ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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コロナ危機深刻化のネパール

ネパールはいま,コロナ(コビド19)感染拡大と,ロックダウン(封鎖)長期化による生活苦という二重の危機に直面している。

ネパールのコロナ感染は,全国対象の厳しいロックダウンが3月24日に発令され,現在も継承されているにもかかわらず,拡大の一方だ。WHO統計によれば,6月7日現在,累計で感染者3,235人,死者13人。


 ■ネパールのコロナ感染者累計/日毎感染者数(WHO)

このネパールの状況は,国境を接する隣国インドの現状と当然,連動している。インドでもコロナ感染拡大は続き,6月7日現在,累計感染者246,628人,死者6,929人に達している。危機的状況だ。


 ■インドのコロナ感染者累計/日毎感染者数(WHO)

このような状況をみると,ネパールにとって全土ロックダウンはやむを得ない緊急措置といえるが,それが長期化すると,人々の生活に深刻な影響を及ぼす。仕事はなくなり,学校は閉鎖,病気になっても病院は手いっぱいで診てもらえない。生活そのものが危なくなり始めているのだ。

特に深刻なのが,出稼ぎ労働者,日雇い労働者,零細商工業者など,経済基盤の弱い人々。ロックダウンが始まると,彼らはたちまち仕事を失い(コロナ失業),生活苦に陥ってしまった。

地方も大変だ。カトマンズなど都市部で働いていた多くの人々が,仕事を失い,徒歩など四苦八苦して,村へと帰っていった。インドから,そして湾岸諸国など海外からも,失業した出稼ぎの人々が,何とか国境を越え,続々と村に帰ってくる。村に彼らを受け入れる余力はあるのだろうか? 出稼ぎ送金なしで村はやっていけるのだろうか? いや,そもそもネパール国家経済は,国外出稼ぎ送金激減でも,やっていけるのだろうか?

ネパール政府はむろん,ロックダウンによる失業を救済するための対策は考えている。中央政府は困窮家族に食料など支援物資を配布しているし,カトマンズ市も困窮失業者に週2回,公共事業の仕事を割り振り,経済的支援をしている。が,これらの支援事業は焼け石に水,拡大一方の困窮家族の救済には到底足りていない。労働問題専門家のガネシュ・グルン氏(国家計画委員会元委員)は,こう警告している。

「政府は,何ら対策も立てずに,ロックダウンを延長した。これが続けば,コビド19よりも飢えで死ぬ人の方が多くなるだろう。*3」

このような状態でロックダウンが続き,収入が減り生活が苦しくなってくると,店を開けるなど,あちこちでロックダウン無視が増えてきた。商工会議所,私学連盟などもロックダウン緩和の要望を出した。ロックダウン継続は,このままでは困難な状況になってきたのである。

これに対し,政府は,「公衆衛生非常事態」宣言を準備している。これが発令されると,政府は,民間の施設,人員,組織(NGO,INGOを含む)をコロナ対策に動員することが出来る。根拠は,公衆衛生法,感染症法など。強権的とも見える政府への強力な授権措置である。

その一方,政府は,ロックダウンの具体的な緩和策も検討している。I・ポクレル副首相を長とする「コロナ危機対策センター」が準備しているのは,ロックダウンを6段階で緩和していき,70日以内に完全解除する案。生活,健康,教育,経済など,それぞれについて必要性が高く,感染拡大リスクの低い部分から順次規制を解除していく計画であり,それ自体は現実的で合理的なものといえよう。

しかしながら,難しいのは,コロナ感染抑え込みと行動規制緩和が目論見通り両立するか,という問題。上掲のコロナ感染推移図を見ると,ネパールは,インドと同様,まだ感染拡大期にあり,ここで人々の行動規制を緩和することには大きな危険が伴うであろう。

他方,ロックダウン長期化が,ネパール社会全体に深刻な打撃をもたらすこともまた確かである。どうすればよいのか? 日本などより,はるかに難しく困難な状況に,ネパールは置かれていると見ざるをえないであろう。

*1 Aditi Aryal, “Thousands of Nepalis without food or shelter await entrance at the Karnali border,” Kathmandu Post, May 26, 2020
*2 “Feed the hungry”, Editorial, Kathmandu Post, June 5, 2020
*3 Anup Ojha, “Thousands of people are struggling under lockdown but government has offered no real solution,” Kathmandu Post, June 3, 2020
*4 Tika R Pradhan, “Government is considering plans to ease the lockdown but there’s no decision yet,” Kathmandu Post, June 6, 2020
*5 “Nepal’s Covid-19 tally reaches 3,448 with 213 new cases on Sunday,” Kathmandu Post, June 7, 2020
*6 Binod Ghimire, “Private schools to lobby government to resume classes next month,” Kathmandu Post, June 7, 2020
*7Makar Shrestha, “Lockdown forces a family into destitution,” Kathmandu Post, June 7, 2020
*8 KASHI KAFLE/MARIE-CHARLOTTE BUISSON, “Agriculture: Can it provide relief to returnee migrants and vulnerable populations?,” Himalayan Times, June 03, 2020
*8 RAM KUMAR KAMAT, “Health ministry pitches for declaring health emergency,” Himalayan Times, June 06, 2020
*9 “KMC set to launch ‘Cash for Work’ scheme,” Himalayan Times, June 06, 2020
*10 “UNLOCKDOWN: The lockdown has outlived its usefulness, it is time to get a move on,” Editorial, Nepali Times, June 3, 2020
*11 Nasana Bajracharya, “Nepal lockdown continues leaving scores hungry. But, there are a few who feed them,” english.onlinekhabar.com, May 16th, 2020
*12 “India Coronavirus Map and Case Count, New York Times, June 7, 2020

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2020/06/09 at 09:23

アルジュン不審死事件,報告集会

アルジュン・シンさん不審死事件の報告集会が開催されます。詳細は,下記集会案内をご覧ください。
【事件関係記事】
 ・「検事取り調べ中のネパール人容疑者倒れる 搬送先で死亡確認」,産経ニュース2017.3.16
 ・Kunda Dixit, “From Chitwan to Chiyoda,” Nepali Times, 29 Dec 2017 – 4 jan 2018 #890

 ■アルジュンさん葬儀(集会案内PDFより)

谷川昌幸(C)

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検事の取調べ中に意識不明・突然死!? アルジュンさん事件報告集会のご案内

アルジュン事件弁護団 / アルジュンさんの裁判を支援する会(仮 称 )

2017年3月15日、ネパール人アルジュンさん(39歳)は検事しらべの最中に突然死亡するという事件が発生しました。事件の経過については添付の集会案内に詳しく書かれているので参照してください

事件を知った私たち支援者は、遺族と連絡を取ると共に、遺体の確保の手続き、弁護士法医学者へ調査の依頼、調査活動、遺族の呼び寄せ、葬儀を行ってきました。以下のように事件の報告集会を企画しています。

日時:2018年7月28日(土)18:00~20:00
場所:東京都新宿区大久保2-12-7 大久保地域センター3階(会議室A)
   JR「新大久保駅」徒歩8分 東京メトロ副都心線「東新宿」駅エレベーター口徒歩3分
内容:(1)アルジュン事件報告(弁護団) (2)アルジュンさん死因について(法医学、鑑定結果)

⇒⇒PDF: アルジュンさん事件報告集会のご案内

Written by Tanigawa

2018/07/01 at 14:16

ネパール人雇用,公平高給の韓国

韓国外国人雇用制度(EPS)にもとづく韓国語能力試験が,8月13-14日実施され,4万人が受験した。9月26-27日にも実施され,総計5万5千人が受験の見込み。女性は約10%(ekantipur,2014/8/15)。

韓国EPSは,好評だ。受験料24ドル。学歴不問,39歳以下。選考は公明公正で,コネ不要。非熟練労働で,月給10万ルピー。だから大学新卒や有職者が多数応募する。採用数は,2013年度5234人,2014年度5700人。

韓国は,この外国人雇用問題でも,日本のはるか先を行っている。狡くて卑怯で時代遅れなのが,日本の外国人研修実習制度。こんな公告をこの記事の横に出さざるを得ないのは,そのためではないか?

140816

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/08/16 at 14:04

カテゴリー: 経済

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搾取・虐待される出稼ぎ労働者

1.アムネスティ報告
アムネスティが出稼ぎネパール人の悲惨を告発している。
 ■守られない約束:ネパールの移住労働者の強制労働(朝日デジタル)

2010年には,30万人弱が東南アジアや湾岸諸国に送られ,建設,工場,家事などで働いている。ネパールGNPの20%が彼らの送金。

ネパール人労働者は,派遣業者に徹底的に搾取され,現地では「家畜よりも安上がり」と言って重宝されている。たとえば,借金して派遣会社に4900ドル払い,キプロスのパン屋で月給680ドルの約束が,実際には200ドル。あるいは,19~21時間労働だったり,家族外出時には台所に閉じこめられたりといった事例も報告されている。金が無く,派遣会社などから借りると,利子60%だそうだ。これでは債務奴隷になるのは当たり前。ネパールの特権階級は,こんな海外送金の上前をはね,贅沢三昧をしているのだ。

2.ネパール人店主,大阪で虐殺
日本では,ネパール人店主が,日本人4人に一方的に殴る,蹴るの暴行をうけ,虐殺された。店主には何の落ち度もない。この事件はネパールでも広く報道され,しかも監視カメラが捉えた暴行シーンのビデオがネットで公開されている。きっとネパールでも多くの人が見ているであろう。
 ■Nepali killed in Osaka(MBS)
 ■ネパール人殺害(ANN)

ここで考えるべきは,日本へのネパール研修生受入である。このままでは,湾岸諸国などでの扱いと同じになり,日本でも搾取され虐待されることになる。性的搾取も当然あるだろう。しかも,不況で日本人(特に若者)の失業が増えれば,もともと日本人は世界でも最も人種偏見,人種差別意識が強い国民の一つなので,ネパール出稼ぎ労働者が攻撃の標的とされかねない。

ネパール労働者を受け入れるのであれば,日本労働者と同等以上の法的権利の保障をすべきである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/04 at 14:30

カテゴリー: 経済, 人権

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ネパール人口3千万人,山地・農村から都市とタライへ

ネパリタイムズ(#573, Sep.30)の社説「人口統計・民主主義・デマ扇動家(Demography,Democracyand Demagogues)」が面白い。

ネパール統計局2011年度調査によれば,ネパール人口は2662万人。ところが,出稼ぎなどで不在,不明が統計局公認で200万人,実際には400万人くらいはいるので,ネパールの人口はいまやほぼ3千万人に達しているという。

人口増加率は,2001年調査の2.25%から2011年調査の1.4%へと低下しているが,それでも当分は,年40万人が労働年齢となり,半分は海外出稼ぎ,残りの20万人が国内で働き口を探すことになる。

そこに,雪崩的人口移動が重なる。山地23郡では人口減少。とくにマナン郡はこの10年で人口が2/3に減少した。青年が都市や海外に出てしまうのだ。

その一方,タライでは,出生率が高く,山地や外国からの移入も多く,その結果,この10年間で人口が20%も増加し,いまや全人口の過半数を超えてしまった。

バタライ首相は,分権化,地方開発で人口分散を目指しているが,こうした長期的観点からの政策は,目先の利害で動くデマ扇動家たちによって常に妨害され,遂行が困難となっている。

「バタライ首相にダサインの祝福あれ。デマ政治家どもが排除され,この国の人口と民主主義の健全性が保たれることを祈る。」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/10/08 at 11:04

カテゴリー: 社会, 経済

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研修生仲介業ガイドラインの改定,ネパール労働省

ネパール労働省は12月26日,JITCO(日本国際研修機構)研修労働者仲介業のガイドラインを改訂した。現在の155業者に加え,さらに新規参入を認めるとのこと。

現行ガイドラインでは,研修労働希望者から徴収できる訓練費は1人5万ルピー。かなりの大金だが,それでも仲介業者たちは,足らないからもっとよこせ,20万ルピーにせよ,と要求している。

事前訓練費が20万ルピーにもなれば,あるいは5万ルピーでも裏金が必要なら,ネパール人研修労働者の多くが債務奴隷状態となり,日本に送られることになる可能性が高い。

いま,JITCOからのネパール人研修労働者の求人が,かなりあるらしい。日本の中小企業や農漁業にとって,ネパール人研修労働者の雇用は魅力的なようだ。それらの職種のため,どのような事前訓練が必要で,日本での研修労働により実際にどのような技術が身に付くかは,わたしには皆目見当もつかないが。
【参照】
研修実習生,長崎でも提訴
ネパール研修生仲介業者の大宣伝開始
ネパール人研修労働者の大量採用:日ネ関係は新時代へ
外国人研修労働の違法性認定:熊本地裁
外国人研修制度の欺瞞性:報道ステーション
ネパール人研修労働者受入
ネパール労働者の対日輸出:ネパール労働省
対日ネパール人輸出,あるいは新三角貿易

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2010/12/30 at 00:39

カテゴリー: 社会, 人権

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対日ネパール人輸出,あるいは新三角貿易

  谷川昌幸(C)

こんなことを書くと,ネパール人や親ネ邦人にボコボコに叩かれるだろうが,玉砕を恐れていては,新帝国主義戦争は戦えない。いざ出撃!

1.輸出商品としての「ネパール人」
ネパールの最大の輸出商品が労働者であることは,いまや周知の事実。近代化のおかげで,ネパールの人々は労働力を商品化され,価格をつけられ,国内市場はないから,海外市場へと輸出されている。

もちろん都合良く労働力だけを切り取って売るわけにはいかないから,生身の人間を家族や故郷から切り離し,その身体ごと外国に売り渡す。極論すれば,これは「現代の奴隷貿易」だ。

2.労働者輸出で,贅沢品輸入
この労働者輸出により得た外貨で,何を買うか? もちろん特権階級の贅沢品だ。輸出された労働者たちの汗と涙がガソリン・灯油や電気・車になり,特権階級の生活を豊かにする。

あるいは,不動産投資となり,都市バブルをふくらませる。外国に売り飛ばされた同胞の汗と涙が,金に化け,彼らとは無縁の高級マンション,高級分譲地,高級ブランド店となっている。

中東バブルは,石油価格暴落で,はじけた。ネパール・バブルは,輸出向け労働者の枯渇か価格低下で破裂する。これは必然。

3.労働者の対日輸出
それなのに,信じられないかもしれないが,いまネパール人民を「資源」扱いし,「輸出」を推進しようとしているのは,人民の友,マオイスト政府自身だ。

1月17日,レクラジ・バッタ労働大臣(マオイスト)が,ある会合(詳細不明)に出席し,ネパール人労働者の対日輸出の促進を訴えた。カンチプル(1/17)によれば,バッタ大臣はこういっている。

「研修労働者を日本に送る準備はほぼできた。」
「人間資源(human resources)の対日輸出(export)に必要な政令は数日以内に出す。」

これはマオイスト大臣が言っているのだ。コングレスのボスではない。

このネパール人労働者の輸出・輸入に関わっているのが「ネパール商工会議所(FNCCI)」と「日本国際研修協力機構(JITCO)」。いずれの組織のこともよく知らないし,善意は疑わないが,この労働者貿易が要注意であることは間違いない。

非居住ネパール人会のカピル・タパ副会長もこういっている。

「日本は,ネパール人労働者の輸入(import)を待ちこがれている。」

4.研修労働の実態
外国人研修生制度の実態は,専門外なのでよく分からないが,少なくとも新聞報道では,「研修」は名ばかりで,体のよい最低賃金労働,なかにはパスポートを取り上げられ,タコ部屋のような所に監禁され,半強制的に働かされるところもあるそうだ。「現代の奴隷制」という批判もある。

外国人研修制度は,もともと日本の高度な技術を働きながら学ぶという趣旨。その趣旨通り運用しているところもあるにはあろうが,資本主義の倫理と論理からして,そんなことがどこでも実行されているとはとうてい思えない。

いま無慈悲に解雇されているのは,外国人労働者や非正規労働者。外国人研修生は,その彼らよりも下,使い捨て自由の半強制労働,資本家にとっては最も好都合な最下層労働者である。

5.ネパール・日本・中国の新三角貿易
ネパールが労働者の対日輸出(「新奴隷貿易」)を本格化させれば,ここに新しい三角貿易が生まれてくる。

90119

ネパールは日本に「人間資源」を輸出し,その代金で中国から中・低度工業製品(衣料・雑貨・家電など)を輸入する。中国は,その代金で日本から高度工業製品や資本を輸入する。日本はその代金で,ネパールから労働者(人間資源)を輸入する。

こうして,美しい新帝国主義の聖なる三角形ができあがる

Written by Tanigawa

2009/01/19 at 23:21

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