ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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印首相訪ネと中国

1.印ネ共同声明
モディ首相が訪ネ(8月3-4日)し,共同声明(8月4日)が発表された。35項目に及ぶ包括的な声明であり,両国の特別の密接な関係がよく見て取れる。国家間というよりは,あえていうならば,むしろ中央政府と地方政府の交渉のような印象さえ受ける。主なものは以下の通り。

[11]1950年平和友好条約の見直し合意。
[12]国境問題解決の重要性の確認。
[14]解放国境悪用や第三国による国土悪用の防止。
[15]インフラ・エネルギー開発のため10億ドルのソフト・クレジット供与。
[16]印首相が,パシュパティ寺院を参拝,白檀2500kg寄進。印政府によるパシュパテ寺院ダルマサラ建設およびパシュパテ地区保存の支援。
[17]ジャナクプル,ルンビニ等の開発支援。
[18]ネパール人学生,専門家のインド留学支援。
[19]パンチェシュワル開発局関係文書署名,甲状腺腫対策事業了解覚書および印ネ放送協力事業了解覚書署名。
[20]上カルナリ水力発電,上マルシャンディ,タマコシ3などの事業促進合意。
[21]マヘンドラナガルのマハカリ川橋梁建設支援合意。
[22]中部丘陵道路建設の検討。
[23]防衛協力の継続。
[26]両国間5鉄道建設等の交通網整備促進。
[28]印・カトマンズ間石油パイプライン建設の検討。
[29]対印貿易赤字解消のための輸入規制緩和の検討。
[30]印経由通行規制緩和合意。
[31]空路規制緩和の検討。
[33]水路の改修検討。

140808■BJP-HP

2.約束は守ると約束
これらの約束について,モディ首相は,帰国後の談話(8月4日)で,「約束は全力で実行し,一つとして反故にしない」と語った。

また,インド人民党(BJP)も,党声明(8月5日)において,「モディ首相の基本姿勢――『ネパール内政不干渉と,要請されたときのみの援助』――は,すべての人びとに受け入れられた」,「モディ首相は,ネパールの大きな期待に応え,二国間関係の新たな出発を成し遂げた」と,手放しで自画自賛した。

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3.ネパール側の冷めた評価
ネパール側でも,表向きモディ首相訪ネへの評価は高いが,その一方,懐疑的な見方も少なくない。

▼大臣が1人も同行しない(Ekantipur,1 Aug)。
▼目玉であった電力取引協定(PTA)と事業開発協定(PDA)の2協定に調印できなかった(Ekantipur, 4 Aug)。
▼10億ドルのソフト・クレジットが,いつ,どのように実施されるか不明(Himalayan,4 Aug)。
▼UML幹部との会談において,モディ首相は,水資源開発協力についてネパールが早く決定しなければ,ネパール側がさらに不利になる,と語った(Ibid)。
▼インドは,首相らが約束しても,官僚が反故にすることが多い。今回はどうか?(Republica,4 Aug)。

印ネ関係は,いわば日常的近所付き合いのようなものであり,そのぶん見方が厳しくなるのはやむをえまい。メディア報道も,モディ首相訪ネ直前と訪ネ中を除けば,ごく控え目。2,3日すぎると,もうほとんど見られず,中国関係の方が大きくハデになった。現金なものだ。

4.中国の勢いと外交力
その中国だが,この間も,ネパールでの動きは華々しかった。7月31日には,カトマンズの中国大使館において,防衛担当官主催の「人民解放軍創設87周年式典」が開催され,ラナ国軍総監ら多数が出席,両国軍の協力関係の促進がうたわれた(新華社8月1日)。

翌8月1日には,中国・ネパール国交樹立59周年式典(ネパール中国協会主催)が開催された。式典では,呉春太大使が,数年で訪ネ中国人は年25万人に達すると語った。ちなみに2010年46,360人,2012年71,861人,2013年89,509人。フライトも,中ネ航空協定により週14便から週56便に大幅増便されている。直接投資額では,周知のように,中国はすでにインドをぬき最大投資国になっている(ekantipur,2 Aug)。

呉春太大使はまた,孔子学院の拡充やタライ方面への事業展開も進めたいと語った。「中国の医療ボランティアは,チトワンのBPコイララ癌病院で働き,ネパール人だけでなく国境を越えて来た人々[つまりインド人]をも治療してきた。」(Telegraph,2 Aug)

140808d ■BPコイララ癌病院

これに応え,ネパール側出席者,たとえばバブラム・バタライ元首相(UCPN)も,経済協力関係の強化を訴え,特にチベット鉄道のシガツェからカトマンズへの延伸を強く要請した。また,この式典でも,出席者が口々に「一つの中国」支持を表明したことはいうまでもない(ekantipur,2 Aug)。

驚いたのは,モディ首相帰国の翌日(8月5日),シンドパルチョーク地滑り被害への李克強首相のお見舞いの言葉が,記事として大きく掲載されたこと(ekantipur,5 Aug)。他の国々も同様のお見舞いをしているはずなのに,メディアでの中国の扱いは別格。

中国の勢い,あるいは外交力は,やはりスゴイといわざるをえない。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/08/08 at 13:54

中印国境紛争とネパール

中国とインドの国境紛争が激化しつつある。この数ヶ月,中国人民解放軍がラダックのChumar(印実効支配地域)に繰り返し進入し,監視カメラや防壁などを破壊した。また,中国は中印国境付近で軍用転用可能な道路,鉄道,空港などを整備し,チベットでの軍事演習も活発化させている(The Times of India, Jul.14ほか印各紙)。

130721a ■ラダック(Hindustantimes,Apr.25)

こうした中国の動きに対し,インドは7月17日,内閣安全保障委員会が4~9万人の特別部隊の新設を決定した。中核は「山地攻撃部隊(Mountain Strike corps)」。西ベンガルのPanagarhに本部を置き,部隊は中印国境付近に配備される。The Hindu(Jul.18)によれば,もし中国が攻撃を仕掛けるなら,この部隊が,空軍の支援を受け,チベット自治区内まで攻撃に出ることになる。

中印間のこうのような緊張は,ネパールにも当然,深刻な影響を及ぼす。インドは,7月9日のクルシード外相訪ネの際,2005年以降停止されていた対ネ軍事援助を全面再開することを表明した(India Today, Jul.11)。人民解放軍兵士の国軍統合完了が再開理由だが,このところの中国南下政策も背景にあることは間違いない。(なお,「印ネ平和友好条約1950」により,ネパールは,インド以外からの兵器調達には,インドの了解が必要。)

これに対し中国も,ネパール国軍のガウラブ・ラナ総監を招待した(Telegraph, Jul.19)。ラナ総監は,国軍幹部ら5人を率い7月19日訪中(28日まで),中国軍幹部らと会い,中国との軍事関係強化を協議する。また,ネパール国軍への移動軍病院2組の援助協定に調印することにもなっている。この移動軍病院施設は,一応,災害救援用となっているが,広義の軍用施設であることはいうまでもない。

130721b ■国軍訪中団出発(国軍HP)

また,カトマンズの軍士官学校では,中国人民解放軍将校2名がプレゼンし,そこには駐ネ中国大使や孔子学院(カトマンズ大学)の教官と学生も参加していた(china-defense-mashup)。

中国は,インドが武器・弾薬等を援助するのに対し,いまのところ用心深く軍用/民生用のグレーゾーンに援助を限定している。しかし,ネパール・中国の軍関係者の接触が日常化し,緊密化していることは間違いないであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/07/21 at 11:11