Posts Tagged ‘世俗主義’
憲法原案に対する修正,46案提出
「2072年ネパール憲法原案」に対する修正案の提出が9月5日締め切られた。同日夜のリパブリカ紙(*3)によれば,提案は46に達した。
NC,UML,UCPNは,3党共同修正案を提出。7州は維持するが,その代わり次の修正を行うことを提案した。
(1)「連邦制委員会」を憲法で設置し,ここに未確定部分の州区画を委任する。
(2)「世俗国家」規定は残すが,伝統的宗教に関する注記を付す。
(3)比例制当選に必要な最低得票率は設定しない。
(4)独立の憲法裁判所は設置しない。そのかわり,最高裁判所内に憲法裁判部を設置。
(5)「ジャナジャーティ委員会」,「ムスリム委員会」,「マデシ委員会」「タルー委員会」を憲法で設置。
これに対し,NCやUMLの何人かの議員は,党の修正案に満足せず,制止を無視し議員個人として修正案を提出した。また,RPP-Nなど他の諸党も修正案を提出した。
こうして,結局,修正案は総数46にも達した(5日夜現在,*3)。これからの審議がどうなるか,気になるところだ。また,制憲過程から降りてしまい,外から反対運動をすることになったマデシ系の動きも,それ以上に気になる。3大政党は,このまま「特急手続き」で強引に突っ走り,憲法制定を実現することができるのであろうか?
[参照]
*1 “Big 3 register amendment proposal at CA,” Kathmandu Post,Sep 6,2015.
*2 “Three parties decide to stick to 7-state model, federal commission to resolve demarcation dispute,” Kathmandu Post,Sep 5,2015.
*3 “THREE MADHESI PARTIES INCLUDING MPRF-D EXIT CA PROCESS,” REPUBLICA,05 Sep 2015
谷川昌幸(C)
人民解放軍元兵士,ダサイン祭礼再開
マオイスト人民解放軍でダサイン祭をボイコットしてきた(させられてきた)元兵士が,除隊者も国軍編入者も,10年ぶりにダサイン祭を祝っているという。報道では彼らの比率など,詳しいことは分からないが,興味深い現象だ。
マオイストは原理主義集団のように思われてきたが,実際には必ずしもそうではない。人民戦争期間中には,あちこちで青少年をかり集め,集団洗脳しようとしたが,それは形だけで,精神改造にまでは至らなかった。良くも悪くも,それがネパール流だ。
中央では,マオイスト主導政権であるにもかかわらず,ヤダブ大統領(コングレス党)は,パルマナンド・ジャー副大統領(MJF),警察・武装警察・国軍の幹部,そして高級官僚らにティカを授け,そのあと一般人民にもティカを授けた。
ダサインは、日本の正月よりはるかに宗教色が濃く,国家行事として挙行されるなら,政教分離という意味での世俗主義には反する。しかし,そこはネパール,マオイストもあまり堅いことは言わずダサインを祝うことにしたらしい。
■ティカを授けるギャネンドラ元国王(Nepal24Hours,23 Oct)
■ティカを授けるヤダブ大統領(Republica, 25 Oct)
谷川昌幸(C)
国家祭日としてのクリスマスとネパールの政財界
ネパールは世俗化によりクリスマスを国家祭日とした。あれ?!と思うのが常識だが,プラス思考のネパールでは議員数であれ何であれ加算していくのが流儀,ヒンドゥーや仏教の神々にキリスト教の神を加算して悪いわけはない。かくて,ありがたい神々と,神々のための国家祭日がやたらと増えていく。おめでたい。
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このネパール式世俗化は,政教分離ではないから,国家や政治家は神々の自由市場の中から,役に立ちそうな神,御利益をもたらしてくれそうな神を選び出し,政治的・経済的に利用しても,何ら差し支えない。排他的国教として扱わなければ,それでよいのだ。
そこでマオイストが目をつけたのが,仏教。仏様を利用して人民戦争を戦い,次はルンビニ開発で黄金の御利益にありつこうとしている。罰当たりなことだ。
しかし,黄金の後光が輝いているのは,仏教よりもむしろキリスト教だ。ヒンドゥー教国家の縛りが解けたので,政治家たちは堂々とキリスト教儀式に参加し,神をたたえ,御利益をえることが出来る。
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ネパールのキリスト教徒は,世俗化により急増中。MSNニュースなどによれば,人口の10%に達したとのこと。10%といえば,300万人弱であり,これはすでに大勢力だ。
昨年までは,この急増を怖れたヒンドゥー教「ネパール防衛軍」などがテロ攻撃をしかけ,ミサ出席もこわごわだったが,ことしはもはやそのような危険はほとんどなく,各紙は「攻撃リスクのなくなったクリスマス」と伝えている。
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このようにしてキリスト教が安全パイになり,しかも黄金と票の後光が差しているとなると,ヒンドゥー教徒であろうが仏教徒であろうがお構いなく,政治家たちは競ってクリスマス礼拝に参加し,神をたたえ,御利益にあずかろうとする。
25日には,アカデミーホールでキリスト教全国協会主催の「クリスマス大祭2011」が開催され,そこには制憲議会ネムワン議長ら政界のお歴々が多数参加し,イエス生誕を祝った。
■クリスマス大祭で祝辞を述べるネムワン議長 (nepalnews.com, 2011-12-26)
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政界よりももっと節操がないのが,経済界。大手ホテルは,キリスト教で一儲けしようと,趣向を凝らした。
★クリスマス・ランチ/ディナー
ヤク&イエティ 1400-2500ルピー
エベレストH 1500-3500ルピー
ソルティーH 1300- ルピー
ラディソンH 2500-3500ルピー
結構なお値段。これが馬小屋で生まれた貧しいイエスをヒンドゥー教徒が祝うためのお食事代である。針の穴を通る気などさらさらないから,大枚はたこうが酒を飲もうが,平気なのだ。
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イエスは,貧しき者,悩める者,病める者に寄り添い,その苦しみを自らに引き受けようとしたのではなかったのか? もしそうだとするなら,歌舞音曲を控え,断食をすることこそが,クリスマスの本来の祝い方ではないのか?
谷川昌幸(C)
A ・ センのセキュラリズム擁護論
クマリの世俗化,そして失業
谷川昌幸(C)
クマリも当然,神性を奪われ,世俗的見世物に落ちぶれるのがいやなら,失業するしかない。8月18日,最高裁がクマリ公益訴訟の判決を出した。それによれば,「クマリが,子供の権利条約の保障する子供の権利を否定されるべき根拠は,歴史的文書にも宗教的文書にもない」のであり,したがってクマリには他の子供たちと同様の教育の自由,行動の自由,食事の自由などが認められるべきだ,という。これは原告プンデビ・マハルジャンの主張通りである。
草木も判事もマオイストになびく。マオイズムからすれば,これは当然の判決であり,これでプラチャンダ首相のインドラ祭参加,クマリ拝跪はなくなった。最高裁がお墨付きを与えたのだ。めでたい。(注)
世俗化の影響は,クマリにとどまらない。他の護国諸宗教は,これから衰退に向かう。神々の大量失業時代だ。失業して怒るのは神も同じだが,怒ると,人間より怖い。
しかし,これはすべての神々の没落,失業ではない。封建的な古い神々に替わり,近代的な新しい神々が登場する。その頭目がマモン神だ。ミスコンを司るのも,このマモン神。
さて,そこでマオイストはどうするか? 封建的,反人権的なクマリ神は,たぶん見捨てるだろう。しかし,マモン神までつれなくできるだろうか? 共産主義はツチとカマでマモン神を退治するはずだったが,もしミスコンに拝跪するようであれば,看板に偽りあり,ということになる。これは見物だ。
* nepalnews.com, Aug.19; eKantipur, Aug.19.
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