ネパール評論 Nepal Review

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仏僧のルンビニ開発反対デモ

仏教僧侶たちが,仏教の政治的利用への反対の声を上げ始めた。12月7日,カトマンズでは,数百人の僧侶らが「宗教に政治を持ち込むな!」といったプラカードを掲げ,デモ行進した。ネパールのお坊さんたちは,えらい。

 仏僧のデモ(クリック再生)

たしかに,プラチャンダは,偉大な政治家だ。彼にとって,仏教なんか掌中のコマの一つにすぎない。チベット封じ込めを狙う中国を引き込むための餌として,狡賢いキリスト教を屈服させるための「平和の哲学」として,そして洪水のように押し寄せるであろう開発利権の呼び水として,政治的に利用してどこが悪い。

平和学の教祖ガルトゥング博士も,ユダヤ教,キリスト教,イスラム教が危険な原理主義に陥りやすいのに対し,非暴力・慈悲を説く仏教は「世界が切実に必要としているものです」と述べ,仏教を絶賛しているではないか。

  ■仏教の政治的利用:ガルトゥング批判

マルクス主義者にして毛沢東主義者たるプラチャンダの掌の上で踊る仏様に,世界中の敬虔なキリスト教徒,ヒンドゥー教徒,イスラム教徒,そして罰当たりな無神論者らが拝跪し,大枚のお布施を差し出すかどうか,これは見物だ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/12/08 at 11:43

カテゴリー: インド, 経済, 外交, 宗教, 中国

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ルンビニと国連と憲法,プラチャンダの凄腕

1.ルンビニ国際会議,3月開催
プラチャンダ(マオイスト議長,ルンビニ開発国家調整委員会議長)は,ルンビニ開発国際会議を2012年3月,ルンビニで開催することにした。招待予定は,16仏教国元首と仏教高僧,そしてパン・ギムン国連事務総長。日本は招待されるのかな?

2.憲法制定と国連関与の高等戦術
ここで興味深いのが,パン事務総長が憲法制定を出席の条件にしていること。ルンビニ会議までに憲法草案が成立していなければ出席しない,成立しておれば出席する。つまり,パン事務総長としては,国連関与で新憲法制定・平和再建にめどをつけたという実績をルンビニで世界に向け誇示したいわけだ。

【憲法制定予定日程】
  憲法第1草案完成 2月13-27日
  憲法案完成    4月20日-5月20日
  新憲法可決・公布 5月21-27日

これだけ見ると,いかにも国連が主導権を握っているようだが,しかしもう少し子細に見ると,イニシアチブはむしろプラチャンダの方にあるように思われる。プラチャンダは,対内的にはルンビニ開発の巨大利権をエサに,マオイスト主導による新憲法制定を認めなければ,国連事務総長が訪ネせず,ルンビニ開発もパーになる,と圧力をかけている。そして,対外的には,国連が新憲法制定・ルンビニ開発に協力しないと,これまでの平和構築努力が全部パーになり,責任は免れないと脅す。弱者の強みだ。

プラチャンダは,国連と国内諸党を手玉に取っている,あるいは,取ろうとしている。恐るべき凄腕だ。

 札束踊るルンビニのプラチャンダ(Telegraph,Dec7)

3.プラチャンダの掌中の仏教
いや,そればかりではない。プラチャンダは,ヒンドゥー教最高位カーストのブラーマン(バラモン)であるにもかかわらず,仏教を賛美し,そうすることにより仏教を手玉に取り,政治的・経済的に仏教を利用し尽くそうとしている。

来年3月のルンビニ国際会議には,16仏教国元首と仏教高僧を招き,仏教を称え,キリスト教徒の国連事務総長さえも仏様に拝跪させようとたくらんでいるのだ。

もちろん,国連にも中印韓米にも,それぞれの思惑があるのだろう。中国は,反チベット派仏教高僧を送り込めば大成功。またラサ=加徳満都=ルンビニ鉄道利権もある。韓国には,パン事務総長と連携したルンビニ大開発利権がある。米印には,ルンビニ開発関与による中国牽制,等々。

プラチャンダは,それら全部を計算に入れた上で,目的合理的に動いている。いまや世界的政治家だ。

4.カヤの外の日本
この華やかなプラチャンダ外交・国連政治のカヤの外に置かれ,悲哀を託つのが,落日のわが日本国。

ルンビニ開発国家調整委員会は12月2日,関係諸国・諸機関と協議したが,報道によると,招かれたのはインド・中国・韓国の大使と,世界銀行・ユネスコの代表だけ。日本は,国家としては,完全に無視され,カヤの外。

来年3月のルンビニ国際会議に招かれる16仏教国の中にも,ひょっとしたら日本は入れてもらえないかもしれない。世界に冠たる仏教大国なのに。

もちろん,仏教の政治的利用に反対し,日本自ら毅然として参加拒否するのであれば,それは潔く立派な態度である。それであれば,私は,仏教徒として,日本国政府を断固支持する。

* ekantipur, Dec.6.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/12/07 at 11:34

国連に赤旗,プラチャンダの勝利

われらがプラチャンダ議長が,国連訪問の所期の目的をほぼ達成,世界的政治家の仲間入りを果たした。めでたい。

1.国連事務総長,ルンビニ開発支援を約束
11月8日,プラチャンダは,ネパール政府ルンビニ開発委員会(HLNSC)委員長としてパン国連事務総長と会見,彼に,3月開催予定の国際ルンビニ開発会議への出席と,「国際ルンビニ開発委員会」議長への就任を要請した。

パン事務総長は,3月の国際ルンビニ開発会議への出席と,ルンビニ開発への政治的・精神的支援を約束した。

「国際ルンビニ開発委員会」については,ルンビニ開発応援団の「リパブリカ」は,1ヶ月以内にパン事務総長を長とする「国際ルンビニ開発委員会」が発足すると報道しているが,他紙はそこまでは断定していない。おそらく,議長就任の明確な言質まではとれなかったが,受諾してもよいというニュアンスの回答は得たのであろう。

2.国連に赤旗
プラチャンダは,エベレストに赤旗を立てるとホラを吹き,実現した。次に,世界に赤旗を立てるとホラを吹き,これもまた実現した。

プラチャンダは,アメリカがテロリスト監視集団に指定している(2011年10月現在)マオイストの親分である。ネパール政府HLNSC議長などという肩書きはほとんど知られていない。彼は,世界最強の現役暴力革命主義政党マオイストの党首であり,「勇猛なプラチャンダ」として恐れられている。そのプラチャンダ党首の要請を,パン事務総長はほぼ丸呑みした。プラチャンダは,国連に赤旗を立てたのだ。

3.ブラーマン仏教平和主義
プラチャンダが,ヒンドゥー教と距離を置いてきたことは,事実である。首相の時,ヒンドゥー教伝統儀式には出席しなかったし,つい最近の実父の葬儀でも重要なヒンドゥー教儀式を回避した。

しかしながら,プラチャンダがヒンドゥー教の最高カースト,ブラーマン(バラモン)に属することは明白な事実である。

そのブラーマンたるプラチャンダが,唯物論共産主義政党の党首として,仏教を万人の拝跪すべき平和主義として喧伝し,仏教聖地ルンビニを「世界平和都市」としようとしている。そして,その「ブラーマン仏教平和主義」を,キリスト教徒の国連事務総長が全面的に支援する。そこに,仏教徒はいない!

世界には,キリスト教,ユダヤ教,ヒンドゥー教,神道,無宗教など,様々な立場の人々がいる。その全世界を代表すべき国連が,仏様(仏像)の前で,本来の仏教徒を無視し,世界平和式典を主催あるいは共催してよいのか?

私は,生まれながらに仏教徒であり,道元なども少々かじり,仏教は立派な宗教であると確信している。しかし,それだからこそ,マオイストによる仏教の政治的・経済的利用は許せない。もしマオイストがマオイストなら,堂々とマオイズムの立場から,あるいは非宗教的立場から,平和思想を構築し,それに沿って平和運動を展開すべきだろう。

4.偉大なプラチャンダ
むろん,そんなことは十二分にわかった上で,われらがプラチャンダは,仏教を政治的に,また経済的に,利用しまくっている。いや,国連までもが,プラチャンダに引きずり回されている。

やはり,プラチャンダは偉い。

* Republica,Nov.9&10; Nepalnewscom, Nov.8&9; ekantipur, Nov.9; Rising Nepal, Nov.10.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/11 at 11:15

ルンビニ開発と国連事務総長選挙

共産中国の新華社記事(ネット版)は,即物的,唯物論的で面白い。ルンビニ開発問題でも,アッサリこう書いている。

1.国連工業開発機関・パラス・プラチャンダ
新華社記事(7月18日)によれば,「アジア太平洋交流協力基金(APECF,執行共同議長Xiao Wunan)」は6月,ルンビニ開発に関する覚え書きをネパール政府との間で締結した(当時の首相はUMLのカナル)。

つぎにAPECFは7月15日,ルンビニ30億ドル開発計画に関する覚え書きを「国連工業開発機関(UNIDO,中国投資・技術移転促進事務所所長Hu Yuondong)」との間で締結した。

このAPECFの共同議長団は「興味深い背景と利害の混合」を見せている。スチーブン・C・ロックフェラーJr,J・ローゼン(米ユダヤ協会議長),L・H・チャーニー(不動産業,米大統領元顧問),そして「UCPN-M指導者にしてネパール元首相のプラチャンダ,およびプラチャンダにより打倒された国王を父とするネパール元皇太子のパラス」である。

APECFのXiao Wunan執行共同議長はこう語っている。「大乗仏教,小乗仏教,そしてチベット仏教諸派を始め,世界中の仏教高僧たちが,このルンビニ開発への大きな期待を表明した。」

これは実に即物的。非常に興味深い記事だ。

2.国連事務総長選挙とルンビニ開発
また別の新華社記事(6月13日)によれば,ネパールはパン・ギムン国連事務総長の再選を強く支持した(再選決定は6月21日)。ネパール首相外交顧問のミラン・トゥラダールはこう述べた(当時の首相はUMLのカナル)。

「パン氏は個人的に,特に平和プロセスに関して,ネパールときわめて親密であった。12項目合意からUNMIN設立にいたるまで,彼はネパール平和プロセスに深く関与された。彼の再選を願っている。・・・・パン氏はまた,仏陀生誕地ルンビニ開発にも特別の関心を示し,指導力を発揮してこられた。彼は,ネパール首相に,2012年にルンビニを訪問すると語った。」

これまた即物的な記事。この記事によれば,少なくともネパール側は,パン事務総長再選支持の見返りとして,ルンビニ開発への国連支援を求め,事務総長側からも肯定的な反応を得たという感触をもっているのである。

Written by Tanigawa

2011/11/06 at 11:43

ルンビニを国際平和都市に,プラチャンダの野望

1.政治家プラチャンダの野望
プラチャンダ議長が,世界政治の檜舞台に立とうとしている。権力欲は政治家の本性であり,プラチャンダ議長が世界的政治家への野望を抱くことは決して悪いことではない。

2.プラチャンダ訪米の目的
すでに紹介したとおり,プラチャンダ議長は,中国系NGO「アジア太平洋交流協力基金(APECF)」の共同議長であり,またネパール政府「ルンビニ開発国家指導委員会」の議長(委員長)でもある。

そのプラチャンダが,ネパール政府ルンビニ開発委員会議長として訪米し,パン・キムン国連事務総長,オバマ大統領,クリントン国務長官らと会談,ルンビニ開発への協力を要請することになった。

またプラチャンダの法螺話かと思われるかもしれないが,決してそうではない。プラチャンダは,APECFの共同議長であり,また自らが果敢に決断し成立させた「和平7項目合意」の手土産もある。さらに,隠し球は,対印牽制。これは凄い,スゴすぎる! やはり,プラチャンダは大物だ。

3.素性不透明のパトロン,APECF
ルンビニ開発のパトロンは,APECF。素性不透明の中国系NGOだが,すでにルンビニ開発に30億ドル拠出を表明しており,現地ルンビニにも覆面調査団を何回もだし,下調べを終えている。また,APECFの実質的運営者と思われるXiao Wunan執行共同議長は2ヶ月前,オーストラリアでパン・キムン国連事務総長と会い,ルンビニ開発について説明,よい感触を得たという。

APECFは,中国の仏教団体を中心に,開発資金を募ることにしている。

■国際ルンビニ開発委員会  議長:パン・キムン国連事務総長(予定),実行委員長:プラチャンダ(予定)
■APECF  執行共同議長:Xiao Wunan,共同議長:プラチャンダ
■ルンビニ総合開発国家指導委員会  議長:プラチャンダ

この希有壮大なルンビニ開発構想は,すでにネパール政府のプロジェクトになっており,「国際ルンビニ開発委員会」が成立したら,APECFもその中に組み込むことになっている。

4.「国際平和都市」ルンビニ
プラチャンダは,抱負をこう語っている。

「ゴータマ・ブッダは,平和のシンボルとして世界中で尊敬されている。われわれは,地球上のあらゆる紛争を解決するためのセンターとして,ルンビニを開発したいと願っている。・・・・ニューヨークに行くのは,ルンビニを国際平和センターとするためである。」(Republica, Nov4)

5.現実主義者プラチャンダの成算
ルンビニを「国際平和都市」に! これはプラチャンダの観念的夢想ではない。国際的な権力関係と利害関係,および地政学的な計算に加え,国内の利害関係へも十分目配りし,さらにはプラチャンダ一族の利益もちゃっかり図りながら,彼はこのルンビニ開発計画を進めていくつもりなのだ。

国連と米中には「平和構築」の大義名分,内外企業には開発利益,そして国内の有象無象には目もくらむばかりの巨大利権配分――誰にも反対の理由はない,インドを除けば

もし目論見通り,プラチャンダ訪米団がパン・キムン国連事務総長,オバマ大統領,クリントン国務長官らと会談し,たとえ大筋だけであってもルンビニ開発への賛同が得られたならば,プラチャンダは,世界的政治家の仲間入りを果たし,そして新憲法制定後の新生ネパール共和国(大統領制移行予定)の初代大統領となるであろう。民主ネパールの建国の父プラチャンダ! ノーベル平和賞も夢ではない。

* Republica, Nov4, Peoples Review, Nov3.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/04 at 20:41

カテゴリー: インド, 経済, 外交, 中国

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ルンビニ開発とプラチャンダと中印米権力政治

1.ルンビニ開発委員会
マオイスト=マデシ連立政府は10月17日,プラチャンダ議長を委員長とする「ルンビニ開発国家指導委員会」の設立と,「ルンビニ観光年2012」を決定した。委員会には,ルンビニ開発計画の作成,外国援助の獲得等の権限が与えられた。

プラチャンダは,中国系NGO「アジア太平洋交流協力基金(APECF)」の共同議長の1人。APECFは,ルンビニ開発に30億ドル拠出するとの協定を国連工業開発機構(UNIDO)との間で締結したと発表し,議論を呼んでいる。(UNIDOは締結否定)

 タライの工場群,ルンビニ2008.9.12

2.アジア太平洋交流協力基金
(1)組織と活動
プラチャンダが共同議長を務めるAPECFは,北京に執行本部を置き,香港を拠点とするNGOだが,その正体はよく分からない。

執行本部:北京
事務所:香港,台湾,広州
活動目的
 ・アジア太平洋地域の開発援助,相互理解促進,新しいアジア型開発モデルの研究など。
 ・香港を拠点に,アジア太平洋地域に貢献。
活動方法
 ・国連,各国政府,他のNGOとの協力。
 ・宗教間の平和的関係強化。
 ・情報技術の活用。
共同議長
 ・S.C. Rockefeller=米ロックフェラー財閥
 ・ J.Rosen=米ユダヤ会議会長
 ・C.H. Charney=米元中東特使
 ・プラチャンダ=ネパール・マオイスト議長
 ・(パラス=ネパール元皇太子。現在は名簿掲載なし。
 ・他に,タイ元副首相,SDCグループ会長,マレーシア常青集団会長
執行共同議長
 ・Xiao Wunan=国連宗教協力機構議長,中国社会経済文化交流協会副議長

(2)執行共同議長
APECFの活動拠点は香港だが,執行共同議長は北京にいる。こうした組織の場合,実権は執行役員が握っているので,この組織はXiao氏または彼を使っている組織が動かしているとみてよいだろう。

Xiao氏は,「世界仏教平和基金」副会長であり,中国共産党幹部である(はっきりした地位不明)。もしそうであるなら,氏の下にあるAPECFは中国政府系の国際NGOということになる。

(3)活動目的
APECFホームページによると,その活動目的は「新しいアジア型開発モデル」による開発であり,そのために「新しいアジア太平洋シンクタンク」をつくり,「宗教間の平和的関係強化」も促進するという。なにやらきな臭い。

「新しい」を「中国型」と置き換えられないだろうか? また,Xiao氏は「世界仏教平和基金」副会長。この基金がどのような「仏教」の立場に立つのか分からないが,もしかして「宗教間の平和的関係強化」もチベットがらみなのではないだろうか? よく分からない。

さらに不思議なのは,中国政府系なのに,米英の財閥系や政府系の要人が共同議長に名を連ねていること。中国や米英のしたたかさ,懐の深さがうかがえるが,その意図がどこにあるのか,やはりよく分からない。

(4)パラス元皇太子とプラチャンダ議長
そして,ネパールにとって摩訶不思議なのが,なんと,あのパラス元皇太子が共同議長(設立メンバーとして?)に名を連ねていたこと。

現在の名簿にはパラス元皇太子の名はないが,その代わりに(パラス元皇太子の後任として?)われらが英雄プラチャンダ議長が共同議長となっている。ネパール・マオイストは,米テロリスト・リストに載せられている。そのテロリストの親玉を共同議長の1人とし,そこには米英資本主義の親玉が名を連ねている。

これは不思議? ロックフェラー家,米ユダヤ会議,米政府元高官,華僑資本――これらが,ネパールとどのような関係にあるのか?

3.プラチャンダの目論見
(1)利権と政治的計算
APECFルンビニ開発は,黄金色の生臭い話しだが,清濁併せのむ豪傑,プラチャンダのやりそうなことだ。もしこれが政府決定通り実行されれば,おそらく巨大な直接的・間接的利権がプラチャンダ議長側に転がり込むだろう。これは明々白々。

そして,プラチャンダの凄さは,その明々白々なことを,白昼堂々とやってしまうところ。巨大ベッドを公邸に搬入したのと同じ天真爛漫さ。愛嬌があり,憎めない。

しかし,ルンビニ開発は,プラチャンダの政治的リアリズムに裏打ちされた,よく計算された現実的政策でもあることを見逃してはならない。

(2)仏教の政治的利用
プラチャンダは毛沢東主義者であり,かつての国教,ヒンドゥー教とは意識的に距離を取ってきた。ネパールでは,反国王民主化運動は,宗教的には反ヒンドゥー,親仏教で闘われてきた。ヒンドゥー教は,ビシュヌ化身たる国王支配のイデオロギーとして,またカースト支配を正当化する封建制イデオロギーとして,厳しく批判された。

これに対し,仏教は,平和学教祖ガルトゥングが唱えるような平和の宗教として,また反カースト差別の人権宗教・民主主義宗教として,褒め称えられ,いまやネパールの準国教とされている。高カーストの政治家や知識人ですら,口を開けば,仏教万歳であり,国家諸機関も仏画・仏像をお守りとして,いたるところで利用している。

プラチャンダ議長が,ルンビニ開発に目をつけたのは,さすがである。プラチャンダは,仏教など屁とも思っていないだろうが,ネアカ現実主義者として,仏教は政治的に十分利用できると計算したのだ。

(3)政治的現実主義者
さらに注目すべきは,プラチャンダが共同議長として中国系NGOを引き込んだこと,ルンビニ開発が,中国をバックとしたパワーポリティックスの側面をもつことは明白である。しかも,米英政財界の保険も掛けてある。

インドの目の前,国境沿いに,ヒンドゥー教と敵対する仏教の巨大センターが,インドと敵対する中国の支援で,建設される。これは,生々しいパワーポリティックスであり,プラチャンダは,リアリストとして,そこにネパール国益を掛けようとしているのだ。

また,これはマオイスト政権を支えるマデシ対策の側面もある。ルンビニ開発が始まれば,様々な利権が生まれ,それらをタライ有力勢力にばらまくことができる。マデシは一般に親インドだが,開発と利権によりマオイスト支持に向かわせることができるかもしれない。マオイスト=マデシ連合で,NC,UMLを干上がらせてしまうのだ。

4.プラチャンダの現実主義的ナショナリズム
プラチャンダは,やはり大物だ。ネアカのくせに,底知れぬリアリズムの不気味さがある。

ルンビニ開発は,中・印・米の権力闘争の場であり,ヒンドゥーと仏教の宗教闘争の場であり,開発利権をめぐる中国資本と米英資本の競争の場であり,そしてネパール・ナショナリズムのための現実主義者プラチャンダの闘いの場でもある。ちょっと,褒めすぎかな? が,そう見た方が,プラチャンダの私利私欲とみる,下種の勘繰りのような見方よりも,断然面白い。

今後,タライがネパールの政治・経済の中心になることは,間違いない。ルンビニ開発は,その文化的先兵であろう。プラチャンダは,そのネパール文化革命の旗手たらんとしているのではないか? 具体的には何の根拠もないが,そんな気がしてならない。

* http://www.apecf.org/english/index.html
* ekantipur, Oct17; Himalayan, Oct17.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/10/19 at 15:00

ブッダ平和賞の二面性

ブッダ(仏陀)国際平和賞受賞の田上長崎市長と秋葉前広島市長が,16日,トリブバン空港に到着した。被爆者2名も同行。

授賞式は,仏陀生誕地ルンビニおいて,仏陀生誕日(Buddha Jayanti,バイサクの満月,2011年5月17日)に挙行される。

授賞式では,ヤダブ大統領が,受賞者2氏に金メダルと賞状と賞金5万ドル(各2.5万ドルの現金)を授与する。
トリブバン空港着の受賞者(Republica 2011-5-17)

田上,秋葉両氏への仏陀平和賞授与は,オバマ大統領の核廃絶宣言や福島原発事故で世界世論が反核に大きく転回し始めたいま,時宜を得た決定である。

トリブバン大学(キルティプル,カトマンズ)では,長崎原爆展(5月18-21日)も開催され,ここには駐ネパール大使も来賓として出席され,日本政府・日本国民代表として開会挨拶をされる。

以前であれば,外国での原爆展に日本大使が出席し反核を訴える、といったことは考えられないことであった。核をめぐる世論は,劇的に変化した。これは喜ばしいことであり,高く評価される。

しかし,その一方,「仏陀」は仏教開祖であり,仏教徒の信仰対象である。通俗的には,キリスト教における「イエス」と同じ。

ネパール政治においては,仏教(仏陀)は,1996年人民戦争開始以来,伝統的なヒンドゥー教王国(高カースト支配体制)打倒のための革命イデオロギーの一つとして利用され,2006年春の王制打倒成功後は,革命共和国の正当化イデオロギーとして政府・新体制派により利用されてきた。

あえていうならば,仏教はネパール共和国(与党は統一共産党と毛沢東派共産党)の準国教なのである。

われわれは,田上長崎市長・秋葉前広島市長の仏陀平和賞受賞を祝福し,その世界的意義を高く評価しつつも,仏陀が仏教の「神」であり,仏教がネパール共和国の準国教である,という事実をも忘れてはならない。

ルンビニでの平和賞授賞式は,おそらく仏教の寺院か関連施設で挙行される。もしそうであれば,授賞式は「仏前授賞式」となるであろう。
ブッダ生誕地(2008-9)

ルンビニ(2008-9)

ルンビニの五戒碑(2008.9)

上記碑文(2008.9)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/17 at 12:08