ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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印政府援助カット,中国政府航空機押し売り

ネパールは,政治大国印中に挟まれているため,ことあるごとに難しい判断を迫られる。昨年10月発足のオリ政権も,いま印中の間で,どのような立ち位置をとるべきか,難しい選択に直面している。

1.インド:対ネ援助40%カット
印政府が2月29日発表した2016年度予算によれば,対ネ援助は前年度の40%カット,48億ルピーとなっている。オリ首相訪印(2月19-24日)直後だけに,ショッキング。

印ネ各紙記事では,大幅カットの理由は,オリ政権低評価ではなく,ネパール政府の援助事業実施不効率だという。ネパールにおける事業進捗にはADBなどの援助機関も批判的だ。震災復興援助事業ですら,実際の進捗状況は極めて悪い。援助を約束しても実施できないのなら,援助額を減らせということ。

しかし,インディアン・エクスプレス(3月1日)が「オリ首相訪印後,対ネ援助40%カット」といった見出しを付けているように,対ネ援助大幅カットがオリ政権評価と無関係とは思えない。やはりオリ政権への一種の警告と見るべきだろう。

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■印政府HP/印震災救援「トモダチ作戦」

2.中国:航空機押し売り
一方,中国政府からは,オリ首相訪中(20日から)を前に,中国製航空機の購入を迫られている(Himalayan, 3 Mar)。納入先はネパール航空(NAC)。

中国がネパール政府に購入を迫っているのは,MA60(新舟60)1機とY12e(運12e)3機。ところが,これらの中国製航空機は,国際航空機関の認証がなく,またアフターサービスも手薄で,運航・維持費が極めて高い。そのため,NACは購入に強く反対している。

NAC幹部によれば,MA60(58席,2014年4月購入)は月1週間も飛行できず,赤字垂れ流し。また,Y12Eも運航状況は極めて悪い。NACとしては,もはやこれ以上中国製航空機の購入・運用はできない,ということらしい。

これに対し,中国側は,これらの航空機購入はすでに2012年の両国交渉で決めているので,3月20日のオリ首相訪中以前に4機を導入せよ,と要求しているという。ネパール政府は,この中国側の要求を受け入れ,ちかぢか購入決定の予定。(参照:中国製航空機の運航不安

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■新舟60(新華社2014年4月28日)/尖閣接近のY12(防衛省=共同2012-12-22)

3.南の獅子,北の龍
ネパールにとって,中印は,それぞれに対する「カード」として利用できることもあるが,利用しようとすれば,内政干渉やごり押しの危険もそれだけ増大する。やはり,ネパールにとっては,「印中の架け橋」が,実際には,理想である以上に,最も現実的な外交の基本指針となるであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/03/03 at 17:57

カテゴリー: インド, ネパール, 外交, 中国

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「中国カード」使用,失敗?

著名なジャーナリスト,ファハド・シャーが,米外交誌『フォーリン・アフェアーズ』にオリ政権の対印中外交に関する長文の記事を書いている。要点を押さえたよい記事だ。
▼Fahad Shah,”Nepal’s Balancing Act: Walking the Tightrope Between China and India,” Foreign Affairs,2016-02-25

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記事によれば,オリ首相は,訪印時には「中国カード」使用を否定したが,実際には,印のマデシ支援に対抗するため経済・政治関係の強化や訪中先行などの様々な「中国カード」を使ってきた。

しかし記事によれば,ネパール政府の「中国カード」使用は,中国側の利益にはなっても,ネパール側にはあまり利益をもたらさなかった。ジャーナリスト,プラシャント・ジャーもこう語ったという。

「ネパールは,中国カードを使ってみて,地理的にも経済的にも中国は代替国たりえないという単純明快な理由により,そのカードが見てくれだけだったことに気付いた。」(P・ジャー)

P・ジャーは,マデシでありHindustan Times記者でもあるので,発言は多少割り引くとしても,全体としては,この現状分析は妥当であろう。

そして,これを受けたファハド・シャーの次のような結論も,面白味はないが,中庸をえているといってよいであろう。

「インドは優位な立場にあり,ネパールが中国に接近しすぎると,いつでも処罰することができる。・・・・ネパールにとって,最善の選択は,印中の利用を試み,両国をいらだたせるのではなく,両国をうまくなだめ,満足させる方法を学ぶことである。」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/02/27 at 17:25

マデシ問題解決なくして供給再開なし:印大使

ライ駐ネ印大使が11月10日,カトマンズ記者クラブにおいて,ネパール政府の封鎖解除要請を一蹴した(Republica, 11 Nov)。

オリ内閣は11月9日,インド政府に物資供給を要請する特別決議を採択した(決議原文未見)。ネパール政府の正式の公式要請。ところが,ライ大使は,そのような要請は聞いていないとして,「ネパール政府と反政府諸党とが合意に達するまで危機は続く」と断言した。

ライ大使によれば,ビルガンジ経由はマデシ問題が解決しなければ再開できないし,また他の経路に迂回させることも非現実的だ。

大使「ネパールの主要消費地に向け十分な燃料を供給できるのは,ラクサウル[ビルガンジ]基地からだ。少なくとも80~85%の燃料は,ラクサウル基地から供給される。・・・・ラクサウル基地からの供給がとまれば,ネパールは自ずと厳しい物資不足に陥るであろう。」

大使「反政府諸政党との対話を通して問題を解決する以外に,解決策はない。」

 151105a■在ネ印大使館HP

ここでライ大使のいうマデシ問題の解決とは,要するに,マデシの要求に沿う憲法改正である。直接引用ではないが,上掲リパブリカ紙は大使の説明をこうまとめている。

「ライ大使はこう述べた。インド側は,ネパールの主要政党に対し,すべての社会諸集団が一つの国民としての憲章をもつことができたと確信できるような,そのような憲法をつくるよう一貫して提案してきた。」

この記事が正しいなら,インド側は,オリ内閣の物資供給要請特別決議を無視し,高飛車に憲法改正を要求していることになる。明白な内政干渉。このインドの宗主国的対応に,ネパールの左右ナショナリスト連立政権は,どう対処するのか?

さらに中国に傾斜するのか? すでに吉隆には大量のネパール向け物資が集積されつつあるそうだ。ラスワガディ経由でリンゴは入ってきたそうだが,石油等の他の生活必需物資の本格供給はいつ始まるのだろう?

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 ■「インド石油」ラクサウル基地と「ネパール石油」アレムクガンジ基地(Google)。両基地間パイプライン印ネ協定締結済。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/11/11 at 17:59

タライ再度緊迫化,巨象の尾を踏んだのか?

インド国境沿い,タライ地方の反政府・反憲法闘争が,2,3日前からふたたび激化してきた。

1・タライ反政府闘争激化
各紙報道によれば,ダサイン祭日期間中も,タライの反政府闘争やインドの「非公式経済封鎖」は続き,石油・ガス類を中心に物資が不足し,帰郷は困難を極め,寺院参拝は例年の数分の一以下だったそうだ。

それでもダサイン中は,反政府闘争はやや沈静化していた。オリ新政府も,カマル・タパ副首相兼外相をインドに派遣し,モディ首相らと直談判させるなど,状況打開に向け努力しているように見えた。(10月25日には,MJF-Dに国務大臣職1を追加配分。)

やれやれ,これでようやくタライ紛争も解決に向かうかと一安心していたが,この見方は早計,やはり甘かった。ダサイン明けが近づくと,タライ紛争は再び激化,各地で激しい衝突が起こり始めた。各紙報道によれば――

 [10月24日]ダヌサで統一民主マデシ戦線(UDMF)と警官隊が衝突。警察警備中のバスに反政府派が石や火炎ビンを投げ,バス運転手に暴行。警察威嚇射撃,ゴム弾発射。バス運転手重傷,負傷数十名。
 [10月25日]シラハでバンダ破りバス放火,2人逮捕。サプタリで群衆が患者輸送中の救急車を止め,燃料抜き取り後,放火。ビルガンジで,バンダ破りバイク数台に放火,また反政府派と警察が衝突し,4人負傷。
 [10月26日]ビルガンジ近くのインド国境,ミテリ橋に女性,子供を含む多数のマデシ反政府派が押しかけ封鎖し,「独立マデシ州」,オリ首相打倒を叫ぶ。サプタリで,NC議員宅に爆弾が仕掛けられているのを発見。

2.インド政府の暗黙の支援
これらの情報は錯綜しており,不正確なものや重複もあろうが,それでも全体として,タライの反憲法・反政府闘争が再び激化してきたことは明らかである。なぜか?

それは,おそらく,タライのマデシ,タルーらがUML・UCPN・RPP-N主導のオリ政権を本質的に反タライとみなし,これに強い不信感を抱き,またその彼らを地続きのインド政府が暗黙裡に支援しているからであろう。とくに今回は,後者,インドの支援が大きいと思われる。

しかし,それではなぜインド政府は,内政干渉,国際法違反といった非難を覚悟のうえで,これほどまでにタライ反政府勢力に肩入れするのであろうか?

3・北方代替交易路の開設
これはまだ推測にすぎないが,チラチラ見え隠れするのは,やはりオリ政権の中国カード利用のナショナリズム指向。1989年の対ネ経済封鎖はナショナリスト国王政府による中国からの武器輸入が引き金となったが,今回はそれがどうやら石油類を中心とする北方代替輸入ルート開設となりそうな気配がする。

中国が,チベット経由で,道路や鉄道をネパールに向け急整備してきたことは,これまでにも幾度か指摘してきたように,周知の事実。鉄道はまだ間に合わないが,今回は道路を使って石油類や他の重要物資を緊急輸入する交渉が,いま両国政府間で急速に進んでいる。

ネパール政府は,すでにダサイン以前に,様々なチャネルを通して中国政府に石油,ガス等の供給を要請していた。10月23日になると,通商供給大臣,駐中国ネパール大使,NK・シュレスタUCPN副議長らが駐ネ中国大使と会い,石油,ガス,医薬品等の中国からの輸入を要請した。民間ベースと政府間ベースで,タトパニ経由と吉隆経由で輸入する。すでに政府間契約原案はできており,あとは価格と輸送方法の詰めが残るのみだという。

10月25日ネパール石油公社発表によると,中国政府は11月25日までに1千トンの石油類を吉隆‐ラスワガディ経由でネパール政府に供与する。(ちなみにネパールの石油類消費は1日1万トンだという。)ネパール側のタンクローリーがラスワガディ国境で中国側タンクローリーから石油類を受け取り,カトマンズまでピストン運送する予定。また,別のメディア報道によれば,この10月28日から,ネパール石油公社がタンクローリー25台以上で,毎日,ラスワガディからカトマンズまで石油類を運ぶことになったそうだ。これは,極めて具体的で,真否はすぐ判明する。

この北方代替輸入の件でも情報が錯綜しており,日程や数字など合わないところがあるかもしれないが,ただ,ネパールと中国が石油,ガス,医薬品などの生活必需品の中国からの,あるいは中国経由での大量輸入に基本合意し,近くそれが実行に移されることはほぼ間違いないであろう。

4.巨象の尾を踏む?
しかし,これは長年にわたってネパールへの物資供給をほぼ独占してきたインドにとっては,由々しき事態である。北方の本格的な代替交易路の開設により,インドのネパールに対する独占的・宗主国的地位が根底から崩れていく。そのインドの泣き所,インドという恐ろしい巨象の尾を,ついにいま,オリ政権は踏みつけてしまったのではないだろうか?

以上は,初めにお断りしたように,まだ現状からの単なる推論にすぎない。しかし,いまのネパール情勢は,そうとでも考えないと,あまりにも不可解であることもまた紛れもない事実である。

▼ネパールの民族分布
 151027■S.H. Shrestha, Nepal in Maps, 2005, p.99

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/10/27 at 11:19

震災救援の複雑な利害関係(11):インド「首相国民救援基金」

インドは関係の最も深い隣国ということもあり,ネパール地震への対応はきわめて早かった。モディ首相は,地震発生直後から関係閣僚らと対応を検討し,積極的に「インド国民だけでなく,あらゆる被災者に最大限の救いの手をさしのべるべきだ」と指示した。直接,ヤダブ大統領とコイララ首相にも電話して救援を申し出,その結果,5時間後にはインドからの救援機がカトマンズに到着した。[a]

そして,4月27日には,モディ首相は率先して「震災被災者救援のため」給与一ヶ月分を「首相国民救援基金(PMNRF: Prime Minister’s National Relief Fund)」に寄付すると発表した。この首相発表は大きく報道され,PMNRFには国会議員や様々な団体,個人が,続々と寄付を申し出た。こうして集まったPMNRFへの救援金は,「国家災害対応部隊(NDRF)」などを通してネパール救援に役立てられている。[b]

インドのネパール地震へのこの迅速な対応は,モディ首相の時機に鋭敏な政治的センスによるところが大きい。

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 ■首相府HP/PMNRF(同HP)

1.首相国民救済基金(PMNRF)
モディ首相が月給を寄付したPMNRFは,ネルー首相が1948年,パキスタンからの避難民救援のために設立した基金だ。現在は,自然災害以外にも,大事故,暴動,特定の疾病などの被災者・患者の救済・救援に使用されている。PMNRFは,所得税法の規定に基づく信託基金(trust)であり,管轄は首相府,基金議長は首相。運営の基本原則は以下の通り(5月28日現在)。[c]

(1)PMNRFは,任意の寄付金のみで運営され,公金は受け入れない。寄付相当額は,所得税法第80G条により全額控除。
(2)使途指定の寄付金は受け入れない。
(3)「PMNRFによる救援はインド国民にのみ与えられる。したがって,外国の国民や外国の災害の救援を対象とする寄付金は,PMNRFでは受け入れない。」

2.PMNRFネパール救援批判
ここで,“あれ?”と不審に思われるのは,当然である。PMNRFが「インド国民」のみを対象としているのであれば,どうしてそれでネパール人被災者の救援ができるのか,と。この問題は,インド各紙もむろん指摘し,批判した。たとえば――

「もしPMNRFが法の規定によりインド国民被災者の救援だけを目的とするのなら,われわれの寄付でネパール国民を救済することはできるのだろうか? ネパールで精力的に活動している国家災害対応部隊(NDRF)は,PMNRFの資金援助を受けている。法的には,これはPMNRFの正規の活動目的からは外れている。救援それ自体を問題にしているのではない。政府がいまなさねばならないのは,PMNRFの活動目的を正式に変更するか,説明をきちんとすることである。」[d]

モディ首相はPMNRF議長だから,PMNRF救援対象がインド国民に限定されていることは十分承知しているはずだ。それにもかかわらず,モディ首相は4月27日,ネパール震災被害者救援のため給与一ヶ月分をPMNRFに寄付した。そして,5月1,2日には,担当者がPMNRFによる救援方針をネパール側に伝えた。[b]

PMNRFの公式HPには,一方で外国救援は対象外とする従来の規定(上記参照)を残したまま,他方ではこう案内されている(5月27日現在)。

「先日の地震で大きな被害が出ている。ネパールへも救助・復興支援の手をさしのべるため,PMNRFに特別口座を開設することが決定された。この寄付申込書による寄付は,ネパール救援・復興に使用される。PMNRFは,個人,団体,財団,企業,協会等からの寄付を受け付けている。寄付金は,第80G条により所得税対象額から全額控除される。」[c]

150529dGrouponによる募金アピール(同HP)

3.二つの説明
いったい,どうしてこのようなことが可能なのか? 一つの説明は,PMNRFは首相府管轄の「信託基金(trust)」であり,首相の裁量で運用方法を変えることができる,というもの[e]。しかし,これはいかにも苦しい。外国は対象外と,はっきり明文規定し,HPにも掲載しているのだから。

もう一つは,根拠を1950年の「インド・ネパール平和友好条約」の以下の規定に求めるもの[b]。

第6条 両国政府は,インドとネパールの近隣友好に鑑み,自国内の相手国国民に対し,自国の産業・経済開発への参加およびそのような開発に関する許可ならびに契約に関し,自国民と同等の処遇(ntional treatment)をする。
 第7条 インド政府とネパール政府は,自国内の相手国国民に対し,居住,財産所有,通商交易,移動に関する権利および同種の他の権利を認めることに同意する。」

要するに,印ネ両国は両国民を自国民と居住,移動,経済活動等において原則同等に扱うということ。しかも印ネ間はパスポート・ビザなしで自由に移動できるオープンボーダーとなっている。

この条約には,印ネ両国が完全な主権と独立を相互に認めるという規定(第1条)もあり,両国は平等のように見える。しかし,実際には,インドは強大国,ネパールは弱小国。インドは,共通の伝統文化を持つ後見国として,ネパール国民を自国民と同じく優しく保護しなければならない。したがって,震災においても,ネパール国民を自国民と同じく救済すべきだということになるわけだ。

150529a■BJP/VHPネパール救援募金(WorldHinduNews,4 May)

4.インド・ナショナリズムとネパール救援
モディ首相も,インドのこの伝統的な対ネ保護政策の立場に立ち,PMNRFによるネパール救援を決め,率先してそれを推進してきたのではないかと思われる。

このことは,モディ首相与党BJPが,地震直後の25日,集会でPMNRFへの寄付を呼びかけ,その後も盛んにネパール救援を訴えていることからも傍証される[e]。「メディアの報道をみると,インドのネパール救援はBJP宣伝の一部のようだ。」[g] また,VHPやシヴ・セーナーなどヒンドゥー保守派も,積極的にネパール救援活動を繰り広げている。[b,h]

インドのヒンドゥー・ナショナリストは,中国をにらみつつ,政治的にネパールを保護下に置き続けようとし,また西洋のキリスト教や世俗主義をにらみつつ,宗教的にネパールのヒンドゥー教を支援しようとしている。

モディ首相が,PMNRFによるネパール救援にいち早く踏み切ったのは,おそらくこのようなインド世論の有り様を直感的に感じ取ったからであろう。モディ首相は,たしかに政治家としてのセンスがよい。

しかしながら,救援を受ける側のネパールとしては,PMNRFにせよ他の形によるにせよ,インドからの救援は感謝しつつも,警戒せざるをえない。「ネパールは,インドの尊大な『ビッグブラザー』のような態度を特に警戒している」[i]。腐れ縁ともいえる印ネ関係だけに,複雑にして難解である。

150514c■微妙な印ネ関係(Unreal Times,2015-04-26より)

【参照資料】
[a]”PM Modi leads from the front in India’s response to Nepal quake,” Hindustan Times,28 Apr 2015.
[b]”PM’s relief fund may extend to Nepal,” The Hindu, 3 May 2015.
[c] Prime Minister’s National Relief Fund (PMNRF)ホームページ,https://pmnrf.gov.in/またはhttp://pmindia.gov.in/en/pms-funds/
[d]Ashish Kumar, “PM’s National Relief Fund Is Meant For Indian Citizens Only. So How Can It Help Nepal?,” http://topyaps.com/donate-but-know-the-clause [2015-05-27]
[e]”HIMALAYAN TRAGEDY,Amid calls to donate to PM’s relief fund, donors uncertain about money going to Nepalis; Donors have been confused by site which says fund is for providing relief only to the citizens of India,” Scroll,30 Apr 2015.
[f]”Delhi BJP Donates Rupees 5 Lakh to the PM Relief Fund for the People of Nepal in This Hour of Grief,” Delhi BJP,25 Apr 2015. http://bjpdelhi.org/articles/press-release/384/press-release-25-04-2015-delhi-state
[g]”Journalists need to be trained to effectively report on disasters,” Ekantipur, 2015/05/05
[h]”Mangaluru: BJP,VHP raise funds for quake victims in Nepal,” 4 May 2015.http://worldhindunews.com/2015050443378/mangaluru-bjp-vhp-raise-funds-for-quake-victims-in-nepal/
[i] Vishal Arora,”Geopolitics Enters Nepal’s Earthquake Relief Efforts: What was behind Nepal’s call this week for foreign teams to leave the country?,” 6 May 2015. http://thediplomat.com/2015/05/geopolitics-enters-nepals-earthquake-relief-efforts/

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/29 at 14:13

カテゴリー: インド, ネパール, 宗教, 中国

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援助と建前逆手どり,対ネ中国外交の冴え

1.ネパール併呑イラスト
中国の王毅外相が12月25~27日,ネパールを公式訪問し,ヤダブ大統領,コイララ首相,パンデ外相らと会談した。ネパール側は大きく報道したが,驚いたのはネパールの代表的新聞,カトマンズポスト/Ekantipurの下図イラスト(f)。右図は数日前のネパール訪中団関係記事イラスト(Republica,2014-12-20)。

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今回記事のイラストが,どうしてこのようなものになったのか? 記事内には何の説明もなく,唐突の感は否めない。正直,ギョッとした。ネパールは中国に飲み込まれるのか!

2.対ネパール援助5倍増
王毅外相を団長とする訪ネ団は,派手にして効果的な援助外交を展開した。

(1)経済援助5倍増
現行1億5千万元から8億元(130億ルピー)に増額。5.3倍の大増額! ちなみに日本の経済協力は6千3百万ドル(2011年)。

(2)「公務員病院」援助
公務員病院は,中国援助(6億5千万ルピー)で建設され,132ベッドで2010年開院。公務員は半額で受診できる。今回は,MRI,CTスキャン,レントゲンなど2億ルピー相当額の医療機器を援助した。

(3)「武装警察アカデミー」新棟に記念定礎
中国援助30億ルピーで建設される「武装警察アカデミー」新棟に王毅外相が記念定礎。

(4)9分野支援強化
王毅外相は,貿易,投資,農業,インフラ,科学技術,交通,観光,文化交流,治安の主要9分野での支援・協力を約束した。特に重視するのが,水資源開発。「中国は水力発電事業を最も重視している。」(b)

(5)後発途上国脱出支援
「中国は,ネパールが2022年までに後発途上国(LDC)から脱出するための努力への支援を惜しまない。」(b)

中国はさすが大国,大ぶろしきを広げ,出すところにはドーンと出し,しかも公務員,武装警察,水力発電,交通インフラなど,狙いどころも大変よろしい。

3.「中印の架け橋」としてのネパール
中ネ関係についても,王毅外相は老練中国外交の冴えを見せてくれた。12月26日の中ネ共同記者会見において,王毅外相は,南アジアにおけるネパールの果たすべきユニークな役割を高く評価し,全面的な支援を約束した。

「ネパールは,大国を両隣にもつユニークな位置にある。中国は,ネパールが両国との良好な関係を発展させることを期待する。」(b) 「中印は,相互関係を強化しつつある。ネパールとインドも,相互利益のため関係を強化しており,それを中国は支持している。」(b) 「ネパールは中国とインドを結ぶ架け橋となりうる。」(d)

「ネパールは,急成長する二つの経済圏,すなわちインドと中国の架け橋となりうる。中国は,ネパールが中国と南アジアの架け橋となることを期待している。」(e)

中国はインドを敵視していない。中国は「インド・ネパール・中国の三国協力関係の発展を願っている。」(d)  「三国は,協力により,良い成果をえられる。」(e)

4.「一つの中国」と「自由チベット」対策
この中国外交の妙は,相手国の掲げる建前の逆手どり,あるいはあえて言うなら「誉め殺し」にある。外交の鉄則といってもよい。今回の訪ネにおけるその成果の一つは,いうまでもなく「一つの中国」の確認と,それに基づく「自由チベット」の封じ込め。

王毅外相は,中国の「核心的利益」へのネパールの支持に感謝し,チベット・ネパール国境取り締まり強化の必要性を強調した。たとえば,少々割り引かねばならないが,中華網(12月27日)はこう報道している。「ヤーダブ大統領とコイララ首相は『ネパールは一つの中国の政策を堅持し、ネパールの領土を利用して反中活動を行うことを決して許さない。・・・・』と述べました。」(h)

中国援助の「武装警察アカデミー」も,王毅外相によれば,治安に関する中ネ協力の好例である。王毅外相は,こう述べている。「主権・独立・領土を維持し発展することを目指すネパールの断固たる努力を,中国は高く評価する。中国とネパールは,よい隣人であり偉大な友人である。」(b)

まさしく建前の逆手どり,ないし誉め殺し。そして,とるべきものはとる。日本も学ぶべきだ。

5.「シルクロード経済圏」の南進
「建前の逆手どり」のもう一つの成果は,「シルクロード経済圏」のネパール経由南進である。

王毅外相は,中印協力促進や印ネ協力促進を繰り返し強調した。これに対し,パンデ外相は,こう応えた。「われわれは,地域の交通,交易,観光およびその他の経済諸活動を発展させるため,シルクロード経済圏の枠組みのもとに,どのような協力が可能か検討した。」(b)

またネパール側は,中国提唱の「アジア・インフラ投資銀行」への期待をも表明した。(e)

このように,中国の「シルクロード経済圏」構想は,北京での参加表明に加え,カトマンズにおいても,ネパール政財界により歓迎され広く受け入れられたのである。

6.「中印の架け橋」の政治的含意
王毅外相は,「中印の架け橋」としてのネパールの役割を繰り返し強調した。この考え方自体は新しいものではなく,古くから,ネパールは「二つの巨岩に挟まれたヤムイモ」と言われてきた。それはネパールの地政学上の宿命であると同時に,国際社会におけるネパール固有の存在意義,ネパールのユニークなアイデンティティとされてきた。

たしかに,独立国家としてのネパールの存在を認める以上,建前はそうなる。そうならざるをえない。が,しかし現実には,ネパールは明らかに文化的にも政治的にもインド勢力圏内にあり,インド支配からの自由を求める動きは,限度を超えると,ことごとくインドの介入により圧殺されてきた。ネパールはインドの勢力圏内――これはインドはむろんのこと,ネパール自身も,いや中国でさえも,事実上,実際には認めてきたことである。

その自明の歴史的事実を考えると,いま中国が,ネ印友好支持を表明しつつも,「中印の架け橋」としてのネパールの役割を繰り返し強調することには,重大な政治的意図が隠されていると見ざるをえない。

中国は,怒涛の経済進出をバックに,「中印の架け橋」としてのネパールを,建前としてだけではなく,現実にもそうした役割を果たす存在へと変えようとしているのではないか。もしそうだとするなら,それは,ネパールをインド勢力圏から中国の方へ向けて大きく引き寄せることを意味する。

ネパールは非同盟中立・平和共存を外交原則としており,「中印の架け橋」はもともとネパール自身の外交の基本方針であった。それには,インドも面と向かっては反対できない。

中国は,そのネパールとインドの外交の建前を逆手にとって,ネパールをインド勢力圏への従属から引き出し,現実にも中印の中間に位置させ,そして,そうすることによって,その媒介国としてのネパールを介して,巨大な南アジア市場へと進出しようとしているのであろう。

まさしく「建前逆手どり外交」ないし「誉め殺し外交」だ。ネパールもインドも,自分たちの建前を逆手に取られてしまっては,この中国の外交攻勢への面と向かっての抵抗は難しいと覚悟せざるをえない。

冒頭で紹介したカンチプルのイラストは,中国進出に翻弄される小国ネパールの姿を,いささか自虐的に描いているのではないだろうか。

[参照資料]
(a)”Chinese Foreign Minister Wraps Up Nepal Visit,” Republica,2014-12-27
(b)Nepal can bridge China, SAsia’Ekantipur, 2014-12-27
(c)Chinese Foreign Minister Wang in Dhulikhel,Ekantipur,2014-12-27
(d)LEKHANATH PANDEY,”Nepal? China to work in nine core areas,” Himalayan,2014-12-26
(e)”China Increases Grant Assistance To Nepal,” Republica,2014-12-27
(f)”Chinese FM visit: Nepal-China ties ‘exemplary’,” Ekantipur,2014-12-27
(g)”Nepal can be a reliable South-Asian link: China,” Nepalnews.com,2014-12-26
(h)「ネパール大統領と首相、王毅外相と会談」中華網,2014-12-27
(i)「チベットに「布石」? 中国がネパール支援を5倍超に、外相が表明」,サンケイ=共同,2014-12-26
(j)ANIL GIRI,”In Nepal, Wang to press China’s peripheral policy,” Ekantipur,2014-12-26

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/12/31 at 12:52

中国の「シルクロード経済圏」,ネパールも参加

ネパール政府は,中国が提唱する「シルクロード経済圏(経済ベルト)」への参加を決め,北京において12月16日,合意書に調印した。これは,ネパールにとって,経済的のみならず政治的にも,大きな意味を持つ決定である(k)。 
141224b ■接近するネ中(k)

中国の習近平主席は,最近,「新シルクロード」構想を中央アジア・南アジア・欧州に向け,さかんにアピールしている。
  (1)海の新シルクロード=中国~南アジア~アフリカ~欧州
  (2)陸の新シルクロード=中国~中央アジア~欧州
この「新シルクロード」に,鉄道,道路,港湾,空港,通信・送電網,パイプライン等のインフラを整備し,「シルクロード経済圏」を形成しようという,いかにも中国らしい壮大な大計画だ。(h,i,j)

141224c ■新シルクロード構想(i)

すでに重慶~デュイスブルク(独)間は「渝新欧鉄道(Yuxinou Railway)」で結ばれ直通列車が月3回ほど運行されているし,この11月には400億ドルの「シルクロード基金」も発足させている。中国はやる気満々,この調子では,いずれすべての道は中国へ通ずということになりそうだ。

141224a ■渝新欧鉄道(AsiaBiz,2013-03-13)

ネパールが中国との間で合意したのは,この「新シルクロード」構想のネパールに関わる部分についてだ。12月16日調印の合意書の詳細は不明だが,旧シルクロードは「ラサ~カトマンズ~パトナ」とされているそうだから,この部分の開発による「経済圏(経済ベルト)」形成が,当面の具体的な目標となるだろう。すでに鉄道も道路もネパール国境近くまで延伸されているので,着手されれば,開発にそれほど時間はかかるまい。
 [参照]青蔵鉄道:シガツェ10月開通,ネパール延伸へ  ラサ-カトマンズ,道路も鉄道も  中国の周辺外交

中国とネパールの経済関係は,この数年,飛躍的に緊密化し拡大している。対ネパール直接投資は,すでに昨年から中国がインドをぬき最大となっている。貿易全体ではまだインドが最大の相手国だが,中国の伸びは目覚ましい。(a,b,e)
  ネパール貿易に占める印の割合:60%(2006)→ 53%(2013)
  ネパール貿易に占める中の割合: 3%(2006)→ 31%82013)
  ネパールの対中輸出(2014年7月中旬~11月中旬):対前年比81.9%増
  ネパールの対印輸出(2014年7月中旬~11月中旬):対前年比4.9%減
これを見ても,中国がネパールを「新シルクロード」に参加させたのも,もっともだといえよう。

しかし,その一方,この「新シルクロード」は,インドを刺激せざるをえない。ブルームバーグ(a)も,こう指摘している。
「インドと中国に挟まれたネパールでは、これまでインドが強い影響力を持っていた。4500万ドル(約53億円)が投じられるカトマンズを囲む環状道路の整備計画は、そうしたインドの存在感に対する挑戦の一つだ。」

鉄道と高規格道路のカトマンズ延伸は,ネパールの地政学的な立ち位置を激変させずにはいないだろう。(g)

[参照資料]
(a)「中国、インド独占のネパール市場への食い込み狙う-投資急増」ブルームバーグ,2014/12/15
(b)「中国、ネパール市場へ攻勢 インド抜き投資額最大、貿易急増」ブルームバーグ=Sankeibiz,2014-12-18
(c)遠藤誉「いま、ドイツと北京を直通列車が走っている 中国とEUつなぐ、習金平の新シルクロード構想」日経ビジネス,2014-4-10
(d)「『渝新欧鉄道』国際聯運の路線が全線開通」重慶市人民政府,2011-04-14
(e)”Export To China Up 81.9 Pc In Four Months,” Republica, 2014-12-18
(f)”Wang to speak in Kathmandu on China’s foreign policy,” Kathmandu Post,2014-12-21
(g)「日本紙:中国はアジア新秩序を構築 日越印連携も阻止できない」チャイナネット,2014-11-23
(h)「習主席の新シルクロード構想、「経済の起爆剤」期待も海に領有権、陸にイスラムの難題」サンケイ,2014-9-17
(i)「中国の「シルクロード構想」、周辺地域への影響力を強める狙い」ロイター,2014-11-11
(j)「中国の外交、「西進」という選択肢」チャイナネット,2014-09-14
(k)”Nepal-China IETC Meeting Reviews Bilateral Trade,” Republica,2014-12-20

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/12/24 at 14:25