Posts Tagged ‘援助’
中国,TUに地理研究センター設立
中国科学院(CAS)が,トリブバン大学(TU)と協力し,TU内に「中国・ネパール地理共同研究センター」を設立した。ヒマラヤの南北地域の研究が目的。
ここで注目すべきは,研究センター設立に関する記事のニュアンスが,中国側とネパール側ではかなり異なること。ネパール側記事は中国側原記事の要約ということだろうが,その要約の仕方が微妙だ。下記CAS記事の赤字の部分のニュアンスが,おそらく意識的にカットされている。なかなか興味深い。
▼Chinese Academy of Sciences(2014/05/06)
It[Sino-Nepal Joint Research Center for Geography] aims to train more talents specializing in mountain geography, promote research ability of related fields in Nepal, and make contributions to promoting China’s scientific and technological influence power and science and technology exchange and cooperation between China and Nepal.
Dr. DENG Wei, director of IMHE[Institute of Mountain Hazards and Environment, CAS], felicitated the founding of the Geography Center, and considered it as an important platform for promoting the education quality of Nepal and talents cultivation.
▼Nepalnews.com(2014/05/14)
The center, jointly built by IMHE and TU, will carry out geographical research of mountain hazards, mountain ecology and environment monitoring of the southern and northern slopes of the Himalayas. The collaboration aims to promote science and technology exchange between China and Nepal.
Dr. Deng Wei, director of IMHE, hailed the founding of the geography center as an important platform for enhancing the quality of scientific education in Nepal.
谷川昌幸(C)
韓国の対ネ投資と援助
韓国の自動車関連会社Global Auto Techとネパールの会社LTC(Lekali Trading Concern) P.Ltdが,5月17日,ソウルにおいて,ネパールにトラック製造工場を建設する協定に調印した。詳細は不明だが,実現すると,ネパール初の本格的な自動車製造工場となる。また,韓国の別の会社が,ネパールにモノレールを建設する計画もあるらしい。
一方,こうした投資案件と併行して,韓国は援助にも熱心だ。5月19日には,駐ネ韓国大使が,ネパール国民健康促進事業に4億6千万ルピーの援助をする覚え書きに署名した。
このところ,韓国も,中国に負けず劣らず,元気だ。( Republica, 18-19 May)
■来韓ネパール人(Macroeconomic Snapshot of Nepal,December 2013)
谷川昌幸(C)
飛行機プレゼント,中国政府
さすが中国,太っ腹で,目の付け所がよい。ピカピカの新品飛行機を,ドォーンと2機,国営「ネパール航空(NAC)」にプレゼントした。プラモデルではない。本物の小型旅客機だ。
1機目は,「新舟60(MA60)」。西安飛機製,58席。4月27日午後,この「中国からのギフト(Ekantipur, 4 Apr)」が着陸すると,トリブバン空港はお祭り騒ぎ,ヒンドゥー教聖者が祝福し,ラッパが高らかに吹き鳴らされ,「新舟」は歓迎アーチ放水で迎えられたそうだ。もう1機の「ギフト」は,「運12e(Y12e)」。ハルビン飛機製,19席。年内には,贈呈される。
といっても,中国に下心がない訳ではない。2機はギフトだが,他の4機(新舟1機,運3機)は,長期低利ローンで売却する契約だ。これは,カナダなど先進諸国が使ってきた常套手段。それを,先進国に取って代わり,中国が使い始めたわけだ。
このところ,中国の進出は空でもめざましい。
「新舟60」使用国:アフガニスタン,イエメン,インドネシア,ウクライナ,エリトリア,カメルーン,カンボジア,キルギスタン,コンゴ,ザンビア,ジンバブエ,スリランカ,タジキスタン,トンガ,ネパール,ボリビア,ラオス,ミャンマー,ペルー,フィリピン,ブルンジなど
「運12e」使用国:インドネシア,エリトリア,イラン,ウガンダ,カンボジア,キリバス,ケニア,コンゴ,コロンビア,ザンビア,シェイシェル,スリランカ,タンザニア,トンガ,ナンビア,ネパール,バヌアツ,パラグアイ,パキスタン,ペルー,フィジー,マレーシア,ミャンマー,モーリタニア,モンゴル,ラオスなど
ほとんどが途上国。「新舟60」は事故多発で安全性が問題にされているが,おそらく取引条件が先進国製よりも有利なのであろう。また「運12e」は軍用にも便利。そうしたこともあり,途上国で多く利用されているのではないかと思われる。
中国は,おそらく商売半分,政治半分で,途上国を中心に航空機を売り込んでいるのだろう。中国の軍拡はすさまじく,軍用機を先導とした技術革新も進んでいるはず。遠からず,米・欧州による空の寡占は中国航空機産業により突き崩され,日本の空にも中国製航空機が飛び交うことになるだろう。ヒノマル航空機の出番なしか。
谷川昌幸(C)
米のネパール援助削減と中国の援助戦略
アメリカ国務省発表によれば,米国の対ネパール予算は2015年度も削減される(Himalayan, 5 Mar)。
2012年度: 87.749百万ドル
2013年度: 87.079
2014年度: 79.700
2015年度: 76.630
対照的に,中国は,はっきりした数字は分からないが,ネパール向け援助や投資を拡大している。
▼中国は軍事援助,インドは鉄道建設
▼中ネ軍事協力,さらに強化
▼印中の対ネ軍事援助合戦
たとえば,2013年6月署名の協定によれば,中国は次のような援助を行う(Zeenews,25 Jun. 2013)。
(1)武装警察(準軍隊)学校建設:36億ルピー
(2)カトマンズ環状道路改良:40億ルピー
(3)制憲議会選挙(選挙管理委員会)支援:1億5千万ルピー
なかなかバランスのとれた目の付け所のよい援助だ。
このような中国のネパール進出は,ネパールの地政学的位置を変えつつある。サランシュ・シーガルは,中国の対ネパール政策の戦略性に注目する。(Saransh Sehgal,”China Expands into Himalayan Neighbor Nepal,” Defense Review Asia, Dec ’13-Jan ’14, 2013)
彼によれば,中国の対ネ直接投資は2007~2011年で倍増した。中国の関心は幅広く,軍事援助,道路建設,通信網整備,インフラ建設,食糧援助,水力発電などから文化の分野にまで及んでいる。孔子学院は各地に開設され,中国語授業はすでに70校以上で開始された。ルンビニ総合開発も計画されている。
そうした援助の中でも彼が特に注目するのが,チベット・ネパール間の道路と鉄道の建設。これらが開通すれば,ネパールの地政学的位置は激変するという。
中国の急速な超大国化とともに,アジアのパワーバランスは,特に周辺地域で大きく変化しつつある。この変化への対応は,日本にとっても難しいが,それ以上にネパールにとっては難しい課題となるであろう。
谷川昌幸(C)
中国は軍事援助,インドは鉄道建設
中印が,ネパールに対し,援助合戦を繰り広げている。
1.中国の軍事援助
2月21日,中国人民解放軍の王冠中(Wan Guanzhong)副総参謀長が,コイララ首相,SBJ・ラナ国軍総参謀長を訪問し,中ネ軍事協力の拡大で合意した。すでに援助が決まっていた国軍向け野戦病院2セット(8億2千万ルピー)は,まもなくカトマンズに到着する。今回,中国側は,来年度の軍事援助(国軍支援)として5億ルピーを提示した。
■王副総参謀長(military.people.com.cn)
2.インドの鉄道建設援助
一方,インドは2月21日,大使館が印ネ鉄道建設協力の進捗を発表した。発表によれば,インド大使館員と,ネパール建設交通省事務局長,Ircon International(印建設会社)代表とが会合を持ち,印ネ鉄道の建設促進について協議した。それによれば,
(1)ジョグバニ-ビラトナガル
進捗状況:インド側68%完成,ネパール側20%完成
(2)ジェイナガル-バルディバス
進捗状況:軌道敷,駅舎,鉄橋などの建設中。
今後,ネパール側が鉄道用地の取得を進め,これをIrcon Internationalに引き渡すよう努力することになった。
■ジョグバニ-ビラトナガル/ジェイナガル-バルディバス(Google)
中印二大国の援助合戦激化で,ネパール政治の舵取りは,これから先,ますます難しくなりそうだ。
谷川昌幸(C)
制憲議会選挙2013(26):乗っ取られた選管
ネパール選挙管理委員会のホームページ(election.gov.np/)が,また乗っ取られ(ハックされ)ている。IT素人には,どの程度危険か分からないが,ご用心ください。
■ネパール選管HP(12月8日午前)/乗っ取られた印AIADMKのHP(The Hindu, Nov.2)
ネパールのネットサイトは,有名どころでも,しょっちゅう乗っ取られる。選管HPも,選挙中にもかかわらず,何回か乗っ取られていた。くわばら桑原。
が,ネット上のホームページの乗っ取りなど,まあ,罪がない。せいぜい,世界中のネパール好きのパソコンを破壊するか,ウィルスをばらまくか,その程度のことだ。
これがもしホームページではなく,選挙そのものの乗っ取りだったら,どうなるか? 巧妙に物心両面に働きかけて選挙をやらせ,選挙実施を管理し,ひそかに誘導し,好都合な結果を出させ,それを民意の太鼓判として賞賛する。誰かが,そんなことをしているのではないか?
それにしても,”Pakistan Haxors“とは,意味深な名前だ。南アジアでは有名なグループなのだろう。ハッカーは功罪両面。教えられることも多い。
■選管ビル(2013-10-30)/選管カンチパト側フェンス(2013-10-30)
谷川昌幸(C)
ネパールフェスティバルとチャリティ: 関西テレビ
関西テレビ(フジテレビ)のネパール関係催事の案内要旨を転載します。
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●ネパールフェスティバル~光のまつり~
10月後半のこの時期ネパールでは町中を「灯り」と「花」で飾り、幸福の女神に感謝する「光の祭り」が行われています。それにちなんで、関西テレビでも会場を「灯り」と 「花」で彩り、ネパールの音楽・舞踊・料理・遊びなどのブースを設け、ネパールを身近に感じる楽しい催しを行います。
日時:10月20日(日)11時~19時
場所:関西テレビなんでもアリーナほか
参加費:無料
主催:関西テレビ 後援:ネパール大使館、日本ネパール協会、ネパール商工会議所、大阪市北区役所、キッズプラザ大阪、学校法人山口学園、関西大学STEP、産経新聞社
ネパールフェスティバルPDF
[参照]関西テレビCSRイベント
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●第40回FNSチャリティキャンペーン
支援国アジア『ネパール連邦民主共和国』~ネパールの子どもたちに笑顔を~
ネパール連邦民主共和国は、世界でもっとも貧しい国のひとつです。「世界子供白書2012」によりますと、1日1.25ドル以下で暮らす人の割合が55%と、国民の半数以上に上っています。これは世界子供白書2012の経済指標のリストに載っているアジアの国(データの不明な国を除く)では、最も高い割合となっています。
また、ユニセフ・ネパール事務所によると、5歳から17歳までの子どものうち40%(314万人)が働いており、児童労働が大きな問題となっています。この中には、長時間労働を強いられ、学校に行けず、十分な食べ物も与えられず、医療も受けられないなど、虐待を受けている子どもも多くいます。
FNSチャリティキャンペーンでは、東日本大震災のことも決して忘れないようにしながら、世界にも目を向け、ネパールで貧困や児童労働に苦しむ子どもたちを少しでも助けるために、2013年度の支援国をネパール連邦民主共和国としました。
[参照]第40回FNSチャリティキャンペーン
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谷川昌幸(C)
中印覇権競争とプラチャンダ外交(5)
7.プラチャンダの訪印
プラチャンダは,中国からの帰国1週間後,今度は訪印し,マンモハン・シン首相ら要人と会談した。中国優先や「3国協定」提案は不快なはずなのに,インドもやはりプラチャンダを招待した方が得策だと考えたのだ。
(1)印の民主化要求に応えたマオイスト
インドはこれまで,ことあるごとにネパールに介入してきた。P.ジャー(The Hindu, Apr30)によれば,2010年8月,シン首相は特使をカトマンズに送り,プラチャンダにこう伝えたという。
「強制力を持つ革命勢力のままでいるか,それとも多党制民主主義の規範に従う市民的政党となるか。選択せよ。」
そして,プラチャンダがヘトウダ党大会においてこの要求に従ったので,インドは彼の訪問を受け容れたのだという。
プラチャンダ訪印は,「ネパール・マオイストの党改革のニューデリーによる承認」であり,またインドが「ネパール政治の中心にいるダハールを敵視し続けるコストを重視した」ためでもあった(ekantipur, Apr25)。
KB.マハラもこう述べている。「インドの指導者や高官らは,先の党大会での決定を高く評価している。われわれへのインドの見方が好転したことを,はっきり感じることができる。」(ekantipur, Apr30)
Shyam Saran国家安全保障諮問委員会議長代行によれば,「ネパールは,移行を成功させるため,ダハールのような指導力と判断力を兼備した人物を必要としている。」(ekantipur, Apr30)
(2)3国協定の提案
プラチャンダは,シン首相との会談において,経済開発や制憲議会選挙への援助を要請した。そして,「ネパール=インド=中国3国協定(Nepal-India-China tripartite cooperation)」も提案した。インドとしては,不快なはずなのに,これも頭から拒否されることはなかった。
(3)訪印の「成功」
以上を根拠に,プラチャンダは,インドからも「高レベル政治委員会議長としてだけでなく,ネパール代表として,私は招待された」(Republica, May1)と述べ,訪印は大成功だったと自画自賛した。
むろん,これはプラチャンダの言い分であり,訪印がどこまで成功したかは,まだよくわからない。ただ,「インド膨張主義」をネパール人民の敵として闘ってきたマオイストが,ヘトウダ党大会で「議会制民主主義政党」に衣替えし,プラチャンダの下で「資本主義革命」と「3国協定」を目指すことを少なくとも表面的には認めさせたのだから,その限りでは成功といってもよいであろう。
8.中印介入の危険性
しかし,こうした中印両国を両天秤に掛けるようなプラチャンダ外交が,本当に成功するだろうか? 歴代国王は,それを試み,その都度,潰され,インド従属からの脱却はならなかった。その後,地政学的情況が大きく変化し,中国の影響力が拡大,中印バランス外交を以前よりはやりやすくなったが,その代わり,今度は,下手をすると,国内が親中派,親印派に分裂し,代理戦争を始めることになりかねない。
最大の懸念は,いうまでもなく連邦制。インドは,ネパールの連邦制化を支持し,言語州にするよう働きかけている(The Hindu, Oct5,2012)。もちろん,タライのことを考えてだ。
これに対し中国は,連邦制に反対。特に民族州とすると,北部が小民族州に分裂し,バルカン化し,チベットに波及する。しかも,中国は,民族州連邦制の背後には西洋諸国がいると考えている。中国にとっては,インド以上にやっかいな勢力だ。
そこで中国は,コングレスにも働きかけ,単一制国家への復帰,それが無理なら領域的連邦制とし、北部はごく少数の大領域州とすることを要求している(The Hindu, Oct5,2012)。People’s Review(Apr25)は,中国のプラチャンダ招待の理由は,民族連邦制反対に転向させるためだ,などといったうがった見方さえしている。
小国は,いずれかの大国の勢力圏に入ってしまうか,さもなければ大国間バランス外交の道を取らざるをえない。プラチャンダは,どうやらネパールを前者(印従属)から後者に移行させようとしているようだ。たしかに,ネパールをめぐる中印関係は,流動化し始めた。プラチャンダは,その流れに乗ろうとしているようだが,果たしてうまくいくのか? 先行きはまったく読めない。
9.国益のための援助と戦略思考
今回,プラチャンダは中印に援助協力を要請したが,これまでの先進諸国によるネパール援助は,開発援助にせよ民主化支援にせよ,うまくいってはいない。カネの無駄使いだ,いやそれどころかネパールを腐敗・堕落させるだけだ,といった非難さえしばしば聞かれる。私も,それに近いことを書いたことがある。しかし,そもそも外国援助の第一の目的は援助国側の国益確保である,という基本的事実を忘れてはならないだろう。
たとえば,もしいま西側がネパール開発援助から手を引けば,その穴は中国が埋める。インドが,はらわたが煮えかえっても,天敵プラチャンダ訪問を表面上は歓迎し,開発援助を約束せざるをえないのは,そのためだ。
いやそれどころか,もし西側が民主化支援や選挙支援をやめれば,その穴も中国が埋める。プラチャンダは,それらの支援も中国に要請しているのだ。もしネパールの制憲議会選挙が中国援助で実施され,中国支援で新憲法が制定され,中国支援で立法・行政・司法制度が整備されていったら,どうなるか?
だから,インドは,米帝の手先の膨張主義者といくら悪口を言われようが,選挙支援も民主化支援も,やめられないのだ。
援助は自国の国益のためと割り切るとして,さて日本はネパールにおいて,どのような日本国益の確保を目指すのか? 日本の戦略的思考力が試されている。
谷川昌幸(C)
制憲議会選挙,11月実施へ
主要4党と選挙管理委員会,レグミ議長(首相代行)およびヤダブ大統領は,制憲議会選挙の6月21日実施を諦め,11月15-21日実施とすることに,ほぼ合意した。プラチャンダ議長の中国帰国後,正式発表とのこと(ekantipur, Apr15,2013)。
ところが,選管から内閣に送られた「制憲議会議員令2013年(案)」をめぐって,またまたもめ始めた。論点は3つ。
(1)比例制で,得票率1%未満政党を切り捨てる。
(2)受刑者は,刑期満了後6年以上の者のみ,立候補資格あり。
(3)立候補者は,選挙前に所有財産を開示。また,立候補預託金は5000ルピー。
この3点について,マオイストと,他の小政党が反対している。もめると,11月選挙も難しくなる。
それにしても,いったい誰が,選挙をこんなに「精緻」に,複雑に,しようとしているのか? 制度は所詮道具であり,簡明なものに限る。複雑にすればするほど,カネと手間がかかり,内外の選挙産業,セミナー産業,援助産業,そして政党ボスを太らせるだけだ。
先進諸国は,次の選挙では,一切手を引き,ネパールの人々に全部まかせてみてはいかがか。プラスチック投票箱がなくても,コンピューターがなくても,選挙はできる。全部任せてしまえば,ネパールの人々は,自分たちの予算と人員と経験知の範囲内で実行可能なような簡潔な方法を工夫し,選挙を実施するにちがいない。
政治にも,適正技術は,ある。
谷川昌幸(C)
カーター元大統領:救済者か布教者か?
1.カーター元大統領の訪ネ
カーター元アメリカ大統領が,3月29-31日,訪ネし,ヤダブ大統領やレグミ議長(首相代行),プラチャンダ(UCPN),スシル・コイララ(NC),JN.カナル(UML),ガッチャダル(MJF)らの党首,そして市民社会の著名なリーダーらと会見した。
多くが歓迎する一方,中には辛らつな批判をする人もいる。カーター元大統領あるいはカーターセンターは,ネパールにとって,救済者か,それともアメリカ教か何かの布教者なのか?
2.ノーベル平和賞受賞者としてのカーター元大統領
ジミー・カーター(88歳)は,第39代大統領(1977-81)として,またカーターセンター(設立1982年)の活動を通して,世界の平和・人権・民主主義のために貢献してきたとして,2002年,ノーベル平和賞を授与された。
▼ノーベル平和賞授与理由
大統領として,イスラエル・エジプト紛争を調停した。また,カーターセンターは,紛争解決,人権保障,選挙監視,途上国開発に大きく貢献した。「カーター氏は,紛争は可能な限り国際法,人権尊重,経済発展に基づく仲裁や国際協力を通じて解決しなければならないとの諸原則を堅持してきた。」(共同,2002-10-11)
▼秋葉広島市長メッセージ(2002年10月17日)
「被爆地ヒロシマを代表し,貴殿のノーベル賞受賞をお祝い申し上げます。」
3.カーター元大統領とネパール
カーター元大統領は,ネパールについても,特にヒンドゥー教王国崩壊後,関心を高め,選挙実施や人権保障について助言や援助を行ってきた。2008年選挙の時は,選挙監視団を派遣し,報告書を出している。
今回の訪ネに先立って,1月8日,カーターは,カトマンズ・ポスト紙に「ネパール和平には選挙が必要」と題する文章を発表(カーターセンターHPにも転載),次のように述べた。
「残念なことに,選挙が2013年11月あるいは2014年春実施ということになれば,この間12ヶ月以上も,選挙されていない政府がつづくことになる。」そこでーー
(1)選管人事を進めよ
(2)選挙準備を進めよ
(3)有権者登録を進めよ
(4)選挙の方法を決めよ
(5)選挙区画の必要な修正をせよ
(6)選挙実施行政機構を整備せよ
選挙民主主義者カーターの(米国の)面目躍如といったところ。この考えに基づき,今回の大統領や議長(首相代行),各党・各界リーダーらとの会見においても,彼は,カーターセンターからの選挙援助と監視団派遣を提案した。政府や主要諸党は,この申し出を前向きに評価した。
4.救済者としてのカーター
このようなカーターのネパール関与を肯定的に評価し,積極的な援助を期待するのは,たとえば,自らをリベラル進歩派と考えるKC.ゴータム――
Kul Chandra Gautam, “Jimmy Carter and Nepal,” Republica, Mar27-28, 2013.
2日連載の長い文章において,KC.ゴータムは,カーターとカーターセンターに対し,積極的な介入と支援を,以下のように要請している。
「カーターセンターがネパールに深く関与し,またジミー・カーターが個人的にも我が国の平和プロセスに大きな関心を持たれていることを知り,私はたいへん嬉しかった。カーターの選挙監視,紛争解決,そして『平和を求め,疾病と闘い,希望を構築するために』は,世界的な経験に裏付けられ,信頼されている。そのカーターの賢明な助言は,ネパールにとって極めてタイムリーなものであり有益なものであろう。」
カーターセンターは,卓越したネパール分析を発表してきた。平和プロセス,制憲議会選挙,憲法制定,地方平和委員会,土地改革と没収土地返却,アイデンティティ政治などについて。
「特に,選挙管理委員会に関するレポートと勧告は,洞察に富むものだった。ジミー・カーターが,ネパールをはじめ,世界のいたるところで平和,民主主義,開発を促進するため崇高な努力をされてきたことを,全面的に支持し,深く信頼している。たしかにカーターを偏狭なアメリカ主義者・キリスト教代弁者と見る人もいるが,私には,このような皮相な見方は受け入れられない。カーターは,米政府の政策に反対する立場を幾度か勇敢にとったし,キリスト教会については,少女や女性にたいする差別を正当化したとして,教会との関係を公に拒否し切断した。これは事実であり,私はそれを尊敬している。」
今回のカーター訪ネの意義を,ゴータムは次のような観点から説明している。
(1)制憲議会選挙の準備。選挙は民主主義にとって最も重要。
(2)連邦制を新憲法の中に書き込むこと
(3)経済発展,法の支配,人間の安全保障の促進
「カーターが,ネパールで会談する人々に,これらの課題について率直に語り,明確なメッセージを与えてくれることを期待する。」
そして,具体的な要望としては――
(1)制憲議会選挙の監視
(2)地方選挙の実施勧告。地方選挙は15年間実施されていない。
(3)人権保障,特に「真実和解委員会」の適正な運営。マオイストや軍にたいする全面免責は認められない。加害者を処罰し,正義を実現するための支援をしてほしい。
(4)包摂民主主義を促進し,社会的公正を前進させること。
(5)連邦制の実現。「私は,カーターが,その世界的経験に基づき,ネパール人にこう助言てくれると確信している――すなわち,平等,包摂参加,社会的公正へのわれわれの正当な要求は,アイデンティティ連邦制と同一視されても混同されてもならないということである。」
(6)経済の発展と平等の促進
■カトマンズのカーター元大統領(Carter Center FB)
5.布教者としてのカーター
これに対し,カーターやカーターセンターの活動に懐疑的なのが『テレグラフ』の「ジミー・カーター来訪,疑惑の旅」(Telegraph, Feb.18, 2013)
「第39代米大統領ジミー・カーターは,非キリスト教世界へのキリスト教宣教活動で知られている。そのカーターが,2013年3月28日,また訪ネするとネパール外務省が発表した。
ジミーは,2008年制憲議会選挙の時,自ら選挙監視を買って出て訪ネした。その制憲議会は,2012年,憲法をつくることなく解散してしまった。
思い起こしてみよう。カーターは,制憲議会選挙がまだ終了していないのに,ソルティーホテル記者会見において,早々と,選挙は『自由で公平』に行われたと,宣言した。
また,各種報道によれば,1982年設立のカーターセンターは,ヒンドゥー王国崩壊後,ネパールにもその活動を広げ,直々の指導の下で,密かに,この国にプロテスタント・キリスト教を宣教してきた。実に怪しい訪ネだ!
ネパールのコミュナル平和にお慈悲を,ジミー!・・・・
カーターが,周縁化された諸集団の人々とも会い,イエス礼拝を説くかどうかまだわからないが,識者によれば,少なくとも小政党指導者たちに圧力をかけ,新憲法で改宗勧誘を合法化させようとすることは,確かだという。
ともあれ,カトマンズへようこそ。客人は限度をわきまえよ。ネパールは,まだ孤児にはなっていない。」
『テレグラフ』は,『人民評論』と同じく,保守派メディアだから,多少,割り引くとしても,巷にこのようなカーター批判が少なくないこともまた,事実である。
6.外に援助を求める不幸
救済者であれ布教者であれ,あるいはカーターであれ誰であれ,援助を外に求めざるを得ないのは,ネパールの不幸である。援助者が悪人であったり援助策が誤りであれば,こんな悲惨なことはない。しかし,たとえ仮に援助者が善人,援助策が正しかったとしても,これはもともと自立精神を危うくするものであり,たとえ痩せ我慢であれ,可能な限り援助の申し出は断るべきであろう。
幕末維新の日本が,多少,誇れるのは,西洋人を自ら厳しく選考し「お雇い外人」として雇用したこと。幕末日本と西洋との落差は,現在のネパールと先進諸国との落差の比ではないが,それでも福沢諭吉の言葉を借りるなら,「独立自尊」を貫こうとした。のちに日本は本来の「独立自尊」から外れ,視野狭窄,夜郎自大に堕し破滅したが,「一身独立して一国独立す」の気概そのものは,個人にとっても国民と国家にとっても忘れられてはならないことである。
先進諸国は,ネパールの「独立自尊」を尊重できないのなら,援助は断念すべきであろう。
谷川昌幸(C)
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