ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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ネパールの選挙:女性の制度的優遇と運用上の冷遇

ネパールでは国会(連邦代議院)と州会(州議会)のダブル選挙が,11月26日(北部山地・丘陵地)と12月7日(中南部丘陵地・タライ)に行われるが,この選挙は女性代表の観点からも注目されている。

ネパールでは,選挙制度的にはアファーマティブ(ポジティブ)アクションにより,女性はかなり優遇されている。国会,州会とも,選挙においては比例制政党候補の1/2以上が女性に割り当てられ,議会では各党議席の1/3以上が女性に割り当てられている。

また立候補の際の供託金は,国会議員選挙1万ルピー,州会議員選挙5千ルピーだが,女性候補およびダリットなど周縁的諸集団所属候補は50%引きとなっている。制度上の女性優遇は明らかだ。

ところが11月27日投票の小選挙区立候補者802人のうち,女性はわずか41人(国会18人,州会23人)にすぎない(10月23日現在)。そのうち,主要3党の女性候補は次の通り。
 ▼小選挙区女性立候補者数
  NC連合:国会2,州会1
  UML:国会0,州会1
  マオイスト:国会1,州会3

主要3党は,女性候補が少ない理由として,先の地方選(5/14,6/28,9/18)で女性候補を多数出してしまったからだとか,女性は小選挙区よりも比例制の方を希望するからだとか説明しているが,どうみても苦しい言い訳に過ぎない。

2015年憲法は,国会,州会とも女性議員1/3以上を定めている。主要3党は,比例制に女性候補を多数立て,あとで数合わせをするつもりなのだろうか?

 
 ■ネパールの女性国会議員比率(世銀HP)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/28 at 16:02

ネパール地方選における女性の大躍進

ネパール地方選は,第1次(5月14日投票)と第2次(6月28日投票)が実施され,残るは第3次(第2州対象,9月18日投票予定)のみとなった。これまでのところ,選挙は,多少の混乱はあったが予想以上に順調に行われ,全体として野党UMLがやや優勢であるものの,NC=MC連立政権の存続を脅かすほどではない(*3, *4)。

この地方選で最も注目されるのは,政党の勝ち負けよりも,むしろ女性の大躍進である。全体の正確な数字はまだ明らかになっていないが,第1次選挙では当選者の約40%が女性となった模様である。

これは,ネパールがつい最近まで女性差別の最も大きい国の一つとされてきたことを考えると,驚異的な変化である。どのようにして,地方政治への女性の進出は可能となったのであろうか?

直接の最大の要因は,選挙制度の抜本的大改正である。国政選挙では,新憲法制定の結果,すでに女性議員比率約30%となっているが,ここでは地方選挙制度の概要を見ておこう。

ネパールの地方政府(地方自治体)は,IFES「ネパールの選挙:2017年地方選挙」(*1)によれば,次のような構成になっている。(現在制度改変中であり,以下は上記資料データによる。)

郡――市/村――区
 ・郡(जिल्ला) 75
 ・市(नगरपालिका) 264
   大都市(महानगरपालिका) 28万人以上
   中都市(उप-नगरपालिका) 15万人以上
     市(नगरपालिका)  2万人以上
 ・村(गाउँपालिका) 481
 ・区(वार्ड) 各市/各村ごとに5~33
代表の構成
 ・区:区長1,議員4を選挙選出
 ・市/村:市長・副市長/村長・副村長を選挙選出
      議会は市内/村内の各区の代表(区長・区議員)により構成
 ・郡:郡議会は各市/各村の市長・副市長/村長・副村長により構成
    郡行政委員会(定数9)は郡議会議員から選出

代表選出方法
 各有権者は,次の7ポストにつき,1枚の投票用紙で投票(印を付け投票)
  市長/村長 1
  副市長/副村長 1
  区長 1
  女性区議員 1
  ダリット区議員 1
  一般区議員 2

女性候補と女性留保ポスト
 ・区選挙立候補者5人のうち2人は女性で,かつその1人はダリット
 ・市長/村長と副市長/副村長の両方に候補者を出す場合,いずれか一方は女性
 ・郡行政委員会の委員長と副委員長の両方に候補者を出す場合,いずれか一方は女性
 ・女性留保議席:市議会5,村議会4,郡行政委員会(定数9)3

投票用紙(カトマンズ用*3)
  

以上がネパール地方選挙制度の概略だが,国政選挙と同様,包摂民主主義に則っているため,要約困難なほど複雑だ(誤りがあれば,ご指摘ください)。日本でも運用困難かもしれない,これほどややこしい方法による選挙が,さして大きな混乱もなく実施できたことは,正直,たいへんな驚きである(*2)。

それはともあれ,こうした女性のためのクォータ制や留保制により,ネパールの地方自治へ女性が大量進出,ポストの40%を占めるに至ったことはまぎれもない事実。女性は副市長/副村長の方に回され,市長や村長はまだ少ないという批判もあるが,それは候補者選択の際の党内民主主義の向上に俟つべきかもしれない。

このようにネパールの政治制度改革は目覚ましい。いくつかの点で,ネパールは今や日本を追い越し,はるか先を行っている。そうした点については,日本は,謙虚に頭を垂れ,教えを乞うべきであろう。

▼バンダリ大統領(左)とマガル国会議長(右)(大統領府HP)
  

【参照】「議会と政府における女性」英下院図書館,2017年7月12日(*1)
 ・女性大統領(2017年3月現在):ネパール,スイス,台湾ほか11か国
 ・女性議長(2017年6月1日現在):ネパール,オーストリア,ベルギー,デンマークほか55か国
 ・国会女性議員比率(193国,2017年6月1日現在)
  1 ルワンダ61%,6 スウェーデン44%,12 ノルウェー40%,47 ネパール30%,161 サモア10%,164 日本9%,167 コンゴ9%,170ブータン9%,178 イラン6%,190 カタール0%

*1 International Foundation for Electoral Systems, “Elections in Nepal: 2017 Local Elections,” May 10, 2017
*2 百党斉放のネパール地方選挙
*3 地方選:2大政党善戦と選挙運動の変化
*4 地方選,3回に分けて実施

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/08/10 at 09:54

カテゴリー: 選挙, 行政, 議会, 人権

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最高裁長官も女性に

カトマンズポスト(3月14日)によれば,司法委員会(憲法第153条設置)は3月13日,スシラ・カルキ最高裁判事を次期最高裁長官に推薦することを決めた。推薦通り任命されれば,4月中旬就任予定。

スシラ・カルキ最高裁判事は,1952年ビラトナガル生まれ。バナラス・ヒンドゥー大学大学院修了(政治学),トリブバン大学法学士。弁護士会推薦で最高裁判事就任。

カルキさんは,初の女性最高裁長官。これで大統領(BD・バンダリさん),連邦議会議長(O・ガルティさん)に加え,司法トップも女性となる。男性は首相(オリ氏)だけ。スゴイ!!

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/03/14 at 18:15

カテゴリー: 司法

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国際女性日と反戦平和

ネパールは「国際女性日(3月8日)」満艦飾。日本は足元にも及ばない。が,少々不思議なのは,このところ「反戦平和」と関係づけて女性の権利があまり語られなくなったこと。女性の社会参加,政治参加は,当然,軍隊にも戦場にも及ぶべし,ということか? 下掲は在ネ米大使館ツイッター。

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【追加3月10日)
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/03/09 at 11:33

カテゴリー: ネパール, 平和

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最高裁判事に8候補指名,司法会議

DP・シャルマ最高裁長官を長とする司法会議(न्यायपरिषद)は4月22日,暫定憲法第103条に基づき,空席となっていた最高裁判事に,上訴裁判所の所長6人,所長代行2人の計8判事を指名した。議会の審査を経て正式に任命される。

この最高裁判事指名については,弁護士会などがコネ人事だ,無能判事指名だ,などと批判をしている。そうした批判がどこまで妥当かは分からないが,少なくともいまの司法部が高位カースト寡占であることは間違いない。

法は,上部構造の重要部分であり歴史的に上位カーストのものだったからだろうが,いまや包摂民主主義の時代,司法部の民主化も避けられない。

折しもエネルギー省のラダ・ギャワリ大臣が,強姦には死刑を,と要求している。死刑採用の是非は別として,強姦事件を男性判事寡占裁判所で裁くことの不公平さは明白である。

包摂は司法部でこそ促進されなければならない。判事の半数を女性にすれば,女性がらみ事件の裁判も公平になるであろう。

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 ■Diversity in Judiciary by Broad Position Category and Sex / Diversity in Judiciary by Broad Position Categories Caste/Ethnic Groups, in Gender Equality and Social Inclusion Analysis of the Nepali Judiciary (Research Report), May 2013

谷川昌幸(C)



Written by Tanigawa

2014/04/23 at 17:02

カテゴリー: 司法, 人権

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制憲議会選挙2013(8):ヒシラ・ヤミ候補の戦い

ダサイン/ティハール休暇が明け,今日(10日)から選挙戦が本格化した。カトマンズ市内でも,各党の横断幕,垂れ幕,旗,ビラなどが増えた。が,それでも予想よりは少ない。

今日は,マオイスト革命の女性英雄パルバティたる,ヒシラ・ヤミ候補(バブラム・バタライ副議長夫人)の選挙区,カトマンズ第7区を見てきた。ビシュヌマティ川左岸の市街地。

131110b ■女性労働者に微笑むヤミ候補

ヤミ候補のビラが多いのは当然だが,予想以上にコングレスが多い。旗だけで優劣はつけられないが,それでも「旗色」という表現があるくらいだから,選挙において旗や幟の勢いは大切だ。

131110e ■コングレス選挙集会(アサン:10日午後)

ヤミ候補は,虐げられた女性の味方,女性代表のはずだが,プラチャンダ党首(議長)同様,人気はいまいちだ。汚職・腐敗の女王などといった罵詈雑言をしばしば浴びせられてきた。一介の見物人の私には,噂の真相は分からないが,どうも旗色は悪そうだ。カトマンズ第7選挙区も,注目すべき選挙区の一つである。

 ▼ヤミ候補の選挙活動
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【付記】明日(11日)から選挙粉砕バンダ(ゼネスト)の予定。すでに各地で衝突による負傷者が出始めている。こちらも気になる。

[追加]バンダ予定変更(10日午後11時)
[11日]完全バンダ(ゼネスト)
[12-19日]交通スト。以下は除外: 救急車,ゴミ収集車,水・ミルク運搬車,報道用車両,外交官用車両,人力車,自転車,荷車
 *これも変更の可能性あり。最新情報をご確認ください。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/11/11 at 01:42

ミスコン批判社説、「美の商人」粉砕!

本格的なミスコン批判が、ようやくネパールにも現れた。ekantipur, “Beautiful and damned,” Apr20. めでたい。

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そもそもマオイスト政権下のミスコン熱が異常だ。王制下なら、王制そのものが美の権威だから、ミスコンもあり得るし、また、万物を商品化する資本主義なら、女を競りにかけ、最高の値札のついた女に「ミス」の品質証明を与えるのは原理適合的であり、理にかなっている。

しかし、マオイストは王制も資本主義も否定しているのであり、したがってミスコンも当然認められないはずだ。また、ミスコンは、人権や民主主義の観点から見ても、理念に反し、許容できない。

ところが、ネパールでは、マオイストも他の人権主義者・民主主義者もミスコンを許容している。ミス・ネパールを筆頭に、ミス・タマン、ミス・ライ、ミス・ルンビニ、ミス・チェットリ、ミス幼稚園、ミス・カレッジ・・・・。ミスの競演であり、狂演だ。まったくもって、バカげている。

カンチプール社説は、「美女」は社会的に構成された概念だという、C.ダーウィン以降の常識の確認から始める。かつて「豊満」が美女とされたのは、それが富を象徴していたから。現在、「痩身」が美女とされるのは、ダイエットに時間と金を浪費した結果だから。

この社会的構成としての「美」を熟知しているのが、企業。「美女」はビールから車まで、あらゆるところで商売に利用されている。

そのお先棒担ぎが「美の商人」。ミスコンにより、「美女」概念をでっち上げ、世間に広め、認めさせる。

ミスコンで「美女」概念が確立すると、大多数の女性は「ブス(醜女)」を自覚させられ、劣等感にさいなまれる。そして「ミス」のようになるため、化粧品や健康用品を買い、ジムに通い、あるいは美容整形に走る。身体的・精神的に有害なことを自ら選択して実行させられ、拒食症や神経衰弱に陥り、はては病死や自殺に追い込まれる。

カンチプール社説は、論旨を要約すれば、こう断罪している――ミスコンの主催者や審査員はいうまでもなく、参加女性自身も、そうした社会悪への加担者である。ミスコンはビジネスであり、弱者から搾取するためのイベントだ。この事実を冷静に見据え、「美の商人の専制」から女性を解放せよ。

まったくもって、正論。マオイストや他の時流迎合人権主義者・民主主義者よりも、カンチプールの方がはるかにまともであり、ラジカルだ。長い目で見ると、「死の商人」よりも「美の商人」の方が、ネパールにとっては危険かもしれない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/04/24 at 08:15

カテゴリー: 社会, 文化, 人権

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