ネパール評論 Nepal Review

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ネパール,UNHRC理事国に

国連総会は10月16日,ネパールを国連人権理事会(UNHRC)の理事国に選出した。アジア地域最多の166票をネパールは獲得。この結果につき,ドゥルガ・プラサド・バタライ国連大使は,こう述べている。

「ネパールは,内発的な国民参加型平和構築により2015年には人権を原理とする憲法を採択し,国を挙げてその施行を固く決意するに至った。今回の人権理事国への選出は,このユニークな成功経験を持つネパールには人権理事会事業に貢献する能力がある,と認められたことを意味する。」「紛争後ネパールにとって,この選出は,内外における人権への国際的貢献国としてのネパールの意義を実証していくまたとない機会である。」(*2)

これは,人権・平和・民主主義へのネパールの内発的努力を強調しその世界的意義を訴えており,先に紹介したカナク・マニ・デクシト「民主主義をネパールに誰が教えてくれるのか?」のネパール・ナショナリズムと相通ずるところがある。

DP・バタライは現国連大使,KM・デクシトは元国連職員。国際社会と対峙すると自国の自主性や独自性を強調するナショナリズムに傾くのは自然な流れであり,そこは割り引かなければならないが,その一方,彼らが訴えるネパール現代政治の独自の経験の中に世界が学びうるものがあることもまた事実であろう。

 ■バタライ国連大使「人権の日」挨拶(国連HPより)

*1 “General Assembly, by Secret Ballot, Elects 15 Member States to Serve Three-Year Terms on Human Rights Council,” OHCHR HP
*2 “Nepal elected to UN Human Rights Council.” Kathmandu Post, Oct 17, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/18 at 16:19

連邦制,希望から失望へ(4)

3.連邦制はインド押し付け
連邦制はインドの押し付けだとする説は,左右を問わずナショナリストに共通する見方である。たとえば,チトラ・B・KC元副首相(人民戦線議長)は,新聞インタビューにおいて,こう語っている。
 ▼”Federalism in Mepal an Indian design: Ex DPM KC,” Republica, 16 Dec. 2016.

ネパール経済は連邦制の重荷に耐えきれない。「連邦制はネパールのガンだ。」にもかかわらず,「政府は,インドの要求に沿うため,[連邦制に関する]憲法改正案を議会に提出した。これは,解決にならないどころか,逆に,事態をさらに紛糾させただけだった。」

「インドは,タライ‐マデシュ地方をネパールから分離しインドに併合することを目論み,連邦制をネパールに押し付けてきたのである。」

161230

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/12/30 at 17:21

トランプ勝利とネパール

ドナルド・トランプの米大統領選勝利に,ネパールも当惑している。

当初,ネパールでも,まさかトランプが当選するとは思われていなかったらしく,記事には落選を見越したような,辛辣なものが多かった。たとえば,PRATYUSH NATH UPRETI, “Trumps of Nepal: Every country has political leaders like Donald Trump and Nepal is no exception” (Kathmandu Post, Sep 18, 2016)。ここで「ネパールのトランプ」とされているのは,まず第一に,大口をたたき,先の選挙の結果を受け入れようとはしないプラチャンダ首相(マオイスト)。トランプは,プラチャンダ首相から学んでいるかのようだという。次は,KP・オリ前首相(UML)。大衆迎合スローガンを乱発し,ナショナリズムをあおった。そして第三に,カマル・タパ(RPP-N)。君主制やヒンドゥー教国家を唱えるオポチュニストであり,RPP議長ですら“タパはネパールのトランプだ”と揶揄しているそうだ。

ところが,トランプが勝利すると,ネパール・メディアは,一転,真剣にネパールへの悪影響を心配し始めた。最大の関心事は,対ネ関与の後退,特に開発援助の削減。次は,海外出稼ぎが難しくなるのではないかということ。また,移民や難民の受け入れ規制も心配されている。

たしかに,トランプの内向きナショナリズムにより,ネパールのような米国にとって重要とは言えない国への関与が低下することは,十分に考えられる。たとえば,John Narayan Parajuli, “What would Trump presidency mean for Nepal?: Limited engagement with countries like Nepal may be fallout of an inward-looking America under Trump”(Kathmandu Post, Nov 10, 2016)によれば,昨年6月に右派政権が成立したデンマークでは,対外関係予算が削減され,在ネ大使館も2017年までに閉鎖されることになったという。これまでネパールに深く関与してきたデンマークが大使館を閉鎖するとはにわかには信じられない事態だが,大使館HPを見ると,事実であった(下記参照)。ネパールは,トランプ勝利により,この流れが加速されるのではないかと恐れているのである。

[参照]デンマーク大使館閉鎖のお知らせ(同大使館HP)
 ・対ネ開発援助は,削減(phase out)していく。
 ・デンマーク大使館も,数年以内に閉鎖する。

161118a 161118b■デンマーク大使館

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/11/18 at 17:40

ナショナリスト親中派オリ首相の辞任

オリ首相(UML)が7月24日,辞任した。オリ政権は,第2党のUMLと第3党のマオイストを主軸とする連立政権だったが,マオイストが政権離脱し,議会少数派に転落したため,不信任案採決の直前に自ら辞表を大統領に提出し,辞任したのである。2015年10月発足から9か月余の短期政権であった。

それでは,マオイストはなぜ連立を離脱し,オリ首相不信任に回ったのか? いくつか理由は考えられるが,最大の直接的理由は,おそらくUML・マオイスト「9項目合意」(5月5日)のオリ首相による実行が期待できなくなったことだろう。

「9項目合意」では,マオイストに当事者の多い人民戦争関係訴訟を終わらせることがうたわれ,またそれと同時に予算成立後のプラチャンダへの政権禅譲の密約もあったとされている。ところが,人民戦争期の加害者への免罪や不動産移転の追認には被害者の反対が強く,また政権禅譲密約も反故にされそうな雲行きであった。そこでプラチャンダは,オリ首相を見限り政権離脱,第1党のNCと組み,自ら内閣不信任案を議会に提出したのである。

むろん,それだけではない。オリ首相の政権運営については,強権的ナショナリズムとの批判が高まっていた。マデシの憲法改正要求闘争を力で抑え込み,政府批判のブログ投稿者やデモ「参加者(見学者?)」(いずれも外国人)を逮捕した。さらに著名な知識人カナク・デクジト氏も別件逮捕され,一時,生命の危機に陥りさえした。

このような強権的ナショナリズムは,人民戦争を経て獲得された諸民族・諸共同体参加の包摂民主主義を危うくするもの,かつての一元的中央集権国家へ後戻りするものとみられるようになった。

そして,ネパールでナショナリズムに傾けば,歴史が物語るように,地政学的力学により反インド・親中国となる。オリ首相も,ナショナリズムに傾けば傾くほど,反印となった。マデシの反政府闘争,特に国境封鎖闘争をインドが支援しているとみなし,インドの内政干渉を非難し,駐印大使の召還や,大統領訪印の直前中止さえ断行した。

これとは対照的に,中国との関係は一気に前進した。オリ首相の3月訪中の際の「共同声明」では,中国側は「2015年憲法」制定を歓迎し,
 ・石油類供給
 ・中ネ間道路・鉄道建設
 ・国境経済ゾーン開設
 ・治安機関強化支援
などを約束した。オリ首相は,インドに代わり得る交通交易路を確保したと,その対中外交の成果を誇示したのである。

中国側も,オリ首相を大っぴらに支援してきた。在ネ中国政府筋がネパールの有力者たちにオリ首相支持を働きかけたし,中国系メディアもオリ首相を称える記事をつぎつぎと掲載した。たとえば,辞任後の記事ではあるが,インドのBusiness Standard(29 Jul)は中国のGlobal Timesが次のように伝えた,と報道している。

オリ首相は,「1990年代以降,最大のネパール首相」であった。「ネパールは,近代国家になった1956年以降,インドに全面的に依存してきたが,オリ首相はこの依存をほぼ完全に打破した。」「国境封鎖すれば,ネパールは窒息しすぐ降参するとインドは信じてきたが,オリ首相はこの状況を覆したのである。」

インドが,こうした親中派オリ政権を快く思わず,さまざまな形でNCやマオイストに働きかけ,親印派政権に置き換えようとしてきたことは,まず間違いないであろう。

次のNC=マオイスト連立政権の首相と目されているプラチャンダも,最大の懸案であるマデシ問題について,憲法を改正し,マデシ(とインド)の要求に応えたいと語っている。プラチャンダは,中国とのこれまでの約束を守り友好関係を促進するとも語っているが,次のプラチャンダ政権が対中印関係をこれまでよりインド寄りに修正する,と見るのが一般的である。

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 ■オリ前首相(UML:HP)/プラチャンダCPN-MC議長(同党HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/07/31 at 19:53

平静に見えるオーストリア

6月末~7月初旬,ウィーンやザルツブルクなどを見てきたが,少なくとも外から見る限りオーストリアは平静であった。

オーストリアでは,5月に大統領選挙があり,リベラル系無所属(「緑の党」元党首)のアレクサンダー・デア・ベレン候補が,僅差で,極右「自由党」のノベルト・ホーファー候補に勝利した。不在者投票分でのギリギリ逆転勝利,文字通りの辛勝であった。

ところが,この開票結果に自由党が異議を唱え,憲法裁判所に選挙無効を訴えた。憲法裁判所は,この訴えを受理し,審理の結果,7月1日,不在者投票開票方法などが違法だったとして選挙無効の判決を下した。再選挙は,9~10月の予定。

このオーストリア大統領選挙は,全世界,特に欧州で,成り行きが注目されてきた。自由党は極右ナショナリスト政党。難民・移民受け入れに反対し,EU離脱を訴え,とくに男性,ブルーカラー労働者,農村部に支持を拡大してきた。その自由党が勝利すれば大変なことになる。注目され,心配されるのは当然だ。

こうした状況だから,オーストリアはいま騒然としているだろうと思っていたら,実際には,街も村も表面的には何事もないかのように平静。人々はコンサートに出かけ,高原や湖畔では早やバカンスを楽しんでいた。

これは,まったくもって不思議,不可解。バカンス明けの再選挙はいったいどうなるのだろう?

▼議会議場(上院/下院)
160720l 160722a

▼落書き(ハイドンハウス付近)
160722c

[参照]
*「オーストリア大統領選、やり直し 極右の伸び焦点」日経,2016/7/1
*稲木せつ子「オーストリアの大統領選は「史上初」だらけだ 憲法裁判所が選挙のやり直しを命令」東洋経済オンライン,2016年07月06日
*「オーストリア大統領選で違法行為、憲法裁がやり直し命令」朝日新聞,2016年7月1日

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/07/22 at 04:54

印英共同声明のネパール憲法言及,ネ政府抗議

訪英したインドのモディ首相が11月12日,キャメロン首相と会談し,共同声明を出したが,その中にネパール憲法への言及があったため,ネパール政府が強く反発,外務省が抗議声明を出した。
 * 新華社配信。”Nepal objects to India-Britain joint statement,” Nepal National, 16 Nov.; “Nepal responds to UK-India joint statement,” globaltimes.cn,16 Nov.

1.印英共同声明の関係部分
「両国[印英]首相は,ネパールが残された諸問題を解決し,政治的安定と経済成長を推進できるような,永続的にして包摂的な憲法をつくることの重要性を強調した。」

2.ネパール外務省の公式発表[要旨]
「ネパールは,約8年間の厳しい民主化努力ののち,選挙により成立した制憲議会において新しい民主的にして包摂的な憲法を公布することができた。」

「ネパールは,平和・安定・繁栄のために国際社会が提供してくれた支援と善意に敬意を表する。しかしながら,憲法制定は一国の国内問題であり,ネパールは,その国内問題にネパール自身で対処できる,と強く認識している。」

3.ネパール外務省筋の抗議
この件について,ネパール外務省筋は,新華社の取材に次のように述べた。

「ネパールは,主権国家として新憲法を採択したのであり,他のどの国であれ,この新憲法の内容について,あれこれ指示すべきではないと信じている。われわれの国内問題への,いかなる外国の外からの介入をも許容できない。」

4.ナショナリズムの高揚
ネパールでは,マデシ反憲法闘争の長期化とともに,憲法を制定した諸勢力の側のナショナリズムが高揚している。

たしかに憲法制定支援と称して自分たちの作りたい憲法をネパールに押し付けてきた西洋を中心とする国際社会の態度は,ネパールの自尊心を著しく傷つけるものであった。一外国人にすぎない私ですらいくども腹が立ったのだから,誇り高きネパール知識人の多くが不満と怒りを鬱積させてきたであろうことは,容易に想像がつく。

そうした不満と怒りが,いまナショナリズムの高揚という形で噴出し始めたのではないだろうか? もしそうだとすると,これは危険な兆候とみてよいであろう。

▼ネパール外務省HP
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 ■外務大臣はナショナリズムの旗手カマル・タパ(写真右)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/17 at 03:54

マデシ問題解決なくして供給再開なし:印大使

ライ駐ネ印大使が11月10日,カトマンズ記者クラブにおいて,ネパール政府の封鎖解除要請を一蹴した(Republica, 11 Nov)。

オリ内閣は11月9日,インド政府に物資供給を要請する特別決議を採択した(決議原文未見)。ネパール政府の正式の公式要請。ところが,ライ大使は,そのような要請は聞いていないとして,「ネパール政府と反政府諸党とが合意に達するまで危機は続く」と断言した。

ライ大使によれば,ビルガンジ経由はマデシ問題が解決しなければ再開できないし,また他の経路に迂回させることも非現実的だ。

大使「ネパールの主要消費地に向け十分な燃料を供給できるのは,ラクサウル[ビルガンジ]基地からだ。少なくとも80~85%の燃料は,ラクサウル基地から供給される。・・・・ラクサウル基地からの供給がとまれば,ネパールは自ずと厳しい物資不足に陥るであろう。」

大使「反政府諸政党との対話を通して問題を解決する以外に,解決策はない。」

 151105a■在ネ印大使館HP

ここでライ大使のいうマデシ問題の解決とは,要するに,マデシの要求に沿う憲法改正である。直接引用ではないが,上掲リパブリカ紙は大使の説明をこうまとめている。

「ライ大使はこう述べた。インド側は,ネパールの主要政党に対し,すべての社会諸集団が一つの国民としての憲章をもつことができたと確信できるような,そのような憲法をつくるよう一貫して提案してきた。」

この記事が正しいなら,インド側は,オリ内閣の物資供給要請特別決議を無視し,高飛車に憲法改正を要求していることになる。明白な内政干渉。このインドの宗主国的対応に,ネパールの左右ナショナリスト連立政権は,どう対処するのか?

さらに中国に傾斜するのか? すでに吉隆には大量のネパール向け物資が集積されつつあるそうだ。ラスワガディ経由でリンゴは入ってきたそうだが,石油等の他の生活必需物資の本格供給はいつ始まるのだろう?

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 ■「インド石油」ラクサウル基地と「ネパール石油」アレムクガンジ基地(Google)。両基地間パイプライン印ネ協定締結済。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/11 at 17:59

オリ首相の危険なナショナリズム

オリ政権は,UML,UCPN,RPP-Nのナショナリスト3党を基盤としており,もともと対外強硬路線に向かいがちだ。

エースはなんといっても,カマル・タパ副首相兼外相。いち早くニューデリーに乗り込み,モディ首相に直談判したし,11月2日にはジュネーブのUNHRC会議でインドの対ネ非公式経済封鎖を非難した。しかし,彼はもともと王制派ナショナリストなので,そうした発言は予想されたことであったし,また保守主義者なので発言には良識的抑制が利いていた。

これに対し,オリ首相(UML)のナショナリズムは民主主義的で,よりストレート,あるいは報道が事実とするなら,かなり荒っぽく,それだけに,より危険である。オリ首相は11月6日,「ネパール記者連盟(FNJ)」と「ネパール・タルン・ダル(NC青年組織)」のメンバーと相次いで会い,次のように語ったと報道されている。

 151108■オリ首相(内閣府HP)

「ネパール新憲法はネパール人がネパール人のために制定公布したのであり,他の誰への加害も意図したものではない。」また「われわれは隣国インドに対し何ら悪意を持っていないし,その利益を害しようとも思っていない。」(Himalayan, 1 Nov)

ところが,インドはネパールに対し意図的に経済封鎖をし,ネパールを「非人道的に扱っている」。インド政府は,腐った魚や野菜を送りつけ,封鎖をしていないことを証明しようとしたが,ガスは供給しない。戦時中であっても,食料などは人道的観点から輸送されるのに,いまはそうではない。インドの対ネ封鎖は,「戦争より非人間的」だ。(Himalayan & Republica, 6 Nov)

またインドは,ジュネーブのUNHRC会議において,人民戦争期の人権問題を蒸し返した。「少し前,隣国指導者の一人が,インドはネパールに対しその気概を示すだろう,と公に警告した。・・・・いま,彼らは10年も前の問題を掘り出してきた。」たしかに「われわれは,過去に戦争の苦難に直面したが,いつまでも戦争を続けることはできない,と思い知った。そこで,われわれは平和プロセスを開始したのだ。」「以前は戦っていた諸党が,いまでは一緒になり,与党,野党にかかわりなく,民主的・平和的な改革を押し進めている。」(Zee News, 6 Nov)

「隣国がわれわれの目を覚ましてくれた。私は,わが国の独立,尊厳,国民的統一を堅持し,この国を今の危機から救い出す努力を惜しまない。」(Republica, 6 Nov)

このように述べたうえで,オリ首相は,国民とメディアに二つの要請をする。

インドの対ネ経済封鎖は,「別の道を求めるチャンス」でもある。政府はトロリーバス復活を考えるし,国民は電気自動車や電気ヒーターを買い使ってほしい。[一日十数時間停電では?]

また,メディアは,国家の統一,主権,独立を損なうような記事を書くべきではない。自由はアナーキーではない。しかるに,このところ,表現の自由を名目に,国家を脅かすような活動が目に付く。この国は国民的統一を必要としているのであり,国民とメディアには成熟した責任ある態度が求められている。

オリ首相は,以上のようなことを語ったと,ネパールとインドのメディアは報道している。もしこれらの報道が事実から大きく外れていないのなら,オリ首相は,カマル・タパ副首相以上に強硬なナショナリストということになる。

 151108a■UML第9回党大会(同党HP)

もともとネパール新憲法は,きわめて国民主義的,愛国主義的である。第5条は「国益」を定めており,「国益」侵害は連邦法により処罰される。ネパール国民の独立,主権,領土的統一,国民性,尊厳などは,「国益」として法の処罰をもって守られる。したがって,オリ首相の「国益」を理由とした報道自粛要請も,単なるお願いではなく,法的な根拠があるわけだ。

ナショナリズムは,民主的であればあるほど,危険だ。11月7日には,プラチャンダUCPN議長が,ブトワルでの記者会見で,「もしインドがわれわれを支配しようとするなら,そのような抑圧とはいつでも戦う覚悟をすべきだ」と檄を飛ばした(Kathmandu Post, 7 Nov)。UMLもUCPNも,いずれ劣らず強硬な民主主義的ナショナリストだ。

これは危ない。愛国心をあおられ,激高した人々が,不測の事態を引き起こさなければよいが。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/08 at 08:39

震災救援の複雑な利害関係(4):インド政府「ともだち作戦」(3)

4.「ともだち作戦」とナショナリズム
「ともだち作戦」では,前述のように,インド軍が首都カトマンズとポカラに支援拠点を置き,大規模な「作戦(Operation)」を展開した。ネパールの人々が,感謝しつつも,それを自国の主権への脅威と感じたのも無理はない。

しかも,空軍ヘリや陸軍工兵隊などが活動したのは,カトマンズ近辺だけでなく,北部山村地域においてでもあった。たとえば,ゴルカ郡バルパクには陸空軍が前進基地を設け,工兵隊は道路復旧に当たり,空軍は高所村人や僧侶,あるいはチュムリンにいたトレッカーを救出した。インド軍は,ほかにドウンチェ,ルクラ,ナムチェ,タトパニなどにも出動している。

こうした北部山岳,丘陵地域は,チベット(中国)国境に近く,地政学的な敏感地帯。これまでにも,いくどとなく外国諜報員(スパイ)の活動が問題にされたし,現在も暗躍していることはまずまちがいない。そのようなところでインド軍が大規模な「作戦」を展開する。緊急時の「ともだち」による救援とはいえ,ナショナリスト,特に反政府側ナショナリストが,反発するのは,当否は別として,十分予測できることだ。

あるいはまた,もう一つの敏感地帯,南部インド国境沿いのタライ地方では,インド政府が,「国境警備隊(SSBあるいはBSF)」に印ネ国境の厳戒と被災者救援を命令した。SSBは,国境沿いに救援キャンプを設営する一方,救援物資を東部タライのイタハリなどでネパール側に引き渡した。また,救急車1,給水車3,バスなど34の計38車両をカトマンズまで運んでいる。SSB部隊は「インド国家災害対応部隊(NDRF)」にも参加しているようだが,規模は不明。このSSBの動きも,ネパール側を警戒させている[i,j]。

150514a■SSB・HP

さらにもう一つ付け加えるなら,インド政府は「ともだち作戦」にゴルカ兵を動員した。ゴルカ兵は現在約3万8千人。そのうちネパール帰休中の兵がかなりおり,また退役兵はネパールに約3万人いる。在印ゴルカ将兵の派遣に加え,これら在ネ現役・退役ゴルカ兵をも,インド政府は「ともだち作戦」の先兵として相当数緊急配備したという[k]。これもネパール側としては警戒せざるをえない。

150514b■印軍グルカ兵

このように,インド軍派遣がネパール側に警戒されることは自明のことであったので,インド政府も,「ともだち作戦」は両国の緊密な連携のもとに展開されていることを,公式に繰り返し説明してきた。たとえば――

「ランジト・ラエ大使は,今日,在ネ外交関係者に,ネパール救援活動はネパール政府との完全な連携のもとに行われていることを説明した。・・・・この説明の場には,中国,EUなど在ネ外交団の代表も何人か出席されていた。」[a]

「インド国家災害対応部隊(NDRF),インド空軍,在カトマンズ印諸省合同チーム,そしてインド大使館は,ネパール当局と手を携え(in close tandem)救援作戦を展開している。」[l]

しかし,それにもかかわらず,野党幹部らは,インドによる主権侵害を警戒せよ,とコイララ首相に強硬に申し入れている。たとえば――

プラチャンダUCPN議長
「インド国境警備隊(SSB,BSF)は,ネパール政府と協議することなく勝手に行動している。彼らのどのような支援が必要かを決めるのは,ネパール政府のはずだ。」[m]

モハン・バイダCPN-M議長
「インドは,トリブバン国際空港を占拠し,支援活動をインド北部国境付近に集中させているが,これはきわめて怪しい戦略だ。・・・・それは,ネパールと中国との長年にわたる関係を害することになるだろう。」[m]

ローヒット労農党議長
インド軍のある将校の妻が特定の数家族を救援したいと言ったが,これは認められなかった。すると彼女は,インド大使館員を動かし圧力をかけようとした。「インド軍将校の妻がネパール政府役人や郡役所長を脅す――そんな状況で,どのような救援をするというのか。」[m]

ゴルカ郡役所・所長
「コイララ首相に申し上げたいのですが,インド軍ヘリは私たちに協力してくれません。そのため,私たちが任務を果たすのがきわめて難しくなっています。」[n]

ネパール国軍幹部
インド軍ヘリは,トリブバン空港にネパール国軍が設置した外国救援隊調整委員会の指示を無視し,禁止区域を飛行し,敏感地域の空撮をしている。「インド軍は限度を逸脱している。」[o]

イタハリ抗議デモ
完全武装のインド国境警備隊(SSB)のネパール領内での活動に対し,学生たちが抗議デモを行い,モディ首相の人形を焼いた。[p]

Telegraph NepalやPeople’s Reviewの記事は情報源が必ずしも明確でなく,注意を要するが,それでも,こうしたインド軍批判はあって当然といってよいであろう。純然たる善意の救援活動のためでさえ,軍隊を送れば警戒される。軍隊とはそのようなものなのだ。

そこで,「ともだち作戦」と「トモダチ作戦」。批判し警戒しつつ受け入れる国と,ただただ感涙し抱きしめられる国。独立国として気概があるのは,はたしてどちらなのだろうか?

150514c■微妙な印ネ関係(Unreal Times,2015-04-26より)

[a]”Press Release on briefing by Ambassador Ranjit Rae to the diplomatic community and India’s ongoing relief assistance to Nepal,” http://www.indianembassy.org.np/(在ネ印大使館HP,5月4日)
[i]”SSB sends over 3 dozen vehicles from border posts to Nepal,” Zeenews,2015-04-27.
[j]”Nepal quake aid: SSB Siliguri sends relief material
The SSB Siliguri Frontier has so far treated 210 patients,” Indian Express,2015-05-02.
[k]”Indian Army will work in Nepal till normalcy returns,” Zeenews,2015-04-28.
[l] Ministry of Home Affairs, Gov. of India,”Day 9 of the Earthquake Rescue & Relief Operations,” 2015-05-03.
[m]”India ignoring national sovereignty: Nepal leaders,” Telegraph Nepal,2015-05-02.
[n]”Nepal: India in bad news…again!,” Telegraph Nepal,2015-05-07.
[o]”Nepal Army, oppsition parties unhappy with Indian rescue teams,” People’s Review, 2015-05-06.
[p]”Nepal Students burn effigy of India PM Narendra Modiww,” Telegraph Nepal, 2015-05-05.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/14 at 17:42

皇室利用と日本語放棄で五輪を買った安倍首相:”under control”のウソ公言

安倍首相は,皇室の政治的利用と日本語の放棄により,オリンピック開催の興行権を買った。「美しい国」である「日本を取り戻す」どころか,金儲けのためであれば,憲法も伝統文化も顧みない「醜い日本」を世界にさらけ出したのだ。

1.政治としてのオリンピック招致活動
オリンピック招致活動が「政治」であることはいうまでもない。オリンピック開催により,(1)経済界の景気浮揚要求に応える,(2)ヒノマル・ニッポン挙国一致ナショナリズムの高揚を図る。いずれも安倍政権の維持強化のためであり,いま現在,これをもって「政治」といわずして,何を政治というのか? 安倍首相自身,これを最も重要な政治課題の一つと考えるからこそ,わざわざブエノスアイレスまで出かけ,招致活動に参加したのだ。

2.高円宮妃のロビー活動
その政治そのものといってもよいオリンピック招致のため,安倍内閣は高円宮妃を利用した。本音報道のスポニチ(9月7日)は,記事に「会場にIOC委員続々到着,高円宮妃久子さま,積極的ロビー活動」というタイトルをつけ,高円宮妃が「積極的に動き」,IOC委員らに声を掛けていたと伝えた。親皇室の産経や報知(9月7日)にも同様の記事が出ているから,高円宮妃が「積極的ロビー活動」をしたことは間違いないであろう。

ロビー活動をする人は,「ロビイスト」である。広辞苑(第5版)はこう定義している。「ロビイスト(lobbyist): 圧力団体の代理人として,政党や議員や官僚,さらには世論に働きかけて,その団体に有利な政治的決定を行わせようとする者。」

高円宮妃は,まさに,このようなロビイストの1人として,積極的にIOC委員に働きかけ,東京招致という「政治的決定」に大きな政治力を発揮したのだ。しかし,このロビー活動に高円宮妃の政治責任は,むろん一切ない。

3.皇室政治利用の責任
高円宮妃のロビー活動やプレゼン冒頭挨拶の責任は,すべて安倍首相にある。朝日新聞稲垣編集委員によれば,川渕・サッカー協会最高顧問は,こう語ったという。「4日にブエノスアイレス入りした久子様の出席に熱心だったのは,猪瀬さん,安倍さん,森さんだよね。なかでも猪瀬さんは,本当に熱心だった。」(朝日デジタル,9月6日)

安倍,森,猪瀬は,いずれも政治家だが,行政権の長は安倍首相だから,高円宮妃の招致活動の全責任は,天皇への「助言と承認」(憲法第3,7条)に準ずる何らかの“助言と承認”を与えたはずの首相にある。

では,今回の高円宮妃の招致活動への“助言と承認”は適切であったのか? 憲法は第1条で天皇を日本国と日本国民統合の「象徴」と定め,第4条で「国政に関する権能を有しない」と明記している。象徴としての天皇,したがってそれに準ずる皇族は,権力行使や政治的意思決定に関わるナマグサイ行為は一切してはならない。これは,天皇象徴制の根本原理であり,現在の日本国家はこの原則の上に成り立っている。

高円宮妃のオリンピック招致活動は,この憲法原理の枠を完全に逸脱している。「ロビー活動」は,広辞苑の定義のように,政治そのものであり,高円宮妃は,ブエノスアイレスで政治活動を繰り広げていたのだ。それは,たとえ日本国家のためであっても許されない,違憲の政治的行為である。

4.皇室政治利用の危険性
今回はたまたま招致が成功したから,高円宮妃も安倍首相もいまのところあまり批判はされていない。しかし,もし失敗していたら,政治活動をした皇室の権威は失墜し,安倍首相は皇室政治利用の責任を追及され,退陣は免れなかったであろう。

しかし,この件に関しては,成功は失敗よりもむしろ恐ろしい。絶大な効果に味を占めた政治家たちが,天皇や皇室の政治的利用に飛びつき,国民もこれを歓迎するからだ。天皇制ファシズム(超国家主義)への先祖返りである。天皇を大切と思うなら,天皇や皇族の政治的利用は絶対に許してはならない。

130913a ■皇室利用と英語ウソ公言(朝日9月8日)

5.日本語放棄の安倍首相
安倍首相がオリンピック招致プレゼンを英語で行ったことも,見過ごせない。「日本を取り戻す」はずなのに,実際には,日本文化の魂たる日本語を放棄してしまったのだ。

そもそも各言語はすべて平等であり,本来なら,それぞれが母語で話し理解し合うべきだ。しかし,現状は,かつての植民地大国が文化侵略により英仏語やスペイン語などを普及させてしまったため,現在,多くの地域で使用されているそれらの言語を便宜的に使用するのは,次善の策として,ある程度はやむを得ない。

しかし,公式の場での公人の話となると,そうはいかない。天皇は「日本国の象徴」だから,公式の場では英語やフランス語をしゃべるべきではない。ましてや首相は,日本国の元首だから,たとえペラペラであっても,外国語を使うことは許されない。それなのに,安倍首相は嬉々としてカタカナ英語でプレゼンを行った。国家元首失格である。(注: 天皇は「象徴」,首相は「元首」)

6.外国語での国家公約の危険性
私には英語はほとんど分からないが,安倍首相の英語は発音がぎこちなく,いかにも不自然だ。おそらく英米やフィリピンなどの小学生レベル以下であろう。そんな英語で,安倍首相はIOC総会において日本国民を代表しプレゼンをした。He said―

Some may have concerns about Fukushima. Let me assure you, the situation is under control. It has never done and will never do any damage to Tokyo.

なぜ,こんなトンデモナイことを? むろん,英語を知らないからだ。

世界周知のように,福島原発事故は東京にも被害を及ぼしたし,放射性物質はいまなおじゃじゃ漏れ,止めるめども立たない。その原発について安倍首相は”under control”と,国際社会の公の場で,日本国元首として,公言した。これは日本語ではなく,英語。解釈は,当然,英語ないし欧米語文脈で行われる。

この欧米語文脈では,公式の場での政治家のウソは,絶対に許されない。建前かもしれないが,建前を本音より重視するのが,欧米政治文化。英語を知らない安倍首相は,その欧米語文脈を意識することすら出来ず,子供のように無邪気に,カタカナ英語を日本語文脈で使った。その落とし前は,いかに大きなものになるにせよ,結局は日本人自身がつけなければならない。

7.英語帝国主義にひれ伏す
英語帝国主義は,何百年にもわたる壮大な世界戦略であり,オリンピック興行権など,はした金,それで日本国首相に公式の場で英語を使わせることができるのなら,こんな安上がりの買い物はない。

安倍首相は,日本語=日本文化を売り渡し,英語文化圏の土俵に乗り,オリンピック興行権を買った。長期的に見ると,皇室の政治利用よりも,こちらの方が深刻かもしれない。

安倍首相のカタカナ英語のおかげで,日本語が二流言語であることが,国際的に公認された。日本語は,国際言語カースト制の中に下位言語(被支配言語)として組み込まれた。もはやここから逃げ出すことは出来ないであろう。

130913b ■揶揄される日本国元首発言(Canard Enchaine / Reuters, Sep.12)

[参照1]
高円宮妃プレゼン
高円宮妃久子さま IOC総会で復興支援に感謝の言葉(ANN News13/09/08)
宮内庁,新聞各紙はすべて日本語訳。一流言語たる仏語・英語オリジナルは下々には隠されている。
安倍首相プレゼン
Mister President, distinguished members of the IOC…
  It would be a tremendous honour for us to host the Games in 2020 in Tokyo ? one of the safest cities in the world, now… and in 2020.
  Some may have concerns about Fukushima. Let me assure you,the situation is under control. It has never done and will never do any damage to Tokyo. I can also say that, from a new stadium that will look like no other to confirmed financing, Tokyo 2020 will offer guaranteed delivery.
  I am here today with a message that is even more important. We in Japan are true believers in the Olympic Movement. I, myself, am just one example.
  When I entered college in 1973, I began practicing archery. Can you guess why? The year before, in Munich, archery returned as an Olympic event after a long time.
  My love of the Olympic Games was already well-established. When I close my eyes vivid scenes from the Opening Ceremony in Tokyo in 1964 come back to me. Several thousand doves, all set free at once. High up in the deep blue sky, five jet planes making the Olympic rings. All amazing to me, only 10 years old.
  We in Japan learned that sports connect the world. And sports give an equal chance to everyone. The Olympic spirit also taught us that legacy is not just about buildings, not even about national projects. It is about global vision and investment in people.
  So, the very next year, Japan made a volunteer organization and began spreading the message of sports far and wide. Young Japanese, as many as three thousand, have worked as sports instructors in over 80 countries to date. And they have touched the hearts of well over a million people through their work.
  Distinguished members of the IOC, I say that choosing Tokyo 2020 means choosing a new, powerful booster for the Olympic Movement.
    Under our new plan, “Sport for Tomorrow,” young Japanese will go out into the world in even larger numbers. They will help build schools, bring in equipment, and create sports education programs. And by the time the Olympic torch reaches Tokyo in 2020, they will bring the joy of sports directly to ten million people in over one hundred countries.
  Choose Tokyo today and you choose a nation that is a passionate,proud, and a strong believer in the Olympic Movement. And which strongly desires to work together with the IOC in order to make the world a better place through the power of sport.
  We are ready to work with you. Thank you very much.
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[参照2]
皇室と五輪招致 なし崩しのIOC総会出席 記者有論 社会部・北野隆一 (朝日新聞,2013年9月25日)
 16年夏季五輪開催地を決める09年IOC総会への皇太子さまの出席が求められた際、宮内庁は「招致運動は政治的要素が強く、(出席は)難しい」と慎重姿勢を貫いた。・・・・
 今回、安倍政権の強い意向に押し切られ、宮内庁の対応はずるずると後退した。当初「久子さまはIOC総会に出ない」としていたが、一転、出席。「招致活動と切り離すため、スピーチ後は降壇する」はずだったが、結局最後まで壇上にとどまった。
 招致競争に勝ったから結果オーライではない。安倍政権は今回、既成事実を積み重ね、なし崩し的な手法で皇族を担ぎ出したように見えた。皇室の守ってきた原則を曲げさせ、相当な覚悟を負わせたことになるのではないか。
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谷川昌幸(C)