ネパール評論 Nepal Review

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新憲法制定支援,中国の巧みさ

中国が,土壇場に来て,ネパール新憲法の制定を強力に支援している。巧みにして効果的,他国の追随を許さない。さすが外交大国!

 150107a ■習主席(中国外務省HP)

1.切り札としての習主席訪ネ
目玉は,習近平主席。国交60周年も絡め,もし新憲法が制定・公布されるなら,習主席のネパール訪問は可能と,中国筋はあちこちでネパール側にほのめかしている。巧い,美味すぎる!

たとえば,中国現代国際関係研究院(CICIR)南亜東南亜大洋州研究所のHU Shisheng所長は,こう語っている。

「ネパール制憲議会が,新憲法を制定しその任務を全うするなら,中国高官のネパール訪問がより確かとなるだろう。」そして,ネパール政治が安定すれば,習近平主席の訪ネも可能となる。しかし,これはあくまでもネパール側の努力にまたねばならない。「中国には,ネパールの政治に圧力をかけるつもりもなければ,ネパールへの影響力をめぐってインドと競うつもりもない。」(a)

こうした中国の対ネ外交は,ネパール側からも高く評価されている。たとえば,ビレンドラ・ミシュラ元選管委員長は,中国要人の訪ネが日常化していると特筆した上で,こう述べている。

「隣国,特に中国のような強大で発展した国からの訪問は,もちろん望ましいことだ。中国は,ネパールの安定,独立,主権をつねに尊重してくれている。これと対照的に,インドはネパール訪問をあまり重視していないようだ。[バジパイ首相の2002年訪ネの次はモディ首相の2014年訪ネなのに]モディ首相はこの訪ネを政治的に利用したにすぎない。インドは,ネパールのことは,おそらく治安機関に任せているのだろう。」(b)

このように,ネパール側の中国への期待も,きわめて大きい。

150107b ■CICIR(同HP)

2.大国外交の華と粋
ネパールの新憲法制定(新国家構築)については,これまで主に日本を含む西側先進諸国が物心ともに支援してきた。人民戦争停戦,武装解除,暫定憲法体制設立,制憲議会選挙,新憲法起草準備など。それは内政干渉ギリギリ,だからこそ,ネパール側からの反発も,少なくなかった。

ところが,その最後の最後,土壇場の総仕上げの段階になって,中国が奥の手を出し,新憲法制定への最後の一押しをしようとしている。もしめでたく新憲法が制定・公布されるなら,それは中国の決定的な一押しのおかげと言うことになる。

もし,こうして新憲法が制定されるなら,習近平主席が国賓として訪ネし,正統な新体制の出発を威厳をもって厳粛に祝福するであろう。そして,ネパール国民も,こぞって,これを歓迎し,偉大な中国の支援への感謝を惜しまないであろう。あっぱれ,見事な大国外交だ。

▼「亜太日報」(1月1-15日) ネパール発行の本格的中国語高級紙
150107c

[参照]
(a)”Chinese Nepal watchers: Xi’s visit hinges on charter,” Ekantipur,2015-01-06
(b)Birendra Mishra, “Chinese Interest,” Republica,2015-01-06

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/01/07 at 18:33

カテゴリー: インド, 外交, 憲法, 中国

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印首相訪ネと中国

1.印ネ共同声明
モディ首相が訪ネ(8月3-4日)し,共同声明(8月4日)が発表された。35項目に及ぶ包括的な声明であり,両国の特別の密接な関係がよく見て取れる。国家間というよりは,あえていうならば,むしろ中央政府と地方政府の交渉のような印象さえ受ける。主なものは以下の通り。

[11]1950年平和友好条約の見直し合意。
[12]国境問題解決の重要性の確認。
[14]解放国境悪用や第三国による国土悪用の防止。
[15]インフラ・エネルギー開発のため10億ドルのソフト・クレジット供与。
[16]印首相が,パシュパティ寺院を参拝,白檀2500kg寄進。印政府によるパシュパテ寺院ダルマサラ建設およびパシュパテ地区保存の支援。
[17]ジャナクプル,ルンビニ等の開発支援。
[18]ネパール人学生,専門家のインド留学支援。
[19]パンチェシュワル開発局関係文書署名,甲状腺腫対策事業了解覚書および印ネ放送協力事業了解覚書署名。
[20]上カルナリ水力発電,上マルシャンディ,タマコシ3などの事業促進合意。
[21]マヘンドラナガルのマハカリ川橋梁建設支援合意。
[22]中部丘陵道路建設の検討。
[23]防衛協力の継続。
[26]両国間5鉄道建設等の交通網整備促進。
[28]印・カトマンズ間石油パイプライン建設の検討。
[29]対印貿易赤字解消のための輸入規制緩和の検討。
[30]印経由通行規制緩和合意。
[31]空路規制緩和の検討。
[33]水路の改修検討。

140808■BJP-HP

2.約束は守ると約束
これらの約束について,モディ首相は,帰国後の談話(8月4日)で,「約束は全力で実行し,一つとして反故にしない」と語った。

また,インド人民党(BJP)も,党声明(8月5日)において,「モディ首相の基本姿勢――『ネパール内政不干渉と,要請されたときのみの援助』――は,すべての人びとに受け入れられた」,「モディ首相は,ネパールの大きな期待に応え,二国間関係の新たな出発を成し遂げた」と,手放しで自画自賛した。

140808c

3.ネパール側の冷めた評価
ネパール側でも,表向きモディ首相訪ネへの評価は高いが,その一方,懐疑的な見方も少なくない。

▼大臣が1人も同行しない(Ekantipur,1 Aug)。
▼目玉であった電力取引協定(PTA)と事業開発協定(PDA)の2協定に調印できなかった(Ekantipur, 4 Aug)。
▼10億ドルのソフト・クレジットが,いつ,どのように実施されるか不明(Himalayan,4 Aug)。
▼UML幹部との会談において,モディ首相は,水資源開発協力についてネパールが早く決定しなければ,ネパール側がさらに不利になる,と語った(Ibid)。
▼インドは,首相らが約束しても,官僚が反故にすることが多い。今回はどうか?(Republica,4 Aug)。

印ネ関係は,いわば日常的近所付き合いのようなものであり,そのぶん見方が厳しくなるのはやむをえまい。メディア報道も,モディ首相訪ネ直前と訪ネ中を除けば,ごく控え目。2,3日すぎると,もうほとんど見られず,中国関係の方が大きくハデになった。現金なものだ。

4.中国の勢いと外交力
その中国だが,この間も,ネパールでの動きは華々しかった。7月31日には,カトマンズの中国大使館において,防衛担当官主催の「人民解放軍創設87周年式典」が開催され,ラナ国軍総監ら多数が出席,両国軍の協力関係の促進がうたわれた(新華社8月1日)。

翌8月1日には,中国・ネパール国交樹立59周年式典(ネパール中国協会主催)が開催された。式典では,呉春太大使が,数年で訪ネ中国人は年25万人に達すると語った。ちなみに2010年46,360人,2012年71,861人,2013年89,509人。フライトも,中ネ航空協定により週14便から週56便に大幅増便されている。直接投資額では,周知のように,中国はすでにインドをぬき最大投資国になっている(ekantipur,2 Aug)。

呉春太大使はまた,孔子学院の拡充やタライ方面への事業展開も進めたいと語った。「中国の医療ボランティアは,チトワンのBPコイララ癌病院で働き,ネパール人だけでなく国境を越えて来た人々[つまりインド人]をも治療してきた。」(Telegraph,2 Aug)

140808d ■BPコイララ癌病院

これに応え,ネパール側出席者,たとえばバブラム・バタライ元首相(UCPN)も,経済協力関係の強化を訴え,特にチベット鉄道のシガツェからカトマンズへの延伸を強く要請した。また,この式典でも,出席者が口々に「一つの中国」支持を表明したことはいうまでもない(ekantipur,2 Aug)。

驚いたのは,モディ首相帰国の翌日(8月5日),シンドパルチョーク地滑り被害への李克強首相のお見舞いの言葉が,記事として大きく掲載されたこと(ekantipur,5 Aug)。他の国々も同様のお見舞いをしているはずなのに,メディアでの中国の扱いは別格。

中国の勢い,あるいは外交力は,やはりスゴイといわざるをえない。

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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/08/08 at 13:54

中国,TUに地理研究センター設立

中国科学院(CAS)が,トリブバン大学(TU)と協力し,TU内に「中国・ネパール地理共同研究センター」を設立した。ヒマラヤの南北地域の研究が目的。

ここで注目すべきは,研究センター設立に関する記事のニュアンスが,中国側とネパール側ではかなり異なること。ネパール側記事は中国側原記事の要約ということだろうが,その要約の仕方が微妙だ。下記CAS記事の赤字の部分のニュアンスが,おそらく意識的にカットされている。なかなか興味深い。

▼Chinese Academy of Sciences(2014/05/06)
It[Sino-Nepal Joint Research Center for Geography] aims to train more talents specializing in mountain geography, promote research ability of related fields in Nepal, and make contributions to promoting China’s scientific and technological influence power and science and technology exchange and cooperation between China and Nepal.

Dr. DENG Wei, director of IMHE[Institute of Mountain Hazards and Environment, CAS], felicitated the founding of the Geography Center, and considered it as an important platform for promoting the education quality of Nepal and talents cultivation.

▼Nepalnews.com(2014/05/14)
The center, jointly built by IMHE and TU, will carry out geographical research of mountain hazards, mountain ecology and environment monitoring of the southern and northern slopes of the Himalayas. The collaboration aims to promote science and technology exchange between China and Nepal.

Dr. Deng Wei, director of IMHE, hailed the founding of the geography center as an important platform for enhancing the quality of scientific education in Nepal.

140520

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/05/20 at 10:56

カテゴリー: 教育, 中国

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韓国の対ネ投資と援助

韓国の自動車関連会社Global Auto Techとネパールの会社LTC(Lekali Trading Concern) P.Ltdが,5月17日,ソウルにおいて,ネパールにトラック製造工場を建設する協定に調印した。詳細は不明だが,実現すると,ネパール初の本格的な自動車製造工場となる。また,韓国の別の会社が,ネパールにモノレールを建設する計画もあるらしい。

一方,こうした投資案件と併行して,韓国は援助にも熱心だ。5月19日には,駐ネ韓国大使が,ネパール国民健康促進事業に4億6千万ルピーの援助をする覚え書きに署名した。

このところ,韓国も,中国に負けず劣らず,元気だ。( Republica, 18-19 May)

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■来韓ネパール人(Macroeconomic Snapshot of Nepal,December 2013)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/05/19 at 20:21

カテゴリー: 経済

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飛行機プレゼント,中国政府

さすが中国,太っ腹で,目の付け所がよい。ピカピカの新品飛行機を,ドォーンと2機,国営「ネパール航空(NAC)」にプレゼントした。プラモデルではない。本物の小型旅客機だ。

1機目は,「新舟60(MA60)」。西安飛機製,58席。4月27日午後,この「中国からのギフト(Ekantipur, 4 Apr)」が着陸すると,トリブバン空港はお祭り騒ぎ,ヒンドゥー教聖者が祝福し,ラッパが高らかに吹き鳴らされ,「新舟」は歓迎アーチ放水で迎えられたそうだ。もう1機の「ギフト」は,「運12e(Y12e)」。ハルビン飛機製,19席。年内には,贈呈される。

といっても,中国に下心がない訳ではない。2機はギフトだが,他の4機(新舟1機,運3機)は,長期低利ローンで売却する契約だ。これは,カナダなど先進諸国が使ってきた常套手段。それを,先進国に取って代わり,中国が使い始めたわけだ。

 140429 ■新華社記事(4月28日)より

このところ,中国の進出は空でもめざましい。

「新舟60」使用国:アフガニスタン,イエメン,インドネシア,ウクライナ,エリトリア,カメルーン,カンボジア,キルギスタン,コンゴ,ザンビア,ジンバブエ,スリランカ,タジキスタン,トンガ,ネパール,ボリビア,ラオス,ミャンマー,ペルー,フィリピン,ブルンジなど
「運12e」使用国:インドネシア,エリトリア,イラン,ウガンダ,カンボジア,キリバス,ケニア,コンゴ,コロンビア,ザンビア,シェイシェル,スリランカ,タンザニア,トンガ,ナンビア,ネパール,バヌアツ,パラグアイ,パキスタン,ペルー,フィジー,マレーシア,ミャンマー,モーリタニア,モンゴル,ラオスなど

ほとんどが途上国。「新舟60」は事故多発で安全性が問題にされているが,おそらく取引条件が先進国製よりも有利なのであろう。また「運12e」は軍用にも便利。そうしたこともあり,途上国で多く利用されているのではないかと思われる。

中国は,おそらく商売半分,政治半分で,途上国を中心に航空機を売り込んでいるのだろう。中国の軍拡はすさまじく,軍用機を先導とした技術革新も進んでいるはず。遠からず,米・欧州による空の寡占は中国航空機産業により突き崩され,日本の空にも中国製航空機が飛び交うことになるだろう。ヒノマル航空機の出番なしか。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/04/29 at 15:09

カテゴリー: 経済, 外交, 旅行, 中国

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米のネパール援助削減と中国の援助戦略

アメリカ国務省発表によれば,米国の対ネパール予算は2015年度も削減される(Himalayan, 5 Mar)。
  2012年度: 87.749百万ドル
  2013年度: 87.079
  2014年度: 79.700
  2015年度: 76.630

140306b ■援助発表(米大使館HP)

対照的に,中国は,はっきりした数字は分からないが,ネパール向け援助や投資を拡大している。
 ▼中国は軍事援助,インドは鉄道建設
 ▼中ネ軍事協力,さらに強化
 ▼印中の対ネ軍事援助合戦

たとえば,2013年6月署名の協定によれば,中国は次のような援助を行う(Zeenews,25 Jun. 2013)。
 (1)武装警察(準軍隊)学校建設:36億ルピー
 (2)カトマンズ環状道路改良:40億ルピー
 (3)制憲議会選挙(選挙管理委員会)支援:1億5千万ルピー
なかなかバランスのとれた目の付け所のよい援助だ。

このような中国のネパール進出は,ネパールの地政学的位置を変えつつある。サランシュ・シーガルは,中国の対ネパール政策の戦略性に注目する。(Saransh Sehgal,”China Expands into Himalayan Neighbor Nepal,” Defense Review Asia, Dec ’13-Jan ’14, 2013

彼によれば,中国の対ネ直接投資は2007~2011年で倍増した。中国の関心は幅広く,軍事援助,道路建設,通信網整備,インフラ建設,食糧援助,水力発電などから文化の分野にまで及んでいる。孔子学院は各地に開設され,中国語授業はすでに70校以上で開始された。ルンビニ総合開発も計画されている。

そうした援助の中でも彼が特に注目するのが,チベット・ネパール間の道路と鉄道の建設。これらが開通すれば,ネパールの地政学的位置は激変するという。

中国の急速な超大国化とともに,アジアのパワーバランスは,特に周辺地域で大きく変化しつつある。この変化への対応は,日本にとっても難しいが,それ以上にネパールにとっては難しい課題となるであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/03/06 at 20:00

中国は軍事援助,インドは鉄道建設

中印が,ネパールに対し,援助合戦を繰り広げている。

1.中国の軍事援助
2月21日,中国人民解放軍の王冠中(Wan Guanzhong)副総参謀長が,コイララ首相,SBJ・ラナ国軍総参謀長を訪問し,中ネ軍事協力の拡大で合意した。すでに援助が決まっていた国軍向け野戦病院2セット(8億2千万ルピー)は,まもなくカトマンズに到着する。今回,中国側は,来年度の軍事援助(国軍支援)として5億ルピーを提示した。
140222a ■王副総参謀長(military.people.com.cn)

2.インドの鉄道建設援助
一方,インドは2月21日,大使館が印ネ鉄道建設協力の進捗を発表した。発表によれば,インド大使館員と,ネパール建設交通省事務局長,Ircon International(印建設会社)代表とが会合を持ち,印ネ鉄道の建設促進について協議した。それによれば,
 (1)ジョグバニ-ビラトナガル
   進捗状況:インド側68%完成,ネパール側20%完成
 (2)ジェイナガル-バルディバス
   進捗状況:軌道敷,駅舎,鉄橋などの建設中。
今後,ネパール側が鉄道用地の取得を進め,これをIrcon Internationalに引き渡すよう努力することになった。

140222b ■Ircon International

140222c140222d
 ■ジョグバニ-ビラトナガル/ジェイナガル-バルディバス(Google)

中印二大国の援助合戦激化で,ネパール政治の舵取りは,これから先,ますます難しくなりそうだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/02/22 at 20:15

カテゴリー: インド, 軍事, 中国

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