ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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連邦制,希望から失望へ(4)

3.連邦制はインド押し付け
連邦制はインドの押し付けだとする説は,左右を問わずナショナリストに共通する見方である。たとえば,チトラ・B・KC元副首相(人民戦線議長)は,新聞インタビューにおいて,こう語っている。
 ▼”Federalism in Mepal an Indian design: Ex DPM KC,” Republica, 16 Dec. 2016.

ネパール経済は連邦制の重荷に耐えきれない。「連邦制はネパールのガンだ。」にもかかわらず,「政府は,インドの要求に沿うため,[連邦制に関する]憲法改正案を議会に提出した。これは,解決にならないどころか,逆に,事態をさらに紛糾させただけだった。」

「インドは,タライ‐マデシュ地方をネパールから分離しインドに併合することを目論み,連邦制をネパールに押し付けてきたのである。」

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/12/30 at 17:21

トランプ勝利とネパール

ドナルド・トランプの米大統領選勝利に,ネパールも当惑している。

当初,ネパールでも,まさかトランプが当選するとは思われていなかったらしく,記事には落選を見越したような,辛辣なものが多かった。たとえば,PRATYUSH NATH UPRETI, “Trumps of Nepal: Every country has political leaders like Donald Trump and Nepal is no exception” (Kathmandu Post, Sep 18, 2016)。ここで「ネパールのトランプ」とされているのは,まず第一に,大口をたたき,先の選挙の結果を受け入れようとはしないプラチャンダ首相(マオイスト)。トランプは,プラチャンダ首相から学んでいるかのようだという。次は,KP・オリ前首相(UML)。大衆迎合スローガンを乱発し,ナショナリズムをあおった。そして第三に,カマル・タパ(RPP-N)。君主制やヒンドゥー教国家を唱えるオポチュニストであり,RPP議長ですら“タパはネパールのトランプだ”と揶揄しているそうだ。

ところが,トランプが勝利すると,ネパール・メディアは,一転,真剣にネパールへの悪影響を心配し始めた。最大の関心事は,対ネ関与の後退,特に開発援助の削減。次は,海外出稼ぎが難しくなるのではないかということ。また,移民や難民の受け入れ規制も心配されている。

たしかに,トランプの内向きナショナリズムにより,ネパールのような米国にとって重要とは言えない国への関与が低下することは,十分に考えられる。たとえば,John Narayan Parajuli, “What would Trump presidency mean for Nepal?: Limited engagement with countries like Nepal may be fallout of an inward-looking America under Trump”(Kathmandu Post, Nov 10, 2016)によれば,昨年6月に右派政権が成立したデンマークでは,対外関係予算が削減され,在ネ大使館も2017年までに閉鎖されることになったという。これまでネパールに深く関与してきたデンマークが大使館を閉鎖するとはにわかには信じられない事態だが,大使館HPを見ると,事実であった(下記参照)。ネパールは,トランプ勝利により,この流れが加速されるのではないかと恐れているのである。

[参照]デンマーク大使館閉鎖のお知らせ(同大使館HP)
 ・対ネ開発援助は,削減(phase out)していく。
 ・デンマーク大使館も,数年以内に閉鎖する。

161118a 161118b■デンマーク大使館

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/11/18 at 17:40

ナショナリスト親中派オリ首相の辞任

オリ首相(UML)が7月24日,辞任した。オリ政権は,第2党のUMLと第3党のマオイストを主軸とする連立政権だったが,マオイストが政権離脱し,議会少数派に転落したため,不信任案採決の直前に自ら辞表を大統領に提出し,辞任したのである。2015年10月発足から9か月余の短期政権であった。

それでは,マオイストはなぜ連立を離脱し,オリ首相不信任に回ったのか? いくつか理由は考えられるが,最大の直接的理由は,おそらくUML・マオイスト「9項目合意」(5月5日)のオリ首相による実行が期待できなくなったことだろう。

「9項目合意」では,マオイストに当事者の多い人民戦争関係訴訟を終わらせることがうたわれ,またそれと同時に予算成立後のプラチャンダへの政権禅譲の密約もあったとされている。ところが,人民戦争期の加害者への免罪や不動産移転の追認には被害者の反対が強く,また政権禅譲密約も反故にされそうな雲行きであった。そこでプラチャンダは,オリ首相を見限り政権離脱,第1党のNCと組み,自ら内閣不信任案を議会に提出したのである。

むろん,それだけではない。オリ首相の政権運営については,強権的ナショナリズムとの批判が高まっていた。マデシの憲法改正要求闘争を力で抑え込み,政府批判のブログ投稿者やデモ「参加者(見学者?)」(いずれも外国人)を逮捕した。さらに著名な知識人カナク・デクジト氏も別件逮捕され,一時,生命の危機に陥りさえした。

このような強権的ナショナリズムは,人民戦争を経て獲得された諸民族・諸共同体参加の包摂民主主義を危うくするもの,かつての一元的中央集権国家へ後戻りするものとみられるようになった。

そして,ネパールでナショナリズムに傾けば,歴史が物語るように,地政学的力学により反インド・親中国となる。オリ首相も,ナショナリズムに傾けば傾くほど,反印となった。マデシの反政府闘争,特に国境封鎖闘争をインドが支援しているとみなし,インドの内政干渉を非難し,駐印大使の召還や,大統領訪印の直前中止さえ断行した。

これとは対照的に,中国との関係は一気に前進した。オリ首相の3月訪中の際の「共同声明」では,中国側は「2015年憲法」制定を歓迎し,
 ・石油類供給
 ・中ネ間道路・鉄道建設
 ・国境経済ゾーン開設
 ・治安機関強化支援
などを約束した。オリ首相は,インドに代わり得る交通交易路を確保したと,その対中外交の成果を誇示したのである。

中国側も,オリ首相を大っぴらに支援してきた。在ネ中国政府筋がネパールの有力者たちにオリ首相支持を働きかけたし,中国系メディアもオリ首相を称える記事をつぎつぎと掲載した。たとえば,辞任後の記事ではあるが,インドのBusiness Standard(29 Jul)は中国のGlobal Timesが次のように伝えた,と報道している。

オリ首相は,「1990年代以降,最大のネパール首相」であった。「ネパールは,近代国家になった1956年以降,インドに全面的に依存してきたが,オリ首相はこの依存をほぼ完全に打破した。」「国境封鎖すれば,ネパールは窒息しすぐ降参するとインドは信じてきたが,オリ首相はこの状況を覆したのである。」

インドが,こうした親中派オリ政権を快く思わず,さまざまな形でNCやマオイストに働きかけ,親印派政権に置き換えようとしてきたことは,まず間違いないであろう。

次のNC=マオイスト連立政権の首相と目されているプラチャンダも,最大の懸案であるマデシ問題について,憲法を改正し,マデシ(とインド)の要求に応えたいと語っている。プラチャンダは,中国とのこれまでの約束を守り友好関係を促進するとも語っているが,次のプラチャンダ政権が対中印関係をこれまでよりインド寄りに修正する,と見るのが一般的である。

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 ■オリ前首相(UML:HP)/プラチャンダCPN-MC議長(同党HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/07/31 at 19:53

平静に見えるオーストリア

6月末~7月初旬,ウィーンやザルツブルクなどを見てきたが,少なくとも外から見る限りオーストリアは平静であった。

オーストリアでは,5月に大統領選挙があり,リベラル系無所属(「緑の党」元党首)のアレクサンダー・デア・ベレン候補が,僅差で,極右「自由党」のノベルト・ホーファー候補に勝利した。不在者投票分でのギリギリ逆転勝利,文字通りの辛勝であった。

ところが,この開票結果に自由党が異議を唱え,憲法裁判所に選挙無効を訴えた。憲法裁判所は,この訴えを受理し,審理の結果,7月1日,不在者投票開票方法などが違法だったとして選挙無効の判決を下した。再選挙は,9~10月の予定。

このオーストリア大統領選挙は,全世界,特に欧州で,成り行きが注目されてきた。自由党は極右ナショナリスト政党。難民・移民受け入れに反対し,EU離脱を訴え,とくに男性,ブルーカラー労働者,農村部に支持を拡大してきた。その自由党が勝利すれば大変なことになる。注目され,心配されるのは当然だ。

こうした状況だから,オーストリアはいま騒然としているだろうと思っていたら,実際には,街も村も表面的には何事もないかのように平静。人々はコンサートに出かけ,高原や湖畔では早やバカンスを楽しんでいた。

これは,まったくもって不思議,不可解。バカンス明けの再選挙はいったいどうなるのだろう?

▼議会議場(上院/下院)
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▼落書き(ハイドンハウス付近)
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[参照]
*「オーストリア大統領選、やり直し 極右の伸び焦点」日経,2016/7/1
*稲木せつ子「オーストリアの大統領選は「史上初」だらけだ 憲法裁判所が選挙のやり直しを命令」東洋経済オンライン,2016年07月06日
*「オーストリア大統領選で違法行為、憲法裁がやり直し命令」朝日新聞,2016年7月1日

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/07/22 at 04:54

印英共同声明のネパール憲法言及,ネ政府抗議

訪英したインドのモディ首相が11月12日,キャメロン首相と会談し,共同声明を出したが,その中にネパール憲法への言及があったため,ネパール政府が強く反発,外務省が抗議声明を出した。
 * 新華社配信。”Nepal objects to India-Britain joint statement,” Nepal National, 16 Nov.; “Nepal responds to UK-India joint statement,” globaltimes.cn,16 Nov.

1.印英共同声明の関係部分
「両国[印英]首相は,ネパールが残された諸問題を解決し,政治的安定と経済成長を推進できるような,永続的にして包摂的な憲法をつくることの重要性を強調した。」

2.ネパール外務省の公式発表[要旨]
「ネパールは,約8年間の厳しい民主化努力ののち,選挙により成立した制憲議会において新しい民主的にして包摂的な憲法を公布することができた。」

「ネパールは,平和・安定・繁栄のために国際社会が提供してくれた支援と善意に敬意を表する。しかしながら,憲法制定は一国の国内問題であり,ネパールは,その国内問題にネパール自身で対処できる,と強く認識している。」

3.ネパール外務省筋の抗議
この件について,ネパール外務省筋は,新華社の取材に次のように述べた。

「ネパールは,主権国家として新憲法を採択したのであり,他のどの国であれ,この新憲法の内容について,あれこれ指示すべきではないと信じている。われわれの国内問題への,いかなる外国の外からの介入をも許容できない。」

4.ナショナリズムの高揚
ネパールでは,マデシ反憲法闘争の長期化とともに,憲法を制定した諸勢力の側のナショナリズムが高揚している。

たしかに憲法制定支援と称して自分たちの作りたい憲法をネパールに押し付けてきた西洋を中心とする国際社会の態度は,ネパールの自尊心を著しく傷つけるものであった。一外国人にすぎない私ですらいくども腹が立ったのだから,誇り高きネパール知識人の多くが不満と怒りを鬱積させてきたであろうことは,容易に想像がつく。

そうした不満と怒りが,いまナショナリズムの高揚という形で噴出し始めたのではないだろうか? もしそうだとすると,これは危険な兆候とみてよいであろう。

▼ネパール外務省HP
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 ■外務大臣はナショナリズムの旗手カマル・タパ(写真右)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/17 at 03:54

マデシ問題解決なくして供給再開なし:印大使

ライ駐ネ印大使が11月10日,カトマンズ記者クラブにおいて,ネパール政府の封鎖解除要請を一蹴した(Republica, 11 Nov)。

オリ内閣は11月9日,インド政府に物資供給を要請する特別決議を採択した(決議原文未見)。ネパール政府の正式の公式要請。ところが,ライ大使は,そのような要請は聞いていないとして,「ネパール政府と反政府諸党とが合意に達するまで危機は続く」と断言した。

ライ大使によれば,ビルガンジ経由はマデシ問題が解決しなければ再開できないし,また他の経路に迂回させることも非現実的だ。

大使「ネパールの主要消費地に向け十分な燃料を供給できるのは,ラクサウル[ビルガンジ]基地からだ。少なくとも80~85%の燃料は,ラクサウル基地から供給される。・・・・ラクサウル基地からの供給がとまれば,ネパールは自ずと厳しい物資不足に陥るであろう。」

大使「反政府諸政党との対話を通して問題を解決する以外に,解決策はない。」

 151105a■在ネ印大使館HP

ここでライ大使のいうマデシ問題の解決とは,要するに,マデシの要求に沿う憲法改正である。直接引用ではないが,上掲リパブリカ紙は大使の説明をこうまとめている。

「ライ大使はこう述べた。インド側は,ネパールの主要政党に対し,すべての社会諸集団が一つの国民としての憲章をもつことができたと確信できるような,そのような憲法をつくるよう一貫して提案してきた。」

この記事が正しいなら,インド側は,オリ内閣の物資供給要請特別決議を無視し,高飛車に憲法改正を要求していることになる。明白な内政干渉。このインドの宗主国的対応に,ネパールの左右ナショナリスト連立政権は,どう対処するのか?

さらに中国に傾斜するのか? すでに吉隆には大量のネパール向け物資が集積されつつあるそうだ。ラスワガディ経由でリンゴは入ってきたそうだが,石油等の他の生活必需物資の本格供給はいつ始まるのだろう?

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 ■「インド石油」ラクサウル基地と「ネパール石油」アレムクガンジ基地(Google)。両基地間パイプライン印ネ協定締結済。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/11 at 17:59

オリ首相の危険なナショナリズム

オリ政権は,UML,UCPN,RPP-Nのナショナリスト3党を基盤としており,もともと対外強硬路線に向かいがちだ。

エースはなんといっても,カマル・タパ副首相兼外相。いち早くニューデリーに乗り込み,モディ首相に直談判したし,11月2日にはジュネーブのUNHRC会議でインドの対ネ非公式経済封鎖を非難した。しかし,彼はもともと王制派ナショナリストなので,そうした発言は予想されたことであったし,また保守主義者なので発言には良識的抑制が利いていた。

これに対し,オリ首相(UML)のナショナリズムは民主主義的で,よりストレート,あるいは報道が事実とするなら,かなり荒っぽく,それだけに,より危険である。オリ首相は11月6日,「ネパール記者連盟(FNJ)」と「ネパール・タルン・ダル(NC青年組織)」のメンバーと相次いで会い,次のように語ったと報道されている。

 151108■オリ首相(内閣府HP)

「ネパール新憲法はネパール人がネパール人のために制定公布したのであり,他の誰への加害も意図したものではない。」また「われわれは隣国インドに対し何ら悪意を持っていないし,その利益を害しようとも思っていない。」(Himalayan, 1 Nov)

ところが,インドはネパールに対し意図的に経済封鎖をし,ネパールを「非人道的に扱っている」。インド政府は,腐った魚や野菜を送りつけ,封鎖をしていないことを証明しようとしたが,ガスは供給しない。戦時中であっても,食料などは人道的観点から輸送されるのに,いまはそうではない。インドの対ネ封鎖は,「戦争より非人間的」だ。(Himalayan & Republica, 6 Nov)

またインドは,ジュネーブのUNHRC会議において,人民戦争期の人権問題を蒸し返した。「少し前,隣国指導者の一人が,インドはネパールに対しその気概を示すだろう,と公に警告した。・・・・いま,彼らは10年も前の問題を掘り出してきた。」たしかに「われわれは,過去に戦争の苦難に直面したが,いつまでも戦争を続けることはできない,と思い知った。そこで,われわれは平和プロセスを開始したのだ。」「以前は戦っていた諸党が,いまでは一緒になり,与党,野党にかかわりなく,民主的・平和的な改革を押し進めている。」(Zee News, 6 Nov)

「隣国がわれわれの目を覚ましてくれた。私は,わが国の独立,尊厳,国民的統一を堅持し,この国を今の危機から救い出す努力を惜しまない。」(Republica, 6 Nov)

このように述べたうえで,オリ首相は,国民とメディアに二つの要請をする。

インドの対ネ経済封鎖は,「別の道を求めるチャンス」でもある。政府はトロリーバス復活を考えるし,国民は電気自動車や電気ヒーターを買い使ってほしい。[一日十数時間停電では?]

また,メディアは,国家の統一,主権,独立を損なうような記事を書くべきではない。自由はアナーキーではない。しかるに,このところ,表現の自由を名目に,国家を脅かすような活動が目に付く。この国は国民的統一を必要としているのであり,国民とメディアには成熟した責任ある態度が求められている。

オリ首相は,以上のようなことを語ったと,ネパールとインドのメディアは報道している。もしこれらの報道が事実から大きく外れていないのなら,オリ首相は,カマル・タパ副首相以上に強硬なナショナリストということになる。

 151108a■UML第9回党大会(同党HP)

もともとネパール新憲法は,きわめて国民主義的,愛国主義的である。第5条は「国益」を定めており,「国益」侵害は連邦法により処罰される。ネパール国民の独立,主権,領土的統一,国民性,尊厳などは,「国益」として法の処罰をもって守られる。したがって,オリ首相の「国益」を理由とした報道自粛要請も,単なるお願いではなく,法的な根拠があるわけだ。

ナショナリズムは,民主的であればあるほど,危険だ。11月7日には,プラチャンダUCPN議長が,ブトワルでの記者会見で,「もしインドがわれわれを支配しようとするなら,そのような抑圧とはいつでも戦う覚悟をすべきだ」と檄を飛ばした(Kathmandu Post, 7 Nov)。UMLもUCPNも,いずれ劣らず強硬な民主主義的ナショナリストだ。

これは危ない。愛国心をあおられ,激高した人々が,不測の事態を引き起こさなければよいが。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/08 at 08:39