ネパール評論 Nepal Review

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人民銭争,勃発

人民解放軍(PLA)の社会復帰希望者7365人の除隊が始まったとたん,新たな戦い「人民銭争」が始まった。

いま除隊者には,1人当たり50~80万ルピーが支給されているが,マオイストは公式・非公式に除隊者から支給小切手と身分証明書を取り上げている。

第1の理由は,戦闘員資格非認定のPLAメンバー6500人の救済資金に回すため。彼らには,支給金の50%相当額を支払うとの約束があるという。また,人民戦争で戦ったYCLメンバー約1000人には,除隊者と同等の支給金が約束されているともいう。

第2は,PLAの傷痍軍人,妊産婦戦闘員,未成年者への扶助資金などに回すため。

以上は,もっともな理由ではあるが,しかし,除隊者からすれば,支給金の半分をピンハネされるわけで,たまったものではない。かくして,分け前をよこせという側と,拒否する除隊者との間で,激しい銭争が始まったのだ。

こんな事例さえある。あるPLA上官が,病欠中の保護を理由に,女性除隊者に225000ルピーの支払いを要求,彼女は保護を求めて警察署に逃げ込み,外に出られない状態だという。彼女は,かつて襲撃した警察に,いまは保護されているのだ。

もっとドロドロしているのが,毎月徴収されてきた積立金(上納金?)。マオイスト戦闘員は,月1人当たり1000ルピーを部隊指揮官に払ってきた。除隊にあたって,この積立金(上納金?)の払い戻しを求めたところ,拒否され,ここでも激しい銭争が始まっている。

このように,巨額の支給金や積立金をめぐる醜悪な銭争で,いまやマオイストは内戦状態だという。しかし,そこはネパールのこと,いずれ勝つべき者が勝ち,この銭争も遠からず終わるだろう。

マオイストは,人民戦争の勝利により,一番の大金持ち政党になった。党本部は高台の超豪華リゾート邸宅風。内部も,なかなかおしゃれ。そして,われらがプラチャンダ議長も,昨日紹介したように,市内の超豪華住宅に引っ越した。

 マオイスト本部御殿

それもこれも,すべて人民戦争を戦った愚直な人民兵士のおかげだ。ところが,マオイスト幹部らは,あれこれ理屈を付け,彼らへの給付金の上前をはねる。こうして,人民は勝利の成果の多くを横取りされ,今度は身内での仁義なき「銭争」に駆り立てられるのだ。

しかし,今度の「人民銭争」では,農民・労働者に勝ち目はない。悲しいことだが,彼らはいつも利用され,使い捨てにされる運命にあるのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/08 at 19:12

カテゴリー: マオイスト, 政党

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人民解放軍,除隊開始

1.人民解放軍の除隊手続開始
全国の駐屯地(cantonment)に収容されている人民解放軍(PLA)戦闘員の除隊手続が,2月3日から始まった。平和構築への一歩前進である。

今回の除隊は,社会復帰希望者7365人が対象。(国軍統合希望者は9705人。) 除隊手当として,1人当たり50~80万ルピーと帰郷旅費が支給される。ただし,今回支給は半額で,残りは次年度支給となる。

2.ネパール式交渉術の妙
この除隊開始は,高く評価できる。いかにもネパールらしく,駐屯地収容から5年もかかったが,その間,ネパール式交渉術で少しずつ利害を摺り合わせていき,3日の除隊開始にこぎつけた。PLA戦闘員たちは,劣悪な駐屯地で5年間もよく頑張ったものだ。

3.除隊後の不安
しかし,その一方,心配も尽きない。除隊マオイストの多くはとりあえず故郷に帰るのだろうが,果たして受け容れられるだろうか? もっぱら他の村で「外人部隊」として暴れていたのなら比較的安全だが,もし出身地で闘っていたのなら,敵も多いはずだ。

また,除隊給付金50~80万ルピーは大金だが,村に仕事があるわけはない。もし10年前後も人民戦争に明け暮れていたのなら,戦争以外の知識も技能もないわけで,そのような人々が社会生活にすんなり適応できるはずがない。支給金など,すぐ使い果たし,生活できなくなってしまうだろう。

もっと不安なのが,かなりいるとされる傷痍軍人。特別プログラムでも組まないと,除隊後,たちまち生活に困る。その不安から,彼らは駐屯地内で特別プログラム要求闘争を始めた。しかし,弱者ゆえ,彼らの要求は無視されてしまいそうである。

4.国軍統合への展望
国軍統合を希望している残りの9705人についても,展望ははっきりしない。11月1日の「7項目合意」では6500人統合となっており,3千人もあぶれる。

いずれにせよ,特別部隊を編成しての統合になるのだろうが,指揮系統もPLA出身者の処遇もまだはっきりしていない。国軍統合には,もう少し時間がかかりそうだ。

5.PLA兵卒は利用されただけか?
いまマオイストが,政官財で「美味しい果実」を手に入れた勝ち組と,わずかな支給金でお払い箱になったり「国土建設警備隊」のような部隊に兵卒として組み込まれたりする負け組とに,二分化しつつあることは確かだ。負け組は,当然,勝ち組を非難する。

「われらの犠牲は金に換えられた。この日のために革命に参加したのではない」(チトワン除隊戦闘員)
「多くの同志が戦いの中で生命を犠牲にし手足を失った。そして,いま私たちは家畜のように売られていく」(Nabin BC)

多くのPLA戦闘員にとって,これは偽らざる心境であろう。英雄は,兵卒の血と汗と涙を糧に名声を高め,地位と富を得,死後に像を残す。歴史とは,結局,そのようなものなのだ。
* ekantipur, 2-4 Feb.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/05 at 22:15

制憲議会半年延長と人民解放軍解体

第11次改憲案が可決され,制憲議会任期が6ヶ月延長された。賛成505,反対3。最高裁は,これを最後の延長と判決しているので,5月末までに新憲法を制定しなければならない。といっても,また延長の可能性がない訳ではないが。

一方,人民解放軍も雪崩を打ってグループ分けに参加,幹部たちはそろって軍統合を希望した。

希望状況(28日現在)
 国軍統合:8738人,除隊給付金希望:7031人,社会復帰プログラム希望:5人,計15774人

国軍統合希望が,予定人数6500人を超えたが,この程度であれば,調整可能だろう。人民解放軍は解体に向かっている。

これは,プラチャンダ議長,バブラム首相らマオイスト主流派の勝利といってよい。この調子では,没収土地の返却も進むかもしれない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/29 at 22:04

土地返却とPLA解体,マオイスト反主流派劣勢

このところ,予想外に,バイダ副議長,タパ書記長らのマオイスト反主流派が劣勢だ。

1.土地返却
マオイストの大義中の大義「耕作者の土地」の地主への返却が始まった。ekantipur(Nov25)によると,バルデヤ郡の農民28人が土地30ヘクタールを地主のBD.チャンド氏に返却させられた。立ち会ったのは,マオイスト・NC・UML各代表,地方行政府代表ら。

地主のチャンド氏は,紛争中は,地代(年貢)を全く受け取れなかったが,和平成立後,ようやく収穫の1/3が受け取れるようになったという。バルデヤ郡では,600haが没収されており,244人が返還請求中。

それにしても,チャンド一族は30ヘクタールもの農地を持ち,28人に小作をさせている。現在はカトマンズ在住。マオイスト理論からすれば,封建地主の見本のような家族だ。その不在地主に,マオイストも立ち会い,土地を返却させた。和平成立後の年貢1/3も,おそらく元の1/2に戻されるだろう。

マオイストは本気だろうか? それとも,象徴的なセレモニーにすぎないのか?

2.人民解放軍解体
人民解放軍(PLA)の解体も,予想外に順調に進んでいる。

先の「7項目合意」で,PLAの国軍統合人員は6500人以内と決められた。他は社会復帰。このPLA解体案に従い,現在,駐屯地収容戦闘員の組み分けが進められている。明日,27日に完了予定。

戦闘員の組み分け(11月25日現在)
国軍統合希望 5,254人; 給付金支給希望 3,777人; 計 9,031人

国連認定戦闘員は約1万9千人だから,あと1万人ほど残っているが,駐屯地にはそれほどはいないらしい。かなりの戦闘員が,駐屯地から抜け出し,どこかで何かをしている。マオイスト幹部が,早く戻れと命令しているが,さて,何人戻るか?

いずれにせよ,国軍統合枠6500人に対し,応募5254人だから,「脱走兵」が大挙原隊復帰しなければ,PLA解体は順調に進むことになる。

3.劣勢のマオイスト反主流派
このように,バイダ副議長,タパ書記長らのマオイスト反主流派は,いまのところ劣勢だ。これで,もし制憲議会が6ヶ月延長されれば,マオイスト体制派(既得権益享受派)は万々歳であり,「反革命」がさらに進行するであろう。

ひょっとして,王政復古となったりして。

【参照】没収地返却拒否,マオイスト反主流派
没収財産を返却せよ,プラチャンダ議長
和平7項目合意成立,プラチャンダの決断

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/26 at 11:32

第11次改憲案撤回と人民解放軍解体開始

マオイスト,NC,UMLの主要3党とUDMFは,11月18日,第11次改憲案を撤回し,「連邦制特別委員会」を設置することに合意した。特別委員会は,2ヶ月以内に,連邦区画案を提出する。また,邦区画は,アイデンティティを基準とする。

これは,バイダ副議長らのマオイスト反主流派の勝利のように見えるが,一方,今日(19日土曜日)から人民解放軍の解体作業――国軍統合組と社会復帰組への仕分け――が開始されることを考え合わせると,一種の取引とも見える。

連邦区画なんか実際にはどうでもよく,問題は人民解放軍の解体。飴玉の改憲案撤回でメンツを立ててやり,その代わり人民解放軍解体に着手する。

しかも,特別委員会答申を2ヶ月先としたことにより,11月末で任期満了となる制憲議会の任期をまたまた3ヶ月延長する大義名分も得られる。

1石3鳥。ネパール政治は,なかなか奥が深い。というか,法の支配による予見可能性が,極端に低い。やはり,ポストモダンではなく,モダンが先ではないかな? 

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/19 at 11:04

キラン=バダルの「新人民戦争」警告

1.新人民戦争
マオイスト反主流派のキラン副議長とバダル書記長が,11月2日付声明において「7項目合意」を全面的に否定し,撤回しなければ,「次の歴史的人民運動の開始」は避けられない,と警告した。一種の最後通牒ともいえる。
  ■和平7項目合意成立,プラチャンダの決断

2.軍統合について
声明は「7項目合意」のほぼ全面否定だが,特に問題にしているのは,第1に,人民解放軍(PLA)の統合方法。

声明は,PLAを個人単位ではなく部隊単位で,また武装解除の丸腰ではなく武装した軍隊として国軍に統合せよと要求している。

統合比率は,国軍65%+PLA35%ではなく,国軍50%+PLA50%とする。

さらに,統合後の任務は,「建設開発,森林警備,産業保安,災害対応」といった建設作業員やガードマンのような仕事ではなく,ちゃんとした軍人としての名誉ある任務とする。

このPLA統合方法については,当初から意見が激しく対立していたが,プラチャンダ=バブラム主流派が国軍要求を呑んだことにより,「7項目合意」として成立した。キラン=バダル反主流派は,その根本のところを全面否定しているのだ。

3.没収財産の返却
第2の問題は,人民戦争中にマオイストが没収した財産の返却。

没収財産がどのくらいあるのか分からないが,人民戦争中,マオイストが地主や高利貸しや他の資産家を襲撃し,土地,建物や他の財産を没収,貧困人民に分配したことは周知の事実だ。(分配と称して,マオイストがピンハネ,横領しているものも多数あるにちがいない。)「7項目合意」では,それらの没収財産を元の所有者に返却し,損害賠償もすることになっている。

「7項目合意」のこの部分を見たとき,これは凄い,「反革命的!」と感動したが,同時に,そんな反革命的に凄いことはできないのではないか,と心配になった。案の定,キラン=バダル反主流派は猛反発し,土地配分を受けている農民らと共に立ち上がる,と警告している。

4.懐柔されるマオイスト主流派?
一方,「反国家的・反人民的合意」(声明)の締結にこぎつけたプラチャンダ=バブラム主流派政府は,帝国主義筋の美味しいご接待で陥落寸前。

PLA統合の重責を担う政府の「軍統合特別委員会(AISC)」の委員5人(過半数)は,米政府のご招待で訪米,「民軍関係訓練」を受けている。カリフォルニアの「陸海軍アカデミー」のプログラムだそうだ。さすがアメリカ,マオイスト統合後のネパール国軍も,ちゃんとリモートコントロールするための手当をしている。

しかも,この米陸海軍「民軍関係訓練」と併行して,プラチャンダ使節団が訪米し,バン国連事務総長と会談,ルンビニ開発支援の言質を取った。オバマ大統領,クリントン国務長官とは,会見したという報道はないので,会えなかったのだろう。しかし,いずれにせよ,大金と巨大利権の大プロジェクトに,マオイスト主流派が,国連=米韓中を引き込んだ,あるいは引き込まれた,ことは確かだ。

ネパールは小国だが,地政学的には,印中の台頭とともにますます重要性が高まってきている。その諸勢力入り乱れての権謀術数の渦中で,ネパール政治がどう動いているのかを見極めるのは至難の業だ。

プラチャンダ議長は,世界を手玉に取っているのか,それとも世界帝国主義勢力に懐柔されているのか? キラン=バダル反主流派とプラチャンダ=バブラム主流派との争いは,譲歩引き出しのための出来レースではないのか? どこまで本気で,どこまでやらせか?
 
いつもながら,摩訶不思議,よく分からない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/18 at 11:50

制憲議会任期切れと軍統合問題

制憲議会の任期が,11月30日で満了する。それまでに人民解放軍の処遇を決め,憲法改正案を作成しないと,またまた制憲議会の任期延長となる。

これ以上の任期延長が難しいことは皆わかっているので,このところ,交渉がかなり煮詰まってきた。憲法案は,その気になれば,明日にでもできる。問題は,その気になるかどうかだ。(日本でも,マッカーサー草案提示後,2ヶ月程度で憲法改正案が作成された。)

人民解放軍の処遇についても,双方の要求がかなり接近してきた。

            マオイスト      NC・UML
国軍統合兵員数     7千人       5千人
社会復帰給付金(1人) 60-90万ルピー   30-60万ルピー

人民解放軍の本来の兵力は,せいぜい5~7千人。これはプラチャンダ議長も認めている。国軍統合兵員数では,合意は近いといってよい。

社会復帰する残りの1万3千~1万5千人への給付金も,1人あたり90万ルピー以内であり,これも十分妥協可能な数字だ。

バブラム首相やプラチャンダ議長は,ほぼ上記の線で手を打ちたいと考えているのだろうが,問題はバイダ副議長らの急進派。1万数千人もが,一時金で社会復帰に納得するかどうか? 

人民解放軍の処遇が決まらないと,新憲法もできず,制憲議会をまた延長せざるをえない。11月30日まで,後一ヶ月。またまた危機がやってくる。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/10/29 at 18:31

カテゴリー: その他, マオイスト, 平和

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