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憲法への米介入,日本でもネパールでも
バイデン米副大統領が8月15日,ヒラリー・クリントン候補応援演説において,米国が日本の憲法を書いたと公言し,日本国民,とりわけ愛国護憲派を激怒させている。
“Does he[Trump] not understand we wrote Japan’s constitution to say they could not be a nuclear power? Where was he when – in school? Someone who lacks this judgment cannot be trusted.” (https://www.hillaryclinton.com/)
“Does he not realize we wrote the Japanese constitution so they could not own a nuclear weapon? Where was he in school? Someone who lacks this judgement cannot be trusted.(核武装を持てないように我々が日本の憲法を書いたことを、彼は知らないのではないか。彼は学校で習わなかったのか。トランプは判断力に欠けており、信用できない)” (http://www.newsweekjapan.jp/reizei/2016/08/)
たしかに,あっけらかんとした身も蓋もない発言だが,これはつい口が滑った個人的なウッカリ発言ではなく,政治的に十分計算された,米政府の「半公式」の日本向け警告と見るべきだろう。米国の書いてやった憲法を勝手に改悪し,あるいは解釈改憲し,核武装するな,米政府は許さない,ということ。次期大統領本命のクリントン候補陣営が,ホームページに堂々とそのまま掲載し続けている事実をみれば,それは明白。
このことは,最近の在日米軍広報(FBなど)によっても,傍証される。たとえば,在日米軍司令部は8月12日,フェイスブックに,このような記事を掲載している。
「皆さんは、1947年施行の昭和憲法第9条が、日本の人々は国際紛争を解決する手段としての戦争を永遠に放棄すると規定していることをご存知でしたか?これは前例の無い優れた平和の声明です。相互協力及び安全保障条約は、日本とその政権下にある地域の防衛を含め、極東での安全と安定を維持することを米国に委任します。・・・・米国の存在と揺ぎ無い同盟による抑止力は、1960年以来、日本の平和と繁栄の基礎的要素となっています。
Did you know that Article IX of the 1947 Showa Constitution stipulates that the Japanese people would forever renounce war as a means of settling international disputes? This is a remarkable statement of peace without precedent by a modern power. The Treaty of Mutual Cooperation and Security commits the United States to maintaining security and stability in the Far East, to include the defense of Japan and territories under its administration. (….)the deterrence generated by the US presence and unwavering alliance commitment has been a foundational element of Japanese peace and prosperity since 1960.」(U.S. Forces Japan (在日米軍司令部FB, 12 Aug)
在日米軍も,「戦争を永遠に放棄すると規定している・・・・前例の無い優れた平和の声明」たる昭和憲法を守れ,と日本の政府と国民に要求しているのだ。
この在日米軍司令部FB記事は,バイデン副大統領発言とニュアンスは異なれ基本的には同趣旨。日本の憲法問題への米政府の政治的介入なのだ。
これに対し,米政府のネパールの憲法問題への介入は,はるかに露骨な直接的介入である。これについては,すでに紹介したので,ご覧いただきたい。
⇒⇒改宗の自由の憲法保障,米大使館が働きかけ
谷川昌幸(C)
無視される日本国憲法
ネパール制憲議会(CA)が2015年初春の制定・公布に向け,新憲法の起草をしているが,その過程において,日本国憲法はほぼ完全に無視されている。
1990年憲法制定過程においては,日本国憲法は最も重要な外国憲法の一つとされ,憲法調査団さえ,日本に派遣された。1990年憲法には,日本国憲法を参考にしたと思われる条文も,いくつかある。
ところが,今回の新憲法制定では,日本国憲法は全くお呼びではない。たとえば,国連開発計画(UNDP)の「ネパール参加型憲法制定支援(SPCBN)」の参照用外国憲法は,下記の通り。
Support to Participatory Constitution Building in Nepal (SPCBN)
Constitutions of Other Countries
1) The Constitution of France (नेपाली English)
2) The Constitution of Socialist Republic of Cuba (नेपाली)
3) The Constitution of the People’s Republic of China (नेपाली)
4) The Constitution of Austria (नेपाली English)
5) The Constitution of South Africa (नेपाली)
6) The Constitution of Ethiopia (नेपाली)
7) German Basic Law (नेपाली)
8) The Constitution of Canada 1982 (नेपाली)
9) The Constitution of United States of America (नेपाली English)
10) Indian Constitution (English)
11) Federal Constitution of the Swiss Confederation (नेपाली)
12) The Draft Constitution of Kenya (English)
理由は,いくつか考えられる。第一に,今回は,世俗共和制,連邦制が前提であり,象徴天皇制単一国家の日本国憲法は,原理的になじまないということ。第二に,ネパールは武装独立,国軍堅持だが,日本国憲法は非戦非武装(第2章第9条)だということ。そして,第三に,日本の国力が減退し,存在感ないし影響力が小さくなっているということ。
むろん,先進諸国のネパール憲法制定支援は,実際には支援にとどまりえず,事実上,国政の根幹への広範な介入,赤裸々な内政干渉になっている。もし私がネパール人なら,愛国心を奮い立たせ,外国介入阻止,排外闘争に走っていたかもしれない。日本とならび,有史以来,独立を維持し続けてきた誇り高きネパールにとって,外国の憲法制定支援介入は政治的屈辱であり,最良の友好国・日本としては,そのようなポストモダン型ネオ植民地主義への加担は警戒すべきであろう。
が,それはそれとして,UNDPの参照憲法資料リストから日本国憲法が外されているのは,愛国者の一人として,無性に腹が立ってならない。UNDPの最大スポンサーは日本(下記グラフ赤線)。米仏独ばかりか社会主義の中国ですらあるのに,なぜ日本の憲法はないのか? (英国は不文憲法。)
■UNDP拠出金。※その他の資金はコスト・シェアリングと信託基金の合計。出典:UNDP, Annual Review of the Financial Situation(UNDP駐日代表事務所)
たしかに日本国憲法は古い。しかし,少なくとも第2章第9条の戦争放棄は,世界最先端であり,たとえネパールが最終的には武装独立を採るにせよ,もう一つの選択肢として十二分に検討されるに値する規定だ。これを参照憲法資料にすら掲載しないのは,明らかにUNDPの政治的意思であり,その見識を疑う。
ネパールの友人・知人には,日本国憲法,少なくとも第2章第9条は,参照憲法資料に追加されるべきではないか,と問題提起してみたいと思っている。
谷川昌幸(C)
集団的自衛権閣議決定,ネパールの報道(1)
安倍内閣が7月1日夕,集団的自衛権の行使を可能とする閣議決定を行った。憲法第2章第9条の明白な「解釈改憲」である。
この閣議決定は夕方であったのでネパール・メディアはまだほとんど報道していないが,注目すべきは,BBC電とはいえ,真っ先に報道したのがゴルカパトラ(ライジング・ネパール)だったこと。いつもは亀のように遅いのに,こうした情報はやけに早い。
ネパール関係ブログでは,野口健氏の発言が注目される。
集団的自衛権に対し「日本は戦争する国になった」と短絡的な意見もありますがあのPKO法案では社会党が牛歩戦術などと幼稚な戦略をとり、日本が戦争する国になるといったような事を訴えてきましが、今では日本のPKO活動はむしろ評価する声の方が多い。日本は少しづつ当たり前の国に向かっている。
— 野口健 (@kennoguchi0821) 2014, 7月 1
ならば、あなたは大事な家族が殺されかけようとしている時に、何もしないでただただ指を加えているだけですか RT @ririsu2010: 自分が人殺しに行けますか?
— 野口健 (@kennoguchi0821) 2014, 7月 1
確かに中国にとって、日米の更なる連携強化には歓迎しないでしょう。しかし、集団的自衛権に踏み込まざるを得なかったのは中国の軍拡による脅威が大きく影響したからでは。
中国は批判、日米連携強化による封じ込め警戒(読売新聞) – Y!ニュース http://t.co/v1KkTAfhw3
— 野口健 (@kennoguchi0821) 2014, 7月 2
参考のため,日本の政府開発援助(ODA)の推移を紹介しておく。このODAについても,安倍内閣は外国への軍事援助に使うことを検討している。もしこれが認められたなら,武器輸出三原則も緩和されたので,日本ODAが世界一の栄誉を奪還するのも夢ではあるまい。
そして,もし日本の高性能「防衛機器」をODAによりネパールに援助できるなら,日本の対ネパール外交が中国の後塵を拝するようなこともなくなるであろう。
谷川昌幸(C)
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