の諸政党とは距離を取り,自らを復活させる必要がある。[……]

■RMNフェイスブック

■Jeremy Snell, “David of Nepal,” (Video)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/15 at 18:44

キリスト教攻撃激化と規制強化(6)

5.二つの自由の難しさ
ネパールのこうしたキリスト教布教問題は,理念的には「二つの自由(権利)」の問題であり,単純明快な解決は難しい。
 【参照】信仰の自由と強者の権利(2013/04/15)

すでにふれたように,自由や権利には,形式的なものと実質的なものの二種類がある。一つは,国家や社会からの干渉を受けず個々人の意思で行為できる形式的自由ないし「消極的自由(negative freedom)」。もう一つは,人々の置かれている経済的・社会的・政治的状況を考慮し,積極的格差是正措置などにより実質的に自由を実現していく実質的自由ないし「積極的自由(positive freedom)」。

最もわかりやすいのが「契約の自由」。自由意思による契約は,われわれの最も基本的な自由ないし権利の一つだが,もし当事者の置かれている諸状況を度外視し,契約を当事者の意思だけにまかせたら,どうなるか?

いうまでもなく「契約の自由」は,そこでは「強者の自由」となる。たとえば,企業には労働者を徹底的に搾取する自由が,労働者には非人間的雇用に甘んじるか,さもなければ餓死するかの自由が保障される。弱者の労働者にとって,それは名だけの形式的な自由にすぎない。このことは,他のあらゆる自由についても多かれ少なかれ妥当する。

ネパールのキリスト教は,先述のように欧米やアジアの先進富裕諸国に支援されているとみられている。これは相当程度,事実である。もしそうだとすると,ネパールにおいて,その実質的不平等の状況を無視し万人の「宗教の自由」を唱えると,それはネパール国内では少数派弱者であっても先進富裕諸国に支援されている強者たるキリスト教にとって圧倒的に有利な,強者の自由ということになる。ネパールのキリスト教反対派は,それを問題にしているのである。

「宗教の自由」は最も根源的な自由であり,万人に保障されなければならない。では,それをどう保障するか? 形式的に平等な自由保障と,実質的に平等な自由保障をどう関係づけ,宗教の自由を公平に保障するにはどうすればよいか? ネパールはいま,宗教の自由をめぐる問題でも,世界で最も注目すべき国の一つなのである。

 

*1 Devendra Basnet, “Targets of ‘zealous’ Christian missionaries speak up,” Republica, 7 May 2018
*2 “Four more churches attacked in Nepal,” Sight(World Watch Monitor), 17 May 2018
*3 “6 Christians Arrested, 4 Churches Attacked, Bombed in Nepal,” Christian Today, 7 June 2018
*4 Alex Anhalt, “New pressure faces Nepalese Christians,” Mission Network News, 12 June 2018
*5 Gary Lane, “Christians Forced Out of Nepal; Persecution Intensifies,” CBNNEWS.COM, 07-17-2018
*6 “Foreign Christian Couple Deported from Nepal on Conversion Charges,” Persecution.org, 2018/07/12
*7 “Pressure on Christians Heats Up in Nepal,” Morning Star News, 13 July 2018
*8 “Assault on Christian Leader in Nepal Reflects Growing Threat,” Morning Star News, 31 July 2018
*9 Pete Pattisson, “ ‘They use money to promote Christianity’: Nepal’s battle for souls,” The Guardian, 15 Aug 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/08/12 at 15:05

キリスト教攻撃激化と規制強化(5)

4.キリスト教布教に対する批判
ネパールのキリスト教に関する記事は,英語メディアでは,圧倒的にキリスト教会側からのものが多い。また,欧米近現代の人権・民主主義は,先述のようにキリスト教と不可分の関係にあるので,人権・民主主義推進の立場からの発言も,多かれ少なかれキリスト教に好意的なものが多い。したがってネパールの宗教問題の現状をより公平にみるには,キリスト教批判の側の言い分も見ておく必要がある。

ネパールにおけるキリスト教批判に共通するのは,一言でいえば,キリスト教は貧困な途上国ネパールにおいて,圧倒的に強大な欧米先進国の政治力・経済力をバックに,「宗教の自由」を「強者の権利」として行使している,という主張である。キリスト教は,金銭や物品,医療,教育,海外留学など様々な利益や権益を与えることにより,ネパールの人々を引き寄せて釣り上げ(lure),キリスト教に改宗させている,という批判である。これは,ことあるごとに繰り返されるキリスト教非難の常套句だが,根拠がないこともなく,ネパールでは相当の説得力を持っている。このことについては,これまでに幾度か言及したことがあるので,それらを参照されたい。
 参照:キリスト教とネパール政治 

ここでは,一つだけ,5月7日付「リパブリカ」掲載の長文署名記事,ディベンドラ・バスネット「『熱心な』キリスト教宣教師の標的とされた人々,声を上げる」(*1)を紹介する。著者はダン郡在住のジャーナリスト。にわかには信じがたい部分もあるが,大手メディア掲載記事だし,地方ではこんなことでさえあるのかもしれない。
 *1 Devendra Basnet, “Targets of ‘zealous’ Christian missionaries speak up,” Republica, 7 May 2018

<以下,記事要旨>
ダン郡の人々によれば,キリスト教への強制改宗がこの十年ほど前から激化してきた。“主イエス”の名に恥ずべきようなことですら,行われている。たとえば,ラマヒ住民ガンガ・カドカの場合。彼女は,こう証言している。

「自宅を掃除し,外で休んでいるときでした。女の人がやってきて,目の前で何ら躊躇することなく軒下の土間に小便をしたのです。家にも軒下の土間にも牛糞を塗ったところでした。そこに小便をされたので,あまりのことにびっくりし,深く傷つけられました。」
 (注)伝統的民家では,神聖な牛の糞を粘土に混ぜ,壁や床に塗る。牛糞には殺菌・防虫効果もあるとされる。

ガンガはヒンズー教徒であり,軒下に小便をしたのはネパール人キリスト教徒で,外国人(性別不明)を一人連れてきていた。驚いたガンガが小便をやめさせようとすると,「二人は,この小便は神の僕の一人から出たものだから,これでこの家は浄化された,と私に言いました」。

ガンガは怒り,近くの教会に行き牧師に抗議したが,牧師は謝りはしたものの,穏便に済ませてほしいといっただけだった。

どうして,このようなことになったのか? ガンガ・カドカには,スニルという名の末男がいる。4年前,彼はヒンズー教徒女性と結婚したが,その嫁は,結婚後,外国人キリスト教徒の執拗な勧誘によりキリスト教に改宗してしまった。改宗後,嫁は夫のスニルも改宗するよう迫ったため,夫婦の間でいさかいが絶えなくなった。2017年,スニルは事故で大怪我をしたとして入院したが,ガンガによれば,本当は改宗でもめ,妻がスニルを殴ったのだという。警察もそれを認め妻を逮捕したが,幼い子供がいるので,ガンガが頼み込み,嫁を釈放してもらった。ところが,その後もスニルは嫁といさかいが絶えず,とうとう根負けしたのか,彼も改宗してしまった。そのため,ガンガはスニルと会うことを断念した。「死ぬまで顔も見たくない,と息子には告げました。」ガンガとキリスト教の関係は,軒下に小便をされるときまでに,このような状態になっていたのである。
<以上,記事要旨>

■キリスト教関係書籍もかなり出版されている。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/08/11 at 17:42

キリスト教攻撃激化と規制強化(4)

3.キリスト教徒の取締り
(1)外国人キリスト教徒夫妻の国外退去処分
外国人キリスト教徒夫妻が,教会活動を理由に,罰金支払いの上,国外退去処分とされた。(*5,6)

夫はフィリピン人のDV・リチャード,妻はインドネシア人のR・ゴンガ。夫妻は2017年11月28日,1年有効のビジネスビザで入国し,パタン・プルチョークのシンガポール人経営レストラン「シグマ」で働いていた。(注:レストランはSingMaかもしれない)。

ところが,5月21日,内務省に夫妻が教会活動をしているとの告発があり,入管が調査した。その結果,夫妻は「エブリネーション教会」(クマリパティ)で牧師活動をし,ヒンズー教徒をキリスト教徒に改宗させていると認定され,入管法違反の罪で5万ルピーの罰金支払いのうえ国外退去処分とされた。夫妻は7月6日,出国。

この夫妻国外退去処分に対して,キリスト教会側は,当然ながら,激しく反発している。

ウィリアム・スターク(International Christian Concern 地域マネージャー)
「二人のキリスト教徒が教会活動参加を理由に強制退去とされた。われわれICCは,深く憂慮し失望している。ネパール憲法によれば,個々人は自分の信仰を実践する権利を有する。ところが,ネパールのキリスト教徒の多くは,宗教の自由への規制が強まり,キリスト教信仰共同体への敵意が増してきていることを心配せざるをえない状況だ。今回の夫妻退去処分は,ネパールのキリスト教徒に対する更なる攻撃に他ならない。」(*6)

BP・カナル(人民覚醒党書記長)
「憲法は,自分の宗教を信じ実践する自由を,権利として保障している。夫妻が地域の教会に行くのは,したがって罪ではない。当局は,重大な過ちを犯し,二人の宗教の自由を著しく侵害した。当局に尋ねたい。ヒンズー寺院の活動に深くかかわっている人にも,当局は退去命令を出してきたのか? 当局は,すべての人の信仰を公平に扱い,少数者集団の宗教信仰を尊重しなければならない。」(*6)

これらは,たしかにもっともな批判だ。ネパール国内でヒンズー教や仏教の宗教活動をしている外国人は,無数にいる。それを大目に見て,キリスト教徒だけを厳しく取り締まるのは,法の下の平等に著しく反する。


■ICC FB/人民覚醒党選挙シンボル

(2)布教活動の取締り
ネパール国民の教会活動も,取り締まりが厳しくなっている。

ネパールでは憲法26条が「他者を改宗させる行為」や「他者の宗教を損なう行為」を禁止し,これを刑法がさらに具体的に「(他者の)宗教感情を損なう行為」(158条)や「(他者を)改宗させる行為」(160条)を禁止している。しかし,これらの規定はかなりあいまいであり,解釈次第で,広狭どのようにでも運用できる。

布教は,暴力等による「強制改宗」の形をとれば,それは人権侵害であり,むろん認められない。では,非暴力的・平和的な方法による布教はどうか? 信仰は最も個人的な自由ないし権利だが,だからといって個人が他の人々とは全く無関係に自分一人で自分の信仰を持ち実践することは,皆無とはいえないまでも,一般にはみられない。信仰を持つ人々は,社会の中で自分の信仰を実践し,意図の有無にかかわらず,周囲の人々に何らかの影響を及ぼす。信仰の実践は,どのようなものであれ,そうした「布教」の意味を多かれ少なかれ持たざるをえない。われわれは,宗教を本質的にそのようなものと認めたうえで,「宗教の自由」や「信仰の自由」を最も基本的な人権の一つとして人々に保障しているのである。

「宗教の自由」ないし「信仰の自由」が本質的にこのような権利だとするなら,ネパールにおける最近のキリスト教徒取締りの多くは,権力の乱用であり,人権侵害と見ざるをえない。以下に,最近の事例をいくつか挙げておく(重複や日時異同が一部あるかもしれない)。(*3,7)

・3月22日/場所不明:女性キリスト教徒ソニア・タカリ,布教活動による宗教感情毀損容疑で逮捕。6か月の乳児とともに1週間勾留。姉(妹?)エリナも3月7日,同容疑で告発。
・4月30日/チトワン郡:デビド・ライらキリスト教徒2名,強制改宗・宗教感情毀損容疑で逮捕。数日間勾留後,釈放。
・5月8日/カトマンズ:女性キリスト教徒3名,買収による改宗強要の容疑で,教会において逮捕。ヒンズー右派グループが告発。
・5月8日/デラトゥム郡:キリスト教徒6名(ネパール人4名,インド人2名),キリスト教文書配布を理由に逮捕,15日間勾留後,保釈。7月9日,郡裁,6人に無罪判決。
・5月9日/場所不明:キリスト教徒9名,路上で賛美歌を歌った等の理由で逮捕。
・5月19日/モラン郡:キリスト教徒ビム・プラダンとナビン・マンダル,地元民に宗教感情毀損で告発され,逮捕。
・5月19日/ポカラ:キリスト教系孤児院ニュービジョン・チルドレンズ・ホーム,違法運営容疑でカスキ郡当局が閉鎖。ジョティ・グルン事務局長(チャンドラ牧師の妻)を取り調べ。収容9児童(5~12歳)は他施設へ。郡当局は「救出」と説明。
・6月15日/場所不明:キリスト教徒ディープ・カルマチャリ,クシュブ・カマト宅でキリストについて話をしているとき,それに気づいた青年の警察通報により,逮捕。勾留1日。
・7月2日/タプレジュン郡:チェンブン自由教会ディプ・ライ牧師と他のキリスト教徒3名,強制改宗容疑で逮捕。

■地方布教の訴え(TEAM HP)

*3 “6 Christians Arrested, 4 Churches Attacked, Bombed in Nepal,” Christian Today, 7 June 2018
*4 Alex Anhalt, “New pressure faces Nepalese Christians,” Mission Network News, 12 June 2018
*5 Gary Lane, “Christians Forced Out of Nepal; Persecution Intensifies,” CBNNEWS.COM, 07-17-2018
*6 “Foreign Christian Couple Deported from Nepal on Conversion Charges,” Persecution.org, 2018/07/12
*7 “Pressure on Christians Heats Up in Nepal,” Morning Star News, 13 July 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/08/10 at 15:00

カテゴリー: 宗教

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