ネパール評論 Nepal Review

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ゴビンダ医師のハンスト闘争(38)

10 参考資料
(1)マンジート・ミシュラ「希望と恐怖の物語」

(2)グファディ「狂気の権威主義的な医師」カトマンズ・ポスト,2018年7月7日

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鋭い風刺に満ちた興味深い論評。グファディはペンネーム。自称「偏屈老人」。カトマンズ・ポストに時評等多数寄稿。著者ブログhttp://guffadi.blogspot.com/
Guffadi, “The crazy authoritarian doctor,” Kathmandu Post, Jul 7, 2018
http://guffadi.blogspot.com/2018/07/the-crazy-authoritarian-doctor.html
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われわれは皆,KC医師にはうんざりしていると思う。われらのこの偉大な国において,保健医療制度や医学教育の質について,KC医師だけがなぜ心配しなければならないのか? 彼を除けば,われわれはすべて,途方もない高額料金の医療で十分満足しているし,またバヤパリ[商売人]どもが医大を開設し,低水準の教育を行い無能な医者を送り出すことにより巨万の富を手にしていても,まったく気にもしない。要するに,医大投資家は,よい医者の育成よりも儲けの方を優先させているのだ!

われわれは,世界最高水準の公立病院をいくつか持っている。そこには高価な医療機器があるが,医者たちはそれを使わず,自分のクリニックを患者に紹介しそこで治療するので,病院の医療機器は無用の長物と化している。われわれはまた,世界最高水準の私立病院もいくつか持っている。そこでは,患者は,必要もない検査のため毎日何千ルピーも請求され,治療費総額は何十万ルピーにもなり,患者家族はその支払いのため土地を売るか,さもなければ完済まで患者を病院に人質として留め置かれることになる。

そう,これこそが,社会主義者[コングレス党]と共産主義者[共産党]が次々と政権を握り,あらゆる分野において一般庶民よりもバヤパリ[商売人]を優遇してきた国なのだ。いったいいつになったら,人民に小便をひっかけるのではなく,本当に人民のことを考えてくれる政府を,われわれはもつことになるのだろう? 腐敗した指導者[ネタ]たちがインドやタイやシンガポール,いやアメリカ[Amrika]にさえ治療を受けに行くのではなく,国内にとどまり公立病院で治療を受ける日は,いつになったら来るのであろうか?

わが国の前大統領[RB・ヤダブ]の前立腺ガン治療には,アメリカから医者を招かねばならない(引用者注)。わが国の政治家たちはまた,われわれ自身の国の医師よりインドの医師の方が優秀とも信じている。わが国の首領[チョラ・ネタ]たちは,この国に世界水準の公立病院を開設するためではなく,外国での治療のため何百万ルピーも費やす。にもかかわらず,われわれ人民は不平も言わず,街頭に出て抗議することもせず,腐敗した首領どもに過ちの責任を取らせもしない。われわれは,われらが小マハラジャたちが武装警官のお供を引き連れ豪華高級車でカトマンズを動き回るのを見て,せいぜい,恨みがましく不平を漏らすだけだ。
 [引用者注:ラム・バラン・ヤダブ氏は前大統領(在職2008年7月~2015年10月)。2013年,健康診断のため来日。2016年8月,前立腺ガン治療のため政府が600万ルピー支給を決定,翌9月にアメリカで手術。]

しかし,お医者様[Dr Saheb]はちがう。金も,権力も,特待特権も求めはしない。この国に良い医者が生まれることを願うのみ。貧しい人々でもよい保健医療が受けられること,それがお医者様の願いだ。彼は,この国にとって最善のものを医療の分野で求めているのだ。が,われらが政治屋たちは,彼が好きではない。というのも,彼らの多くが私立病院に投資しているか,あるいは医科大学を開設しお金をもっと儲けようと考えているからだ。

われらが偉大な共産主義者たちは,お医者様を狂気,権威主義,全身痛のようなものとみている。たしかに,体制に一人で立ち向かう改革者は狂気だ。いま,市民社会の人々は,いったいどこにいるのだろう? いわゆるフェイスブック活動家は,どこにいるのか? われわれが求めるのは,財布からいつも盗み取っている常習スリたちではなく,この国を導いてくれるお医者様,そう,まさにそのような人なのだ。

要するに,わが国では,いわゆる共産主義者のほとんどが大学や病院,いやNGOにすら投資しているということだ。お医者様は,この国の医学マフィアと闘っている。政府には,商売人たちが私立医大でしこたまゼニ儲けするのを許すのではなく,各州に医大を開設することが,なぜできないのか?

この人には,体制と闘うのではなく,何の心配もなく自分の仕事に邁進していただくべきだと思う。そうでしょう,お医者様,ハンストを幾度も繰り返すことにお疲れではないですか? 狂気のお医者様はジュムラに行き,いまはカルナリ健康科学アカデミー[KAHS]の救急室に収容されている。われらが偉大なオリ政府は,この国の医科大学の質は気にしていない。政府の面々は,身近のお気に入りの人々が医者を目指す医学生から大金をとりお金儲けできるようにしたいだけなのだ。

われらが無能政府は,KC医師の死を願っている。そう,これが真実であり,もしKC医師が天国に行けば,われらがミニ・マハラジャたちに対し抗議し,ハンストを行い,闘う者は一人もいなくなる! KC医師も死は恐れていない。カルナリで死ぬ覚悟はできている,と彼は言っているのだ!

お医者様は,要求が入れられるまでジュムラに留まると誓った。この狂気の医者は,この国のために最善の保健医療と医学教育を求めているにすぎない。われわれは,なぜ立ち上がり彼を支持できないのか? この孤独の改革者が医学マフィアとたった一人で闘っているのに,われわれはほとんどそれを気にも留めていない。恥ずかしくないのか!

われらが無能政府は,KC医師を投獄すべきだ。この人物は既成政治体制の疫病神だ。彼は,医学分野のあぶく銭をねらっている商売人や政治家たちにとって,脅威だ。この男は,青年たちの悪しきお手本だ。われらが首相は大きなことを考えている。われわれは,カトマンズで列車にちょいっと乗ればケルン[吉隆鎮]に行けるようになるだろう。コルカタへは,カトマンズから船で行く。われわれは,われらが商売人や首領たちには国内にたくさん医大をつくることを認め,これにより授業料を払える者が医者になり,ここから首領たちも利益をえられるようにしなければならないのだ。

神よ,オリに祝福を。神よ,われらが偉大な同志たちに祝福を。劣悪医大の国となるのを阻止しようとするKC医師を,打倒せよ! この世の最後の日に,お医者様は,その医学分野での業績と,医学分野改革のためハンストを行ったことをもって思い起こされるだろう。オリとその廷臣たちは,何をもって思い起こされるのか? 彼らには,思い起こされるべきものなど何もない。KC医師は明日死ぬかもしれないが,腐敗した体制と力の限り闘ったと考え,幸せに死んでいくだろう。一人でも,体制を揺るがすには十分だ。ましてや,われわれ何百万人もが街頭に出て,それぞれ自らハンストを始めたら,どうなるか。そうなのだ,もしわれわれが協力して腐敗した首領どもと闘うなら,われらの腐敗した体制を破壊することは可能なのだ。政党をつくるまでもない。勇気さえあれば!

■ヤダブ前大統領手術後ワシントンで会見(Republica, 31 Oct 2016)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/14 at 11:01

ゴビンダ医師のハンスト闘争(33)

7.ハンスト:開始から終了まで
 (1)ジュムラでハンスト開始
 (2)体調悪化
 (3)ゴビンダ医師支持の拡大
 (4)カトマンズへの強制移送
 (5)カトマンズでのハンスト継続
 (6)人権団体等のKC支持声明
 (7)メディアの報道

(8)「9項目合意」成立・ハンスト終了
オリ政府は,KCハンスト支持運動の急拡大に押され,KC側との交渉を進め合意を急がざるをえなくなった。政府側交渉団はラジ・バラル教育省事務局長(代表)ら関係各省幹部,KC側はJ・チェットリ医師,S・バンダリ医師,OP・アルヤル弁護士,AR・シン弁護士,S・パンディNMA代表。交渉が始まると,重要局面ではオリ首相自身を含む双方の有力者らが,当然ながら,様々な形で交渉に関与した。(*82)

カトマンズでの最初の交渉は,7月24日,教育省で始まった。この時は,カトマンズ盆地内での医大10年間新設禁止と,1大学の連携医大開設認可5校以内の2項目を中心に交渉されたが,相手側への非難攻撃に終始し進展は全く見られなかった。(*82,83)

次の交渉は,7月26日,いよいよ切羽詰まって,場所は首相官邸,しかもオリ首相自身も出席した。街では,医師・看護師や医学生も参加したデモや集会,外来休診など,激しい抗議活動が続いている。議会では,NCの抵抗で,議事停止。(*84)

オリ政府は追い詰められ,ついに26日夕方,KC側要求をほぼ全面的に受け入れ,これを文書化した「9項目合意」に署名した。(合意項目数は,数え方により「22項目」とされることもある。)(*85)

この合意成立を受け,26日夜おそく,KCはハンスト終了を決め,訪れたKB・マテマやS・ネムワン元議長らから手渡されたジュースを飲んだ。こうして,27日間にも及ぶKC最長のハンストは,KC側のほぼ完勝という結果をもって終了したのである。(*85)

(9)「9項目合意」の概要(*86,87,88,89)
・議会提出済みの「医学教育法案」は22か所修正。
・カトマンズ盆地内での医大新設10年間禁止。
・盆地内医大新設認可取得済みの場合は,新設準備資産を政府に売却するか,もしくは盆地外の優先地域で新設。盆地外新設には優遇措置。
・カルナリ健康科学アカデミー(KAHS)にMBBS開設のための特別委員会設置。
・ジャナキ医科大の運営妨害責任者処分と早急な授業再開。
・各州に少なくとも1医大設置。
・国立(公立)医大入学定員の75%は奨学金付き。
・病院による医大併設には,3年以上の病院運営実績が必要。
・マンモハン記念大学[共産党系]の国有化。
・医学教育問題調査委員会(MEPB)が有責とした関係者を2か月以内に処分。
・大学や他の政府学術機関の役職員選任基準を定めるための委員会設置。

▼KC支持サティアグラハ参加アピールと勝利宣言:KC連帯FB(日付は日本時間)

*82 “Talks between Dr KC and govt begins,” Republica, July 24, 2018
*83 “Talks between govt and KC’s team fail to strike deal yet again,” Republica, July 25, 2018
*84 “National Assembly adjourned for a week after obstruction,” Republica, July 26, 2018
*85 “Govt, Dr KC finally agree on disputed point, seal 22-point deal,” Republica, July 26, 2018
*86 “Oli govt bows to Dr KC’s demands,” Republica, July 27, 2018
*87 “How challenging is implementing agreement with Dr KC?,” Republica, July 28, 2018
*88 Bishnu Prasad Aryal, “Sincerity seen as key to implementing deal with Dr KC,” Republica, July 28, 2018
*89 “Editorial: Implement agreements with Dr KC, in letter and spirit,” Republica, July 29, 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/05/09 at 15:06

ゴビンダ・KC医師,13回目ハンスト

ゴビンダ・KC医師が10月5日,13回目のハンストに入った。現在の立法議会の任期は来年1月21日まで。11月26日/12月7日には,現行2015年憲法に基づく初の連邦議会選挙が行われる。KC医師としては,これまでの闘争の成果をご破算にされてしまう恐れもあるので,新体制に移行する前に,医学教育/医療制度の改革に目途をつけたいと考えているのであろう。KC医師の要求は基本的には以前と同じ。(参照: 過去記事

・マテマ委員会勧告に従い,医学教育法/健康専門職教育法を制定せよ。
・カトマンズ盆地内での医大新設認可を10年間停止し,地方各地に国立医大を開設せよ。
・医学部授業料の上限を定め,私立医大にも順守させよ。
 [KC医師要求の医学部授業料上限額]
  MBBS:カトマンズ盆地内 385万ルピー,カトマンズ盆地外425万ルピー
  BDS:195万ルピー
  MD/MS:225万ルピー

ところが,こうした改革要求に対し,UMLやマオイストの議員を中心とする「医学マフィア」が強硬に抵抗,「医学教育法案」を骨抜きにし,改革を阻止しようとしている。

「主要3党は,医学マフィアの企てに加担している。これは,民衆の四分の三に医療を受けられなくし,中下層階級出身学生に医学教育を受けられなくするものだ。」また,「カトマンズ大学医学部は,政府規定額より高い授業料[500百万ルピー]を取り,これにより医学マフィアに金儲けさせる許しがたい役割を果たしてきた」。このようなことは,「断じて許せない」(*3)。

KC医師は10月12日,51名からなる対政府交渉団を組織し,政府と具体的な交渉に入ることにした。また,これに呼応して10月14日には,大規模なKC医師支援デモも行われた。連邦選挙で騒然とする中でのハンスト闘争。KC医師にとって,状況は有利とは言えない。今後どう展開するか,予断を許さない。

 連帯ツイッター(7月20日)

*1 “Dr Govinda KC launches 13th hunger strike,” Kathmandu Post, Oct 6, 2017
*2 “People should hit the streets to support Dr KC: Prof Mathema,” Republica, October 9, 2017
*3 “Dr KC on 13th hunger strike, wants KU VC sacked,” Republica, October 6, 2017
*4 “Dr KC warns of stern protest against judiciary,” Republica, October 9, 2017
*5 “Justice missing from judiciary: Dr KC,” Republica, Oct 11, 2017
*6 “Dr KC names talks team of 51 members,” Republica, October 13, 2017
*7 “Rally taken out in support of Dr KC,” Himalayan Times, October 15, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/17 at 15:31

カテゴリー: 社会, 教育

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HMIHS法案撤回,ゴビンダ医師ハンストを受け

ガガン・タパ保健大臣が9月29日,「マンモハン記念保健インスティチュート(MMIHS)法案」の撤回を閣議決定した,と発表した。また,これと関連する医療制度・医科教育改革諸法令が成立するまで,医科大学(カレッジ)は認可されないことになった。

これらは,医療制度・医科教育の抜本改革を求め9月26日から9回目のハンストに入っているゴビンダ・KC医師(TUTH)が,一貫して強く要求してきたことだ。

ハンストは,ネパールではやはり政治的に有効な闘争手段のようだ。先日,ガンガマヤがハンストで要求してきた,マオイストによる息子虐殺事件の裁判も,ルンビニ地裁で再開されている。

谷川昌幸

Written by Tanigawa

2016/10/02 at 13:14

カテゴリー: 司法, 教育, 民主主義, 人権

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ゴビンダ・KC医師のハンスト闘争(6)

5.ハンスト勝利と政権交代以後
(1)「4項目合意」の締結
ゴビンダ・KC医師は7月24日,オリ政権(UML)と「4項目合意」を締結し,ハンストを終えた(*1,2)。

[4項目合意の内容]
 ・政府はこれまでの約束を守る。
 ・各州に国立医大を1校以上設置。ただし,カトマンズ盆地には,10年間,医科大,歯科大,看護大は新設しない。
 ・医科大の授業料の上限設定。国立医科大に無料ベッド枠設定。
 ・すべての医学部・保健学部を対象とする統一試験の実施。
 ・マンモハン・アディカリ病院は国家医学アカデミー(ビル病院)の管轄とする。
 ・カルキCIAA委員長の弾劾は,すでに議会で問題とされているので,それを見守る。

以上が「4項目合意」の内容として報道されているものだが,もしこのとおりとすると,これはゴビンダ医師の要求にほぼ沿うものと見てよいであろう。

むろんこれは「約束」であり,これまでと同様,空手形になる恐れはあるが,それはそれとして,少なくとも形の上ではゴビンダ医師がハンスト闘争に勝利したのである。

(2)「4項目合意」とプラチャンダ首相
ところが,「4項目合意」締結のその日(7月24日),オリ首相(UML)は辞意を表明し,政権を投げ出してしまった。そして8月3日,次の首相にマオイストのプラチャンダ議長が選出された。突然の政権交代。見方によれば,「4項目合意」はどさくさまぎれ,ともいえる。では,「4項目合意」はどうなるのか? 

いまのところ,NC=マオイスト連立プラチャンダ政権は,「4項目合意」を継承する姿勢を見せている。プラチャンダ首相は8月26日,首相官邸でゴビンダ医師らと会い,次のように約束した。

「あなた方の要望はよくわかっている。要望には最大限応えていきたい。」「教育,健康など基本的必要に国家は責任をもつべきだと,私は信じている。しかし,いまの政治文化,行政機構,政策を前提にする限り,これらすべての要望に応えることは難しい。」(*3)

ゴビンダ医師も,プラチャンダ首相の政治的思惑には気づいているので,面会後,こう述べ,予防線を張っている。

「プラチャンダ首相に対し,約束を守り,率先して私の要求に応える努力をしてほしい,と要望した。そして,要求に応えられないならば,次のハンストを始めるに何ら躊躇しない,と釘を刺しておいた。」(*4)

(3)ゴビンダ医師とガガン・タパ保健大臣
プラチャンダ内閣のガガン・タパ保健大臣(NC)は,プラチャンダ首相以上に明確に,ゴビンダ医師を支持している。

ガガン・タパ(40歳)は,王政反対学生運動のリーダーとして頭角を現し,2006年民主化に貢献。以後,NCの次世代政治家として特に若い世代から大きな支持を得ている。制憲議会議員(第一次2008-12,第二次2013-)。2016年8月26日,プラチャンダ内閣の保健大臣に就任。

ガガン・タパは,オリ前政権に対しゴビンダ医師がハンストを開始すると,すぐ駆け付け,連帯を表明した。そして,7月21日,他の2議員(NCのDR・グルンとマオイストのSS・シュレスタ)の支持を得て,ゴビンダ医師の諸要求に関する審議を議会に提案した。彼は,こう述べている(*5)。

「政府はこれまで,医学教育改革に関する様々な合意をKC医師との間で取り交わしてきた。それらの約束が実行されていないのであれば,実行せよと政府に指示するのが,議会の義務である。」

「腐敗を規制すべき憲法設置機関たる職権乱用調査委員会(CIAA)それ自体が職権を乱用し医学教育分野の腐敗を広めていると糾弾される事態になったら,人民代表の最高機関(議会)は,沈黙しているべきではないし,また沈黙していることもできないはずだ。」

「KC医師が提起しているのは,公益にかかわる諸問題だ。それらについて審議し彼の生命を救うため,直ちに行動すべきだ。権威ある議会で審議し必要な解決策を見つけ出さなければならない。私が,この公的重要性をもつ議案を提出したのは,そのためである。」

そして,保健大臣に就任すると,ガガン・タパは8月26日,こう明言した(*6)。

「在野中も,私はゴビンダ医師の訴えを支持してきた。これからは[保健大臣として],彼の諸要求に応えていきたい。・・・・全力を尽くしたい。マテマ委員会報告の実行が決定的に重要だと思う。」

(4)ゴビンダ医師ハンストと党派抗争
ネパールでは,何か事があれば,すぐそれは政争に利用される。ゴビンダ医師ハンスト闘争にも,そうした側面が多分にあるように思われる。

ゴビンダ医師がオリ政権に対しハンスト闘争を始めると,反UMLのNCとマオイストが彼の支持に回った。ゴビンダ医師勝利には,そうした党派抗争力学も,かなり大きく作用していたと見るべきであろう。

もしそうであるなら,新政権のプラチャンダ首相やガガン・タパ保健大臣が,ゴビンダ医師との約束をどこまで守るか,はなはだ心もとない。医療・保健分野には様々な利権が渦巻き,そこには新政権側の人々も多数関与しているからである。

160907■保健省FB(9月3日)

*1 “Four-point agreement forged, Dr KC to end hunger strike,” Himalayan Times, July 24, 2016
*2 “Dr Govinda KC breaks hunger strike,” Republica, July 25, 2016
*3 “PM assures Dr Govinda KC,” Himalayan Times, August 26, 2016
*4 “PM to ‘take initiatives’ to address Dr KC’s demands,” Kathmandu Post, Aug 27, 2016
*5 “Gagan Thapa files proposal of public importance seeking discussion on Govinda KC’s demands at House,” The Himalayan Times, July 21, 2016
*6 “Thapa vows to address Dr KC’s demands,” Kathmandu Post, Aug 27, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/09/07 at 16:30

ゴビンダ・KC医師のハンスト闘争(5)

4.CIAA報道官インタビュー,BBCネパリ記者
ゴビンダ・KC医師ハンストに対するCIAA(職権乱用調査委員会)の対応については,「BBCネパリ」によるCIAA報道官インタビュー記事が大変参考になる。
 *“Dr KC is mentally ill: CIAA,” Nepali Times, June 27th, 2016

このインタビューは,6月26日のCIAA声明発表後,BBCネパリ記者(氏名不明)が,クリシュナ・ハリ・プシュカルCIAA報道官を相手に行ったもの。かなり長い一問一答インタビューだ。(同報道官は現在,在印ネ大使館勤務。)

このインタビューについては,CIAA声明発表後,他の記者もいる場で行われたのか,それとも単独インタビューであったのかは不明。また,掲載以前にCIAA報道官が原稿チェックをしたのか否かも不明。

このように,このインタビュー記事は取材・掲載の経緯に不明な点があるが,そこに留意さえしておけば,記事自体は具体的にして詳細であり興味深い。また,不倶戴天の敵ともいえる「ネパリタイムズ」が,なぜこれを掲載したのかという点でも,この記事は注目される。(以下,意訳)

CIAA報道官インタビュー
BBC(BBCネパリ記者):一個人にすぎないゴビンダ・KC医師に対して,憲法設置機関たるCIAAが,なぜ,そんなに怒っているのか?
CIAA(クリシュナ・ハリ・プシカル報道官):理由は2つ。1つは,KCは精神病だということ。
BBC:あなたは,精神病と診断しうる機関の報道官なのですか?
CIAA:KC医師は,マフィアや犯罪組織に示唆され,ハンストを行い,国家や政府を混乱させてきたのだ。
BBC:それなら,なぜそれに対する適切な措置をとらないのか?
CIAA:CIAAは,KC医師の治療を勧告した。憲法設置機関たるCIAAに対し,あのような糾弾ができるのは,精神病患者だけだ。
BBC:それが,憲法設置機関たるCIAAの採るべき適切な措置なのだろうか?
CIAA:KC医師は整形外科医だが,この4年間に何例の手術をしたのか? TUTH(トリブバン大学教育研究病院)がいかに不潔か! 彼は為すべきこともせず,不当なハンストをするだけ。公務員でありながら,政府の妨害をするだけ。彼は精神病だ。
BBC:憲法設置機関が,ある個人について,そのような無責任な発言をしてもよいのか?
CIAA:精神病の者が,国中に恐怖をまき散らし,他の人々を根拠なく糾弾し,問題を引き起こすのは,許されないことだ。KC医師は,CIAAが捜査している人々に唆され,新聞にナンセンスなことを書いているのだ。
BBC:声明で挙げられている組織的犯罪者とか汚職行為者とは,いったい誰なのか?
CIAA:何人かは特別法廷で有罪が確定した。それ以外は,CIAAが捜査中。KC医師は,彼らの代弁をしているのだ。
BBC:捜査中の人々に,組織的犯罪者とか汚職行為者といったレッテルを張ってよいのか?
CIAA:有罪判決を受けたものは犯罪者であり汚職行為者。KC医師の発言は,CIAA捜査対象者の発言とそっくりだ。彼はハンストを繰り返し,TUTHを荒廃させた。患者は治療を受けられず死んでいっている。
BBC:CIAAは,声明で,KC医師の行動に注目している,と述べた。これは脅しか?
CIAA:KC医師については,これまでも注視してきた。彼は,TUTHだけでなく医療分野全体について,混乱と無秩序をもたらした。
BBC:KC医師とカルキCIAA委員長とでは,より清潔だと一般に見られているのは,いずれか?
CIAA:カルキ委員長の決定や行為は,法に則っている。KC医師は村々を訪れ,薬を配ったりしたので清潔だと思われているが,そのようなことは補助ヘルスワーカーの仕事だ。自分の病院の惨状を放置して,改革を説く。彼には,憲法設置機関とその名誉ある委員長を非難中傷し,政府を難詰する権利はない。
(“Dr KC is mentally ill: CIAA,” Nepali Times, June 27th, 2016)

[参照]上記インタビュー記事へのコメント(Sarojna on July 26th, 2016 at 4:14 am Says:)
It is sad that we have journalist representing BBC in such a unprofessional way. I have been listening to BBC since I was a child and BBC is a brand but I did not expect such interview skills from a journalist of BBC. I think you should brush up your skill and also very important that you are a media personal who is providing us with news and not verdict. The whole interview was so flawed, so farce, so one sided in fact you came with predetermined mind set that Dr. KC is right and CIAA chief is wrong which was so clearly reflected in the way you conducted your interview. When you go for an interview it is very important that you keep your personal agenda aside, that will give you a clear picture and mind it you will grow with such skills rather than making it so obvious that you like this side or that and for us we will also get some interesting reading news. In fact just give us fact and we will judge who is what. As for BBC, I hope such poor work will not be repeated otherwise BBC will loose its credibility.
(http://www.nepalitimes.com/blogs/thebrief/2016/06/27/dr-kc-is-mentally-ill-ciaa/)

160906■KH・プシュカル氏FBより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/09/06 at 08:50

カテゴリー: 社会, 行政, 教育

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ゴビンダ・KC医師のハンスト闘争(4)

3.CIAAの反論
ゴビンダ・KC医師の諸要求のうち,今回特に注目されているのが,CIAA(職権乱用調査委員会)カルキ委員長の弾劾要求である。CIAAは,このところ非公然たる第二権力(第二政府)のような存在になっており,ヒマール・メディア関係先捜査など,あちこちで強権的とも見えるような権力行使を行っている。ゴビンダ医師は,そのCIAAと真っ向から対決し,カルキ委員長らの弾劾を議会ないし政府に対し要求しているのである。

これに対し,CIAAは6月26日,声明を出し,ゴビンダ医師の要求を全面否定した(*1,2)。ゴビンダ医師は,「医療マフィア,犯罪・腐敗組織」と親密だ。「KC医師は,腐敗の罠にはまっている。本委員会は,彼には,そのような悪人仲間を離れ,ひもつき闘争を止めるよう忠告したい。」

「KC医師による本委員会メンバー糾弾は,彼のこれらの疑わしい活動と関連づけて見られるべきだ,と本委員会は考えている。」

カトマンズ大学医学部入試については,「CIAAが,関係者らから多くの苦情申し立てを受けたので,医科委員会(Medical Council)に指示し,入試調査を行わせた」のが事実だ。

「皆さんには,このような空想的で何の根拠もない糾弾の幻想に欺かれないよう,本委員会はお願いしたい。」

声明は,このように述べ,さらにゴビンダ医師は「偏狭で頭が混乱しており不健康な精神状態」にあると述べ,精神科治療の必要性さえ示唆した。これは憲法設置機関の声明とは信じがたいほど,感情的な,どぎつい内容である。

141215b160905■CIAA本部棟/カルキ委員長

*1 “CIAA condemns Dr KC’s demand seeking impeachment motion against Karki; Suggests mental health treatment to Dr KC,” Kathmandu Post, Jun 26, 2016
*2 “CIAA hits back at Dr KC, asks govt for his “treatment”,” The Himalayan Times, June 26, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/09/05 at 07:50

カテゴリー: 社会, 教育

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