ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Posts Tagged ‘国際人権法

真実和解委員会任期,最高裁判決無視し1年延長

プラチャンダ内閣は2月9日,「真実和解委員会(TRC: Truth and Reconciliation Commission)」と「失踪者調査委員会(COID: Commission on Investigation of Disappeared Persons)」の任期を1年延長し,2018年2月10日までとした。

TRCとCOIDは,マオイスト人民戦争(1996-2006)終結のため締結された包括和平協定(2006年11月)に基づき制定された「TRC法(強制失踪者調査および真実和解委員会法)2014年」(2014年5月11日公布施行)の規定に従い,2015年2月10日に設置された。当初の任期は,2017年2月10日まで。

ところが,TRC(とCOID)は,任期満了のこの2月10日までに,その任務を果たすことが出来なかった。幾度か指摘したように(参照:真実和解委員会),人民戦争期には,重大な人権侵害が多数行われ,加害者は政府側にもマオイスト側にもいた。しかも,包括和平協定後の現体制は,人民戦争を戦った主要諸勢力がすべて参加して構築し,維持してきたものだ。したがって,人民戦争期の人権侵害を追及していけば,必然的に主要政党政治家や政府高官など,現体制下の有力者の責任が問われることになるのは避けられない。調査を担うTRCそれ自体ですら,有力諸政党代表により構成されているといっても過言ではないのである。

そのため,TRCとCOIDは設置されたものの,調査は遅々として進まなかった。被害の受付こそ2016年2月から始められ,約6万件を受け付けたものの,2017年2月10日の任期切れまでに調査を完了したものは1件もない。重大事件であればあるほど,加害者は現体制下の有力者だからである。

この状況に被害者たちは不満を募らせ,国際人権諸団体の支援も得て,政府に対し実効的な正義の実現を強く迫っていった。プラチャンダ内閣は,この要求に押され,TRC任期を1年延長し,調査の継続を図ることにしたわけである。

しかし,この泥縄のTRC任期延長には,人民戦争被害者やその支援諸団体が,厳しい批判を加えている。たとえば,サム・ザリフィ国際法律家委員会アジア局長は,次のように指摘する。

「被害者らは正義を求め10年以上待ち続けており,もはや移行期正義の手法への希望を失いつつある。・・・・ネパール政府が,TRC法を最高裁判決と国際法に沿うよう改正し,かつ両委員会の任務遂行を2年間にわたり阻害してきた根本的諸要因を除去する具体的な対策をとらなければ,両委員会の任期延長は無意味となるであろう。」(IJC「ネパール:実効的権限付与なしの移行期正義委員会任期延長は犠牲者の信頼への裏切りである」IJC, 10 Feb. 2017)

【参照1】TRC法,2014年
第26条 アムネスティ(要旨) 委員会は,十分に合理的な理由があると認めた場合,重大な人権侵害についてもアムネスティ(赦免)を政府に勧告することが出来る。

【参照2】最高裁判決(2015年2月26日)要旨
(1)重大な人権侵害を赦免するTRC法のアムネスティ条項は不当。
(2)同意なき和解は認められない。
(3)法廷係争中の事件をTRCに移送してはならない。
(4)TRC法,特に上記(1)は,ネパール国家の国際法上の義務に違反。

また,ネパール立法議会でも,「社会正義・人権委員会」が2017年2月9日,政府に対し,TRC法を最高裁判決に沿うよう改正し,委員会には必要な予算と人員を配分せよ,と勧告している。

しかし,それでもなお,プラチャンダ内閣は,そうした要請をことごとく無視し,TRC任期の1年延長だけにとどめた。これでは,移行期正義の手続きを進め,人民戦争被害者を救済し,和解を実現していくことは,困難であろう。

 170214a

*1 ICJ, “Nepal: extending transitional justice commissions without granting real powers betrays trust of victims,” International Commission of Jurists, February 10, 2017
*2 Alexandra Farone, “Nepal extends deadlines for war crimes investigations,” jurist.org, Friday 10 February 2017
*3 “Nepal extends term of war crimes probes by one year,” Himalayan Times, February 10, 2017
*4 “AI, HRW call to extend mandates of TRC, CIEDP,” Himalayan Times, February 05, 2017
*5 LEKHANATH PANDEY, “Conflict victims question TRC’s efficacy,” Himalayan Times, February 07, 2017
*6 “House panel tells govt to amend TRC and CIEDP Act,” Republica, February 11, 2017
*7 “Nepal: Supreme Court Strikes Down Amnesty Provision in Truth and Reconciliation Law,” The Library of Congress (USA), Mar. 17, 2015
*8 Wendy Zeldin, “Nepal: Supreme Court Rules Government Ordinance on Truth and Reconciliation Commission to Be Unconstitutional,” The Library of Congress (USA), Jan. 8, 2014
*9 Monica Moyo, “Nepali Supreme Court Rejects Amnesty for War Crimes,” The American Society of International Law, March 6, 2015

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/02/14 at 19:52

OHCHR, 「ネパール紛争レポート2012」発表

国連人権高等弁務官事務所(Office of United Nations High Commissioner for Human Rights)が2012年10月,「ネパール紛争レポート2012(Nepal Conflict Report 2012)」を発表した。233頁もの膨大なレポートで,1996年2月~2006年11月21日の紛争期間中の国際人権法・国際人道法違反につき,詳しく分析している。

「レポート」は,紛争による死者を約13000人,行方不明者は約1300人としており,最終的には死者は17000人に上るとみている。

OHCHRの目的は,マオイスト紛争期間中の国際人権法・国際人道法違反の事実を解明し,責任を明らかにさせることにある。

ところが,これは国軍,武装警察隊,警察,マオイストなど,紛争当事者にとっては不都合な場合が少なくない。そこで彼らは,責任を問われそうな有力者,たとえば国軍のRaju Basnet大佐や警察のKuber Singh Rana総監の昇進をはかり,また「真実和解委員会(TRC)」を利用して,「真実」を棚上げにしたまま免罪だけを進めようと画策している。

国軍,警察,マオイストそして高級官僚などにとって,OHCHRは邪魔なのだ。OHCHRは2005年からネパールに現地事務所を設置していたが,ネパール政府が2011年11月,活動期間更新を認めなかったため,同年12月8日より実質的な活動は停止している。

今回,OHCHR「レポート」において報告されたのは,次の5分野の国際人権法・国際人道法違反。
 (1)違法な殺害
 (2)強制失踪
 (3)拷問
 (4)恣意的な逮捕・拘束
 (5)性的暴行

これらの人権侵害や違法行為は,いずれの当事者の側にもあり,「真実」の解明や責任追及は難しい。国際機関を追い出し,ネパール側だけで実行することは可能だろうか? 日本の場合,日本人自身による戦争犯罪の責任追及はできなかった。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/10/24 at 21:16