ネパール評論 Nepal Review

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京都の米軍基地(73):ケネディ大使歓迎,米軍とイルカ軍

1.不自然な報道記事
ケネディ駐日大使が6月25日,経ヶ岬米軍基地を視察した。有名大使視察であり各紙報道したが,記事がどこか変だ。不自然,あるいはピント外れ。
 ▼ケネディ駐日米大使「騒音問題改善に努力」 京丹後の基地視察し表明 /毎日新聞2015-06-26
 ▼ケネディ大使、基地周辺住民と懇談 京都・京丹後を訪問 /京都新聞2015-06-25
 ▼ケネディ米駐日大使、京丹後・琴引浜で住民らと懇談 /産経新聞2015-06-26
 ▼ケネディ駐日大使が京丹後視察 /NHK京都2015-06-25
 ▼キャロライン・ケネディ駐日米国大使が来丹 /京丹後市FB2015-06-26

2.基地訪問隠し
ケネディ大使が,辺境地・奥丹後にまでわざわざ出かけたのは,いうまでもなく米軍基地視察のため。ところが,そのことを記事冒頭ではっきり書いたのは,毎日新聞だけ。

「ケネディ駐日米大使は25日、京丹後市丹後町の米軍経ケ岬通信所を視察後、基地周辺住民らと懇談した。」(毎日)

京都新聞は,かなり腰が引け,記事の最後にこう付け足した。

「これに先立ち、大使は米軍経ケ岬通信所を視察したとみられる。」(京都)

「視察」したに決まっているのに,「みられる」としか書けない。なぜか? たぶん「外交秘密」か「防衛秘密」のせいだろう。

しかし,それでも京都新聞はまだまし。産経新聞やNHK京都ともなると,大使は「鳴き砂」見物に訪れ,ついでに住民懇談をした,といった書きぶりとなる。産経はこう書いている。

「米国のキャロライン・ケネディ駐日大使が25日、京丹後市網野町を訪れ、「鳴き砂」で知られる国の天然記念物「琴引浜」を見学するとともに、地元の住民らと懇談した。」(産経)

また,NHK京都は,京丹後視察が主目的であるかのような見出しをつけ(上掲参照),記事をこう書き出している。

「米国のケネディ駐日大使が25日、近畿地方で唯一の米国軍基地がある京丹後市を訪れ、地元住民らと懇談しました。」(NHK京都)

そして,期待通り出色の出来映えなのが,京丹後市役所のFB記事。冒頭は,こうだ。

「キャロライン・ケネディ駐日米国大使が本日、京丹後市を訪れ、国の天然記念物に指定されている琴引浜の視察や、市長や山内副知事、住民らとの懇談を行いました。」(京丹後市FB)

住民との懇談の記載もあるにはあるが,発言の直接引用は一語もなく,住民の安全安心に努力するという発言があったと記すにとどまる。そして,また琴引浜の話しに戻り,ここでは直接引用の礼が尽くされる。

「素足で浜を歩いて砂音を鳴らしたり、海に入ったりしながら「very good」と喜びを話していました。本市を「美しいまち、美しい環境ですね」と絶賛された・・・・」(同上)

京丹後市役所が大使の基地訪問をどう扱おうとしているかは,一目瞭然だ。それにしても「very good」とは! 「美しい国」の「国益」を守るとは,結局。こういうことなのだ。

3.中山市長の役回り
ケネディ大使の京丹後訪問は米軍基地訪問が主目的なのに,京丹後市はそれを隠そうとする。ここでも,やはり毎日は鋭い。こう書いている。

「ケネディ大使が基地視察で騒音をどう感じたかについての質問に対し、中山市長は「私にはわからない。(今回の懇談会は)要望をする場ではない」としたうえで、「大使は環境問題に深い関心があり、私としては素晴らしい環境にある琴引浜を見てほしいとお願いし、来ていただいた」と述べ、今回の視察は環境問題がテーマであることを強調した。」

そして,記事の最後に,「ケネディ大使は鳴き砂文化館を視察後、鳴き砂で知られる国の天然記念物の琴引浜を裸足で歩いた」と付け足している。いくら由緒正しきケネディ家のご令嬢が裸足で琴引浜を歩こうが,そんなことなど本筋には関わりないということ。さすが毎日新聞!

ケネディ大使は,最前線基地の米軍人・軍属を激励するためにやってきた。その本質を隠すため,中山市長は大使に哀願し,琴引浜にも来てもらい,和服姿で接待し,これをもって環境問題のための大使来訪という方向へと住民の見方を誘導しようとしているのである。

しかも,琴引浜は網野町で,丹後町の米軍基地からは遠く離れたところにある。いま丹後半島の美しく平和な環境を破壊しつつある最大の元凶は,いうまでもなく米軍基地そのもの。騒音,排水,沿岸部景観破壊,伝統的文化環境破壊,そして地域の平和環境破壊――すべてこれらの環境破壊は,米軍基地がやっているのだ。騒音や交通事故については少し話題になったそうだが,それは基地による環境破壊のごく一部。なぜ,「環境問題に関心の深いケネディ大使」(市役所FB)に他の多くの問題について問い質さなかったのか?

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 ■遠く離れた米軍基地()と琴引浜()(Google)/琴引浜の大使と市長(市役所FB)

なお,蛇足ながら,市長の和服着用が国内的には会合の「非政治性」を,そして対外的にはいわゆる「フジヤマ・ゲイシャ効果」をもつことはいうまでもない。(和服産業宣伝の意味も多少はあるだろうが。)

たとえば,kyodo,”U.S. envoy Kennedy visits Kyotango”(25 Jun)をみよ。この英文記事には,琴引浜で和服姿の市長と戯れる大使といった,いかにもそれらしい写真が添えられている。

このkyodo記事は,世界中に配信され,また転載されている。民族衣装の現地人との写真ほど,先進国市民に優越感を与え,満足され,歓迎されるものはない。

 150626d■琴引浜の大使と市長(Kyodo)

4.非公開「住民」懇談会
それともう一つ,各記事が当然のように用いている「住民との懇談」ないし「住民懇談会」。これも怪しい。

地元側出席者は,中山市長,山内副知事,三崎市議会議長,吉岡基地対策委員長,袖志区長,婦人会(代表?),琴引浜の鳴り砂を守る会(代表?)など8人だけで,しかも非公開。こんなものが,「住民懇談会」などと呼べるのか?

たった8人で「住民」,しかも「非公開」。懇談内容をバラすと,「特定秘密保護法」でしょっ引かれるのかもしれない。クワバラ桑原。
 
150626c■非公開「住民」懇談会(市役所FB)

5.大使大歓迎のイルカ軍団
ケネディ大使来訪が米軍人・軍属を感激させたのはまちがいないが,鼓舞されたのはそれだけではない。マル秘の情報筋から聞いたのだが,大使来訪に欣喜しているのは,日本有数の好漁場たる丹後半島沖に狙いを定め,近辺に基地を建設しようとしている例のイルカ軍団。

ケネディ大使は,世界周知のイルカ人権擁護主義者。和歌山・太地でのイルカ捕獲は残虐で非人道的だ,イルカの人権を守れ,と大キャンペーンを張り,太平洋のイルカ軍団を感激させた。

つぎは日本海の番だ。もし丹後の漁民がイルカをいじめたり殺したりしたら,ケネディ大使がすっ飛んできて,イルカの人権擁護のため,駐留米軍をバックに,猛然と漁民を非難攻撃するだろう。人権擁護を旗頭とする米軍の基地の目の前でイルカを虐待するとは何事か,絶対に許さない,と。

丹後半島付近のイルカ軍団は,米軍基地ができ,さらに守護女神ケネディ大使まで激励に訪れてくれたことに,大感激しているにちがいない。ウソだと思われるなら,経ヶ岬灯台下か琴引浜付近でイルカたちに尋ねてみていただきたい。むろん,監視カメラでバッチリ監視されていることは言うまでもないが。

[参照]
ケネディ大使,ジュゴン保護を!
イルカ漁非難,その反キリスト教的含意と政治的戦略性
京都の米軍基地(34):イルカ軍団,丹後半島近海来襲
カモとイルカと伝統文化

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/06/26 at 21:50

ガディマイ祭:動物供犠と人間の業(11)

9.人道的動物愛護運動の人間至上主義
今年のガディマイ祭の動物供犠は,11月28日(主に水牛),29日(ヤギほか)に催行された。

この動物供犠については,内外の動物愛護団体が激しい反対運動を繰り広げ,インドでは最高裁に訴え,動物の不法持ち出し禁止命令を出させることに成功した。ネパール政府にも圧力をかけ,関係諸法による規制強化を約束させた。要所には治安部隊1万4千が派遣され,動物検疫所も5か所開設された。

その結果,動物供犠そのものは阻止できなかったものの,供犠水牛は前回2009年の半分以下,4~5千頭にとどまったとみられており,この点では反対運動は大きな成果を上げたと動物愛護諸団体は評価している。

一方,ネパール政府と祭り関係者は,反対運動のさらなる激化を恐れ,今年は,ジャーナリストの入域を禁止した。リパブリカ記者はカメラを警官に没収された(のち返却)。

しかし,この情報化時代,参拝者のスマホやデジカメまで禁止することは無理であり,おそらく多数撮影され,これから続々ネットに掲載されていくであろう。しかも,それらがいずれも動物供犠の「リアルさ」を競うものとなることは避けられない。

動物が殺される様は,「リアル」であればあるほど,菜食主義者は無論のこと非菜食主義者であっても,日常生活においては直視に耐えられない。この点では両者の態度は共通している。

これは動物供犠支持派には圧倒的に不利な状況。反対運動が勢いを増すのは自然な成り行きであり,このままでは,2019年の次回動物供犠は実施できない可能性大と見ざるをえない。動物愛護派の完全勝利だ。

しかし,本当にそれでよいのだろうか? 動物の不法持ち込み,供犠前後の不衛生,見世物利権化,ダリット差別など,もっともな問題点をクリアし本来の動物供犠に立ち戻ったとしても,それでも動物供犠は,それ自体が悪であり禁止されなければならないのか? 

動物供犠禁止は,他の生命の犠牲によって生きざるをえない人間が,自らの業から目を背けて生きることを糊塗するためではないのか? 「人道的(humane)」こそが「人間至上主義(humanism)」なのではないか?

[参考資料]Humane Society International FB
 ▼シンボルマーク
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 ▼12月3日記事
Thank you for taking action and donating to support our campaign against the world’s largest animal sacrifice at the Gadhimai festival in Nepal.

Because of your support, our comprehensive campaign included meeting with the president and prime minister of Nepal to directly request their intervention and lobbying the chief priest of the Gadhimai Temple through the night until just hours before the butchering started, in a last-minute attempt to stop the bloodshed.

Despite the festival proceeding, there were some positives. We were able to successfully petition the Supreme Court of India to order a halt to illegal border crossings, resulting in 114 arrests and more than 2,500 animals seized (pictured). The number of animals who reportedly died was significantly lower than in the past and, just as importantly, we built a foundation for continuing the fight.

Our commitment to prevent this bloodbath from happening again is greater than ever. We will do all we can over the next five years to put a permanent end to the massacre of animals at Gadhimai.
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[参照記事]
*Vijay Singh,”Animal sacrifice in Nepal goes on despite protests,” Times of India, 2014-11-30.
*”Mass animal sacrifice at Nepal’s Gadhimai festival sparks global condemnation,” Business Standard 2014-11-30.
*Manesh Shrestha,”Death and the goddess: The world’s biggest ritual slaughter,” CNN, 2014-12-01
*Shirish B Pradhan,”India’s ban on animal exports hits Nepal’s Gadhimai festival,” Deccan Herald, 2014-12-01,
*”Dispute flares up in Gadhimai over sacrificial remains,” Himalayan, 2014-12-01

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/12/02 at 23:01

ガディマイ祭:動物供犠と人間の業(10)

8.ブリジット・バルドーの大統領宛公開書簡
仏女優ブリジット・バルドーが,ガディマイ祭禁止を求める公開書簡をネパール大統領に送った。祭り利用の金儲け批判はもっともだが,だからといって神々への敬虔な動物供犠までも十把一絡げに否定するのは,行き過ぎだ。

一国の元首に向かって,その国の伝統文化を「血に飢えた」「残虐な暴力行為」と罵倒し,止めさせよ,と高飛車に要求するのは,あまりにも非礼。ネパール大統領は,完全無視でよい。

菜食主義者の肉食反対や非暴力主義者の動物供犠反対は,むろん自由である。大いに議論し,新しい文化を創っていったらよい。が,だからといって,宗教や文化の根幹に関わる価値(価値観)の問題を,安易に政治の世界に持ち出すことは許されない。神々の争いを政治化すれば,世界は動物以前に人間が殺し合うことになる。

しかし,残念なことに,近代以降,欧米の政治技術が発達し,いまや世界世論は彼らにより操縦されている。欧米の常套手段は分割統治。ネパールの動物供犠についても,欧米が介入し,世論を分断し,問題を政治化し,結局はそれを政治的に廃止させてしまうだろう。

予定では,明日,明後日が動物供犠。SAARC会議よりもはるかに重要。注視していたい。

[書簡要旨]
2009年の書簡は無視されたが,私は諦めてはいない。

今年は,総数25万のヤギ,水牛,ブタ,ニワトリ,ハト,アヒル,ネズミが生贄にされる。しかし,ガディマイ女神が,そのような無実の生き物の生贄を喜び,その残虐な暴力と引き替えに繁栄をもたらしてくれるとは,到底信じられない。

古くさい血まみれの残虐な伝統は,ネパールの評判を大きく損なう。廃止すれば,評価は上がる。

ガディマイ祭は金儲けが目的となっており,ネパール政府はそのような祭りを認めるべきではない。この祭りが認められるのなら,「麻薬祭」や「酒祭」でさえ認められることになる。

インド内務省は,ネパールへの不法な動物輸送を禁止した。ヒマーチャルプラデーシュ州でも,動物供犠禁止の判決が出た。インドは,動物保護に向け大きく前進している。

大統領の国ネパールも,残虐な伝統を一掃すべきだ。そうすれば,平和と共生のために立ち上がった大統領として,あなたの名前は後々まで語り継がれるだろう。そして,あなたの国も長く繁栄するだろう

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/11/27 at 17:24

ガディマイ祭:動物供犠と人間の業(9)

6.インド政府の対応
インドでは,様々動物愛護主義者や動物保護団体が,政府への要請やデモ,あるいは裁判所への訴えなどにより,ガディマイ祭への動物輸送を阻止しようとしている。

たとえば,モディ内閣の女性子供開発大臣マネカ・ガンディー。ネルー=ガンディー家の一員であり,動物の権利擁護運動の世界的指導者の一人。インドにおいてPeople for Animalsを創設し,またInternational Animal Rescueの後援者でもある。ガディマイ祭に対しても,新聞,ネットなどで手厳しく批判・攻撃している。ブリジット・バルドー,ジョアンナ・ラムリーと並ぶガディマイ祭反対運動の国際的代弁者。

このようにインドでガディマイ祭反対運動が盛り上がる中,高裁と最高裁が相次いでガディマイ祭への動物の輸送を禁止する注目すべき命令を下した。(報道錯綜のため,多少,不正確な部分があるかもしれない。判れば,後日訂正)

141126a ■マネカ・ガンディー(Hindustan Times, 2010-7-31)

(1)高裁判決
[1]ウッタラーカンド高裁判決,2011年12月19日
インドでは,すでに多くのヒンドゥー寺院が動物供犠を止めている。ウッタラーカンド州のブーカル・カリンカ祭でもスクラ・パクサ (शुक्ल पक्ष) でも,動物供犠はなくなった。

「わが州の人々のこのような行動を見れば,神々を喜ばせるための動物供犠は,もはや行わないという意識ができあがっていることは明白である。・・・・ この法律[動物虐待禁止法2001「動物を認可屠殺場以外で屠殺してはならない」]に定めるとおり,神々を喜ばせるための動物供犠の古い伝統があるとはいえ,屠殺場以外での動物屠殺は認められない。」

「供犠は無実の動物に耐えがたい苦痛を与える。・・・・この社会悪は規制されるべきである。」(r)

[2]ヒマーチャル・プラデーシュ高裁判決,2014年9月26日
あらゆる寺院での動物供犠を禁止。

「憲法の掲げる価値は,宗教の掲げる価値に優位する。人間の権利と同様,動物の権利についても,それを侵害するような命令や勧告を発する権利はない。

宗教の名で動物を虐待することは許されないし,もし憲法や妥当する法律に反するような指示を信者に出すなら,それは違法な行為である。憲法設置でもない団体が,法律を無視させるような指示を出すことは許されない。」(d)

141126b ■動物園授業参加のガウリ・マウレキ:2013年9月5日(PFA-Uttarakhand HP)

(2)最高裁判決
[1]違法な動物輸送防止の仮処分命令,2014年10月14日
原 告:ガウリ・マウレキ(Gauri Maulekhi),動物の権利擁護活動家(People for Animals Uttarakhand)

「ガディマイ祭の供犠動物の70%以上は,ビハール,ウッタルプラデーシュ,西ベンガルの人々が不法に国境を越え持ち込む。このような家畜の無規制越境は,インドの輸出入規則に違反している。水牛の多くは,ビハールから祭りのため連れてこられる。・・・・

動物は,運搬中の疲労,脱水,寒さ,ストレスに苦しめられる。多数の動物が集中するので,動物伝染病の発生の危険があり,もしそうなれば,家畜や経済に甚大な影響を及ぼす。疫病の流行は,公衆衛生にとっても危険だ。儀式のための屠殺は,動物に対する残酷な残虐行為である。」

仮処分命令:裁判長J.S.Khehar
「外国貿易法1992」は,無資格者の家畜輸出を禁止している。連邦政府と関係諸州(ビハール,ウッタルプラデーシュ,ウッタラーカンド,西ベンガル)は,違法な家畜輸送を防止せよ。

ネパールのガディマイ祭での供犠動物の70%は,インドから持ち込まれる。インドの動物に,そのような「恥ずべき残虐」を加えることは,認められない。(c,s,t)

[2]違法な動物輸送の防止命令,2014年11月21日
連邦と関係諸州は,国境管理を厳格化し,ネパールへの違法な動物輸送を防止せよ。[u]

(3)インド政府の対応
連邦内務省は,9月25日付通達において,ビハール州とウッタルプラデーシュ州に対し,祭り期間中,動物をネパールへ輸送することを禁止した。

2014年の祭りでは,約9万頭の水牛のネパールへの違法輸送が予想される。これを防止する対策をとること。特に11月24~29日は,警戒を強化せよ。武装国境警備隊には,すでに出動命令が出ている。以上が,通達の要旨。

この通達や他の同様の指示に基づき,ビハール州当局は,印ネ国境付近において,違法家畜輸送容疑で47人を逮捕し,271頭を没収した。没収家畜総数は,4州で2422頭。

こうしたインド政府の規制強化に対し,ガディマイ祭実行委員会のラム・チャンドラ・シャハ委員長は,こう反論している。

「これまでのそうした通達には,たいした効果はなかった。・・・・われわれが,人々に動物を連れてこいと要求しているのではない。人々が自分自身の信仰に従い,動物を連れてきて,ガディ女神に生贄として捧げているのだ。」(c,v,x,y,z)

7.ネパール政府の対応
ネパール政府は,「動物の福祉と疫病防止のための対策」はとるが,供犠の全面禁止は考えていない。これに対し,ネパール最高裁へ二つの訴えが提出された。

原 告:[1]アルジュン・クマール・アリヤル弁護士,サロジ・クマール・ニューパネ。[2]ラム・クリシュナ・バンジャラ弁護士,ギータ・プラサド・ダハール(ネパール動物福祉調査センター事務局長)

訴えの要旨:訴えの内容はいずれもほぼ同じ。ガディマイ祭の動物供犠は,「動物の健康と家畜の取り扱いに関する法律1979」の規定に反する。また,それは環境,公衆衛生,人々の心理に対し,悪影響を及ぼす。それゆえ,政府は,動物供犠を中止させる措置を執るべきである。

仮処分命令,2014年11月24日:裁判長ゴビンダ・プラサド・ウパダヤ
動物の取り扱いに関する法令は,いくつかある。「動物の健康と家畜の取り扱いに関する法律1979」,「動物屠殺・食肉検査法」,「環境保護法」など。これらの関係法令を遵守して,ガディマイ祭は実施されるべきである。(g,w,x)

141126c 141126d
 ■政府への反対請願:H.K.シュレスタ(Nepal Mountain News, 2014-11-17) / ガディマイ祭反対デモ:カトマンズ2014年10月11日(Animal Welfare Network Nepal FB)

[参考資料]
[c]Chahana Sigdel,”Gadaimai slaughter: Bihar, UP asked to check animal flow into Bara,” Ekantipur, Oct.13, 2014
[d]Rukmini Sekhar,”Gadhimai Festival: Harvest of Blood,” 05 October 2014. http://www.dailypioneer.com/sunday-edition/agenda/for-a-cause/gadhimai-festival-harvest-of-blood.html
[r]Poorva Joshipura,”Animal Sacrifice has No Place in Space-Age India,” 2014-10-17. http://www.ibtimes.co.uk/animal-sacrifice-has-no-place-space-age-india-1470505
[s]”Supreme Court issues notice to Centre, states on cattle export to Nepal,” 2014-10-14. http://www.dnaindia.com/india/report-supreme-court-issues-notice-to-centre-states-on-cattle-export-to-nepal-2026108
[t]”India apex court restricts export of animals,” ekantipur,2014-10-16
[u]”Cattle trafficking; SC asks Centre, states to keep up vigil on Indo-Nepal border,” 2014-11-21. http://zeenews.india.com/
[v]”Supreme Court of India Intervenes to Save Thousands of Animals from Nepal’s Brutal Gadhimai Festival Sacrifice,” Humane Society International-India,2014-10-20. http://www.hsi.org/world/india/news/releases/2014/10/india-supreme-court-gadhimai-ruling-102014.html
[w]”SC Orders Gadhimai Festival To Respect Existing Law,” Republica,2014-11-25
[x]”Gadhimai fair: 271 cattle seized,” Ekantipur,2014-11-21
[y]”India police seize animals bound for Nepal sacrifice,” AFP,2014-11-24. http://www.dailymail.co.uk/
[z]Manash Pratim Gohain,”India confiscates hundreds of animals at Nepal border ahead of Gadhimai festival,” The Times of India, 2014-11-20.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/11/26 at 15:45

ガディマイ祭:動物供犠と人間の業(8)

5.ガディマイ祭批判の皮相性
ガディマイ祭は非人道的だという批判は,祭の近現代的部分,つまり興行化・商業化した部分については妥当するが,祭の本質たる伝統的宗教的供犠部分については的外れである。神々への敬虔な動物供犠は,非人道的であるどころか,むしろそれこそが信仰をもつ人々にとっては動物の生命の尊厳を真に尊重する最も誠実な生き方である。

(1)人間の「手段」としての動物
そもそも西洋では,古代ギリシャにおいてもキリスト教においても,さらには近代西洋哲学においても,人間と動物は明確に区別されていた。アリストテレスによれば,動物は,その自然において,すなわち生まれながらにして本質的に(by nature),人間とは別のものであり,理性的な人間のためにつくられた非理性的存在であるにすぎない。

キリスト教では,神が万物を創造し,「神の似姿」たる人間に,地上の他の生物すべてを支配する権限を与えた(「創世記」,トマス・アクィナスなど)。

近代になっても,動物は,デカルトにとっては「複雑な機械」にすぎなかったし,カントにとっては人間のための単なる「手段」に他ならなかった。

このように,西洋では動物は人間とは全く別のカテゴリーのものであり,魂や自意識などあるはずもなく,人間によって自由に支配され利用されてよいものであったのである。

(2)動物愛護運動の拡大
ところが,18世紀末から19世紀にかけて,欧米で快苦を動物一般に共通のものと見なし善悪の判断基準とする功利主義が勃興し,新興ブルジョア階級に支持を広め始めると,ブルジョア社会において動物愛護が唱えられるようになった。ちなみに貴族のたしなみは狩猟,労働者階級の娯楽は「クマいじめ」,「牛いじめ」など。

そして,この動物愛護に,資本主義による自然破壊が拡大するとエコロジーの観点からの動物保護の訴えも加わり,動物愛護運動はさらに勢いを強め,欧米から世界へと広がり,いまや動物保護がドイツなどで国家の憲法にまで書き込まれるようになった。この動物愛護運動の発展の概要は以下の通り。

1822(英):「家畜虐待禁止法(マーチン法)」。動物福祉のための世界初の議会制定法。違反は罰金または3か月以下の拘禁刑。
1824(英):「動物虐待防止協会(SPCA)」設立。のちにビクトリア女王援助の「王立動物虐待防止協会(RSPCA)」に発展。
1871(独):刑法で動物虐待禁止。
1911(英):「動物保護法」制定。動物に「不必要な苦痛」を与えると,罰金または6か月以下の拘禁刑。
1925(英):「動物使用規制法」制定。以後,英国で「愛玩動物法」(1951)など関係法令多数制定。
1933(独):ナチスの動物保護政策。「温血動物屠殺法」=屠殺前の麻酔の義務づけ(ユダヤ教の麻酔なしコーシャ屠殺の禁止が目的とされる)。「動物保護法」=広範かつ詳細な動物保護法で,違反は罰金または2年以下の拘禁刑。
1972(独):「改正動物保護法」(改正1972,1982,1986.1998)。以後,多数の動物保護法令制定。
1979(欧):「屠殺動物保護協定」
1979(欧):「アムステルダム協定」で動物を「意識をもつ存在(sentient beings)」と規定。これを「リスボン条約」(2009)で条文化。
2002(独):基本法(憲法)改正。「第20a条(自然的生活基盤の保護義務)国は,・・・・自然的生存基盤および動物を保護する。」
2012(EU):「動物福祉計画(Animal Welfare Strategy)2012-2015」制定。
現 在:「世界動物保護協会(WSPA)」などが,上記「動物福祉計画」のような広範な動物保護を,国連において「動物福祉宣言(Universal Declaration on Animal Welfare=UDAW)」として採択し世界に動物福祉を拡大するよう,国連や世界社会に強力に働きかけている。「宣言」の要旨は以下の通り。
 ・動物は「意識をもつ(sentient)」生物。
 ・動物の人道的(humane)取り扱い。
 ・動物への5つの自由の保障:飢餓からの自由,恐怖からの自由,不快からの自由,苦痛・疾病からの自由,自然な生存の自由。
 ・人間と動物の共生。
 ・すべての国の「宣言」遵守義務。

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 ■クマいじめ(Public Garden & Grounds)/奴隷船内(New Heaven Colony Historical Society)

(3)動物愛護運動の皮相性
西洋の動物愛護運動は,この略史を見ても分かるように,自然と人間を対置し,自然を単なる手段として利用しようとしてきた人間中心主義の皮相な裏返しにすぎない。

[1]西洋の人間中心主義
西洋の人間中心主義は,人間以外の動物を単なる手段と見るにとどまらなかった。外見は人間であっても理性なき者は動物と同等(有声の道具)とみなすという古代ギリシャ以来の人間観を根拠に,西洋は人間をすらもおおっぴらに狩り立て,貨物船に詰め込み,満足に食事すらさせず「新大陸」に運び,競売にかけ,奴隷として酷使・虐待した。黒人差別が制度的に廃止されたのは,ほんの数十年前のこと。あるいはまた,非文明的・非理性的を理由として,非西洋世界を植民地化し,「未開原住民」を酷使・虐待した。植民地がほぼ解放されたのも,つい数十年前のことにすぎない。

[2]動物愛護運動による動物虐待
このような誤った理性中心主義や自然の過度の搾取は,改められるべきだが,だからといって動物愛護運動のような動物愛護の仕方は皮相かつ行き過ぎであり,より冷酷な別の形の動物虐待を際限なく拡大する恐れがある。

ペット動物は,愛玩すればするほど動物の本性=自然を奪うことになり,語の正確な意味において,動物虐待である。

また肉食については,菜食主義者が肉食を断つのは自由だが,だからといって肉や魚を食べる人々を「非人道的」といって非難するのは,行き過ぎである。人間が動物の肉や魚を食べるのは,ごく自然なことであり,倫理的に非難されるべきことではない。

屠畜についても,苦痛なき運搬や屠殺は,現実にはもっぱら経済効率の観点から推進されているにすぎない。動物でも魚でも,健康なものを苦痛なく手早く処理しなければ,経費がかかる上に,食品としての商品価値も下がるからだ。

誤解を恐れずあえていうならば,人間は自分の食べる動物や魚が殺され苦しむ姿を出来るだけ直視すべきだ。

近代的・衛生的工場での流れ作業による効率的な苦痛なき屠殺と食肉処理――これは,動物自身ではなく,経済効率を最優先させ,死の苦痛を見たくも見せたくもないエゴイスティックな人間のための工夫だ。

動物や魚にとって,殺され苦しむ姿をブラックボックス内に隠され,美しい「パック肉」や「パック切身」となった姿だけを見られ,”おいしそう!” といって買われ食われるのは,本望ではあるまい。いやそれどころか,それは人間エゴによる最悪の動物虐待とさえいわざるをえないだろう。

[3]人間の業の直視
人間が生きる上で不可避の業については,多くの人々が語っているが,ここでは二つだけ紹介しておこう。

●血への渇望 Himal Southasian, Dec.2009
動物の権利擁護運動家が直視しようとしない問題が,一つある。ガディマイ信者は,少なくとも正直に,包み隠すことなく,自分たちの動物供犠を行ってきた。では,処理場の壁の内側で日々何百万もの動物が殺されていることは,どうなのか? 屠殺の衛生化が,世界中の非ベジタリアンたちに,人道主義者の仮面を付けさせてきたのではないか? アメリカの感謝祭で4千万羽もの七面鳥が殺されることは,どうなのか? ガディマイ信者は,その動物供犠の公開性のゆえに処罰されなければならないのか?

●大 漁 金子みすず
 朝焼小焼だ
 大漁だ
 大羽鰮[おおばいわし]の
 大漁だ。

 浜は祭りの
 ようだけれど
 海のなかでは
 何万の
 鰮のとむらい
 するだろう。

[参照資料]
 * “Animal Welfare.” http://www.politics.co.uk/reference/animal-welfare
 * Ben Isacat,”How to Do Animal Rights,”Aug.2013. http://www.animalethics.org.uk/about.html
 * 中川亜紀子「ドイツにおける動物保護の変遷と現状」四天王寺大学紀要54(2012)
 * 藤井康博「動物保護の憲法改正(基本法20a条)前後の裁判例」早稲田法学会雑誌60-1(2009)
 * 内澤旬子『世界屠畜紀行』2007
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[参照](2015-05-25追加)
ドイツ動物保護法(翻訳:浦川道太郎)
2001年4月12日の危険な犬を撲滅するための法律(連邦官報第1部530頁)第2条により変更された1998年5月25日公示の正文における(連邦官報第1部1105頁、1818頁)
第1条〔法律の目的〕
 この法律は、同じ被造物としての動物に対する人の責任に基づいて、動物の生命及び健在を保護することを目的とする。何人も、合理的な理由なしに、動物に対して痛み、苦痛又は傷害を与えてはならない。
第4a条〔温血動物の屠殺〕
 (1)温血動物は、血抜きを始める前に気絶させる場合にのみ、屠殺することができる。
 (2)前項の規定にかかわらず、次の場合には、気絶させることなく屠殺することができる。
 1 緊急屠殺する際、所与の状況下で気絶させることが不可能なとき。
 2 主務官庁が、気絶させずにおこなう屠殺(典礼に従う蓄殺[Schachten])のための例外的認可を与えるとき。この場合、この法律の施行区域内において、強制力ある教令により典令に従う蓄殺を定め、又は典礼に従って蓄殺されていない動物の肉の食用を禁止している特定の宗教団体の所属員の要求に応じる必要性があるときに限り、主務官庁は例外的認可を与えることができる。
 3 第4b条第3号に従い法規命令により例外として気絶させずにおこなう殺害が定められているとき。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/11/24 at 15:14

ガディマイ祭:動物供犠と人間の業(6)

(2)ヒンドゥー教の不殺生の教えに反する
ヒンドゥー教の中からは,ガディマイ祭はヒンドゥー教の不殺生(अहिंसा)の教えに反するという批判がなされている。たとえば,「ネパール・ヒンドゥーフォーラムUK」のスルヤ・ウパダヤ議長は,「無辜の動物たちを宗教の名をもって非人道的で野蛮な生贄にすることは,断じて許されない」と厳しく非難している(l)

たしかに,ヒンドゥー教(「マヌ法典」など)には不殺生の教えがあり,一般に肉食は嫌われ,なかには一切の殺生を忌避する原理主義的ベジタリアンもいる。ヒンドゥー教徒が多数のインドでは,国民の約6割が多かれ少なかれベジタリアンであり,食事も非ベジタリアン用とは区別されている。食品には,一目で分かるように法令で下注のようなベジタリアン印(),非ベジタリアン印()の表示が義務づけられている。インドは殺生が最も忌み嫌われている国の一つといってよいであろう。

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 ■ ベジタリアンガイド / 印マックの菜食・非菜食峻別(http://vivekvaidya.com/)

しかし,その一方,ヒンドゥー教の教えの中には,神々への動物供犠や供犠後動物を食べることを積極的に勧めているところもある。ダサイン祭や,ダクシンカーリーなど各地のヒンドゥー寺院で,動物供犠がさかんに行われてきたのは,それゆえである。むしろ,ヒンドゥー教の神々ほど血なまぐさい神々は珍しいとさえ言ってもよいであろう。 (参照:血みどろのゴルカ王宮

したがって,ヒンドゥー教徒の中の不殺生を信条とする人々が,自らの信条に従って動物供犠をしないこと,あるいはまた動物供犠に反対することは自由だが,その信条をそうした信条をもたない人々にまで政治的に力をもって強制することは許されない。神々の争いは,神々の世界にとどめるべきである。

なお,蛇足ではあるが,不殺生をいうなら,動物だけではなく,生命をもつ他の「生物」をも殺して食べられないことになる。麦,米,野菜などの植物も動物と同様,生命をもつ。ましてや発酵食品ともなると,生きて働く無数の微生物を殺して食べることになる。モーツアルトを聴かせると熟成し美味しくなるという説もあるくらいだから,微生物にも「感覚」や「感情」があり,殺されると「苦しむ」はずだ。

人間は,他の生命を犠牲にせずして生きることは出来ない。それが人間の業である。

(注)インドの食品包装表示法
FOOD SAFETY AND STANDARDS (PACKAGING AND LABELLING) REGULATIONS, 2011
4. Declaration regarding Veg or Non veg
(i) Every package of “Non Vegetarian” food shall bear a declaration to this effect made by a symbol and colour code as stipulated below to indicate that the product is Non-Vegetarian Food. The symbol shall consist of a brown colour filled circle having a diameter not less than the minimum size specified in the Table mentioned in the regulation 2.2.2 (4) (iv), inside a square with brown outline having sides double the diameter of the circle as indicated below : Brown colour
(ii) Where any article of food contains egg only as Non-Vegetarian ingredient, the manufacturer, or packer or seller may give declaration to this effect in addition to the said symbol.
(iii) Every package of Vegetarian Food shall bear a declaration to this effect by a symbol and colour code as stipulated below for this purpose to indicate that the product is Vegetarian Food. The symbol shall consist of a green colour filled circle, having a diameter not less than the minimum size specified in the Table below, inside the square with green outline having size double the diameter of the circle, as indicated below : Green colour

 141119b ■非ベジ・ベジ識別マーク

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/11/19 at 15:44

ガディマイ祭:動物供犠と人間の業(4)

3.ガディマイ祭の催行
ガディマイ祭は,実際には見ていないので,以下はネット記事などのとりまとめにすぎない。また,祭礼催行方法は,1990年民主化以降,とくに前々回1999年頃から大きく変化し始めたようなので,関連記事にも混乱が少なくない。いずれが事実かにわかには判別しがたいので,様々な情報をできるだけ整理して紹介するにとどめたい。矛盾や繰り返しもあろうが,ご容赦願いたい。

(1)ガディマイ寺院
現在のガディマイ寺院は,1993年(2050年),ケドゥ・チョーダリ・タルーが,バグワン・チョーダリを記念して建立したもの。

それ以前にこの場所に何らかの建造物があったかどうかは不明だが,寺院の側にはココナツを割るための大きな石がある。ココナツは,ダクシンカーリーなど他の寺院でもよく見られる供物であり,バリヤルプルでも,古くは,地元の人々がこの石の上で割ったココナツと幾ばくかの生贄を捧げ,ガディマイ女神の加護を祈っていたのであろう[a]。

そうした古来の素朴な宗教儀式が,1990年の民主化や1993年の寺院建立を転機に大きく変化し,現在のような「世界最大の動物供犠祭」になったのではないかと思われる[b]。

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 ■2050年建立のガディマイ寺院(Himalayan 2009-11-22)/ 女神とココナツ(gadhimai.info)

(2)ガディマイ祭実行委員会
ガディマイ祭も,他の祭と同様,近代化以前は,おそらく地域の村共同体が村の行事として執り行っていたのだろうが,現在は,「ガディマイ祭実行委員会」が組織され,祭の運営に当たっている。

2009年度のガディマイ祭実行委員会は,委員総数1000,小委員会15。2014年度の体制はよく分からないが,実行委員長はラム・チャンドラ・シャハで,近くの村々に村実行委員会が組織されているという[c,d,e]。

実行委員会は,本部がそれぞれの村の実行委員会に協力を要請する。2009年の場合,1村(VDC)当たり動物1000頭(内訳不明)の奉納が求められ,その見返りとして各村には祭の収入から分配金が支払われた。2014年度は,奉納動物をさらに増やし,祭を盛り上げ,収入増を図りたいという[f]。

(3)ネパール政府
ネパール政府は,ヒンドゥー教国家であった頃は,他の祭と同様,ガディマイ祭に関与することにも何ら問題はなかったはずだが,民主化以後,特に2007年の世俗化以後は,この祭を宗教儀式ではなく地域の「文化行事」と見なすことにより,政府として様々な援助を行ってきた。

たとえば祭への政府助成金は,2009年度450万ルピー。他に,寺院周辺(3~6km)の家畜への疫病予防接種,供犠後動物の処理施設の改善など。また2014年度には,動物検疫所も何カ所か設置する予定だという[f,g]。

しかし,このようにして政府が関与すると,ガディマイ祭反対派からの非難攻撃をもろに受け,ガディマイ祭が政治問題化することは避けられない。ガディマイ祭は,今年の参拝者が500万人とも1千万人ともいわれる大行事であり,祭が実施される以上,治安や衛生の面からも,実際上,政府は関与せざるをえない。が,関与すれば政府は非難される。政府にとって頭の痛い難問である。

(4)商業化
ガディマイ祭も,他の動物供犠と同様,つい最近までは宗教儀式として執り行われていたにちがいない。供犠後の水牛の肉も,2009年度ガディマイ祭実行委員会事務局のモティ・ラル・クスワによれば,以前は希望者に無料で配布されていたという(2004年であれば4千頭)。

ところが,2009年度について,彼は「肉と皮を競売し,2千万ルピーの収入を得たい」と言っている。実際にどの程度の収入だったのか分からないが,相当の儲けが出たことは確かなようだ。祭には,他にも見物料や出店料あるいは参拝者からの寄進など様々な収入もあり,これらはバラ郡の開発に当てられるという(f)。

これは,明らかにガディマイ祭の変質。祭の「見世物(ショー)化」「商業化」である。

(5)祭礼の開始
ガディマイ祭は,次のようにして開始される(一部既述)。

マンシール月第2サプタミの日(今年は11月28-29日)の未明,ブラフマ・ババ寺院の大きな菩提樹の下に運び出されたガディマイ女神像の前で,村の祈祷師(ドゥガ・カチャディヤの子孫)が,バグワン・チョーダリの子孫とともに,お祈りを始める。

しばらくすると,ガディマイ女神が目覚め,大きな壺のギー灯明に自ずと灯がともる。そして,この目覚めた女神に,人間の身体の5カ所(胸,舌,目の下,あご,腕)の血と,5種類の動物(ネズミ2,ハト2,ブタ1,ニワトリ1,子羊1ないし水牛1)の生贄を捧げ,また供犠で使用されるククリ刀にもお祓いをする。

これが済むと,寺院近くの広場で動物供犠が開始される(a,h,i,j)。

(6)動物供犠の実行
ガディマイ寺院近くの供犠場広場に連れてこられる動物は,総数20~50万。
 水牛=1万4千(2004年),2万(2009年)
 ヒツジ=5~30万(2009年)

ククリ刀などで動物供犠を実行する係は,200~400人。また,25ルピーを払い入場すれば,誰でも自分の手で供犠を実行できるという。参拝者総数は,100~500万人(2009年)。

以上が事実だとすると,たしかに「世界最大の動物供犠」。寺院周辺が血みどろの修羅場と化すのは当然といえよう(d,h,i,k,l,m,n)。

141117c ■動物供犠の見物(neostuff.com/2014/10/12)

(7)動物供犠の終了
やがて(2日後?),大きな壺の中のギー灯明が自ずと消え,ガディマイ女神は退去,祭の終了が告げられる。ここで動物供犠は停止され,生き残った水牛には耳に印をつけ,次の祭まで飼育される(j)。

供犠後の動物の肉や皮や骨の利用については,前述のように2009年の前回から商業化が進み,カトマンズの商人らに売却し,利益は寺院維持や地域開発に回される。

[参照資料]
 [a] Merritt Clifton, “The Origin of the Gadhi Mai Sacrifice.” http://www.animals24-7.org/2014/03/12/427/
 [b]Shristi Srestha,”Buddha and Bloodbath.” http://www.myrepublica.com/portal/index.php?action=news_details&news_id=83135
 [c]Chahana Sigdel,”Gadaimai slaughter: Bihar, UP asked to check animal flow into Bara,” Ekantipur, Oct.13, 2014
 [d]Rukmini Sekhar,”Gadhimai Festival: Harvest of Blood,” 05 October 2014. http://www.dailypioneer.com/sunday-edition/agenda/for-a-cause/gadhimai-festival-harvest-of-blood.html
 [e]”Gadhimai-fair celebration committee formed,” 03 November 2014,Nepalnews.com
 [f]Dilip D Souza,”The Goddess Beckons,” December 2009,Himal
 [g]”Action plan readied to manage animal sacrifice: Gadhimai festival,” Ekantipur,2014-10-22
 [h]”Gadhimai Festival(Animal Sacrifice) In Nepal.” http://omoewi.blogspot.jp/2013/02/gadhimai-festival-animal-sacrifice-in.html
 [i]”Nepal’s Gadhimai festival draws animal blood and millions of visitors.” http://www.thealternative.in/society/nepals-gadhimai-festival-draws-animal-blood-and-millions-of-visitors/
 [j])Ravi M. Singh, “The Five-Year Animal Sacrifice,” Sep.25.2013. http://ecs.com.np/features/the-five-year-animal-sacrifice
 [k]”Mass animal sacrifice at Nepal’s Gadhimai FestivalTue,” Sep 23, 2014. http://asiaforanimals.com/coalition-voice/latest-news/item/100-mass-animal-sacrifice-at-nepal-s-gadhimai-festival
 [l]”Nepal Must Stop Inhumane Sacrificial Slaughter.” http://action.ciwf.org.uk/ea-action/action?ea.client.id=119&ea.campaign.id=29144&ea.tracking.id=7774353c&utm_campaign=slaughter& utm_source=actionemail&utm_medium=email&forwarded=true
 [m]D.M. Murdock, “‘Tis the season for slaughter,” November 27, 2009. http://www.examiner.com/article/tis-the-season-for-slaughter
[n]”Hindu sacrifice of 250,000 animals begins.” http://www.theguardian.com/world/2009/nov/24/hindu-sacrifice-gadhimai-festival-nepal

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/11/17 at 12:08