ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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ネパール共産党の発足と課題(4)

4.権威主義
ネパール共産党(NCP)はUML系を主力としており,したがってUMLの党体質を継承する可能性が高い。高カースト寡頭支配,ナショナリズム,男性優先など。

これらのうち,いま特に問題とされているのが男性優先。先の連邦議会選挙におけるUMLの女性後回しは,際立っていた(「比例制は女性特待議席か(1),(2)」参照)。その男性優先体質が,そのまま新党NCPに継承され,NCP役員選任も男性優先となっている。

ネパール憲法269(4)条は政党役員構成を比例的包摂とすることを定め,政党登録法15(4)条は政党各委員会委員の三分の一以上を女性とすると定めている。

ところが,5月26日現在,NCP中央委員会は441委員中,女性は73人(17%)だけ。書記局は9人全員が男性。そのため,選管は,現状ではNCPの政党登録は認めない方針という(*2,3)(女性だけでなく,ダリットやマデシもNCP役員には少ない。)

NCPは,ネパール流のやり方でつじつまを合わせ,登録することにはなるだろうが,たとえそうではあっても,非包摂的男性優先権威主義の体質は牢乎として抜きがたいと見ざるを得ない。

第3州UML比例当選者全員女性(2017年州議会選挙)

5.移行期正義
UMLとMCの合併において深刻な事態となりそうなのが,人民戦争期(1996-2006)の人権侵害をどう取り扱うか,つまり移行期正義の問題である(*5,6)。

人民戦争ではUMLとマオイスト(現MC)は敵であり,非戦闘員をも巻き込み,激しいゲリラ戦を繰り広げた。双方が,暴行,強奪,拉致,虐殺,強制失踪など,多くの重大な人権侵害に直接的あるいは間接的に関与した。その多くが,いまだ未解決のままとなっている。

今回のUML・MC合併により,その人民戦争における加害者と被害者が同じ党のメンバーとなり活動することになった。これは当事者,とりわけ被害者側にとっては,極めて難しい事態である。

オム・アスタ・ライは,5月25日付記事「昨日の敵は今日の同志」(*4)において,次のように述べている。

マオイスト(現MC)は,人民戦争において,まずNCを攻撃し,次にUMLを攻撃した。UMLは,1996年ロルパで9人が焼き殺されるなど,約200人がマオイストに殺された。こうしたマオイストによる虐殺,拷問,拉致,強制失踪などの被害者や被害者家族は,事件の真相解明と責任者の処罰および損害賠償を求め裁判所や真実和解委員会(TRC)に訴えてきた。ところが,今回のUML・MC合併により,下手人と見られる人々が同志となってしまった。しかも,その中には上役や強大な権限を持つ幹部になった人々もいる。

たとえば,1999年2月マオイストに斬殺されたUML幹部ヤドゥ・ガウタムの家族の場合。彼らは裁判所や真実和解委員会に訴える一方,妻ティルタはUML議員となり政治活動をしてきた。ところが,UML・MC合併により,夫殺害に関与したMC系議員と同じNCPの議員となり,同僚として同席することになってしまった。

また,UML傘下諸組織においても,同様のことが生じている。家族を攻撃し苦しめたマオイスト傘下組織と統合し,同僚として,あるいは時には部下として行動を共にしなければならない。これはがいかに難しく苦しい事態かは,想像に難くない。

「合併によるネパール共産党(NCP)の成立は,マオイスト・ゲリラに殺されたUML党員の家族を難しい状況に陥らせた。家族は真実と正義を求めているが,下手人はいまや彼らの指導者なのである。」(*4)

以上のように,昨日の敵を同志とすることには,想像を絶する苦難が伴う。人民戦争の終結はほんの十数年前のことであり,被害はまだ生々しく記憶され残っているのだ。

そして,忘れてはならないのは,この記事では触れられていないが,人民戦争においては,政府の掃討作戦により,マオイスト戦闘員やシンパ(およびシンパと見られて人々)の側にも多大な被害が出たこと。警察,武装警察,そしてのちには王国軍の側も,拷問,拉致,虐殺,強制失踪など,多くの重大な人権侵害に関与した。そこに,UMLは体制側政党として直接的あるいは間接的に関与しており,当然,責任は免れない。

人民戦争は,内戦でありゲリラ戦であった。その傷は広く深く,わずか十数年で癒えるはずがない。その状態での,かつての不倶戴天の敵との合併統一には大きな困難が伴うのは当然と覚悟しなければならないであろう。

これは,戦時から平時への移行期正義の問題。複雑で難しい課題なので,後日,改めて考えてみることにしたい。

ウジャン・シュレスタ殺害事件

*1 “Fringe party raps ruling party for copying its name,” Republica, 21 May 2018
*2 “EC likely to reject NCP registration,” Republica, 26 May 2018
*3 “Only 16 pc representation for women,” Himalayan, 22 May 2018
*4 Om Astha Rai, “Yesterday’s enemies, today’s comrades,” Nepali Times, 25 May 2018
*5 選挙と移行期正義(1):ウジャン・シュレスタ殺害事件
*6 選挙と移行期正義(2):マイナ殺害事件

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/06/05 at 14:30

ネパール連邦議会選挙:包摂民主主義の実証実験(2)

2.連邦議会選挙の開票結果
 ・代議院(下院)=小選挙区制投票日:2017年11月26日/12月7日
          比例制(全国1区)各党への議席割当:2018年2月10日
 ・参議院(上院)=投票日:2018年2月7日
          政府推薦に基づく大統領指名:未指名

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/02/15 at 17:22

ネパール連邦議会選挙:包摂民主主義の実証実験(1)

ネパール連邦議会選挙の結果が,ほぼ出そろった。参議院(上院)の大統領指名議席など,まだ未確定の部分もあるが,選挙の大勢は,下表のとおりほぼ判明したといってよい。

1.包摂民主主義の実証実験
今回の連邦議会選挙は,憲法ないし国制(संविधान, constitution)の観点から見るならば,2015年憲法の根本理念たる「包摂民主主義(समावेशी लोकतत्र, inclusive democracy)」(憲法前文&4条)を,社会諸集団への議席割当(クォータ)により,まずは制度的に――形式的・強制的に――実現するための初の国政選挙である。いわば,包摂民主主義の実証実験。

この包摂民主主義の実証実験は,ネパール自身はむろんのこと,多文化化・多民族化が進む他の諸国にとっても,あるいは「一民族一文化」にこだわり続ける包摂民主主義後進国の日本にとっては特に,重要な意味をもちうる興味深い政治的試みである。

しかしながら,多種多様な社会諸集団の「比例的包摂(समानुपातिक समावेशी)」(憲法前文)を目標とする包摂民主主義は,諸集団の利害が錯綜し,制度が複雑化し,コストがかかり,運用が難しい。そのような高度な制度を,ネパールは本当に使いこなせるのか? 世界が注目している。

そこで,以下では,「比例的包摂」の基本中の基本たる女性の包摂が,今回の連邦議会選挙において,どのように具体化されたのかを見てみることにする。ネパールにおける包摂民主主義の初の本格的な実証実験が,どこまで成功したのか?


 ■民族/カースト分布地図(トリブバン大学社会人類学部, 2014)。社会諸集団包摂のため,この種の集団同定資料が,多くの場合国際機関や先進諸国の支援を得て,多数出版されてきた。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/02/14 at 17:56

ネパールの選挙:女性の制度的優遇と運用上の冷遇

ネパールでは国会(連邦代議院)と州会(州議会)のダブル選挙が,11月26日(北部山地・丘陵地)と12月7日(中南部丘陵地・タライ)に行われるが,この選挙は女性代表の観点からも注目されている。

ネパールでは,選挙制度的にはアファーマティブ(ポジティブ)アクションにより,女性はかなり優遇されている。国会,州会とも,選挙においては比例制政党候補の1/2以上が女性に割り当てられ,議会では各党議席の1/3以上が女性に割り当てられている。

また立候補の際の供託金は,国会議員選挙1万ルピー,州会議員選挙5千ルピーだが,女性候補およびダリットなど周縁的諸集団所属候補は50%引きとなっている。制度上の女性優遇は明らかだ。

ところが11月27日投票の小選挙区立候補者802人のうち,女性はわずか41人(国会18人,州会23人)にすぎない(10月23日現在)。そのうち,主要3党の女性候補は次の通り。
 ▼小選挙区女性立候補者数
  NC連合:国会2,州会1
  UML:国会0,州会1
  マオイスト:国会1,州会3

主要3党は,女性候補が少ない理由として,先の地方選(5/14,6/28,9/18)で女性候補を多数出してしまったからだとか,女性は小選挙区よりも比例制の方を希望するからだとか説明しているが,どうみても苦しい言い訳に過ぎない。

2015年憲法は,国会,州会とも女性議員1/3以上を定めている。主要3党は,比例制に女性候補を多数立て,あとで数合わせをするつもりなのだろうか?

 
 ■ネパールの女性国会議員比率(世銀HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/28 at 16:02

ネパール地方選における女性の大躍進

ネパール地方選は,第1次(5月14日投票)と第2次(6月28日投票)が実施され,残るは第3次(第2州対象,9月18日投票予定)のみとなった。これまでのところ,選挙は,多少の混乱はあったが予想以上に順調に行われ,全体として野党UMLがやや優勢であるものの,NC=MC連立政権の存続を脅かすほどではない(*3, *4)。

この地方選で最も注目されるのは,政党の勝ち負けよりも,むしろ女性の大躍進である。全体の正確な数字はまだ明らかになっていないが,第1次選挙では当選者の約40%が女性となった模様である。

これは,ネパールがつい最近まで女性差別の最も大きい国の一つとされてきたことを考えると,驚異的な変化である。どのようにして,地方政治への女性の進出は可能となったのであろうか?

直接の最大の要因は,選挙制度の抜本的大改正である。国政選挙では,新憲法制定の結果,すでに女性議員比率約30%となっているが,ここでは地方選挙制度の概要を見ておこう。

ネパールの地方政府(地方自治体)は,IFES「ネパールの選挙:2017年地方選挙」(*1)によれば,次のような構成になっている。(現在制度改変中であり,以下は上記資料データによる。)

郡――市/村――区
 ・郡(जिल्ला) 75
 ・市(नगरपालिका) 264
   大都市(महानगरपालिका) 28万人以上
   中都市(उप-नगरपालिका) 15万人以上
     市(नगरपालिका)  2万人以上
 ・村(गाउँपालिका) 481
 ・区(वार्ड) 各市/各村ごとに5~33
代表の構成
 ・区:区長1,議員4を選挙選出
 ・市/村:市長・副市長/村長・副村長を選挙選出
      議会は市内/村内の各区の代表(区長・区議員)により構成
 ・郡:郡議会は各市/各村の市長・副市長/村長・副村長により構成
    郡行政委員会(定数9)は郡議会議員から選出

代表選出方法
 各有権者は,次の7ポストにつき,1枚の投票用紙で投票(印を付け投票)
  市長/村長 1
  副市長/副村長 1
  区長 1
  女性区議員 1
  ダリット区議員 1
  一般区議員 2

女性候補と女性留保ポスト
 ・区選挙立候補者5人のうち2人は女性で,かつその1人はダリット
 ・市長/村長と副市長/副村長の両方に候補者を出す場合,いずれか一方は女性
 ・郡行政委員会の委員長と副委員長の両方に候補者を出す場合,いずれか一方は女性
 ・女性留保議席:市議会5,村議会4,郡行政委員会(定数9)3

投票用紙(カトマンズ用*3)
  

以上がネパール地方選挙制度の概略だが,国政選挙と同様,包摂民主主義に則っているため,要約困難なほど複雑だ(誤りがあれば,ご指摘ください)。日本でも運用困難かもしれない,これほどややこしい方法による選挙が,さして大きな混乱もなく実施できたことは,正直,たいへんな驚きである(*2)。

それはともあれ,こうした女性のためのクォータ制や留保制により,ネパールの地方自治へ女性が大量進出,ポストの40%を占めるに至ったことはまぎれもない事実。女性は副市長/副村長の方に回され,市長や村長はまだ少ないという批判もあるが,それは候補者選択の際の党内民主主義の向上に俟つべきかもしれない。

このようにネパールの政治制度改革は目覚ましい。いくつかの点で,ネパールは今や日本を追い越し,はるか先を行っている。そうした点については,日本は,謙虚に頭を垂れ,教えを乞うべきであろう。

▼バンダリ大統領(左)とマガル国会議長(右)(大統領府HP)
  

【参照】「議会と政府における女性」英下院図書館,2017年7月12日(*1)
 ・女性大統領(2017年3月現在):ネパール,スイス,台湾ほか11か国
 ・女性議長(2017年6月1日現在):ネパール,オーストリア,ベルギー,デンマークほか55か国
 ・国会女性議員比率(193国,2017年6月1日現在)
  1 ルワンダ61%,6 スウェーデン44%,12 ノルウェー40%,47 ネパール30%,161 サモア10%,164 日本9%,167 コンゴ9%,170ブータン9%,178 イラン6%,190 カタール0%

*1 International Foundation for Electoral Systems, “Elections in Nepal: 2017 Local Elections,” May 10, 2017
*2 百党斉放のネパール地方選挙
*3 地方選:2大政党善戦と選挙運動の変化
*4 地方選,3回に分けて実施

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/10 at 09:54

カテゴリー: 選挙, 行政, 議会, 人権

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最高裁長官も女性に

カトマンズポスト(3月14日)によれば,司法委員会(憲法第153条設置)は3月13日,スシラ・カルキ最高裁判事を次期最高裁長官に推薦することを決めた。推薦通り任命されれば,4月中旬就任予定。

スシラ・カルキ最高裁判事は,1952年ビラトナガル生まれ。バナラス・ヒンドゥー大学大学院修了(政治学),トリブバン大学法学士。弁護士会推薦で最高裁判事就任。

カルキさんは,初の女性最高裁長官。これで大統領(BD・バンダリさん),連邦議会議長(O・ガルティさん)に加え,司法トップも女性となる。男性は首相(オリ氏)だけ。スゴイ!!

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/03/14 at 18:15

カテゴリー: 司法

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国際女性日と反戦平和

ネパールは「国際女性日(3月8日)」満艦飾。日本は足元にも及ばない。が,少々不思議なのは,このところ「反戦平和」と関係づけて女性の権利があまり語られなくなったこと。女性の社会参加,政治参加は,当然,軍隊にも戦場にも及ぶべし,ということか? 下掲は在ネ米大使館ツイッター。

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【追加3月10日)
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/03/09 at 11:33

カテゴリー: ネパール, 平和

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