ネパール評論 Nepal Review

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トランプ「世界ギャグ規則」が脅かすネパール女性の生命

著名なジャーナリストでハーバード大学ニーマン・フェローのスビナ・シュレスタが,トランプ大統領による「世界ギャグ規則」復活を批判する記事をニューヨークタイムズ紙(2月9日)に寄稿している。

記事によれば,ネパールでは,2002年3月の中絶合法化以前には,多くの女性が堕胎罪で終身刑を含む重罪に処せられていた。1990年代末,堕胎罪で投獄されていたのは80人。1996年の妊産婦死亡率は,無理な出産もあり,10万出産当たり539人。

中絶合法化以降,FPAN(Family Planning Association of Nepal)などが,「性と生殖の健康」のための活動を展開し,その結果,2015年には妊産婦死亡率は10万出産当たり258人となった。まだまだ死亡率は高いが,改善はみられる。ちなみに,日本の妊産婦死亡率は36人(2013年)。

FPANは,米政府(USAID)から多額の援助を受け(2015年は500万ドル)事業を展開してきたが,「世界ギャグ規則」復活により,そうした活動が出来なくなった。FPANは職員60人を解雇し,地方での移動保健医療活動も中止せざるを得なくなった。こうして,「トランプのギャグ規則がネパール女性の生命を脅かす」事態になったというのである。

170210■スビナ・シュレスタ ツイート(10 Feb)

*1 SUBINA SHRESTHA, “How the Trump Gag Rule Threatens Women’s Lives in Nepal,” New York Times, FEB. 9, 2017
*2 トランプ「世界ギャグ規則」への危惧,ネパールNGOも

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/10 at 19:55

カテゴリー: 社会, 人権

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トランプ「世界ギャグ規則」への危惧,ネパールNGOも

トランプ大統領が1月23日,「世界ギャグ規則(Global Gag Rule)」に署名した。これに対し,世界中の多くの女性支援NGOが事業活動への深刻な悪影響を危惧している。

「ギャグ規則」については,これまでほとんど知らなかった。便利なWIKIによれば,「ギャグ規則」とは,特定の問題や政策につき議論を禁止する規則(緘口令)のことで,この種のものは多くの国にあるという。

米国では,奴隷制支持派が1835~37年,奴隷制の議会審議を禁止する「ギャグ規則」を成立させた。この規則は1844年12月,J.B.アダムズらにより廃止された。

トランプ大統領が署名した「世界ギャグ規則」は,奴隷制ではなく,妊娠中絶に直接的または間接的に関与することを禁止する規則。それによれば,米政府の援助を受けているNGOは,中絶(強姦等の場合を除く)や家族計画を推進する事業をしてはならない。もし関与すれば,たとえその事業が他の資金によるものであれ,そのNGOに対する米政府援助は停止される。

この「世界ギャグ規則」は,レーガン大統領により1984年に制定され,以後,共和党の重要政策の一つとなった。トランプ大統領は,オバマ前大統領により廃止されていたその規則を,就任早々,復活させたわけである。

これに対し,多くの関係団体が直ちに抗議声明を発表した。たとえば,CHANGE(Center for Health and Gender Equity)のS. シッペル会長の声明要旨は,以下の通り(同HP, 1月23日)。

「トランプの世界ギャグは,世界の女性に対する裏切りだ。・・・・この政策は女性の健康と権利に対する真っ向からの攻撃である。・・・・1984年以降,世界社会は,女性の福祉向上の重要性を認め,前進してきた。・・・・40か国以上で中絶関係法が改正され,家族計画が広まり,妊婦や新生児の死亡が減少した。・・・・トランプの世界ギャグは,米国援助の効果を向上させることにはならない。それは,危険な中絶を増やし,女性の生命を奪うことになるだろう。」

ネパールでも,たとえば「ネパール家族計画協会」のAS.シジャパティ会長が,次のように危惧の念を表明している(The Gurdian, 23 Jan)。

「米援助停止により,われわれは,女性の健康と権利を改善するためのネパール政府の事業を・・・・支援できなくなる。また,地域診療所や移動診療サービスの継続も保健衛生師の訓練もできなくなるだろう。看護師,医師,保健衛生師といった医療専門家を失うことにもなるだろう。」

シジャパティ会長のいう通りだとすると,トランプ大統領の署名した「世界ギャグ規則」は,ネパールにおいて,いわゆる「性と生殖に関する健康と権利」だけでなく,広く医療全般に対して,大きなダメージを与えることになるだろう。

ネパールのように国民の基本的な保健衛生を外国援助に大きく依存し続けるのは問題だが,それはそれとして,そうした現実が途上国にはあることもまた,米国のような先進大国は無視すべきではあるまい。

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 ■CHANGE HP/FPAN HP

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/05 at 22:15

カテゴリー: 国際協力, 人権

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女児選別中絶の拡大

リパブリカ(7月20日)によれば,ネパールでは,特に都市部において,女児選別中絶が拡大している。この問題については,すでに何回か指摘したが,この記事は改めてそれを裏付けるものである。(参照:出生前診断で女児中絶

調査機関:タパタリ産科病院 CAP-Nepal
調査期間:2012年7月~2013年6月
調査対象:3人目を妊娠した妊婦 288人

・胎児が男であることを知っている妊婦 123人
・胎児が女であることを知っている妊婦  16人
・胎児の性別を知らない妊婦      123人
・胎児の性別を知りたいと思っている妊婦 28人

CAPによれば,胎児の性別を知っている妊婦の胎児は,男が123人,女が16人。この顕著な差は,女児胎児を選別中絶した結果だという。

もしこれが事実だとすると,女性にとって悲惨きわまりないし,またネパールの将来にとっても憂慮すべきことだ。周知のように,ネパールでは(かつての日本と同様),家族や世間から女児出産への強い圧力がかかる。しかも,ネパールでも性選別中絶は違法であるにもかかわらず,実際には手術をする医者は処罰されない。法律はあっても適用されないため,違法な性選別中絶が拡大しているのだ。

さらに危惧されるのが,出生前診断の「進歩」により,優秀児選別出産が広まること。ケイタイやWIFIあるいは英語教育などに見られるように,ネパールは日本よりもはるかに「先取的」だ。このままでは,ネパールは生命操作最先進国になるにちがいない。

(注)CAP-Nepal調査は,小規模で,結果をどこまで一般化できるか不明。CIA(The World Factbook,2013)によると,出生性比(0-14歳)は以下の通り。

ネパール  女100:男104
・アメリカ    100: 104
・スウェーデン  100: 106
・日  本    100: 108
・韓  国    100: 109
・インド     100: 113
・中  国    100: 117

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/07/20 at 14:51

カテゴリー: 社会, 人権

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出生前診断で女児中絶

ネパールでは,出生前診断で胎児が女児と判かった場合,親族の圧力により中絶させられることが少なくない。その数,年5万人に上るという(社説「女児胎児殺戮」Nepali Times, Sep14-20, 2012)。

1.悪魔の医術
医学の「進歩」により,出生前診断は日々高度化している。いまではNT法,MPS法,マイクロアレイ法などの出生前診断により,ダウン症,自閉症,血友病など,200以上の「異常」や疾病が判るという(朝日新聞2012-09-20)。

また,羊水検査ではなく,妊婦の血液を調べるだけで,胎児の遺伝子異常が99%の精度で判別できる簡便な検査方法も開発され,使用され始めている(朝日新聞2012-09-04)。

古来,「子は天からの授かりもの」とされ,出生は神の領域であった。キリスト教でも,子は親のものではなく,神の子供である。子の生命は,親のものではなく,神のものであった。

ところが,出生前診断は,この古来の生命観を根本から覆し,親や親族にとって好ましくない子は中絶し,その生命を奪うことができるようになった。生命は選別操作され,商品化され始めた。

出生前診断は,悪魔の医術である。知らなければ,判らなければ,天からの授かりものとして,わが子を産む。ところが,出生前診断により,早い段階で胎児の「異常」が判ってしまう。どうすべきか? 親,とくに母親の苦悩は計り知れない。本来なら神の領域の問題を,母親が引き受けなければならない事態になったのだ。生命選別の悪魔の技術としての医術!

2.男児選別出産
このように出生前診断は,日本でも深刻な問題となっているが,それよりもはるかにナマナマしく露骨なのが,ネパール。古来,男尊女卑で,食事,教育,医療など,あらゆる点で男児優先,女児後回しが慣行となっている。無事生長できても,娘への相続は忌避され,ダウリー殺人(結婚持参金回避殺害)ですら行われる。結婚は男児を得るためであり,嫁には男児出産が期待されてきたのだ。そのようなネパールで出生前診断が普及すれば,何が起こるか?

前掲ネパリタイムズ社説「女児胎児殺戮」によれば,ネパールでは,5年前,中絶が合法化された。中絶非合法のときは,密かに中絶した嫁を悪意で訴えたり,無理な出産で母親が死亡したりすることが少なくなかった。中絶合法化は,そのような女性にとっては救いであったが,他方では,中絶が容易となり激増した。

特に問題なのは,出生前診断で女児と判ると,夫や親族により中絶を強要されること。拒否すれば,虐待され,ときには殺されたりする。社説によれば,たとえば次のような事例があった――

▼女児出産の妻に,夫が石油をかけ火をつけた。

▼2人の女児出産後,3人目を妊娠し5ヶ月となる妻が,教師の夫に殴られ流産。夫は別の女性を妻とした。

▼カトマンズの裕福な家庭出身でオーストラリア留学後結婚した妻は,2女児出産後虐待され,その後妊娠のたびに出生前診断を受けさせられ,女児と判ると4回中絶させられ,離婚。

▼2女児出産後,3人目を妊娠した妻は,出生前診断後中絶させられたが,実際には、その胎児は男児であった。病院は10万ルピーを払い口止め。医師は中絶料稼ぎのため,男児なのに女児と嘘をつくこともある。

3.性の脱神秘化の非人間性
ネパールでは,このような神をも怖れぬ,恐ろしいことが日常茶飯事となりつつあるという。社説は,その原因を男尊女卑の父権主義と指摘している。

たしかにその通りだが,出生前診断の根本的問題は,子供選別出産そのものにある。前述のように,出生前診断技術の「進歩」により,早い段階で胎児の遺伝特性が判別できるようになった。男児選別出産の次は,優秀児選別出産((優生学)に向かうことは,火を見るよりも明らかだ。このバチ当たりな涜神行為をどう抑止するか?

繰り返しになるが,生死はもともと神の領域。そもそも性のタブーを破り,性を脱神秘化したところから,性と生死の資本主義化が始まった。人間性にとって,不可視の不合理の闇は不可欠ではないか? 性行為を覗き胎児を覗くことは神を冒涜することであり,生命を商品化し操作する結果とならざるをえない。それは,人間にとって本当に幸福なことであろうか?

【追加2012/09/24】出生前、血液で父子判定 精度99%、1年で150件
   (朝日デジタル2012年9月24日)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/09/23 at 23:49