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グローバル情報化とアルジュンさん死亡事件報道

先述のように,アルジュンさん死亡事件の報道,とりわけユーチューブ動画は「衝撃的」であった。十数年前,いやおそらく数年前ですら,こんな動画がネット上に掲載され,世界中に配布され見られることは,まずなかったであろう。
▼小島寛明「【衝撃映像入手】16人で1人取り押さえ手足拘束した警察。検察取り調べ中にネパール人男性死亡」Business Insider Japan, Mar. 29, 2019

関心をもち検索すれば,事件を報じた英文記事も世界中で読むことが出来る。
▼SAKURA MURAKAMI, “Wife of Nepalese man who died during interrogation sues state,” Japan Times, Jul 27, 2018

世界はいまや万人監視社会になった。わがアパートですら,玄関,駐車場,駐輪場,ごみ置場などに監視カメラが設置され,四六時中,監視・録画している。アパートに出入りする人はむろんのこと,前を通るだけの人や車,犬や猫やタヌキなど,すべて見られ記録されている。

わがアパートが特殊なのではない。近くの駅や道路,ビルや駐車場はおろか,一般の民家にも,いや走り回る車にすら監視カメラが設置され,常時監視・記録している。他の地域でも,状況は似たり寄ったりであろう。

しかも驚くべきことに,これら監視カメラの映像は,革命的技術進歩により個々人の識別にすら利用可能だ。われわれは,つねに監視され,個人として識別され,記録されているのだ。しかも,それらの情報は,可能的にはネットを介して世界中に配布され利用されうる。いやそればかりか,いったんネット上に掲載されれば,その情報は無数に拡散し,ほぼ制御不能となり,半永久的に残り利用されうる。まさにグローバル監視社会! ネット情報化社会は,いわば「神の目」をもつに至ったのだ。

この情報化社会では,ネットにつながりさえすれば,世界中,どこからでも世界に向け,映像・音声・文字などの情報を送受信できる。ネパールの地方からでも,つい数年前までは想像もつかないような生の情報がネット上に多数送られ,だれでも閲覧可能となっている。神秘の国,秘境など,もはやどこにもない。

日本の留置場や拘置所も,このグローバル情報化から免れることは,もはやできないであろう。監視カメラが設置されておれば,その映像は,どこかから流出し,ネット上に掲載され,世界中に拡散される可能性がある。そして,いったん拡散すれば,もはや取り消しは不可能!

アルジュンさん死亡事件の「衝撃映像」がどこから入手されたのか,私には全くわからないが,すでに「Business Insider Japan」や「ユーチューブ」などに掲載され,世界中に拡散している。可能的には,世界中の人々が,いつでも,どこでも見ることが出来る。もちろん,アルジュンさんの郷里,ネパールの人々にも!

アルジュンさん死亡事件の裁判は,世界中から,とりわけネパールの人々により,見られている。

【参照】Kanak Mani Dixit : In Nepal, 91% of individuals now own at least one mobile device, almost half of them smartphones.


■Nepali Telecom, 12 Mar 2019 / Nepali Times, 12 Apr 2019

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/04/15 at 15:28

アルジュンさん取調中死亡事件,続報

アルジュンさん取調中死亡事件の続報が,Business Insider Japan(2019年3月29日)に掲載されている。

・小島寛明「【衝撃映像入手】16人で1人取り押さえ手足拘束した警察。検察取り調べ中にネパール人男性死亡」Business Insider Japan, Mar. 29, 2019

アルジュン・バハドゥル・シンさん(死亡時39歳)は,ネパールから料理人として来日,ネパール料理店で働いていたが,2017年2月頃失職,ホームレス状態になった。同年3月13日,他人名義クレジットカード所持などを理由に新宿署に連行され,14日逮捕された。

翌15日朝,アルジュンさんは留置場で暴れたとして十数名で取り押さえられ,戒具で身体を強く拘束,そのまま検察に送られた。ところが検察取り調べ中,体調に異変が生じたため午前11時頃戒具を外したところ,彼は午後3時前,急死してしまった。

アルジュンさんの妻は2018年7月26日,不当な強制的拘束により夫を死に至らしめた業務上過失致死の疑いで新宿署に刑事告訴した。また翌27日には,注意義務違反を理由に東京都を相手に慰謝料を求める訴えを東京地裁に提出した。

この事件の上記3月29日付続報には,アルジュンさん取り押さえ,戒具拘束の状況を記録した東京都提出証拠映像が添付されている。タイトル通り,衝撃的な映像だ。
⇒⇒【衝撃映像】取り調べ中にネパール人はなぜ死んだ。留置場で何が起きたのか

アルジュンさんはなぜ逮捕後,取調中に死亡したのか? 外国人の,いやひいては日本人自身の生命権をはじめとする基本的人権を守るためにも,裁判を通してアルジュンさん死亡の真相が,あますところなく徹底的に解明されるべきである。

▼戒具拘束されるアルジュンさん(東京都提出証拠映像,YouTube
 

【参照】
・小島寛明「ネパール人男性はなぜ死んだ。「移民」はいないが外国人労働者に頼る日本といびつな入管制度」Business Insider Japan, Sep. 12, 2018
・「手錠で拘束されたネパール人、検察の取調べ中に突然死…妻「真実知りたい」と提訴」弁護士ドットコム,2018年07月27日
・SAKURA MURAKAMI, “Wife of Nepalese man who died during interrogation sues state,” Japan Times, Jul 27, 2018
・小島寛明「東京地検の取り調べ中に死亡のネパール人、遺族が検察官ら告訴」,Business Insider Japan, Jul. 26, 201

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/04/10 at 16:35

ネパール人労働者,韓国で自殺

韓国紙『ハンギョレ』が8月15日,社説「移住労働者の死を呼んだ「雇用許可制」、廃止を議論すべき」において,ネパール人労働者ケシャブ・シュレスタさん(27歳)の自殺問題を取り上げ,韓国の「雇用許可制(Employment Permit System)」を厳しく批判している。

韓国は,労働力不足に迫られ1993年,「産業研修生制度」を制定したが,これは劣悪な「研修労働」をはびこらせ,内外から「現代版奴隷制度」と非難されることになった。そのため,これに代わる「雇用許可制」を制定し,2004年8月から施行している。

「雇用許可制」は,政府が送り出し国との間で二国間協定を結び,その国からの労働者の受け入れを入国から出国まで一元的に管理する制度。企業は,政府から雇用許可書を取得し,受け入れ外国人労働者の中から必要人数を雇用する(EPSホームページ参照)。

外国人労働者の待遇
 ・雇用期間は4年10か月。再雇用は,3か月の出国後,さらに4年10か月可能。(EPSホームページでは,雇用期間3年,6か月の出国後,再雇用3年となっている。)
   *合法滞在が連続5年以上となると永住権取得申請が可能。
 ・労働条件は韓国人労働者と同等。労働三権,最低賃金,健康保険,雇用保険,産業災害保険など。
 ・転職は3回まで可能。

韓国の「雇用許可制」は,このように政府が外国人労働者の受け入れにつき全般的な管理責任を持ち,しかも外国人労働者の権利を広く認めるものと思われたので,当初,国際社会の評価はきわめて高かった。国連は「公共行政大賞」を授与したし,ILOや国際移住機構(IMO)も先進的なモデルと称賛した。

EPS HP(ネパール語版あり)

しかしながら,この「雇用許可制」も,韓国人が嫌がる危険で過酷な仕事を低コストで雇用期間限定の外国人労働者にやらせることを目的とする点では,「研修生制度」と本質的には変わりはない。外国人労働者は家族の呼び寄せはできないし,雇用主の同意がなければ,事実上,転職もできない。万が一,解雇され,無登録滞在ともなれば,巨額の保証金を没収されてしまう。そのため,たとえ低賃金や過酷労働であっても一人で耐え忍ぶほかない。外国人労働者の処遇は,事実上,雇用主が握っているからだ。

『ハンギョレ』社説が取り上げたケシャブ・シュレスタさんも,このような「雇用許可制」の犠牲者の一人である。ケシャブさんは,部品製造工場で昼夜12時間・2交代制で働かされたため,不眠症となった。転職は困難だし,一時帰国しての治療も許されない。追い詰められ,結局,彼は自殺してしまった。

同様のネパール人労働者の死が,この数年で数件あるという。転職できずに自殺2人,夜間心臓麻痺で死亡1人,養豚場浄化槽で中毒死2人,工場4階から転落死1人など。

「日経新聞」(2017年3月22日)によれば,韓国の「雇用許可制」による外国人労働者は26万人,日本の外国人技能実習生は21万人。人口比では,韓国の方が倍以上,多いことになる。

外国人労働者を受け入れるための制度としては,韓国の「雇用許可制」の方が優れていると思うが,たとえそうだとしても,自国労働者不足の穴埋めのための安上がりの一時的労働力として外国人労働者を受け入れるなら,それも結局は「使い捨て労働者制度」(アムネスティ)と非難されても仕方ないことになってしまうだろう。

 ■梁山市外国人労働者の家FB

【参照】
*1 ネパール人雇用,公平高給の韓国
*2 韓国,ネパール人労働者5700人受け入れ
*3 韓国語検定に受検者殺到
*4 佐野孝治「韓国の「雇用許可制」と外国人労働者の現況」,『福島大学地域創造』第26巻第1号,2014.9
*5 「[社説]移住労働者の死を呼んだ「雇用許可制」、廃止を議論すべき」,『ハンギョレ』2017.08.15
*6 「「通帳に残った31万円は妻と妹に…」あるネパール移住労働者の死」,『ハンギョレ』 2017.08.10
*7 「外国人の雇用許可制 曲がり角の「韓国モデル」 」,『日本経済新聞』,2017/3/22
*8 「韓国「雇用許可制」が半数 留学生バイト少なく」,『日本経済新聞』2017/3/22
*9 チョン・ヨンソプ(移住労働者運動後援会事務局長)「移住労働者雇用許可制10年、奴隷許可制だった」,『レイバーネット』,2014.08.14

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/16 at 13:39

カテゴリー: 経済, 人権

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ネパール人労働者激増,福岡県

西日本新聞(3月1日)と毎日新聞(3月2日)の記事によれば,福岡県における外国人労働者は26,323人で,過去最高。国別最多は中国の9,459人(全体の35.9%)。

二番目に多いのはネパール人で,5,353人(全体の20.3%)。前年比70.8%増だというから,すさまじい。

これで,ネパールにおける日本語学校人気復活の理由が,よくわかった。一時,日本語は人気を失い,宣伝看板も次々と韓国語などに書き換えられていた。ところが,数年前から徐々に復活,いまや少なくとも看板では英米語の次くらいの人気だ。

日本は少子高齢化。日本政府の「外国人労働者」積極的受け入れへの政策転換もあり,ネパール人労働者は今後もさらに増加していくだろう。日本において,彼ら,彼女らが,労働者として公正に処遇されることを願ってやまない。

【参照】
ネパール人研修労働者の大量採用:日ネ関係は新時代へ 
ネパール人労働者の対日輸出 
3 teenagers arrested for hurling eggs at Nepalese student 
搾取・虐待される出稼ぎ労働者 
研修生仲介業ガイドラインの改定,ネパール労働省 
外国人研修生の過労死,朝日社説が告発 
韓国語検定に受検者殺到 
外国人研修実習制は奴隷制:国連調査報告 
⇒⇒外国人研修労働
外国人労働者受け入れを問う (岩波ブックレット)
外国人実習生―差別・抑圧・搾取のシステム(学習の友社 2013/01)

谷川昌幸(C)

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2016/03/04 at 19:29

日本留学人気の復活

カトマンズなどの市街に,再び,日本留学宣伝が復活した。大きな派手な広告が,いたるところにある。

つい最近まで,日本留学熱は下火となっていた。日本に代わり,オーストラリア,ニュージーランド,韓国などの人気が出ていた。ところが,ここにきて再び,日本留学人気が復活したのだ。

なぜなのか? 想像するに,おそらくこれは,日本政府の留学生や外国人労働者の受入れ拡大への動きを敏感に察知し,それをいち早く先取りしたものであろう。

Study in Japan の他を圧倒する大宣伝が目に付くたびに,うれしいような,先行き不安なような,複雑な心境にとらわれる。

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【追加2015-03-27】ネパール,4位
日本学生支援機構によれば,大学等への留学生数(2014年度)は下記の通り。
  中 国  77792
  韓 国  13940
  ベトナム  11174
  ネパール  5291
ベトナムやネパールは前年に比べほぼ倍増。「もともと親日的だったが,留学あっせん業者の増加などで人気が高まった」(日本学生支援機構担当者)。(朝日2015-03-27)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/02/10 at 12:40

カテゴリー: 教育

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ネパール人労働者の対日輸出

輸出(export)」とはあまりにも即物的だが,これは私自身の用語ではなく,リパブリカ紙記事「ネパール人労働者対日輸出に向け,政府は努力」(a)のもの。

記事によれば,ネパール政府は,日本を,ネパール人労働者にとって「最も儲かる国(the most lucrative destinations)」の一つに加えた。政府が儲かるというのだから儲かるのだろうが,実際に儲かるのは労働者本人というよりはむしろ,政府や業者。しかし,このような人間の輸出で金儲けをして,本当によいのだろうか? あるいはまた,日本も安価な人間の輸入を必要としており,それで儲けるわけだが,これは国として本当に名誉なことであろうか?

ネパール政府筋によれば,老齢化大国・日本が求めているのは,「半熟練(semi-skilled)労働者」。JITCO(国際研修協力機構)経由で日本企業や事業主に雇用される。外国労働推進局ラグー・カフレ局長は,「日本政府の担当官によれば,ネパール人が日本で働くのに,言葉は障害とはならない。ネパール政府が少し準備さえすれば,この事業の実施は可能である」と語っている。ただし,日本政府からは,研修労働期間満了後,ネパール人労働者は日本に居残るな,ときつく言われており,それを日本政府に保証するのが難題だという(a)。

ネパールの海外出稼ぎは多い。毎日,1700~2000人の青年労働者が,マレーシアや湾岸諸国に向け出国しているという。まさか(!)と思われるかもしれないが,空港に行けば,ウソでも誇張でもないことが,すぐわかる。飛行機はおろか,列車にすら乗ったことのなさそうな青年たちが,長蛇の列をなし,搭乗を待っている。「人材」という言葉がある,たしかに彼ら青年たちは,便利で安上がりな雇用人間「材」であり,また仲介取引で儲けるための人間「財」でもあり,だからこそ,こうして輸出され,輸入されるのだ。

そのネパール「人材」が,本格的に日本に輸入され始める。日本では,安倍政権の円安(日本たたき売り)政策により,中国や東南アジアの労働コストが急上昇した。その結果,まだ相対的に割安のネパール人労働者が,日本の企業や事業者にとって魅力的となってきた。したがってこれから先,ネパール人労働者の輸入が大幅に増加すると見て,まず間違いはあるまい。

しかもその際,必要とされるのは,文句を言わず3K業務を担う単純労働者。「半熟練労働者」とは,要するに,そういうことだ。しかも,日本語能力も事実上不問となるらしい。これからやってくるのは,そうした満足な事前準備・事前学習なしのネパール人労働者なのだ。

彼らを輸入する日本。それは世界に冠たる排外的閉鎖社会であり,人種差別が最も激しい国の一つだ。そこに大量のネパール人単純労働者がやってくれば,いったい何が起こるか? 考えたくもないが,目をふさいでいることは許されないだろう。

150113b(JITCO HP)
150113a(JITCO HP)

[参照]
(a)”Govt Working To Export Nepali Workers To Japan,” Republica,2015-01-12
(b)谷川「研修生仲介業ガイドラインの改定,ネパール労働省
(c)関連記事:JITCO研修労働実習生

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/01/13 at 15:02

カテゴリー: 経済, 人権

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ネパール人「虚偽」難民申請と日本の制度悪

朝日記事「ネパール人留学生,偽りの難民申請,稼ぐため制度乱用」(朝日デジタル10月26日)が,波紋を呼んでいる。要旨は以下の通り。

————-
ネパール人の留学生や技能実習生らが,次々と難民申請をしている。難民認定申請すると,申請後半年から結果がでる数年後まで身分が保障され,有利な条件で働き,金を貯め,帰国することができるから。

たとえば,ネパール人農業実習生の場合,厳しい長時間労働にもかかわらず,月収は7万円であったが,難民申請後,20万円となった。

このネパール人のような難民申請は,虚偽申請であり制度乱用だが,(1)難民認定に時間がかかりすぎる,(2)外国人労働者雇用制度の不備など,日本の制度にも問題がある。
————-

以上が朝日記事の要旨だが,この問題については,数年前から様々な指摘がなされてきた。

(1)「難民認定申請:名古屋入管,06年19人 → 11年225人に急増」:ネパール人,スリランカ人,パキスタン人など(毎日2013/1/8)
(2)「難民保護費:相次ぐ不正受給」:愛知県警,ネパール人4人を難民保護費不正受給容疑で逮捕。(毎日2013/2/9)
(3)「難民申請,最多の3260人 13年,認定は6人に減」:難民申請トルコ658,ネパール544,ミャンマー380,スリランカ345(共同2014/3/20)

たしかに,ネパール人難民申請は,急増している。入国管理局によれば,以下の通り。

難民認定申請者(法務省入国管理局「平成25年における難民認定者数等について」平成26年3月20日)
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2013年度難民認定6人のうちネパール人が何人かは分からないが,ゼロか,いてもごくわずかであることは間違いない。難民認定基準が厳しすぎるにせよ,現行制度を前提とするなら,ネパール人難民申請の多くが,いわゆる「虚偽申請」ないし「制度乱用」に当たるとみざるをえない。

この現状には,いくつか問題がある。第一に,本当に必要な人の難民申請や認定に支障が出るということ。第二に,労働目的の難民申請に非難の矛先が向けられることにより,日本の外国人雇用制度そのものの不当性が隠蔽される恐れがあるということ。

たしかに,現行の制度を前提とするなら,ネパール人難民申請の多くは,いわゆる「虚偽申請」ないし「制度乱用」であろうが,しかし,これは申請するネパール人の側の責任では,断じてない。責任は,あげて日本の外国人労働者制度(特に技能実習制度)や難民認定制度にある。

悪いのは,日本の制度。朝日記事のように,過度にセンセーショナルな見出しをつけると,誤解を招きかねない。かりそめにも,ヘイトスピーチの矛先をネパール人労働者に誘導し,憂さ晴らしをさせるようなことは,してはならない。

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【参照1】(2015-2-18追加)

曽野綾子の透明な歳月の光  労働力不足と移民 「適度な距離」保ち受け入れを
 最近の「イスラム国」の問題など見ていると、つくづく他民族の心情や文化を理解するのはむずかしい、と思う。一方で若い世代の人口比率が減るばかりの日本では、労働力の補充のためにも、労働移民を認めねばならないという立場に追い込まれている。・・・・
 しかし同時に、移民としての法的身分は厳重に守るように制度を作らねばならない。・・・・
 ここまで書いてきたこと矛盾するようだが、外国人を理解するために、居住を共にするということは至難の業だ。
 もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった。・・・・
 爾来、私は言っている。 「人間は事業も研究も運動も何もかも一緒にやれる。しかし居住だけは別にした方がいい」 

(産経新聞2015年2月11日付コラム要旨抜粋)

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産経新聞 曽野綾子さんのコラムへの抗議文

曽野綾子様  産経新聞社常務取締役 飯塚浩彦様

 『産経新聞』2015年2月11日付朝刊7面に掲載された、曽野綾子氏のコラム「労働力不足と移民」は、南アフリカのアパルトヘイト問題や、日本社会における多様なルーツをもつ人々の共生に関心を寄せてきた私たちにとって、看過できない内容を含んでおり、著者の曽野綾子氏およびコラムを掲載した産経新聞社に対して、ここに強く抗議いたします。
 曽野氏はコラムのなかで、高齢者介護を担う労働力不足を緩和するための移民労働者受入れについて述べるなかで、「外国人を理解するために、居住を共にするということは至難の業」であり、「もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった」との持論を展開しています。
 「アパルトヘイト」は現地の言葉で「隔離」を意味し、人種ごとに居住区を分けることがすべてのアパルトヘイト政策の根幹にありました。また、アパルトヘイトは、特権をもつ一部の集団が、権利を剥奪された他の集団を、必要なぶんだけ労働力として利用しつつ、居住区は別に指定して自分たちの生活空間から排除するという、労働力管理システムでもありました。移民労働者の導入にからめて「居住区を分ける」ことを提案する曽野氏の主張は、アパルトヘイトの労働力管理システムと同じです。国際社会から「人道に対する罪」と強く非難されてきたアパルトヘイトを擁護し、さらにそれを日本でも導入せよとの曽野氏の主張は言語道断であり、強く抗議いたします。このような考え方は国際社会の一員としても恥ずべきものです。
 おりしも、このコラムが掲載された2015年2月11日は、故ネルソン・マンデラ氏が釈放されて、ちょうど25年目にあたる日でした。その記念すべき日に、南アフリカの人びとが命をかけて勝ち取ったアパルトヘイトの終焉と人種差別のない社会の価値を否定するような文章が社会の公器たる新聞紙上に掲載されたことを、私たちはとても残念に思います。
 曽野綾子氏と産経新聞社には、当該コラムの撤回と、南アフリカの人々への謝罪を求めます。また、このような内容のコラムが掲載されるに至った経緯、および人権や人種差別問題に関する見解を明らかにすることを求めます。以上について、2015年2月28日までに文書でアフリカ日本協議会(AJF)へお知らせくださるようお願いいたします。また、貴社のご対応内容については他の市民団体、在日南アフリカ共和国大使館、国際機関、報道機関などへ公開するつもりであることを申し添えます。

2015年2月13日  (特活)アフリカ日本協議会 代表理事 津山直子

The Letter to Sankei-shinbun and Ms. Sono Ayako in English
13 Febrary 2013

Ms. Ayako Sono, the author  Mr. Hirohiko Iizuka, Managing Direcor, SANKEI SHIMBUN CO.,LTD

Ms. Ayako Sono’s column which appeared on the Sankei Shimbun morning edition on 11 February 2015, has inappropriate contents that cannot be overlooked. We, as an NGO which has had concerns about apartheid in South Africa and aspiration for harmonious coexistence of people with various roots within Japanese society, strongly protest against the author of the column as well as against the Sankei Shimbun for running the article.

In the column Ms. Sono, discussed the need to introduce immigrant workers who would provide nursing care for the elderly in Japan and wrote that she felt it extremely difficult to live with foreigners. She also wrote “Since learning about the situation in South Africa 20 or 30 years ago, I’ve come to think that whites, Asians, and blacks should live separately.” (Translation by Japan Times, “Author Sono Calls for Racial Segregation in Op-Ed Piece,” 12 February 2015)

“Apartheid” means “separation” in the local language of South Africans. Separating residential areas according to race was the foundation of apartheid policy. Apartheid was also a labor force management system, in which the privileged race deprived other races of their rights by using them as convenient labor. At the same time this privileged race did not let these races remain in their own areas. Arguing for a separate residential area for immigrant workers, as Ms. Sono does, is synonymous with calling for an apartheid system in Japan. It is abominable to defend apartheid, which has been strongly condemned by the international community as a “crime against humanity”, and to argue for introducing a similar system in Japan. We strongly object to this opinion. It is a shameful act to express such views as a member of the world community.

Coincidentally, the day the column run, 11 February 2015, was a 25th anniversary of the late Mr. Nelson Mandela’s release from the prison. It was very disappointing that we had to find, on this memorable day, a column which negates the significance that South African people fought, risking their lives, for the end of apartheid and the realization of society without racial discrimination.

We demand Ms. Sono and the Sankei Shimbun retract this column and apologize to the people of South Africa. We also demand an explanation regarding the process in which the column went to press, and your view on human rights and racism. Please send us your written response to Africa Japan Forum (AJF) by 28 February 2015. Please be advised that we intend to inform other NGOs, the South African Embassy, international organizations, and various media companies of any response we receive from you.

Tsuyama Naoko  President  Africa Japan Forum

(http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/archives/sonoayako-sankei20150211.html)

【参照2】(2015-2-25追加)
亀井伸孝「『文化が違うから分ければよい』のか―アパルトヘイトと差異の承認の政治」
 ・曽野綾子氏の産経新聞コラム。「人種主義」と「文化による隔離」の二つの問題点。
 ・文化人類学は、南アフリカのアパルトヘイト成立に加担。
 ・黒人の母語使用を奨励する隔離教育。
 ・「同化」を強要しないスタンスが、「隔離」という別の差別を生む温床。

【参照3】ネパール人夫婦,難民認定(2015年4月24日追加)
愛知県豊川市在住のネパール人夫婦が,2015年3月27日,難民認定された。RPP党員で,マオイストに迫害され,2007年1月観光ビザで来日,2010年難民申請するも2011年不認定。2011年5月,異議を申し立て,これが3月27日認められ,ネパール人初の難民認定となった。
*中日新聞,毎日新聞,朝日デジタル,2015年4月24日。

谷川昌幸(C)