ネパール評論 Nepal Review

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コイララ首相訪中:中印台頭とネパール

スシル・コイララ首相が6月5日,特別機で中国・昆明を公式訪問した。今回とくに際立つのは,経済第一の実利的姿勢。

140608c■ネパール~昆明(Google)

1.コイララ訪中団
 訪中団: 首相,通商供給大臣,駐中ネパール大使,制憲議会議員,官庁幹部職員,政党代表,経済界代表など33人。中国政府の公式招待。
 日程: 6月5-6日
 目的:「第2回 中国-南亜博覧会」に今回博覧会の「特待国」首相として出席。
 博覧会: 6月5-10日,雲南省昆明。雲南省/中国商務省共催。中国と南アジアとの協力関係の促進が目的。46の国と地域が参加。ネパールは,今回博覧会の「特待国」。
 首相動向: 開会式あいさつ,汪副首相と会談,雲南省電力局訪問,Hydrolancang会長と会談。
(新華社6月6日;Republica,5-6 Jun; Ekantipur, 6 Jun)

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 ■中国-南亜博覧会HP/ネ首相訪中大成功(博覧会HP)

2.対ネ投資要請
コイララ首相は,博覧会開会式挨拶や記者会見において,積極的対ネ投資を要請した。「訪中は有意義であった。経済を中心にネ中関係を強化できた。」(Nepalnews.com, 7 Jun)

その中でも,特に重視されたのが,鉄道,道路,空路の拡充である。「開会式でも,中国や他の国々の指導者との会談でも,一つのことが繰り返し強調された。それは,われわれの未来は,この地域の交通網の改善にかかっているということである。」(Ekantipur,7 Jun)

具体的な成果として第一にあげられるのは,中ネ間のフライト数を現在の週14便から56便に増便するという合意。もしこれが実現すれば,両国間の往来は激増し,日本からもほとんどが中国経由で訪ネするということになろう。

なお,懸案のポカラ国際空港建設は,この5月22日正式契約が締結された。中国援助で,受注したのは中国の「中工国際工程股份有限公司」。滑走路2500mの本格的国際空港で,建設費は2億5千万ドル。4年後完成の予定。

次に注目すべきは,やはり鉄道や道路のネパールへの延伸。そしてまた,ダム・水力発電への中国投資。首相によれば,中国側は,これらについても積極的であったという。

もしそうだとすると,「ラサ=カトマンズ=ルンビニ鉄道」も,プラチャンダの単なるホラ話だったのではなく,近い将来実現可能な現実的なプロジェクトだということになる。

140608d■ポカラ国際空港契約締結式(中工国際HP)

3.中印共存共栄とネパール
以上は中ネの関係だが,今回の「中国-南亜博覧会」のHPを見ると,それにかぎらず,この地域全体が大きく変わりつつあるという印象を禁じえない。

中国とインドは,たしかに未確定国境が何カ所かあり小競り合いは絶えないが,だからといって本格的な軍事衝突になる可能性は低い。両国はいずれも政治大国であり,紛争はあっても大人の対応で管理し,地域開発による実利を目指しているように思われる。

では,ネパールは,どうなるか? うまくいけば,平和的な対ネ投資競争など,中印共存共栄から大きな利益を得られるだろう。が,もしそうはならず,両超大国の草刈り場となってしまうのなら,これは悲惨だ。いやそれどころか,代理戦争の場となり,やがて国家分裂,併合といったことにさえなりかねない。

中印の台頭で激動に翻弄され,下手をすると国家存立の危機にさえ陥りかねないネパール。そうした状況を乗り切るためにも,新憲法制定による正統的国家権力の早期確立・安定が切に望まれるところである。

谷川昌幸(C)

停電20時間:省エネ超先進国ネパール

ネパールは,現在,停電7時間/日。地区割りし,スケジュール表を作り,ちゃんと停電を実施している。多少不便だが,特にどうということはない。庶民は冷静に対応している。

政府発表では,乾期になると,停電は20時間/日になる予定。やはりスケジュール表を作り,粛々と実施し変わりなく暮らす。

ネパールはヒマラヤの国であり,水力発電が中心。ダム計画はいくつもあるが,かつては環境保護団体(電力浪費三昧先進国NGO)の妨害により,次にマオイスト紛争により,そして現在は紛争後混乱により,ほとんどが頓挫,電力需要急増に追いつかない。目下期待は西セティ(750MW)の中国と,上部トリスリ(250MW)の韓国。日本はお呼びじゃないようだ。

(Nepali Times,24-30 Aug)

いずれにせよ,電力はまったく足りないので,急場しのぎにインドからの電力輸入とディーゼル発電機稼働の予定だが,焼け石に水,どうにもならない。かくて,20時間/日の革命的停電が実施されるわけだ。

この窮状を見て,このところ冴えているネパリタイムズが,社説でこんな皮肉をかましている。

首相の党にとって,パワーは銃口から生まれる。とすれば,次は発電水車からパワーを生みだすべきだろう。(Nepali Times,24-30 Aug)

ネパリタイムズの立腹はよく分かるが,それはそれとして,20時間/日停電は革命的にすごい。強いられた省エネであるにせよ,それに耐えられる社会は強靱であり,真の意味で健全である。

日本だって,敗戦後しばらくは,裸電球のほの明かりの下で夕食,一家団欒を楽しんでいた。停電は常識,TVもグルメもなかったが,時間と会話と近隣交際はふんだんにあった。

このような形で「省エネ超先進国ネパール」を紹介すると,現場第一主義者からは,安全圏からの無責任放言と非難されるかもしれないが,厳密に言えば,本人以外は多かれ少なかれ部外者,そんなことをいわれたら歴史研究も外国研究も,一切できなくなってしまう。

実感主義,クソ実証主義は,決して「事実」を見ることにはならない。20時間/日停電が「超先進的」であることこともまた,もう一つの「事実」なのである。

風力発電も原発もイヤだな
停電16時間の革命的意義
電力神話からの脱却,ネパールから学べ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/27 at 17:31

カテゴリー: 社会, 経済, 文化

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中国輸出攻勢:ダムから中国語まで

1.西セティ水力発電事業
ネパール政府は8月7日,西セティ水力発電事業(WSHEP)を中国企業のCWI(旧CTGI,三峡公司傘下)に発注する方針を固め,22名の交渉使節団を中国に派遣した。

WSHEPは,発電量75MW,事業費16億ドル。事業配分は中国75%,ネパール25%。

ダムは,セティ川に建設され,広大な自然と多くの住民に大きな影響を与える。しかし,自然や住民の保護など,マオイスト政府は気にもかけない。なぜなら,マオイストは人民の党だから。そして中国も,大帝国だから,チマチマした地域住民や自然のことなど,眼中にはない。

また欧米の自然保護団体や動物愛護団体は,串本くんだりまで来たり動物供犠に反対したりはしても,WSHEPには反対しないだろう。あるいは,欧米のネパール先住民支援団体も,事業被害が予想される住民の支援には来ないだろう。中国は大帝国だから。

かくして,中国マオイストは,ネパール・マオイストと手を組み,インドの川上に巨大ダムを建設し,確固たる橋頭堡を築くことになる。
  (参照)西セティ水力発電事業

 ダム建設予定地(renewbl.com)

2.中国語授業支援
中国は,文化の中心だから,当然,中国語・中国文化の拡大にも熱心だ。中国大使館は,中国文化祭などを盛んに開催しているし,学校での中国語授業についても8年前に文部省から正式許可を得て,クラスの拡大に努力している(Republica, 5 Aug)。

親たちも,中国の興隆を見て,子供に中国語を学ばせようとし,学校に中国語授業の開設を要求している。いまでは,カトマンズ盆地地区で約60校が中国語授業を行っており,なかには12学年までのコースを置く学校もある。この中国語熱は,地方にも拡大している。
3.辺境国・日本の悲哀
中国政府が偉いのは,こうした中国語学習を,大使館を通して全面的に支援していることだ。文化輸出を外交の基礎としてきちんと位置づけている。その辺が,目先の小利しか追えない辺境の小国・日本との決定的な違いだ。中国は,英帝国や米帝国の仲間だ。日本は到底及びもつかない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/08 at 15:29

カテゴリー: インド, 経済, 外交, 中国

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西セティ・ダム,さらに紛糾

西セティ・ダム問題がますます紛糾し,わけが分からなくなってきた。西セティダム建設は,2月29日,エネルギー省が競争入札なしで中国三峡公司と事業覚書(MoU)を締結した。これに対し,非難噴出。
  ・このダムはネパールが自力で建設できる。
  ・財務省もネパール投資銀行(NIB)も事前に知らされていなかった。
  ・エネルギー省カルキ事務局長には協定締結権限がない。
  ・競争入札ではなく,中国企業を特別扱いした。
議会調査委員会は,5月28日まで期間延長し,調査するという(ekantipur, Mar25)。

この記事通りだとすると,ネパール政府は,ほとんど当事者能力を失っている。協定署名者の職務権限が怪しいようでは,もはや外国からは相手にされない。

中国や韓国のように果敢にリスクを取る覚悟があれば別だが,そうでなければ,日本などは手を引くのが賢明だろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/03/27 at 14:46

カテゴリー: 経済, 中国

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西セティ・ダム建設,紛糾

中国企業(三峡公司)が受注した西セティ・ダム建設をめぐって議論が紛糾している。議会委員会が,競争入札でないのは不透明だと調査を始めたのに対し,中国企業は,そんなことをいうのなら撤退だ,と強腰だ。

興味深いのは,この住民移転強制・自然破壊ダムの建設を強行しようとしているのが,マオイストで,調査を要求しているのがNCなど野党側だということ。

マオイストは,「人民」も「自然」も「民主主義」もそっちのけで,早く建設を承認しないと,中国企業が撤退してしまうと,調査打ち切りを強硬に要求している。まるで「人民」の敵がマオイスト,味方がNCのようだ。

報道はされていないが,これは一種の中印代理戦争ではないか? 西ネパールの敏感地帯に中国企業が巨大ダムを建設する。インドからすれば,面白くないだろう。

中国援助ダムに沈黙のNGOとマオイスト

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/03/20 at 10:25

カテゴリー: インド, 経済, 中国

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中国援助ダムに沈黙のNGOとマオイスト

1.西セティ・ダム概要
中国援助の西セティ・ダムの建設が決定した。国際入札ではなく,ネパール政府が中国企業(三峡公司)と契約した。
  ・16億ドル
  ・750MW
  ・権益:中国企業75%,ネパール電力局25%
これはもともとインドが関心を持ち,発電電力も大半をインドに送ることになっていたが,政情不安や資金難のため頓挫していた。

ここに中国が目をつけた。極西部は地政学的にインドにとって極めて重要なところであり,もしこのダム建設が成功するなら,中国にとって,それは経済的というよりはむしろ政治的な勝利といってよいだろう。

 ▼建設予定地(ABD環境アセス2007より)

2.沈黙のNGOとマオイスト
ここで不思議なのが,環境NGOや人権NGO。かつて日本などがダムを建設していた頃,欧米系NGOが,環境や人権を理由に,さかんにダム建設反対を叫んでいた。そして,これに負けじと,マオイストも唱和し,あちこちでダム建設を妨害した。

西セティ・ダムは,「ABD評価」によれば,2326haの土地を必要とし,1599家族,12914人が立ち退きを迫られる。巨大事業だ。それなのに,環境・人権NGOやマオイストからの反対の声は,いまのところ,ない。

あの麗しき自然愛,人類愛は,いったいどこに行ったのだろう? 中国が怖いのかな? あるいは,体制側になったら,利権があまりに美味しく,地域住民や環境のことなど目に入らなくなったのかな?

3.身勝手で卑怯なNGO
欧米系の環境・人権NGOの中には,遺憾ながら,一部身勝手で卑怯なものがある。たとえば,捕鯨反対。私自身,日本が南氷洋くんだりまで出かけ,姑息な「調査捕鯨」をやることには反対だが,だからといって,反捕鯨NGOのやり方は度が過ぎる。

ましてや,和歌山までやってきて,伝統的な沿岸捕鯨をやっている地元漁民を一方的に攻撃するのは,正義・公正に反し,絶対に許せない。

そんな情熱があるのなら,なぜ沖縄に来て,ジュゴンを守るため普天間基地建設に反対しないのか?(まともなNGOは,むろん,その多くが基地建設反対を闘っている。) 米軍(日本政府パトロン)は怖くて実力行使できないが,和歌山の漁師ならたいした抵抗も出来ないだろうから,大向こう受けを狙って派手にやってやれ,というわけか。

ヒマラヤの環境保護や鯨・イルカ保護は大切だ。しかし,保護運動にも,最低限度の公正さは,不可欠であろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/03/04 at 15:28

カテゴリー: 経済, 外交, 中国

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「ネパール=中国友好年」と「ルンビニ観光年」

1.無礼な中国首相訪問
温家宝首相の訪ネ(1月14日)はあまりにも異例,ネパールはまるで中国の一部か属国のようであった。ネパール・メディアが,鬱鬱たる怒りを押し殺しつつ,皮肉たっぷりに伝えているところによると,経緯の大要は次の通り。

中国がネパールに首相訪問を公式に伝えたのは24時間前であり,ネパール外務省の公式発表は特別機着陸(11時50分)の48分前であった。

■1月13日(金)
 ・大統領,制憲議会議長への連絡=13日午前。
 ・外務省幹部=メディア報道で,16時頃知る。
 ・首相官邸がソルティーホテルに昼食会準備依頼=16:30
 ・官邸の赤カーペット取り替え=13日夕方
 ・中国大使館員らとの打ち合わせ=13日夕方
■1月14日(土)
 11:50 温首相,TIA到着
 12:15 バブラム首相と会談
 12:45 首相官邸で両国公式協議
 13:30 8協定調印
 13:50 昼食会。各党首ら出席
 14:50 大統領官邸出発
 16:00 ドーハへ向け出国

ネパールにとっては,予告無しの来訪に近い。特に,大統領,議会議長,各党首らは,ほとんど情報のないまま,突然,14日カトマンズ待機を求められたらしい。たった4時間の訪問のために。無礼千万といわざるをえない。

2.ネパール=中国友好年2012
温首相の訪ネはわずか4時間であったが,地政学的に重要な地域での大規模ダム建設,ポカラ国際空港建設,経済協力拡大など,協定が8つも締結され,中国にとっては成果十分であった。

それらの中で,今のところあまり注目されていないが,中長期的に重要となると思われるのが,「ネパール=中国友好年2012」の採択である。

協定によれば,2012年は「ネパール=中国友好年」とされ,文化交流・青年交流が拡大され,「中国フェスティバル」が展開される。中長期的に,中国文化を浸透させていく計画らしい。

これは「友好」が目的だから,反友好的な行為は抑制される。具体的には,自由チベット運動。協定は,こう宣言している。

「ネパール側は繰り返し確認した――世界において中国は唯一であること,中華人民共和国政府は中国全体を代表する唯一の合法政府であること,そして台湾とチベットは中国の不可分の領域であること。またネパールは,中国の国家主権・国民統一・領域統合への努力を強く支持し,いかなる勢力にもネパール領域を反中国の活動や分離活動のために利用させることはない。このネパールの立場を,中国側は高く評価した。」

これは中国のいうがままであり,この協定により,ネパールはこれまで以上に強力にチベット自由運動や他の反中国活動を取り締まらなければならないことになった。

さて,どうするか? ちょっとうがった見方だが,この点との絡みで注目すべきは,今回約束された次の援助である。

中国は,警察力強化に1億2千5百万ルピー,武装警察学校設立に5千万ルピーの援助を約束した。これらのうち武装警察は準軍隊であり,その幹部養成を任務とするのが武装警察学校であろう。そこに中国が援助する。さすが,中国,目の付け所がよい。

中国との友好は,当然,自由チベット弾圧を意味する。

3.ルンビニ観光年2012
この「ネパール=中国友好年2012」とリンクしているのが,「ルンビニ観光年2012」である。ヤダブ大統領は,「ネパール=中国友好年2012」協定調印の翌日(15日),カトマンズからルンビニに行き,そこで「ルンビニ観光年2012」を宣言した。偶然の一致ではなく,両者は連動していると見るべきだろう。

14日のカトマンズでの協議において,バブラム首相がラサ-カトマンズ-ルンビニ鉄道建設を要望したのに対し,温首相は,それは十分に可能であり,中国政府は前向きに検討する,と約束した。中国側は,やる気満々なのだ。

もしラサ-カトマンズ-ルンビニ鉄道が建設されたら,ネパールの地政学的位置は大きく変化する。あるいはまた,中国は,ルンビニの先の巨大なインド市場をも見込んでいるのかもしれない。

いずれにせよ,「ネパール=中国友好年2012」と「ルンビニ観光年2012」は連動していると見るべきだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/18 at 13:44

カテゴリー: 経済, 外交, 文化, 中国

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