ネパール評論

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震災救援の複雑な利害関係(13):人間の安全保障

ネパール震災救援では,様々な利害関係があるにせよ,被災者個々人の人間としての生存と尊厳の保障がすべてに最優先されるべきことは言うまでもない。いわゆる「人間の安全保障(Human Security)」の理念であり原則である。

近代の主権国家からなる世界においては,国家の安全がすべてに優先した。しかし,グローバル化の進展とともに,この「国家の安全保障」は現実に合わなくなり,特に1990年代以降,それに代わるものとして「人間の安全保障」が唱えられ,現在では少なくとも理念としては世界社会で広く認められている。

この「人間の安全」を保障するのは,世界社会である。世界社会は,国家だけでなく,国際機関や様々なINGO,NGO等々の協力を得て,人間(個々人)の生存・尊厳・生活が脅かされているところに介入し,その安全を保障する。その際,重要なのは,国家の都合よりも,個々人の「安全」である。国家より人間=個々人が優先される。その限りでは,国家の主権は制限される。

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これは,日本国憲法が要請している平和貢献である。世界社会におる「人間の安全」を,非軍事的手段により保障する努力をする――そう日本国民は憲法(前文と第9条)により宣言し世界に約束した。日本の積極的平和貢献とは,まさしくそのようなものに他ならない。

この観点から見ると,日本社会におけるネパール震災救援活動の広がりは,高く評価される。ネパール関係諸団体は,それぞれの方法で救援活動を活発に繰り広げている。また,あちこちの会社や商業施設,あるいは集会場やコンサート会場などでも,ネパール救援キャンペーンが行われている。日本国民は,世界社会の一員として,非軍事的な方法で積極的に平和貢献をしているのである。

日本政府のネパール震災救援活動も,むろん高く評価される。しかし,その一環としての自衛隊派遣については,重大な問題があるといわざるをえない。自衛隊は,れっきとした軍隊であり,その派遣はどうしてもキナ臭くなる。その存在(presence)からは,日本国家の「国益」や「国家の安全」が滲み出てこざるを得ない。

150603b■「ネパールで活動している医療援助隊長(1等陸佐 中川博英)は、5月6日(水)に第3海兵機動展開部隊司令官兼在日米海兵隊司令官ウィスラー中将を表敬し、現地における日米連携要領等について意見交換しました。」(陸自FB,5月13日)

非軍事的手段による積極的平和貢献を世界に約束した日本国民は,やはり軍隊以外の強力な災害救援隊を組織し,世界のどこにでも,いつでも救援に駆けつけることができるようにすべきであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/06/03 at 18:17

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