ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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若年寄化する学生

谷川昌幸(C)

ネパール学生は,血気盛んで,スト,デモ,タイヤ焼きなど,いかにも若者らしい。これに比べ,日本の学生は老化著しく,新入生ですら人生を達観しているような若年寄が少なくない。この28-29日,ゼミ合宿にいって,その思いを強くした。

わがゼミの学生はみな優秀である(ということにしておこう)。問題は,全体的な学生の老化現象だ。

合宿したのは,学生・教職員用の研修宿泊施設。広大な敷地に,研修室やスポーツ施設などすべて完備。宿泊費はわずか1泊400円。規制はほとんどない。「国立青少年の家」のように,国粋主義丸出しで,「日の丸」掲揚,「君が代」斉唱を強制されたりはしない。「国立青少年の家」は金をかけ,やたら立派だが,こんな国粋主義施設を喜んで使用する人がいるとは思えない。国立大学施設は,さすがエリート養成を目的とする。そんなくだらぬ国粋主義で前途有為の青年の精神を腐らせたりはしない。天皇の悪口を肴に夜通し酒盛りをして大騒ぎをしても一切お構いなし。付近には,名所,温泉も多い。使い勝手はたいへんよい。

それなのに,この宿泊所は,あまり利用されていない。かつてはゼミ合宿だけでなく,様々な学生グループが盛んに利用していたと思われる。その痕跡が各所に見られた。ネパール学生と同じく,日本学生も,かつては若々しく元気であり,スト,デモ,火炎ビン投げなどに興じ,また合宿してスポーツや議論に熱中していたのだ。いま,そんな学生は少なくなった。

むろん,いまでもボランティア活動など様々な活動に没頭している学生はあちこちにいる。しかし,全体としてみると,日本学生の老化は否定のしようがない。

大学でも不可解な現象が見られる。毎回出席をとれと学生自身が要求する。授業数が少なくて暇だ,もっと授業を多くせよと,訳の分からぬ事を言う(「暇」の意味を考えたこともないらしい)。授業が分からないと,自分ではなく教師を責める。研究テーマを自分で決められない。まともな本を読まず,読めない。・・・・

いつの時代でも,旧世代は新世代に対しこのような繰り言をいっており,私も旧世代になったということがあるかもしれないが,それを認めたとしても,やはり日本学生の生態は変だ。こんな若年寄化(=幼児化)した学生は,世界のどこにもいないのではないか?

若いネパール学生と老いた日本学生。もしこの両国学生を集め,日ネ半々でクラス編成をしたらどうなるか? これは面白いと思う。

日本では,26日,安倍政権が発足し。復古主義がますます強化されそうだ。教育基本法も改悪され,「日本的価値」の強制が始まるだろう。小泉政権は新自由主義とニヒリズムの折衷。安部政権は確信的反動であり,小泉政権以上に危険。国粋主義化が進み,それに比例して国民の精神的老化(=幼児化)も進行,日本は立ち枯れ状態になってしまいかねない。

Written by Tanigawa

2006/09/30 at 11:49

カテゴリー: 教育

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天皇元首化vs王制廃止――対比の妙

谷川昌幸(C)

ネパール王制問題は,よそ事ながら,わがことのように切実に感じられる。というのも,次期首相と目される安倍氏が,8月22日,政権公約の骨子を表明し,憲法と教育基本法の改正を最優先課題と宣言したからだ(朝日新聞,8/23)。

1.憲法改正で日本軍を世界展開
ねらいはもちろん,憲法9条を改正し,自衛隊を国軍(皇軍)に格上げし,アメリカと協力してグローバル資本主義秩序を守ること。つまり,アメリカ軍を補完し日本国益を守るため,世界のどこにでも日本軍を展開できるようにすることである。

2.教育基本法改正で愛国心育成
そして,この目的(日本産軍官政複合体の利益)のための国民動員を可能にするのが,教育基本法改正だ。学校で愛国心が教え込まれ,その奥の院の御簾の奥にはもちろん天皇が鎮座している。いくら否定しても,本質的には「忠君愛国」の再来であることは明白だ。

アナクロと侮ってはならない。これはグローバル化日本の現状と重ね合わせると,極めて現実的な政策だ。

日本軍が本格的に海外展開すれば,必ず死傷者が出る。本人も家族も,そして国民も,「世界平和のため」では納得しない。祖国のために命を捧げ,靖国に祀られ,神となり,天皇陛下に頭を下げてもらう。この神話を生涯教育を通して復活させなければ,飽食のこの時代,誰も紛争地に行きはしない。人は,世界平和といった抽象的理念のために生命を捧げたりはしない。生命を捨てさせるには,自分の家族,郷里といった具体的な守るべき対象がいる。その自然な家族愛,郷土愛をかすめ取り,「国益」のため人々を戦わせ,大量に殺してきたのが,近代国家だ。

国家は家族や郷里と違い,人工的な,不自然な制度である。したがって,それを愛させるには,不自然な教育による教化・洗脳や,天皇,靖国神社といった壮大な「現代の神話」が不可欠なのだ。

安倍次期政権は,この国家神話・国家神道を,グローバル化世界で「生き残る」ために,憲法・教育基本法改正により,再興しようとしている。アナクロに見えて,アナクロではない。そこが怖い。

3.「日本人」意識で労働者分断
それともう一つ,この国家神道復活への企ては,国内のグローバル化対策でもある。グローバル競争に「生き残る」ため,労働条件が引き下げられ,日本は格差社会になった。日本=天皇へ向けた「愛国心」涵養により,まず,この格差の痛みを慰撫し,受容させること。祖国=天皇のためなら,喜んで労苦を引き受けよう。

そして,その労苦は「日本人」であることにより,さらに癒される。つまり,グローバル化により,今後,途上国から日本に大量の労働者が入ってくる。たとえば,フィリピン介護士の受け入れなど。企業も外国人労働者受け入れを声高に要求しており,この流れはもはや不可避だ。

こうした外国人労働者に対し,日本人は「日本人」であるということで優位に立ち,優越感を持ちうる。使用者側にとって,日本人労働者と外国人労働者が連帯し,共闘を始めたら一大事。それを防止するのが,「日本人」アイデンティティなのだ。分割統治せよ,ということ。ここでも国家神道復活は,アナクロであるどころか,極めて現実的な政策なのである。

4.途上国ネパールの共和制化
このように,先進国日本で天皇制(君主制)復活強化が図られているのとは逆に,後発途上国ネパールでは,王制から共和制への流れが加速している。これは興味深いコントラストだ。

ネパールの人々が日本のこの保守「反動」の動きを見たら,どう思うだろうか? 日本の遅れにビックリし,軽蔑するか? それとも,世界で最も国民統合の諸条件が整っている先進国日本が,あえていま天皇制復活を目指す理由を注意深く探ってみようとするのであろうか? 他の諸条件が異なるから単純な比較はできないが,現実政治的にも理論的にも面白い課題だ。(もちろん,日本人がネパール共和制論から君主制の持つ本来的危険性を学ぶことも可能だ。)

5.国王国家機関の宣言を
それにしても,ネパールでは王制存廃の瀬戸際に来ているのに,国王や王党派から何の発言もないのは,なぜだろう? もし彼らがダンマリを決め込み,裏で何かをたくらんでいるとすると,これは愚策だ。

以前から指摘しているように,もし国王が王制存続を望むのであれば,国王は世俗の権力や財産を全部断念し,象徴に徹することを自ら宣言するのが最善の策だ。

換言すれば,国王が自ら政教完全分離を宣言し,自分を儀式に専念する国家機関と宣言するのがよい。天皇機関説のネパール版,「国王機関説」だ。

あるいは,国民のアイドルとしての国王と言い換えてもよい。Idleだから,世俗の権力・財産をすべて放棄し,何もしない(idle)。そんな国家機関としてのアイドル国王になるという宣言。

6.人間の弱さと王制
むろん,そんなにまでして,なぜ王制を残す必要があるのか,という反論はありうる。それには,人間は元来不完全な弱いものであり。伝統的な神や国王を否定しても,新たな代替神,代替国王をでっち上げ,歴史に徴するに,大抵後者の方が前者の何倍も危険であった,とだけ答えておこう。

いずれにせよ,民主化は現代の宿命。ネパール国王も,民主化に適応しなければ,生き残れない。このままでは,王制に未来はない。

Written by Tanigawa

2006/08/24 at 10:39