ネパール評論 Nepal Review

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アジア調査報道会議,クンダ・デグジト不在の皮肉

「第2回アジア調査報道会議」が9月23-25日,カトマンズで開催された。The Centre for Investigative Journalism, Nepal(CIJ-N), The Global Investigative Journalism Network(GIJN), The Konrad-Adenauer-Stiftung(KAS)の共催で,世界50か国から著名なジャーナリストやメディア研究者ら約350人が参加した。

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中心となっている「世界調査報道ネットワーク(GIJN)」は,世界各国のジャーナリスト約300人により,2003年コペンハーゲンで設立された国際NGO。会長は,著書「Yakuza」でも知られているDavid Kaplan。また,コンラート・アデナウアー財団は,ドイツのキリスト教民主同盟系の政治財団で,法治主義、民主主義、社会的市場経済のための活動を世界各地で展開している。

これら2団体との共催で「第2回アジア調査報道会議」の開催を引き受けたのが,「調査報道センター・ネパール(CIJ-N)」。このCIJ-Nは,クンダ・デグジトを中心とするヒマール・アソシエーション関係ジャーナリストにより1996年,設立された。以来,ネパールにおけるジャーナリスト研修機関として調査報道の発展に寄与してきた。今回,GIJNが第2回アジア会議をネパールで開催することにしたのも,おそらくCIJ-Nのそうした活動を評価し,さらにそれを支援しようと考えたからだと思われる。

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ところが,その「第2回アジア調査報道会議」に,肝心かなめのホスト役,クンダ・デグジトが出席しなかった。いや,出席できなかったのだ。

カプランGIJN会長:「クンダはわれわれの最善の同志の一人であり,われわれがここに来たのも彼がいたからだ。」「クンダは,この会議の数週間前に,ネパールから逃れた。もしここに戻れば,彼は魔女狩りにより拘束され投獄される恐れがあるのだ。」(*2)

クンダがどこに避難したかは不明。おそらく国外のどこかに脱出したのだろう。そこから,彼は「第2回アジア調査報道会議」にあてビデオ・メッセージを寄せている。

クンダ・デグジト:「わが官憲は手法を改めた。彼らは,ジャーナリストの投獄のような荒っぽい方法はもはや採らない。今日の検閲は,裏からの脅しにより行われる。これは,より狡猾で邪悪とさえ言ってよいであろう。」(*2)

ここでクンダは,投獄のような荒っぽい方法は採らないだろうと語っているが,しかしCIAAによる弟カナク・デグジト逮捕投獄のこともあり,やはりそれを警戒し避難したとみるべきであろう。

カナク・デグジト:「(カルキCIAA委員長は)国家の二重権力の一つを握っている」。「(CIAAは)悪意の権力センター」である。「私のネパールにおける積極的な活動,たとえば腐敗防止委員会委員長へのカルキ任命に反対したこと・・・・などが,雑誌(Himal Southasian)休刊をもたらした主な原因である。」「ネパールの有力な新聞の多くが,カルキについて批判的な報道をすることを恐れていたし,いまも恐れている。」(*1)

160930b■クンダのビデオメッセージ上映

*1 “The target was Kanak Mani Dixit but the axe fell on ‘Himal Southasian’ in Nepal,” Scroll, September 25 2016
*2 “Kunda Dixit’s exile shows concern over Nepal’s press freedom,” The Himalayan Times=AP, September 25, 2016
*3 “Prominent Journalist Kunda Dixit who Founded “Nepal Center for Investigative Journalism” now in Self-exile to Avoid Arrest,” 26 September 2016 (http://dbsjeyaraj.com/dbsj/archives/48669)
*4 “Journalist’s exile shows concern over Nepal’s press freedom,” (http://www.newdelhitimes.com/journalists-exile-shows-concern-over-nepals-press-freedom123/)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/09/30 at 19:05

日本の報道危機,ネパールでも危惧

最近の日本における「報道の自由」の危機が,ネパールでも危惧されている。

1.クンダ・デクシト氏の日本記事リツイート
たとえば,ネパリタイムズ編集長クンダ・デクシト氏によるロスアンゼルスタイムズ記事「日本の報道の自由はどうしてタンザニア以下になったのか」(4月20日)のリツイート。

クンダ・デクシト氏は,CIAAにより逮捕・勾留されているカナク・マニ・デクシト氏の兄。もしこの逮捕・勾留が,カナク氏側の言うように,彼のカルキCIAA委員長批判に対する仕返し,ないしそれを黙らせることが目的なら,それはヒマール・メディアにとどまらず,ネパール全体の「言論・報道・出版の自由」にとっても,大きな脅威となるであろう。クンダ氏は,それが念頭にあって,日本の報道危機に警鐘を鳴らすロスアンゼルスタイムズ記事をリツイートしたものと思われる。
 *Jake Adelstein, “How Japan came to rank worse than Tanzania on press freedom,” Los Angels Times, 20 Apr. 2016.

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2.「日本の報道の自由はどうしてタンザニア以下になったのか」(要旨)
日本の「報道の自由度」(国境なき記者団発表)は,2010年は11位だったのに,2016年は180か国中の72位に急落した。

テンプル大学ジェフ・キングストン教授によれば,転機は2011年の福島原発事故報道。日本政府は事故をできるだけ小さく見せようとし,東京電力はメルトダウンを2か月も隠し続けた。日本のメディアは,政府や東電に逆らい干されるのを恐れ,彼ら権力側の意に沿う報道をしてしまった。

この福島原発事故報道以降,日本メディアは,歴史認識,憲法改正そして安全保障に関する報道をめぐり,激しく攻撃されるようになった。

安倍内閣が発足すると,首相は2013年に特定秘密保護法を制定し,2014年にはお友だちの籾井をNHK会長にした。籾井は,NHKは「政府の立場を外れるような報道をしてはならない」と公言した。

2015年6月には,与党議員が政府に批判的なメディアには広告を出すな,と圧力をかけた。2016年には,高市総務大臣が「政治的に偏向した報道」をした放送局を閉鎖すると脅した。

そして,1週間前には,安倍首相に批判的な3人の著名なニュースキャスターがテレビ番組を降板した。田原総一朗はこう語っている――「私にとってもっとも憂うべきは,放送局幹部の自己規制です」。

また,ディビド・ケイ国連特別報告者は,日本の「記者クラブ」をこう批判している――「日本の記者クラブは,抵抗が極めて困難な同僚からの圧力をかける組織だと思われる」。

3.台湾・韓国以下の日本の「報道の自由」
日本の「報道の自由」は,先述のように危機的な状況にあり,「国境なき記者団」評価ではすでに台湾,香港,韓国以下となっている。

報道の自由度2016年(全180か国中の順位,国境なき記者団発表)
1位フィンランド,2位オランダ,3位ノルウェー,16位ドイツ,38位イギリス,41位アメリカ,46位フランス,51位台湾,69位香港,70位韓国,71位タンザニア,72位日本,77位イタリア,105位ネパール,133位インド,176位中国,179位北朝鮮

160429a■濃色ほど下位(国境なき記者団HP)

(注)ただし,フリーダムハウス「報道の自由2015」では,199か国中,日本と台湾44位,韓国66位,香港76位,インド80位,ネパール115位。

このように,最近の日本の没落・衰退・劣化は著しい。小熊英二「日本の非効率」(朝日論壇時評4月28日)のまとめによれば,次の通り。
 ・世界競争力ランキング(IMD):27位
 ・生産効率(IMD):43位
 ・労働生産性(木内康裕):製造業は対米比7割,飲食・宿泊業は対米比4分の1
 ・中学教員労働時間(大内裕和):OECD諸国中最長
 ・民主主義指標(エコノミスト):世界23位(欠点のある民主主義)

他にも,「ジェンダー・ギャップ指数2015年」(世界経済フォーラム)101位,「子供貧困率2015年」(厚労省)16.3%など,目も当てられない惨状だ。こうした日本の現状について,特に警戒すべきは,文化と政治の劣化。現実を直視しないと,貧すれば鈍する,せいぜい空威張りで憂さ晴らし,ネパールからも見限られてしまうであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/04/30 at 11:05