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入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (9)

[参考資料]
*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)
*3 入国管理局長「拒食中の被収容者への対応について」(通達),2001年11月2日
*4 入国管理局「退去強制業務について」平成30年12月
*5 出入国在留管理庁「収容・仮放免に関する現状」令和元年11月25日
*6 出入国在留管理庁「送還忌避者の実態について」2020/03/27
*7 「仮放免に関する主な通達・指示」難民支援協会,2019年11月
*8 「法務大臣閣議後記者会見の概要[ナイジェリア人男性の死亡に関する質疑について]」令和元年7月2日
*9 宮崎岳志「東京入国管理局に収容されている外国人多数がハンガーストライキを行っているとの報道に関する質問主意書」平成29年5月16日提出,質問第318
*10 「衆議院議員宮崎岳志君提出 東京入国管理局に収容されている外国人多数がハンガーストライキを行っているとの報道に関する質問に対する答弁書」内閣衆質193第318号,平成29年5月26日
*11 福岡難民弁護団「大村入国管理センターでのナイジェリア人の死亡事故についての声明」2019/06/27
*12 九州弁護士会連合会「大村入管センターにおけるナイジェリア人死亡事案に関する調査報告書に対する理事長声明」2019/10/29
*13 東京弁護士会「外国人の収容に係る運用を抜本的に改善し、不必要な収容を直ちにやめることを求める会長声明」2019/07/01
*14 日本弁護士連合会「大村入国管理センターにおける長期収容に関する人権救済申立事件(勧告)」2019/11/25
*15 「緊急ステートメントー飢餓死したナイジェリア人男性についてー」FREEUSHIKU,2019/10/03
*16 クルドを知る会,日本クルド文化協会,日本クルド文化協会クルド人難民Mさんを支援する会「大村入管ナイジェリア人飢餓死事件の調査発表を受けての共同声明」2019/10/07
*17 関東弁護士会連合会「入国管理局による外国人収容問題に関する意見書」2019/01/15
*18 「患者の権利に関するWMAリスボン宣言
*19 WMA Declaration of Malta on Hunger Strikers, Medical Assembly, 2017
*20 Ian Miller, A History of Force Feeding: Hunger Strikes, Prisons and Medical Ethics, 1909–1974, Palgrave Macmillan, 2016
*21 Mary A Kenny, Derrick M Silove and Zachary Steel, “Legal and ethical implications of medically enforced feeding of detained asylum seekers on hunger strike,” The Medical journal of Australia 180(5),  April 2004
*22 Hernán Reyes, “Medical and Ethical Aspects of Hunger Strikes in Custodyand the Issue of Torture,” Research in Legal Medicine, Vol 19, 1998.
*23 「サニーさんの死なぜ 大村入管のナイジェリア人 収容3年7ヵ月」西日本新聞,2019/07/18
*24 「柚之原牧師「現在の制度に無理がある」 大村入国管理センターの長期収容問題」長崎新聞,2019/9/29
*25 「仮放免求めハンスト相次ぐ 大村入国管理センターの長期収容問題」長崎新聞,2019/9/29
*26 「ハンストのナイジェリア人男性が飢餓死するまで 調査報告書を読んだ医師が解説」dailyshincho, 2019/10/08
*27 “Nigerian on hunger strike dies in Japanese immigration centre,” guardian, 2019/10/02
*28 レジス・アルノー「男性が不慮の死「外国人収容所」悪化する惨状 今もハンガーストライキが行われている」東洋経済,2019/08/06
*29 「収容外国人ハンストで死亡 入管施設で初、報告書公表」nikkei,2019/10/01
*30 「法務省に入国拒否され長期収容の27人がハンスト 長崎では死者も」newsweekjapan,2019/06/26日
*31 「長崎に収容のナイジェリア人「飢餓死」報告書 入管ハンスト初の死者」東京新聞,2019/10/02
*32 「入管施設での外国人死亡、ハンストでの餓死だった。入管庁「対応問題なし」」朝日新聞デジタル,2019/10/01
*33 「入管施設で餓死 人権軽視ひずみあらわに」信毎・社説,2019/10/03
*34 野村昌二「体重71キロが47キロに…入管収容者の餓死 外国人に人権ないのか?」AERA,2019/11/12
*35 大橋毅「「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」の検討」,2019/12/28
*36 難民支援協会HP
*37 二村伸「急増する長期収容」NHK開設室,2019/08/21
*38 望月優大「追い込まれる長期収容外国人」2018/11/05,gendai,simedia.jp
*39 「『みんなで裸を見たと言われた』・・・・入管収容女性が手紙で訴え」毎日新聞HP,2020/05/18
*40 「「2週間だけ仮放免」 繰り返される外国人長期収容 「一瞬息させ、水に沈めるようだ」」毎日新聞,2019/11/12
*41 織田朝日「入管施設でハンストを続ける被収容者を苦しめる「2週間のみの解放」」ハーバー・ビジネス・オンライン,2019/11/01
*42「衝撃の内部映像、収容者“暴行”入管施設で何が?」TBS news23, 2019/12/24
*43 アムネスティ「入管施設で長期収容に抗議のハンスト198人」2019/10/ 08
*44 西田昌矢「入管収容者がハンストで半減? 死亡例受け仮放免増加、出所後も困窮」西日本新聞,2020/4/6
*45 「収容外国人の「ハンスト」拡大=仮放免求め、死者も-入管庁調査」jiji.com,2019/10/01
*46 「「入管は自分たちを殺したいのかな?」入管収容所で抗議のハンストが拡大」ハーバービジネスオンライン,2019/08/07
*47 「入管センター「外国人ハンスト」騒動、人権派新聞各紙がほとんど触れない事実」週刊新潮,2019/08/15・22日号
*48 「入管施設で長期収容に抗議のハンスト198人」アムネスティ,2019/10
*49 志葉玲「法務省は違法な収容をやめて―難民や弁護士らが会見、衰弱したハンスト参加者らが再収容の危機」Yahooニュース,2019/08/13
*50 志葉玲「救急車を二度追い返した!東京入管の非道、医師法や法務省令に違反の指摘~手遅れで死亡した事例も」Yahooニュース,2019/03/14
*51 鬼室黎「絶食ハンストした2人、入管が再収容 仮放免から2週間」朝日新聞デジタル,2019/07/24
*52 鬼室黎「入管にハンスト抗議、イラン人仮放免 体重25キロ減も」朝日新聞デジタル,2019/07/10
*53 「牛久入管 100人ハンスト 5月以降拡大、長期拘束に抗議」東京新聞,2019/07/25
*54 「「死ぬか出るか」入管ハンストの男性2人、会見で語った心境」J-CASTニュース, 2019/08/13
*55 「不法滞在外国人、ハンスト続出で入管苦慮…約4割は元刑事被告人」産経新聞,2019/09/30
*56 樫田秀樹「人権非常事態 死に追いやられる難民申請者」,『世界』2019年12月
*57 樫田秀樹「長期収容、自殺未遂、餓死…問題続出の背景に何がある?18年勤めた元職員が語る「入管」の闇」週プレNEWS, 2020/01/13
*58 西田昌矢「入管収容者がハンストで半減? 死亡例受け仮放免増加、出所後も困窮」西日本新聞,2020/04/06
*59 山田徹也「不法入国者が収容される現場の「壮絶な実態」 収容期間は長い人で4年超、医療面での問題も」東洋経済,2020/01/18 5:00
*60 「民主主義とは何かー5日間、計105時間に及ぶハンガーストライキで元山仁士郎さんが訴えたかったこと」琉球新報 2019年1月21日
*61 「元山さんのハンストに共感、県内外から応援続々 辺野古投票実現へ署名も」沖縄タイムス,2019/01/17
*62 「沖縄県民投票めぐるハンストを中止 医師の指摘で」朝日デジタル, 2019/01/19
*63 「「県民投票の会」元山氏のハンスト、ドクターストップ 105時間で終了」沖縄タイムス,2019/01/19
*64 「沖縄、不屈の歴史 ハンストは権力への意思表示」毎日新聞,2019/01/19
*65 辰濃哲郎「沖縄の世論を動かした若者たちの断固たる行動 分断と歴史、葛藤の島でもがく若者たち(3)」東洋経済ONLINE,2019/02/10
*66 三上智恵「「県民投票潰し」とハンガーストライキ」マガジン9,2019/01/23
*67 「宜野湾市役所前テントについて」宜野湾市ホームケージ
*68 「「ハンストはテロと同質」「さっさと死ね」秘書ツイート 衆院議員が謝罪」沖縄タイムス,2019/01/26
*69 「高須克弥、橋下徹、ネトウヨ、安倍応援団がバカ丸出しのハンスト叩き! 元山氏、ウーマン村本が完全論破」リテラ,2019/01/22
*70 美浦克教「沖縄県民投票と日本本土~元山仁士郎さんの105時間ハンストに思うこと」ニュース・ワーカー2,2019/01/20
*71 中村尚樹「琉球弧に見る非暴力抵抗運動~奄美と沖縄の祖国復帰闘争史~

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2020/06/03 at 09:50

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (8)

9.強制治療・強制栄養の残虐非人道性
日本政府は,「調査報告書」でも明らかなように,入管施設収容のハンスト者(拒食者)に対し強制治療・強制栄養をすることを認めている。

しかしながら,「リスボン宣言」や「マルタ宣言」をみれば明らかのように,それらは極めて残虐で非人道的であり,とうてい許容されるものではない。

このことは,古くから欧米で繰り返されてきた強制治療・強制栄養の多くの記録を見ても明らかである。以下参照。
ゴビンダ医師のハンスト闘争(21)
ゴビンダ医師のハンスト闘争(22)
ゴビンダ医師のハンスト闘争(23)
ゴビンダ医師のハンスト闘争(24)
ゴビンダ医師のハンスト闘争(25)

以上の多くの事例から明らかなように,入管施設被収容者に強制治療・強制栄養を実施し,力づくでハンスト(拒食)を断念させようとするようなことは,なすべきではない。残虐,非人道的であるばかりか,それらを強行しても成功の見込みはない。

したがって,サニーさんに対し強制治療・強制栄養を実施しなかったこと,それをもって出先機関たる大村センターの責任を問うべきでもない。大村センターの責任は,仮放免など他の採りうる方法によりハンスト死を防止するための努力を十分に尽くさなかったことにある。

 
■奴隷用強制摂食器具(National Museum of Denmark)/フォアグラ強制給餌(Stop Force-feeding)

10 見直されるべき入国管理政策
大村センターでハニーさんをハンストに追い込み,死に至らしめたのは,日本政府の入国管理政策そのものである。

外国人労働者を,尊重されるべき人格をもった「人間」としてではなく,安上がりで使い勝手の良い「労働力」としてのみ受け入れ,日本側の都合で不要となれば,一方的に送り返そうとする。もし在留資格が切れ,特別在留資格も得られず強制退去命令を受け収容施設に入れられてしまうと,仮放免はあるにせよ,原則として出国まで「無期限」で拘束される。

また,入管施設被収容者が難民申請をしていても,難民認定は極めて厳しく,やはり長期の「無期限」収容ということになってしまう。

外国人労働者や移民・難民の扱いは,どの国においても難しい課題だが,日本の場合は,とりわけ問題が多い。ただ,はっきりしているのは,このままでは「無期限」収容への抗議ハンストはなくならず,しかもそれを断念させるための強制治療・強制栄養はあまりにも残虐・非人道的なため実施は実際には困難だということである。

入管施設でのハンスト問題は,外国人労働者あるいは移民・難民の処遇を根本的に改める以外に,解決されることはないだろう。


■強制摂食反対ポスター/ICE強制摂食抗議デモ(NYT, 2019/01/31

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/06/02 at 08:51

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (7)

8.入管庁のハンスト死防止策提言
入管庁「調査報告書*1」がハンスト死防止のため提言しているのは,もう少し具体的にいうと,つぎのような方策である。

(1)説得,カウンセリングの強化。精神疾患が疑われる場合は,精神科受診(p13)。
(2)「拒食や治療拒否により・・・・危険が生じている場合には,・・・・強制的治療を行うことが可能となるよう体制を整備」(p14)。
(3)強制治療実施に不可欠の常勤医師の確保(p14-15)。
(4)「強制的治療の体制を確保できた収容施設を拒食対応拠点と定め,・・・・時機を失することなく当該被収容者を当該拠点に移収して処遇する」(p15)。

このように「調査報告書」は,強制治療・強制栄養の実施をハンスト死防止策として提言する一方,送還や仮放免についても,検討を求めてはいる。

しかし,送還については,促進のための方策の検討が必要と述べているにすぎない。

また,仮放免については,弾力的な運用の検討を提言してはいるが,ハンスト(拒食)を理由とする場合には,極めて消極的である。

・「拒食による健康状態の悪化は,拒食を中止して摂食を再開したり点滴治療を受けることなどにより解消されるべきものであり,拒食者の健康状態の悪化を理由として仮放免を行うことについては慎重な検討を要する」(p15-16)。
・「(拒食で生命が危険になり)治療・回復を図るためには一時的に収容を解いて治療に専念させることが不可欠かつ適切であると考えられる場合には仮放免を検討する必要があるところ,こうした仮放免は飽くまでも治療や健康状態の回復を目的とし,この目的に必要な限度で行うべきものである。」(p16)。
・「拒食による健康状態の悪化は,拒食の中止又は収容施設内においても可能な点滴等により改善される性質のものであり,拒食者の健康状態の回復を図るために仮放免が不可欠ということはなく,このような状態における仮放免は,仮放免許可を得ることを目的とした他の被収容者の拒食を誘発するおそれがあることに鑑みると,一般に,拒食により健康状態が悪化したものを仮放免の対象とすること自体,極めて慎重でなければならない」(p13)。

このように見てくれば,「調査報告書」が,送還困難なハンスト者(拒食者)が危険な状態になったときは,(1)医師の判断に基づき強制治療・強制栄養を実施するか,あるいは(2)健康回復のため仮釈放し,健康回復後速やかに再収容する,という立場をとっていることは明らかである。

■収監サフラジェットへの強制摂食(英紙1913年5月24日)

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/06/01 at 15:23

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (6)

7.入管庁と「リスボン宣言」・「マルタ宣言」
日本政府は,入管施設に多数の無資格入国者を収容しており,ハンスト(拒食)も少なくなかったことから,世界医師会の「患者の権利に関するリスボン宣言」(1981/2015 *18)や「ハンガーストライキ実行者に関するマルタ宣言」(1991/2007 *19)については,当然ながら,熟知していた。大村センターのハンスト死に関する「調査報告書」でも,第三者専門医からの聴取としてであるが,両宣言につきこのように言及されている。

リスボン宣言:強制的治療が許されないという考え方は,このこの「宣言」などに示され,国際的に幅広く支持されてコンセンサスがある。この「宣言」は,精神的に判断能力のある成人患者の自己決定の権利などを述べたもの(p6-7)。
マルタ宣言:「リスボン宣言」に準じたもの。医者は個人の自己決定を尊重すべきである。ハンガーストライキを行うものに対して,同意なき強制的治療や強制栄養は行うべきではないなどとしている(p7)。

このように「調査報告書」は,第三者専門医の所見としてではあるが,強制治療や強制栄養の否認には国際的コンセンサスがあると明記している。

しかしながら,ここで注意すべきは,「調査報告書」が他方では,強制治療や強制栄養が許される場合もあることを,幾度も念押し確認している点である。本筋は,むしろこちらの方にある。

「調査報告書」第三者専門医所見によれば,精神保健福祉法,感染症関係法など法が規定する場合には,強制治療は認められる。また,意識喪失の場合は,それ自体は同意と同じではないが,自殺阻止と同様,救命優先の観点から強制治療は認められる。さらに治療拒否や自殺願望は精神疾患に起因する場合が多いので,そうした場合には強制治療は許されるという意見もある。

「拒食について,その原因が,うつ病や統合失調症,ストレス反応などの精神疾患と診断されるのであれば,入院治療を実施することとなる。病院に連れてくれば治療拒否をしなくなる人もいる。本件のような拒食者については,精神疾患を見落とすことがないよう,精神科を受診させた方がよい。」(p7)。

以上のように見てくると,「調査報告書」が,同意なき強制治療・強制栄養の否認を国際的コンセンサスとしつつも,意識喪失を待って,または精神疾患の診断を得て,それらを実施すべきだという立場をとっていると判断して,まず間違いないであろう。

■グアンタナモ基地での強制摂食(Graphic News, 2013/05/01)

*18 「患者の権利に関するWMAリスボン宣言
*19 WMA Declaration of Malta on Hunger Strikers, Medical Assembly, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/31 at 10:55

カテゴリー: 社会, 外交, 人権

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入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (5)

6.大村入管センターの対応
このハニーさんハンスト死の責任は,入管庁「調査報告書(*1)」を見る限り,不当で不合理な出入国管理制度を制定し維持してきた日本政府にある。(出先機関職員個々の根源的な抵抗義務の問題については,別の機会に論じることにする。)

大村入管センターの職員は,規定に従い,サニーさんに対し繰り返し摂食と受診を促した。そして,それでも拒食が続き衰弱が激しくなると,何とか説得し所内診療を受けさせた。

サニーさんを診察した診療室医師(非常勤)は,彼に対し,これ以上拒食を続けると生命が危ないと警告し,センター側には彼を説得して点滴を受けさせるよう指示した。

この医師は,同意なき治療(強制治療)は実施すべきでないという立場をとっており,入管センター側には「衰弱して拒絶意思を明示しなくなった時点で直ちに入院治療させることを指示した」(p49)。

この医師の強制治療否認の立場は医学倫理上広く認められており,大村センター診療室医師(非常勤)9名も近隣の医療機関もすべて,この立場をとっていた。そのため,大村センターは,サニーさんに対する強制治療は実施困難と判断し,担当医師の指示に従うことにしたのである。

むろん大村センターも,拒食については,入管局長通達「拒食中の被収容者への対応について」(2001年11月2日*3)があることは十分承知していた。

この通達によれば,拒食3週間を超えると診療室医師と看守が拒食者に強制治療への移行を伝え,22日目から医師が不要と判断しない限りそれを実施することになっている。また,これ以外に,体重減少10%以上の場合および医師が必要と認めた場合は,強制治療を実施する。ただし,拒食21日を超えても,医師が不必要と判断したときは,強制治療は延期する。さらに,医師が強制治療が必要と判断したにもかかわらず拒食者が強制治療を拒否する場合には,「治療行為実施の最終的な決定は入国者収容所長又は地方入国管理局長の指示による」(2(5))。

回りくどく難解な表現だが,要するに「通達」によれば,強制治療は,(1)医師の必要との判断のもとに実施されるが,(2)それでも,その強制治療が拒否される場合には,入国者収容所長または地方入国管理局長がその実施につき最終決定する,という規定になっている。

大村センターは,この入管局長「通達」の存在を十分承知していながら,なぜかそれを診療室医師には知らせていなかった。この医師の強制治療否認の立場が分かっていたからか,あるいは他の理由からか,そこのところは分からない。いずれにせよ,医師は,たとえ「通達」を知らされても,医学倫理上の立場を変えることはなかったであろうから,「通達」を知らせなかったことそれ自体は特に問題とするには当たらないであろう。

しかしながら,大村センターが「衰弱して拒絶意思を明示しなくなった時点で直ちに入院治療させる」という診療室医師の指示に従ったことは,結果的には失敗し,ハニーさんを飢餓死させることになってしまった。

その意味で,大村センターにハンスト死への結果責任があることは明らかである。大村センターは,ハンスト死防止のため,仮放免への努力を尽くすべきだった。しかしながら,地方出先機関にすぎない大村センターには無期限収容の原則から外れることは難しく,たとえ仮放免の努力をしても,結局は,規定通り診療室医師の指示には従わざるを得ないことになっていたであろう。

むろん,ハンスト死防止のためであれば,強制治療是認の医師や医療機関を他に探すべきであったといえなくもないが,本人の同意なき強制治療は,たとえそれを是認する医師や医療機関が見つけられたとしても,それ自体,きわめて残虐な,とうてい許容されざる拷問に等しい措置である。

大村センターには,ハニーさんハンスト死への責任はあるが,それは仮放免のための努力を尽くさなかったからであり,断じて強制治療を実施しなかったからではない。真に責められるべきは,出先機関たる大村センターではなく,最後の手段としてのハンストに訴えざるをえないような出入国管理政策をとり続けている日本国政府である。

■Bobby Sands Trust HPより

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)
*3 入国管理局長「拒食中の被収容者への対応について」(通達),2001年11月2日

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/30 at 11:10

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (1)

1.ハニーさんハンスト死と強制治療の提言
ナイジェリア人男性「サニーさん」(通称,50代)が,長崎県大村入国管理センターにおいて,無期限収容への抗議ハンストにより「飢餓死」したのが2019年6月24日,もうすぐ1周忌を迎える。(入管は用語「ハンスト」に代え「拒食」または「摂食拒否」を使用。)

このサニーさんの「飢餓死」は入管初の「ハンスト死」であったため,しばらくは大きく報道され,出入国在留管理庁(入管,入管庁)も詳細な調査を実施し,その報告書を2019年9月1日に発表した(*1,2)。

しかしながら,抵抗の手段としてのハンスト(ハンガーストライキ)への日本社会の関心は諸外国に比べ高いとはいえず,たとえ関心を示しても「命を取引材料にするのは卑怯だ」とか「本気で死ぬ気もないのに」,「ほんの数日でドクターストップとは笑止千万」,「ハンストはダイエットのため?」といった否定的,冷笑的なものが少なくなかった。

ハニーさんのハンスト死についても,半年もすると報道や論評はほとんど見られなくなった。日本社会は,ハンストにはあまり同情的ではないのである。

この日本社会のハンストへの低関心をバックに,日本政府はハンスト死を阻止しハンストそのものを断念させるための強力な手段をとろうとしている。

日本政府にとって,入管施設被収容者をハンストで死なせてしまうのは失策に違いないし,またそれ以上に,ハンスト死が出身国や他の諸国に知られ,その原因となった日本の入管制度への批判が高まり,ついには現行入管制度の維持が困難となるようなことになってしまっては困る。

そこで日本政府は,入管施設被収容者のハンストに対しては,本人の同意なしに実施される「強制治療(強制的治療)」や「強制栄養(強制的栄養摂取)」をもって対応することを,サニーさんハンスト死を機に再確認したのである。

しかしながら,一般に「治療拒否」を表明している人に「強制治療」や「強制栄養」を実施するのは非人道的とされ,医学倫理上,通常は認められてはいない。ましてや抗議ハンストの場合は,自分の強固な意思で自覚的に拒食(ハンスト)が行われている。そのハンスト者(拒食者)に対し「強制治療」や「強制栄養」を実施し,ハンストを諦めさせようとするのは,他の場合以上に残虐であり非人道的といわざるをえない。そのような政策はとってはならない。

以上のような観点から,以下,サニーさんのハンスト死の経緯と,それ対する入管庁の対応につき,要点をまとめ,検討してみることにする。

■大村入管センター(Google)

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2020/05/26 at 17:14

カテゴリー: 社会, 労働, 人権

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