ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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最高裁長官解任のネパール,首相無答責の日本(2)

2.安倍首相の政治責任,棚上げ
一方,日本ではいま,森友学園への国有地売却をめぐり,行政権の長たる安倍首相の責任を棚上げにしようとする動きがある。無責任きわまる首相無答責への流れ。

日本国民はつい最近まで,正直・誠実を誇りとし,諸外国からもそれを称賛されてきた。会社では社員が勤務に精励し,顧客との約束を果たすため誠実に努力してきた。役所では,公務員たちが,しばしば融通が利かないとイヤミを言われるほど規則を忠実に守り,国民のために誠実に仕事をしてきた。この規則や約束を守り最大限努力する誠実さこそが,国際社会における日本の評価を高め,日本を急速に発展させ,日本をして世界有数の豊かな国とするに至った最も根源的な文化的要因の一つである。

ところが,その日本の生命線といってもよい誠実さが,このところ急速に失われ始めた。しかも,中小諸組織よりもむしろ有名大企業や国家諸機関から。

記憶に新しいところでは,日産自動車の完成車無資格検査不正,三菱自動車の燃費データ改ざん,神戸製鋼所の製品データ改ざん,東芝会計不正など。いずれも日本の代表的企業であり,にわかには信じられないほどの不誠実さだ。

行政諸機関の不誠実も目に余る。いま問題になっている森友学園への国有地売却においては,財務省が不公正な売却手続きを取り,それを隠すため関係書類を改ざんし,国会に提出した。まだ国会審議も検察捜査も終わってはいないが,朝日新聞報道をきっかけに改ざん以前の文書が確認され公表されたことにより,改ざんはもはや疑いえない事実となった。

近現代国家の官僚制にとって,合理的な規則と文書の尊重は原則中の原則。客観的な合理的規則により割り当てられた職務を遂行し(公私分離主義),その経緯を文書に記録して残し(文書主義),他者や後世の検証・評価に供する。官僚制(行政機関・公務員)が,もしこの大原則への誠実さを失えば,統治への信頼は根本から崩れ,国民生活は危機に瀕する。民主的な「良き統治(good governance)」の崩壊だ!

森友学園国有地売却事件は,まさにこの「良き統治」崩壊の危機であり,関係者の責任は免れないが,現状では責任追及は担当部局の財務省理財局や近畿財務局の関係者にとどまりそうな雲行きだ。

そもそも近畿財務局が国有地売却にあたって森友学園を特別扱いしたのは,安倍首相夫人と学園との親密な関係からして首相夫妻がこの案件のバックにいると考えたからに他ならない。したがって,首相夫妻の具体的な土地売却関与があれば無論のこと,たとえ関係部局職員の「忖度」であったとしても,「忖度」せざるをえないような状況をつくり,あげくは文書改ざんにまで手を付けさせた首相の政治責任は免れない。M・ウェーバーが力説したように,政治は結果責任であり,首相こそが責任を取るべき行政権の長に他ならないからである。

しかしながら,それにもかかわらず,日本政界には,いまのところ安倍首相に引責辞任を迫る大きな動きは見られない。日本の統治(governance)は,企業においても国家においても,深刻な危機に陥っている。

■施政方針演説確認中の安倍首相(官邸FB:1月22日)

3.ガバナンス開発援助の危機
日本の途上国支援は,道路,橋,ダム,空港,港湾などのインフラ建設支援から,法令整備や行政改革,司法近代化などのための開発援助に力点を移してきた。ハードからソフトへ。「良き統治」のためのガバナンス開発援助である。

ところが,企業不正がはびこり,官僚制が合理性を失い,首相ら政治家が当然引き受けるべき政治責任を引き受けようとしないのが今の日本。その「良き統治」を失いつつある日本が,途上国に向かって「良き統治」を説く。まるでマンガ!

「合理的な規則をつくり,誠実にそれを守り職務を遂行しなさい。」
「はい,分かりました。そうします! で,お宅ではどうなっていますか?」

谷川昌幸(C)

権力乱用調査委員会(8):腐敗防止条約との関係

1.国際法上の義務となった腐敗防止
ネパールにおける不正・腐敗防止は,2011年3月の「国連腐敗防止条約(UN Convention against Corruption)」批准により,国際法上の義務となった。

腐敗防止は,もはや単なる国内問題ではない。自らの伝統文化の重要部分の否定となるが,欧米先進諸国の腐敗概念を全面的に受け入れ,「腐敗防止条約」に署名・批准したのだから,腐敗防止は国際社会に対する法的義務ともなったのである。

その結果,権力乱用調査委員会(CIAA)も,憲法設置機関ではあるが,その権力の正統性の根拠を,正統性の怪しい自国政府というよりもむしろ国際社会の国際法に求めることが可能となった。

換言すれば,国際社会,つまり欧米先進諸国は,国際法を根拠に,ネパールの不正・腐敗問題に強力に介入できることになったのである。

2.腐敗防止条約の批准
国連腐敗防止条約は,2003年10月,国連総会で採択された。署名140カ国。
 (国 名)………….(署 名)…………….(批 准)
 ネパール……..2003//12/10……….2011/03/31
 アメリカ ………2003/12/09………..2006/10/30
 中 国…………2003/12/10………..2006/01/13
 インド………….2005/12/09………..2011/05/09
 日 本…………2003/12/09………….未批准

日本は,まだ批准していない。堂々と日本の意思を貫き,世界に独自性を示している。この条約だけでなく,特に人権等に関しては,日本は,多くの場合,ネパールよりもはるかに遅れている。たとえば,人種差別撤廃条約(採択1965,発効1969)では,ネパールの受諾1971年1月30日に対し,日本は1995年12月15日。世界に冠たる人権小国だ。

131006a ■腐敗防止条約未批准国=赤・橙(UNODC)

3.腐敗防止条約の概要
腐敗防止条約は,前文+71カ条の長大な条約。その要点を外務省がうまく要約しているので,以下,それを転載する。
―――――――――――――――――
条約のポイント
(1)腐敗行為の防止のため、公的部門(公務員の採用等に関する制度、公務員の行動規範、公的調達制度等)及び民間部門(会計・監査基準、法人の設立基準等)において透明性を高める等の措置をとる。また、腐敗行為により不正に得られた犯罪収益の資金洗浄を防止するための措置をとる。
(2)自国の公務員、外国公務員及び公的国際機関の職員に係る贈収賄、公務員による財産の横領、犯罪収益の洗浄等の腐敗行為を犯罪とする。
(3)腐敗行為に係る犯罪の効果的な捜査・訴追等のため、犯罪人引渡し、捜査共助、司法共助等につき締約国間で国際協力を行う。
(4)腐敗行為により不正に得られた犯罪収益の没収のため、締約国間で協力を行い、公的資金の横領等一定の場合には、他の締約国からの要請により自国で没収した財産を当該他の締約国へ返還する。
(外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty164_8_gai.html)
―――――――――――――――――

131006b ■腐敗防止条約概念図(外務省)

4.ポストモダンの腐敗防止条約
腐敗防止条約は,適用範囲の広い条約である。主な対象は公的部門の公務員(自国公務員,外国公務員,国際機関職員)だが,民間部門の腐敗防止もまた,当然,規定されている。

この幅広い分野の腐敗行為を監視するため,腐敗防止条約は,各国が専門機関を設置し,独立性を付与することを定めている(第6,36条)。また,それに加え,「市民社会,非政府機関,地域社会の組織等の公的部門に属さない個人および集団の積極的な参加」をも規定する(第13条)。

このような権力の分割・分有・市民参加は欧米先進諸国の流行であり,腐敗防止条約もその流れに棹さしているわけだ。

しかし,ネパールのような途上国の場合,この点には十分な警戒が必要だ。国家主権が安定し強力な場合,国家が内外の様々な機関や集団の利害を調整し一つの国家意思へと統合する。ところがネパールの場合,外国援助依存であり,しかも現在,まともな正統性をもつ国家機関は一つもない。だから,腐敗防止を目標とするにしても,国家権力の分割弱体化を結果するような方法では逆効果,実際には内外の諸機関・諸組織が,それぞれ目先の成果を狙って勝手なことをやり,かえって混乱を拡大させる。腐敗防止どころではない。

5.ネパールに適した腐敗防止政策
そもそも腐敗防止条約やCIAA法の目標は,「合理的な法の支配」の実現。ところが,そのような「合理的な法」は強力かつ安定した国家権力なくしては制定できず,またその公平な執行には強力で安定した「合理的な官僚制」と司法機関が不可欠である。

腐敗防止条約やCIAA法の目標とするような腐敗防止は,ネパールの伝統文化の重要部分を否定するものである。そのような大きな変革は,ネパールの人々自身が正統な国家権力を確立し,強力かつ安定した国家主権の下で自主的に取り組む以外に成功はおぼつかない。

同じ腐敗防止でも,近代以後の西洋先進諸国と近代以前の(側面の多い)ネパールとでは,方法が異なるはずだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/10/06 at 22:11

権力乱用調査委員会(7):文化と「腐敗」

ネパールにおける権力(職権)乱用撲滅運動は,他の場合と同様,国際社会,つまり欧米先進諸国の強力な働きかけを受け推進されてきた。内政干渉そのもの,欧米モデルにネパールを鋳直そうというわけだ。

たとえば,「ノルウェー開発協力庁(Norwegian Agency for Development Cooperation)」の報告書『ネパールにおける腐敗と反腐敗(Corruption and Anti-Corruption in Nepal)』(Prepared by Sarah Dix, 2011)を見ると,完全な上から目線,厳父が子を叱りつけ,行儀作法をしつけるといった感じだ。

槍玉に挙げられているのは,例のチャカリ(चाकरी)やアフノ・マンチェ(आफ्नो मान्छे),あるいはジャギール(जागिर)やビルタ(बिर्ता)などの慣習や伝統。これらが不正・腐敗の文化的源泉として容赦なく批判されている。(ジャギールやビルタは恩賞地。現在ではジャギールは「官職」やそれがらみの「権益」となっているという。)

私も,以前は,何回かチャカリをやったことがある。高官に面会するため公邸やシンハダーバーの執務室に出向き,何時間も何時間も,お出ましを待っていた。ほかにもたくさんの人が,同じようにして,待っていた。たいへんな時間の無駄だ。不合理。そして,そうして得られる高官からの恩恵は,当然,人間関係に依存するものとなり,非公式であり,不安定,不公平なものとなる。

あるいは,役所でも銀行の窓口などでも,何かをしてもらおうとすれば,有力者に口を利いてもらうか,何らかの贈り物を渡す必要があった。最近はかなり少なくなったが,それでもまだあちこちに見られる。これらも,不合理・不公平であり,著しく透明性に欠ける。

131005 ■伝統文化批判の古典:ビスタ『運命論と開発』

これらのネパールの伝統的慣行は,近代的な「官僚制」や「法の支配」の観点からすれば,不正,腐敗である。しかしながら,それは近代的な「官僚制」や「法の支配」を価値基準とするからであり,もしそれらを前提としなければ,不正・腐敗とは言えない。チャカリにせよアフノ・マンチェにせよ,ネパールの伝統文化であり,その限りでは十分な存在理由があるのである。

この歴史的な存在理由をもつ伝統文化を,欧米先進諸国は,近代的な「官僚制」や「法の支配」を基準として,不正・腐敗として一方的に断罪し,根底から廃棄させようとしてきた。ノルウェー開発協力庁報告書は,こう書いている――

「ネパールでは,非公式な統治諸慣行が蔓延し腐敗を存続させている。政治は実際には不文の『ゲームの規則』により行われている。」

この不文の「ゲームの規則」こそ,チャカリやアフノ・マンチェなどの伝統文化に他ならない。したがって,不正撲滅,腐敗防止は,必然的に伝統文化の否定に向かわざるを得ないわけだ。

ここに,ネパールにおける不正撲滅・腐敗防止政策の難しさがある。欧米先進諸国の支援の問題点は,近代的官僚制=法の支配(法による支配)をグローバル・スタンダードとして絶対視し,一方的にそれを押しつけるところにある。デリカシーに欠け,非文化的。伝統文化から見れば,「腐敗」は腐敗でなく,「不正」は不正ではない。

むろん,伝統や文化を理由に何でも許されるか,という難問は残る。一夫多妻や性器切除など。

ネパールにおける不正撲滅・腐敗防止は,こうした難問を頭に置きつつ,やはり基本は,一方的な押しつけではなく,ネパールの人々から求められたとき,側面から協力するということを原則とすべきであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/10/05 at 18:45

権力乱用調査委員会(6):CIAA法1991(ⅱ)

(3)公的機関と公職保有者
CIAA法で職権行使を規制されるのは,「公的機関」の「公職保有者」である。
                                                   
[1]公的機関(सार्वजनिक संस्थ)
CIAA法は,第2条(ङ)で「公的機関」を次のように定めている。
  政府が,完全に又は部分的に所有又は運営する会社,銀行又は委員会。政府が設立し,完全に又は部分的に政府の統制下にある委員会,組織,機関(प्रधिकरण),事業体(निगम),アカデミー,ボード(वोर्ड),センター,パリサド(परिषद)および他の同種の組織。
  国立の又は運営費のすべて若しくは一部を国家が負担する大学,キャンパス,学校,調査機関および他の学術・教育機関。
  「地方自治体法2055(1999)」により設立された地方機関。
  政府資金により運営される機関。
 ⅰ~ⅳの諸機関が完全に又は部分的に保有もしくは運営する機関。
  ネパール官報で「公的機関」と公布された他の機関。

[2]公職保有者(सार्वजनिक पद धारणा गरेको व्यक्ति)
「公職保有者」は,上記「公的機関」の職務権限を有する者,あるいは「公的機関」に勤務するすべての者(第2条(घ))。 ただし,暫定憲法第120条の規定により弾劾裁判によるとされる憲法設置機関の公職者,および裁判官,国軍軍人らは除外される。

(4)不正行為としての権力乱用
CIAA法の規制対象となるのは,以下のような「腐敗(भ्रष्टाचर)」や「不正行為(अनचित कार्य)」としての「権力乱用(अख्तियार)」である。CIAA法は,「不正行為」を次のように定義している(第2条(छ))。

[1]不正行為(अनचित कार्य)
  権限内のことをしない。権限外のことをする。
  定められた手続きを無視して決定や命令を出す。
  違法な目的のため権限行使。
  裁量権限の恣意的行使。
  他機関の職務の妨害。あるいは他機関に圧力をかけ不正行為をさせる。
  すべき業務をしない。あるいは,自分ですべき業務を他機関に回し責任を回避する。
  手放すべき職務権限を手放さない。
  部下や目下の者を,圧力や利益供与により,自分自身の利益のために使う。
  職権により得た免責,便宜,特権の乱用。

[2]不正行為の告発
CIAAへの不正行為の告発は,公共の利益の侵害の場合は,誰でも,いつでも行うことができる。また,不正行為による被害は,被害者が被害に気づいたときから35日以内にCIAAに訴えることができる(第8条)。

[3]不正行為の告発受理と処分
CIAAは,不正行為告発の受理後7日以内に告発者を召喚する(第8条)。

CIAAは,告発された不正行為について,後述のような方法で調査・捜査し,不正行為の事実を認定したなら,それに関わる機関に対し,不正行為者の処分を勧告できる。

CIAAの勧告を受けた機関は,不正行為者に対する処分を決め,3ヶ月以内にそれをCIAAに通知する。もし処分がなされないときは,CIAAが当該機関に対し,法律の定める処置をとる(第12条)。

(5)腐敗行為としての権力乱用
[1]腐敗(भ्रष्टाचर)
「腐敗」とは,腐敗防止関係諸法令で禁止されている行為をいう(第2条(ज))。上述の「不正行為」については,CIAAは関係機関への通知と処分勧告を行うのに対し,この「腐敗」については裁判所への告訴を行う。

厳格な司法判断を仰ぐという意味では「腐敗」の方が「不正行為」よりも悪質な「権力乱用」ということになるが,実際には,両者の区別は必ずしも判然とはしていないように思われる。

[2]腐敗の捜査と起訴
CIAAは,後述のような方法で腐敗を捜査する。もし捜査妨害があれば,妨害者を勾留できる。勾留は,裁判所の許可により,最大6ヶ月まで延長できる(第16条)。勾留された被疑者の職権は,停止される(第17条)。

CIAAは,捜査により腐敗の事実を確認した場合,検察又は他の該当機関をして被疑者を裁判所に起訴させることができる(第18条)。

(6)CIAAの調査・捜査権限
CIAAは,権力乱用に関する広範な調査・捜査権限を有する。第19条に規定されている主な権限は,以下の通り。
  あらゆる機関または個人のもつ証拠を提出させる。
  被疑者および関係者の取り調べ。
  出頭しない被疑者を警察に命令し逮捕させる。
  被疑者の職権を停止させる。
  被疑者が金融関係の職の場合,国内または国外の関係口座を凍結する。
  被疑者のパスポートの発行停止。
  被疑者の移動の禁止。
  CIAAの調査・捜査活動の妨害禁止。妨害は告訴し処罰させる。
  虚偽の訴えの処罰。
 x 政府のあらゆる機関への協力要請。
 xi 腐敗行為により得た財産の没収。
 xii 外国人容疑者の財産の凍結。
 xiii 公職保有者に,自分名義および家族名義の財産とその取得源を一覧表記させ,提出させる。提出は,就任後60日以内とし,以後は,毎会計年度末から60日以内とする。

(7)CIAAの権力乱用の可能性
CIAAは,暫定憲法第11編でも,このCIAA法でも,広範な権限を認められている。それは,逆に言えば,それだけ取り締まるべき不正行為や腐敗が蔓延しているということである。CIAA法の詳細な規定を見ると,ネパール社会の現状が透けて見えるといってもよいだろう。

しかし,その一方,これほど広範な捜査権限をごく少数の委員から構成されるCIAAに一任してよいのか,という疑問も禁じ得ない。事実,CIAAやその前身の「権力乱用防止委員会(CPAA)」は,国王や政党により,しばしば政敵攻撃に利用されてきた。

特に現在は要注意。議会はなく,内閣も最高裁長官と元官僚からなる暫定内閣にすぎない。当然,チェックは効きにくい。そうしたなか,CIAAは連日のように腐敗を告発し,「大物」を取り調べている。

庶民は,メディアでそうしたニュースを見聞きし,溜飲を下げているにちがいないが,特別機関による強権行使は,一般に権力乱用に走りやすく危険であることは,ネパールにおいても忘れられてはならないであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/27 at 15:42

カテゴリー: その他, 行政, 憲法

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権力乱用調査委員会(5):CIAA法1991(i)

4.権力乱用調査委員会法1991(CIAA法1991)
(1)現行CIAA法
権力乱用調査委員会は憲法設置機関だが,その詳細は暫定憲法第11編に基づき制定された「権力乱用調査委員会法1991(2048)」により規定されている。
 ●अख्तियार दुरुपयोग अनुसन्धान आयोग ऐन, २०४८
  Commission for the Investigation of Abuse of Authority Act, 1991(2048)

このCIAA法は,1990年憲法に依拠し1991年に制定され,2002年と2006年に改正され,現在にいたっている。2006年改正の現行法は,2006年4月の「人民運動Ⅱ」直後に改正されたものであり,いくつか条文の不備があるが,全体としてはよくできた法律である。

(2)CIAAの構成
CIAA委員長と委員は,暫定憲法の規定により,憲法会議の推薦に基づき,大統領が任命する。それ以外は,CIAAが政府または関係機関と協議し,必要な人員を任命する。

 ■CIAA組織図(CIAA・HPより)
130921

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/21 at 20:14

カテゴリー: 行政, 憲法

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権力乱用調査委員会(4):暫定憲法の規定

3.2007年暫定憲法の規定

暫定憲法 第11編 権力乱用調査委員会
第119条 権力乱用調査委員会
 (1)委員長および他の必要な数の委員から構成される権力乱用調査委員会を置く。委員長に加え他の委員が任命されるときは,委員長が権力乱用調査委員会の議長となる。
 (2)大統領*は,憲法会議**の推薦に基づき,委員長と他の委員を任命する
   * 第4次改正(2008年5月28日)以前は「首相」。
   ** 第149条 憲法会議(संबैधानिक परिषद, Constitutional Council)参照。
 (3)第7項(a)の但し書きにより,委員長と他の委員の任期は,任命から6年とする。
  ただし,
  (a) 委員長または委員は,任期満了以前に65歳に達したときは,退任する,
  (b)委員長または委員は,最高裁判所の裁判官の解任の場合と同じ理由により,また同じ方法で解任される。
 (4)委員長または委員の職は,次の場合は空席と見なされる。
  (a)辞表を大統領*に提出したとき,
    * 第4次改正(2008年5月28日)以前は「首相」。
  (b)第3項により任期満了となるか,または解任されたとき,
  (c)死亡したとき。
 (5)以下の条件を満たす者を除き,何人も委員長または委員に任命される資格を有しない。
  (a)ネパール政府の承認した大学の学士号所有,
  (b)任命直前において政党の党員ではない,
  (c)会計,税務,エンジニアリング,法律,開発または調査の分野での20年以上の経験,
  (d)45歳以上,および
  (e)道徳的に高潔。
 (6)委員長と委員の報酬および他の勤務条件は,法律で定める。委員長と委員の報酬および他の勤務条件は,在職中は不利となるように変更されてはならない。
 (7)委員長または委員にひとたび任命された者は,他の公職に任命される資格を有しない。
  ただし,
  (a)本項の規定は,権力乱用調査委員会の委員の委員長への任命を妨げるものではないし,また委員が委員長に任命されるときは,その任期は委員の任期も含めて算定される。
  (b)本項の規定は,政治的性格をもつ職,または何らかの問題に関する研究,調査もしくは探究を任務とする職,または何らかの問題に関する研究もしくは調査に基づき助言,意見もしくは勧告を提出することを任務とする職への任命を妨げるものではない。

第120条 権力乱用調査委員会の機能,義務および権限
 (1)権力乱用調査委員会は,法律に従い,公職者の不正行為もしくは汚職を調査・取り調べること,または調査・取り調べさせることができる。
 ただし,本項はこの憲法自体が当該行為に関する別の規定をもつ場合,および他の法律が別に特別規定をもつ場合には,いかなる公職者にも適用されない。
 (2)不適切行為を理由に弾劾決議により解任された憲法設置機関の公職者,同様の理由により司法委員会により解任された裁判官,または軍隊法により訴追され解任された者に対しては,法律に従い,調査・取り調べをすることができる。
 (3)権力乱用調査委員会が第1項により調査・取り調べを行い,公職者が法律により不適切と規定されている行為を行い権力乱用をしたと認定したときは,委員会はその者に訓戒を与えるか,または関係機関に文書をもって機関としての処置もしくは法律に定める他の必要な処置をとることを勧告することができる。
 (4)権力乱用調査委員会が第1項により調査・取り調べを行い,公職者が法律で汚職と定める行為をした事実を認定したときは,委員会は,その者またはそれにかかわった他の者に対する訴訟を法律により管轄権をもつ裁判所に提訴するか,または提訴させることができる。
 (5)権力乱用調査委員会が第1項により調査・取り調べを行い,公職者の職務が他の機関の管轄であることが判明したときは,委員会は文書をもって当該機関に必要な処置をとることを勧告することができる。
 (6)権力乱用調査委員会の他の機能,義務および手続きは,この憲法に従い,法律で定める。
 (7)権力乱用調査委員会は,調査,捜査または提訴に関する権限および義務のいずれをも委員長またはネパール政府のいずれかの公職者に委任し,一定の条件の下に,これを遂行させることができる。

第121条 年次報告書
 (1)権力乱用調査委員会は,この憲法に従い遂行した任務に関する年次報告書を大統領*に提出し,大統領は首相をして**この報告書を立法議会に提出せしめる。
   * 第4次改正(2008年5月28日)以前は,「首相」。
   ** 第4次改正(2008年5月28日)以前は,「首相は」。
 (2)第1項により提出される年次報告書には,以下のことを必ず記載する。すなわち,当該年度内に権力乱用調査委員会に提出された訴えの総数,捜査完了の件数,法律により管轄権のある裁判所に起訴した事件および保留中の事件数,警告を発するか,または文書をもって機関としての処置もしくは他の必要な処置を執ることを勧告した事件,腐敗防止の成果,および今後の改善のための勧告。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/10 at 09:24

権力乱用調査委員会(3):強権行使の二面性

2.CIAAの強権行使の二面性
(1)広範な調査管轄権
CIAAは,司法と軍を除く国家統治の広範な領域を調査対象としている。前述のように,この数ヶ月だけでもCIAA捜査は各方面に及んでいるが,それに留まらず,今後さらに捜査を拡大していく方針だという。捜査予定の主な部署は,以下の通り(機関名は仮訳)。
 ・土地改革省 ・税務署 ・郡庁 ・交通局 ・武装警察 ・警察 ・ネパールテレコム ・エネルギー省 ・技術職業教育委員会(CTEVT) ・内務省 ・負債裁定所 ・医療委員会 ・工業技術委員会 ・都市開発事務所 ・灌漑省 ・農業省 ・カトマンズ盆地飲料水会社 ・トリブバン国際空港事務所 ・民間航空局 ・農業開発委員会 ・BP.コイララ保健機関,BP癌病院(チトワン) ・ノーベル医科大学 ・トリブバン大学 ・プルバンチャル大学 

130909■CIAA調査対象者(6月末,Himalayan, Jun.30)
(参照)ekantipur, Jun28; Anticorruption Nepal, Jul.1; Himalayan, Jun.30 & Aug.23; Republica, Aug.24; Insight Nepal, Aug.29.

(2)喝采と批判
CIAAの権力乱用摘発は,統治清潔度139位(176国中,2013年度)のネパールにあっては,庶民をスカッとさせるものであり,拍手喝采を浴びている。

CIAAは,この10年ほどめぼしい活動をしてこなかった。たとえ捜査し起訴しても,たとえば2006年2月~2008年11月の36件のうち35件がそうであったように,あれこれ不透明な理由で,その多くが特別法廷において却下され,無罪とされてしまっていた(Karobar, Jul.3)。

ところが,2013年5月,Lok Man Singh Karkiが委員長に就任すると,CIAAは積極的に活動するようになった。カルキ委員長は,就任後すぐ,役得のあるとされる職をまず捜査ターゲットとすると述べ,「脱税や横流しを助長するような役人には一切容赦しない」と宣言した(Insight Nepal, Aug.29)。

このようなカルキ委員長の断固たる態度や,その下でのCIAAの積極的な権力乱用調査活動は,各メディアで賞賛され,たとえばカンティプル紙には「砂漠の慈雨だ」といった声が寄せられた。また日本在住のシャンブ・タパさんも“権力乱用で蓄財した人びとを直ちに捜査し拘置すべきだ”とフェイスブックに書いているという(Khabar,Aug.25)。

カバラ記事はこう結ばれている。「社会的慣習や文化を口実に権力乱用を続けてきた人びとが,CIAAの動きを警戒するようになった。あらゆる部署の腐敗をCIAAが監視し続けてくれるなら,法の支配は確立されるだろう,と人民は期待している」(Khabar,Aug.25)。

しかし,その一方,CIAAの強権行使拡大には批判もある。インサイトネパール記事「CIAAの動きは税務署に風波を立てている」(8月29日)によれば,最近,各役所で権限と役得の多い職からそうでない職への移動希望が続出している。ある職員は,カルキCIAA委員長就任以前に,コネを使い,やっとの思いで役得のある収税関係職に就いたが,事情が一転,またコネを使い,今度は役得のない下位の職への移動を必死になって働きかけているという。このような職員が他にもたくさんいる。CIAAカルキ委員長の腐敗一掃キャンペーンが,役所にパニックをもたらし,役人たちを,仕事そっちのけで,一時避難へと駆り立てているのだ。

このような状態だから,税務調査に当たっても,厳しく調べることができない。もし厳しくすると,恨みを買い,CIAAにあることないこと密告されるからだ。CIAAの活動が税務署員を萎縮させ,結果として,税収の減少となっている(Insight Nepal, Aug.29)。このような士気の減退は,他の役所にも見られる。

また,これまでのCIAAの権力乱用調査は,多くの場合,有力政治家たちには及んでいない。むしろ,CIAAは政党や政治家の争いに利用されがちであった。

結局,これは権力乱用をチェックする権力乱用委員会の権力乱用を,誰が,どのような方法でチェックするか,という問題に帰着する。これは,近代的な「法の支配」や合理的な官僚制の未成熟なネパールにとっては,非常に難しい課題であるといってよいだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/09 at 09:22