ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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史上最大のデウバ内閣,大臣56人

ネパールはいま,2007年暫定憲法体制から2015年憲法体制への移行期。憲法はすでに2015年憲法になっているが,この憲法に基づく連邦議会選挙はまだ行われておらず,現在の議会や内閣は旧2007年憲法に基づき選出されたもの。そのため移行期特有の様々な矛盾や問題が生じている。

その一つが,巨大議会と巨大内閣。制憲議会は,人民戦争を戦った諸勢力を包摂するため定数601の巨大議会となった。本会議は大ホールで開かれ,後方席からはオペラグラスでも持ち込まないと前方の様子がよく分からない。発言者のツバがかかりそうな英国議会とは対照的だ。

内閣も諸勢力包摂のため巨大化する一方。2007年暫定憲法によれば,首相は「政治的合意」に基づき,副首相,大臣,副大臣および大臣補を,原則として議会議員の中から選出する。もともと議会が巨大であり,包摂のための合意も必要だから,これだけでも内閣は大きくなりやすい。しかも,大臣ポストは分配する側にも分配される側にとっても巨大利権だから,包摂民主主義の下で内閣拡大を止めることは極めて難しい。直近の3内閣の大臣数は次の通り。
 ・オリ内閣(2015年10月~16年8月):40人
 ・プラチャンダ内閣(2016年8月~17年6月):41人
 ・デウバ内閣(2017年6月~現在):56人

現在のオリ内閣56人は,ネパール史上最大。さすがにこれは多すぎる,党利党略だ,政治の私物化だ,などと批判されているが,これに対しデウバ首相は9月21日,国連本会議出席のため滞在中の米国において,憲法は議員総数の10%まで大臣を認めているので,最大60人まで任命可能だと答えたという。(議員総数の10%までという規定は,どこかにあるのであろうが,管見の限りでは見当たらなかった。)60人とは,これはまたスゴイ! さすが包摂民主主義モデル国だ。

しかし,このような包摂を名目とした大臣職の大判振る舞いは,政治の在り方として,本当に望ましいことだろうか?

一つは,いまは新憲法体制への移行期だということ。2015年憲法に基づく連邦議会選挙が11月26日/12月7日に実施される。現在の立法議会の任期は2018年1月21日までだ。

しかも,2015年憲法は,内閣につき,次のように定めている。
 ・・・・<以下引用>・・・・
第76条 大臣会議[内閣]の構成
(9)大統領(राष्ट्रपति)は,首相(प्रधानमन्त्री)の勧告に基づき,連邦議会議員の中から包摂原理に則り選ばれた首相を含む最大25人の大臣(मन्त्री)からなる大臣会議(मन्त्रिपरिषद्)を構成する。
 解釈:本条において,「大臣」は,副首相(उपप्रधानमन्त्री),大臣,副大臣(राज्यमन्त्री)および大臣補(सहायक मन्त्री)を意味する。
 ・・・・<以上引用>・・・・

連邦議会選挙が行われ,新議会が成立すれば,大臣数は半分以下に制限される。来年早々のことだ。それなのに,デウバ首相はさらに大臣を増やすことすら考えているという。任期満了直前の大臣職利権のバラマキのように見えてならない。

もう一つは,政治的・経済的合理性があるのか,という点。内閣を拡大すればするほど,政治過程が複雑となり,直接・間接経費も増える。民主主義,とくに包摂民主主義は手間とカネがかかるものとはいえ,これほどの内閣巨大化は主権者たる人民の利益とはならないのではあるまいか。

 ■プラチャンダ前首相らと会見するデウバ首相(首相ツイッター)

*1 “Cabinet expansion a compulsion, says Prime Minister Deuba,” Himalayan, September 13, 2017
*2 “60-member cabinet could be formed as per Nepal’s constitution: PM Deuba,” Republica, September 22, 2017
*3 “Deuba hints at expanding cabinet further,” Republica, September 23, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/09/27 at 21:03

カテゴリー: 行政, 議会, 憲法, 民主主義

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オリ内閣拡大,最高裁追認

ネパール最高裁は1月13日,オリ内閣拡大に対する違憲の訴えを棄却した。

昨年末,オリ首相が内閣を憲法76条規定の25人以内を大幅に超過する40大臣へと拡大したことに対し,KK・ネウパネ弁護士が最高裁へ違憲の訴えを出した。これに対し,首相内閣府は弁明書を提出し,(1)内閣拡大は「時代の要請」に応えるものであり憲法の精神には反しない,また(2)第76条は,上下院が新憲法に則り成立して以降に適用されるべきものである,と反論していた。

最高裁は,13日の判決において,内閣の弁明を全面的に認め,内閣拡大は「時代の要請」に応えるための「政治的決定」であるとして,違憲の訴えを棄却したのである。

あれあれ,これは,極東の某先進国においてこの頃しきりに愛用されている理屈とそっくりではないか。現代立憲主義が,憲法による政府(行政権)の恣意的行為を縛るものなら,ネパールでも,新憲法を制定したばかりだというのに,はや立憲主義は危機に瀕しているということになりそうだ。

160114■トリブバン大学法学部の「正義の女神(テミス)像」(2015年11月撮影)

【参照】
*1 “Supreme Court quashes writ against Cabinet expansion,” The Himalayan Times, January 13, 2016
*2 “Cabinet expansion ‘need of hour’, says PM,” The Himalayan Times, January 13, 2016
*3 オリ内閣拡大,困ったときの椅子頼み
*4 ネパール式パーキンソンの法則,オリ巨大内閣

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/01/14 at 18:24

カテゴリー: 行政, 議会, 司法, 憲法

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ネパール式パーキンソンの法則,オリ巨大内閣

オリ首相は25日,前日に引き続き,分割による省増設を断行した。巨大内閣40大臣の処遇のためらしい。猫の目改編のため正確には追いきれないが,24~25日の分割再編は次のようなものらしい。

省の分割再編(12月25日現在,省の総数31)
 ・農業開発省 ⇒⇒ 農業開発省 + 畜産開発省
 ・通商・供給省 ⇒⇒ 通商(供給)省 + 供給省
 ・保健・人口省 ⇒⇒ 保健(人口)省 + 人口・環境省
 ・都市開発省 ⇒⇒ 都市開発省 + 上水・衛生省

これは,英政治学者CN.パーキンソンの唱えた「パーキンソンの法則」のネパール版といってもよい。やらなければならない仕事は増えもしないのに,放っておけば,役所や役人は増えていく,ということ。
 
ネパール憲法では,先述のように,大臣は25人以内と明確に規定されている。これは,つい数か月前,オリ首相をはじめとする現議員自身が圧倒的多数をもって制定した憲法ではないのか。

ネパール最高裁は,日本の最高裁より,はるかに積極的だ。訴えが出されれば,最高裁が巨大内閣を違憲と判断することは,まず間違いないであろう。

151226

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/12/26 at 12:01

カテゴリー: 行政, 議会, 政党

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オリ内閣拡大,困ったときの椅子頼み

大臣の椅子(ポスト)は,ネパールでも,日本など他の国と同様,政権維持のための,最も頼りになる手段だ。イザとなると,憲法規定も必要性もそっちのけで,大臣ポストが大判振る舞いされる。

いまオリ内閣は,マデシ反憲法闘争とそれに伴う「非公式経済封鎖」により窮地にある。マデシ要求を呑まなければ,「非公式経済封鎖」による石油・ガスなどの物資不足は長期化する。呑めば,今度は,マデシ以外の民族や社会諸集団が激しく反発する。二進も三進もいかない。

そこで,オリ首相は12月24日,いつもの手,大臣ポスト追加配分に踏み切ったのだ。新任大臣と拡大後のオリ内閣の構成は,以下の通り。
新任大臣(4)
 D・ボハラ(RPP):労働雇用大臣
 PB・シン(社会人民解放党):上水・衛生大臣
 SL・タパ(人民解放党):科学技術大臣
 E・ダカール(家族党):無任所
新任国務大臣(6,全員UML,無任所)
 D・バンダリ,MK・チョーダリ,DC・ヤダブ,NP・マガル,BB・マハト,DN・サハ
拡大後のオリ内閣(与党:UML,UCPN-M,RPP-Nほか12党)
 大臣40(首相1,副首相6,大臣21,国務大臣10,副大臣2)

内閣について,現行2015年憲法は,次のように規定している。
憲法第76条(9) 大統領は,首相の推薦に基づき,包摂原理に則り選ばれる25人以内の連邦議会議員からなる大臣会議[内閣]を組織する。
(原注)本条でいう「大臣」は,副首相,大臣,国務大臣および副大臣を含む。

 [訳注]大統領रास्ट्रपति 首相प्रधानमन्त्री 大臣मन्त्री 国務大臣राज्य मन्त्री 副大臣सहायक मन्त्री

オリ首相は,今回,いくつかの省を分割した。必要に迫られてというより,大臣の椅子を増やすためだと批判されている。また,無任所大臣もいっぱい。とくに新任国務大臣は全員UMLで,無任所。今後,具体的な担当任務が割り当てられるかどうか,不明。

このような省庁の分割や無任所の手を使えば,大臣はいくらでも増産できる。憲法の規定など,知ったことではない。ありがたい包摂民主主義の呪文を唱えさえすれば,憲法規定の州区画だろうが,大臣定員だろうが,たちどころに死文化されてしまうらしい。

151225

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/12/25 at 19:40

カテゴリー: 行政, 議会, 憲法, 政党

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巨大憲法国の巨大内閣

オリ首相が11月5日,副首相と大臣を追加任命し,首相1,副首相6大臣19となった(Himalayan, 6 Nov)。他に大統領1,副大統領1。大臣は19だが,今後まだまだ追加任命されるだろう。巨大憲法(308カ条)と巨大議会(601人)に加え,巨大内閣!

これだけ巨大かつ精緻な世界最高水準の成文憲法を持ち,601人もの国会議員を持ち,首相と首相を支える6人もの副首相と19人の大臣を持ち,さらに大統領と副大統領もいる。ほぼ完璧,万全だ。
 
151106a■ネパール政府(政府HP)

西洋諸国,たとえばイギリスは,ネパールに比べれば,はるかに非民主的な後進国。いまだに国教会を持つ宗教国家であり,国教会の長でもある女王(国王)が君臨する君主国である。憲法は,古臭いカビの生えたような,得体のしれない不合理な不文の慣習法。議会上院は,これまた古臭い貴族院であり,特権貴族の巣窟。

151106c151106b
 ■英国女王行進/英国貴族院(英政府HP)
 
西洋には,こんな英国とよく似た古臭い,封建的な,遅れた,非民主的な憲法や政治制度を持つ国が他にもたくさんある。

そうした後進西洋諸国は,いまこそ視察団を編成してネパールに派遣し,その最新にして最高水準の,民主的な,世界最大級の巨大憲法と巨大政府を虚心坦懐に学び,そのネパール・モデルに倣い,自国の民主化を図るべきだ。

西洋諸国は,ユメユメ,自国の遅れた,非民主的な文化や制度を,世界最先進民主憲法国ネパールに押し付けるべきではない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/06 at 13:08

カテゴリー: 議会, 憲法, 政治, 民主主義

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組閣ほぼ完了、内務大臣はマオイストへ

カナル首相は5月4日、新たに19大臣を指名し、就任後3ヶ月にしてようやく組閣をほぼ完了した。

懸案の内務大臣ポストは、結局、カナル=プラチャンダ「7項目合意」(2月3日)に沿いマオイストに割り当てられ、クリシュナ・バハドール・マハラ副首相が指名された。

内務大臣は国家治安の中枢であり、マオイストにこのポストを渡すことには、UML内にも強固な反対があった。マハラ内務大臣指名が発表されると、MK・ネパール、KP・オーリらは、挙国内閣の組織に失敗したとしてカナル首相の辞任を要求し始めた。

一方、マオイスト内においても、バブラム・バタライ副議長の推薦したマハラの内務大臣指名は、バルサマン・プン平和復興大臣の起用を要求していたバイダ副議長派の激しい反発を招き、プンは平和復興大臣を辞任してしまった。

さらに、マオイスト内急進派のバイダ派から今回指名されたJayapuri Gharti, Mahendra Paswan, Dhruba Angdembe Limbuの3人は、宣誓式を欠席した。

このように、今回の組閣はUMLのカナル首相(UML)とマオイストのプラチャンダ議長、バブラム・バタライ副議長の3人が中心になっており、野党のNC、RPPばかりか、与党内にも激しい反発を招いている。

したがって、カナル首相はようやく組閣したものの、政権の安定は期待できそうにない。5月28日期限の新憲法制定も、現状では、とうてい無理であり、制憲議会の任期延長ということになりそうである。

カナル内閣暫定名簿(2011.5.5現在)

JHAL NATH KHANAL, UML, Prime Minister

Krishna Bahadur Mahara, UCPN-M, Deputy Prime Minister and Minister for Home Affairs
Bharat Mohan Adhikari, UML, Deputy Prime Minister and Finance Finister
Upendra Yadav, MJF(N), Deputy Prime Minister and Minister for Foreign Affairs

Top Bahadur Rayamajhi, UCPN-M, Minister for Physical Planning and Works
Khadga Bahadur Biswokarma, UCPN-M, Minister for Tourism
Agni Sapkota, UCPN-M, Information and Communications
Shakti Bahadur Basnet, UCPN-M, Health and Population
Bishwonath Sah, UCPN-M, Peace and Reconstruction
Ram Charan Chaudhary, UCPN-M, Land Reforms and Management
Mahendra Paswan, UCPN-M, Industries and Supplies
Prabhu Sah, UCPN-M, Law and Justice
Hit Bahadur Tamang, UCPN-M, Youths and Sports
Hari Narayan Yadav, MJF-N, Agriculture and Cooperatives
Mohammad Istiyak Rai, MJF-N, Labour and Transport Management
Sunil Kumar Manandhar, CPN-Unified, Environment
Khagendra Prasad Prasain, CPN-ML, Federal Affairs, Constituent Assembly, Parliamentary Affairs and Culture
Jayapuri Gharti, UCPN-M, Women, Children and Social Welfare
Bishnu Poudel, UML, Defence
Gangalal Tuladhar, UML, Without Portfolio
Ghanshyam Bhushal, UML, Without Portfolio

[State Ministers]
Dharmashila Chapagain, UCPN-M, Health and Population
Devi Khadka , UCPN-M, Physical Planning and Works
Hakikullah Khan, UCPN-M, Land Reforms and Management
Dhruba Angdembe Limbu, UCPN-M, Tourism and Civil Aviation
Nandan Kumar Dutt, MJF-N, Agriculture and Cooperatives

* “Khanal gives home to Maoists,” Himalayan Times, 2011-05-05
* “Baidya faction minister nominees boycott cabinet expansion,” Republica, 2011-05-04

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/05 at 16:12

カテゴリー: マオイスト, 議会, 政党

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