ネパール評論

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ネパール国際養子、または子供売買?

1.アメリカ政府のネパール養子禁止
ekantipur(18 Feb)が、米国のネパール養子禁止継続を伝えている。記事によれば、米政府は、「2010年2月ハーグ国際養子条約ネパール調査団報告書」に基づき、2010年8月、ネパールからの子供養子を禁止した。正確な実態は不明だが、ネパール女性子供社会福祉省(MoWCSW)によると、2000年以降の欧米諸国へのネパールからの養子は2400人だという。米国への養子手続き中は、現在、80人。これは表に現れた数字であり、実際にははるかに多いと思われる。

国際養子縁組は、養子・養父母とも幸せなケースもむろんたくさんあるだろうが、用心しないと、子供売買(人身売買)となりかねない。特にネパールと欧米のように、目もくらむような経済格差がある国家間では、国際養子は、極論すれば、ペットショップで子犬を品定めし買い求めるのと大差ないことになりかねない。この問題については、以前にも何回か言及した。

(参照) ネパール養子,サンタにもらわれアメリカへ

2.ハーグ国際養子条約
米国政府がネパール養子禁止の根拠にしているのが、次の報告書である。

Hague Conference on Private International Law, “Intercountry Adoption Technical Assistance Programme, Report of Mission to Nepal 23-27 November 2009”, 4 Feb. 2010

これは、ハーグ国際私法会議の「ネパール国際養子調査団報告書」である。ネパールは、2009年4月24日、「ハーグ国際養子条約」に署名しており(批准未完)、これにより実地調査を受けることになったのである。

3.国際養子の原則
「ハーグ国際養子条約」は、養子縁組の条件を明確に定めている。

(1)子供本位の原則:子供本人の利益が第一。
(2)自国養育の原則:国内養育の手だてを尽くすこと。
(3)公認機関の原則:有資格の公認機関による養子仲介。特に金銭の支払いは透明化。

いずれも、もっともな原則であり、もしこれらが守られなければ、いくら善意であろうと、子供売買となる。たとえば、ヒンドゥー教徒の見栄えのよい子供をもらい受け、アメリカで善良なクリスチャンに育て上げ、宣教に利用するといったことが、もし万が一、行われでもしたら、それは「ハーグ国際養子条約」違反である。

4.ネパール国際養子への警告
では、ネパールの子供の国際養子縁組はどうか? ネパール調査団報告によれば、ネパール政府は調査に非協力的であったばかりか、ネパール養子の現状も「ハーグ国際養子条約」の原則からかけ離れたものであった。

(1)国際養子縁組規則の欠陥
ネパールには、「外国人によるネパール子供養子縁組の承認にかかる要件と手続き」(2008)という規則がある。しかし、このネパール国際養子縁組規則は欠陥だらけだという。

1)子供本位の原則なし
2)養子適格の判断基準・適正手続きの規定なし
3)自国養育の原則なし
4)生みの親への支援なし
5)養育専門家の関与なし

これは手厳しい。全面否定だ。

(2)養子適格審査書類の偽造
書類偽造は常態化しているという。恐ろしい。

(3)金銭授受の不透明さ
養子の見返りに金銭がネパール政府や関係機関に支払われているが、その授受が不透明。

養子縁組希望者は、年1万ドル(のち5千ドルに値下げ)の登録料を仲介機関に支払い、ここからカトマンズの孤児養育施設に報酬が支払われる。ぼろ儲けできるので、仲介機関も孤児養育施設も増える一方。子供本人のための他の養育施設は無視されている。とにかく国際養子は儲かるらしい。恐ろしい。

(4)子供養育のための他の政策なし。

(5)子供の選別・紹介
健康で適齢の子供だけが選別され、カトマンズの養育施設に送られ、養子引き受け希望外国人に紹介される。不健康な子供、大きくなりすぎた子供は、地元に放置されている。

つまり、もっとも養育が必要な子供を放置し、見栄えのよい養子縁組適齢の子供だけを選別し、外国人にとって便利なカトマンズの養育施設に送り込む。恐ろしや。

以上は、権威あるハーグ国際私法会議ネパール調査団の報告書の要点である。多少分かりやすく表現し直したが、根も葉もない捏造ではない。

5.アメリカ国務省の警告
この調査団報告書に基づき、アメリカ国務省・大使館が、信じられないほどの厳しい言葉で、ネパール養子縁組に対し、警告を発している。

US Department of State, “Caution about Pursuing Adoption in Nepal,” May 26, 2010

「米国務省は、養子縁組希望者がネパールから養子を取らないよう強く警告する。ネパールの養子制度は信用できず、子供に関する公文書も信用できないからだ。また[米国の]養子仲介機関に対しても、・・・・ネパール国際養子縁組みに関与しないよう強く警告する。現行制度では、反倫理的行為あるいは違法行為があり得るからだ。」

これは厳しい。なぜか? おそらく、アメリカ人がこれまで現実に、そうした反倫理的ないし違法な国際養子縁組をやってきたからだろう。米国務省はこう述べている。

「カトマンズの米大使館は、養子に出された子供が実際には孤児ではなく、実の両親が必死になってその子供を捜しているケースがあったことを把握している。」

このケースの養父母の国籍は明示されていないが、米国務省が言っているのだから、おそらくアメリカ人夫婦であろう。さらにこんな警告さえ出している。

「(ネパール女性子供社会福祉省に養子申請している)両親には、希望国の変更を強く勧告する。」

アメリカはエゲツナイ国であり、ネパール人養子をまるでペットのように得意げにネット公開している養父母さえいる。しかし、だからこそ、アメリカは人権には敏感であり、人権のためには戦争さえ躊躇しない。ネパール国際養子に対するアメリカ政府の怒りは本物である。

6.日本の人権感覚?
では、日本はどうか? ネパールから養子を受け入れてはいないのか? 日本は、現代の奴隷制とさえ呼ばれている外国人研修生をネパールからも受け入れ始めた。人権感覚は、欧米よりも格段に低い。ネパールからの子供輸入はやっていないのか?

実は、日本は、「ハーグ国際養子条約」を批准していない。日本の子供(特に少女出産の子供など)の海外輸出を促進するためか? あるいは国際結婚破綻後の日本人妻の子供を強制送還から守るためか? そこはよく分からないが、ここでの問題は、むしろ日本が加害者になってはいないのか、ということ。

「ハーグ条約ネパール調査団報告書」付属の「口上書(Note Verbale)」はドイツ(代表執筆)、ベルギー、デンマーク、フランス、イタリア、ノルウェー、スイス、イギリスが作成し、オーストラリア、カナダ、アメリカが支持した。

日本は、最大のネパール支援国の一つなのに、カヤの外だ。人権、平和、民主主義が問題となると、いつもこの調子。こんな外交でよいのだろうか?

(参照)

外国人研修生の過労死,朝日社説が告発 ネパール人研修労働者受入 外国人研修制度の欺瞞性:報道ステーション 研修実習生,長崎でも提訴 外国人研修労働の違法性認定:熊本地裁 ネパール研修生仲介業者の大宣伝開始 ネパール人研修労働者の大量採用:日ネ関係は新時代へ 拝啓 マオイスト労相殿: これが研修奴隷だ! 対日ネパール人輸出,あるいは新三角貿易 外国人債務研修・実習制度の実態 信仰の自由なき研修実習生 外国人研修実習制は奴隷制:国連調査報告 韓国語検定に受検者殺到

(C)谷川昌幸

Written by Tanigawa

2011/02/21 at 11:08

外国人研修実習制は奴隷制:国連調査報告

谷川昌幸(C)
インド実地調査の疲れがどっと出てブログを見るのもおっくうだったが,今朝の新聞(朝日ほか)を見ると,国連特別報告者が外国人研修制を「奴隷制」と批判したとの記事が出ていたので,ネットで確かめてみた。
 
国連広報センターによれば,調査したのは「国連移住者の人権に関する特別報告者」ホルス・ブスタマンテ氏。「移住者の人権に関する国連専門家,訪日調査を終了」(No.1548, 3月31日)というタイトルで,公表されている。
 
このブスタマンテ報告によれば,日本には「人種主義,差別や搾取が存在し,司法機関や警察に移住者の権利を無視する傾向がある」。そして――
 
「研修・技能実習制度は、往々にして研修生・技能実習生の心身の健康、身体的尊厳、表現・移動の自由などの権利侵害となるような条件の下、搾取的で安価な労働力を供給し、奴隷的状態にまで発展している場合さえある。このような制度を廃止し、雇用制度に変更すべきである。」
 
“The industrial trainees and technical interns programme often fuels demand for exploitative cheap labour under conditions that constitute violations of the right to physical and mental health, physical integrity, freedom of expression and movement of foreign trainees and interns, and that in some cases may well amount to slavery. This program should be discontinued and replaced by an employment programme.”
 
これは日本にとって恥ずべきことだ。外国人研修実習制度は,ときには「奴隷制slavery」となっている,と国連機関により公式に認定され,「廃止せよ」と勧告されているのだ。
 
ネパール人研修実習生の募集がどうしてもやめられないのなら,少なくとも,仲介業者にはこのような国連見解の説明を義務づけるべきであろう。実態を知らせた上での募集なら,知らせないままの募集より,まだしも「公平」といえるからである。

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【参 照】(2015-2-18追加)

曽野綾子の透明な歳月の光  労働力不足と移民 「適度な距離」保ち受け入れを
最近の「イスラム国」の問題など見ていると、つくづく他民族の心情や文化を理解するのはむずかしい、と思う。一方で若い世代の人口比率が減るばかりの日本では、労働力の補充のためにも、労働移民を認めねばならないという立場に追い込まれている。・・・・
しかし同時に、移民としての法的身分は厳重に守るように制度を作らねばならない。・・・・
ここまで書いてきたこと矛盾するようだが、外国人を理解するために、居住を共にするということは至難の業だ。
もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった。・・・・
爾来、私は言っている。 「人間は事業も研究も運動も何もかも一緒にやれる。しかし居住だけは別にした方がいい」

(産経新聞2015年2月11日付コラム要旨抜粋)

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産経新聞 曽野綾子さんのコラムへの抗議文

曽野綾子様  産経新聞社常務取締役 飯塚浩彦様

『産経新聞』2015年2月11日付朝刊7面に掲載された、曽野綾子氏のコラム「労働力不足と移民」は、南アフリカのアパルトヘイト問題や、日本社会における多様なルーツをもつ人々の共生に関心を寄せてきた私たちにとって、看過できない内容を含んでおり、著者の曽野綾子氏およびコラムを掲載した産経新聞社に対して、ここに強く抗議いたします。
曽野氏はコラムのなかで、高齢者介護を担う労働力不足を緩和するための移民労働者受入れについて述べるなかで、「外国人を理解するために、居住を共にするということは至難の業」であり、「もう20~30年も前に南アフリカ共和国の実情を知って以来、私は、居住区だけは、白人、アジア人、黒人というふうに分けて住む方がいい、と思うようになった」との持論を展開しています。
「アパルトヘイト」は現地の言葉で「隔離」を意味し、人種ごとに居住区を分けることがすべてのアパルトヘイト政策の根幹にありました。また、アパルトヘイトは、特権をもつ一部の集団が、権利を剥奪された他の集団を、必要なぶんだけ労働力として利用しつつ、居住区は別に指定して自分たちの生活空間から排除するという、労働力管理システムでもありました。移民労働者の導入にからめて「居住区を分ける」ことを提案する曽野氏の主張は、アパルトヘイトの労働力管理システムと同じです。国際社会から「人道に対する罪」と強く非難されてきたアパルトヘイトを擁護し、さらにそれを日本でも導入せよとの曽野氏の主張は言語道断であり、強く抗議いたします。このような考え方は国際社会の一員としても恥ずべきものです。
おりしも、このコラムが掲載された2015年2月11日は、故ネルソン・マンデラ氏が釈放されて、ちょうど25年目にあたる日でした。その記念すべき日に、南アフリカの人びとが命をかけて勝ち取ったアパルトヘイトの終焉と人種差別のない社会の価値を否定するような文章が社会の公器たる新聞紙上に掲載されたことを、私たちはとても残念に思います。
曽野綾子氏と産経新聞社には、当該コラムの撤回と、南アフリカの人々への謝罪を求めます。また、このような内容のコラムが掲載されるに至った経緯、および人権や人種差別問題に関する見解を明らかにすることを求めます。以上について、2015年2月28日までに文書でアフリカ日本協議会(AJF)へお知らせくださるようお願いいたします。また、貴社のご対応内容については他の市民団体、在日南アフリカ共和国大使館、国際機関、報道機関などへ公開するつもりであることを申し添えます。

2015年2月13日  (特活)アフリカ日本協議会 代表理事 津山直子

The Letter to Sankei-shinbun and Ms. Sono Ayako in English
13 Febrary 2013

Ms. Ayako Sono, the author  Mr. Hirohiko Iizuka, Managing Direcor, SANKEI SHIMBUN CO.,LTD

Ms. Ayako Sono’s column which appeared on the Sankei Shimbun morning edition on 11 February 2015, has inappropriate contents that cannot be overlooked. We, as an NGO which has had concerns about apartheid in South Africa and aspiration for harmonious coexistence of people with various roots within Japanese society, strongly protest against the author of the column as well as against the Sankei Shimbun for running the article.

In the column Ms. Sono, discussed the need to introduce immigrant workers who would provide nursing care for the elderly in Japan and wrote that she felt it extremely difficult to live with foreigners. She also wrote “Since learning about the situation in South Africa 20 or 30 years ago, I’ve come to think that whites, Asians, and blacks should live separately.” (Translation by Japan Times, “Author Sono Calls for Racial Segregation in Op-Ed Piece,” 12 February 2015)

“Apartheid” means “separation” in the local language of South Africans. Separating residential areas according to race was the foundation of apartheid policy. Apartheid was also a labor force management system, in which the privileged race deprived other races of their rights by using them as convenient labor. At the same time this privileged race did not let these races remain in their own areas. Arguing for a separate residential area for immigrant workers, as Ms. Sono does, is synonymous with calling for an apartheid system in Japan. It is abominable to defend apartheid, which has been strongly condemned by the international community as a “crime against humanity”, and to argue for introducing a similar system in Japan. We strongly object to this opinion. It is a shameful act to express such views as a member of the world community.

Coincidentally, the day the column run, 11 February 2015, was a 25th anniversary of the late Mr. Nelson Mandela’s release from the prison. It was very disappointing that we had to find, on this memorable day, a column which negates the significance that South African people fought, risking their lives, for the end of apartheid and the realization of society without racial discrimination.

We demand Ms. Sono and the Sankei Shimbun retract this column and apologize to the people of South Africa. We also demand an explanation regarding the process in which the column went to press, and your view on human rights and racism. Please send us your written response to Africa Japan Forum (AJF) by 28 February 2015. Please be advised that we intend to inform other NGOs, the South African Embassy, international organizations, and various media companies of any response we receive from you.

Tsuyama Naoko  President  Africa Japan Forum

(http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/archives/sonoayako-sankei20150211.html)

Written by Tanigawa

2010/04/01 at 17:58

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