ネパール評論

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UNMIN撤退の悲喜劇

UNMINは,何とか形だけ整え,1月15日をもって任務を終了した。いつものことだが,土壇場で三党合意が成立,UNMIN受け皿として「軍統合特別委員会局」が設立されたのだ。(また役所がひとつ増えたが。)

本当に,ネパールの政治家たちは交渉ごとに熟達している。散々けなし悪口を言いたい放題いったあとで,もっとも効果的な最後の最後で,相手の顔を立て,恩を売る。見事だ。

こうして恩を売りつつ,さらにすごいのが,カネのむしり取り。ekantipur(16 Jan)によれば,UNMINはラジャ空港(ネパールガンジ付近?)やポカラ空港の使用料をまだ払っていない。出て行くなら,使用料2千万ルピーを航空局に払えと要求されている。これをみても,UNMINが金蔓であったことがよくわかる。

これも滑稽だが,それ以上に滑稽というか悲喜劇といってよいのが,ランドグレンUNMIN代表のマダブクマール・ネパール首相訪問。代表はおそらくキリスト教徒であろうが,UNMIN離任挨拶に行ったネパール首相から,平和貢献へのお礼として,なんと仏像を贈られたのだ(Rising Nepal, 16 Jan)。

 平和の象徴・仏像の贈呈(Rising Nepal, 16 Jan)

私は仏教徒であり,仏様をイエス・キリストと並ぶ偉大な平和の使徒と信じ,尊敬している。しかし,それとこれは話が違う。先進国と国連は,ネパールに世俗化を押しつけ,それを暫定憲法に書かせた。それなのに,このざまなのだ。

ネパール首相は一私人ではなく,世俗ネパール国家の最高権力者だ。ランドグレン氏もUNMIN代表として首相を訪問している。これは国連とネパール国家との間の公式行事なのだ。それなのに,首相が仏像を贈り,それをランドグレン代表が受け取る。これを悲喜劇といわずして何という。

想像力の欠如,人権無視も甚だしい。国家最高権力者が公式行事で仏像を贈る――それをキリスト教徒,イスラム教徒,共産主義者,無神論者らはどう思うか? いや,ヒンドゥー教徒であっても不快に思う人は少なくあるまい。信仰の自由の明白な侵害ではないか?

結局,先進国や国連がやってきたことは,たとえば国家世俗化についてはこの程度のことなのだ。他の多くの問題についても同じではないか? ネパールは,根本的には何も変わっていない。ネパールにはネパールの強固な文化的伝統があるのだ。 

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/16 at 21:27

インドラ祭と動物供犠と政教分離

谷川昌幸(C)

インドラ祭の後半は、予想(Ganatantra=Guntantraとインドラ祭)に反する展開となった。世俗国家化に伴う政教分離への動きが見られたのだ。

1.大統領、クマリ礼拝せず
 9月23日付カトマンズポストによると、昨年までとは異なり今年は国家元首(ヤダブ大統領)がクマリ館を訪れ祝福のティカを受けなかった。
 今年、政府は、インドラ祭の動物供犠料を拠出しないことに決めた。これに対し、ネワール社会が烈火のごとく怒り、連日デモをやった。その結果、動物供犠料は拠出されることになったが、その混乱で、結局、ヤダブ大統領のクマリ礼拝は中止されたのだ。

80929kumari クマリ館前(2007.9.24)

2.供犠料不拠出理由(1):政教分離
 英テレグラフ(9/22)によると、供犠料はイケニエの水牛と山羊の購入料100ポンドだから、2万円弱。たいした額ではないが、問題は金額よりも国家が供犠料を出すか否かだ。なぜ出さなかったのか?
 理由は新聞には書かれていないが、やはり世俗国家となり、宗教儀式に公金を出すのはマズイという判断が働いたのだろう。これが一つ。

3.供犠料不拠出理由(2):動物愛護
 もう一つは、動物愛護論者による動物供犠反対論。カトマンズでは数週間前から、西洋の動物愛護論者がインドラ祭のイケニエ供犠反対論を唱え、大論争になっていた。つまり、水牛や山羊の首を切る供犠は残虐だから止めよという、トンチンカンで偽善的なばかばかしい議論である。
 私は、動植物の生命を大切に思うからこそ、宗教儀式としての動物供犠を高く評価する。2,3頭などとケチケチせず、水牛100頭でも、1000頭でも神々の前で首を切り落とし、神々を血まみれにし、動植物を人間の食料として与えられたことを神々に感謝すべきなのだ。
 生命を畏敬するからこそ、動物をイケニエとして献げ、生と死――生が終わり死が始まる決定的な実存的瞬間――を直視し、その死が決して無意味ではないことを神々の前で象徴的な形で確認しているのだ。西洋のトンチンカンな動物愛護論など、断固粉砕すべきだ。文句あるなら、聖牛を食うな!

WWC2 動物権利・愛護運動(下記資料参照)

4.政教分離の英断
 マオイスト主導政府が100ポンドをケチッたのは、政教分離の原理ゆえか、それとも動物愛護論のゆえか? たぶん両方だろう。その点は、まことにいかんだが、それでも世俗国家の政教分離原理に則り、動物供犠料100ポンドを出さないという判断もあったのだろうから、その点は大いに評価する。よくやった!

5.文化大革命としての世俗国家化
 情けないのは、世俗国家を嬉々として選択したのに、その意味を全く理解せず、宗教国家の頃と同じく公金を特定の宗教儀式に支出せよと要求し、結局、支出させることにしたネワール社会。もしヒンドゥー教儀式に公金を出してよいのなら、キリスト教儀式にも日本神道儀式にも、いやひょっとすると世界統一教合同結婚式にすら、請求されたら、公金を出さざるをえなくなる。それでよいのか?
 ヒンドゥー教国家から世俗国家になるのは、文化革命である。そんなことも理解できないのか? ネパール人民は世界人民の前で世俗国家を選択した。だったら、その当然の結果を正々堂々と引き受けよ。これからは、インドラ祭は国家とは無関係に、民間宗教儀式として実施すべきだ。

6.旧王宮広場を血の海に
 来年からは、熱心な信者から奉納金を山と集め、水牛数千頭を買い入れ、臆病な偽善的動物愛護論者たちの前で次々と首を切り落とし、タレジュ寺院前からクマリ館まで旧王宮広場一帯を血の海とし、度肝を抜いてやれ。それが世俗国家を選択したネパール人民の心意気だ。ネパールの文化と宗教を守るため、頑張れ!

80929blood バイラブ神前の供犠の血(2007.9.24)

80929cow 供犠の血を見つめる聖牛(2007.9.24)

7.文化大革命を受け入れよ
 テレグラフ紙のトマス・ベル記者によれば、クマリ世話係の一人、ラジャン・マハルジャン氏は、次のように述べた。
 「マオイスト政府は、文化的宗教的な祭を無くそうとしている。これは文化革命への第一歩だ。」
 テレグラフ紙は、ネパール・マオイストがいよいよ「文化大革命」を始めた、とセンセーショナルに報道したいらしい。そうした、みえみえの下心はいただけないが、世俗国家の選択が文化大革命であることは間違いない。
 ネパール人民は、世俗国家化という文化革命を選択したのだから、その論理的帰結を正々堂々と引き受けるべきだ。世俗国家にしておきながら、国家政府に供犠料を哀願するなどといった情けないことはすべきではない。これからは、すべての寺社や宗教行事は、自前で運営すること。
 できないかな? 金満キリスト教会に席巻されてしまうかな?

8.インドラ祭に100ポンド寄付を
 もし来年のインドラ祭を自前でやる潔さがあるなら、100ポンドくらいなら喜んで寄進する。私のような宗教心の篤い庶民を千人ばかり集めれば、旧王宮広場一帯を血の海とし、神々を歓喜感涙させ、偽善的動物愛護論者たちを大量失神させることができる。
 ぜひ、そうしていただきたい。

(参照1) 2008/09/16 Ganatantra=Guntantraとインドラ祭

(参照2) Animal Nepal Org (今回の議論はカトマンズポスト紙中心であり、この団体が関与していたかどうかは不明。ただし、動物の権利・動物愛護のゆえに動物供犠に反対するという論理は、この団体の主張と同じである。)
WWC Poster - English

Can you imagine a live goat being thrown in a pond and torn apart by young men? Can you picture 7,000 young buffaloes being rounded up and killed by a thousand drunk men carrying khukuri knives? A festival where 200,000 animals are killed to please a goddess? Public beheading of countless young buffaloes and goats carried out by government and army?

Perhaps you cannot. However, events such as these take place regularly in Nepal, a country where animal sacrifice is an important ritual to the majority of the Hindu population. In 1780, Nepal outlawed human sacrifice. Animals, however, are allowed to be killed to satisfy the goddess Kali, and for other ceremonies. Mass sacrifice takes place during different festivals, especially in Terai districts.

Not everyone agrees to these practices. In fact, during Dasain, the largest Nepalese festival during which hundreds of thousands animals are killed, the media, religious leaders and the public at large increasingly speaks out against animal sacrifice.

Our aim is to make the public aware of these events, to raise awareness about alternatives and ultimately to try to prevent cruelty conducted in the name of culture or religion.

Targeted Festivals…

Hindu: Nepal is probably the only country in the world where the government annually sacrifices hundreds of live animals during Chaite and Kalratri Dasain. During Kalrati, in Taleju Temple, the government publicly behead 54 buffaloes and 54 he-goats, followed by the killing of 108 buffaloes by the Nepal Army. The event draws many devotees and is screened on national Television. At the same time in the royal palace in Gurkha 108 buffaloes are being beheaded. This marks the start of mass sacrifice by the people; it is estimated that hundred of thousands of goats are being sacrificed during Dasain as well as an unknown number of buffaloes, ducks, chicken, birds, etc. Nepalese kill animals to sanctify weddings, new homes or religious festivals. Upon purchasing a new car or truck, the owner sometimes splashes its exterior with fresh animal blood, to ensure the vehicle doesn’t crash whenever it is driven. Many times, pooja is merely symbolic — an offering of butter, yogurt, money or flowers. When an animal is to be sacrificed, however, it should be an uncastrated male which is killed, apparently as a display of life’s potency. This death to please the gods is also interpreted as doing the animal a favor by releasing it from a life of suffering, amid hopes that it may be reborn as a much more fortunate human. Nepal’s Buddhists and animists also occasionally perform animal sacrifices. (http://www.animalnepal.org/campaigns_wwc.htm

Written by Tanigawa

2008/09/29 at 21:42

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