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制憲議会選挙2013(15):監視と選挙,銃と票
11月19日午前7時より制憲議会選挙の投票が始まった。キルティプルの丘の上は,治安がよい(と思われる)ので,投票所の見学に行った。
百聞は一見にしかず。これは「監視下の選挙」であり「銃下の投票」だ。何かが決定的に欠如している。
(1)監視下の選挙
キルティプルの丘の上はカトマンズ近郊で治安もよいせいか,監視団天国。いたるところにいる。威厳を誇示しているのは,いうまでもなく国連とカーターセンター。そもそも使用車両が別格。頑丈な高級車で乗り付け,別格を思い知らせ,上から目線で監視し,無知な地元住民に民主主義のイロハをしつける。
選挙のための監視か,監視のための選挙か? いずれかであろうが,いずれにせよ,決定的に大切なものが欠けている。
■(左上から順に)バグバイラブ投票所前/党事務所前で支持者投票確認(マビ・プク)/インドラヤニ小学校投票所に向かう人々/インドラヤニ小学校投票所/同左/同左/UNDPとカーターセンターの車(チトゥ投票所前)/EU選挙監視団(インドラヤニ小学校前)/人権委員会と選挙監視団の車(キルティプル中学校投票所前)/選挙監視団(チトゥ投票所)
(2)銃下の投票
修辞ではなく,即物的に文字通り,銃と票が隣り合わせ。「投票か銃弾か(Ballot or Bullet)」ではなく――
Ballot and Bullet! 投票と銃弾!
小銃を構えた兵士が,投票用紙記入台と投票箱の間に立ち警戒している光景は,まさしく異様。こんなものは選挙ではない。選挙・投票以前に,決定的に必要な何かが,ここには欠如している。
■選挙監視員・投票箱・小銃武装警備兵・投票用紙記入台(インドラヤニ小学校)
(3)独立自尊の精神
ネパールの選挙に決定的に欠けているのは,福沢諭吉の言葉を借りるなら,「独立自尊」である。外国に監視され,銃で脅され投票する人々に,そんなものはありえない。『学問のすすめ』(1872-76年)において,福沢はこう述べている。
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一身独立して一国独立すること
第一条 独立の気力なき者は国を思うこと深切ならず。
独立とは自分にて自分の身を支配し他によりすがる心なきを言う。
第二条 内に居て独立の地位を得ざる者は、外にありて外国人に接するときもまた独立の権義を伸ぶること能わず。
独立の気力なき者は必ず人に依頼す、人に依頼する者は必ず人を恐る、人を恐るる者は必ず人に諛つらうものなり。常に人を恐れ人に諛う者はしだいにこれに慣れ、その面の皮、鉄のごとくなりて、恥ずべきを恥じず、論ずべきを論ぜず、人をさえ見ればただ腰を屈するのみ。いわゆる「習い、性となる」とはこのことにて、慣れたることは容易に改め難きものなり。
第三条 独立の気力なき者は人に依頼して悪事をなすことあり。
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現実主義の立場に立つならば,先進諸国による啓蒙専制ないし「自由への強制」も一概に否定はできない。慈父のようなパターナリズム(父権的支配)が,民主主義への離陸に必要な場合もあろう。
しかし,その可能性は認めるにしても,ネパールの選挙への違和感は解消しきれない。先進諸国の選挙支援は,本当にネパールのためなのか,それとも先進諸国の利益と必要のためなのか?
谷川昌幸(C)
邦人の「保護」から「安全」へ
自己責任,再々考
邦人援護:大使館のできること・できないこと
・ 事件、事故の被害に遭い、自助努力のみでは対応できず、かつ、緊急な対応を要する場合、当館は関係当局との連絡等を行う一方、親族に対し直接または外務省(邦人保護課、電話(代)03-3580-3311)を通じて、事件・事故の概要を通報すると共に、当地における事件・事故に関係する法律制度や手続き等について援助・助言をします。死亡事件・事故の場合には、御遺族に対し必要な援助を行うとともに、御遺族の意向に従って、御遺体を日本にお送りする手続きまたは適切な処置等について援助・助言を行います。
・宿泊費、入院・治療費、航空切符代、その他の個人的費用を立て替えること、またはその支払いを保証することはできません。
・民事上の、個人又は商業取引上の相談及びトラブルについてはお応えできません。
・旅行業者、航空会社、銀行、弁護士、探偵、警察または病院の業務や役割を担うことはできません。
・犯罪の捜査や被疑者の身柄拘束はできません。
・逮捕・拘禁された方の通訳または弁護士の費用、保釈費用、訴訟費用の支払いを行い、またその支払いの保証をすることはできません。
・遺失物の捜索はできません。
・入国許可、滞在許可や就労許可の取得を本人の代わりに行うことや、その便宜を図ることはできません。例えば、「移民局から入国を拒否されたので、入国が許可されるよう先方と掛け合って欲しい」との依頼にはお応えできません。 (在カナダ日本大使館HPより)
海外活動の自由と自己責任
こうした事件が起こると,政府の邦人保護責任と本人の自己責任の関係が必ず問題になる。イラク人質事件のとき,日本政府に邦人保護努力義務があるにせよ,原則は自己責任だ,と述べて囂々たる非難を受けた。しかし,私は今でもこの原則は正しいと思っている。
誘拐現場がイランなのに朝日新聞が「ネパール」と大書したのは,ネパール・ボランティアということの他に,ネパールが無謀海外旅行の玄関になっている,と見たからでもあろう。ネパールでは,ゾォーとするような話しを日本人旅行者からよく聞く。
しかし,これは冒険をするな,ということではない。冒険は若者の特権であり,危険を恐れるようでは若者ではなく若年寄りだ。青年よ,冒険をせよ。
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