ネパール評論 Nepal Review

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マオイストの憲法案(25)

4(19) 追放されない権利,基本的権利施行と憲法的救済に関する権利
マオイスト憲法案の第51条は追放されない権利,第52条は基本的権利施行と憲法的救済に関する権利を規定している。

第51条 追放されない権利
市民は追放されない。

第52条 基本的権利施行と憲法的救済に関する権利
 (1)本編規定の諸権利の効果的施行および救済への権利
 (2)権利施行のための法律と司法制度を6ヶ月以内に整備。
 (3)特別な権利や優先権を保障するため,人間開発指数に基づき,5年ごとに評価・見直しを実施。
 (4)本編規定の基本的権利を否定する法律は,無効。ただし,ネパールの主権,独立,領土,安全保障,諸権利,個人の尊厳,または公共の制度・健康・道徳を根拠とする場合は除く。

――この第52条に見られるように,マオイスト憲法案でも権利保障の実効性は意識されているが,実際には,これほど盛りだくさんの権利保障は,当分は無理である。

また,それ以上に問題なのが,ここでも基本的権利保障に,多くの但し書きが付されていること。これらを使えば,どのような権利であれ,否定することは難しくない。

4(20)基本的義務
マオイスト憲法案第3編の最後に,「(a)基本的義務」が置かれ,第53条で市民の義務を規定している。

第53条 市民の義務
 (1)市民はすべて以下の義務を負う。
 (a)国家への忠誠を誓い,ネパールの国民性・主権・統合を守ること。
 (b)敏感事項については,国家機密を守ること。
 (c)民主主義・人権・平和・開発進歩のため,憲法と法律を遵守すること。
 (d)国家の求める強制任務に参加すること。また,18歳以上の健康な市民は,国家防衛のための強制軍事訓練を受けること。
 (e)公共財産・国家財産の維持促進。
 (f)法に従い税を払うこと。
 (g)個人の自由や権利は,国家・社会・他の個人の権利を侵害することなく行使すること。
 (h)労働の尊重。
 (i)両親,子供,老人,女性,心身障害者および扶養者のない人々,ならびに人類社会に対し,配慮し敬意を払うこと。

――この義務規定は興味深い。国家への忠誠義務,18歳以上の男女に対する軍事訓練の強制,スパイ禁止(国家機密保持義務)などが明文規定されている。

マオイストらしいのは,労働尊重義務。上位カーストの根深い労働蔑視を,労働者・農民の側から根底的に否定するための規定とみてよいであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/07/18 at 12:39