ネパール評論 Nepal Review

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制憲議会選挙2013(18):厳戒マオイスト事務所

制憲議会選挙惨敗濃厚のマオイスト事務所(キルティプル)を,11月22日午後,見学に行った。

同じ並びの東方20mにコングレス事務所があるが,こちらは通常通り。ところが,マオイスト事務所は,警官が厳重警戒していた。マオイストが攻撃されるのを警戒しているのか,それともマオイストが攻撃に出るのを警戒しているのかは,不明。

このマオイスト事務所は,投票前に何回か外から見学した。また,16日には事務所内に入り,役員から配布用『マニフェスト(選挙公約)』をいただいた。

このマオイスト『マニフェスト』は,前回2008年選挙のときのものよりはるかに豪華。ページ数は堂々の52+2頁。三つ折りカラー地図(州区分,鉄道・道路等の開発計画記載)付。上質紙使用。事務所内は人であふれ,活気に満ちていた。

ところが,投票後の22日になると,静まりかえり警官の厳重警備で,近寄りがたい感じ。

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 ■マオイスト党事務所/コングレス党事務所

近くには,プラチャンダ議長の大きな写真付き垂れ幕を下げたところが,まだいくつも残っていたが,通りでは他党の大きな旗やシンボルマークがやけに目立つようになっていた。投票前日にはなかったので,前夜に闇に紛れて取り付けたか,開票開始後うかれて,あるいは風向きを見て,掲げたのではないだろうか。

比例制開票速報はまだだが,小選挙区でこれほど落ち込むと,比例制での挽回は絶望的だ。

選挙は水物とはいうが,各党の盛衰は,風を受け,たなびく各党の旗の勢いが,案外よく正直に物語っているようだ。非科学的で超安直だが,当たるのなら,風見・旗見も悪くはあるまい。

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 ■マオイスト党事務所150m西/同左200m西

【開票速報】 コングレス=100,UML=90,マオイスト=25 (23日夜)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/11/24 at 00:03

カテゴリー: マオイスト, 選挙, 政党

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絞首刑を煽るインド民主主義:A.ロイ(8)

7.「社会の集合的良心」と状況証拠による死刑判決
(1)スケープゴートとしてのアフザル
2001年国会襲撃事件の容疑者4人のうち,「首謀者(mastermind)」のデリー大学講師ジーラーニは高裁で無罪となったにもかかわらず,アフザルは最高裁でも死刑判決を受け,2013年2月9日絞首刑が執行されてしまった。なぜだろうか?

アフザルは自身は,先述のように,対テロ戦争を叫ぶ権力により「スケープゴート」にされてしまったと考える。ロイも,同じ見方だ。ロイによれば,アフザルの絞首刑は,得体の知れない権力が操るマスコミによって煽られた人民の意思の要求であり,それは「世界最大の民主主義」の輝かしい勝利であった。

130312b ■絞首刑執行の報道(You Tube[NDTV,Feb.9, 2013])

(2)状況証拠による死刑判決
最高裁は,ジーラーニを無罪とした高裁判決を支持し,またアフザルの自白の信憑性についてもいくつか留保したにもかかわらず,国会襲撃をジェイシェ・ムハンマドとラシュカレ・タイバのテロ攻撃とする事件の基本構図は変えなかった。いや,おそらく変えられなかったのだろう。そのため,アフザル有罪を導き出すため,状況証拠に依存するという無理をあえて強行することになった。判決は,こう述べている。

「以上に詳細に述べた諸状況から,上訴人アフザルが死亡したテロリストたちと協力していたことは明白である。議事堂攻撃を実行するため彼らが行ったほぼすべてのことにおいて,アフザルは彼らに協力した。アフザルは,死亡したテロリストたち,特にムハンマドと密接に連絡を取っていた。アフザルは,襲撃そのものには参加しなかったが,悪魔的使命の遂行のため,あらゆることをした。ほとんどの陰謀がそうであるように,陰謀罪を構成する共謀の直接的証拠はないし,またあり得ないだろう。しかしながら,様々な状況を集め比較検証するならば,それらの状況が,アフザル被告と殺された『フェダイーン』テロリストたちとの共謀共犯を示していることに疑いの余地はない。諸状況は総体としてみられるべきであり,そう見るならば,アフザルが陰謀の当事者であり,陰謀の遂行のための様々な行為において積極的な役割を果たしたことに合理的な疑いを挟む余地はない,と判断される。….それゆえ,アフザルがこの重大な陰謀犯罪の共犯者であると断定するに必要十分な状況証拠がある,とわれわれは判断する。」(18 CASE OF MOHM. aFZAL (a1))

130312a ■自白会見(You Tube[ABP News,Dec.20,2001])

(3)メディアと「社会の集合的良心」
最高裁が,自白の信憑性を一部留保しつつも,状況証拠により死刑判決を下さざるをえなかったのは,おそらく判決の中で自ら引き合いに出した「社会の集合的良心(the collective conscience of the society)」のためであろう。

「この事件は,重大な被害をもたらし,全国を震撼させた。社会の集合的良心は,襲撃犯に死刑を科すことによってのみ満足させられるであろう。」

ここでいう「良心」は,形而上学的な倫理ではなく,実際には,マスコミのつくり出す「国民世論」である。要するに,アフザルを縛り首にしなければ,世間が納得しないということ。このつくられた世論を,ロイは,様々な視角から厳しく批判している。

「もし世論調査,読者投稿,そしてテレビ出演視聴者の声がインド世論を正しく反映しているとするなら,リンチ(私刑)を求める大衆が刻々増大していることになる。。インド市民の圧倒的多数が,この先数年間,毎日毎日,週末も含め,モハンマド・アフザルの縛り首をみたいと願っているかのようだ。」(Roy:ⅳ)

「あわれなことに,熱狂の只中で,アフザルは個人としての権利,一人の生きている人間としての権利を,剥奪されてしまったように見える。彼は,あらゆる人々の,すなわちナショナリスト,分離主義者,死刑廃止活動家らの道具となった。彼は,インド最大の極悪人とされ,またカシミールの偉大な英雄にもされたのである。」(Roy:ⅳ)

こうしてアフザルは縛り首にされてしまった。処刑の通知は,処刑後配達され,妻子はアフザルとの最後の面会すらできなかった。しかも,遺体は妻子に引き渡されず,ティハール刑務所敷地内に埋められたため,葬儀もできなかった。遺体を引き渡すと,カシミールで聖者扱いされ,葬儀が反政府活動の引き金になることを怖れたからである。

その一方,処刑後,テレビ局は「全インド反テロ戦線」議長や襲撃で殺された警備員の妻らを番組に出演させ,処刑を歓迎させた。ロイは,こう批判する。

「夫を撃ち殺した犯人らは,その場で,そのとき殺されたのだ,と誰も妻たちになぜ告げないのだろうか? 襲撃を計画したのが何者か,私たちにはまだ分からず,当然,彼らは法廷に一度も立たされてはいない。誰も,このことを彼女らになぜ告げないのだろう?」(Roy:ⅱ)

(4)インド民主主義の威厳と矮小
「これらすべてを考え合わせると,12月13日の議会襲撃についての奇妙で非情で邪悪きわまりない説明は,十二分に用心深く取り扱われなければならないであろう。それは,世界最大の『民主主義』が実際にはどのようなものなのかを,如実に示している。」(Roy:ⅳ)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/03/12 at 18:40

カテゴリー: インド, 民主主義, 人権

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日ネ首相の権力欲

ネパールのカナル首相と日本の菅首相が,ますますあい似通い,政治家らしくなってきた。

[1]

カナル首相(UML)は,党内基盤が弱く,最大政党マオイストの要求を丸呑みして支持を取り付け首相に選出された。当初は,マオイストの操り人形と酷評され,短命と見られていた。5月28日の制憲議会(CA)任期切れに際しても,「挙国政府のめどがついたら」辞任すると約束し,かろうじて任期を3ヶ月延長することが出来たにすぎない。

カナル政権はもともと弱体であり,辞任まで約束したので,与党UMLも野党コングレス党(NC)もカナルはすぐ辞めるだろうと期待していた。ところが,どっこい,カナル首相は「挙国政府のめど」を口実に,いつまでも辞めない。どうして彼は権力をいつまでも維持し続けることが出来るのか?

一つには,カナル首相がマオイストの本音を鋭く見抜いているということ。CA解散・選挙になれば,マオイストは,現有議席からの大幅減は避けられない。苦しい人民戦争を戦い,ようやく手にした議員の地位と諸特権がすべて失われてしまう――これがマオイスト議員たちの偽らざる本音であろう。

カナル首相は,マオイスト議員たちのこの保身心理を見透かし,マオイストに対する自分の立場を徐々に強化しつつあるように思われる。もはや,操り人形とはいえない。

また他方では,最大野党のNCも,口だけは勇ましいが,実際には党内派閥抗争で政権打倒どころではない。抜きんでた有力な首相候補も見あたらない。

カナル首相は,与野党のこのような実情を見抜き,巧妙に政権を維持し強化してきた。なかなか,したたか。政治家らしくなってきた。

[2]

このカナル首相とよく似てきたのが,菅首相。こちらも,辞任をほのめかしながら,一向に辞めようとはしない。

菅首相は,民主党が解散を何よりも怖れていることをよく知っている。解散・総選挙になれば,民主党議員の相当数が再選されず,おいしい議員諸特権を失ってしまう。保身が先に立ち,解散が怖くて,菅首相を辞めさせられないのだ。

一方,野党自民党も内輪もめばかりで,これといった有力首相候補はいない。ちまたでは,小泉純一郎氏か,小泉ジュニアかなどといったジョーク半分,本気半分の床屋政談が流布する有様だ。

菅首相は,民主党や自民党のこの内実を見抜き,政権維持を図っている。

しかも,菅首相には,脱原発の風が吹き始めた。この風をうまくとらえることが出来れば,政権は再浮上,菅首相の人気もうなぎ登りとなり,21世紀初期の名宰相として歴史に名を残すことさえ夢ではなくなってきた。

[3]

政治家にとって,権力欲は本性だ。菅首相が本物の政治家なら,「政権に恋々」とか「権力にしがみつく」とかいって攻撃されても,蛙の面に水,まったくこたえないだろう。いやそれどころか,むしろ内心では「よくぞいってくれた」と奮い立ち,さらに権力欲を募らせることにさえなるだろう。

政治家にとって権力欲は本性だから,菅首相が権力に恋々としようが,政権にしがみつこうが,それは問題ではない。われわれ人民にとって,いま冷静に考えるべきは,菅首相を辞めさせれば,それは原発維持を願う政財界体制派の思うつぼ,決して現在および未来の人民の利益にはならないということである。

[4]

要するに,いまの「世論」は人々の自然な意見ではないということ。実際には,政財官学エスタブリッシュメントがメディアを総動員して世論をねつ造し,菅おろしを図っているのだ。玄海原発やらせメール事件では,「九電が組織ぐるみで世論を操作していた実態」が明らかになった(毎日7月15日)。しかし,これはあまりにも稚拙,小規模だったため発覚したにすぎない。菅おろし世論はスケールがちがう。いまの「菅おろし」世論は,日本中の政官財学があうんの呼吸で一体となってメディアを使い,合唱させ,巧妙に創り上げたものである。人民は,その空気の中にいてその空気を吸っているので,それが人為的・意図的に創られたものであることに気づかないのだ。

われわれ人民は,たとえば仮にドイツの空気の中に立ってみて,自分たちがいまどのような空気を吸っているかを反省してみるべきだ。そうすれば,いま菅首相を辞めさせるよりも,むしろ菅首相をおだて,もっともっと「政権にしがみつかせ」,その権力欲を利用して,脱原発の大事業を達成させてやるほうが,人民の利益になることが分かるであろう。

そして,もしめでたく脱原発への方向転換が実現されたあかつきには,菅首相には大勲位の名誉を授与する。政治家のもう一つの本性は名誉欲だから。大勲位が始めた原発に,大勲位が幕を引く。これこそ,歴史の弁証法的発展である。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/07/15 at 12:56

カテゴリー: 政治

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