ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

Posts Tagged ‘拒食

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (6)

7.入管庁と「リスボン宣言」・「マルタ宣言」
日本政府は,入管施設に多数の無資格入国者を収容しており,ハンスト(拒食)も少なくなかったことから,世界医師会の「患者の権利に関するリスボン宣言」(1981/2015 *18)や「ハンガーストライキ実行者に関するマルタ宣言」(1991/2007 *19)については,当然ながら,熟知していた。大村センターのハンスト死に関する「調査報告書」でも,第三者専門医からの聴取としてであるが,両宣言につきこのように言及されている。

リスボン宣言:強制的治療が許されないという考え方は,このこの「宣言」などに示され,国際的に幅広く支持されてコンセンサスがある。この「宣言」は,精神的に判断能力のある成人患者の自己決定の権利などを述べたもの(p6-7)。
マルタ宣言:「リスボン宣言」に準じたもの。医者は個人の自己決定を尊重すべきである。ハンガーストライキを行うものに対して,同意なき強制的治療や強制栄養は行うべきではないなどとしている(p7)。

このように「調査報告書」は,第三者専門医の所見としてではあるが,強制治療や強制栄養の否認には国際的コンセンサスがあると明記している。

しかしながら,ここで注意すべきは,「調査報告書」が他方では,強制治療や強制栄養が許される場合もあることを,幾度も念押し確認している点である。本筋は,むしろこちらの方にある。

「調査報告書」第三者専門医所見によれば,精神保健福祉法,感染症関係法など法が規定する場合には,強制治療は認められる。また,意識喪失の場合は,それ自体は同意と同じではないが,自殺阻止と同様,救命優先の観点から強制治療は認められる。さらに治療拒否や自殺願望は精神疾患に起因する場合が多いので,そうした場合には強制治療は許されるという意見もある。

「拒食について,その原因が,うつ病や統合失調症,ストレス反応などの精神疾患と診断されるのであれば,入院治療を実施することとなる。病院に連れてくれば治療拒否をしなくなる人もいる。本件のような拒食者については,精神疾患を見落とすことがないよう,精神科を受診させた方がよい。」(p7)。

以上のように見てくると,「調査報告書」が,同意なき強制治療・強制栄養の否認を国際的コンセンサスとしつつも,意識喪失を待って,または精神疾患の診断を得て,それらを実施すべきだという立場をとっていると判断して,まず間違いないであろう。

■グアンタナモ基地での強制摂食(Graphic News, 2013/05/01)

*18 「患者の権利に関するWMAリスボン宣言
*19 WMA Declaration of Malta on Hunger Strikers, Medical Assembly, 2017

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/31 at 10:55

カテゴリー: 社会, 外交, 人権

Tagged with , , , ,

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (4)

5.ハニーさんのハンスト:開始から飢餓死まで
ハニーさんが,大村入管センターで最後のハンストを開始し飢餓死するに至った経緯は,入管庁「調査報告書」および関係報道等によれば,おおよそ次の通り。

[2018年06月]4回目の仮放免請求,不許可。
[2019年01月]大村センター診療室での健康診断を拒否。「日本で子どもが生活しており,子どものためにも自ら帰国することを選ぶことはできません」と看守に述べる。
[2019年02月]健康診断拒否。5月の健康診断も拒否。
[2019年05月30日]ハニーさん,看守に,1週間ほど前から摂食していないと述べ,「約10年間自由がありません。仮放免でも強制送還でもいいので,ここから出してください」と訴える。
[2019年05月31日]大村センター診療室での点滴と採血を拒否。外部病院を受診し,脱水のため点滴を受ける。
[2019年06月01-04日]外部病院で診察,拒食による脱水のため点滴を受ける。
[2019年06月05日]所内,外部のいずれでも,治療を受けないと述べる。
[2019年06月14日]経腸栄養剤,一口服用。
[2019年06月17日]拒食を続けると生命が危険と警告されるが,治療拒否。サニーさん「私は自由になりたいだけだ。病気などないから治療は必要ない。」
[2019年06月18日以降]居室内で横臥。拒食,治療拒否続行。体重測定拒否。水分は時折摂取。
[2019年06月24日]《午前8時53分》血圧127(108)/114(82),脈拍54(35)。体重測定拒否。《午前8時54分》点滴,朝食,薬服用のいずれも拒否。水を約20ml飲む。《午後0時54分》息が荒いと看守が報告。《午後1時16分》血圧・体温とも測定不能。その後,心肺蘇生処置実施。《後1時40分》救急車で甲病院搬送。《午後2時11分》甲病院で死亡確認。

体重の変化(身長171cm)
[2018年10月26日]71kg ⇒[2019年5月30日]60.45kg ⇒[6月5日]61.55kg ⇒[6月17日]50.60kg ⇒[6月25日]46.6kg(司法解剖時)

このようにして,サニーさんは,大村センター看守による拒食確認から26日後,実際には拒食はその数日前から始められているとみられるので拒食開始約1か月後に,「飢餓死」してしまった。

この拒食,つまりハンストがいかに過酷なものであったかは,サニーさんの体重が特に大きな持病もないにもかかわらず,ハンスト開始後急減していることだけを見ても明らかである。

サニーさんの身長は171cm,体重は大村センター収容2年余後の2018年10月26日には71kgであった。それがハンストの繰り返しで半年後には60kg余となり,そして2019年6月25日のハンスト死の時には46.6kgに急減していた。

私自身の体験からも,体重急減がつらいことはよくわかる。私は身長162㎝で,体重は長年,約52kgで安定していたが,家族介護の無理がたたって半年ほどで46㎏にまで急減した。わずか10%ほどの減少にしかすぎないのに,体調は著しく悪化,いつ倒れるかわからないような状態になってしまった。

サニーさんの場合,71kgの体重が半年後には46kg余へと,3割以上も激減した。身長171cmだから,ガリガリに痩せてしまっていたのだろう。死が切迫していることは,この外見からだけでも明らかなのに,大村センターは結局,彼の生命を救うことが出来なかったのである。

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)
*26 「ハンストのナイジェリア人男性が飢餓死するまで 調査報告書を読んだ医師が解説」dailyshincho, 2019/10/08
*34 野村昌二「体重71キロが47キロに…入管収容者の餓死 外国人に人権ないのか?」AERA,2019/11/12
*35 大橋毅「「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」の検討」,2019/12/28

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/29 at 09:42

カテゴリー: 社会, 労働, 人権

Tagged with , ,

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (3)

3.最後の手段としてのハンスト
こうした状況で入管施設収容が長期化すれば,先が見通せず精神的に追い詰められた被収容者の中から,残された最後の手段として,自分自身の生命を賭したハンスト(ハンガーストライキ)に訴える人が出てくるのは当然といえよう。

入管施設でのハンストは,事実,被収容者が増え,収容が長期化するにつれ,増加している。(「ハンスト」は入管用語では「拒食」または「摂食拒否」。)しかも,これらのハンストは,仮放免などの要求が入れられないので長期化し,なかには断続的に続けられ,事実上1か月以上に及ぶ場合もある(*43)。

そうした中,ついに恐れられていたハンスト死が,現実に起こってしまった。大村入管センターでのサニーさんのハンスト死である。

200520d■ハンスト数の推移(*6)

補足ハンスト死後の仮放免増加と「強制治療」
サニーさんのハンスト死をきっかけに,ハンストでの抗議と,これに対応するための仮放免が一時的に増え,その結果,被収容者数も減少している(上図参照)。しかし,たとえ抗議ハンストの結果,仮放免されても,制約が多いうえに,回復すればすぐ再収容されてしまう(*40,41)。

こうしたハンスト死防止のための仮放免は,おそらく一時的な臨時措置であろう。政府は,ハンストをすれば放免される,と見られることを強く警戒している。政府としては,ハンスト死を防止しつつ,収容は送還まで継続しなければならない。そのため政府が採ろうとしている方策が,「強制治療(強制的治療)」や「強制栄養」。政府はいま,抗議ハンストに対し当面は短期仮放免で対応しつつ,いずれは,それを「強制治療」や「強制栄養」の実施により断念させるための準備を進めているのではないかと思われる。

仮放免:「収容令書又は退去強制令書により収容されている者について,病気その他やむを得ない事情がある場合,一時的に収容を停止し,例外的に身柄の拘束を解くための措置。逃亡,条件違反等の場合は。仮放免の取り消しが可能」(*5)。
200520c

*5 出入国在留管理庁「収容・仮放免に関する現状」令和元年11月25日
*6 出入国在留管理庁「送還忌避者の実態について」2020/03/27
*40 「「2週間だけ仮放免」 繰り返される外国人長期収容 「一瞬息させ、水に沈めるようだ」」毎日新聞,2019/11/12
*41 織田朝日「入管施設でハンストを続ける被収容者を苦しめる「2週間のみの解放」」ハーバー・ビジネス・オンライン,2019/11/01
*43 アムネスティ「入管施設で長期収容に抗議のハンスト198人」2019/10/ 08

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2020/05/28 at 14:56

カテゴリー: 労働, 政治, 人権

Tagged with , , , ,

入管ハンスト死から1年:強制治療に向かうのか? (1)

1.ハニーさんハンスト死と強制治療の提言
ナイジェリア人男性「サニーさん」(通称,50代)が,長崎県大村入国管理センターにおいて,無期限収容への抗議ハンストにより「飢餓死」したのが2019年6月24日,もうすぐ1周忌を迎える。(入管は用語「ハンスト」に代え「拒食」または「摂食拒否」を使用。)

このサニーさんの「飢餓死」は入管初の「ハンスト死」であったため,しばらくは大きく報道され,出入国在留管理庁(入管,入管庁)も詳細な調査を実施し,その報告書を2019年9月1日に発表した(*1,2)。

しかしながら,抵抗の手段としてのハンスト(ハンガーストライキ)への日本社会の関心は諸外国に比べ高いとはいえず,たとえ関心を示しても「命を取引材料にするのは卑怯だ」とか「本気で死ぬ気もないのに」,「ほんの数日でドクターストップとは笑止千万」,「ハンストはダイエットのため?」といった否定的,冷笑的なものが少なくなかった。

ハニーさんのハンスト死についても,半年もすると報道や論評はほとんど見られなくなった。日本社会は,ハンストにはあまり同情的ではないのである。

この日本社会のハンストへの低関心をバックに,日本政府はハンスト死を阻止しハンストそのものを断念させるための強力な手段をとろうとしている。

日本政府にとって,入管施設被収容者をハンストで死なせてしまうのは失策に違いないし,またそれ以上に,ハンスト死が出身国や他の諸国に知られ,その原因となった日本の入管制度への批判が高まり,ついには現行入管制度の維持が困難となるようなことになってしまっては困る。

そこで日本政府は,入管施設被収容者のハンストに対しては,本人の同意なしに実施される「強制治療(強制的治療)」や「強制栄養(強制的栄養摂取)」をもって対応することを,サニーさんハンスト死を機に再確認したのである。

しかしながら,一般に「治療拒否」を表明している人に「強制治療」や「強制栄養」を実施するのは非人道的とされ,医学倫理上,通常は認められてはいない。ましてや抗議ハンストの場合は,自分の強固な意思で自覚的に拒食(ハンスト)が行われている。そのハンスト者(拒食者)に対し「強制治療」や「強制栄養」を実施し,ハンストを諦めさせようとするのは,他の場合以上に残虐であり非人道的といわざるをえない。そのような政策はとってはならない。

以上のような観点から,以下,サニーさんのハンスト死の経緯と,それ対する入管庁の対応につき,要点をまとめ,検討してみることにする。

■大村入管センター(Google)

*1 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査報告書」2019年10月
*2 出入国在留管理庁「大村入国管理センター被収容者死亡事案に関する調査結果(概要)

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2020/05/26 at 17:14

カテゴリー: 社会, 労働, 人権

Tagged with , , , , ,

老老介護(15):過食から寡食へ

高齢認知症の母は,つい先日まで典型的な過食だった。三度のご飯,お菓子,果物など,とにかく手あたり次第,一日中,何かを食べている。食べ物が見当たらないと,いたるところを探し回る。

たまったものではないので,食品は全部隠し,冷蔵庫は鎖で縛り鍵をかけた。そして小型冷蔵庫を別に買い,食べてよいものだけ,その中に入れるようにした。

ところが,一転,今度はあまり食べなくなった。食事を出すと,以前なら,餓鬼のごとく,すぐむさぼり食べた。量も恐ろしく多かった。ところが,最近は,食事を出しても,おやつを出しておいても,なかなか食べない。しかも,量が減った。以前の半分から三分の一。

体調は悪くない。それなのに,以前のようには食べない。食べ物への関心はあるので,食事を拒否する「拒食」ではない。「ごはん」「ごはん」と言うので食事を出しても,なかなか手を付けない。そして,ちょっと食べたかと思うと,すぐ席を離れ,別のことをする。その結果,結局,ご飯を食べ残すことになる。状況からみて,これは「遅食」であり,結果として「寡食」となっている。

原因不明。とりたててどこが悪いわけでも,痛いわけでも,苦しいわけでもない。年齢相応に,いまのところ健康。病気ではないので,無理に食べさせる必要はあるまい。誰でも年とともに食は細くなる。過食は異常だが,これは自然。その自然に任せるのが,人間の本性=自然にかなうことになるであろう。

 認知症ONLINE

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/08/14 at 11:14

カテゴリー: 健康

Tagged with , ,

%d人のブロガーが「いいね」をつけました。