ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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朝日社説の陸自スーダン派兵論

1.陸自スーダン派兵
政府は11月1日,南スーダンへの陸上自衛隊(日本国陸軍Japanese Army)の派兵を決めた。実施計画を11月下旬に決定し,2012年1月から陸自「中央即応連隊」200人を派兵,5月頃には本隊300人規模とする。ネパールへの陸自6名派兵とは比較にならない大部隊の本格派兵だ。

 世界展開に備える即応連隊

2.軍国主義に傾く朝日新聞
朝日新聞は,敗戦後,ハト派・良識派・平和主義者に転向したが,2007年5月3日の「地球貢献国家」(社説21)提唱により,内に秘めてきた軍国主義への信仰を告白し,一躍,海外派兵の旗手に躍り出た。時流に乗り遅れるな,イケイケドンドン,産経も読売も蹴飛ばし,向かうところ敵なしである。

今回のスーダン派兵についても,11月2日付朝日社説は,お国のために戦果を,と全面支持の構えだ。社説はこう戦意高揚を煽っている。

「この派遣を,私たちは基本的に支持する。」
「自衛隊のPKO参加は1992年のカンボジア以来、9件目になる。規律の高さや仕事の手堅さには定評があり、とくに施設部隊などの後方支援は『日本のお家芸』とも評される。アフリカでの厳しい条件のもと、確かな仕事を期待する。」

この朝日社説が,産経や読売のようなまともなタカ派の派兵論よりも危険なのは,現実をみず,リアリティに欠けるからである。朝日社説は,大和魂で鬼畜米英の物量を圧倒し,竹槍で戦車を撃破せよと命令し,忠良なる臣民ばかりか自分自身にもそれを信じ込ませてしまった,あのあまりにも観念的な軍国主義指導者たちと相通じる精神構造をもっている。朝日社説の欺瞞は次の通り。

そもそも社説タイトルの「PKO,慎重に丁寧に」と,上掲の「基本的に支持する」「確かな仕事を期待する」のアジ演説が,ニュアンスにおいて矛盾している。

政情不安なスーダンへ大軍を送る。その危険性は,たとえば「治安が不安定な地域でのこれほどの長距離輸送は経験がない」と 朝日自身も認めている。このような危険なところに軍隊を出せば,当然,自他を守るための武器使用が問題になる。ところが,社説はーー

「武器使用問題は、日本の国際協力のあり方を根本から変えるほど重要なテーマだ。今回の派遣とは切り離して、時間をかけて議論するのが筋だ。」

と逃げてしまう。「時間をかけて議論する」あいだに,陸自隊員は現地で危険に直面する可能性が極めて高い。どうするのか? 結局,朝日は根性論,大和魂作戦なのだ。

これに対し,はるかに合理的・現実的なのが,自衛隊である。2日付朝日の関連記事によれば,自衛隊自身は,「自衛隊内では『出口作戦も大義名分も見えない』との不満もくすぶる」「自衛隊幹部は『ジュバ周辺もいつ治安が悪くなるかわからない』」と,批判的だ。もし自衛隊員が朝日社説を読んだら,きっとかんかんになって怒るにちがいない。――堂々たる日本国正規軍を危険な紛争地に派遣しながら,武器を使わせないとは,一体全体,どういう了見だ,大和魂で立ち向かえとでもいうのか。奇襲や特攻を「日本のお家芸」と自画自賛した大日本帝国と,丸腰平和貢献を「日本のお家芸」と賞賛する大朝日は,その精神において,同じではないか,と。

現代の自衛隊は,大和魂や竹槍,あるいは奇襲作戦・特攻作戦などは,はなから信じていない。朝日が大和魂平和貢献をいうのなら,朝日社員を一時入隊させ,スーダンに派遣してやろうか,といったところだろう。自衛隊の方が,朝日よりもはるかに合理的・現実的である。
  参照:スーダン派兵で権益確保:朝日社説の含意

3.自衛隊の世界展開とPKO5原則
朝日新聞は,自衛隊(Japanese Army)の本格的世界展開を煽っている。そもそも朝日には,「PKO参加5原則」ですら,守らせるつもりはない。

▼PKO参加5原則(外務省)
 1.紛争当事者の間で停戦合意が成立していること。
 2.当該平和維持隊が活動する地域の属する国を含む紛争当事者が当該平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
 3.当該平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
 4.上記の基本方針のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は、撤収することが出来ること。
 5.武器の使用は、要員の生命等の防護のために必要な最小限のものに限られること。

朝日社説はこんな表現をしている。「武力衝突の現場と派遣先は離れているものの、ここは派遣直前まで、5原則を守れるかどうかを見極める必要がある。」

イケイケドンドンと煽っておきながら,「5原則を守れるかどうかを見極める必要がある」とごまかし,武器使用は「時間をかけて議論するのが筋だ」という。それはないだろう。参加5原則など,朝日には守らせる意思はないのだ。スーダン派遣を先行させ,自衛隊員に犠牲が出るか,武器使用が現実に行われてしまったら,その事実に合わせ社説を修正する。大日本帝国の世界に冠たる「お家芸」であった,あの既成事実への追従の古き良き伝統を,朝日は正統的に継承するつもりなのだ。近代的な合理主義・現実主義の立場に立つ自衛隊が怒るのは,もっともだ。

4.「良心的兵役拒否国家」の原点に立ち戻れ
いまさらこんなことを言っても朝日は聞く耳を持たないだろうが,それでもあえていいたい。朝日は,「地球貢献国家」(社説21,2007年5月)を撤回し,それ以前の「良心的兵役拒否国家」の原点に立ち戻るべきだ。

朝日が煽動する「地球貢献国家」が危険なのは,軍民協力が前提であり,その結果,必然的に軍と民が融合し,日本社会がじわじわと軍事化されていくこと。しかも,世界展開する米軍の代替補完として,世界から,つまりアメリカから,期待されており,時流にも乗っている。

日本が朝日の提唱する「地球貢献国家」になれば,たとえば日本の巨大な政府開発援助(ODA)が平和維持作戦(PKO)と融合し,見分けがつかなくなる。そうなれば,紛争地や政情不安地帯で活動する多くの非軍事機関やNGOなども,当然,軍事攻撃の対象となる。

そして,危なくなれば,NGOなどは,軍隊に警護を依頼するか,撤退するかのいずれかを選択せざるをえなくなる。 こうして,また開発援助や非軍事的平和貢献活動が軍事化され,それがまた軍事攻撃を招く。悪循環だ。

もしスーダン派遣自衛隊員に犠牲者が出たら,朝日新聞はどのような責任を取るつもりか? 靖国神社に御霊を祭り,その「お国のための名誉の戦死」を永遠に称えるつもりなのだろうか?

■スーダン派兵で権益確保:朝日社説の含意
■海外派兵を煽る朝日社説
■良心的兵役拒否国家から地球貢献国家へ:朝日の変節
■丸山眞男の自衛隊合憲論・海外派兵論

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/11/02 at 14:11

制憲議会任期切れと軍統合問題

制憲議会の任期が,11月30日で満了する。それまでに人民解放軍の処遇を決め,憲法改正案を作成しないと,またまた制憲議会の任期延長となる。

これ以上の任期延長が難しいことは皆わかっているので,このところ,交渉がかなり煮詰まってきた。憲法案は,その気になれば,明日にでもできる。問題は,その気になるかどうかだ。(日本でも,マッカーサー草案提示後,2ヶ月程度で憲法改正案が作成された。)

人民解放軍の処遇についても,双方の要求がかなり接近してきた。

            マオイスト      NC・UML
国軍統合兵員数     7千人       5千人
社会復帰給付金(1人) 60-90万ルピー   30-60万ルピー

人民解放軍の本来の兵力は,せいぜい5~7千人。これはプラチャンダ議長も認めている。国軍統合兵員数では,合意は近いといってよい。

社会復帰する残りの1万3千~1万5千人への給付金も,1人あたり90万ルピー以内であり,これも十分妥協可能な数字だ。

バブラム首相やプラチャンダ議長は,ほぼ上記の線で手を打ちたいと考えているのだろうが,問題はバイダ副議長らの急進派。1万数千人もが,一時金で社会復帰に納得するかどうか? 

人民解放軍の処遇が決まらないと,新憲法もできず,制憲議会をまた延長せざるをえない。11月30日まで,後一ヶ月。またまた危機がやってくる。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/10/29 at 18:31

カテゴリー: その他, マオイスト, 平和

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武器引き渡しは「自殺行為」,バイダ派

1.武器庫鍵引き渡し
9月1日,マオイストは常任委員会決定に基づき,武器保管庫の鍵を「軍統合特別委員会」に引き渡すことにし,各PLA宿営地(Cantonment)では,武器の点検確認後,鍵が特別委員会側(国軍,警察,武装警察,PLA各2名,計8名)に渡された。(7宿営地で実施。ロルパ方面部隊などは未完。)

2.プラチャンダ派とバイダ派の衝突
これに対し,モハン・バイダ(キラン)副議長は声明を出し,「これは自殺的だ」と非難した。そして,9月2日,全国チャッカ・ジャムを実施し,今後,松明行進など,反対運動をさらに拡大していくと宣言した。すでに,カブレ・パンチカールではプラチャンダ派とバイダ派が衝突し負傷者が出た。

この動きを見て,プラチャンダ議長は9月2日付けで声明を出し,鍵引き渡しの正当性を強調し,キラン同志の言動に対し「「憂慮」を表明,党の公式決定を一致団結して支持するよう要請した。党公式文書による真正面からのバイダ派非難である。

3.実力闘争再開か?
人民解放軍(PLA)は,いうまでもなくマオイストの中核だ。そして,軍の生命線は武器にある。その武器を,PLA国軍統合も決まらないのに政府に引き渡すのは,人民戦争を戦ってきた人々にとっては、たしかに「自殺行為」と見えるだろう。バイダ副議長の怒りはよく分かる。

しかし,マオイストはいまや政府与党だ。プラチャンダ議長が、首相としてのバタライ副議長(軍統合特別委員会委員長)に武器庫の鍵を引き渡したにすぎない。

それでも,バイダ派からは,それは革命への裏切りと見える。武器庫鍵の引き渡しには,さっそく米駐ネ大使が歓迎を表明した。プラチャンダ=バタライ派が米印と手を組み革命をつぶしにかかっている,と急進派は見るわけだ。

ネパールの市場社会化は,目もくらむ格差をもたらしている。この状況では,バイダ派支持はむしろ拡大していく。そして,それをバネにマオイスト左派が分離し,再び実力闘争を始める可能性は十分にある。予断を許さない状況だ。

* ekantipur, Sep2; Nepalnewscom, Sep2; Republica, Sep3

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/09/03 at 13:55

人民解放軍統合,与党3党首合意

カナル首相(UML)が,マオイスト,マデシ人権フォーラム(MPRF)両党首と,平和構築への最大課題である人民解放軍(PLA)の処遇について,ほぼ合意した(Republica,2011-05-22)。実行できるかどうか微妙だが,なかなか大胆な提案だ。

PLAについては,すでに国軍(NA)が,NA指揮下に新たな部隊をつくり,そこにPLA戦闘員と政府治安要員(NAなど)を組み込む,という提案をしていた。3与党合意は,このNA提案を受け入れ,人員についてはPLAからは6~8千人とした。

PLAの本来のハードコア戦闘員は,もともと4~8千人と見られており,これはプラチャンダ議長もオフレコでは認めていた。したがって,6~8千人統合は妥当な数字といってよいだろう。

NA統合戦闘員以外の宿営所(cantonment)収用戦闘員は,除隊・社会復帰となる。宿営所収用戦闘員は約2万人(19,602人)だから,1万2千人~1万4千人が社会復帰。これら社会復帰戦闘員には,1人あたり50~100万ルピーが支払われる。かなりの額だ。

しかし,この提案については,マオイスト急進派が猛反対している。たとえば,モハン・バイダ(キラン)副議長は,これはパルンタール党大会決定違反だとして,反対意見を常任委員会に提出した(Republica,2011-05-22)。

しかしながら,このところマオイスト党内では,バイダ副議長らの急進派は劣勢となっている。バブラム・バタライ派(穏健派)とバイダ派(急進派)を両天秤にかけ,操縦していくプラチャンダ議長の政治的手腕は,たいしたものだ。このままいけば,PLAは二分され,6~8千人の中核部分がNAに吸収され,和平成立となる。

しかし,それで社会復帰を迫られる他の1万2~6千人が納得するか? また,毛沢東が言うように,「人民解放軍なくして人民なし」 を体験的に思い知らされてきたマオイスト支持「人民」大衆が,人民解放軍の解体を受け入れるか?

人民解放軍の国軍統合による和平実現,新憲法の制定となるかどうか? 難しいところである。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/05/24 at 11:22

マオイストの憲法案(1)

ネパールでは,制憲議会における新憲法制定が,いま最大の政治課題となっている。制憲議会の任期は5月28日までであり,それまでに新憲法の制定ができなければ,ネパールの平和構築は頓挫し,内戦に逆戻りしかねない。

新憲法起草作業は,制憲議会設置の課題別11委員会によって進められており,論点整理はほぼ終わっていると思われるが,問題は主要3政党の思惑である。利害が絡むので,なかなか条文作成がはかどらない。

特に問題なのは,最大勢力のマオイスト。議席の40%を占めているので,マオイストが反対したら,新憲法は作れない。

では,マオイストは、どのような憲法案をもっているのか? イデオロギー政党のマオイストは,他のどの党よりも理屈っぽく,憲法についても,すでに19編274条の巨大憲法案を作成している。

Constitution of the People’s Federal Republic of Nepal, 2067, Unified Communist party of Nepal (Maoist), 2067 jestha 15

ネパール新憲法を,このマオイスト憲法案を無視して作成することは,おそらく無理であろう。そこで,以下では,このマオイスト憲法案の特徴をいくつか取り上げ,紹介していくことにする。(前文から順に取り上げるが,前後する場合もある。)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/02/26 at 23:59

カテゴリー: マオイスト, 憲法

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陸自,ネパール撤退

UNMIN派遣の第4次陸自隊員6名が1月18日帰国,日本のネパール派兵は終了した。

「ネパール国際平和協力隊」は,2007年3月1次隊派遣,以後,1年ごとに4次隊まで継続,通算3年10ヶ月派兵されていた。

この日本派兵は,ネパール人民には,ほとんど知られていない。北沢防衛大臣は「労いの言葉」において,「国連本部,UNMIN,ネパール政府などからも高い評価を受け」(自衛隊ニュース,2011.2.1)と自画自賛したが,ここには「ネパール人民」はない。日本政府が誰の目を気にし,誰のために派兵したかは明白である。

陸自UNMIN派遣は,本格的な自衛隊海外派兵のための予行演習である。北沢防衛大臣はこう述べている。

「UNMINにおける活動は、部隊ではなく個人の派遣による活動であり、またその業務内容も、任務地における武器及び兵士の管理の監視業務という、これまで防衛省・自衛隊が経験したことのない、新たな挑戦とも呼べるものでありました。・・・・さらには我が国の国際平和協力活動の幅を広げることができました。」(上記「労いの言葉」,強調引用者)

意味不明の(含意明白の)「個人派遣」,「武器及び兵士の管理の監視業務」――これまでやりたくて仕方なかったことが,快適で安全無比のネパールで実地訓練できた。防衛大臣自身がいうように,これは「我が国の国際平和協力活動の幅を広げること」が最大の目的であった。決してネパール人民のための派兵ではない。

派遣隊員の発言は,当然,検閲されているが,それでも本音が漏れており,興味深い

■赤瀬丈 1陸尉
「今回の派遣においての一番の成果は、様々な国の軍人たちと一緒に仕事をすることで、それぞれの国の人の考え方、文化等を知ることができ視野が広がったということである。」(自衛隊ニュース,2011.2.15,強調引用者)

「一番の成果」は、ネパール平和貢献ではなく、「様々な国の軍人」との交流だったという。自分を日本陸軍の「軍人」と自覚し、他国の「軍人」と一緒に作戦(operation)を展開した。それが「一番の成果」だったという。たいへん正直な、しかも正確な事実認識だ。

先の記事「丸山眞男の自衛隊合憲論・海外派兵論」でも述べたように,憲法前文による自衛隊合憲化・海外派兵拡大の動きは,朝日新聞社説の変説=変節もあり,ますます進行している。しかし,軍隊は自己増殖し始めたら止まらない。ピストルも持っている。あの苦い経験をもう忘れたのだろうか?

 (防衛省2011.1.18,朝雲新聞2011.1.20)
この写真を見ると,「陸自隊員→中央即応集団配属→PKO個人派遣→帰国・中央即応集団→陸自隊員」の手品がよくわかる。丸山眞男の国連警察隊(国連軍)派遣論そのものではないか!

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/02/16 at 11:13

カテゴリー: 平和, 憲法, 人民戦争

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人民解放軍,政府引き渡し完了

1月22日,マオイスト人民解放軍(PLA)の指揮権がネパール政府に引き渡された。マオイストの勝利か全面降伏か? プラチャンダ党首はPLAを国軍に組み込ませたのか,それともPLAを国家に売り渡したのか?

国連=UNMINのどんでん返し大勝利か,それともマオイスト=NC=UMLの国益のための一時的共闘――国連のメンツを立て恩を売る――作戦なのか?

今のところ,何ともいえない。外交上手のネパールのこと,先進国や国連を手玉にとることくらい,朝飯前だろう。
ekantipur, 23 Jan

1.プラチャンダ演説
プラチャンダ党首とネパール首相による合意書署名により,22日からPLAは「監視・統合・復帰特別委員会」の指揮下に入った。そして,委員会は,当然,首相の指揮下にあるから,PLAの最高指揮権は首相に移ったといってもよい。これについて,プラチャンダ党首は式典において,こう述べている。

「今日から,すべてのマオイスト戦闘員は正式に特別委員会の指揮下に入った。」(AP,22 Jan)

「ネパールは,政治的移行の最終段階に入った。統合・復帰が完了するまで,この国は1国2軍隊にとどまる。われらが戦闘員の統合・復帰プロセスにより,強力な国家安全保障メカニズムをつくっていきたい。」(Himalayan Times, 22 Jan)

2.ネパール首相演説
ネパール首相もこう述べている。

「PLAはいまや国家の責任の下にある。」(ekantipur,22 Jan)

「これからは政府が監視・統合・復帰など,全責任を引き受ける。」(AP,22 Jan)

「つい先刻まで諸君はネパール共産党マオイストの活動家であったが,いまでは諸君は特別委員会の指揮下にある。」

「当然,諸君の任務も変化した。社会復帰希望者は政治活動に入ってもよいが,治安諸機関への統合希望者はどのような政党の党員であることも認められない。統合希望者は,非政治的・専門職的な独立の国家治安諸機関のメンバーとして献身することになる。宿営所にとどまる限り,諸君は特別委員会の決定と命令に従わなければならない。」(Himalayan Times,22 Jan)

3.プラチャンダ党首とネパール首相の偉業か?
この新聞報道から見る限り,つまり表向きは,ネパール首相の完全勝利であり,マオイストの全面降伏である。プラチャンダ党首は,PLA1万9千人を国家(NC=UML=国軍)に売り渡したことになる。

ネパールの歴史を見ると,急進派の指導者たちが,庶民の不満を代弁して反政府運動を展開し,その運動を通して自分たちの権勢を拡大し為政者たちにそれを認めさせると,一転して,獲得した既得権益を守るため,運動に参加してきた「人民」を見捨て,体制側に寝返るといった事例が少なくない。とくに共産主義運動は,そうした反体制エリートたちの人民裏切りの繰り返しであったといってよいだろう。

では,22日のPLA指揮権放棄は,どうか? これは難しい。プラチャンダ党首は,統合・復帰が完了するまでは,ネパールは1国2軍隊だ,といっている。また,「特別委員会」にはマオイストも最大政党として当然参加している。あるいは,マオイストが政権与党になれば,マオイスト党首が堂々とPLAと国軍の指揮権を行使し,国軍へのPLA浸透を図ることも出来るわけだ。

それゆえ,22日のPLA指揮権引き渡しの正確な評価は,現時点では,難しい。ただ,これまでの展開からみて,はじめに述べたように,PLA引き渡しは,国益のためのマオイスト=NC=UML共闘――国連・国際社会からカネを引き出すための共謀共闘――の可能性が高い,ということはいえるであろう。

もしそうなら,国連高官や,日本をのぞく諸外国大使を招いて賑々しく挙行された引き渡し式典が終了し,援助継続の約束さえとりつけてしまえば,また以前と同じような紛争状態に復帰してしまうことになる。

4.ノーベル平和賞?
もしこのPLA指揮権引き渡しが成功し,ネパールに平和が訪れるなら,プラチャンダ党首とネパール首相にノーベル平和賞が授与される可能性が出てくる。ネパールは国連平和構築のモデル国となるのだから。

しかしながら,諸般の状況を総合して考えると,コイララ翁ですらもらえなかったノーベル平和賞がネパールに来る可能性は,いまのところほとんどない,といわざるをえない。残念ではあるが。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/23 at 17:01

UNMIN平和構築支援は失敗,バン国連事務総長

バン国連事務総長は,UNMIN撤退式典メッセージにおいて,「残念ながら進展は不十分だった」と述べ,UNMIN平和構築支援の失敗を事実上認めた(UN News service, 14 Jan)。

ランドグレンUNMIN代表自身が安保理で,ネパール平和プロセスは「座礁状態」にあり,UNMIN撤退後はマオイスト武装蜂起か軍クーデターの可能性がある,と説明したのだから,バン事務総長の失敗メッセージも当然といえよう。(Cf. “Nepal’s Restive Revolutionaries–Unease about a new Maoist revolt flares up as U.N.peace monitors leave,” Newsweek, 13 Jan)

もちろん,バン事務総長もUNMINの功績をたたえてはいる。

「UNMINは,歴史的な2008年制憲議会選挙を支援した。これは,武器監視協定・停戦協定の実施をモニターする任務と並ぶUNMINの主要任務の一つであった」(UN News Service, 14 Jan)。

たしかに,UNMINの停戦監視はある意味では「大成功」(ランドグレン代表,UN Daily News, 10 Jan)であったし,制憲議会選挙も成功裡に実施された。

しかし,その反面,肝心のPLA統合は全くの手つかずだし,また「歴史的」と賞賛された制憲議会選挙にしても,選挙民主主義イデオロギーからすればそういえるだけのことであって,実際には,それは平和実現にはほとんど貢献していない。むしろ,選挙はアイデンティティ政治を激化させ,統治を困難にさせる側面の方がはるかに大きかった。これは制憲議会選挙後の政治の不安定化をみれば一目瞭然である。首相ですら,2010年7月以来,16回の選挙をやってもまだ決められないのだ。

さらに新憲法制定にしても,たとえつじつま合わせのため憲法を作文し各条文を新理論でけばけばしく飾り立ててみても,それでどうなるものでもない。画餅にすぎない。その絵空事新憲法作文ですら,まだ出来ていない。

選挙民主主義イデオロギー,包摂民主主義イデオロギー,連邦制イデオロギー,民族自治イデオロギーなど,様々な新薬をネパールにぶちまけ,いくら副作用が出ても,あとは知らんよ,と出て行く。そりゃ,いくらなんでも無責任ではないか?

バン事務総長は「諸政党には信頼構築努力をひとえにお願いしたい」(UN News service, 14 Jan)といっている。民主主義未成熟で相互不信があまりにも強く,そのため国連は平和構築支援に失敗した,と考えているからであろう。

しかし,M.ウェーバーが言うように,政治は結果責任である。ネパールが途上国で,民主主義未成熟はわかりきったこと。そこに,先進諸国でも実現不可能なような最先端の高尚な政治諸理念を持ち込み,押しつけた。責任は,先進国,国連側にある。

マイノリティの権利は,包摂民主主義でも比例選挙でも守られはしない。たとえ代表されたとしても,人口比(2001年)でラウテは49万分の1(0.003%),シェルパですら147分の1(0.7%)にすぎない。多数決では絶対に勝てないし,さりとて拒否権を認めれば,何も決められない。民主主義では人権は守られない。

マイノリティの権利,弱者の人権を本当に守るつもりなら,真の意味の「法の支配」と,多数派を押さえ込み,法を適用することの出来る強力無比の中央権力が不可欠だ。そんな常識ですら無視して無謀に介入するから,こんなことになるのだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/15 at 16:01

UNMINはマオイストの金蔓だ,ネパール首相

ネパールの非マオイスト政治家・知識人らが,ランドグレンUNMIN代表の安保理発言(1月5日)に対し,烈火のごとく怒っている。たとえば,マダブクマール・ネパール首相は1月7日,こう罵倒した――

「UNMINはマオイストの金蔓になった。・・・・だからマオイストはUNMIN任期延長を願うのだ。・・・・UNMIN撤退で天が落ちるようなことはない。・・・・われらは自らの手で平和と憲法制定を実現できる。」(ekantipur, 7 Jan)

すさまじい怒りだ。一国の首相の言葉とは信じられないくらいだ。国連ネパール代表のギャンチャンドラ・アチャルヤも1月6日,こう非難した――

「[マオイスト人民蜂起や大統領統治あるいは軍クーデターの可能性があるというランドグレン代表の]説明には,何の根拠もない。ネパール政府はそのような分析や評価を全面的に拒否する。」(ekantipur, 7 Jan)

ネパール政府が,自分たちでやれるからUNMINは出て行け,と要求するのに対し,ランドグレン代表は,いやいや,ネパール政治は未熟でまだ自立できない,UNMIN任務は未達成であり,したがって国連関与がまだまだ必要だ,と主張する。

妙なことになってきた。ランドグレン代表は実質的には自らUNMINの失敗を認め,だからUNMIN任期延長か,それが無理なら看板を変えただけの国連監視機関の設置が必要だ,と主張する。彼女は,現状ではUNMIN管理下のPLA資料・武器弾薬・施設や宿営所運営監視権限をネパール政府には引き渡さないと明言しているから,いやでもUNMINか別名の国連機関が居残ることになるわけだ。そう彼女は要求していることになる。

ここに,ランドグレン代表とマオイストとの共闘ないし共犯関係が成立する。UNMINは停戦後平和構築に失敗したから,成功するまで(つまり半永続的に)ネパールに居残りたい,というのが,おそらく本音だろう。一方,マオイストも,ネパール首相が「UNMINはマオイストの金蔓だ」と喝破したことを,内心では,シカリ,その通りと認め,金蔓UNMINにいつまでも居残ってほしいと願っているようだ。ランドグレン代表は安保理でこんなことまで言っている――

「新政府の構築,マオイスト兵の国軍統合・社会復帰,新憲法の制定という最重要課題については,これまでほとんど進展がない。・・・・本日,UNMIN任期終了10日前の今でも,UNMINがその監視任務を引き渡すことのできるメカニズムは存在しない。UNMIN撤退後,何が起こるか分からない。・・・・UNMIN撤退が無法状態を生み出すおそれがある。」(Telegraph, 7 Jan)

正直というか,無責任というか,驚くべき発言だ。むしろ“私は停戦後平和構築に失敗したので,責任をとって辞任します”というべきではなかったか。

ネパールの政治家たちは実にしたたかだ。UNMINは,老練ネパール政治に翻弄され,さんざん搾り取られ,非難罵声を浴び,撤退していく。いや,撤退すら許されず,さらに搾り取られることになるかもしれない。酷な評価だが,テレグラフが次の言葉を記事の結びとしたのもやむをえないかもしれない。

「ランドグレンは,ネパール撤退(ouster)を屈辱の追放(ouster)と感じていると思う。」(Telegraph, 7 Jan)

(Telegraph, 7 Jan)

(注)UNMIN関連記事一覧は,右の「検索」かタグでご覧ください。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/08 at 12:56

PLA無条件引き渡し拒否,UNMIN代表

ランドグレンUNMIN代表が1月6日,政府とマオイストの合意が成立しなければ,停戦監視関係資料・武器弾薬・施設を政府に引き渡すことはしない,と宣言した。

ネパール政府は12月31日,UNMINは「特別委員会」(ネパール政府)に一切合切引き渡し,さっさと出ていけ,といった趣旨の書簡を国連に提出していた。ランドグレン代表発言は,これへの反論であり,UNMINは人民解放軍(PLA)を政府(UML,NC)に無条件引き渡しはしない,と明言したわけだ。

ランドグレン代表は,ネパール政府国連宛書簡について,「この書簡が特別委員会での合意を反映しておらず,暫定憲法からも大きく逸脱するものであることは明白である」と政府を激しく非難し,そして「UNMINは合意に基づく後継メカニズムを全面的に支援する用意がある」と約束している。

さらに,こうも語っている。ネパールには,マオイスト人民蜂起のおそれに加え,「副大統領が最近求めたような大統領統治のおそれや,国軍クーデターのおそれもあった。そうなれば,平和とネパールの虚弱民主主義は危機に陥っていたであろう。」

まるでマオイスト応援団のような感じがする。そうしなければ,いまの停戦が崩壊するからであろうが,ここにもUNMIN(国連)の立場の難しさがよく現れている。

これはUNMIN評価にかかわることでもある。ランドグレン代表は「UNMINは4年の任務を終了しネパールを去るが,その活動は国連の誇りというべきであろう」と自画自賛している。たしかに,国連・UNMINが人民戦争停戦実現に果たした役割は大きく,これは高く評価されるべきだが,その一方,この段階での撤退に追い込まれたことは,停戦後平和構築には失敗したと見ざるを得ないだろう。

安保理では,ネパール政府のギャンチャンドラ・アチャルヤ代表も,UNMINの貢献を讃えた。が,その一方,ネパール政府はUNMINの任務を「特別委員会」に引き継がせる,ときちんと釘を刺している。UNMINは不要だ,と安保理で明言したわけだ。

こうなっては,UNMIN存続はもはや無理であろう。国連はUNMINの後始末をどうつけるか? これは難しい。

* “No arms Handover Sans Accord: Landgren,” Republica, 6 Jan 2011

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/01/07 at 12:37

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