ネパール評論 Nepal Review

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改宗勧誘・宗教感情棄損を禁止する改正刑法,成立

バンダリ大統領が10月16日,改宗勧誘や宗教感情棄損を禁止する規定を含む「改正刑法案」に署名し,同法は成立した。16日は,皮肉にもネパールが国連人権理事国に選出された,まさにその日である。成立した改正刑法第9部第158条と第160条については,すでに紹介したので,それをご覧ください。参照:宣教投獄5年のおそれ,改正刑法「宗教の自由」とキリスト教:ネパール憲法の改宗勧誘禁止規定について

この刑法改正に最も強く反対してきたのは,ネパールで勢力を急拡大しつつあるキリスト教会である。たとえば,「世界キリスト者連帯(CSW)」のM・トマス委員長はこう批判している。「ネパール政府に対し,この不当な法[改正刑法]を廃止し憲法第26(3)条を改正することを要請する。それらは,宗教・信条の自由への権利を制限するものであり,ネパールの国際法遵守の立場を損なうものでもある。人権理事国になったネパールにとって,これは驚くべき矛盾である。」(*2)

また,世界の人権諸団体や人権活動家らも,この刑法改正には強く反対してきた。立法議会が改正刑法案を可決したのは8月8日だが,その直後の8月9日から12日まで,世界70か国以上の議会議員参加の「宗教・信条の自由を求める議員国際パネル(IPPFORB)」が,ネパール支部の招きに応じ,代表団をネパールに送り込んだ。彼らは,政府幹部や議員,市民団体代表らと会い,改正刑法案大統領署名への反対や,憲法第26(3)条の改正を訴えたという。(*4)

しかし,こうした内外の強い反対にもかかわらず,改正刑法は10月16日成立してしまった。この法律は,禁止する「改宗勧誘」や「宗教感情棄損」の定義(構成要件)があいまいであり,拡大解釈されやすい。運用次第では,ヒンドゥー教・仏教中心の伝統宗教以外の宗教はネパールではほとんど活動できなくなる恐れがある。

この改正刑法成立は,中長期的にみると,ネパールにとって,年末の国会/州会選挙よりも大きな意味を持つことになるかもしれない。


 ■IPPFORB FB(Oct 18) / News(Oct 25)

*1 “BILL CRIMINALISES RELIGIOUS CONVERSION,” Christian Solidarity Worldwide, 22 Aug 2017
*2 “Nepal’s President Signs Law Criminalizing Evangelism, Christian Solidarity Worldwide Warns,” Spotlight Nepal, 2017/10/22
*3 「ネパールで『改宗禁止法』成立,大統領が署名 キリスト教団体が懸念」,Christian Today(日本語版),2017年10月29日
*4 LOKMANI DHAKAL, DAVID ANDERSON, “Not secular: The government seems to have forgotten that it is bound to protect an individual’s rights to have a religion,” Kathmandu Post, Oct 29, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/10/31 at 20:13

カテゴリー: 宗教, 憲法

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「宗教の自由」とキリスト教:ネパール憲法の改宗勧誘禁止規定について

「自由」は一般に,格差のあるところでは「強者の権利」となりがちである。格差を無視し自由を形式的に認めると,経済的,政治的,知的,身体的等々において優位にある者が,自由を名目として,劣位にある者を事実上一方的に支配することが許されてしまう。形式的自由は「強者の権利」を正当化する。最も基本的な自由の一つである「宗教の自由」もその例外ではない。このことについては幾度か議論してきたが,重要な問題であるので,ここでもう一度,ネパールを例にとり,「宗教の自由」について考えてみたい。
 【参照】世俗国家 キリスト教 改宗

 ■Church in Nepal HP

1.ネパール憲法の「世俗国家」規定と「宗教の自由」
現行2015年ネパール憲法は,「宗教の自由」について次のように規定している。

 ・・・・・<以下引用>・・・・・
第26条 宗教の自由への権利
(1)宗教的信仰を持つ何人も,自分の信じる宗教を告白し,実践し,そして守る権利をもつ。
(3)何人も,本条規定の権利の行使において,公共の健康・良俗・道徳に反する行為,公共の平和を損なう行為,他者を別の宗教に改宗させる行為,または他者の宗教を損なう行為を,自ら行うことも他の人に行わせることも為してはならない。そのような行為は法により処罰される。
 ・・・・・<以上引用>・・・・・

宗教の自由は最も基本的な人権の一つだが,無制限ではなく,他者の正当な権利の侵害までも許容するものではない。しかし,たとえそうだとしても,この26条3項による宗教の自由の制限は,あまりにも広範であり,解釈次第でどのような宗教活動であっても禁止されてしまう恐れがある。

とりわけ問題なのが,改宗勧誘の禁止である。直接的あるいは間接的な改宗勧誘が禁止されてしまえば,自発的な改宗の機会も少なくなるので,これは改宗の全面禁止に近い規定とみてよいであろう。

それでは,改宗を禁止ないし大幅制限したうえでの「宗教の自由」とは何か? それは,既存の諸宗教を前提とし,それらを信仰する自由にすぎないのではではないか? そのことを,もって回った表現ながらも,具体的に規定しているのが,憲法4条の世俗国家規定である。

 ・・・・・<以下引用>・・・・・
第4条 ネパール国家
(1)ネパールは,・・・・世俗的な(धर्मनिरपेक्ष)連邦民主共和国である。
 解釈(स्पष्तीकरण, explanation):本条でいう「世俗的」は,古くから伝えられてきた宗教や文化を含む,宗教と文化の自由を意味する。
 ・・・・・<以上引用>・・・・・

この第4条を第26条と合わせ読むと,ネパール国家の根本規定の一つたる「世俗的」は,改宗が大幅規制されているのだから,結局,「古くから伝えられてきた宗教や文化の自由」にほかならないことがわかる。世俗国家たるネパールは,古来の宗教や文化の自由を保障しなければならない。では,その古来の宗教や文化とは何か?

2011年人口調査によれば,ネパールの宗教別人口は,ヒンドゥー教81.3%,仏教9%,イスラム教4.4%,キリスト教(多数がプロテスタント)1.4%,その他4.9%。ネパール憲法は,「世俗的」を,事実上,古来の宗教文化と規定することにより,このヒンドゥー教(およびそれと習合した仏教)を中心とする既存の宗教社会の保守を義務づけているのである。

3.キリスト教徒急増と改宗勧誘禁止規定
ネパールが,外国とりわけ欧米近代諸国家との接触があまりない伝統的閉鎖社会であり続けたなら,ここまで強引な改宗禁止規定を憲法に置く必要はなかったであろう。国民のほとんどがヒンドゥー教とそれと習合した仏教を信じており,たとえ「宗教の自由」を認めても,彼らは圧倒的な多数派であり,「強者」として政治的,社会的,文化的なあらゆる権益を守ることができたに違いない。

ところが,ネパールは,1990年と2006年の2回の人民運動(民主化運動)の成功により,近現代民主主義を受け入れ,本格的に国を開き,欧米諸国と直に向き合うことになった。その結果,ヒンドゥー教は,ネパール国内では依然として多数派強者ではあっても,世界社会では必ずしもそうとは言えなくなってしまった。

この新たな状況下で,ネパール国内の他の宗教が,国外の何らかの有力勢力と結びつき支援を受け始めるなら,ネパール・ヒンドゥー教の優位は,経済的にも国際世論的にもたちまち瓦解する。そうなれば,「宗教の自由」は,外国勢力の支援を受け,その意味で新たに強者となった他の宗教の「強者の権利」へと一変してしまうのである。

民主化後のネパールにおいて,この「宗教の自由」を最も有効に使い,急速に勢力を拡大してきたのが,キリスト教である。キリスト教徒は,2011年人口調査で全人口の1.4%だが,実際には3~7%,あるいはそれ以上ともいわれている。1991年が0.2%,2001年でも0.5%だから,政府公式調査でも大幅増,実数はそれを大きく上回る。(日本は1%[2012]。)近年のネパールは,キリスト教徒増加率が世界で最も高い国だといわれている。

では,ネパールで,なぜいまキリスト教徒が急増しているのか? ヒンドゥー教の側は,ネパールのキリスト教会が直接的あるいは間接的に先進諸国の援助を受け,ネパールの人々に金銭や物品,教育や医療・福祉の機会などを提供し,キリスト教に改宗させているからだと非難している。先進諸国の教会などの支援を受けているネパールの教会は,経済,科学技術,教育,医療,福祉など宗教以外の多くの分野において優位となり,この強者の立場を利用してネパール庶民をキリスト教に改宗させているというのである。

ネパールのヒンドゥー教勢力が,2015年憲法に強引に世俗国家規定を置き,改宗勧誘禁止を書き込んだ最大の理由は,強者として「宗教の自由」を利用し信者を増やしていると彼らがみなすキリスト教会の動きを阻止することにあったとみてよいであろう。

 
 ■Churches Network Nepal HP / Nepal Church Com HP 

4.アメリカ政府によるキリスト教会支援
キリスト教会が「宗教の自由」を強者として利用し乱用しているというのは,ヒンドゥー教の側の言い分だが,この非難には全く根拠がないわけではない。たとえば,アメリカ国務省の「宗教の自由レポート2016年」をみると,アメリカ政府がネパールにおけるキリスト教会の自由のために大使館をあげて努力していることがよくわかる。
 * “International Religious Freedom Report 2016: Nepal,” US Department of State

「宗教の自由レポート2016年」は,まず,ネパールにおける「宗教の自由」の現状を批判的に要約・紹介する。
 ・2015年憲法が「世俗主義」を「古来の宗教と文化の保護」と規定していること。
 ・2015年憲法が改宗勧誘を禁止していること。
 ・仏教僧院を除き,キリスト教会などの宗教組織はNGOとして登録し,規約,役員,会計,事業活動などの詳細な報告を義務づけられていること。
 ・キリスト教系学校は公費補助を受けられないこと。
 ・ドラカ郡でキリスト教徒8人が改宗勧誘容疑で逮捕された事件(2016年8月)。
 ・ジャパ郡で外国人キリスト教徒が改宗勧誘容疑で逮捕され,国外退去処分とされた事件(2016年8月)。
 ・クリスマスが国民祭日から外されたこと(2016年3月)。
 ・キリスト教徒は墓地の購入や利用が困難なこと。
 ・様々なメディアが,キリスト教会は騙したり物品を配ったりして改宗させ,また教会行事と称して改宗勧誘を行っているなどと,さかんに報道していること。
 ・牛(オスとメス)殺害が重罰をもって禁止され,パンチタール郡では牛殺害容疑で4人が逮捕されたこと。
 ・政府が郡開発委員会に対し,改宗を勧誘する団体のNGO登録は認めてはならない,とする通達を出したこと。
 ・キリスト教に改宗したが,秘密にしている者が多数いること。

アメリカ国務省レポートは,ネパールにおける「宗教の自由」の現状につき以上のような指摘をしたうえで,「米国政府の政策」を次のように報告している。少々長く重複もあるが,要所を抜き出し紹介する。

 ・・・・・<以下引用>・・・・
ドラカ郡で改宗勧誘容疑により8人が逮捕され裁判にかけられたとき,米大使館員はネパール政府高官と会い,自分の宗教を自由に実践する人民の権利を尊重するよう要請した。米大使館員は,宗教関係図書配布容疑でのキリスト教徒の逮捕が,現行の憲法や刑法の規定が宗教の自由を大幅に制限する結果になることを実証したことを特に強調した。

2016年を通して,米大使と大使館員は,訪ネ米政府高官らとともに,ネパール政府高官や政治指導者らに対し,憲法や改正刑法案の規定が布教や改宗を含む宗教の自由を制限することにつき,憂慮の念を伝えた。米大使と大使館員は,政治指導者や政府幹部に対し,刑法改正最終案には処罰を心配せず自分の宗教を選択する権利をはじめとする宗教の自由を盛り込むことを要望した。米大使館員は,主要政党幹部とも会い,この要望を繰り返し伝えた。11月には,米国務省の近東および南・中央アジア宗教的少数派問題特別顧問がネパール政府幹部や議員らと会い,宗教的寛容を促進し,政府には改宗を犯罪としないよう働きかけることを要望した。

米国特別顧問は,宗教指導者らとも会い,宗教的少数派の宗教的諸権利に対する規制につき意見を交換した。米大使館員は,キリスト教諸団体と会い,改宗禁止の強行やヒンドゥー教政治家たちによるキリスト教社会への非難攻撃につき,意見を交換した。また大使館員は,カトマンズをはじめ国中の少数派宗教の地域代表らと定期的に会い,キリスト教徒が改宗を強制しているという糾弾につき,またキリスト教徒やイスラム教徒がそれぞれの宗教に基づく埋葬のための土地の取得に困っていることにつき,意見を交換した。大使館員は,ヒンドゥー教,仏教,イスラム教およびキリスト教の指導者らと会い,刑法改正案や改宗禁止の憲法規定の施行につき,意見を交換した。
 ・・・・・<以上引用>・・・・・

このように,米国は,ネパールに「宗教の自由」を宣べ伝えることに何の躊躇もない。「自由」の伝道は,新大陸アメリカ国家の「明白な使命(Manifesto Destiny)」なのだ。世界最強のアメリカには,格差の自覚なき「自由」は“強者の,強者による,強者のための権利”に堕してしまうことへの恐れはまるでない。

なお,蛇足ながら,ネパールのキリスト教徒が,ネパール国内に限定すれば少数派であり,弱者であることは言うまでもない。

*1 “International Religious Freedom Report 2016: Nepal,” US Department of State
*2 宣教投獄5年のおそれ,改正刑法
*3 キリスト教政党の台頭
*4 タルーのキリスト教改宗も急増
*5 キリスト教絵本配布事件,無罪判決
*6 改宗の自由の憲法保障,米大使館が働きかけ
*7 新憲法による初の宗教裁判
*8 改宗勧誘は禁錮5年,刑法改正案
*9 クリスマスを国民祭日から削除:内務省
*10 改宗勧奨: 英国大使のクリスマス・プレゼント

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/09/20 at 14:37

宣教投獄5年のおそれ,改正刑法

8月9日立法議会で可決された改正刑法には,いくつか重大な問題がある。強制失踪関係規定については前稿で触れたが,それ以上に大きく問題視されているのが,宗教に関する規定である。改正刑法が施行されると,宣教ないし改宗の働きかけ,いや解釈次第で信者らの礼拝それ自体ですら拘禁5ないし3年以下,罰金5ないし2万ルピー以下の刑に処せられる恐れがある。ヒンドゥー正統への揺り戻しの動きの一つと見てよいであろう。

1.2015年憲法の宣教禁止規定
現行2015年憲法は,ネパールを「世俗国家」と規定しながら,同時に他方では,「古来の宗教文化」に特別の権利を認めている。
————————————–
憲法第4条 ネパール国家
(1)ネパールは,・・・・世俗的な連邦民主共和国である。
 解釈:本条でいう「世俗的」は,古くから伝えられてきた宗教や文化を含む,宗教と文化の自由を意味する。
————————————–
この国家の根本規定を受け,第26条では,改宗を働きかける宣教活動を大幅に規制している。
————————————–
憲法第26条 宗教の自由への権利
(3)何人も,本条の定める権利[宗教の自由]の行使において,公共の健康・礼節・道徳に反する行為,公共の平和を損なう行為,または他者をある宗教から別の宗教に改宗させる行為,もしくは他者の宗教を損なう行為や行動を自ら行い,または他者に行わせることを,なしてはならない。そのような行為は,法により処罰される。
—————————————
宗教活動は,極秘のものを除けば,多かれ少なかれ宣教の意味をもつ可能性があるとすれば,上記の規定を根拠に,国家は宗教活動をいかようにでも規制できることになる。

2.改正刑法の宣教禁止規定
2015年憲法の規定に基づき,改正刑法は宣教活動を大幅に規制し,違反には重罰を科すことを定めている(以下の条文はCSW記事[*1]からの引用)。
————————————–
改正刑法第9部
第158条 (1)何人も,文章,声ないし会話,造形物ないしシンボル,または他の同様の方法により,いかなるカースト,民族または社会集団の宗教感情をも害してはならない。
(2)(1)に定める罪を犯した者は,2年以下の拘禁および2万ルピー以下の罰金の刑に処す。

第160条 (1)何人も他者の宗教を改めさせてはならないし,またそれを自ら試み,または他の者に教唆してはならない。
(2)何人も,あるカースト,民族または社会集団が古来信奉してきた宗教,信仰または信条を否定するような行為や行動を行ってはならないし,また他の宗教への改宗の目的をもって,もしくはその目的をもたなくとも,そうした宗教,信仰または信条を害してはならないし,また他の宗教や信仰を上記目的のいずれかをもって説いてはならない。
(3)(1)および(2)に定める罪を犯した者は,5年以下の拘禁および5万ルピー以下の罰金の刑に処す。
(4)(1)および(2)に定める罪を犯した者が外国人の場合,本条の定める刑の執行後,7日以内にネパール国外へ退去させるものとする。
————————————–
複雑・難解な文章だが,宣教ないし改宗の働きかけが広く禁止されていることは明らかである。

ネパールで活動しようとする宗教,とくにキリスト教諸派が,この改正刑法に危機感を募らせ,世界各地で反対運動を繰り広げ始めたのも,彼らの立場からすれば,至極もっともなことといえるであろう。

 
 ■議会での改宗勧誘禁止条項削除要求(Nepal Church.Com,8月10日)

*1 “NEPAL BILL CRIMINALISES RELIGIOUS CONVERSION,” Christian Solidarity Worldwide (CSW), 21 Aug 2017
*2 Anugrah Kuma, “Christians Fear Crackdown on Religion Under Evangelism Ban in Nepal,” Christian Post, Aug 28, 2017
*3 Surinder Kaur, “Evangelism to be made illegal under new Nepal law,” globalchristiannews.org, 31st August 2017
*4 Prakash Khadka, “Nepal criminalizes religious conversion under new law,” ucanews.com, September 5, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/09/12 at 21:54

カテゴリー: 宗教, 憲法, 人権

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タルーのキリスト教改宗も急増

ネパールでは,キリスト教は,クリスマス商戦用には大歓迎だが,本来の宗教としては,昨日も指摘したように,まだ強く警戒されている。タルーのキリスト教改宗に関するこの記事も,その一例。

▼Devendra Basnet, “Conversion to Christianity high among Dang Tharus,” Republica, 14 Dec. 2015.

記事によれば,ダン郡のタルー居住地域では,人民戦争終了以降,キリスト教徒が急増している。そのため,タルー社会の規範が守られなくなり,伝統的な文化や儀式の維持が困難になりつつある。

キリスト教布教は,タルー長老らによれば,ポスターを貼り教会へ誘う,カネや外国援助で釣る,など。むろん,これらの非難は繰り返し用いられてきた常套句だが,少なくとも伝統的社会の側からは,そのようなものと見えるのだろう。

開発格差,経済格差の大きいところでは,神々の争いもカネ絡み,利権絡みと見られる。難しい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/12/16 at 20:43

カテゴリー: 宗教

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キリスト教絵本配布事件,無罪判決

ネパールの裁判所が12月6日,イエス・キリストを描いた絵本(コミック)を生徒に配布したとして6月に逮捕された8人のキリスト教徒に対し,無罪の判決を下した。キリスト教会にとっては何よりの吉報であり,クリスマス集会では神の栄光が大いに称えられるであろう。

1.事件概要
この事件の概況は以下の通り。(参照:キリスト教徒,逮捕

2016年6月,Teach Nepal(カトマンズ本拠NGO)が,地震トラウマの生徒たちのため,ドラカ郡チャリコットのキリスト教系2校(Modern Nationl School; Mount Valley Academy)において,カウンセリングを実施した。その際,生徒たちにギフトバッグを配布したが,その中にイエス・キリストを描いたコミック絵本が入っていた。

これが地元で問題にされ,警察が6月9日,憲法26条(3)の禁止する改宗勧誘に当たるとして,2校の校長とTeach Nepalのメンバー5人を逮捕した。さらに6月14日には,チャリコット・キリスト教会の牧師まで逮捕してしまった。

2.無罪判決
逮捕された8人は,9日後保釈されたが,裁判は続き,ようやく12月6日になって,裁判所が無罪判決を言い渡した。メルヴィン・トマス(Christian Solidarity Worldwide代表)は,こう語っている。

「チャリコットの8クリスチャン無罪判決を歓迎するが,新憲法26条は改正されるべきであり,このことをネパール政府に対し,ネパール市民社会の人々と声を合わせ要求していきたい。」(*6)

3.キリスト教徒激増への反発
今回の事件は無罪判決で一応決着したが,この事件の背後には,キリスト教徒の増加,特に国家世俗化以降の激増へのヒンドゥー教徒多数派のいら立ちがある。

1951年 0人(記載なし)
1961年 458人
2001年 102,000人
2011年 375,699人

しかし,こうした国家統計は,キリスト教徒を過少集計しているという。「キリスト者連盟(Federation of National Christians Nepal)」によれば,現在,キリスト教会は国内に約1万あり,そのうち2千はカトマンズ盆地3郡にある。信者は,約300万人。その60%がダリットだという。

このキリスト教徒激増は,伝統的支配勢力たるヒンドゥー教徒多数派を警戒させ,キリスト教攻撃に向かわせている。「社会福祉委員会」は,キリスト教系外国援助をしばしば禁止しているし,また政府役人がキリスト教系の学校や孤児院を,キリスト教関係の本が1冊でもあれば閉鎖させるとか罰金を科すとかいって,脅すこともあるという。

こうしたキリスト教会との対立の激化は,宗教が大きな力を持つネパールにおいては,対応が極めて難しい。

ヒンドゥー教徒多数派は,新憲法において世俗国家規定を受け入れさせられはしたものの,生命線たる改宗勧誘禁止ないし布教禁止を第26条(3)に書き込むことには成功した。現行憲法の矛盾の象徴ともいうべきこの憲法の宗教規定を,今後どう扱うか? これは州区画以上に難しい政治課題とみてよいであろう。

Teach Nepal HP
 161210
 ”Equipping Children and Teachers for the Glory of God“(表紙掲載スローガン;引用者顔消去)

【参照】
*1 “Christian population shoots up under secula state,” Republica, Dec 9,2016.
*2 Lorraine Caballero, “Christianity in Nepal rising since 2008 secular democracy,” Christian Daily, 5 Dec. 2016.
*3 Andre Mitchell, “More People Turning to Christ in Nepal,” Christian Today, 8 Dec. 2016.
* Kaley Payne, “Nepali Christians freed after court drops case,” Eternity News, 8 Dec. 2016.
*4 “Crackdown on Christians in Nepal hits snag,” Morning Star News, 7 Dec. 2016
*5 Sarah Stone,”Christians Accused of Proselytising in Nepal Cleared of Charges,” Christian Today, 7 Dec. 2016.
*6 Stefan J. Bos,”Nepal Aquits 8 Christians Over Conversion Children,” Bos News Life, 7 Dec. 2016.
*7 ガガン・タパ議員(NC)ツイッター(12月20日)
 161217

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/12/15 at 22:38

カテゴリー: 宗教, 憲法, 政治

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改宗の自由の憲法保障,米大使館が働きかけ

アメリカ国務省が8月10日,「宗教の自由報告2015」を発表した。その中には,ネパールに関する重要な報告も含まれている。
 ▼“International Religious Freedom Report for 2015,” Bureau of Democracy, Human Rights and Labor, U.S. Department of State.

   160812■「報告」公告(米大使館FB)

この「報告」が,ネパールについて特に問題にしているのが,宗教に関する憲法規定。表現は抑制されているが,内容的には驚くべき事実が,そこには記述されている。核心部分は以下の通り。

「憲法起草過程を通して,米国大使,公使および大使館員は,刑事罰の恐れなき改宗の権利を含む完全な宗教的自由を憲法で保障するよう,ネパール政府高官らに対し,繰り返し強く要請した。米大使と大使館員は,ヒンドゥー教,仏教,イスラム教およびキリスト教の指導者らとも会い,憲法草案に対する彼らの考えを尋ねた。

また大使館員は,カトマンズや他の地域の少数派宗教の地域代表らとも会い,キリスト教徒やイスラム教徒が直面している諸問題につき,話し合った。そこでは,キリスト教徒が改宗を強要しているとするメディアや地域社会による糾弾,キリスト教徒やイスラム教徒の墓地取得が困難なこと,改宗禁止強行実施への懸念,そしてヒンドゥー教国家主義者によりキリスト教諸集団の社会的調和が乱される恐れ,につき議論した。」

ネパール憲法には,たしかに,この「報告」が指摘するような諸問題があることは事実だ。それはそうだが,だからといって独立国家の憲法問題につき,外国が大使や大使館員を動員し,もろに圧力をかけるのはいかがなものか? 内政干渉ではないか?

「報告」は,イスラム教や他の少数派宗教にも言及しているが,全体としてみると,アメリカが政府として,キリスト教のために,布教の権利や改宗の自由をネパールに対して要求している,という印象を禁じえない。

イギリス大使は,自ら改宗の権利の憲法保障を要求し,大問題になると,さっさと辞任し,帰国した。アメリカは,この「報告」が問題にされたら,どうするのだろう?

【参照】
(1)改宗勧奨: 英国大使のクリスマス・プレゼント
(2)「改宗の権利」勧告英大使,辞任
(3)宗教問題への「不介入」,独大使
(4)”Statement on the Promulgation of Nepal’s Constitution” (By John Kirby, Department of State Spokesperson, September 22, 2015)
 The United States congratulates the people of Nepal on their steadfast commitment to democracy. The promulgation of the constitution is an important milestone in Nepal’s democratic journey. The government must continue efforts to accommodate the views of all Nepalis and ensure that the constitution embraces measures consistent with globally accepted norms and principles, including gender equality, religious freedom, and the right to citizenship. ……(http://nepal.usembassy.gov/pr-09-22-2015.html)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/08/12 at 08:55

カテゴリー: 宗教, 憲法

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新憲法による初の宗教裁判

ドラカ郡チャリコットで6月9日,憲法26(3)条により禁止されている布教活動(改宗勧誘・他宗教妨害)の容疑で逮捕され,勾留取り調べ後,保釈されたキリスト教徒8人の裁判は,7月23日開始のはずだが,ネパールのメディアは,いまのところ全く報道していない。まだ裁判は始まっていないのだろうか? (参照:キリスト教徒,逮捕

ネパール・メディアとは対照的に,キリスト教系メディアは新憲法下での初の宗教裁判について,繰り返し報道している。この裁判がネパールのキリスト教会の存亡にかかわると危惧しているからである。

この問題は,間もなく発足するプラチャンダ政権(コングレス=マオイスト連立)にとっても,ジャナジャーティの包摂参加と並ぶ,難しい課題となるであろう。

▼ネパールの教会関係HP
160801b 160801c 160801a

[参照]
(1)Vishal Arora, “Nepal Christians await trial in first religious freedom case under new constitution,” World Watch, July 20, 2016
(2) Julia A. Seymour, “Eight Nepalese Christians Arrested for Illegal Proselytizing: The Country’s Controversial New Constitution Bans Converting Someone to Another Faith,” Christian Headlines, July 25, 2016
(3) Suzette Gutierrez Cachila, “Christians arrested for proselytising face trial in Nepal,” Christian Times, 26 JULY, 2016

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2016/08/01 at 18:40

カテゴリー: 宗教, 憲法

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