ネパール評論 Nepal Review

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信号機かロータリーか:ネパールとスイス

1.道路近代化批判
ネパリタイムズ(6月28日号)が,道路新設・拡幅政策を批判している。都市部でいくら道路を建設しても,流入車両が増えるだけで,何ら問題解決にはならない。また,「日本援助信号機は,ほとんど機能していない。」

以前,信号機全滅と紹介したら,「そんなことはない」と叱られたが,ネパールの人びとから見れば,日本援助信号機はやはり役立たずの木偶の坊なのだ。

ネパールの交差点の多くは,文化に適合したロータリー(ラウンドアバウト)式であったのに,それらをやみくもに撤去し,一見合理的な信号機式交差点に近代化したため,この惨状となってしまったのだ。

カトマンズ盆地は狭く,徒歩・自転車でほぼ間に合う。電車,トロリーバス,地下鉄など,低公害公共交通機関の導入を進める一方,道路幅を狭くし,ロータリー式でさばける程度にまで車両数を削減すべきだろう。日本援助信号機は撤去し,古き良きロータリー式に戻す。
[参照] ▼信号
▼信号機、ほぼ全滅(5):王宮博物館前
▼信号機、ほぼ全滅(4):カランキ交差点(付:タタの威厳)
▼信号機、ほぼ全滅(3):「日本に学べ」
▼信号機、ほぼ全滅(2):タパタリ交差点ほか
▼信号機、ほぼ全滅(1):アメリカンクラブ前

2.スイスのロータリー文化
見習うべきモデルの一つが,スイス。先日,単なる団体観光旅行にすぎないが,10日間ほど,スイスに行ってきた。大部分がバス移動。

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 ■ネパールそっくりの山村風景/夕暮れのマッターホルン

感心したのが,多くの交差点がロータリー式であったこと。既存の信号機交差点も,順次,ロータリー式に改造されつつあるという。

幾度か紹介したが,日本では,交通量の少ない道路でも,深夜の人っ子1人いない田舎道でさえ,赤信号で停車し,青を待つ。時間とエネルギーのたいへんな浪費だ。これに対し,スイス・ロータリー式交差点では,ほとんど待つことはなかった。少々交通量が多くても,共有されているロータリー通行規則に自主的に従い,スムースに通過できた。

スイスは,ネパールにとって,自然環境や多民族状況,そして大国に囲まれた内陸国という地政学的位置など,多くの点でよく似ており,連邦制,多言語主義など,学ぶべきものは多い。ただし,民族自治,地域自治などは,決して近代的な新しいものではない。むしろ本質的に前近代的な,古いものである。その古いものの全否定ではなく,保守すべきものは保守しつつ,生活を豊かにしていく。女性の権利など,問題は多々あるにせよ,頑固な保守主義の国であるがゆえ,スイスは多民族多文化民主主義のモデル国の一つとなり得ているのである。

なお,蛇足ながら,自然環境や地域景観についても,スイスは保守主義に立ち,保存を開発と両立させる努力をしている。フランス領のシャモニーにも立ち寄ったが,スイスとの違いに愕然,幻滅した。近代合理主義の宗主国フランスは,自然と伝統を克服すべきものと見ている。他の地域はどうか知らないが,少なくともシャモニー付近の景観は,フランス国民文化のスイスのそれとの相違を際立たせ,その意味では興味深かった。

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 ■インターラーケン「ゲマインデハウス」前/ヴィルダーズヴィル

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 ■幹線道路交差点/ベルンの路面電車とバス

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/07/01 at 11:41

ネパールとスイス

スイスは,大国に囲まれた小国にとって,つねにモデル国家の一つであった。惨敗により貧困弱小国に転落した日本も,「東洋のスイスたれ」といわれ,一時その気になったこともあるが,すぐ冷戦に組み込まれ,それを利用して身分不相応の経済大国にのしあがった。そして,その泡沫のバブル経済が破綻し,落ち目になると,こんどは軍事大国を目指している。日本は,ほぼ一貫して,「単一民族」の強大国が目標であり,多民族永世中立国スイスはモデル国家とはなり得なかった。

これに対し,ネパールは,印中両大国に挟まれた多民族小国であり,存続のため,多かれ少なかれスイス的な生き方をしてきた。地政学的に,ネパールにとって,それは不可避の選択であったといってもよいであろう。

と,そんなことも考え,スイスを見てくることにした。といっても,割高の個人旅行は無理なので,格安カミカゼ団体旅行でチケットとホテルを確保し,自由時間の範囲内で歩き回ることにした。

スイスについては,ほとんど何の知識も無い。そこで,とりあえず近所の図書館から旅行ガイドを数冊借りてきて目を通したが,いずれも恐ろしく平板・無味乾燥,「スイスなんか行くな!」と警告しているようなものばかり。ネパール旅行ガイドの方が,はるかに充実している。まか不思議?

スイスはこんなつまらない国かな,といぶかり,旅行案内ガイド以外の本を借り,また自分でも何冊か買って読んでみると,またびっくり,いずれもなかなか面白い。俄然,期待がふくらみ,出発が待ち遠しくなった。以下,何冊か紹介する。

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 ■ネパール大使館HP(ジュネーブ)

●長坂道子『「モザイク一家」の国境なき人生:パパはイラク系ユダヤ人,ママはモルモン教アメリカ人,妻は日本人,そして子どもは・・・・』光文社新書,2013年2月
出版されたばかりの新書。著者はフリーのジャーナリスト,エッセイストで,本書の長い副題にある「妻」。内容は,副題が示すように,イラク系ユダヤ人を父としモルモン教アメリカ人を母とするアメリカ国籍の男性と結婚し,スイスに住む著者の「私的世界史」(p3)。

多文化・多民族の未来を先取りしたような一家であり,その日常生活を見ると,国家・国境に閉じ込められ縛られたわれわれの「常識」が根底から覆される。「美しい国」日本の,内弁慶国粋主義者必読文献。

●福原直樹『黒いスイス』新潮新書,2004年3月
著者は,毎日新聞外信部ブリュッセル支局長(出版時現在)。1994年から6年間,ジュネーブ特派員。

書名はおどろおどろしく,また表紙カバー紹介文も次のようになっている。
「永世中立国で世界有数の治安のよさ。米国などを抜き,常に「住んでみたい国」の上位に名を連ねる国,スイス。しかしその実態は――。「優生学」的立場からロマ族を殲滅しようと画策,映画“サウンド・オブ・ミュージック”とは裏腹にユダヤ人難民をナチスに追い返していた過去,永世中立の名の下に核配備計画が進行,“銀行の国”でまかり通るマネーロンダリング……。独自の視点と取材で次々と驚くべき真相を明かす。」

この書名とカバー紹介文からは,センセーショナルな告発本,売らんかなの際物という印象を受ける。しかし,内容そのものは,実際には,第一印象とは逆の上質なジャーナリズムである。

著者は,スイスにはナチとの関係,核開発,相互監視など,「黒い」側面があることを容赦なく指摘する。しかし,それは決して一面的,一方的非難ではなく,スイスの繁栄と平和をより深く理解しようとする生産的な批判である。本書は,心地よい観念論にまどろむ民主主義者や平和主義者にとって,必読文献。

●森田安一『物語 スイスの歴史:知恵ある孤高の小国』中公新書,2000年7月
著者は日本女子大学教授で,専攻はスイス史,宗教改革史(出版時現在)。本書は,ケルト時代から20世紀末までのスイス通史。各時代の問題が簡明に記述されており,興味深く読みやすい。表紙カバーの内容紹介は以下の通り。

「ヨーロッパの中央に位置するスイスはユニークな国である。風光明媚な観光地として知られる一方,国民皆兵の永世中立国でもある。多言語・多文化の連邦国家で,各カントン(州)の自治権が強い。中央集権化に対する国民の反発は根深く,国連やEUにも加盟していない。こうした強烈な個性はどのように形作られたのか。内部分裂の危機と侵略の脅威にさらされつづけた歴史をひもとき,この国に息づく独立心の源をさぐる。」
   (筆者注:2002年9月スイス国連加盟)

●國松孝次『スイス探訪:したたかなスイス人のしなやかな生き方』角川書店,2003年4月
著者は前スイス大使・元警察庁長官。赴任先の国のことを書いた元大使の本にはあまりおもしろいものはないが,本書は別。記述は具体的であり平明。以下,「あとがき」から抜粋。

「スイスがハプスブルク家その他の外国勢力と熾烈な争いを繰りひろげながら,ずっと死守してきたのは,自らの住む共同体の結束と自らのことは自ら決するという住民主権の直接民主制であった。そして,その上に,成熟した多様な地域文化が温存されてきたのである。」(p223)

「スイスは小さい割に複雑で,人々は様々な意見を持ち,したたかである。・・・・十把ひとからげにして『スイス人』などといえる人は,実はどこにもいないのである。」(p226)

●笹本駿二『スイスを愛した人びと』岩波新書,1988年11月
20世紀の巨人5人のスイス滞在を中心に考察。扱われているのは,ローザ・ルクセンブルク,アインシュタイン,レーニン,ジェームス・ジョイス,トーマス・マン。

130519 ■スイス大使館(カトマンズ)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/05/19 at 15:53

カテゴリー: 旅行, , 民主主義

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