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バブラム・バタライ,マデシ理由に離党し議員辞職
バブラム・バタライ氏(首相:2011-13)が,9月26日午後の記者会見でUCPN-M離党と議員辞職を発表した。
バタライ氏は,制憲議会設置の「憲法に関する政治的対話と合意形成委員会(CPDCC)」委員長として新憲法起草に努力したが,20日公布の新憲法には,彼が求めてきた社会諸集団の包摂は十分には実現されず,タライは反政府闘争激化で危機に陥ってしまった。それゆえ,人民の期待を裏切った党を離れ,議員も辞め,タライと連帯する,ということであろう。
バタライ氏は,新憲法の採決・公布の頃から,反憲法闘争に向かうマデシ諸党への支持を公言し始め,24日の記者発表では,タライの人々のため,彼らの要求の実現に努力する,と宣言した。そして,ついには26日の離党,議員辞職となったのである。
たしかに,バタライ氏がプラチャンダ議長と協力して設立したマオイストの基本理念は被差別社会諸集団の国家社会への包摂であり,10年に及ぶ人民戦争もその実現のために戦われたといっても過言ではない。ところが,バタライ氏からすれば,NC,UMLばかりかUCPN-Mまでもが,人民の期待を裏切り,非包摂的な新憲法を強引に制定・公布してしまった。だから,彼としては,もはや党も議会も離れ,マデシと連帯し包摂参加実現のために努力せざるをえない,と結論するにいたったのであろう。
が,マデシの背後には,いまはインドがいる。マデシ連帯には,党への裏切りばかりか,売国の罵声も,当然予想される。しかし,それでもインドが本気なら,マデシ側の勝利は間違いない,そうバタライ氏は腹をくくり,政治家としての勝負に打って出たのではないだろうか。
[参照]
*1 “Bhattarai quits UCPN (Maoist),” Kathmandu Post, Sep 26, 2015
*2 “Bhattarai quits Maoist party,” Nepali Times, September 26th,2015
*3 “Buburam Bhattarai severs ties with UCPN-Maoist, resigns from Parliament,” The Himalayan Times, September 26, 2015
*4 “Bhattarai expresses solidarity with demands of Madhesi parties,” Kathmandu Post, Sep 24, 2015
*5 “India and Nepal: A constitutional crisis?,” Indian Express, September 24, 2015
*6 “Why India is concerned about Nepal’s constitution,” BBC News,22 September 2015
谷川昌幸(C)
震源地ゴルカの被害状況
ゴルカは震源地であり,前述のように,村や町の被害が心配されている。ゴルカ出身のバブラム・バタライ元首相(マオイスト)がヘリで緊急視察したところ,全壊に近い村もあるようだ。
ネパールの村々は,急峻な山腹にへばりつくように点在したり,ナイフの刃先のような狭い稜線上に位置するものが多く,素人目にも,揺れや地滑りには極めて弱そうだ。。
それらの村々への道路も,山腹を切り開いただけの山道が多く,各所で不通となっていると思われる。ヘリなどの支援はできないのだろうか?
▼ゴルカ(2009年3月)
[参照]ゴルカ関連記事
ゴルカの落差と格差:美少女の不幸
血みどろのゴルカ王宮
[追加]ゴルカ郡だけで,死者375人,不明多数(Republica, 28 Apr)。
谷川昌幸(C)
憲法骨格案提出,またまたまた延期
「憲法に関する政治的対話と合意形成委員会(CPDCC)」(バブラム・バタライ議長)の憲法骨格案提出期限が,またまたまた延期され,11月1日となった。3度目の正直,今度こそ本当に本当の「最後」だそうだ。
また,バブラムCPDCC議長の強い要請で10月21~22日に開催された,豪華ゴカルナ・リゾート3党幹部合宿会議でも合意は得られず,こちらもティハール開けの26~27日に再度会議をもつことになった。憲法より祭が大切。
[ゴカルナ合宿会議出席]
NC: デウバ,ポウデル,シタウラ
UML: オーリ,MK.ネパール,イシュワル・ポカレル
UCPN-M: プラチャンダ,バブラム・バタライ
■ゴカルナ・リゾート(同HP)
与野党の対立は,憲法(国家構造)の基本部分に関わっている。この点については,すでに何回も述べたので,それらを参照されたい。
ネバン制憲議会議長は,バブラムCPDCC議長に対し,11月2日の議会に,憲法制定に関する合意項目と不合意項目の一覧を提出せよ,と命令した。1日がCPDCC答申の「最後」の期限だから,制憲議会議長がそう命令するのは当然だが,さて,それでどうなるのか?
NC,UML,RPP-N,RPP,RJなどは,投票決着を主張している。これに対し,マオイストとマデシ系諸党派は,投票決着には絶対反対,「12項目合意(2005)」に従い,あくまでも合意による憲法制定を目指せ,と強硬に要求している。
憲法(国家構造)への合意形成も,投票決着もできない。こんなとき,民主主義はどうするのか? 民主的憲法は民主的には制定できないのか?
谷川昌幸(C)
憲法骨格案も課題一覧も作成できず,CPDCC
「憲法に関する政治的対話と合意形成委員会(CPDCC)」(バブラム・バタライ議長=UCPN)は,憲法骨格案を10月16日までに,それができない場合は,投票用課題一覧を17日までに,制憲議会に提出することになっていたが,なんと驚くなかれ,バブラムCPDCC議長は,そのいずれもしなかった,いやできなかった。ネパールでは,紛糾すればするほど,合意形成機関の名前が長~くなり,合意形成期間も長~くなる。(参照:憲法基本合意,また延期)
バブラムCPDCC議長は,議会への答申の代わりに,最後の「最後の話し合い」を求め,その結果,今日10月21日と明日22日に,それが行われることになった。コイララ首相と主要3党代表の出席が要請されている。
一方,制憲議会「憲法起草委員会」のクリシュナ・シタウラ議長(NC)は,憲法起草には最低1か月はかかるので,憲法骨格案の答申が11月1日までになければ,1月22日の憲法制定・公布には間に合わない,と警告している。
10月21~22日の最後の「最後の話し合い」がどうなるか予断を許さないが,現在のところ,CPDCC答申が11月1日までまたまた延期される可能性が高い。
それでも答申がない場合はどうするか? NCとUMLは,連邦制,政府形態,司法,選挙制度など,意見の分かれる部分については議会での投票採決を主張している。議会多数を制しているから,当然といえよう。
これに対し,マオイスト(UCPN-M)を中心とする22党連合は,「12項目合意(2005)」などを引き合いに出し猛反対,投票に持ち込めば,街頭に出て実力阻止を図る構えだ。
この点については,すでに指摘したように,合意形成も投票採決も実際には困難な状況だ。(参照:憲法基本合意,また延期)
そこで再び注目され始めたのが,10月8日復活した立憲政府の上の政治的「政府」たる「高次政治委員会(HLPC)」(プラチャンダ議長=UCPN)。議会内の正規手続きでは決着をみなければ,結局,議会外の主要諸勢力の手打ちで政治的打開を図る。豪傑プラチャンダならやれそうな気もするが,たとえ成功しても,それは一時的で,民族アイデンティティ政治をいつまでも封じ込めるのは無理だろう。
結局,憲法制定・公布をまたまた延期し現状維持を策すのが,最も現実的な解決策ということになりかねない。厄介なことだ。
* Cf. Kathmandu Post & Nepalnews.com,19 Oct; Ekantipur & Republica,20 Oct.
谷川昌幸(C)
憲法基本合意,また延期
新憲法の基本合意案作成がまた延期され,2015年1月22日までに新憲法を制定・公布する,というコイララ内閣の公約の実行が微妙となってきた。
現在の議会(第二次制憲議会)は,与党がコングレス党(NC),統一共産党(CPN-UML),共産党ML,国民民主党(RPP)など,野党はマオイスト(UCPN-M)を中心とする22党連合など。議席数は,昨年11月総選挙でマオイストが大敗したため,与党が2/3以上を占めているが,新憲法を議会多数決で採択することは実際には難しい。
人民戦争停戦やそれ以降の多くの文書において,新体制はマオイストを含む諸勢力の「合意(コンセンサス)」に基づき構築するということが,繰り返し確認されている。また,現実問題としても,もし与党が一方的に多数決で新憲法を採択すれば,マオイストなどを再び反政府実力闘争に追いやることになってしまう。「合意」重視の包摂民主主義の理念からしても,また現実政治の観点からも,多数決での新憲法採択は難しいと言わざるをえない。
そこで制憲議会は,新憲法の重要課題を審議し合意を形成するための特別委員会をいくつか設置した。それらのうち最も重要なのは,次の三委員会。
・「憲法起草委員会」【議会内】:議長=クリシュナ・プラサド・シタウラ(NC)
・「憲法に関する政治的対話と合意形成委員会(CPDCC)」【議会内】:議長=バブラム・バタライ(UCPN-M)
*Constitutional Political Dialogue and Consensus Committee (CPDCC),またはPDCC
・「高次政治委員会(HLPC)」【議会外】:議長=プラチャンダ(UCPN-M)
これら3委員会の相互関係はいま一つよく分からないが,ともあれ新憲法の基本構成に関する合意形成を委ねられたのが,バブラム・バタライが議長のCPDCCだ。
ところが,CPDCCでの議論は紛糾,期限までに合意形成ができず,答申提出が9月中旬,10月8日,そして次は10月16日と,2回にわたって延期された。
【主な対立点】
・連邦制
・政府形態
・司法制度
・選挙制度
これらは,いうまでもなく国家構造の基本の基本。それにもかかわらず,合意はいまだ形成されていない。事態はきわめて深刻だ。これに対し,ネバン制憲議会議長は,バブラムCPDCC議長に次のように命令した。
(1)10月16日までに,合意を形成し答申せよ。
(2)もし合意形成が出来なければ,10月17日までに,争点一覧を作成し提出せよ。
現状では,(1)は到底無理であり,(2)となる可能性が大だ。
この情況を見て,与党のNCやUMLは,合意できない部分については,制憲議会本会議において投票で決定せよ,と要求している。これに対し議会少数派の野党22党連合(マオイスト他)は,投票採決には絶対反対,あくまでも諸党合意による憲法制定を要求している。
3回目の期限まであと数日,事態は緊迫している。すでにマオイスト主導の22党連合は,街頭に出て,投票採決阻止闘争を繰り広げている。
この情況に対し,HLPCのプラチャンダ議長(マオイスト)はどう動くのであろうか? ここでまた再び,人民戦争の英雄プラチャンダが鍵を握ることになるかもしれない。注目されるところだ。
*Ekantipur,10&11 Oct; Republica,10 Oct;
谷川昌幸(C)
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