ネパール評論 Nepal Review

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マオイスト、平和大臣獲得

3月4日、マオイストが組閣に応じ、UML=マオイスト連立政権が発足した。真っ赤な共産主義政府の成立。

■マオイスト入閣者
 Krishna Bahadur Mahara(プラチャンダ派):副首相、情報通信大臣
 Top Bahadur Rayamajhi(バブラム派):国土建設大臣
 Barshaman Pun(プラチャンダ派):平和復興大臣
 Khadaga Bahadur Biswokarma(バイダ派):観光大臣

マオイスト内の左派―中間派―右派のバランスに配慮した人事だ。日本国民主党よりもうまい。

ここで注目すべきは、なんといっても、平和復興大臣(平和大臣)をマオイストが握ったこと。これで、人民解放軍(PLA)指揮権放棄のカケが、もくろみ通りマオイストにとっては吉と出た。さすがプラチャンダ議長、洞察力、決断力は抜群だ。

マオイストが平和大臣を手にしたことで、PLA統合がマオイスト・ペースで進行し、それを国軍が甘受すれば、平和プロセスは大きく前進する。

また、UML=マオイスト連立政権発足で、制憲議会において2/3多数派形成も可能となり、新憲法制定の見通しも立ってきた。さすがネパールの政治家はイザとなると凄い。日本の政治家たちは、ネパールに研修に行くべきだろう。

もちろん、このまま順調に新憲法制定まで行くかどうかはまだ分からない。じり貧のNCやRPPが、某国C**や某国R**などと謀り、何かを企むかもしれない。このままでは、赤色政府の中国接近は明白だから。

5月末、どうなるか、見学に行きたいものだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/03/05 at 22:19

マオイスト政権,5日以内に成立?

プラチャンダ党首が23日,5日以内にマオイスト政権が成立すると語った。人民解放軍(PLA)指揮権を放棄した見返りらしい。そんな取引があって不思議ではない。

ヒマラヤンタイムズ記事(1/24)からは発言の微妙なニュアンスは分からないが,プラチャンダ党首は「PLAはもはやCPN-Mの戦闘員ではない」という趣旨のことを語り,それをもってCPN-Mの民主性,平和指向の証とした。表面的には,PLA指揮権と引き替えに,首相職を手に入れる作戦といってよい。

ネパールのこと,裏があるのであろうが,今のところ,それは分からない。PLA戦闘員の多くにも分からないのではないか? 売られた,捨てられた,と感じる人も少なくないだろう。

すでにリパブリカ(1/24)は,PLA幹部たちにインタビューし,彼らの「屈辱的統合」には応じられない,という怒りの声を伝えている。

どうなるか? もう少しすれば,筋道が見えてくるだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/24 at 22:36

人民解放軍,政府引き渡し完了

1月22日,マオイスト人民解放軍(PLA)の指揮権がネパール政府に引き渡された。マオイストの勝利か全面降伏か? プラチャンダ党首はPLAを国軍に組み込ませたのか,それともPLAを国家に売り渡したのか?

国連=UNMINのどんでん返し大勝利か,それともマオイスト=NC=UMLの国益のための一時的共闘――国連のメンツを立て恩を売る――作戦なのか?

今のところ,何ともいえない。外交上手のネパールのこと,先進国や国連を手玉にとることくらい,朝飯前だろう。
ekantipur, 23 Jan

1.プラチャンダ演説
プラチャンダ党首とネパール首相による合意書署名により,22日からPLAは「監視・統合・復帰特別委員会」の指揮下に入った。そして,委員会は,当然,首相の指揮下にあるから,PLAの最高指揮権は首相に移ったといってもよい。これについて,プラチャンダ党首は式典において,こう述べている。

「今日から,すべてのマオイスト戦闘員は正式に特別委員会の指揮下に入った。」(AP,22 Jan)

「ネパールは,政治的移行の最終段階に入った。統合・復帰が完了するまで,この国は1国2軍隊にとどまる。われらが戦闘員の統合・復帰プロセスにより,強力な国家安全保障メカニズムをつくっていきたい。」(Himalayan Times, 22 Jan)

2.ネパール首相演説
ネパール首相もこう述べている。

「PLAはいまや国家の責任の下にある。」(ekantipur,22 Jan)

「これからは政府が監視・統合・復帰など,全責任を引き受ける。」(AP,22 Jan)

「つい先刻まで諸君はネパール共産党マオイストの活動家であったが,いまでは諸君は特別委員会の指揮下にある。」

「当然,諸君の任務も変化した。社会復帰希望者は政治活動に入ってもよいが,治安諸機関への統合希望者はどのような政党の党員であることも認められない。統合希望者は,非政治的・専門職的な独立の国家治安諸機関のメンバーとして献身することになる。宿営所にとどまる限り,諸君は特別委員会の決定と命令に従わなければならない。」(Himalayan Times,22 Jan)

3.プラチャンダ党首とネパール首相の偉業か?
この新聞報道から見る限り,つまり表向きは,ネパール首相の完全勝利であり,マオイストの全面降伏である。プラチャンダ党首は,PLA1万9千人を国家(NC=UML=国軍)に売り渡したことになる。

ネパールの歴史を見ると,急進派の指導者たちが,庶民の不満を代弁して反政府運動を展開し,その運動を通して自分たちの権勢を拡大し為政者たちにそれを認めさせると,一転して,獲得した既得権益を守るため,運動に参加してきた「人民」を見捨て,体制側に寝返るといった事例が少なくない。とくに共産主義運動は,そうした反体制エリートたちの人民裏切りの繰り返しであったといってよいだろう。

では,22日のPLA指揮権放棄は,どうか? これは難しい。プラチャンダ党首は,統合・復帰が完了するまでは,ネパールは1国2軍隊だ,といっている。また,「特別委員会」にはマオイストも最大政党として当然参加している。あるいは,マオイストが政権与党になれば,マオイスト党首が堂々とPLAと国軍の指揮権を行使し,国軍へのPLA浸透を図ることも出来るわけだ。

それゆえ,22日のPLA指揮権引き渡しの正確な評価は,現時点では,難しい。ただ,これまでの展開からみて,はじめに述べたように,PLA引き渡しは,国益のためのマオイスト=NC=UML共闘――国連・国際社会からカネを引き出すための共謀共闘――の可能性が高い,ということはいえるであろう。

もしそうなら,国連高官や,日本をのぞく諸外国大使を招いて賑々しく挙行された引き渡し式典が終了し,援助継続の約束さえとりつけてしまえば,また以前と同じような紛争状態に復帰してしまうことになる。

4.ノーベル平和賞?
もしこのPLA指揮権引き渡しが成功し,ネパールに平和が訪れるなら,プラチャンダ党首とネパール首相にノーベル平和賞が授与される可能性が出てくる。ネパールは国連平和構築のモデル国となるのだから。

しかしながら,諸般の状況を総合して考えると,コイララ翁ですらもらえなかったノーベル平和賞がネパールに来る可能性は,いまのところほとんどない,といわざるをえない。残念ではあるが。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/23 at 17:01

人民解放軍,政府へ引き渡し

明日1月22日,人民解放軍(PLA)の指揮権が首相に引き渡される。不覚なことに,そんな取り決めになっていたとは全く知らなかった。しかし,そんなスゴイことが,本当に出来るのだろうか?

リパブリカ(1月21日)によれば,22日チトワン・シャクティコール宿営所において引渡式典が挙行され,そこでプラチャンダ党首がPLA指揮権を首相(マオイスト戦闘員監視・統合・復帰特別委員会)に引き渡す文書に署名,マオイスト軍旗を首相に渡し,午前11時からPLAは首相指揮下にはいる。宿営所のマオイスト旗は降ろされ,ネパール国旗が掲げられる。

これはスゴイ! PLAのメンツも何もあったものではない。全面降伏ではないか。本当にこんなことが出来るのか?

式典には,来賓多数が出席する。政治家や高級官僚は国軍がお世話する。各国大使,国連官僚は,もちろんUNMINの豪華ヘリだ。きら星のごとき来賓のお歴々。PLA引き渡しの成功は間違いない。僭越ながら,私が保証してもよい。

で,ここで不思議なのが,招待されている各国大使たち――中国,デンマーク,仏,フィンランド,独,印,ノルウェー,露,スイス,英,米。あれ! 日本がいない。精鋭陸自隊員をUNMINに派遣しているのに,それはないよね! 一体全体,どうしたんでしょうね。

リパブリカ記事の間違いに違いない。よく早とちりする新聞だから。しかし,もしも,もしもですよ,リパブリカ記事が事実とすると,ネパールは日本を完全にバカにしていることになる。カネと人を出させて,敬意のひとかけらも示さない。お人好し,日本!

もちろん,日本政府が,平和主義の理念に立ち,軍事関係行事には大使を出席させることはできないとして招待を断ったのなら,わたしはその勇気ある決定を高く評価し,全面的支持をいささかも惜しむものではないが。

■追加(2011.1.22。写真はRepublicaより)
 記念式典の女性兵士

 チトワン宿営所。数年前,この中で大隊長インタビューをした。懐かしい。お元気だろうか。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/21 at 23:30

UNMIN代表、マオイストの使い走り

偉大なプラチャンダ議長が12月30日、カリン・ランドグレンUNMIN代表と会い、UNMIN延長について打診した(ekantipur,31Dec)。

ランドグレン代表の回答は伝えられていないが、マオイストはUNMINを2011年5月28日まで延長することを要請する書簡を書き、その写しをランドグレン代表に渡し、しかもその書簡正文をランドグレン代表に国連本部に持って行ってもらうことにしたというから、UNMIN延長についてはランドグレン代表も内諾を与えているのだろう。マオイストのUNMIN延長要請書簡は、1月5日開催の安保理で審議される予定。

状況はよく分からないが、政府側もUNMIN延長書簡をすでに出しているという。あれあれ、役立たずだから出て行け、と大見得を切ったのは誰だったかな?
 (注)政府のUNMIN延長書簡は誤報。ネパール首相は延長拒否書簡を送った(2011.1.5)。UNMIN延長拒否、ネパール首相

どうも、国連の方が分が悪い。いくら何でも国連には、アメリカが「テロリスト」リストに掲載しているマオイストと共闘を組むことはできまい。かといって、マオイスト要請を無視して撤退すれば、UNMIN失敗の無惨を世界にさらすことになる。これもできまい。

とすると、UNMINにかわる平和構築メカニズムをつくり、これに切り替えることになるのではないか。役人の得意技、看板の掛け替えである。

もしそうなった場合、われらが日本国陸上自衛隊中央即応集団派遣陸上自衛隊員諸氏の活動の評価と、その継承はどうなるのであろうか?
UNMIN代表と日本企業宣伝。戦争も平和もメシのタネ

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2010/12/31 at 23:37

プラチャンダ議長の国連ラブコール

マオイスト常任委員会が12月21日,UNMIN任期6ヶ月延長要請のラブレターを国連に送ることを決めた。また,こちらはいまいちはっきりしないが,どうやら制憲議会任期の延長も要求するらしい。

さすが,プラチャンダ議長は偉い。彼以上の政治家は,今のネパールには見あたらない。

プラチャンダ議長は,一方で,バイダ(キラン)派の「人民蜂起」オプションを容認しつつ(つまり保険を掛け),国連に接近し,しかも特権を失いたくない600名巨大議員団の歓心をくすぐる作戦に出ている。二重三重の必勝作戦。うまい。

国連は追い詰められている。マオイスト提案に乗りUNMIN延長,あるいは類似メカニズムによる継承を図れば,マオイスト=国連がNC=UML=RPPと対決するという構図になる。インドは怒るに決まっているし,「国連=マオイスト共闘」は西側メディアの好奇の目にさらされることになるだろう。

かといって,もしマオイスト要求を拒絶して撤退し,その結果,人民蜂起(人民戦争再開)となれば,国連介入失敗となり,国連のメンツ丸つぶれ,関係者の経歴に傷がつく。国連は,ネパール平和構築を失敗させるわけにはいかないのだ。

プラチャンダ議長はネアカであり,愛すべき人物だ。と同時に,現実を見据え,合理的に計算し,冷酷果敢に決断し行動できる本物の政治家でもある。もし彼がいなければ,ネパールはおそらく泥沼の内戦継続か,アナーキーか,さもなければ過酷な軍事独裁になっていたであろう。

国連もNC,UMLも,プラチャンダ議長に位負けしている。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2010/12/22 at 10:43

ムニ教授とプラチャンダ議長

印ネパール学の権威ムニ教授が訪ネし,プラチャンダ議長と会見した。各紙報道によれば,プラチャンダ議長は,インドをネパール人民の敵としているわけではないが,マオイストの政権復帰を妨害しているのはインドだ,と釘を刺したという。さすがプラチャンダ議長,そつのない対応だ。

一方,ムニ教授については,そのネパール論をいくつか読んだことはあるが,まったく記憶に残っていない。各紙が伝える彼の発言も,ほとんど無意味だ。なぜ各紙がこんな報道をするのだろうか?

それとも,ムニ教授には隠された使命があるのかもしれない。各紙報道からは,それはまったく読み取れないが。

【追加】(2010/12/03)
ekantipur(2010/12/02)がムニ教授の長いインタビュー記事を掲載している。「印ネパール学の泰斗」と紹介されているが,この長文のインタビューを読んでも,日本の商業新聞ネパール記事以上の情報も分析も得られない。

たしかに,何であれ,大切なものは隠されてある。特にネパールのような混沌とした状況では,ロイさんのように無手勝流,本音をさらけ出していては生き残れない。しかし,隠されていれば,それだけ知りたくもなる。ムニ教授にはきっと隠されたネパール分析があるはずだ。ネパール・メディアには,そこを取材し,伝えてほしい。

谷川昌幸

Written by Tanigawa

2010/11/30 at 20:56

プラチャンダの平和,なるか?

マオイスト拡大中央委員会(Plenum)は,今日27日閉会する。プラチャンダ議長の最終運動提案はまだ公表されていないが,2011年5月28日までに「人民連邦民主共和国憲法」が制定できなければ,人民蜂起による権力奪取を目指すというものになるようだ。
マオバディ・プレナム

ネパールは,6月30日のマダブクマール・ネパール首相の辞任表明以来,暫定政府の統治を続け,首相選挙は16回に及んでいるが,憲法起草実務は着々と進んでおり,原則さえ決定すれば,それに応じた条文を備えた新憲法がただちに公布施行できるはずである。ネパールの法実務家の能力はたいしたものだ。

しかし,肝心の憲法の原理原則が定まらない。この調子で首相選出ができず,2011年1月15日UNMIN撤退となれば,バイダ副議長の人民蜂起の目が出てくる。プラチャンダ議長もその可能性を認め,保険を掛けているので,人民戦争再開となるかもしれない。

もし人民戦争再開となれば,今度は,インドがもっと本格的に介入し,それに対抗して中国も北方からの進出(侵出)を図るだろう。大変なことになる。

プラチャンダ議長は,「人民民主主義憲法」を要求している。十分に過激な主張であり,NCやUMLに呑めるとは思えない。インドも認めない。難しい事態になるかもしれない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2010/11/27 at 19:18

国家より党優先のマオイスト

マオイスト第6回拡大中央委員会(Plenum)が11月21日,ゴルカのパルンタールではじまった。25日までの予定。
ゴルカ郡パルンタール付近

このプレナムには,全国から6千人が参加,その中にはカントンメント収容の人民解放軍戦闘員1400人も含まれている。あれあれ,これは「包括和平協定」「武器・軍管理監視協定」違反ではないかな?

22日には,バイダ副議長とバタライ副議長が運動方針案を読み上げた。各2時間。バイダ副議長は,人民蜂起で人民民主主義(人民独裁)を実現せよ,と檄を飛ばしたらしい。これに対し,バタライ副議長は,いやいやそれはまずい,まずマオイスト主導で新憲法を制定し平和を実現する努力を尽くすべきだ,もしそれが妨害され新憲法制定が困難になったら,そのとき人民蜂起に訴えるべきだ,と提案したという。

この左右両論を踏まえ,23日午前,プラチャンダ議長が,まあまあ,なあなあの折衷案を出し,ケンケンガクガクの議論を通して弁証法的統一を図る予定とのこと。唯物論的弁証法よりも,やはり本家ヘーゲルの精神的弁証法の方がマオイスト好みらしい。

これはマオイストの大会だから,それはそれでよいが,この拡大中央委員会のおかげで,世界新記録を更新中の首相選挙が棚上げとなり,MK・ネパール暫定首相は「世界虎保護会議」のためロシアに行ってしまった。次の第17回首相選挙は,12月16日(木)の予定。われらがポウデルNC議員団長は,もちろん立候補を継続する。えらい。

ここネパールでは,国家と党の関係はすでに逆転,党の方が国家に優先する。マオイストが政権を取れば,すんなり党主導人民民主主義国に移行できるわけだ。未来は輝かしい。

で,目を未来から足元に転じパンタールを見ると,ここは20年ほど前いったことがあり,美しいところなのだが,なんと,プレナム参加者の6分の1,1000人余が食中毒で倒れてしまった。飲料水か食事が原因らしい。未来は輝かしい。が,足元はおぼつかない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2010/11/23 at 19:49

印中代理戦争の様相

ネパール議会は首相選出に16回も失敗、次の17回目(11月17日)も絶望的だ。大混乱というよりは、機能停止というべきだろう。どうして、こんなことになったのか?

ネパール地域社会はまだまだ健在であり、政治家たちもかなり有能だ。それにもかかわらず三大政党が角突き合わせ、妥協がならないのは、外部勢力の介入のせいと考えざるをえない。三大政党は、印中の代理戦争に引き込まれつつあるのだ。

[1]

国王がいた頃は、国王が中国カードを使ってインドを牽制、微妙なバランスを維持しつつネパールの独立を維持してきた。国王は決して民主的でも人権尊重でもなかったが、ネパールでの猛虎と恐竜の跋扈は許さず、何とかネパールの独立を維持してきたのだ。人権と民主主義の観点からは、国王にはケシカラン点が少なくなかったが、それには国家独立維持の代償の側面があったことも事実だ。

[2]

ところが、ネパールの宗主国を自認するインドにとって、何かというと中国カードをちらつかせる国王は、目障りであった。インドは国王を排除し、ネパールをインド圏内に完全に取り込もうと企み、ネパール議会派諸政党やマオイスト(まだ反中国だった)の民主化運動を支援し、「12項目合意」をお膳立てし、ついに2006年4月、「民主化運動Ⅱ」により王政打倒に成功したのだ。インドは、このとき、目先の利益を追う余り、国王が中国進出に対する防波堤でもあったことを見落としていたのである。

インドが議会派7政党とマオイストを支援し、国王を追放したとたん、マオイストが先祖返りし、中国共産党に急接近、いまや中国の強力な支援をバックに、連日インド攻撃を繰り広げている。しかも、ネパール・マオイストは、インドマオイストへも接近しつつある。中国共産党=ネパール毛沢東主義派=インド毛沢東主義派の赤色共闘である。インド政府は当てが外れ、ほぞをかんでいるに違いない。

つまり、現在のネパール政治は、日に日に印中の代理戦争の様相を深め、ネパール人自身ではコントロールが困難になりつつあるのだ。

このように、いまのネパール政治の混乱の根本的要因の一つが印中介入であることは、明白である。王制の場合、取り巻きがいるにせよ、最終決定権限は国王一人にあり、権力関係ははっきりしていた。ところが、政党政治となると、政党対立もあれば党内派閥対立もあり、外国がつけ込むチャンスは無数にある。マオイストですら、プラチャンダ議長は中国派、バブラム・バッタライ副議長はインド派だ。MK・ネパール首相はもちろんインドに支援されている。

[3]

インドは、マオイスト闘争の拡大激化に危機感を募らせ、国内ばかりかネパールにおいてもマオイスト運動を弾圧しようとしている。議会第一党のマオイストを政権から排除するというのは、コングレス党や統一共産党というよりは、むしろインド政府の政策なのだ。

そもそも、国軍統幕長解任問題で解任拒否のヤダブ大統領(NC)と国軍を支持し、首相であったプラチャンダ議長を辞任に追い込んだのは、インドであった。

また、インドは、懸案となっていたパスポート制作事業に介入し、マオイストからの非難攻撃を受けながらも、この受注に成功した。このとき、カンチプールが、駐ネ・インド大使の受注要求書簡を暴露し、インド批判社説を掲載した。これに対し、インド政府はカンチプールへのインド企業広告を停止させ、さらにカンチプールの新聞用紙を税関で止めてしまった。結局、カンチプールはインド政府の圧力に屈し、インド批判をやめざるをえなかった。

さらにマデシのRK・シャルマ議員がプラチャンダ候補に投票すると、インド大使館は、いわれたとおり投票しないと、おまえの娘をインド系学校から追放するぞ、と脅した。

このように、インドはマオイストの政権参加をあらゆる手段で阻止しようとしているのである。(バブラム・バッタライ副議長なら、認めるかもしれない。)

[4]

もちろん、中国も負けてはいない。中国は、国王からマオイストに乗り換え、ネパールへの影響力を着々と拡大している。中国大使館員や訪ネ使節団がマオイストとさかんに接触しているし、またプラチャンダ議長や人民解放軍幹部の訪中も受け入れた。あるいは、インドがTarai-Madhes Loktantrik Partyを応援すれば、中国はMadhesi Jana Adhikar Forumを支援した。

KB・マハラのテープ事件もある。プラチャンダ議長を首相に当選させるため、マデシ議員票を50票買収するための資金として5億ルピーを出してくれるよう、中国側に要請したというのだ。真偽は定かではないが、ありそうな話だ。

中国は、亡命チベット政府議会のネパールでの選挙にもあからさまに介入し、投票途中で票ごと投票箱を没収させた。あるいは、ヤダブ大統領のボーダの仏教寺院訪問も、チベット独立派の支援になるとして、やめさせた。このように、中国もインドと張り合い、ネパールへの介入を拡大しているのである。(中国製品、中国企業がネパールを席巻しつつあることはいうまでもない。)

[5]

しかし、ネパールが印中代理戦争にこれ以上巻き込まれたら、ネパールは泥沼の分裂抗争に陥ってしまう。先進国の人権屋さんや民主主義屋さんは怒るだろうが、ここはともかく無原則、無節操でよいから各党が妥協し、安定した国家権力をまず確立し、統治の基礎をつくることが先決だろう。

* Sudha Ramachandra, “India and China hover over Nepal,” Asia Times, Oct. 23

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2010/11/11 at 14:36

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