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デウバNC党首を首相に選出,混乱とシラケの中で

ネパール連邦議会は6月6日,コングレス党(NC)のデウバ党首を第40代首相に選出した。首相就任4回目ということに加え,利権的政争と首相職たらい回しのシラケの中での首相選であり,報道も低調であった。
 *デウバ首相在任:1995-97, 2001-02, 2004-05, 2017-

1.首相職たらい回し
今回の首相選は,実質的には首相の椅子の与党間たらい回しであった。先述したように(プラチャンダ首相,TVで辞意表明),昨年8月,NCとマオイストが連立合意したとき,首相は地方選まではマオイスト(プラチャンダ党首),そのあとはNCと取り決めていた。プラチャンダ前首相は開き直り,今回の首相交代は“約束を守る政治の誠実な実行だ”などと自画自賛している。

しかし,この首相交代は,20年ぶりの地方選の前期(5月14日)と後期(当初予定6月14日)の間であり,いかにも時期が悪い。与党内の党利党略的首相職たらい回しと見られても仕方ない。

2.タライ地方の自治体増設問題
プラチャンダ内閣は,前期地方選後の5月22日,後期地方選が予定されているタライ地方に自治体(村と町)22を追加増設し,ビルガンジとビラトナガルを中核都市に,また24の「村」を「町」に格上げすることを決定した。

これに対し,野党のUMLは,前期地方選終了以後,後期地方選以前のこの時期に,このような行政区画の変更は許されないと猛反対。選管や地方自治体再編委員会も,このような急な変更は無理だと反対した。

この問題は最高裁に持ち込まれ,最高裁は5月26日,「地方自治体法」などに基づき,自治体増設閣議決定の差し止め命令を出した。いまのところ,後期地方選は最高裁命令に従い,当初の自治体数のまま実施される見込みだが,タライのマデシ系諸党がこれを受け入れ選挙が実施できるか否かは不明。

3.バラトプル再投票問題
一方,タライ地方のバラトプルでは,スキャンダラスな選挙妨害事件が起きた。報道によれば,バラトプル市長選にはプラチャンダ首相の娘のレヌ・ダハルさんが立候補しているが,開票では野党UMLのデビ・ギャワリ候補がリードしていた。

そうした状況で開票作業が進められていた5月28日深夜,マオイスト2党員が第19区開票所を襲撃し,開票中の投票用紙90枚を破り捨ててしまった。この事態を受け,選管は6月3日,第19区再投票を決めた。

これに対し,優勢に推移していたUMLは猛反発,開票続行を要求した。この争いも最高裁に持ち込まれ,最高裁は6月5日,第19区の選挙手続き停止を命令した。この問題がどう決着するかも,いまのところはっきりしない。

 ■バラトプル開票途中経過

4.デウバ首相選出
このように見てくると,いま首相選をやれる状況ではないが,野党は数に勝る与党に押され,結局は議会開会,新首相選出の取引に応じてしまった。主な与野党合意は次の通り:
 (1)後期地方選は6月28日実施
 (2)州選挙と連邦議会選挙は,期限内(2018年1月まで)に実施。
 (3)選挙不正調査委員会の設置
 *バラトプル第19区の扱いは不明

この合意に基づき6月6日,首相選が実施された。立候補はデウバNC党首のみ。
 賛成:388(NC, CPN-MC, RPP, RJPN[ネパール国民党]ほか)
 反対:170(UML, CPN-ML, 労農党など)

5.デウバ首相への冷めた評価
こうした状況で選出されたこともあって,デウバ首相については報道は地味であり,大きな期待の表明もあまり見られない。以下は,厳しい評価事例:

クンダ・デクシト
「デウバの4回目の首相選出は民主的な方法ではなく,よい前兆とはいえない。」(“Sher Bahadur Deuba elected new Nepal PM,” Times of India, Jun 7)
「デウバは,首相に任免されるたびに民主主義を危機に陥れてきた。」(Gopal Sharma, “Nepali Congress Leader Deuba Elected PM for Fourth Time,” Reuters, June 6)

プラシャント・ジャー(ツイッター,6月6日)
デウバは極西部出身で,NC学生組織を経て,民主化運動に献身。が,1990年までは勇敢に闘った他のNC幹部のほとんどと同様,民主化後のデウバの退化も早く大きかった。
「デウバは,1990年代の最悪の首相の一人であり,ネパール人民の期待は極めて低かった。」
「デリー[印政府]は,オリを排除しNCを政権復帰させるという目的が達成されたので喜んでいるが,デウバには何の期待もしてはいない。」
「結局,デウバは問題を深刻化させるだけだろう。ネパール国家は,カス・アーリアの不労エリート国家であり続けるだろう。」


 ■デウバ氏FB5月26日/首相公式ツイッター6月7日

谷川昌幸(C)

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2017/06/09 at 19:22

カテゴリー: 選挙, 政党

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内閣2ポストをRPPに,プラチャンダ首相

プラチャンダ首相が3月9日,RPP(国民民主党)に内閣2ポストを割り当てた。
 ・副首相,連邦問題・地方開発担当大臣=カマル・タパRPP議長
 ・文化観光交通担当大臣=ディルナト・ギリRPP院内幹事長

プラチャンダ首相は,5月14日地方選を予定通り実施するため,憲法改正を迫られており,そのための議会多数派工作の一環としてRPPを閣内に取り込んだのだ。

しかしながら,プラチャンダ首相のこの多数派工作が成功するかどうかは微妙だ。マデシ諸派の要求に近い形で憲法改正を図れば,王党派ナショナリストのRPPは政府支持をすぐ撤回するだろうし,また野党の共和派ナショナリストUMLも反政府運動をさらに強化するだろう。逆に,憲法改正を断念したりRPPやUMLの要求に近い形で改正を図れば,今度はマデシ諸派が反政府に回る。

憲法は,民主的に硬ければ硬いほど,政府は手を縛られ,二進も三進もいかなくなる。とりわけ国家再構築途上の途上国においては。ネパールの内閣は,包摂的多数派工作のため,いまや閣僚45人にまで巨大化した。副首相3人! それでも,改憲に必要な議会三分の二の確保はおぼつかないのだ。

■RPP・HPより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/03/14 at 19:31

地方選,実施準備指示

プラチャンダ内閣は2月2日,地方選挙を5月24日までに実施する方針を決め,選管に準備を指示した。実施されれば,20年ぶりの地方選となる。

たしかに,必要な選挙関係諸法のうち,政党要件を定める「政党法」を除く他の諸法はほぼすべて成立した。しかし,地方選挙を現行地方制度(旧憲法体制)でやるのか,それとも新しい連邦制体制でやるのかさえ,まだ決まっていない。州や町村の区画,とくに第2州については,いまなおマデシ諸勢力等の反対がつよく,確定していない。

そのため,選管が1月8日,地方選に出る政党は1月30日までに地方選管に政党登録をせよ,と公告したが,締め切りまでに登録したのは45政党のみであった。(中央選管登録は111政党。)

こうした状況で,プラチャンダ首相は,5月地方選実施を強行できるのであろうか?

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■憲法規定の州区画(Wikimedia Commons)/表彰される選管委員(選管HP)

*1 “Local polls by 24 May,” Nepali Times, Feb. 2, 2017
*2 Sangeet Sangroula, “Govt writes to EC for local poll preparations,” Republica, Feb. 3, 2017
*3 “EC now has 4 of 5 laws needed for local poll,” Republica, Feb. 3, 2017
*4 PRITHVI MAN SHRESTHA, “45 parties registered with EC for local elections,” Kathmandu Post, Feb 2, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/03 at 12:24

カテゴリー: 選挙, 議会

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地方選,5月実施?

ネパールの代議院議員任期は5年だが,経過規定(憲法296条)により現議員(立法議会議員)の任期は2074年マーグ月7日(2018年1月21日)まで。はや1年を切っている。したがって,代議院議員選挙の準備を急がなければならないが,それには,なによりもまず州,郡,町村の選挙を行い,正統な地方政府を構成しておくことが必要である。(上院の方は議員の大半が地方と州の長や議員から互選されることになっており,町村や州の正統な政府が成立していなければ,そもそも選出できない。)

これは,政治的にも実務(事務)的・経済的にも,たいへんな大事業である。へたをすると,国家そのものが選挙倒産しかねない。本当に,実施できるのだろうか?

準備は進められている。立法議会(連邦議会)は1月25日,「改正選管法」と「有権者登録法」を可決した。そして,地方(स्तनिय),州,連邦の3レベルの選挙を実施するに必要な他の法令や制度の準備も急いでいる。

しかし,州については,マデシ諸勢力が現行憲法付則の州区分に強硬に反対,議会ではこの部分の改正につき議論が続いている。州区画は,事実上まだ確定していないといっても過言ではない。この状態で,どのようにして州議会選挙を実施するのか?

地方レベルの村(गाउँ)や町(नगर)も,当然,どう区画するかをめぐり,タライを中心に,大混乱している。現在,地方自治体は町が217,村が3117あるという(CBS2002では町58,村3915)。「地方制度再編委員会(LLRC)」は1月6日,これらを719に再編・統合する答申書をプラチャンダ首相に提出した。

このLLRC答申は,地方自治体を「人口と地理」を基準に719に区分している。これに対し,タライ諸勢力は,「人口」を基準に区分すべきだと主張している。タライは人口が多い。タライは,答申では719自治体のうち30%しか配分されていないが,「人口」だけを基準にすれば,少なくとも45%は配分されることになる。これは,州区分争いと同じ構図だ。町村は生活に近いだけに,州区分以上に再編・統合は難しいだろう。(日本では平成大合併の後遺症がなおも継続中。)

 ▼1町村の区画基準人口(LLRC,2016年10月)
  地 域  村(ガウン) 町(ナガル)
  山 地 13,000    17,000
  丘 陵 22,000    31,000
  タライ 40,000    60,000

現状はこのような有様なのに,プラチャンダ首相は,必要な法令を成立させ,5月半ばまでに地方選挙を実施すると繰り返し明言している。自らの手で地方選挙を断行し,これをてこに,州議会選挙と連邦議会選挙を実施しマオイストを勝利に導きたいと考えているのだろう。

しかし,本当にプラチャンダはこれらの選挙を実施できるのであろうか? あるいは,かれ,または他党の誰かがこれらの選挙を実施するとして,それでネパールの財政はもつのであろうか? 

ネパールに設計主義的な選挙民主主義(選挙原理主義)を押し付けた国連や西洋諸国は,責任を免れない。必要なカネとヒトの支援を惜しむべきではあるまい。

170129■松本の姉妹都市カトマンズ(同市HPより)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/01/29 at 16:59

ゴビンダ医師との合意、ホゴをホゴに

プラチャンダ内閣は12月11日、ゴビンダ医師との合意のホゴをホゴにし、一転、政府として合意実行に当たることを閣議決定した。
 ・専門委員会をいくつか設置し、政府として合意実行に当たる。
 ・「医科教育法」成立まで、私立医科カレッジのTU提携認定は行わない。B&C医科カレッジのTU提携キャンセル。

ガガン・タパ保健大臣「政府は、ゴビンダ医師との合意の線に沿い作業を進める。」
 
*1 “Govt takes ownership of deals with Dr KC,” Kathmandu Post, Dec 12, 2016

(c)谷川

Written by Tanigawa

2016/12/13 at 20:18

カテゴリー: 社会, 教育

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ゴビンダ医師との合意ほご,プラチャンダ首相

プラチャンダ内閣が,ゴビンダ・KC医師に約束した医学教育改革の約束を,合意署名3日後に反故にした。政治家の約束,鴻毛の如し。

プラチャンダ内閣は,医療制度・医学教育改革を要求してハンスト(10回目)を続けていたゴビンダ医師に対し,要求に沿う改革への努力を約束し,ハンストを止めさせた。その合意の中でも最も重要な約束の一つが,「『国家医科教育法』成立まで,医科カレッジのTU提携(affiliation)を認可しない」というもの。(10回目ハンスト11月13日~12月4日。参照:ゴビンダ医師,ハンスト終了

ところが,報道によれば,プラチャンダ首相はゴビンダ医師との協議を進めながら,他方では教育省を通して「ネパール医学委員会(NMC)」に圧力をかけ,私立病院・医科カレッジのB&C Medical College Teaching Hospital and Research Centreのために,TU提携を認めさせようとしてきた。提携認定手続きは,ゴビンダ医師ハンスト中の11月24日頃から進められ,月末までにはNMCが予備調査をほぼ終了,12月2日にはB&CのMBBS(医科学士)教育適格性を認める報告書を教育省に提出した。もし教育省がこの報告書に基づきTU提携を認定すれば,B&Cはトリブバン大学医学部やカトマンズ大学との提携が可能となり,MBBS課程を開設できる。TU提携認定は,私立医科カレッジにとって決定的に重要な資格要件なのである。

B&Cは,2015年3月,マオイスト幹部の一人を中心とする私財25億ルピーの出資により,ジャパ郡ビルタモドに開設された。メチ・ゾーン最大の病院であり,700ベッド。開院式にはプラチャンダ議長が出席し,主賓として除幕をとり行った。他党有力者も出席していたが,設立の経緯を見れば,マオイスト系とみてよいだろう。そのB&CのTU提携認定を,マオイスト議長たるプラチャンダ首相が政治的圧力をかけ強引に押し進めようとしている。

ゴビンダ医師は,当然ながら,このB&CのTU提携認定に真っ向から反対し,ハンスト再開を考えている。もし再開されれば,11回目のハンストとなる。

161209a161209b(B&Cホームページより)

*1 “Govt flouts deal it reached with Dr KC,” Kathmandu Post, Dec 8, 2016
*2 “Govt breaches deal with Dr KC, allows affiliation to B & C College,” Republica, December 7, 2016
*3 “Govt forces NMC to issue letter to MoE,” Republica, December 7, 2016
*4 “700-bed hospital opens in Birtamod,” Kathmandu Post, Mar 2, 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/12/11 at 10:24

次期大使推薦予定,取り消し

プラチャンダ内閣は8月5日,オリ前内閣が発表していた次期大使候補22名のうち,「政治的」選考の14名の推薦を,議会ヒアリングの開始直前に取り消した(sojo.com, 5 Aug)。

外務省関係の8候補は,前日の4日に議会ヒヤリング終了,そのまま次期大使に任命される予定。電光石火,さすが,「プラチャンダ」だ。

推薦取り消し
Mahendra Bahadur Pandey, Dr Khadga Bahadur KC, Ali Akhatar Mikrani, Yubraj Karki, Yubnath Lamsal, Prof Dr Mahendra Prasad Singh Rajpoot, Padam Sundas, Dr Naradnath Bhardhwaj Wagle, Dr Shivamaya Tumbahamphe, Lucky Sherpa, Khagendra Basnyat, Barat Bahadur Rayamajhi, Niranjan Kumar Thapa and Sharmila Parajuli Dhakal
推薦予定
Prakash Subedi, Rishiram Ghimire, Ramesh Khanal, Jhabindra Prasad Aryal, Dr Durga Bahadur Subedi, Sewa Lamsal Adhikari, Tara Prasad Pokhrel and Lok Bahadur Thapa

オリ前首相は,プラチャンダ新内閣のこの決定について,議会ヒアリング直前の段階での次期大使推薦予定取り消しは党派対立を煽るものだ,と批判した(Republica, 5 Aug)。

大使選任は,どの国でもそうだが,特にネパールでは重大な政治マターだ。今回は,次期大使選任中の政権交代のため,「よもや」と思いつつも,やはりそうか,と妙な納得もした。やはり,ネパール政治は難しい。

【参照】新任大使アグレマン取得停止要請

160808

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/08/08 at 14:26