ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Posts Tagged ‘外国人差別

ゴビンダ・マイナリ氏の再審・無罪判決を

「東電OL殺人事件」で無期懲役刑が確定し服役していたネパール人ゴビンダ・マイナリ氏の再審請求審において,現場遺留物の再鑑定の結果,別人のDNAが検出され,ゴビンダ氏を有罪とした最有力根拠の一つが崩れた。早急に再審を開始し,無罪判決を出すべきだ。(参照:Justice for Govinda Mainali jailed in Japan, Republica/毎日新聞) 以下,関連記事再掲

------------------------

ネパール人被告の即時釈放を求める

2000年9月28日

谷川昌幸

 3年前の東電OL殺人事件で逮捕、起訴され、この4月東京地裁で無罪判決を受けたネパール人被告ゴビンダ・マイナリ氏が、無罪判決後、検察上訴のため再勾留され、いまだ身柄拘束されている。不当な人権侵害といわざるをえない。

 そもそも憲法は「すでに無罪とされた行為については、刑事上の責任を問われない」(39条)と述べ、検察上訴を認めていない。有罪にするだけの証拠を法廷に提示できなかったのは検察側の責任だから、たとえ神の眼には有罪だったとしても、裁判でいったん無罪判決が下されたら、その時点で公平と人権の観点から被告の無罪が確定する、というのが憲法の精神である。

 マイナリ被告の場合、3年におよぶ東京地裁での慎重審査の結果、無罪が言い渡された。被告側によれば、別件逮捕され、取調中には暴行や自白強要もあったというし、弁護士接見妨害に対しては東京地裁が損害賠償を認めている。検察はそこまでしても結局、被告を有罪とするに足る証拠を提示できなかった。その責任は断じて被告にはない。検察は、違憲の責任転嫁上訴を取り下げ、直ちにマイナリ被告を釈放すべきだ。

 マイナリ氏再勾留は、たとえ仮に検察上訴を認めるにしても、違法であることに変わりはない。朝日社説(6月30日)がいうように「被告が日本人であれば、無罪判決後の身柄拘束など到底考えられない」のであり、再勾留決定は被告が外国人で、釈放するとネパールへ強制送還され、控訴審にとって都合が悪いからである。しかし、こうした超法規的理由による勾留は、外国人被告に対する「法の不備」の責任を被告に転嫁し、国家の都合を人権に優先させるものだ。それは、適正手続きを保障する憲法31条や同趣旨の国際人権法の諸規定に違反する。手続きの適正は、刑事裁判では真相解明に優先する。マイナリ被告は、その適正手続きを拒否され、人権を著しく侵害されているのだ。

 これは、日本がもし法治国だとするなら、憂慮すべき事態である。政府は、ネパールが日本の巨額のODA援助を受ける弱小国だから、多少強引なことをしてもネパール政府は黙認するだろうと高をくくっているのかもしれない。たしかに、これまでの経過を見ると、日本政府の読みは当たっているようだ。しかし、日本政府は、そうした大国主義的態度がいかに深くネパールを傷つけるかを理解すべきだ。

 わが国とネパールは、民間を中心とした長年の誠実な努力の結果、きわめて良好な友好関係を築き上げてきた。ネパールにとって日本は近代化のモデルであり、どこに行っても「日本に学べ」という言葉が聞かれるほどだ。法制度についてもそうであって、1990年の「ネパール憲法」制定の際も日本国憲法が大いに参考にされた。彼ら、とくに知識人や学生は日本国憲法のことをかなりよく知っており、近代的法治国としての日本を尊敬している。また少なくとも都市部では一般庶民も毎日のようにマスコミで報道される憲法論議に接し、日本人以上に法学的思考に慣れている。そのようなネパール人の眼にマイナリ裁判はどう映るであろうか。おそらく直ちに知識人は理論的に、庶民は直感的に、その不当性を理解するであろう。いや、もうすでに、マイナリ裁判はネパール国会で論議され新聞でも報道されたので、彼らはよく理解しているはずだ。にもかかわらず、恩義に厚い彼らはまだ日本の法治主義に望みをつなぎ、表立った日本批判を控えている。

 いまマイナリ裁判で日本の法治主義が試されている。検察上訴を認め、マイナリ被告を勾留し続ければ、いずれネパール市民は声を上げ、それは多くの国々に支持されるだろう。これは営々と友好関係を築き上げてきた日ネ両国民にとって不幸なことだし、日本政府にとっても決して得策ではない。アムネスティはすでに抗議声明を発表したし、歴史と実績を誇る日本ネパール協会も世界に向けて抗議声明を発表し、即時釈放運動を始めた。
 検察は、手遅れにならないうちに、マイナリ氏に対する違憲の上訴を取り下げるか、さもなければ少なくとも違法な勾留継続は断念すべきだ。

(谷川昌幸、2000.9.28)

——————————————————————

ネパール人、ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏の即時釈放を求める声明

  

2000年6月27日

【社】日本ネパール協会

会長 山本 英治

私達、日本ネパール協会は、民間の立場から、様々な分野での日本、ネパール両国国民間の理解を深め、友好・親善に寄与することを目的として設立された団体です。

 日本ネパール協会は、6月16日理事会の決定に基づき、1997年5月に電力会社女性社員強盗殺人事件の被告とされ、三年に及ぶ裁判の結果、今年4月14日に東京地裁で「無罪判決」を得たのちに、検察の控訴とともになされた勾留請求を受けて、5月8日に高裁の職権により再勾留され、2ヶ月たった今なお拘置されているネパール人、ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏に対し、世界人権宣言、自由権規約および日本国憲法の趣旨に則り、公正かつ適正な措置がとられ、即時釈放されることを求め声明を出すものです。

 ゴビンダ氏が一審で、無罪になったにもかかわらず、控訴審以前に再勾留されたことについては、国際的な人権団体のアムネスティ・インターナショナルが「日本の刑事訴訟法に違反しており、彼の身体の自由への権利を侵害している」旨の声明を出しているほか、ネパールのマスコミも大きく取り上げるなど国際的な批判があがっています。

 私達は、この事件の三年にわたる審理の結果出された東京地裁の「無罪判決」は、十分に尊重されなくてはならないと信じます。地裁、高裁の二度にわたる勾留請求棄却のあと、東京高裁が「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある」と判断していることは、とても納得いくものではありません。

 私達は、ゴビンダ氏の再勾留の決定は、彼が外国人であることによる差別であり、様々な場面で我が国の国際交流や国際協力に携わっている官民の広範な努力に水をさすものだと感じます。また国際化時代の日本の役割に期待する、ネパールをはじめとする諸外国からの友好のまなざしを裏切るものと考えます。このような立場から、私達はこの事件の推移に大きな関心をもって臨むとともに、法律的に極めて異常な状況にある現状をできるだけ早期に解消し、ゴビンダ・プラサド・マイナリ氏の人権が回復されることを求めます。
                                        

(日本ネパール協会HPより)

The Statement to Request Immediate Release of Mr. Govinda Prasad Mainali

June 28, 2000

The Japan Nepal Society

President, Eiji Yamamoto

The Japan Nepal Society was established with the objective of deepening understanding between Nepal and Japan, thus, contributing to the promotion of goodwill and friendship between the two countries.

Mr. Govinda Prasad Mainali , a citizen of Nepal, was charged with the murder of a female electric company employee in May, 1997. He remained in detention for the duration of the trial; a period of more than 3 years. On April 14, 2000, Mr. Mainali was acquitted by the Tokyo District Court ; the judge citing lack of decisive evidence for its ruling. The Tokyo District Public Prosecutors’ Office filed an appeal with the Tokyo High Court requesting a reversal of the District Court decision and recommending Mr. Mainali’s detention during the appeal process. The court complied to the prosecutors’ request , and on May 8, 2000, Mr. Mainali was again detained and remains in detention after 2 months.

We, the Japan Nepal Society, based on the decision of the Board of Directors meeting held on June 16, 2000, issue this statement to demand that, fair and appropriate measures be taken according to the spirit of international human rights law ( the International Covenant of Civil and Political Rights), and as required by the Constitution of Japan , and that Mr. Govinda Prasad Mainali. be released immediately.

The fact that Mr. Mainali was detained again prior to a hearing of intermediate appeal, and after he was acquitted at the first trial, has raised harsh international criticism. The international human rights organization, Amnesty International, has issued a statement saying that “Mr. Mainali’s detention is in contravention of his rights under Japanese law (the Code of Criminal Procedure).” This case has also been widely reported by the mass communication media in Nepal.

We, the Japan Nepal Society , believe that the “not guilty” verdict handed down by the Tokyo District Court after 3 years at trial must be fully respected. We find it unconscionable to accept the Tokyo High Court’s decision ordering Mr. Mainali’s renewed detention on the grounds that ” a reasonable suspicion exists that he committed a crime,” when earlier requests from the prosecutors were rejected by both the District Court and the High Court

We the Japan Nepal Society, believe that the High Court ‘s re-detention of Mr. Mainali represents discrimination against foreign nationals in its most severe form. Further, we believe that the Court’s action negatively impacts the wide range efforts of both the government and the people who are participating in international communication and assistance activities in various fields. We also feel that this decision might be interpreted as a betrayal of the friendship and expectations shown by nations such as Nepal, that place importance on the role of Japan in this age of increased globalization. With this in mind, we, the Japan Nepal Society, regard the outcome of this case with grave interest, and, at the same time, request this extremely abnormal judiciary condition be normalized as soon as possible and that Mr. Govinda Prasad Mainali`s human rights be recovered without further delay.

(The Japan Nepal Society, Home Page)

Written by Tanigawa

2011/07/23 at 12:11

カテゴリー: 人権

Tagged with , ,

ネパール人研修労働者の大量採用:日ネ関係は新時代へ

谷川昌幸(C)
1.研修労働者の大量派遣
ネパール訪問中の国際研修協力機構(JITCO)副理事長ツズキ・ケンスケ氏が2月3日,新聞インタビューに応じ,研修労働者の派遣国を中国からネパール(およびバングラディシュ,モンゴル)に切り替える,と説明した。
 
「ネパール,バングラディシュ,モンゴルは,日本の技術インターン制度にとって最も適切な,優先すべき国である。」
 
ネパール研修労働者は,今年は500人受け入れ,以後,徐々に増やしていく。主な雇用先は農業,食品加工業だという。これまでの受入はわずか6人だったから,これは激増であり,明確な政策転換である。
 
ネパール側仲介業者(人材派遣業者)は172社認められた。仲介業者の義務は――
 ・研修生を,期間満了後,帰国させる
 ・研修生は,18-40歳
 ・保証金を積む(300万ルピー+α)
 ・事前研修,健康診断を受けさせ,保険をかける
これらの義務を果たさなければ,たとえば研修生が他の仕事に移ったり,帰国しなかった場合は,仲介業者は日ネ両当局により処罰される。
 
この案によれば,働き盛りのネパール人を,日本・ネパール両国政府の管理の下,仲介業者の口利きで,大量に日本に送り込む。送り出しまでに,仲介業者はかなりの費用を負担する。本当に大丈夫か? 日ネ政府管理の債務外国人労働者制度になりはしないか?
 
2.IT技術者500人採用
これは研修労働者制度ではないが,昨年秋,ネパール人IT技術者500人が特別ビザを取得し,日本で働くことになった。これまでに何人来日したかは分からないが,これも仲介業者によるものだ。
 
IT技術は専門職であり,月給は50~200万円だという。本当かなぁ? 夢のようだ。まさか,外国人労働者派遣業者の誇大広告ではあるまいな?
 
3.マレーシア,ネパール人10万人雇用
一方,ネパール人労働者は,マレーシアにも大量に出稼ぎに行っている。マレーシアでのネパール人労働者の月給は1万1千ルピー~1万7千ルピー。その中から,月150ドルをネパールの家族に送金している(少し計算が合わないが,新聞にはそう書いてある)。
 
マレーシア政府は,今回10万人のネパール人労働者にビザを出すという。仲介業者によると,マレーシアに出国するまでの事前経費は4~8万ルピー。仲介業者の儲けも大きいはずだ。
 
また,そうなれば,月1500万ドルがネパールに送金されることになり,ネパール政府も大喜びだそうだ。
 
こうアケスケにいわれると,ネパール政府と仲介業者が人材輸出,人民輸出でぼろ儲けをしていると書いても,文句を言われることはあるまい。政府も業者も認めているのだから。
 
日本政府のネパール人研修労働者大量受け入れへの政策転換も,このような文脈のなかで分析・評価されなければならないだろう。
 
4.ネ・日関係の新時代
いずれにせよ,ネパールの新聞報道が本当だとすると,ネパール人労働者の大量来日で,ネ・日関係は激変する。現状では,問題噴出は避けられない。古き良き日ネ友好の時代はまもなく終わるであろう。
 
* "Japan mulls replacing Chinese workers with Nepalis," Republica, Feb4, 2010
* "Nepali IT brains may find jobs in Japan," Republica, Oct12, 2009
* "Gov readies guidelines to send interns to Japan," Republica, Nov2, 2009
* "Malaysia demands 100,000 Nepali workiers, " Republica, Feb5, 2010

Written by Tanigawa

2010/02/05 at 21:35

外国人研修労働の違法性認定:熊本地裁

谷川昌幸(C)
熊本地裁は,1月29日,外国人研修・実習生の中国人女性4人を働かせていた天草市の縫製工場主と仲介機関に対し,過酷な違法労働をさせたとして,慰謝料などの支払いを命令した(朝日,1/30)。
 
判決によれば,「午前3時頃まで就労させ」,「残業代は時給300円」だった。そして,「縫製作業は研修とは名ばかりの労務の提供」であった。
 
研修実習生は,パスポートや預金通帳を取り上げられ,法定労働時間を大幅に上回る過酷な労働をさせられており,「奴隷」(原告)のような状態だったという。熊本地裁判決は,縫製業者だけでなく,仲介機関の「協同組合」の不法行為責任をも認めた。
 
原告は,国際研修協力機構(JITCO)に対しても賠償を要求したが,判決では「協力機構に法的義務はない」とされた。しかし,直接的な法的責任は認められなかったとはいえ,JITCOに政治的・道義的責任があることは明白である。
 
先に述べたように,ネパール側報道によれば,まもなくJITCOは職員をネパールに派遣し,ネパール側と研修労働者派遣について協議するらしい。しかし,いまの外国人研修・実習制度のままだと,問題が起こる危険性が極めて高い。
 
日ネ友好を大切に思うなら,われわれは,外国人研修・実習制度のこうした実態をネパール側に伝えるべきであろう。日本では,テレビや新聞で繰り返し報道され,告発本も何冊も出され,しかも裁判所ですらこの制度による「違法労働」「人格権の侵害」の事例を認めたのだ。知らないのは当事者のネパール人民だけ,というのではあまりに信義誠実に反する。
 

2010/01/20 ネパール人研修労働者受入  
対日ネパール人輸出,あるいは新三角貿易  
拝啓 マオイスト労相殿: これが研修奴隷だ! 
共産革命と対日「人民」輸出

Written by Tanigawa

2010/01/30 at 21:50

カテゴリー: 経済, 人権

Tagged with , , , ,

ネパール人研修労働者受入

谷川昌幸(C)
ネパール労働省は1月初旬,国際研修協力機構(JITCO)プログラムにより渡日するネパール人研修労働者のための事前教育プログラムを決定した。詳細は,2月初旬のJITCO職員訪ネの際,決定するという。ネ日研修生協定は,2003年12月3日に調印されている。
 
 ●事前研修(ネパール)
  日本語=読み書き:60日(90時間) ,会話:60日(90時間),専門用語:6時間/3日
  日本文化=30時間(10日),日本の食事=30時間(10日)
  受講料=7000ルピー,研修生斡旋=172業者
 ●来日後の研修
  職業研修=1ヶ月
 
外国人研修労働制度は,以前は「現代の奴隷制」と呼ばれるほど劣悪な労働条件であった。その後,批判され改善されたと聞くが,実態はどうであろうか?
 
研修生,雇用主夫婦を殺害し自殺(2009.11.12)
熊本県で,中国人研修生が研修先の農家の夫婦を殺し自殺。農繁期には朝5時から深夜まで働かされていたという。
 
外国人研修生の死者33人(2008)
交通事故4,漁船1,仕事中6,自殺1,病気15,その他6。研修生は20-30代であり,過労が主な原因と見られている。
 
研修生の労働条件(日弁連)
平均時給:300-500円,残業時間(月):80時間以上。100時間以上も少なくない。
 
韓国では研修労働制,廃止
宣元錫氏(朝日1/9)によれば,韓国では日本をモデルにした外国人研修制度は問題が多いためすでに廃止し,正規労働者として受け入れる雇用許可制にした。1月18日,韓国とネパールは,この労働者受入協定を2年更新した。韓国は,制度的にも多くの点で日本を追い越し,日本は変化に対応できない極東の後進国として取り残されつつある。
 
 ――いま日本企業がネパールに目を向け始めたのは,おそらく中国や東南アジアの人件費が上がり始めたからであろう。劣悪な労働条件に耐えられる勤勉な労働者を捜していたら,ネパールがあったというわけだ。これは,研修労働者ではないが,1月12日,長崎の漁船が転覆し,乗組員10人が行方不明になった。そのうち6人は中国人労働者。これを見ても,日本の工場,農漁業などの労働現場で外国人労働者がいかに必要とされているかがよく分かる。
 
しかし,ネパール人研修労働者を受け入れるのであれば,制度を整え,日本人労働者と同等の権利をきちんと保障すべきだ。「研修」名目で低賃金を正当化するような姑息な利己主義でネパール人研修生を大量に受入始めたら,必ず問題が生じる。日ネの友好関係も瞬く間に破壊されてしまうだろう。
 
(参照)

Written by Tanigawa

2010/01/20 at 09:19

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。