ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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ネパール共産党とドゥンゲル恩赦(1)

1.ウジャン殺害とドゥンゲル裁判
「ネパール共産党(NCP)」は,「ネパール共産党統一マルクスレーニン主義派(CPN-UML)」と「ネパール共産党マオイストセンター(CPN-MC)」が5月17日合併して発足し,現在,連邦議会下院(275)で三分の二に近い174議席をもつ巨大政権党である。(連立している連邦社会主義フォーラムと合わせると,与党は190議席,総議席の69.1%となり,憲法改正も可能。)

合併以前のUMLは,伝統的中道政党のコングレス党(NC)以上に高位カースト寡占の権威主義的政党であったし,MCは言わずと知れた毛沢東主義政党,暴力革命たる「人民戦争(1996-2006)」を戦い抜き優勢裡に和平に持ち込んだプラチャンダら党幹部になお権限が集中する革命カリスマ的政党である。したがって,これら2党の合併により成立したNCPが両党の党体質を併せ持つことになったのは,至極当然の成り行きといえるであろう。

ネパール共産党(NCP)のこの党体質は,先のごり押し政党登録に加え,今年の共和国記念日恩赦(5月29日)によるドゥンゲル釈放をみると,さらに一層明らかとなる。

共和国記念日恩赦を受けたバル・クリシュナ・ドゥンゲルは,オカルドゥンガを地盤とするマオイスト幹部だが,人民戦争中の1998年,地元住民ウジャン・クマール・シュレスタを親族婚姻問題がらみで「スパイ」として虐殺した。裁判にかけられ,和平後の2010年,最高裁で終身刑が確定したが,マオイストの強引な介入により逮捕を免れた。彼が逮捕・収監されたのは,ようやく2017年11月選挙直前になってのことであった。ところが,選挙がらみで逮捕されたものの,そのわずか半年後の2018年5月29日,選挙で大勝し政権をとったオリ首相(NCP)がその強大な権力をバックに共和国記念日恩赦を実施,ドゥンゲルは釈放された。

たしかに,人民戦争期の事件については,通常の裁判により裁くか,それとも「真実和解委員会(TRC)」で解決するか,意見が分かれている。ウジャン虐殺事件も,マオイスト側は一貫してTRCで解決すべきだと主張してきた。他の諸政党――マオイストと連立時以外のUMLを含め――や人権諸団体は強く反対してきたが,このマオイスト側の主張にもまったく根拠がないわけではない。

そこで,そうしたマオイスト側の言い分も考慮しつつ,以下,今回のドゥンゲル恩赦の意味について検討してみることにしたい。ウジャン虐殺事件については,すでに概略を述べたことがあるので,ご参照いただきたい。
 参照:選挙と移行期正義(1):ウジャン・シュレスタ殺害事件 2017/11/19

 ▼ウジャン殺害事件 略年表
1998.06.24 マオイスト幹部バル・クリシュナ・ドゥンゲルとそのマオイスト仲間数名が,オカルドゥンガ郡でウジャン・クマル・シュレスタを「スパイ」・「人民の敵」として殺害,遺体をリクー川に投棄。
2004.05.10 オカルドゥンガ郡裁,ドゥンゲルに対し財産没収・終身刑(禁錮20年)の判決,収監。
2006.06.25 ラジビラジ上訴裁判所,郡裁判決を取り消し,無罪判決。ドゥンゲル釈放。
2008.04.- ドゥンゲル,オカルドゥンガ郡よりマオイスト(CPN-M)候補として制憲議会議員選挙に立候補し,当選。
2010.01.03 最高裁,ラジビラジ上訴裁判決を取り消し,郡裁判決支持。ドゥンゲルの財産没収・終身刑(禁錮20年)確定。ただし,議員特権により逮捕されず。以後,議員任期満了後も党に保護され2017年10月30日まで未収監。
2011.11.08 バブラム・バタライ首相(マオイスト),ドゥンゲル恩赦勧告。
2011.11.23 最高裁,ドゥンゲル恩赦手続き停止命令。
2013.11.11 選管,マオイスト比例制候補者名簿から終身刑を理由にドゥンゲルを削除。
2016.01.07 最高裁,恩赦要件明確化まで恩赦禁止を命令。
2016.04.12 D・トリパティ弁護士,不利な判決を下した判事脅迫を理由にドゥンゲルを法廷侮辱罪で告発。
2017.04.14 最高裁,ドゥンゲル逮捕を警察に命令するも,警察は逮捕せず。
2017.10.24 D・トリパティ弁護士,ドゥンゲル逮捕命令無視の警察総監を法廷侮辱罪で最高裁に告発。。
2017.10.31 ドゥンゲル逮捕,ディリバザール刑務所収監。
2017.11.- 連邦議会・州議会選挙。UML圧勝。UML・MC連立オリ政権成立へ。
2018.05.06 「刑務所規則」第4次改正。刑期短縮を「50%まで」から「60%まで」に緩和。
2018.05.20 ディリバザール刑務所,ドゥンゲルを含む恩赦候補者名簿提出。
2018.05.24 D・トリパティ弁護士,ドゥンゲル恩赦停止の仮処分を求め最高裁提訴。
2018.05.27 オリ内閣,共和国記念日恩赦決定。
2018.05.29 共和国記念日恩赦実施。ドゥンゲルを含む816人釈放。
2018.06.26 最高裁,ドゥンゲル恩赦釈放の取り消し請求を棄却。


 ■ウジャン(左)とドゥンゲル(右)(FB: No Amnesty for BalKrishna Dhungel 2011-11-11)

谷川昌幸(C)

新刊: 現代ネパールの政治と社会――民主化とマオイストの影響の拡大

150403

現代ネパールの政治と社会――民主化とマオイストの影響の拡大

POLITICS AND SOCIETY IN MODERN NEPAL
Democratization and the Expansion of the Maoists’ Influence

はじめに

 序章 近現代ネパールの政治と社会――マオイストの伸長と地域社会 石井 溥

第一部 マオイストの台頭・伸長と人々の対応
 一章 武装闘争から議会政治へ 小倉清子
 二章 マオイストの犠牲者問題――東ネパール・オカルドゥンガ郡の事例から 渡辺和之
 三章 西ネパールにおける集団避難二〇〇四年 安野早己
 四章 ネパール領ビャンスにおける「政治」の変遷 ――村、パンチャーヤット、議会政党、マオイスト 名和克郎
 五章 開発、人民戦争、連邦制――西ネパール農村部での経験から 藤倉達郎
 六章 ガンダルバの歌うネパールの変化――王政から国王のいない民主主義へ 森本 泉

第二部 マオイストの政党化とネパール社会
 七章 マオイストの国家論と制憲議会選挙公約 谷川昌幸
 八章 市民の至上権は新しいネパールにおける包摂的政治の道しるべとなるか――二〇〇八年制憲議会選挙における各政党の得票の動向から マハラジャン、ケシャブ・ラル/マハラジャン、パンチャ・ナラヤン
 九章 民族運動とマオイスト――マガルの事例から 南 真木人
 十章 チトワン郡チェバン村落における政党支持と抑圧の顕在化 橘 健一
 十一章 「寡婦」が結ぶ女性の繋がり――ネパールにおける寡婦の人権運動 幅崎麻紀子

あとがき

ネパール近現代政治史略年表 用語解説 ネパール郡区分図 主な政党名の略語対応表

明石書店 2015年3月31日発行 定価:5,200円+税

Written by Tanigawa

2015/04/03 at 19:22

カテゴリー: マオイスト,

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Arundhati Roy, Broken Republic

[1]

アルンダティ・ロイの新刊『壊れた国家』を買った。既発表3評論をまとめたもの。
  ・Mr. Chidambaram’s War (Oct.2009)
  ・Walking with the Comrade (Mar.2010)
  ・Trickledown Revolution (Sep.2010)

このうち「同志と歩む」は,発表直後に読み,すでに紹介した。文章中心の取材レポートだったが,この本では,ロイ自身とSanjay Kakによる写真が多数挿入された。いずれも優れた報道写真で,現場の緊迫した状況がさらにリアルに感じ取られるようになっている。

[2]

それにしても,ロイの筆力は凄い。序文(Feb. 2011)は、こう始まる。

大臣は,インドのため人々は村を離れ都市に移るべきだ,という。彼はハーバード卒。スピードを求める。そして,数も。5億人移住のすばらしいビジネスモデルになる,と彼は考えている。

この書き出しだけで,村を追い出された無数の人々の悲惨な運命がありありと思い浮ぶ。

政府・大企業による村民追い出し→都市スラム流入→都市浄化によるスラム流入民追放→帰村(ダム底,鉱山開発,ゲリラ戦争)→都市スラム流入・・・・

ロイは続ける。

大臣は,都市移住民の大半は犯罪者であり,「近代都市では受け入れがたい行動をした」と語った。中流階級は,彼の率直さ,スペードをスペードと呼んだその勇気を讃えた。大臣は,・・・・法と秩序のため警察署を増設する,と語った。・・・・

よい武器を持ち,よい制服を身につけ,よく訓練された新しい警官隊が街をパトロールする。・・・・いたるところにカメラが設置され,すべてが記録されるようになった。・・・・

まだまだ続く。わずか4頁の序文だが。簡潔な文章で,鮮やかなレトリックを駆使し,激しい怒りと告発が繰り出される。

[3]

日本でも,すぐに翻訳され,ベストセラーになるにちがいない。陰湿な検閲がなければ,日本企業も加担しているインド高度成長の裏面が,暴露される。

【参照】
2010/04/23 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(8)
2010/04/22 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(7)
2010/04/21 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(6)
2010/04/19 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(5)
2010/04/18 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(4)
2010/04/16 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(3)
2010/04/14 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(2)
2010/04/11 アルンダティ・ロイのインド・マオイスト取材報告(1)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/07/02 at 12:21

カテゴリー: インド, マオイスト,

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Un-Victim: 「武器を持つガンディー」としてのロイ(1)

「銃をもつガンディー」――あまりにも挑発的で神をも恐れぬ不遜な言葉だ。2009年12月、オバマ大統領がノーベル平和賞受賞演説でこれに近いことを述べた。彼は誠実で偉大な大統領ではあるが、アフガンなど世界各地で無防備な人民を多数殺しているアメリカの大統領であり、この呼称の域にはまだはるかに及ばない。
 (参照)ガンジーを虚仮にしたオバマ大統領 広島・長崎「平和宣言」批判 オバマ大統領の新軍国主義と朝日の海自派遣扇動 オバマ核廃絶発言と長崎の平和運動 オバマ大統領と国益と南アジア オバマ大統領の新軍国主義と朝日の海自派遣扇動 無節操なオバマあやかりイベント

「銃をもつガンディー」――あるいは、ひょっとしてこの呼称で呼ばれてもよいかもしれないと思わせるギリギリの域にいるのが、われらがアルンダティ・ロイだ。鋭利な言葉を縦横無尽に駆使して不正義と果敢に戦う作家、インド体制派にとってもっとも危険な知識人。そのロイが、『ゲルニカ』のインタビューにおいて、ガンディーを尊敬するにもかかわらず、なぜ銃を取らざるをえないか、このギリギリの問いに真正面から向き合い、誠実に答えようとしている。
 ■Arundhati Roy, “The Un-Victim,” Guernica, Feb. 2011

1.愚劣な質問
『ゲルニカ』のインタビュアー(Amitava Kumar)は、まず多くのインタビューを受けてきたロイに対し、愚劣な質問(stupid questions)と思ったのはどのような質問か、と問いかける。

「ロイ: かつて私はチャーリーローズ・ショー(Charlie Rose Show)に招かれ出演したことがある。彼はこう質問した。『アルンダティ・ロイさん、インドは核兵器を持つべきだと考えますか?』 そこで私はこう答えた。『インドは核兵器を持つべきだとは思いません。イスラエルも核兵器を持つべきだとは思いません。アメリカも核兵器を持つべきだとは思いません。』 『いいえ、そうではなく、インドは核兵器を持つべきだと思いますか、と質問したのです。』 私は全く同じように答えた。4回ほども・・・・。ところが、それは全く放送されなかった!」

あらかじめ想定していた回答を引き出すための質問、これはたしかに愚劣だ。次に、前後関係を棚上げにし、想定した回答を引き出そうとする質問。

「ロイ: 『マオイストは学校を破壊し、子供たちを殺している。こんなことが許されますか? 子供たちを殺すのは正しいことですか?』」

マオイストだろうが誰だろうが、子供を殺すのが悪であることは自明だ。その自明なことを答えさせることによって、質問者は、子供を殺すことは悪→子供を殺すマオイストは悪→ロイのマオイスト支持は誤り、という三段論法でロイをやりこめようとしているのだ。

これも愚劣な質問だ。人殺しは悪か、と問われたら、誰だって「人殺しは悪だ」と答えるに決まっている。しかし、現実にわれわれが直面する真の問題は、状況により人を殺さざるをえないときがあるのではないのか、という問いである。これなら本物の質問だ。ところが、腹に一物ある質問者は、状況も前後関係も棚上げして人を殺すのは悪かと質問し、悪だと答えさせ、それをもって人を殺さざるをえなかった人々を一方的に断罪しようとするのである。これも愚劣な質問である。

「ロイ: 愚劣な質問に答えるのは難しい。とてもとても難しい。愚劣は特有の方法で人を打ち負かす。とくに時間がなく、時間が貴重なときは。」

たしかに、そうだ。愚劣な質問は、本物の問題に対峙する勇敢な人々の誠意を踏みにじるものである。

(C)谷川昌幸

Written by Tanigawa

2011/02/23 at 08:18

キランvsプラチャンダvsバタライ

マオイストは、11月21日からゴルカのパルンタールで第6回拡大党大会を開催する。その党大会には、プラチャンダ議長、キラン副議長、バブラム・バタライ副議長の3指導者が、それぞれ運動方針案を提出する。ところが、党大会以前にこれが党外に漏れ、各紙が取り上げ、けんけんがくがくの議論を始めた。機密じゃじゃ漏れ。ネパール・マオイストも民主的になったものだ。

1.キラン副議長
左翼過激派は、キラン(モハン・バイダ)副議長。彼によれば、主敵の米帝は今やふらふら、世界革命の客観条件は熟しつつある。ネパール人民にとっては「インド膨張主義」と「ネパール反動勢力」が当面の敵であり、これらをまず殲滅しなければならない。

したがって、マオイストが「人民政府」を解散し、「人民戦争」終結宣言を出したのは、誤りであった。今後は革命的諸勢力の人民統一戦線を強化し、人民蜂起・人民戦争による「人民連邦共和国」の建設を党の運動方針とすべきである。

ところが、プラチャンダ議長は、人民蜂起・人民戦争を棚上げし、右派機会主義者に屈服している。彼は修正主義に傾いている。

2.バブラム・バタライ副議長
バタライ副議長によれば、革命は街頭運動・制憲議会・政府機関の3つを、この順で優先順位を付けつつ、利用すべきであるにもかかわらず、プラチャンダ議長はこれを理解せず、そのため党活動が混乱し革命は前進していない。街頭運動で圧力をかけ、政府機関に浸透しつつ、運動を進めていくべきだ。

また、革命戦略と行動計画は、内外の権力バランスを考慮して作成されなければならない。ネパール人民の敵は、「インド膨張主義者に支援された国内反動勢力」である。バイダ副議長のように「国内反動勢力」と「インド膨張主義者」を丸ごとネパール人民の敵とするのは誤り。「インド膨張主義者」がネパールを直接攻撃しているわけではない。

また、プラチャンダ議長のように王党派との協力を考えるのは、マオイストの立場を害するものであり、誤りである。

3.プラチャンダ議長
プラチャンダ議長によると、ネパールは、革命と独立を目指す勢力と、それらに背を向け「外国反動勢力に屈服する勢力」とに二極分化しつつある。

問題は、党幹部たちの対立。リーダーたちに規律がなく、派閥抗争、分派の動きがあり、運動目標の実現を妨げている。

革命運動は、内外の情勢を見てバランスを取ることが必要だ。街頭運動・制憲議会・政府機関の3戦線作戦は誤り。議会と政府機関を通して運動を進め、進歩的憲法を制定することを目指すべきだ。

4.三極構造の妙
三極構造はもっとも明快な安定した権力構造であり、マオイスト党内が三極構造に落ち着くのは、ごく自然な成り行きである。

急進派のキラン副議長と穏健派のバタライ副議長の二極を、プラチャンダ議長がどうまとめるか? プラチャンダ議長とは話したことはないが、近くで見ただけでもカリスマ性を感じさせる指導者だ。しかも、天性のネアカ。急進派を牽制しつつ、平和構築を進めて行くには欠かせない人物だ。

マオイストが分裂し、収拾のつかない内戦が始まると、たいへんだ。ここはネアカのプラチャンダ議長の政治的手腕に期待したい。

* “Maoist top guns agenda for plenum,” Himalayan News Service, Nov. 12.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2010/11/13 at 18:14