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「共和国記念日」祝賀メッセージ,中国と北朝鮮だけ

ネパールで5月28日,第9回「共和国記念日」が祝われたが,ネパリ・タイムズ=mysansar.com(5月30日)記事によれば,祝賀メッセージを寄せたのは中国と北朝鮮の2か国のみであった。しかも,ネパール政府が披露したのは中国のメッセージのみだったという。ちょっと変だし,メッセージを寄せた国が他にもあったという記事もあるが,ここではネパリ・タイムズの記事を紹介する。

同記事によれば,北朝鮮祝賀メッセージが披露されなかったのは,(1)「共和国」の建国記念祝賀と明記されていなかった,(2)北朝鮮側の署名が金正恩労働党委員長ではなく金永南最高人民会議委員長だった,(3)国際的非難を浴びている北朝鮮との関係を際立たせたくなかった,といったことが理由として考えられるという。

いずれにせよ,オリ政府が共和国記念日に披露したのが中国からの祝賀メッセージだけだった――と報道された――のは,たいへん興味深い事実である。

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Pyongyang, May 28 (KCNA) — Kim Yong Nam, president of the Presidium of the Supreme People’s Assembly of the DPRK, Saturday sent a message of greeting to Bidhya Devi Bhandari, president of the Federal Democratic Republic of Nepal, on the occasion of its national day.

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/06/01 at 23:19

カテゴリー: 外交, 政党, 中国

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京都の米軍基地(17):真のターゲットは中国か?

京丹後市経ヶ岬配備予定の米軍Xバンドレーダーは,もっぱら北朝鮮ミサイル警戒が目的と説明されているが,本当は,むしろ中国が対象ではないか?

1.日米防衛相会談
日本への2機目のXバンドレーダー配備が表明されたのは,2012年9月17日のパネッタ国防長官と森本防衛大臣との共同記者会見においてであった。

パネッタ長官:「米国と日本は将来的に2機目のTPY-2の監視レーダーの日本配備に関して、調整を始めました。これによりまして、北朝鮮の弾道ミサイルの脅威から日本を守り、前方展開している米軍にも資するものであります。そして、米国本土を北朝鮮のミサイルの脅威から防衛する能力を共有させる上で効果的になります。」(日米防衛相共同記者会見概要,平成24年9月17日)

この段階ではまだ配備場所への言及はないが,目的については,北朝鮮ミサイルの脅威から日本,前方展開米軍そして米国本土を守るためと繰り返し述べている。

この説明は分かりやすい。が,国際政治の常識に従えば,あまりにもストレートな説明には,たいてい隠された真の目的が裏に潜んでいる。そもそも北朝鮮警戒なら,すでに青森県車力にXバンドレーダーが配備されている。あえて経ヶ岬に配備するまでもない。
 [参照]
 日米防衛相共同記者会見概要(2012年9月17日)
 日米防衛相共同記者会見概要(2013年4月30日) 
 Hagel: U.S. Bolstering Missile Defense(Mar.15,2013)
 防衛省「TPY-2レーダー(Xバンドレーダー)の配備について皆様の疑問にお答えします」(2013年4月)
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2.方便としての北朝鮮ミサイル
経ヶ岬配備Xバンドレーダーは,戦略的には,むしろ中国をターゲットとしていると見た方がよいだろう。これは決して突飛な思いつきではない。共同記者会見の席で,米側記者が次のように質問している。

「森本大臣への質問でありますけれども、XバンドTPY-2のレーダーの配備はどの場所がいいと思いますか。また、パネッタ長官に対してですが、今仰ったのは、元々その目的は北朝鮮からの脅威に対するものだと言われたわけでありますが、過去において中国側の方からミサイルディフェンスがこの地域においてあることに反対意見を表明しております。今、この時期において、レーダーの再配備を発表するのは、いわゆるこの地域全体において、とりわけ日本と中国との尖閣諸島等の問題の緊張緩和をさせる上でむしろ良くないのではないでしょうか。」(同上)

さすが米国記者,鋭い。森本大臣もパネッタ長官も,この質問に対し,北朝鮮ミサイルが対象だと型どおりの回答で済ませてしまった。日本人記者からの追加質問なし。情けない。こんな有様では,日本ジャーナリズムは二流といわれても致し方あるまい。

むろん,北朝鮮ミサイルの脅威があることは事実だが,こと経ヶ岬Xバンドレーダーについては,それは真の――戦略的にはより重要な――配備目的をカムフラージュし,国民世論を煽り,地元住民を沈黙させるための方便の意味合いの方がはるかに大きい。今の日本で,「北朝鮮」ほど好都合で強力無比のジョーカーはない。

3.中国の反発
これに対し,中国は,経ヶ岬Xバンドレーダーを脅威と受け取り,激しく反発している。

チャイナネット(2012年9月18日)は,外国メディアを次のように引用している。「同レーダーは日本の南部に設置されるが,沖縄ではない」(AP)。「ミサイル防衛の他に,これらのレーダーは船舶の活動を正確に追跡することが可能だ。」(ワシントン・ポスト)。

つまり,チャイナネットは,Xバンドレーダーはもともと中国,とくに沿岸近海の監視が主目的だということを,米側情報により示しているのだ。

新華社(2012年9月18日)もまた,ロシア外務省の「日本への2機目の対ミサイル・レーダー配備は,アジア太平洋地域における米ミサイル防衛能力を大幅に増強することになる」という声明を引用し,その攻撃的性格を非難している。

こうした中国側の反応は,米英メディアも,きちんと伝えている。
▼C.Cheney(World Politics Review, Sep.18,2012):「パネッタは中国対象ではないと述べたが,北京は[Xバンドレーダー配備]発表に怒りを表明した。」
▼J.Logan(ibid):中国は,「それ[Xバンドレーダー配備]を反中国と見なすであろう」。「これをいま配備する最大の危険は,日中のナショナリズムと敵愾心を激しく高揚させることにある。」
▼New York Times(Sep.17,2012):中国政府幹部は,Xバンドレーダーは中国をもターゲットにしていると感じている。それは,中国の核抑止力の弱体化をもたらす。そして,日本をより攻撃的とするだろう。
▼BBC(Sep.17,2012):「中国は,この地域におけるミサイル防衛能力強化を中国自身の戦略への潜在的脅威と見ている。」
▼Washington Times(Sep.17,2012):日本配備Xバンドレーダーは,中国沿岸を守る対艦ミサイルをも探知可能であり,その配備により米海軍に対する中国近海の海域防衛力が無力化されるであろう。
Radar sent to Japan can track anti-ship missiles: Deterring N. Korea is stated goal, but China likely wary, By Shaun Waterman, The Washington Times, Sep.17,2012
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4.極東の緊張と先制攻撃の危険性
欧米メディアが心配するように,経ヶ岬Xバンドレーダーは,戦略的には,むしろ中国がターゲットである。チャイナネットも指摘するように,もともと配備先は「日本の南部」が想定されており,のちには芦屋基地(福岡県)や見島分屯基地(山口県)が有力候補地とされた(産経,2013年2月24日)。

南の島々は無論のこと,福岡や山口でも,モロに中国が探知範囲に入り,さすがに日米当局ともこれは無理と判断し,少し北東の経ヶ岬にもってきたのだろう。北朝鮮ミサイルの脅威は,むろんある。それは間違いないが,にもかかわらず,それはむしろめくらまし,本当の戦略的な狙いは中国であろう。

Xバンドレーダーは米軍のものとはいえ,海外メディアが懸念するように,盾の強化が日本をより攻撃的とすることは間違いない。しかも,最近では,防衛名目の先制攻撃があからさまに唱えられ始めた。しかし,日本側に先制攻撃の可能性があると北朝鮮や中国が想定するようになれば,当然,先方から先制攻撃を仕掛けられる危険性も大きくなる。これは悪循環。決して日本の安全にはならない。

Xバンドレーダーは,どう考えても,日本の安全には役立たない。反骨・京都の沽券にかけても,日米「死の商人」を太らせるだけのXバンドレーダーなど,断固,拒否すべきだろう。
 (注)レイセオン社製「AN/TPYレーダー一式」の米ミサイル防衛庁契約価格(2007年2月)=2億1200万ドル(約21,200,000,000円);同改良型(2007年7月)=3億400万ドル(約30,400,000,000円)http://www.globalsecurity.org/space/systems/an-tpy-2.htm

谷川昌幸(C)

浅井基文氏のオバマ批判と北朝鮮擁護論

谷川昌幸(C)
24日(土)午後,久しぶりの好天を横目に,浅井基文氏の講演(「日米安保50年」講演会―核密約と普天間問題を検証する!―)を聴きに行った。浅井氏は,「広島平和研究所」所長。
  
 
浅井氏は,オバマ大統領の「プラハ演説」や「ノーベル賞受賞演説」が,日本のマスコミでもてはやされているような核廃絶を目的としたものではなく,核拡散を防止するための「核管理論」にすぎないこと,またオバマ大統領が「邪悪」に対抗するための戦争を肯定していることを指摘し,厳しく批判された。
 
このようなオバマ批判は,講演会に参加していた多くの長崎市民をいたく落胆させたように感じられたが,私にとっては,これまでに表明してきた私自身のオバマ解釈と同じであり,十分に納得できるものであった。
 
しかし,私としては少し納得できないようなお話もあった。それは,北朝鮮の核に関するお話で,私の聞き違えでなければ,浅井氏は次のように説明された。つまり,北朝鮮脅威論は誤りである。北朝鮮の核保有は,米日の圧力の下でのギリギリのせっぱ詰まった選択であった。北朝鮮の核兵器は防衛的なものであり,したがって米日に対して先制的に使用されることはない。お話はこのような趣旨であったと思う。
 
この浅井氏の説明のうち,前段はほぼ納得できる。米日の脅威がなければ,北朝鮮は核兵器まで持つ必要はなかったであろう。追い詰められたすえ,やむなく核を保有するにいたった。おそらく,そういうことであろう。
 
しかし,後段の,北朝鮮の核兵器は防衛的なものであって先制攻撃には使用されないという説明には,少し違和感がある。浅井氏は「防衛的」という言葉そのものは使用されなかったが,お話の内容はそのような趣旨だったと思う。ちょっとあやふやなので,この点についてネットで調べてみた。
 
浅井氏は,所長を務めておられる「広島平和研究所」のホームページにおいて,こう述べている。
 
「北朝鮮をここまで追い込んだのはブッシュ政権の強行一本槍の対北朝鮮政策に最大の原因があることを再確認しなければならない。アメリカの政策が今日の北朝鮮の自暴自棄に近いあがきを生んでいるのだ。」
 
「相手を攻撃する「能力」と「意志」とが合体したときに脅威が成立するとする立論に基づけば、北朝鮮は「能力」は持つに至ったということとなる。 
 しかし、北朝鮮は、核ミサイルを見境なしに日本に対して使う「意志」はあるだろうか。仮に北朝鮮が日本を核ミサイル攻撃したとすれば、それを絶好の口実として、次の瞬間にはアメリカが北朝鮮をたたきつぶすことは目に見えている。金正日が無謀な対日核ミサイル攻撃によって自国の命運と自身の存立を無に帰せしめる愚かな決断を下すはずはないのだ。」(浅井基文「北朝鮮の核実験/ミサイル発射と日本・ヒロシマ」,ニューズレター2006年11月,http://serv.peace.hiroshima-cu.ac.jp/dletter/n2603.pdf
 
あるいは,『週刊 金曜日』(2010年3月26日)でも,浅井氏はこう述べておられる。
 
「「朝鮮半島有事」とか「台湾海峡有事」といった類の主張は虚構であり、まったくのフィクションにすぎません。米国自身が先制攻撃の軍事行動を起こさない限り、こうした事態は起こりえないのです。確かに大手メディアを通じて拉致問題や核開発、ミサイル実験などを材料に、北朝鮮は「恐ろしい国」、「何をしでかすかわからない国」といったイメージが、民族差別意識も底流となって国民に植え付けられている。しかし米軍は過去に北朝鮮に対して原子力空母を意図的に接近させて威嚇しているほか、毎年のように実施している米韓合同演習も、北朝鮮にしてみれば自国への核攻撃訓練であり、それこそ国家存亡に直結する脅威なのです。国力がじり貧なうえにそこまで追い詰められたら、北朝鮮にすればハリネズミが針を逆立てるように、ミサイル実験や核実験で精いっぱいの強がりを示す以外、なすすべがない。
 つまり、米国の先制攻撃を抜きにしてはあり得ない北朝鮮や中国の反撃を「脅威」とあげつらうなどという話は、米日軍事同盟の侵略性を覆い隠すための虚構の最たるものです。」(浅井基文「オバマの核政策とヒロシマ」,HP「21世紀の日本と国際社会」http://www.ne.jp/asahi/nd4m-asi/jiwen/thoughts/2010/327.html
 
浅井氏は,たしかに「防衛的」という表現は使用されていないが,しかしこれらの文章を読むと,北朝鮮や中国の核兵器は先制攻撃には使用されないもの,つまり「防衛的なもの」と見ておられると考えてよいであろう。
 
私には反核平和運動の知識はあまりないが,たしか以前,米の核は攻撃的,ソ連・中国の核は防衛的と区別し,後者を擁護する議論があったと記憶している。浅井氏の議論は,それに近いような感じがする。
 
このような核兵器保有の二分類は,私にはどうしても納得しきれない。米日の核戦略を棚上げにし,一方的に北朝鮮の核だけ非難するのは,もちろん正義に反する。しかし,それは十分認めた上で,いかなる理由であれ核保有には反対する,というのが,反核平和運動の本来の姿ではないだろうか。
 
もう一点,疑問に思うのは,浅井氏が合理的判断をなし得る近代国家を議論の前提にされていることだ。
 
浅井氏によれば,もし北朝鮮が米日を攻撃すれば,米の反撃で北朝鮮は壊滅する。「金正日が無謀な対日核ミサイル攻撃によって自国の命運と自身の存立を無に帰せしめる愚かな決断を下すはずはないのだ。」
 
浅井氏はこのようにいわれるが,この合理的選択の理論が破綻してしまったのが,グローバル化した現代世界ではないだろうか。現代のテロないし自爆攻撃は,近代主権国家を前提とした合理的選択理論の妥当性を完全に否定してしまっている。
 
アメリカが真に恐れているのは,この合理的選択をしない集団や国家の増大である。アメリカは,北朝鮮もそうではないかと恐れている。そのアメリカあるいは日本に対し,北朝鮮は壊滅をおそれ先制攻撃はしない,といってみても,説得力はない。
 
むしろ,国家破綻しそうだからからこそ,先制攻撃を仕掛ける可能性がある。そして,さらにややこしいのは,北朝鮮の苦境には米日の圧力以外にも様々な要因があり,どのような理由でいつ危機を迎えるかわからないことだ。
 
いずれにせよ,北朝鮮を声高な北朝鮮脅威論で追い詰めると,核あるいは他の手段による先制攻撃に走る危険性がますます増大することはたしかだ。これには,米日がいかに重武装しようが,防衛しようがない。9.11には,アメリカの核は何の抑止にもならなかった。米日は,軍事的圧力をかければかけるほど,先制攻撃を受ける危険性が増大するのだ。
 
だから,米日は自国の安全のために,北朝鮮脅威論により圧力をかけるのではなく,逆に北東アジアの緊張緩和にむけたあらゆる努力を尽くすべきである。北朝鮮が先制攻撃をしないからではなく,このままでは先制攻撃の危険性が高まるばかりだからこそ,日米は対北朝鮮政策を変更すべきなのである。
 
けっきょく,結論は浅井氏と同じになった。しかし,北朝鮮の核は防衛的であって先制使用はされない,というようにもとれる浅井氏の議論には,少々違和感を感じる。どの国であれ,武器をもてば,攻撃的にも防衛的にも使用する。北朝鮮もアメリカと同様核兵器を先制使用する可能性がある――アメリカは勝てるとの合理的判断により,そして北朝鮮は非合理的自爆攻撃として。

Written by Tanigawa

2010/04/24 at 22:41

カテゴリー: 平和

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英語植民地の「ミサイル発射」誤報調査報告

谷川昌幸(C)
この4月4日,北朝鮮「ミサイル発射」誤報があり,自衛隊の信用は地に落ちた。自衛隊は,日本防衛に役立たないどころか,逆に,誤報偶発戦争を引き起こしかねない危険な存在であることが明らかになった。周辺諸国は,自衛隊に予測不能の脅威を感じているであろう。
 
その誤報の原因について,私は「カタカナ英語だ」と直感し,そのようにこのブログにも書いた。
 
そのときは具体的な根拠はなかったが,どうやらそれが事実らしいことが,朝日(5月15日)掲載の防衛省報告書で明らかになった。 「発射誤報の検証(概要)」によれば,防空指揮群から「スパーク・インフォメーション」「飯岡探知」という連絡を受けた航空総隊司令部担当官が,「飯岡探知」「SEW入感」と取り違え,伝達した。これが誤報の原因であったという。まるでカタカナ英語呪文だ。寸刻を争う緊迫時にこんな呪文に頼っていては,誤報発生は当然だ。
 
SEWとは,Satellite Early Warning,つまり「衛星早期警戒情報」で,これは米軍に全面依存。では,「スパーク・インフォメーション」とは何か? たぶん,Spark Information,つまりミサイルが発射されれば火花が出るから,その「花火情報」ということだろう。
 
スパーク・インフォメーション
イイオカタンチ
エスイーダブリュー
ニューカン
 
こんなカタカナ英語,非日常的ニホンゴが,緊迫した指令部で飛び交っていたわけだ。実際には,他にも同様のジャーゴンが多数混じっていたはずだ。これじゃ,混乱,取り違えが起こるのは当たり前だ。
 
英語植民地・日本は,いつ誤報先制攻撃を仕掛けるかわからない。周辺諸国は不安に怯え,対策を練っていることだろう。

Written by Tanigawa

2009/05/17 at 10:07

カテゴリー: 平和

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北朝鮮「飛翔体」と防衛省カタカナ英語の危うさ

谷川昌幸(C)
1.ロケット発射誤報
北朝鮮ロケット発射について,防衛省は2回も誤報を流すという大失態を演じた。内外の信用失墜ばかりか,偶発戦争の危険性さえある。げに,恐ろしい。どうして,こんな誤報が発生したのか?
 
2.カタカナ英語の危うさ
防衛省は「秘密」組織なので,今回の誤報の真の原因は,おそらく発表しないだろう。隠蔽は軍の本質であり,情報公開を求めるのは,木によりて魚を求めるようなものだ。だから以下も推測だが,蓋然性は高いと思う。
 
今回の発射関係報道を見ていると,自衛隊の情報収集・伝達が予想以上にカタカナ英語(英語もどき)に依存していることが,よくわかった。こんなカタカナ英語では,緊急事態に対応できないし,誤解・誤伝達が発生するのも避けられない。緊急時には母語が絶対に必要だ。
 
そもそも自衛隊は国を守ると公言しながら,実際には自ら英語帝国主義に降伏し,その下僕に成り下がっている。国を守るとは,その魂たる文化を守ることであり,文化の核心は言語にある。母語を放棄し,(可能的)敵性言語たる英語に屈服して恬として恥じない自衛隊に,国民の生命・身体が守れるとは思えない。
 
このカタカナ英語原因説のもう一つの傍証は,誤探知・誤伝達発生後の政府の対応。それまで「ミサイル」発射とはしゃぎ回っていたのに,誤探知・誤伝達発覚後は,「飛翔体」発射と言い換えた。「飛翔体」という表現は,公文書では以前から使用されていたようだが,政府発表やマスコミ報道はもっぱら「ミサイル」だった。
 
「(軍事的)ミサイル」とも「(平和的)衛星」ともいいたくなければ,価値中立的な「ロケット」と表現すればよいのに,カタカナ英語によほど懲りたのか,膾を吹き,わざわざ「飛翔体」などという非日常的な固い表現を多用し始めた。カタカナ英語のあまりの恥ずかしさに,照れ隠しで,国粋主義に逆噴射したのだろう。誤探知・誤伝達の原因は,やはりカタカナ英語ではないか?
 
3.ヒステリーはリアリズムではない
それと,今回の「ミサイル」ないし「飛翔体」発射騒動で,いかがなものかと考えさせられたのは,マスコミのヒステリックなまでの一方的報道だ。
 
北朝鮮の体制は非民主的だし,日本人拉致も許し難いが,かりにそれらを括弧に入れ,「飛翔体」発射問題だけを考えてみると,米日とも「飛翔体」は多数打ち上げている。「ミサイル」だとしても,何百倍,何千倍ものミサイルが北朝鮮には向けられている。それなのに,なぜ北朝鮮「飛翔体」がこれほどまでに一方的にヒステリックに非難攻撃されなければならないのか?
 
たしかに北朝鮮はもっとも理解しがたい「他者」である。だから一方的非難報道になりがちなのはわからないではないが,しかし識者とされる人々までが無反省にそれに流されていては,対応を誤る恐れがある。
 
理解しがたい「他者」なればこそ,最大限その立場に立ってみる努力が必要だ。立場の移動,複眼的思考だ。その努力をした上で,過剰でも過小でもない――少なくともアメリカ程度には――合理的な対応をとる。そうした心構えが必要なのではないだろうか。
 
(参考)ニューヨークタイムズの批判精神
ニューヨークタイムズ(4/5)は,自分ではきちんと「ロケット発射」と見出しをつけて報道する一方,Daily Yomiuri紙面の写真を皮肉たっぷりに掲載している。 そこには,ヒステリックな巨大活字で「ミサイル発射」と印刷されている。さすが,うまい紙面作りだ。
(New York Times, Apr.5)

Written by Tanigawa

2009/04/05 at 16:57

カテゴリー: 平和

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