ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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2015年憲法制定へのインドの介入

ネパール制憲議会は9月16日,新憲法案を圧倒的多数をもって可決し,これをヤダブ大統領が9月20日,「ネパール憲法2072年」(2015年憲法)として公布した。法的には,この憲法公布をもって,1990年憲法体制は正式に廃止され,2015年憲法体制に完全に移行した。

 ■1990年憲法: 立憲君主制,ヒンドゥー国家
 ⇒2007年暫定憲法: 暫定的な連邦共和制,世俗国家
 ⇒2015年憲法: 連邦共和制,世俗国家(*)
   (*注)この「世俗国家」規定は「ヒンドゥー教的世俗主義」などと批判されている。
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  ■2015年憲法/21日付リパブリカ/21日付ヒマラヤン

この2015年憲法には,包摂民主制,連邦制,世俗主義など,利害がなお対立し,反対運動が続いている規定も少なくないが,それらについては後日,検討することにする。ここでは,新憲法そのものではなく,憲法制定の最終段階におけるインドの露骨ともいえる介入について見ておきたい。

ネパールは,東南西をぐるりとインドに囲まれており(北はヒマラヤの壁),政治的・経済的・文化的に,圧倒的なインドの影響下にある。ネパールで何か大きな動きがあれば,それはインドの利害に直結し,必然的にインドがそこに介入してくることになる。今回は,憲法制定という国家主権にもろに関わる事柄であったが,インドの介入は,各新聞がかき立てているように,きわめて露骨であった。(西洋諸国も,憲法制定の初期・中期には幼児に言い聞かせるような態度で介入したが,最終段階においては,そうした直接的な介入は見られなかった。実に狡猾。)

ネパールでは,憲法起草委員会(シタウラ委員長)が憲法原案を作成し,8月21日これを制憲議会に提出すると,特に州区画をめぐり,インド国境沿いのタライ地方で,マデシ,タルー,ジャナジャーティの諸集団が激しい反対闘争を始めた。警察。武装警察,軍隊が派遣され鎮圧に当たったが,20日の新憲法公布までに40名余の犠牲者を出してしまった。

ネパール,特に国境沿いのタライ地方の混乱は,インドにとって大きな脅威となる。国境は開かれており,避難民が多数インド側に逃れてくるし,混乱をついてパキスタンやカシミールから危険な「テロリスト」も侵入してくるとインド政府は警戒している。そこで,インド政府は,ネパール政府に対し,タライの人々の要求に耳を傾け,憲法に取り入れ,タライの混乱を早く治めてほしいと強く要求することになったのである。

「次の3日間[17~19日]が決定的に重要だ。タライ抜きで憲法を通せば,新しい民族紛争の種をまくことになる。そして,結局は,ニューデリーが何らかの形でそこに引き込まれてしまう。インドには隣国の新たな分離運動に関わる余裕はない。そのような紛争は蕾のうちに摘み取るべきであり,それにはニューデリーはその影響力を行使し,憲法にタライの諸要求を新たに取り入れさせるべきだ。インド政府は,必要なら特使を送り,ネパール諸政党に分別を説き,もって彼らに政府声明を実行させるべきである。」(“India must persuade Nepali parties for constitutional compromise,” Hindustan Times, 16 Sep.2015)

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憲法原案の逐条採決が始まる直前の9月11日,ラエ駐ネ印大使がオリUML議長(次期首相と見られている)に会い,逐条採決の延期を求めた。その後,プラチャンダUCPN議長らにも同様の要請をしている。これに対し,主要3党は,11日午後から予定していた逐条採決を2日間延期し,13日からとした。そして,その一方,オリUML議長は,特使をインドに送り(9月15~18日),新憲法制定とその後の体制への理解と支援をインド側に要請した。

こうして逐条採決が9月13日から始まり,16日になってようやく憲法最終案が制憲議会で採決され,圧倒的多数をもって可決された。そして,公布は19日までにとされた。しかし,それでもタライの反対闘争は収まるどころか,むしろ激化する一方だった。そこでインド政府は9月17日,ラエ大使を急遽呼び戻しネパール情勢を聴取し,翌17日ジャイシャンカラ外務事務次官をモディ首相特使としてカトマンズに送った(9月18~19日)。ラエ大使も同行しカトマンズに帰任した。

ジャイシャンカラ特使は,カトマンズに着くと,真っ先にオリUML議長と会い,その後,コイララ首相らネパール側要人と会う一方,マデシなど反政府側諸党派の幹部とも会い,彼らの要求を聞き取った。

ジャイシャンカラ特使は,ネパール側,特にオリ議長に対し,タライの混乱への憂慮を伝え,最大限の合意を得て新憲法を公布するよう要請した。これに対し,オリ議長は,新憲法公布後でも反対派の要求は受け入れる用意があると答え,またプラチャンダ議長も新憲法の改正により反対派の要求に応えたい,と答えた。そして,新憲法公布前日の19日,コイララ首相(NC),オリUML議長,プラチャンダUCPN議長が共同声明を出し,「この憲法を改正により完全な効果的な憲法にしていく」と約束した。そこには反対派の最大の要求である州区画の変更さえ含まれている。驚くなかれ,公布前の改正約束である。

このように見てくると,新憲法制定にインド政府が直接的に深く介入していたことは明白である。諸集団包摂の連邦制や世俗国家(タライにはイスラム教徒が多い)は,インド政府の要求でもあったのである。

印外務省報道官声明(2015年9月20日)
Statement on the situation in Nepal

Throughout the process of Constitution making in Nepal India has supported a federal, democratic, republican and inclusive Constitution. We note the promulgation in Nepal today of a Constitution.

We are concerned that the situation in several parts of the country bordering India continues to be violent. Our Ambassador in Kathmandu has spoken to the Prime Minjster of Nepal in this regard. We urge that issues on which there are differences should be resolved through dialogue in an atmosphere free from violence and intimidation, and institutionalized in a manner that would enable broad-based ownership and acceptance. This would lay the foundation of harmony, progress and development in Nepal.

We extend our best wishes to the people of Nepal.

在ネ印大使館ツイッター(一部削除編集)
2015-9-19
We hope that Nepal’s political leaders will display the necessary flexibility and maturity at this crucial time to ensure a durable and resilient Constitution that has broad-based acceptance.- India’s Foreign Secretary

2015-9-22
We note the promulgation in Nepal today of a Constitution.

Throughout the process of Constitution making in Nepal, India has supported a federal, democratic, republican and inclusive Constitution.

We are concerned that the situation in several parts of the country bordering India continues to be violent.

Our Ambassador in Kathmandu has spoken to the Prime Minister of Nepal in this regard.

We are deeply concerned over the incidents of violence resulting in death and injury in regions of Nepal bordering India

Our freight companies and transporters have also voiced complaints about the difficulties they are facing in movement within Nepal

We had repeatedly cautioned the political leadership of Nepal to take urgent steps to defuse the tension in these regions.

[参照]
*1 Hannah E. Haegeland, “Why India Needs to Make Itself Heard in Nepal,” September 17, 2015(http://thediplomat.com/)
*2 “India must persuade Nepali parties for constitutional compromise,” Hindustan Times, Sep 16, 2015
*3 “MODI’S SPECIAL ENVOY URGES ADDRESSING MADHES DEMANDS,” REPUBLICA, 18 Sep 2015
*4 “Adopt maximum flexibility to promulgate sustainable constitution: S Jaishankar,” Kathmandu Post, Sep 19, 2015
*5 “Modi’s message,” Nepali Times, September 18th, 2015
*6 “Statute has to address concerns of all, Modi’s envoy tells Prez,” The Himalayan Times, September 18, 2015
*7 Prashant Jha,”Protests over new Nepal constitution vindicate India’s position,” Hindustan Times,Sep 20, 2015
*8 “India’s statement,” Nepali Times,20th,2015
*9 “As Nepal adopts constitution, India concerned over border unrest,” zeenews.india.com, September 20, 2015
*10 “Nepal adopts constitution born of bloodshed, compromise,” REUTERS, 20 September 2015
*11 “More than half a century in the making: Nepal enshrines new constitution,” CNN, September 21, 2015
*12 “Nepal Adopts New Constitution, Becomes a Secular State: 5 Facts,” Reuters, September 20, 2015
*13 “Kathmandu ignores Delhi’s concerns on Constitution,” The Hindu,September 20, 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/21 at 20:48

カテゴリー: インド, 憲法

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新憲法成立,20日公布

ネパール制憲議会は9月16日,憲法案のうち未採決の120条余を一気に採決したうえで,確定した新憲法案全体につき投票,2/3以上の多数により可決した。新憲法は,条文がさらに増え,全308カ条となった。(詳細後述)

成立した「2072(2015)年憲法」は,9月20日午後5時,公布の予定。

▼制憲議会(定数601,欠員3)
 賛成: 507
 反対: 25
 投票拒否: 60
 欠席: 5
 議長: 1

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/17 at 10:07

カテゴリー: 憲法

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176条まで採決,印米歓迎

制憲議会は9月15日,前日に引き続き一気に120カ条余を審議,第176条までを採決した。まさに「特急手続き」,この調子なら残り124カ条も1~2日で採決できそうだ。

むろん反対はある。サドバーバナ党マハト議長は,憲法案はマデシ,タルー,ダリット,先住諸民族の権利を無視しているとして,たとえ新憲法が制定されても,公布と同時にそれを焼き捨てる,と語った。

また,ナワルパラシでは15日,反政府デモ隊が手製爆弾,石,棒などで警察車両を攻撃し破壊した。これに対し警察が発砲したため,4歳男児が弾に当たり死亡,警官もふくめ十数名が負傷した。

しかし,こうした反対があるにもかかわらず,制憲手続きが「超特急」で進み始めたのは,おそらく国際社会,特に印米の圧力ないし助言ないし了解があったからであろう。

20日に新憲法が公布されたら,1週間以内に,新しい大統領,首相,議長が選出される。主要3党は,UMLのオリ議長を次の首相にすることで手打ちが出来ている。

そのオリ議長が,議長特使としてギャワリ書記を15~18日の予定でインドに送った。インド側に新憲法体制への移行を説明し,理解と支援を念押しするためにちがいない。

インドのスワラジ外相は,「ネパールのすべての地域,すべての社会の要望に応える憲法」を期待すると述べ,憲法制定過程の進捗を歓迎した。タルー指導者たちも,おそらくこうしたインドの反応を見て,政府との対話に前向きとなり始めた。新憲法成立を前提とした,条件闘争に入ったと見てよいだろぅ。

アメリカも,カービイ国務省報道官が「基本的諸権利を尊重する憲法」を期待すると述べ,憲法制定過程の進捗を歓迎した。

こうした状況を考え合わせると,憲法案の審議は17日(木)ないし18日(金)までに完了し,20日(日)には「2015年ネパール憲法」の公布となりそうだ。

150916

[参照]
*1 “Pradeep Gyawali off to New Delhi as UML Chair Oli’s special envoy,” Himalayan, September 15,2015
*2 “CA endorses 176 articles,” Nepali Times,September 15th,2015 
*3 “Minor killed as police open fire on protesters in Rupandehi,” Himalayan,September 15,2015
*4 “Agitation this time will be decisive: Mahato,” Kathmandu Post, Sep 15,2015
*5 “INDIA, US WELCOME PROGRESS MADE IN STATUTE MAKING PROCESS,” REPUBLICA, 15 Sep 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/16 at 12:16

カテゴリー: インド, 憲法

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第42条まで採決,新憲法20日公布予定

制憲議会は,9月14日夕方までに,憲法案の第42条までを採決した。RPP-N提案の「ヒンドゥー国家」は否決,「世俗国家」規定が可決された。国旗,国獣(牛),国鳥は現行通り。

制憲議会ビル周辺では,ヒンドゥー国家支持派と治安部隊が衝突し,緊迫した状況となっている。

新憲法の公布は9月20日の予定。

 150914a■Nepal Omkar Pariwar Sangathan FB(14 Sep)より

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/14 at 22:41

カテゴリー: 宗教, 憲法

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衝突拡大

憲法案「強行」採決に対する反対運動がタライを中心に過激化している。

ビルガンジでは13日夜,ヒマラヤンタイムズ記者宅に火炎ビンが投入され炎上した。シラハでは13日,NC事務所近くに強力な圧力鍋爆弾が仕掛けられているのが発見され,軍が撤去した。外出禁止令下のサプタリでは13日,約500人の反政府デモ隊に対し治安部隊が警告射撃をし,催涙ガス弾を発射した。ラジビラジでは,NC事務所が打ち壊され放火された。警察隊は催涙ガス弾を発射,群衆を撃退した。

このように,タライを中心に,状況はかなり緊迫している。憲法案は第3条まで採決されたが,まだ300条ほど未採決。また,最後には憲法案全体についての採決も行われる。

[参照]
The Himalayan Times,September 13, 2015

谷川昌幸(C)

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2015/09/14 at 09:45

カテゴリー: 憲法

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憲法案第1-3条可決,以下14日以降採決予定

制憲議会は13日夜,憲法案の第1,2,3条を可決した。ただし,投票は修正案が提出されていた第3条についてのみ。

党方針を無視し修正案を提出していたUCPN議員は13日,開会前に彼らの修正案をすべて撤回。また,RPP-Nは,採決直前の12日,要求が入れられたとして制憲審議に復帰している。

第4条以下は,14日以降に採決される。

 150914■RPP-Nホームページより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/14 at 00:13

カテゴリー: 憲法

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憲法案への投票,午後5時開始予定

憲法案修正提案への投票が,13日午後5時から開始される。すでに各条文ごとの審議を終え,党首演説も終了した模様。

憲法案の各条への投票と,その後の憲法案全体への投票が,引き続き行われるかどうかは,不明。いずれにせよ,新憲法制定は,いよいよ最後の秒読みの段階に入ったとみてよいであろう。

150903

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/09/13 at 23:04

カテゴリー: 憲法

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