ネパール評論 Nepal Review

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皇太子憲法言及不掲載,答えにならない朝日新聞の「お答え」

朝日新聞が,またまた記事批判への言い訳記事を掲載した。菅野俊秀(社会部次長)「皇太子さまの憲法への言及、なぜ載ってないの? Re:お答えします 新しい発言紹介 指摘真摯に受け止めます」(朝日3月10日)。(皇太子の憲法言及については,「あつものに懲りて憲法を消す朝日新聞」参照。

これは,読者の質問への「お答え」の形を取っているものの,内容的には,皇太子憲法言及不掲載を批判した池上彰氏への弁解であることは明白である。要旨は以下抜粋の通り。

「[皇太子の憲法言及は]昨年は記事に盛り込みました。・・・・今年も、デジタル版の記事では皇太子さまが憲法に言及した部分も含めて、会見全文とともに掲載しました。しかし、紙面ではスペースが限られ、できるだけ新しい内容を読者に伝えようと、前述の部分を優先させました。」(朝日3月10日)

しかし,スペース不足でカットしたなどという弁解を額面通り受け取るお人好しで脳天気な読者は,一人もいないだろう。改憲や「70年談話」問題が連日マスコミで報じられているさなか,皇太子が戦争の惨禍や平和の大切さと関連づけて憲法に言及した。当然,大きな政治的意味を持ちうる。その皇太子発言を,朝日新聞は掲載しなかったのだ。

好意的に解釈するならば,記事を執筆した皇室担当記者が,皇太子や皇室が政治に巻き込まれるのをはばかり,憲法言及部分をカットした,ということになるだろう。ちなみに,その皇室担当記者ツイッターは,皇室記事満載。

しかしながら,前回も述べたように,天皇には憲法尊重擁護の義務があり,機会あるごとに天皇や皇族が憲法尊重の立場に立つ発言をするのは当然のことである。もし,それを非難する者がいるとすれば,それこそ天下の不忠者ということになってしまうであろう。

この場合,皇太子の憲法言及部分をカットした心情はわからないではないが,その判断がジャーナリズムとして正しかったかといえば,そんなことは断じてない。池上彰氏が「こんな大事な発言を記事に書かない朝日新聞の判断は,果たしてどんなものなのでしょうか」と,手厳しく批判しているとおりだ。ジャーナリズム失格!

それでは,もし本当に,菅野社会部次長が「お答えします」で説明しているように,皇太子の憲法言及が「新しい内容」ではないのでカットしたというのであれば,それは,いま現在,いったい何が問題となり重要なのか,いまジャーナリズムとして何を伝えなければならないのか,といったことすら全く念頭になかった,ということに他ならない。それこそ,まさしくジャーナリズム失格! 

池上彰氏は,皇太子の「謙虚に過去を振り返る」という発言の前の,これもカットされてしまった部分の重要性をも指摘しつつ,「新聞ななめ読み」(朝日2月27日)をこう結んでいる――

「記者やデスクの問題意識の希薄さが気になります。」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/03/11 at 13:29

目を引く日本批判記事

ネパールで販売されている新聞を見ると,「中国日報」はむろんのこと,他の新聞でも,このところ日本批判記事が目に付く。日本の積極面を伝える記事は,あっても小さく,目立たない。

たとえば,2月7-8日付「リパブリカ」。AFP無署名記事「中国の苦しみ,731部隊からの解放70年後の今も」を,最上段に大きく掲載している。

731部隊は,大日本帝国の皇軍の秘密研究機関。生物化学兵器研究のため,中国人,モンゴル人,朝鮮人,ロシア人,アメリカ人などの捕虜やスパイ容疑拘束者らを使い,様々な人体実験・生体実験をした。その残虐非道は,言語に絶する。

ところが,この重大きわまる反人道行為は,敗戦のどさくさにまぎれ,米軍との裏取引か何かで,解明されないまま,うやむやにされてしまった。

リパブリカ記事によれば,中国政府は,1939~1945年の間に人体実験で虐殺されたのは3000人以上とみている。秘密機関のため不明な部分も多いが,人体実験で多数の人々が犠牲になったことは事実であり,日本政府も日本国民も,何の申し開きもできない。責任は,あげてわれわれ日本の側にある。日本自らが事実関係を解明し,責任の所在を明確にし,そのうえで誠心誠意謝り,許しを請う以外に,とるべき道はない。

この記事に見られるように,日本批判は,日本以外では,このところ好んで掲載される傾向にある。これに対し,偏狭な排外的ナショナリズムに凝り固まり,嫌韓,嫌中,嫌米など,嫌○○で対抗しようとするのは,危険きわまりない愚策中の愚策であり,日本の立場をさらに悪化させるだけである。

歴史の直視は,他の誰でもない,日本自身のために,絶対に避けられない,避けてはならない日本自身の義務なのである。

【補足】「リパブリカ」は「インターナショナル・ニューヨーク・タイムズ」と提携,両紙同時購読も少なくない。一方,「ネパリタイムズ」は「中国日報」と協力。では,「カトマンズ・ポスト」はどうするのか? 「朝日新聞」あるいは「読売新聞」などとの提携にむけて動くのか? たぶん,そうはしないだろう。世界戦略で動く超大国と,それができない日本との,どうしようもない格の差は,そこにある。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/02/09 at 10:40

安倍首相の靖国参拝と天皇誕生日・クリスマス・毛沢東生誕記念日

1.天皇・キリスト・毛沢東・安倍首相
安倍首相が,政権誕生1周年の12月26日,靖国神社を参拝した。同じ26日,中国では,毛沢東生誕120周年が大々的に祝われた。3日前の23日は天皇誕生日であり,国民は天皇傘寿を心から祝った。そして,前日の24-25日はクリスマス,世界の何億という人々が,こぞってイエス・キリストの降誕を祝い祈りを捧げた。12月の23日,24-25日,26日は,世界中の多くの人々にとって,特別の日である。

その大切な日々の最中,安倍首相は靖国神社を参拝した。安倍氏の首相就任は,天皇(23日),イエス・キリスト(24-25日),毛沢東(26日)といった特別の人や神や偉人の生誕に相当する歴史上の出来事なのだ。

2.靖国参拝歓迎
日本国民の多くは,安倍首相の靖国参拝を歓迎した。街にもネットにも喜びの声が満ちあふれているが,ここではネパールと関係が深い野口健氏のツイッターを紹介しよう。氏の意見は,大多数の日本人の気持ちを代表しているし,またツイッターは公開されており,世界中への拡散が自明なものとされ期待されてもいるからである。

—-(以下引用)—————–
野口健 Twitter
@kennoguchi0821 2013年12月26日 – 11:33
総理の靖国参拝はあるべき姿でいちいち大騒ぎする話でもなく。日本のメディアもいちいち煽るからいけない。
@kennoguchi0821 2013年12月26日 – 11:39
特攻隊員もそうですが多くの兵士が「靖国で会おう」と言いながら出撃していった。僕もよく靖国参拝しますけれどその度に戦争を繰り返してはいけないと心底に感じるもの。戦争を美化したり正当化するものでもない。
@kennoguchi0821 2013年12月26日 – 11:41
本当にそう RT@8robinaru4:靖国神社は、戊辰戦争以後に日本のために命を懸けて戦ってくださった方々が祀られてる神社なのに、マスコミはまるでファシスト礼賛神社のように報じますよね。故人に対して大変失礼ですよね。
@kennoguchi0821 2013年12月26日 – 13:30
総理の靖国神社参拝の度に大騒ぎするこの状況に対し英霊たちは何を感じているのだろうか。国が始めた戦争であり多くの兵士は赤紙一枚で戦場に派兵され散っていった。僕が遺骨収集を続けているのも国の為に戦い亡くなった方々に対し冷たい国は、そんな国はいずれ滅びると感じているからだ。
—-(以上引用)—————–

3.毛沢東生誕120周年日の靖国参拝
しかし,26日の靖国参拝は,お隣の中国にとっては,衝撃であったにちがいない。あまりにも危険なので中国側は自制しているが,それでも新華社や中国日報の記事を見ると,その衝撃は十二分に察知できる。

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 ■「毛沢東氏の一生の印象深い微笑みの写真」/「日本の安倍晋三首相、第二次世界大戦のA級戦犯が祀られている靖国神社を参拝」(新華網日本語版12月26日,写真キャプション原文)

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 ■新華網表紙掲載写真(Xinhuanet, 26 Dec)

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 ■中国日報風刺画「歴史偽装(リ・フェン)」。アジア史の真実・安倍首相・クリスマスの組合せ (China Daily, 26 Dec)

この取り合わせの写真を見て,中国の人々は平静でいられるだろうか? 26日の靖国参拝が,隣国でこのように見られることを予期できないような人には,想像力のかけらもないといわざるをえない。

さらに憂慮すべきは,中国は情報戦略に長けていること。極東の島国で国内しか見ようとしない内弁慶日本とは,スケールが違う。

たとえば,ネパールでは,先述のように,中国日報はおまけとして配布されているし,新華社ニュースも広く参照され転載されている。事情は,アジアの他の地域でも同じであろう。安倍首相が国内向けに何を言おうが,アジアでは,中国発の情報の方が,ますます広く流通し,共感を得ていくことは明白である。

4.クリスマスと靖国参拝
26日の靖国参拝は,アメリカをはじめ西洋諸国にも深甚な衝撃を与えていることは間違いない。靖国神社は「神社(宗教施設)」であり,そこには第二次大戦のA級戦犯も合祀されている。その靖国神社への首相参拝は憲法の政教分離原則違反。それは,大東亜戦争の政治的正当化であるばかりか,さらには宗教的神聖化(聖戦化)でもある。

このような性格を持つ靖国参拝が,クリスマスを祝い祈りを捧げている人々に衝撃を与えないはずがない。宗教はあまりにも危険なので表には出さないであろうが,それがアメリカをはじめ西洋諸国の警戒心を一層高めることは間違いない。彼らは,日本国元首の靖国神社(Yasukuni Shrine)参拝を,政治的に,決して許容しないであろう。

5.天皇と安倍首相と靖国参拝
23日に天皇誕生日を祝っていた人々の中にも,安倍首相の直後の靖国参拝には衝撃を受けた人がいるにちがいない。

昭和天皇も今の天皇も,日本国憲法の遵守を幾度も明言されてきた。23日にも天皇は「おことば」で,こう語られた。

—-(以下引用)—————
戦後,連合国軍の占領下にあった日本は,平和と民主主義を,守るべき大切なものとして,日本国憲法を作り,様々な改革を行って,今日の日本を築きました。戦争で荒廃した国土を立て直し,かつ,改善していくために当時の我が国の人々の払った努力に対し,深い感謝の気持ちを抱いています。
After the war, Japan was occupied by the allied forces, and based on peace and democracy as values to be upheld, established the Constitution of Japan, undertook various reforms and built the foundation of Japan that we know today. I have profound gratitude for the efforts made by the Japanese people at the time who helped reconstruct and improve the country devastated by the war. (http://www.kunaicho.go.jp/okotoba/01/kaiken/kaiken-h25e.html)
ーーーー(以上引用)ーーーーーーーーーーーーーーーー

日本国憲法遵守のお立場から,昭和天皇は,A級戦犯合祀をきっかけとして,靖国神社参拝をやめられた。(一部異論については関係文献参照。)今の天皇も,靖国神社には決して参拝されない。

日本国の「象徴」の天皇が,憲法を遵守されるが故に靖国神社に参拝されないのに,日本国の「元首」であり他の誰よりも厳しい憲法遵守の法的義務を負う安倍首相が,靖国神社を参拝するのは,なぜか?

これは,近隣アジアの人々にも他の世界中の人々にも説明できない。いや,日本国民により選ばれ,日本国民を代表しているにもかかわらず,その日本国民自身にさえ,それは合理的には説明できないであろう。

谷川昌幸(C)

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【米政府声明】

Statement on Prime Minister Abe’s December 26 Visit to Yasukuni Shrine

December 26, 2013

Japan is a valued ally and friend. Nevertheless, the United States is disappointed that Japan’s leadership has taken an action that will exacerbate tensions with Japan’s neighbors.
The United States hopes that both Japan and its neighbors will find constructive ways to deal with sensitive issues from the past, to improve their relations, and to promote cooperation in advancing our shared goals of regional peace and stability.
We take note of the Prime Minister’s expression of remorse for the past and his reaffirmation of Japan’s commitment to peace.

安倍首相の靖国神社参拝(12月26日)についての声明

2013年12月26日

 日本は大切な同盟国であり、友好国である。しかしながら、日本の指導者が近隣諸国との緊張を悪化させるような行動を取ったことに、米国政府は失望している。
 米国は、日本と近隣諸国が過去からの微妙な問題に対応する建設的な方策を見いだし、関係を改善させ、地域の平和と安定という共通の目標を発展させるための協力を推進することを希望する。
 米国は、首相の過去への反省と日本の平和への決意を再確認する表現に注目する。
(http://japan.usembassy.gov/e/p/tp-20131226-01.html) (http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20131226-01.html)
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【中国政府の抗議】

程永華大使,安倍晋三首相の靖国神社参拝に強く抗議

2013/12/262013年12月26日

 12月26日午後、程永華大使は日本の斎木昭隆外務事務次官と緊急に会い、安倍首相の靖国神社参拝について厳重な申し入れと強い抗議を行った。
 程大使は、きょう、安倍晋三首相が中国などアジアの隣国の激しい反対を顧みず、強硬に靖国神社を参拝したことに中国は極めて大きな憤りを感じ、強く抗議すると表明した。
 程大使は次のように述べた。靖国神社は戦前、日本軍国主義の対外侵略拡張の精神的道具であり、象徴だった。現在もアジアの被害国人民に対してこの上ない罪を犯した第二次世界大戦のA級戦犯を祀っている。彼らは日本軍国主義の対外侵略発動、実行の画策者、指揮者であり、近代史上、アジアと世界に非常に大きな災難をもたらした張本人である。安倍首相が国際社会やアジアの隣国、中国人民の強い関心と反対を無視し、あくまでも靖国神社を参拝したことは国際正義に対する挑戦であり、人類の良識を踏みにじるもので、日本の今後の進む方向に対するアジアの近隣国と国際社会の高度の警戒と強い懸念を引き起こさざるを得ない。
 程大使は次のように強調した。中国は日本軍国主義による対外侵略戦争の最大の被害国で、中国人民は日本の侵略戦争の中で深く重い災難を受けた。この歴史を正しく認識し、対処することが戦後の中日関係の回復と発展の政治基盤である。中日の四つの政治文書はこれについて明確に規定している。今回の安倍首相の参拝は中日の四つの政治文書の原則に重大に反し、日本側の約束に重大に反し、中日関係の政治基盤を重大に損ない、中国人民の感情を重大に傷つけた。
 程大使は次のように指摘した。現在、中日関係は依然として深刻な困難に直面しており、安倍首相の靖国神社参拝は歴史問題で再び重大なトラブルを引き起こし、両国関係の改善・発展に重大な政治的障害をもたらした。これによって引き起こされるすべての結果に日本は責任を負わなければならない。
 斎木次官は、日本は日中関係を重視しており、今回のことが両国関係に影響を与えることのないよう希望すると述べた。また斎木次官は安倍首相の靖国神社参拝について弁明した。程大使はこれに対し厳しく反論した。(http://www.china-embassy.or.jp/jpn/sgxw/t1112233.htm)

「敗北」から学ぶ:龍應台『台湾海峡1949』

9月18日は柳条湖事件(1931年,関東軍自作自演謀略事件)の日。思い立って龍應台『台湾海峡1949』を読んでみた。
 ●龍應台『台湾海峡1949(大江大海1949)』原著2009年;天野健太郎訳,白水社,2012年

4百頁余の大著であり,読み通すのはたいへんだが,内容は衝撃的。国民党政府軍,人民解放軍,そして日本軍,ソ連軍などが相互に,また住民に対して,何をしたのかが,多くの具体的な証言により,リアルに語られている。目をふさぎ,耳を覆いたくなるが,いまや「戦前(次の戦争の前)」を生きる日本人,特に若い世代の人びとにとっては,必読文献の一つといってもよいだろう。

著者は「本書は文学であって,歴史書ではない」(8頁)といい,事実,資料解釈などに批判もあるようだが,本書の基本的立場は一貫している。冒頭の詩で,著者はこう問いかけている――
  彼らはかつて,あんなに意気盛んで若々しかった。しかし,
  国家や理想のため突き動かされたものも,
  貧困や境遇のため余儀なくされたものも,
  みな戦場に駆り出され,荒野に餓え,凍え,塹壕に死体を曝した。
  ・・・・
  彼らは「敗北」で教える―
  本当に追求すべき価値とは何なのか。

これは,とりわけ今の「戦前(次の戦争の前)」を生きる日本人への問いかけでもある。それぞれが,それぞれなりに答えるための手がかりは,目を背けさえしなければ,本書のそこかしこに見つかるであろう。

[本書目次]
第1章 手を離したきり二度と・・・・父と母の漂泊人生
第2章 弟よ,ここで訣を分かとう・・・・少年たちの決断
第3章 私たちはこの縮図の上で大きくなった・・・・名前に刻み込まれた歴史
第4章 軍服を脱げば善良な国民・・・・包囲戦という日常
第5章 われわれは草鞋で行軍した・・・・1945年,台湾人が出迎えた祖国軍
第6章 フォルモサの少年たち・・・・捕虜収容所にいた台湾人日本兵
第7章 田村という日本兵・・・・ニューギニアに残された日記,生き残った国民党軍兵士
第8章 じくじくと痛む傷・・・・1949年の後遺症

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谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2013/09/19 at 09:53