ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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英米は口,中国は投票箱:ネパール地方選

15日の英国大使館に続き,米国大使館も,ネパール地方選につき,同様のコメントを発表した。

「合衆国は,・・・・選挙関係者すべての努力を評価する。・・・・前期地方選はほぼ平穏に実施されたと思われる。6月の後期地方選にあったっても,・・・・関係者すべての努力を期待する。後期地方選においては,正規外交官を含む国際社会が選挙を監視し支援できるよう,無制限の国際選挙監視を認めることを,合衆国はネパール政府に強く要請する。」(在ネ米大使館HP, 2017-05-16)

16日付「ネパリタイムズ」によると,選管は,このような外国による選挙監視を拒否していた。「外交官に連絡係をつけ,カトマンズの選挙を見て回らせた。ただし,見るだけで,監視ではない。だから報告は不要だ。」(選管職員) 6月14日の後期地方選でも,選管は外国による選挙監視は認めない方針。

また,この選管職員は,「英米政府は後期地方選のための適切な環境をつくれとネパール政府に要求しているが,これは後期地方選以前に憲法を改正せよということだ」と述べ,英米の選挙介入を厳しく批判している。

これに対し,中国政府については,選管職員は「中国は前期地方選を全面的に歓迎している」と述べ,その援助姿勢を高く評価している(Nepali Times, 2017-05-16)。

先述のように,今回の地方選のため,中国政府は1億4千4百万ルピー相当の援助をした。4月17日,駐ネ中国大使,選管委員長らが出席して贈呈式が行われ,ネパール側が要望したペン,スタンプ台,ゴム印,インキ,計算器,時計,ハサミ,糊などが選管に引き渡された(選管HP, 2017-04-18)。また,中ネ国境のラスワには,中国側から投票箱3万個が到着した。これらの投票箱は贈与ではないらしいが,それを差し引くとしても,投票箱ですら中国から,まさしく中国支援の地方選といった感じだ。

このようにみてくると,口は出すが金は出さない英米vs金は出すが口は出さない中国,といった構図だ。ネパール政府が中国を歓迎するのは当然である。むろん,中国がしたたかな政治的計算に基づきネパール地方選を支援していることは,言うまでもないことだが。

IDPG Statement On Elections (27 April 2017)
「われわれは,平和的,包摂的で,広く支持され,信頼される選挙を実施するため,すべての関係者と協力をする。」
 署名:英,米,独,仏,EU, デンマーク,フィンランド,ノルウェー,オーストラリア,UNネパール,世界銀行

 ■在ネ米大使館FB(2017-04-28)

谷川昌幸(C)

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2017/05/18 at 20:06

カテゴリー: ネパール, 選挙, 中国

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印政府援助カット,中国政府航空機押し売り

ネパールは,政治大国印中に挟まれているため,ことあるごとに難しい判断を迫られる。昨年10月発足のオリ政権も,いま印中の間で,どのような立ち位置をとるべきか,難しい選択に直面している。

1.インド:対ネ援助40%カット
印政府が2月29日発表した2016年度予算によれば,対ネ援助は前年度の40%カット,48億ルピーとなっている。オリ首相訪印(2月19-24日)直後だけに,ショッキング。

印ネ各紙記事では,大幅カットの理由は,オリ政権低評価ではなく,ネパール政府の援助事業実施不効率だという。ネパールにおける事業進捗にはADBなどの援助機関も批判的だ。震災復興援助事業ですら,実際の進捗状況は極めて悪い。援助を約束しても実施できないのなら,援助額を減らせということ。

しかし,インディアン・エクスプレス(3月1日)が「オリ首相訪印後,対ネ援助40%カット」といった見出しを付けているように,対ネ援助大幅カットがオリ政権評価と無関係とは思えない。やはりオリ政権への一種の警告と見るべきだろう。

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■印政府HP/印震災救援「トモダチ作戦」

2.中国:航空機押し売り
一方,中国政府からは,オリ首相訪中(20日から)を前に,中国製航空機の購入を迫られている(Himalayan, 3 Mar)。納入先はネパール航空(NAC)。

中国がネパール政府に購入を迫っているのは,MA60(新舟60)1機とY12e(運12e)3機。ところが,これらの中国製航空機は,国際航空機関の認証がなく,またアフターサービスも手薄で,運航・維持費が極めて高い。そのため,NACは購入に強く反対している。

NAC幹部によれば,MA60(58席,2014年4月購入)は月1週間も飛行できず,赤字垂れ流し。また,Y12Eも運航状況は極めて悪い。NACとしては,もはやこれ以上中国製航空機の購入・運用はできない,ということらしい。

これに対し,中国側は,これらの航空機購入はすでに2012年の両国交渉で決めているので,3月20日のオリ首相訪中以前に4機を導入せよ,と要求しているという。ネパール政府は,この中国側の要求を受け入れ,ちかぢか購入決定の予定。(参照:中国製航空機の運航不安

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■新舟60(新華社2014年4月28日)/尖閣接近のY12(防衛省=共同2012-12-22)

3.南の獅子,北の龍
ネパールにとって,中印は,それぞれに対する「カード」として利用できることもあるが,利用しようとすれば,内政干渉やごり押しの危険もそれだけ増大する。やはり,ネパールにとっては,「印中の架け橋」が,実際には,理想である以上に,最も現実的な外交の基本指針となるであろう。

谷川昌幸(C)

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2016/03/03 at 17:57

カテゴリー: インド, ネパール, 外交, 中国

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腐敗「ゼロ・トレランス」を首相約束,復興国際会議

ネパール復興国際会議が6月25日に開催され,参加諸国・諸機関が約30億ドルの復興援助を約束した(集計方法により援助約束額は異なる)。

援助約束(億ドル):印10,中4.6,日2.6,米1.3,EU1.12,ノルウェー0.13,アジア開発銀行6,世界銀行5 (*3)

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 ■国際援助とコイララ首相(Nepali Times, 25 Jun)/援助額(Republica,26 Jun)

しかし,これらの巨額援助の約束は,無条件ではない。ネパールにおける汚職の蔓延は周知の事実であり,したがって援助側は,今回も,援助実施における透明性説明責任の確保を強く要求した(*1)。

そこでコイララ首相も,国際会議あいさつにおいて,「わが政府は腐敗に対しゼロ・トレランス(絶対不寛容)で対処することを約束します」と明言せざるをえなかった(*4)。しかし,この約束ほど,ネパールにおいて守るのが難しい約束はないといっても過言ではあるまい。

Mahanand Timalsina
「ネパールにおける外国援助の効果に関する最近の研究によれば,援助金の多くが――いくつかの推計では90%もが――間接経費と天井知らずの国際コンサルタント料に割り振られている。」(*1)
Kunda Dixit
「この1か月あまりの間にも,援助物資の多くが妨害されたり特定政党地盤に送られたりしているし,そればかりか売り飛ばされてしまったものさえある。」(*3)

150627d■届かない援助 by Subhas Rai(Kunda Dixit FB 2015-06-26)

このように,ネパールにおける事業実施の透明性や説明責任の確保は,ネパール人自身が認めているように容易ではないが,しかし,それでも被災者救援が切実に必要とされていることは紛れもない事実である。世界社会には,その構成員たるネパールの復興を最大限支援する道義的義務がある。

では,復興支援の条件である腐敗「ゼロ・トレランス」は,どうすれば実行できるようになるのか? 

むろん,一気呵成とは行かない。迂遠と見えるかもしれないが,やはり基本は国家ガバナンスの確立以外にあるまい。すなわち,正式憲法を制定し,正統な安定した中央政府を樹立する一方,地方選挙を実施し,援助現場たる地方の自治体を再建すること,これである。

[参照]
(*1)Mahanand Timalsina,”PROMISES TO KEEP,”Republica,26 Jun 2015
(*2)”Over $3 billion for Nepal,” Nepali Times,June 25, 2015
(*3)”Donors Pledge Billions to Help Rebuild Earthquake-hit Nepal,” Nepal National,26 June 2015
(*4)”PM Koirala’s inaugural speech, Foreign Minister’s welcome speech, FinMin’s theme address at donors’ conference,” Himalayan,June 25, 2015
(*5)ネパール復興に関する国際会議 城内副大臣ステートメント「ネパールのより良い復興に向けて」平成27年6月26日 http://www.mofa.go.jp/mofaj/s_sa/sw/np/page22_002081.html

谷川昌幸(C)

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2015/06/27 at 23:54

カテゴリー: 行政, 国際協力, 憲法

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CDC特別委員会,憲法原案草案提出

1.憲法原案草案提出
憲法起草委員会(CDC)が設置した特別委員会(クリシュナ・プラサド・シタウラ委員長=NC)が,6月23日夜,新憲法原案のもととなる草案を作成し,CDCに提出した。この草案によれば,新憲法は35編312条の超巨大憲法となる。ネパールお得意の,諸要求加算方式の結果であろう。

この4党「16項目合意」に基づく憲法起草については,最高裁が現行暫定憲法に違反するとして停止命令を出し,またヤダブ大統領も反対していたが,いまのところ4党の思惑通り進んでいるようだ。

2.インドの介入
この流れに,CPN-M(バイダ派マオイスト)やマデシ系諸派の多くは強く反発している。たとえば,CP・ガジュレルCPN-M副議長は,4党はインドの圧力により「16項目合意」に署名し新憲法をつくろうとしているが,これがこのまま進めば,再び内戦になる,と警告している。

インドの介入については,巨額の震災復興援助も絡んでいると言われている。ネパールの政治が安定しないと,欧米中心の国際社会の介入を招き,それはインドが最も嫌うところだ。だから,インドが主要諸政党に圧力をかけ,新憲法の制定を急がせている,というのである。ありそうな話しだ。

3.復興援助会議
その憲法制定の観点からも注目されている復興援助会議は,53カ国代表や様々な援助機関関係者が集まり,明日カトマンズのソルティ・クラウンプラザで開催される。ネパール政府は,震災被害を約7千億ルピーと見積もり,それに対する復興援助3千億ルピーを期待しているらしい。日本もすでに40億ルピーの援助を表明。

明日の復興援助会議でどの程度の援助が約束されるかまだわからないが,巨額となることはまずまちがいない。が,もしネパールが新憲法制定による政治の安定化に向かわなければ,援助実施が困難になり,援助の約束は反故にされるかもしれない。新憲法制定は,実利とも深く関わっているのだ。

 150624 ■クラウンプラザ

4.インド寄りの新憲法体制?
新憲法制定は,その意味では,国際社会の暗黙の要求でもある。インドは,この情況を巧みに利用し,ネパール主要諸政党に圧力をかけ,「16項目合意」に署名させ,インド寄りの新憲法体制をつくろうとしている,と見られている。

このような見方の具体的な裏付けは困難だが,新憲法制定への動きのあまりにも急なところを見ると,あながち的外れでもないような気がしてならない。

[今後の予定日程]
憲法起草委員会(CDC:30党代表,73委員)が,6月28日までにCDC憲法原案を作成し,制憲議会(CA)へ提出
⇒CAにおいてCDC憲法原案を審議
⇒国民の意見聴取
⇒CAが憲法原案に必要な修正を加え,憲法案を作成
⇒この憲法案をCA本会議において2/3の多数により採決
⇒大統領が新憲法を公布

[参照]
(*1) “16-pt deal under India’s influence: Gajurel,” Ekantipur,Jun 24
(*2) “CDC TASKFORCE RECOMMENDS 35 SECTIONS, 312 ARTICLES IN NEW STATUTE,” Republica,24 Jun.
(*3) “Oli asks court, Prez to stay away from politics,” Ekantipur,Jun 24
(*4) “Govt pins high hopes on tomorrow’s donor meet; Officials preparing for conference expect grant, loan commitments to the tune of $3 billion,” Ekantipur, jun 24.
(*5) RUDRA PANGENI,”INT’L CONFERENCE FOR NEPAL’S RECONSTRUCTION: GOVT LOOKING FORWARD TO GRANTS, SOFT LOANS,” Republica, 24 Jun.
(*6)「震災復興の国際パワーゲーム」けぇ がるね?日記(ネパールの空の下) 6月21日

谷川昌幸(C)

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2015/06/24 at 20:23

カテゴリー: インド, 経済, 憲法

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震災救援の複雑な利害関係(10):単一窓口政策と首相基金(2)

3.「単一窓口政策」再説
ネパール政府の「単一窓口政策」ないし「首相災害救援基金[首相基金]」は,各方面――特に欧米の援助関係機関――から厳しく批判されているが,基本的事実を確認するため一部重複があるが,ここでもう一度,5月2日付政府公文書「ネパール地震緊急事態における救援について」(2枚2頁ないし2文書)に基づき,この政策の内容を紹介しておこう。速読要約のため,脱落や誤りがあるかもしれない。詳しくは公文書原文をご覧ください。

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[1枚目要旨]
ネパール地震緊急事態における救援について

2015年5月2日

ナラヤン・ゴパル・マレゴ(首相内閣事務局長・首相基金事務局長)

ネパール政府は,首相災害救援基金[首相基金,PMDRF]を設置した。目的は,自然災害の調査と被災者の救助,救援。

ネパール政府および他の政府や国際機関から受け入れた救援金は,首相基金が保管する。首相基金保管の救援金は,他の目的で使用することも,公務員等の給与や行政諸経費に回すこともない。

首相基金の活動は,国家計画委員会委員長を長とし,関係8省の事務局長を委員とする委員会が監督する。基金からの出金手順は次の通り:
 (1)出金案への全会一致による同意
 (2)内務省を通して郡事務局長あてに出金
  *郡事務局長は,郡救援基金の代表

中央の首相基金と郡救援基金からのすべての出金は,透明性と説明責任を確保するため,毎年,国家会計監査委員長による監査を受ける。

首相基金は,「首相基金運用規則2006」に則り運用される。

首相基金の目的は,自然災害被害者の効果的救助・救援。そのため「迅速処理(fast track)」で対応し,通常の行政手続による遅延を回避する。首相基金は単一窓口サービスを提供する。これにより義援金を統合し,重複を防止し,被災者に必要な救援を公平に配分することができる。

2015年4月25日の大震災後,様々な個人や団体が募金口座を開設した。政府は,被災者救援のための誠実な努力は評価するが,政府には,募金活動や救援金分配を規正する義務もある。善意の寄金の不正使用を防止し,被災者の権利を守るためである。

こうした観点から,政府はネパール中央銀行(Nepal Rastra Bank)に助言し,4月29日付で通知を出してもらった。すなわち,すべての震災救援金は首相基金に入れられるものとし,募金関係口座からの出金はいっさい認められない,とする中央銀行通知である。

ーーーーー

以上がNG・マレゴ事務局長通達の1枚目の要約。当初,報道はもっぱらこの内容の通達をめぐって行われ,批判が殺到したが,しばらくすると2枚目(2頁目)の記載内容が報道されるようになり,批判は少しトーンダウンした。

通達にはページが1,2と打ってあり,2枚目には文書名も日付もないので,当初から2ページの1文書だったのかもしれないが,報道の経緯をみると,どうも不自然。あとで付け足した追加文書(言い訳文書)のような感じがするが,いずれとも断定はできない。

ともあれ,2枚目(2頁目)の文書の内容は以下の通り。

[2枚目要旨]
上記通達は,2015年4月25日以前に開発援助団体,救援団体,その他の社会諸組織が開設していた口座の使用を規制するものではない。

救援金の最善の使用と救援金の被災者への公平な分配を確実なものにするため,救援活動をする諸団体には,中央政府および郡レベル関係諸機関との緊密な協議が要請されている。

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[英語版文書タイトル]
Providing Relief in Response to the Nepal Earthquake Emergcncy
   2 May 2015
 Narayan Gopal Malego
   Secretary, Office of the Prime Minister and Council of Ministers, and
   Member-Secretary of the Prime Minister Disaster Relief Fund

[追加](2015-06-05)
その後の展開については,以下参照。
・けぇ がるね?日記 【報道】ネ政府、NGO活動指針を策定
・ネパール政治経済ニューズ 地震関連の物資、金銭の寄付について(2015年6月4日)

谷川昌幸(C)

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2015/05/23 at 22:05

カテゴリー: ネパール, 行政, 国際協力

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震災救援の複雑な利害関係(9):単一窓口政策と首相基金(1)

1.単一窓口政策
ネパール政府は,巨額の震災救援金・復興支援金が,相当長期間にわたり,国際機関,外国政府,INGO,NGO,その他様々な団体や個人からネパールに入ってくることを見越し,それらを主権国家として監視し統制するため,「単一窓口政策(One-door Policy)」を宣言し,救援金を管理するための「首相災害救援基金(Prime Minister Disaster Relief Fund)」(以下「PMDRF」ないし「首相基金」と略記)を設置した。

UK・カトリ首相報道官は,内外の様々な機関や団体がネパール政府を無視し勝手に募金活動をしていることに問題があると指摘し,こう述べた。「個人にせよ団体にせよ,救援金の引き出しは許されない。基金はPMDRFに自動的に移され,収支明細は日ごと配布される。この規則を守らない個人や団体は,法により処罰されることになる。」[a}

ネパール中央銀行(Nepal Rastra Bank)も,各銀行に対し通知を出した。「大地震被災救援募金のため銀行や他の金融機関に開設されたすべての口座は,チェックされ,それらの口座の預金はPMDRFに移される。」[b]

RS・マハト財務大臣は5月1日,これが「内外の救援物資や資金を最も効果的に使うための政策」であるとし,募金関係口座の残高を毎日通知させるようにしたいと述べた。(b&c)

こうした政府の方針に基づき,首相基金のNG・マレゴ事務局長は5月2日,「単一窓口政策」ないし「PMDRF(首相災害救援基金)」の目的について,こう説明した。

「基金は,被災者への一つの窓口サービスの提供を目的とする。これにより,募金を統合し,重複を避け,被災全地域の被災者への必要な救援の公平な配分を確実にすることができる。・・・・政府は,うそ偽りでなければ,あらゆる被災者救援活動を評価するが,その一方,災害救援のための公的基金や募金を調整する義務もある。これにより,善意の募金の悪用を防止し,被災者の権利を保護することになる。」[d]

150522a150522c
 
2.単一窓口政策批判
しかしながら,この「単一窓口政策」は,発表されるとすぐ,内外で激しい反発を呼び,撤回を強く要求された。以下,いくつか紹介する。

Alex Wilks(Avaaz, 独)
「首相救援基金は良策に見えるが,腐敗はどうするつもりか? 私はネパールには行ったことがなく,目にした情報による偏見かもしれないが,募金を政府に渡すと行方不明になりかねないと懸念する人がいることも事実だ。」[c]

国連幹部職員(匿名)
「ネパール政府は,いかなる募金であれ,それと協力する以外に方法はない。PMDRFを強制したくても,援助側は決してそれを許さないだろう。ネパール政府には,そんなことをする能力はない。これが現実だ。」[f]

英国NGO幹部(匿名)
「[PMDRFを強制すれば]救援金が減るか,さもなければ違法な方法で入ってくるだけだろう。・・・・いった何人の人がPMDRFに募金を入れてもよいと思うだろうか。・・・・はっきりするまで,しばらく募金活動の中止を提案するつもりだ。」[f]

Anand Mishra (Operation Relief Nepal)
「もっともっと募金を集められるが,海外の誰もが募金をネパール政府に送ることは望まず,そのため外国の友人たちは一人として援助できないでいる。」[g]

Anuradha Koirala (Maiti Nepal)
政府は「単一窓口政策をとるのではなく,すべての人びとに許可を与える」べきだ。「政府に渡して,それが苦しんでいる人々に届けられるかどうか,信用できない。」[h]

Malvika Subba (Nepal Share; Miss Nepal 2002)
「政府が,われわれNGOなどあらゆる団体に規則や規制を課すのなら,政府自身が透明性と説明責任をもつべきだ。」[h]

Kunda Dixit (Nepali Times)
「第一に,PMDRFは実行不可能だ。第二に,それは無実の人々を犯罪者にさえしてしまう。そして,そもそもそれは必要ですらない。なぜなら,いまは危機緊急時であり,得られる援助はすべて得たいと思っているからだ。」[h] (ただし,同氏の後日の説明によれば,PMDRFへ移されるのは震災救援目的でつくられたNGOへの送金だけであり,震災以前からの登録NGOは従来通り外国からの送金を受けられる。また被災地の地域組織への在外ネパール人や外国人からの送金も規制されないという。[d])

Robin Sitoula (Samriddhi, The Prosperity Foundation)
「政府は繰り返し政府口座への寄金を要請したが,支援者側はこれを拒否し,自分たちで寄金を集め始めた。そこで政府は,新しい法律をつくり,救援金を一本化しようとしているが,これは政府の信用の欠如を覆い隠そうとするものに他ならない。」[c]

150522d ■震災死傷者数(5月21日現在,Earthquake Relief Portal)

[a] “Nepal aid donors may halt fundraising amid fears government will seize donations,” The Telegraph UK, 1 May 2015.
[b] “Govt to take all bank deposits meant for disaster relief,” Ekantipur,1 May 2015.
[c] “‘One-door’ Relief Fund Policy Delays Aid Distribution,” Republica, 1 May 2015.
[d] “Nepal quake fund move is PR fiasco,” 5 May 2015. http://www.irinnews.org/report/101452/nepal-quake-fund-move-is-pr-fiasco

谷川昌幸(C)

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2015/05/22 at 19:48

カテゴリー: ネパール, 行政, 国際協力

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中国の積極的な震災救援活動

ネパール震災救援において,中国の積極的な,広範な活動が際立っている。下掲は,先に紹介したスリョダヤ校の被害状況を伝える新華社FB(5月4日)。

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谷川昌幸(C)

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2015/05/05 at 10:08

カテゴリー: ネパール, 国際協力, 中国

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新憲法制定支援,中国の巧みさ

中国が,土壇場に来て,ネパール新憲法の制定を強力に支援している。巧みにして効果的,他国の追随を許さない。さすが外交大国!

 150107a ■習主席(中国外務省HP)

1.切り札としての習主席訪ネ
目玉は,習近平主席。国交60周年も絡め,もし新憲法が制定・公布されるなら,習主席のネパール訪問は可能と,中国筋はあちこちでネパール側にほのめかしている。巧い,美味すぎる!

たとえば,中国現代国際関係研究院(CICIR)南亜東南亜大洋州研究所のHU Shisheng所長は,こう語っている。

「ネパール制憲議会が,新憲法を制定しその任務を全うするなら,中国高官のネパール訪問がより確かとなるだろう。」そして,ネパール政治が安定すれば,習近平主席の訪ネも可能となる。しかし,これはあくまでもネパール側の努力にまたねばならない。「中国には,ネパールの政治に圧力をかけるつもりもなければ,ネパールへの影響力をめぐってインドと競うつもりもない。」(a)

こうした中国の対ネ外交は,ネパール側からも高く評価されている。たとえば,ビレンドラ・ミシュラ元選管委員長は,中国要人の訪ネが日常化していると特筆した上で,こう述べている。

「隣国,特に中国のような強大で発展した国からの訪問は,もちろん望ましいことだ。中国は,ネパールの安定,独立,主権をつねに尊重してくれている。これと対照的に,インドはネパール訪問をあまり重視していないようだ。[バジパイ首相の2002年訪ネの次はモディ首相の2014年訪ネなのに]モディ首相はこの訪ネを政治的に利用したにすぎない。インドは,ネパールのことは,おそらく治安機関に任せているのだろう。」(b)

このように,ネパール側の中国への期待も,きわめて大きい。

150107b ■CICIR(同HP)

2.大国外交の華と粋
ネパールの新憲法制定(新国家構築)については,これまで主に日本を含む西側先進諸国が物心ともに支援してきた。人民戦争停戦,武装解除,暫定憲法体制設立,制憲議会選挙,新憲法起草準備など。それは内政干渉ギリギリ,だからこそ,ネパール側からの反発も,少なくなかった。

ところが,その最後の最後,土壇場の総仕上げの段階になって,中国が奥の手を出し,新憲法制定への最後の一押しをしようとしている。もしめでたく新憲法が制定・公布されるなら,それは中国の決定的な一押しのおかげと言うことになる。

もし,こうして新憲法が制定されるなら,習近平主席が国賓として訪ネし,正統な新体制の出発を威厳をもって厳粛に祝福するであろう。そして,ネパール国民も,こぞって,これを歓迎し,偉大な中国の支援への感謝を惜しまないであろう。あっぱれ,見事な大国外交だ。

▼「亜太日報」(1月1-15日) ネパール発行の本格的中国語高級紙
150107c

[参照]
(a)”Chinese Nepal watchers: Xi’s visit hinges on charter,” Ekantipur,2015-01-06
(b)Birendra Mishra, “Chinese Interest,” Republica,2015-01-06

谷川昌幸(C)

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2015/01/07 at 18:33

カテゴリー: インド, 外交, 憲法, 中国

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印首相訪ネと中国

1.印ネ共同声明
モディ首相が訪ネ(8月3-4日)し,共同声明(8月4日)が発表された。35項目に及ぶ包括的な声明であり,両国の特別の密接な関係がよく見て取れる。国家間というよりは,あえていうならば,むしろ中央政府と地方政府の交渉のような印象さえ受ける。主なものは以下の通り。

[11]1950年平和友好条約の見直し合意。
[12]国境問題解決の重要性の確認。
[14]解放国境悪用や第三国による国土悪用の防止。
[15]インフラ・エネルギー開発のため10億ドルのソフト・クレジット供与。
[16]印首相が,パシュパティ寺院を参拝,白檀2500kg寄進。印政府によるパシュパテ寺院ダルマサラ建設およびパシュパテ地区保存の支援。
[17]ジャナクプル,ルンビニ等の開発支援。
[18]ネパール人学生,専門家のインド留学支援。
[19]パンチェシュワル開発局関係文書署名,甲状腺腫対策事業了解覚書および印ネ放送協力事業了解覚書署名。
[20]上カルナリ水力発電,上マルシャンディ,タマコシ3などの事業促進合意。
[21]マヘンドラナガルのマハカリ川橋梁建設支援合意。
[22]中部丘陵道路建設の検討。
[23]防衛協力の継続。
[26]両国間5鉄道建設等の交通網整備促進。
[28]印・カトマンズ間石油パイプライン建設の検討。
[29]対印貿易赤字解消のための輸入規制緩和の検討。
[30]印経由通行規制緩和合意。
[31]空路規制緩和の検討。
[33]水路の改修検討。

140808■BJP-HP

2.約束は守ると約束
これらの約束について,モディ首相は,帰国後の談話(8月4日)で,「約束は全力で実行し,一つとして反故にしない」と語った。

また,インド人民党(BJP)も,党声明(8月5日)において,「モディ首相の基本姿勢――『ネパール内政不干渉と,要請されたときのみの援助』――は,すべての人びとに受け入れられた」,「モディ首相は,ネパールの大きな期待に応え,二国間関係の新たな出発を成し遂げた」と,手放しで自画自賛した。

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3.ネパール側の冷めた評価
ネパール側でも,表向きモディ首相訪ネへの評価は高いが,その一方,懐疑的な見方も少なくない。

▼大臣が1人も同行しない(Ekantipur,1 Aug)。
▼目玉であった電力取引協定(PTA)と事業開発協定(PDA)の2協定に調印できなかった(Ekantipur, 4 Aug)。
▼10億ドルのソフト・クレジットが,いつ,どのように実施されるか不明(Himalayan,4 Aug)。
▼UML幹部との会談において,モディ首相は,水資源開発協力についてネパールが早く決定しなければ,ネパール側がさらに不利になる,と語った(Ibid)。
▼インドは,首相らが約束しても,官僚が反故にすることが多い。今回はどうか?(Republica,4 Aug)。

印ネ関係は,いわば日常的近所付き合いのようなものであり,そのぶん見方が厳しくなるのはやむをえまい。メディア報道も,モディ首相訪ネ直前と訪ネ中を除けば,ごく控え目。2,3日すぎると,もうほとんど見られず,中国関係の方が大きくハデになった。現金なものだ。

4.中国の勢いと外交力
その中国だが,この間も,ネパールでの動きは華々しかった。7月31日には,カトマンズの中国大使館において,防衛担当官主催の「人民解放軍創設87周年式典」が開催され,ラナ国軍総監ら多数が出席,両国軍の協力関係の促進がうたわれた(新華社8月1日)。

翌8月1日には,中国・ネパール国交樹立59周年式典(ネパール中国協会主催)が開催された。式典では,呉春太大使が,数年で訪ネ中国人は年25万人に達すると語った。ちなみに2010年46,360人,2012年71,861人,2013年89,509人。フライトも,中ネ航空協定により週14便から週56便に大幅増便されている。直接投資額では,周知のように,中国はすでにインドをぬき最大投資国になっている(ekantipur,2 Aug)。

呉春太大使はまた,孔子学院の拡充やタライ方面への事業展開も進めたいと語った。「中国の医療ボランティアは,チトワンのBPコイララ癌病院で働き,ネパール人だけでなく国境を越えて来た人々[つまりインド人]をも治療してきた。」(Telegraph,2 Aug)

140808d ■BPコイララ癌病院

これに応え,ネパール側出席者,たとえばバブラム・バタライ元首相(UCPN)も,経済協力関係の強化を訴え,特にチベット鉄道のシガツェからカトマンズへの延伸を強く要請した。また,この式典でも,出席者が口々に「一つの中国」支持を表明したことはいうまでもない(ekantipur,2 Aug)。

驚いたのは,モディ首相帰国の翌日(8月5日),シンドパルチョーク地滑り被害への李克強首相のお見舞いの言葉が,記事として大きく掲載されたこと(ekantipur,5 Aug)。他の国々も同様のお見舞いをしているはずなのに,メディアでの中国の扱いは別格。

中国の勢い,あるいは外交力は,やはりスゴイといわざるをえない。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/08/08 at 13:54

中国,TUに地理研究センター設立

中国科学院(CAS)が,トリブバン大学(TU)と協力し,TU内に「中国・ネパール地理共同研究センター」を設立した。ヒマラヤの南北地域の研究が目的。

ここで注目すべきは,研究センター設立に関する記事のニュアンスが,中国側とネパール側ではかなり異なること。ネパール側記事は中国側原記事の要約ということだろうが,その要約の仕方が微妙だ。下記CAS記事の赤字の部分のニュアンスが,おそらく意識的にカットされている。なかなか興味深い。

▼Chinese Academy of Sciences(2014/05/06)
It[Sino-Nepal Joint Research Center for Geography] aims to train more talents specializing in mountain geography, promote research ability of related fields in Nepal, and make contributions to promoting China’s scientific and technological influence power and science and technology exchange and cooperation between China and Nepal.

Dr. DENG Wei, director of IMHE[Institute of Mountain Hazards and Environment, CAS], felicitated the founding of the Geography Center, and considered it as an important platform for promoting the education quality of Nepal and talents cultivation.

▼Nepalnews.com(2014/05/14)
The center, jointly built by IMHE and TU, will carry out geographical research of mountain hazards, mountain ecology and environment monitoring of the southern and northern slopes of the Himalayas. The collaboration aims to promote science and technology exchange between China and Nepal.

Dr. Deng Wei, director of IMHE, hailed the founding of the geography center as an important platform for enhancing the quality of scientific education in Nepal.

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/05/20 at 10:56

カテゴリー: 教育, 中国

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