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米国「性別X」パスポート,ようやく発行
米国務省が10月27日,「性別X(エックス)」パスポートを初めて発行した,と発表した。「LGBTQI+の人を含め、全ての人の自由と尊厳、平等を推進する」ためとのこと。
米国パスポートでの「性」選択は,これまでもかなり自由であった。出生証明書,既取得パスポート,州身分証明書などに記載済みの「性」とは異なる別の「性」の選択が可能だったし,性別変更には医療機関発行診断書も不要。そこに今回,いずれの性でもない「X」選択の自由(権利)が追加されたのだ。
「X」は,要するに「性」を区別しないということ。区別し,区別されなければ,より自由で便利ともいえるので,「X」選択はおそらく増加するだろう。そして,そうなっていけば,性区別を大前提とする既存社会そのものも大きく変わっていかざるをえない。スポーツの男女別,学校・会社・議会における男女別,等々。
そして,「性」が多様化・自由化すれば,「性」絡みの日本の「姓」も,もちろん自由化せざるをえないだろう。

【参照】
第三の性パスポート,ネパールなどに倣い米でも
第三の性パスポート,ネパール発行開始
性的少数者の権利,先進国ネパールから学べ
M・F・X:ネパール「第三の性」旅券発行へ
「第三の性」パスポート,最高裁作成命令
ツクツクの女性運転手さん
制憲議会選挙2013(37):指名議席争奪
セックス超先進国ネパールに未来はあるか?
第三の性,公認
*1 U.S. Department of State, “Selecting your Gender Marker.”
*2 「男性でも女性でもない「性別X」のパスポート、米国務省が初発行」CNN,2021.10.28
*3 「性別「X」の旅券、初発給 来年から本格運用―米」時事,2021年10月28日
*4「米、初のLGBTQ旅券「Xジェンダー」選択肢」日経,2021年10月28日
谷川昌幸(C)
第三の性パスポート,ネパールなどに倣い米でも
アメリカ国務省が6月30日,パスポートの性別欄に「X」を追加すると発表した。「M(男)」でも「F(女)」でもない人びとは,「X」を選択できるようになる。いわば「第三の性パスポート」。今年中に実施の予定。
このような「第三の性パスポート」は,ネパールをはじめ印,濠,加など数か国がすでに採用しており,米政府もそれらの国の「第三の性パスポート」は承認している。
【参照】第三の性パスポート,ネパール発行開始 性的少数者の権利,先進国ネパールから学べ M・F・X:ネパール「第三の性」旅券発行へ 「第三の性」パスポート,最高裁作成命令
また,米国内でも,20州以上が性別「X」選択可能な身分証明証を発行しているし,控訴裁判所も「X」選択可能パスポートの発行命令を出している。
バイデン政権は,性の多様性容認への内外のこのような流れに掉さし,「史上最多のLGBTQI+を政府関係者に任命」(在日米大使館)したのに続き,このたびは「第三の性パスポート」の採用に踏み切ったのであろう。
それにしても,「性」は,人間のアイデンティティの根源にかかわるだけに,難しい。現在のところ,人びとは,その「性」により,「男」または「女」だけでなく,「LGBTQI+」としても区分されているらしい。
L = レスビアン(女性同性愛者)
G = ゲイ([主に男性」同性愛者)
B = バイセクシュアル(両性愛者)
T = トランスジェンダー(性別違和)
Q = クィア/クエスチョニング(Queer/Questioning,性自認未定ないし不選択)
I = インターセックス(男女両性身体)
+ = その他の様々な性
あまりにも複雑。正直,よくわからない。「性」は,厳密に定義しようとすればするほど多様となり,したがってそれぞれの「性アイデンティティ」を尊重して人びとを公平に処遇しようとすればするほど社会の仕組みも複雑とならざるをえない。
しかし,そんな方向に突き進めば,早晩,にっちもさっちも行かなくなるのは目に見えている。
そこで,いっそのこと「性」の区分や記述を一切なくしてしまえ,といった極論が出されることになる。もともと「性」など無限に多様なのだから,その多様性を尊重すべきなら,「性」を一切問わないのがもっとも公平ということになる。たとえば,トイレを性ごとに無限に多様化できないのなら,性別を問わない「万人共用トイレ」にしてしまえ,ということ。
が,こうした性区分撤廃論はちゃぶ台返し,問題を振り出しに戻すだけにすぎない。非生産的。われわれとしては,ややこしくて面倒だが,「LGBTQI+」という形でいま提起されている問題に,一つ一つ誠実に取り組み,よりよい解決策を模索していく以外に方法はあるまい。
このような「性」多様化の問題は,何かにつけ外圧で動く日本にとっても他人事では済まされない。たとえば,アメリカは「LGBTQI+の権利を擁護する米国」を掲げ,在日米大使館主催「LGBTQI+の権利向上をめざそう~アメリカと日本をつないで~」などを開催している。
おせっかい,余計なお世話という気もしないではないが,「人権」は,いまや「大砲」以上に強力で有効なアメリカ外交の手段。照準が向けられているのは中国だけではない。日本政府も,いずれ「第三の性パスポート」を発行し,そして,もう一つの「せい=姓」についても「夫婦別姓」法制化という形で多様化せざるをえなくなるだろう。
*1 ANTONY J. BLINKEN(SECRETARY OF STATE), “Proposing Changes to the Department’s Policies on Gender on U.S. Passports and Consular Reports of Birth Abroad,” PRESS STATEMENT, JUNE 30, 2021
*2 在日米国大使館と領事館「LGBTQI+の権利を擁護する米国」
*3 “U.S. protects the rights of LGBTQI+ people ,” ShareAmerica -Jun 3, 2021
*4 アメリカ大使館「バイデン政権、史上最多のLGBTQI+を政府関係者に任命」
*5 “U.S. to add third gender option to American passports,” nbcnews.com,July 1, 2021
*6 Kate Sosin, Orion Rummler, “U.S. to add ‘X’ gender marker on passports,” June 30, 2021


谷川昌幸(C)
「夫婦別姓」最高裁判決を前に
最高裁大法廷は,12月16日午後,夫婦同姓を定めた民法750条の違憲訴訟に対する判決を下す。おそらく選択的夫婦別姓を認めるものとなるだろう。この問題については,すでにいくつか議論をした。以下,ご参照ください。(古い資料のためリンク切れなどがあります。ご了承ください)
【参照】 ⇒⇒⇒⇒「夫婦別姓」(谷川)[一部リンク切れ]
▼別姓パスポートを取ろう!
夫婦別姓パスポートを取得した。結婚改姓後、戸籍名パスポートを使用してきたが、国際化とともに不便さがつのり、通称名表記に切り替えた。 別姓パスポートは、正式の制度であり、取得手続きは簡単だ。通称名使用の事実を示す資料と、別姓パスポートの必要 …
▼別姓クレジットカードを作ろう!
通称名で生活していると、クレジットカードも通称名のものが必要になる。たとえば、通称名で会員登録をしている場合、会費支払いは通称名でないと、面倒だ。別姓クレジットカードを作り、普及させよう!
▼住基ネット―夫婦別姓で笑殺
住民基本台帳ネットワークの危険性は自明であり、多言を要しない。あのペンタゴンでさえハッカーに侵入された。総務庁の防衛力はペンタゴン以上か? また、公務員不祥事は枚挙にいとまがない。権力乱用はある、というのが、健全な政治の …
▼夫婦別姓パスポートはネパールで
某地獄耳情報によると,夫婦別姓パスポートは,旅行者でも在外大使館(在ネパール日本大使館など)で比較的簡単に取得できるそうだ。 日本国家は,明治以降,家制度を天皇制国家の基礎 …
▼別姓 ・公文書でも旧姓表記!
旧姓使用許可書(長崎大),長崎大学における旧姓使用(2002)
▼合憲判決(12月17日追加)
最高裁大法廷は12月16日,民法750条の夫婦同一姓規定を合憲と判断した。理由は,(1)姓の選択は当事者夫婦の自由であること,(2)夫婦同一姓は「社会的に定着」していること,(3)旧姓通称使用の広がりにより改姓の不利益を一定程度緩和できること。
この判決は,「夫婦同姓」規定を違憲とまでは言えないと判定し,選択的夫婦別姓制度にするか否かは国会で決定すべき事柄だという立場をとっている。最高裁のこれまでの憲法判断に対する慎重な,あるいは消極的な,いや臆病な姿勢からすれば,さもありなん,といったところ。
夫婦同一姓の法的強制に対しては,「市民的抵抗」を継続強化し,対抗すべきであろう。結婚改姓をした夫または妻が,別姓のパスポート,クレジットカード,ポイントカードなどを最大限保有し続け,また新たに作成し,そして生活の他のあらゆる場面においても別姓を最大限使用する。そうすることによって,夫婦同一姓を骨抜きにし,法的強制を事実上不可能としてしまうのだ。
夫婦別姓を市民的抵抗により「社会的に定着」させてしまう。そうすれば,臆病最高裁をまつまでもなく,国会が民法改正に向かうであろう。
谷川昌幸(C)
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