ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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中国プレゼンス,震災支援で急拡大

ネパールにおける中国のプレゼンス(存在感)が,急拡大している。小中学校に行くと,以前は「こんにちは!」などと声をかけられたが,いまでは「ニーハオ」だ。街には中国製品があふれ,あちこちで中国企業が工事をしている。

そして,それにダメ押ししたのが,震災救援活動。どこにいっても中国政府援助の青テントや「中国紅十字」の白テントが張られている。公園はむろんのこと,路地にも民家の庭にも中国援助テントはある。(個人購入中国製テントもあるかもしれないが,見ただけでは区別できない。)とにかく,ものすごい数。

援助国,援助団体などの間で援助地域割りがなされているのかどうか知らないが,首都圏を見るかぎり,メッセージは一目瞭然。中国は,目に見える形で,被災したネパールの人々を全力で支援している,ということ。

震災後のテント緊急援助は有効で,中国の支援は高く評価される。と同時に,その中国の震災救援作戦は,政治的にみても実に見事であり,羨望を感じざるをえない。なにはばかることなき大国のおおらかなふるまい――日本にはとうてい真似はできまい。

▼中国援助テント
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 ■トゥンディケル/ラーニポカリ

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 ■パタン

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 ■パタン/キルティプル

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 ■ムルク(バラジュ北西の村)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/08/02 at 18:59

カテゴリー: 国際協力, 中国

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震災深刻(5): コカナ

コカナは,パタンの南方6~8kmのところにあるこじんまりしたネワールの村ないし町。古いレンガ造りの家並が長い時の流れの中でじっくり熟成し,落ち着いた独特の雰囲気を醸し出していた。世界文化遺産候補。

そのコカナが,今回の地震で大きく損壊した。コンクリート使用建物は,少々古くてもすべて無事のようだったが,レンガ積みの古い家は多くが全壊または半壊していた。3か月経っているので,倒壊した家々の壁は元の土に戻り,通路や宅地に土手か小山のようになって堆積している。しばし呆然,涙なくして見られない光景だ。

崩壊家屋の間の狭い通路には,ショベルカーが入り,家々の残骸を掬い取り,ダンプカーで次々と運び出していく。鉄筋も固いコンクリート片もほとんどないので,作業はみるみる進んでいく。文化は熟成に長年月を要するが,破壊は一瞬だ。

古い家並が残っているところもあるにはあるが,これだけ多数の家屋が損壊してしまうと,もとの姿に戻すのは困難であろう。コカナには,援助機関が多数入り,テントや仮設住宅の設置など,活発な支援活動を展開している。

▼震災以前のコカナ
 コカナとブンガマティ ブログ内検索:コカナ

▼崩壊をまぬかれた古い建物
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▼崩壊家屋/後片付け/崩壊家屋撤去
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▼仮設住宅と救援活動
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150722l■ワールドビジョンは,掲示によれば,一定の条件を付けたうえで,特に支援が必要な被災家族に現金7500ルピーを配布。

▼コカナの下方の田園風景
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【参照】カトマンズ市街の震災「軽微」,観光支障なし(2015-07-16)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/07/23 at 14:59

カテゴリー: 自然, 国際協力

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震災なきがごときカトマンズ

トリブバん空港到着後,タクシーでキルティプルに来た。驚いたのは,少なくとも見た限り,見えた限りでは,震災はほとんど感じられなかったこと。

4月地震で村にも街にも被害が出ていることは事実だが,連日の報道から想像していたほど,少なくともカトマンズの街には被害はなさそうだ。タクシーから見た限りでは,倒壊したり大きく損傷した建物は,沿道には,タパタリ近くの寺院を除けば,ほとんど見られなかった。

空港ビルは無傷,絶対崩壊と思っていたマイティガルの半宙吊り建物(下図)も無事,反対側の古い古典調官庁群も見た限りでは健在。

150212e150212d■2015年2月現在

キルティプルも同様。ホテルは丘の急斜面にへばりつくように立っており,地震があれば丘の下まで崩落はまぬかれないと恐れていたのに,なんとひび一つ入ることなく,平常通り営業していた。

キルティプルで最も心配していたのが,寺院とその周辺の古い建物群。こちらはダメだろうなと覚悟していたが,すべて無傷,ひびすらほとんど見られなかった。

といっても,被害が全く見られなかったわけではない。丘の上の,地震以前から自然崩壊しつつあった古い,古~い建物は,いくつか部分崩壊し,近くの広場にテントや仮設避難所が設営されていた。キルティプルで避難生活をしているのは,40家族ほどだそうだ。

震災は地域差が大きいらしい。キルティプルのすぐ近く,古い街並みが見事な愛すべきパンガ。ほぼ全滅だそうだ。近くのマッチェ村も多くの家が倒壊とのこと。本当だろうか?

それにしても,雨季ど真ん中,水は有り余っているはずなのに,長時間停電とは,不思議な国だ。

▼キルティプルの寺院と民家と避難所(2015-7-13)
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/07/14 at 11:56

カテゴリー: 社会, 自然

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前途多難な被災学校の再建

地震被災地でも学校が再開され始めたが,被害の大きかった学校の再建には多くの困難が伴う。

これは,以前紹介したスリョダヤ校(学校の地震被害)の現状。著名なジャーナリストで作家のナラヤン・ワグレ氏が撮影,ツイッター/フェイスブック(6月3日)に掲載されている。古風な美しい校舎だったのに,結局,取り壊しとなってしまった。まことに悲しく残念な光景だ。

150604aHammer is most powerful tool to deconstruct. Wonder what is the most powerful tool to construct.https://www.facebook.com/narayan.wagle.5473

知は力なり」――校舎正面に掲げられたベーコンの言葉
ハンマーは解体の最強の道具。では,再建の最強の道具は何だろうか」ナラヤン・ワグレ

このスリョダヤ校や他のいくつかの学校への復興支援チャリティが,東京・谷中の宗善寺で開催されている。

▼ネパール 震災支援 ムスムス
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谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/06/04 at 19:07

カテゴリー: ネパール, 国際協力, 教育

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震災救援の複雑な利害関係(12):支援食品「牛肉マサラ」

パキスタンのネパール救援物資の中に「牛肉マサラ」があったとして,大問題になっている。

ネパールの食習慣の難しさは,私自身,骨身にしみて思い知らされたばかりだ。この2月,インドの影響の強いタライのある町の大衆食堂で昼食をとったときのこと,たまたま朝食の残りのゆで玉子を持っていたので不用意にそれを食べたら,その食堂がベジタリアン(菜食主義)であったため,ひどく叱責された。表示は見当たらなかったし,外人でもあるが,だからといって許されはしない。それくらい,食習慣はネパールでは重要なのだ。(参照:平和のハトと,ハトを食うヒト

ちなみに,ネパールにおける牛殺しは,1990年以前は全財産没収のうえ死刑,1990年改正法でも12年の禁固刑。牛殺しは,なお大罪である。

150531b■パキスタンの救援物資(NDMA)

1.インド人派遣医師の告発
パキスタンが「牛肉マサラ」を救援物資として送ったことを告発し,激しく攻撃しているのは,ネパール人というよりは,むしろインドのヒンドゥー保守派とメディアであり,そしてなぜかイギリス・メディアも尻馬に乗り,それを煽り立てている。

発端は,どうやらMail Today(India Today)の4月29日付記事「われわれはパキスタン救援物資には触れていない」[g]と30日付記事「パキスタン,ネパール地震被災者に牛肉を送る」[a]のようだ。記事概要は以下の通り。

4月28日,ビール病院に救援派遣されていたインド人医師何人かが,救援物資を受け取りにトリブバン空港に行った。
B. Singh医師
「われわれは,空港でパキスタンからの救援食品を受け取るつもりだったが,携行食パックをみると,その中に『牛肉マサラ』の小袋が入っているのがわかった。・・・・われわれは,パキスタンからの救援物資には手を触れなかった。」[a]
  *携行食(MRE: Meals Ready to Eat),調理済み即席食品
  *牛肉マサラ(Beef Masala):マサラ牛肉カレーのようなものか?

匿名インド人医師
「地元の人々のほとんどは,食品の中身には気づかなかった。もし知っていたら,食べなかったはずだ。・・・・パキスタンはネパールの宗教感情を,牛肉マサラを送ることにより傷つけてしまった。ショッキングだ。ことの重大さを,パキスタンは考えなかった。」[a]

150531c■パキスタンの救援物資(NDMA)

2.NDMAとPANA
救援物資を送ったのは「パキスタン国家防災管理庁(NDMA: National Disaster Management Authority)」。NDMAは4月28日,パキスタンの陸軍・空軍および外務省と協力し,C-130輸送機でテント,毛布,医薬品,食糧,そしてこの携行食パックをカトマンズに送った。[a]

携行食パックを製造したのは,PANA Force Foods。軍隊用携行食や災害用非常食を主に製造販売している。[a] PANAのHPをみると,携行食や非常食の写真付き宣伝が出ている。様々な商品があり,たとえばチキン・マサラ,マトン・マサラ,牛肉ハリーム,牛肉ニハリなど。「牛肉マサラ」そのものの宣伝はなかったが,この商品一覧からして,あって当然,何ら不思議ではない。[a]

Mail Todayは,救援食品パックの写真を掲載し,ラベルに「非売品」,「ポテト・ブジア」そして「牛肉マサラ」と表示してあったと書いている。状況からして,「牛肉マサラ」があったのは,おそらく事実であろう。

150531e■PANAの食品宣伝

3.パキスタン政府の釈明
パキスタン政府は,当初,「牛肉マサラ」を送ったことを否定した。
T. Aslam(パキスタン外務省報道官)
「このことは承知していない。・・・・食品輸送は私の責任ではない。救援物資は国家防災管理庁が送ったものだ。」[c]

しかし,この説明を,パキスタン政府はすぐ訂正する。
T. Aslam(パキスタン外務省報道官)
「携行食セット内のそれぞれの袋に,英語とウルドゥ語で食品名が記載されており,誰でも食べるか否かを選択することができる。どちらの言語もネパールでは理解される言語だ。ネパール当局が,この携行食を必要と考え,輸送機に優先的に最大限積み込み送ることを要請したのだ。」[d]

パキスタン大使館
「パキスタンは,苦難の中にあるネパールのヒンドゥー教徒友人たちが何を大切にしているかを,よく承知している。パキスタンの私たちは,ネパールの兄弟姉妹に寄り添い,すべての宗教を尊重しており,したがってネパール人の信仰や価値観を侮辱することなど思いもよらないことだ。・・・・一つの大きな食品袋に,様々な食品を入れた22の小袋が入れてあり,これで朝・昼・夕の3食をまかなうことができる。使用されている肉は,牛肉ではなく,水牛肉である。しかも,肉を食べたくなければ,それの入った小袋を取りのけ,食べないこともできる。」[f]

以上のように,パキスタン側の説明は二転三転し,不手際が目につくが,事実はおそらく「水牛の肉のマサラ」携行食を送ったということであろう。あるいは,不注意で「牛の肉のマサラ」を送ってしまったのかもしれない。

もし前者であれば,全く問題はない。たとえ後者であっても,牛肉料理は以前から高級ホテルやレストランなどで提供されているそうだから,今回の件をことさら厳しく糾弾することはできないはずだ。

カトマンズポストによれば,ネパール政府も,パキスタン大使館の上記説明を了承したという[f]。

150531a■パキスタン国家防災管理庁

4.インドからの非難攻撃
ところが,インドのヒンドゥー保守派や商業主義メディア,あるいはスキャンダル好きの英メディアは,事実関係をよく確かめもせず,ネパールに「牛肉マサラ」を送ったとしてパキスタンを攻撃し続けてきた。

Independent UK
「パキスタンは,ヒンドゥー教信仰の厚い国民に牛肉入りの食品を送るという,たいへんな文化的過ちを犯した。」[b]

O. Hosable(RSS幹部)=Independent UK
「これはきわめて無神経な行動で,糾弾されるべきだ。」[b]

K. Adhikari(ネパール保健大臣)=Mail Today, India
「パキスタン政府には,ネパールの文化や宗教を無視しないでいただきたい。そのような食品を送る前に,ネパールの宗教や文化のことを考えてみるべきだ。」[g]

Kavita(カトマンズ市民)=Mail Today, India
「たとえ気づかなかったとしても,牛肉マサラを食べてしまったら,パシュパティ寺院には行けない。ネパールでは牛を礼拝しているのだ。」[g]

Ashok(カトマンズ市民)=Mail Today, India
「パキスタンは,謝るべきだ。ネパールでは牛は食べない。いまは非常時,それを利用することは許されない。」[g]

インドにも,もし「牛肉マサラ」が送られていたとしても,それは単なる手違いにすぎないであろうとか,このたいへんな震災非常時をパキスタン攻撃に利用すべきではない,といった冷静な意見もあるにはあるが,圧倒的に声が大きいのは,やはりパキスタン非難攻撃の側。あげくは,こんなトンデモナイ,とばっちり非難攻撃さえ出始めている。
Sakshi Maharaj(BJP議員)
「ラフル・ガンディが,牛肉を食べ,身を清めることなく,神聖な寺院(Kedarnath)に参拝した。だから地震が起きたのだ。」[h]
 
珍説ではあるが,The Times of Indiaが報道し(原記事未確認),それが各紙に転載され,拡散している。ラフル・ガンディーはインド会議派の副総裁であり,当然,会議派はカンカンになって怒っているが,この種の感情的煽動は冷静な説得ではなかなか止められない。それだけに,かえって恐ろしい。

パキスタン「牛肉マサラ」問題も,非常時暴動など,下手をすると大事件の引き金になりかねない。理性ではなく感情の問題だから,制御が困難。

5.ネパール官民の冷静な対応
パキスタン「牛肉マサラ」問題について,ネパールの官民は,驚くほど冷静に行動してきた。スキャンダル好きのネパール・メディアも,インドや英国のメディアのように騒ぎ立てていないし,政府も慎重に対応している。

カトマンズポスト「牛肉食品告発,パキスタンは否定」[f]は冷静な記事だし,そこで伝えられているネパール政府の対応も政治的に妥当なものだ。

ネパールの人々は,どの種の宗教原理主義とも距離をとってきた。敬虔な宗教的社会でありながら,他者の宗教には比較的寛容であった。また政治的には,ネパールには中国や欧米といったカウンターバランスがあり,ヒンドゥー原理主義への抵抗が,インドよりもむしろやりやすいのであろう。

しかし,震災復興は前途多難,あれやこれやの過激主義の感情的煽動がいつ人心につけ込むかわからない。そのようなことがないことを,切に願っている。

[参照資料]
[a] Astha Saxena,”Pakistan serves beef to Nepal earthquake survivors,” Mail Today,New Delhi,29 [updated 30] Apr 2015.
[b] Kashmira Gander,”Nepal earthquake: Pakistan sends beef masala to feed survivors in the Hindu-majority nation,” Independent.UK,30 Apr 2015.
[c] “No beef content in food dispatched by Pakistan to Nepal,” http://tribune.com.pk/story/878414/earthquake-relief-did-pakistan-serve-beef-to-hindu-majority-nepal/
[d] Astha Saxena, “Nepal earthquake: Pakistan ducks after beef relief blunder,” Mail Today,New Delhi, 30 Apr 2015.
[e] Jim Hoft,”OUTRAGE IN NEPAL After Pakistan Sends Packaged Cow Meat as Disaster Relief,” 30 Apr 2015.http://www.thegatewaypundit.com/2015/04/outrage-in-nepal-after-pakistan-sends-packaged-cow-meat-as-disaster-relief/
[f] “Pakistan denies beef food allegations,” kathmandu Post(Ekantipur),2015-05-01.
[g] Astha Saxena,”‘We did not touch the Pakistani aid’: Quake-struck Nepal launches inquiry as Pakistan sends ‘beef masala’ to country where cow slaughter is banned,” Mail Online India(Mail Today, Daily Mail UK),29 April 2015. http://www.dailymail.co.uk/indiahome/indianews/article-3061416/We-did-not-touch-Pakistani-aid-Quake-struck-Nepal-launches-inquiry-Pakistan-sends-beef-masala-country-cow-slaughter-banned.html
[h] “Rahul’s ‘impure’ visit to Kedarnath caused Nepal earthquake, says Sakshi Maharaj,” 28 Apr 2015.http://www.firstpost.com/politics/rahuls-impure-visit-to-kedarnath-caused-nepal-earthquake-says-sakshi-maharaj-2215456.html

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/06/02 at 11:39

震災救援の複雑な利害関係(11):インド「首相国民救援基金」

インドは関係の最も深い隣国ということもあり,ネパール地震への対応はきわめて早かった。モディ首相は,地震発生直後から関係閣僚らと対応を検討し,積極的に「インド国民だけでなく,あらゆる被災者に最大限の救いの手をさしのべるべきだ」と指示した。直接,ヤダブ大統領とコイララ首相にも電話して救援を申し出,その結果,5時間後にはインドからの救援機がカトマンズに到着した。[a]

そして,4月27日には,モディ首相は率先して「震災被災者救援のため」給与一ヶ月分を「首相国民救援基金(PMNRF: Prime Minister’s National Relief Fund)」に寄付すると発表した。この首相発表は大きく報道され,PMNRFには国会議員や様々な団体,個人が,続々と寄付を申し出た。こうして集まったPMNRFへの救援金は,「国家災害対応部隊(NDRF)」などを通してネパール救援に役立てられている。[b]

インドのネパール地震へのこの迅速な対応は,モディ首相の時機に鋭敏な政治的センスによるところが大きい。

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 ■首相府HP/PMNRF(同HP)

1.首相国民救済基金(PMNRF)
モディ首相が月給を寄付したPMNRFは,ネルー首相が1948年,パキスタンからの避難民救援のために設立した基金だ。現在は,自然災害以外にも,大事故,暴動,特定の疾病などの被災者・患者の救済・救援に使用されている。PMNRFは,所得税法の規定に基づく信託基金(trust)であり,管轄は首相府,基金議長は首相。運営の基本原則は以下の通り(5月28日現在)。[c]

(1)PMNRFは,任意の寄付金のみで運営され,公金は受け入れない。寄付相当額は,所得税法第80G条により全額控除。
(2)使途指定の寄付金は受け入れない。
(3)「PMNRFによる救援はインド国民にのみ与えられる。したがって,外国の国民や外国の災害の救援を対象とする寄付金は,PMNRFでは受け入れない。」

2.PMNRFネパール救援批判
ここで,“あれ?”と不審に思われるのは,当然である。PMNRFが「インド国民」のみを対象としているのであれば,どうしてそれでネパール人被災者の救援ができるのか,と。この問題は,インド各紙もむろん指摘し,批判した。たとえば――

「もしPMNRFが法の規定によりインド国民被災者の救援だけを目的とするのなら,われわれの寄付でネパール国民を救済することはできるのだろうか? ネパールで精力的に活動している国家災害対応部隊(NDRF)は,PMNRFの資金援助を受けている。法的には,これはPMNRFの正規の活動目的からは外れている。救援それ自体を問題にしているのではない。政府がいまなさねばならないのは,PMNRFの活動目的を正式に変更するか,説明をきちんとすることである。」[d]

モディ首相はPMNRF議長だから,PMNRF救援対象がインド国民に限定されていることは十分承知しているはずだ。それにもかかわらず,モディ首相は4月27日,ネパール震災被害者救援のため給与一ヶ月分をPMNRFに寄付した。そして,5月1,2日には,担当者がPMNRFによる救援方針をネパール側に伝えた。[b]

PMNRFの公式HPには,一方で外国救援は対象外とする従来の規定(上記参照)を残したまま,他方ではこう案内されている(5月27日現在)。

「先日の地震で大きな被害が出ている。ネパールへも救助・復興支援の手をさしのべるため,PMNRFに特別口座を開設することが決定された。この寄付申込書による寄付は,ネパール救援・復興に使用される。PMNRFは,個人,団体,財団,企業,協会等からの寄付を受け付けている。寄付金は,第80G条により所得税対象額から全額控除される。」[c]

150529dGrouponによる募金アピール(同HP)

3.二つの説明
いったい,どうしてこのようなことが可能なのか? 一つの説明は,PMNRFは首相府管轄の「信託基金(trust)」であり,首相の裁量で運用方法を変えることができる,というもの[e]。しかし,これはいかにも苦しい。外国は対象外と,はっきり明文規定し,HPにも掲載しているのだから。

もう一つは,根拠を1950年の「インド・ネパール平和友好条約」の以下の規定に求めるもの[b]。

第6条 両国政府は,インドとネパールの近隣友好に鑑み,自国内の相手国国民に対し,自国の産業・経済開発への参加およびそのような開発に関する許可ならびに契約に関し,自国民と同等の処遇(ntional treatment)をする。
 第7条 インド政府とネパール政府は,自国内の相手国国民に対し,居住,財産所有,通商交易,移動に関する権利および同種の他の権利を認めることに同意する。」

要するに,印ネ両国は両国民を自国民と居住,移動,経済活動等において原則同等に扱うということ。しかも印ネ間はパスポート・ビザなしで自由に移動できるオープンボーダーとなっている。

この条約には,印ネ両国が完全な主権と独立を相互に認めるという規定(第1条)もあり,両国は平等のように見える。しかし,実際には,インドは強大国,ネパールは弱小国。インドは,共通の伝統文化を持つ後見国として,ネパール国民を自国民と同じく優しく保護しなければならない。したがって,震災においても,ネパール国民を自国民と同じく救済すべきだということになるわけだ。

150529a■BJP/VHPネパール救援募金(WorldHinduNews,4 May)

4.インド・ナショナリズムとネパール救援
モディ首相も,インドのこの伝統的な対ネ保護政策の立場に立ち,PMNRFによるネパール救援を決め,率先してそれを推進してきたのではないかと思われる。

このことは,モディ首相与党BJPが,地震直後の25日,集会でPMNRFへの寄付を呼びかけ,その後も盛んにネパール救援を訴えていることからも傍証される[e]。「メディアの報道をみると,インドのネパール救援はBJP宣伝の一部のようだ。」[g] また,VHPやシヴ・セーナーなどヒンドゥー保守派も,積極的にネパール救援活動を繰り広げている。[b,h]

インドのヒンドゥー・ナショナリストは,中国をにらみつつ,政治的にネパールを保護下に置き続けようとし,また西洋のキリスト教や世俗主義をにらみつつ,宗教的にネパールのヒンドゥー教を支援しようとしている。

モディ首相が,PMNRFによるネパール救援にいち早く踏み切ったのは,おそらくこのようなインド世論の有り様を直感的に感じ取ったからであろう。モディ首相は,たしかに政治家としてのセンスがよい。

しかしながら,救援を受ける側のネパールとしては,PMNRFにせよ他の形によるにせよ,インドからの救援は感謝しつつも,警戒せざるをえない。「ネパールは,インドの尊大な『ビッグブラザー』のような態度を特に警戒している」[i]。腐れ縁ともいえる印ネ関係だけに,複雑にして難解である。

150514c■微妙な印ネ関係(Unreal Times,2015-04-26より)

【参照資料】
[a]”PM Modi leads from the front in India’s response to Nepal quake,” Hindustan Times,28 Apr 2015.
[b]”PM’s relief fund may extend to Nepal,” The Hindu, 3 May 2015.
[c] Prime Minister’s National Relief Fund (PMNRF)ホームページ,https://pmnrf.gov.in/またはhttp://pmindia.gov.in/en/pms-funds/
[d]Ashish Kumar, “PM’s National Relief Fund Is Meant For Indian Citizens Only. So How Can It Help Nepal?,” http://topyaps.com/donate-but-know-the-clause [2015-05-27]
[e]”HIMALAYAN TRAGEDY,Amid calls to donate to PM’s relief fund, donors uncertain about money going to Nepalis; Donors have been confused by site which says fund is for providing relief only to the citizens of India,” Scroll,30 Apr 2015.
[f]”Delhi BJP Donates Rupees 5 Lakh to the PM Relief Fund for the People of Nepal in This Hour of Grief,” Delhi BJP,25 Apr 2015. http://bjpdelhi.org/articles/press-release/384/press-release-25-04-2015-delhi-state
[g]”Journalists need to be trained to effectively report on disasters,” Ekantipur, 2015/05/05
[h]”Mangaluru: BJP,VHP raise funds for quake victims in Nepal,” 4 May 2015.http://worldhindunews.com/2015050443378/mangaluru-bjp-vhp-raise-funds-for-quake-victims-in-nepal/
[i] Vishal Arora,”Geopolitics Enters Nepal’s Earthquake Relief Efforts: What was behind Nepal’s call this week for foreign teams to leave the country?,” 6 May 2015. http://thediplomat.com/2015/05/geopolitics-enters-nepals-earthquake-relief-efforts/

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/29 at 14:13

カテゴリー: インド, ネパール, 宗教, 中国

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震災救援の複雑な利害関係(8):統治の不安定化

ネパール震災救援を特に難しくしているのが,政治の不安定,統治(ガバナンス)の脆弱さである。

ネパールでは,マオイスト紛争(1996-2006)終結後も統治が安定せず,諸勢力が入り乱れ離合集散,権力闘争,利権争いに明け暮れ,いまだ憲法も暫定的なもの,正式憲法は制定の目途すら立たない。

これは,換言すれば,ネパールがいまだ近代主権国家として未成熟であり,対内的にも対外的にも,国家権力をそれ自体として唯一・絶対・独立の,客観的で中性的な「最高権力」として保持しきれないということ。ネパール政府諸機関は,国内のあれやこれやの勢力によって私物化されがちだし,また外国の様々な介入にも弱い。

そのネパールが4月25日,大地震に見舞われた。地震は瞬時に大被害をもたらすもので,たとえ日本のような先進国においても自国だけでは対応しきれず,「トモダチ作戦」など,諸外国の政府や諸団体の救援をあおいだ。ましてやネパールは途上国,外国の政府や民間諸団体の救援を受けるのは,当然といってよいであろう。

しかし,外国による震災救援は,ネパールのような途上国の方が,政治的には難しい。日本でも,救援隊,特に軍隊が国内で「作戦」を展開することには,法的あるいは感情的に様々な軋轢が生じる。が,近代主権が確立している先進諸国では,たとえそうしたことがあっても,それによって直ちに政権が動揺したり,ましてや統治が崩壊するといったことは考えにくい。

ところが,途上国ネパールでは,そうではない。外国の政府や民間団体による震災救援活動が内政干渉となり,下手をすると政権転覆,統治崩壊といった事態すら引き起こしかねないのだ。ネパール政府や有力諸政党が,外国の救援活動を警戒し,規制しようとするのも,その限りでは,理解できないことはない。

[例]キリスト教会系救援活動に対する批判
 「被災者の皆さん,まもなく救援パックで聖書が届きますよ。」
 150520a(Nepali Journalists@jhyal ツイッター2015-05-20. 画像引用元は米聖書協会HP

こうした観点からネパール政府が打ち出したのが,「単一窓口政策(One-door Policy)」であり,「首相災害救援基金(Prime Minister Disaster Relief Fund)」である。

「首相災害救援基金」への支援アピール:在日ネパール大使館
 150520

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/20 at 13:40

震災救援の複雑な利害関係(7):中国とパキスタン

中国は,自国被災地チベットに大救援隊を送る一方,ネパールにもいち早く中国史上最大の外国救援隊を派遣した。インドや米国の動きをにらみながらであることは,各紙コメントにあるとおりである。概要は以下の通り。(重複や漏れがあるかもしれない。)

▼中国救援隊(Xinhua, 7 May)
 ・人民解放軍・武装警察隊:1,088人 救助犬:6匹
 ・空軍:IL-76 8機,MI-17ヘリ 3機
 ・医療救援隊展開:カトマンズ,シンドパルチョーク,ゴルカ,ダディン
 ・負傷者治療:2387人

中国救援隊は,地震発生の翌日にはカトマンズに入った。ネパール側の評価も高い。たとえば,ラナ国軍統幕長は,こう述べ感謝してる。「中国救援隊は,道路が切断された遠隔地にも行ってくれた。われわれが必要としていたすべてのものを供給してくれた。」(Ibid)

150512■各国の救援機(OCHA, 4 May)

中国と関係の深いパキスタンも,いち早く支援に駆け付けた。ネパールにおけるパキスタンの動きは,特にインドに警戒されている。
 ・パキスタン軍:医療チーム50人,救援隊38人
 ・空軍:C-130 4機
 ・仮設住居30万人分(全必要数の4分の1)
 ・救援金:150万ドル (Telegraph Nepal, 5 May; Dawn, 4 May)

150506k■パキスタンの救援機(Dawn, 4 May)

谷川昌幸(C)

 

Written by Tanigawa

2015/05/18 at 20:26

震災救援の複雑な利害関係(6):自衛隊展開の遅れ

前回,米軍「支援の手作戦」の日本への影響について述べたが,そのような素人の思いつくようなことなど,すでに軍事専門家によって,はるかに鋭くラジカルに指摘されていた。たとえば,文谷氏(軍事ライター)の次の記事:

文谷数重「ネパールへの自衛隊展開は、なぜ遅れたのか 長距離輸送機の調達戦略に問題あり」東洋経済ネット版,2015年05月04日

文谷氏によれば,自衛隊のネパール展開の遅れの原因は,C-17輸送機がなかったこと。

「4月25日に発生したネパール大地震を受けて、各国は即座に災害援助を行った。それを実現したのは米国製のC-17輸送機であった。大搭載量と長大な航続距離を兼ね備えた長距離輸送機であり、小型飛行場でも離着陸可能である。米英、オーストラリア、カナダはC-17の特性を活かし、災害現場のネパールに直接展開できた。しかし、自衛隊の展開は遅れた。これは[自衛隊現有]最大の輸送機であるC-130の性能不足が大きく影響している。」
「自衛隊は、[C-17購入ではなく]C-2の国産を選択した結果、長距離空輸能力で不具合を抱えている。長距離輸送機を持たないため、空輸展開によるタイムリーな災害援助、国際貢献、重量物輸送をできない状態にある。」

150516a■嘉手納のC130(嘉手納米空軍HP4月29日)

自衛隊のこの海外展開能力不足は,文谷氏によれば,軍事的にもむろん大問題である。

「2000年以降に自衛隊の海外派遣は量も質も拡大している。国際貢献としては、インド洋やイラク、ソマリア沖海賊対処が始まっている。これは従来以上に大規模であり、長期間継続するものであった。他国戦闘部隊への兵站支援や、日本自身が海外基地を建設するといった意味で本格的な任務である。」
「さらに将来をみれば、輸送力不足はより深刻となる。自衛隊の海外活動は今以上に大規模、本格化する。より大重量・大容積の物資を、より遠方に運ばなければならないためだ。・・・・C-2では戦車を運べない。」

だから,「より大重量・大容積の物資をより遠距離に運べる機材」であるC-17を購入せよ,こう文谷氏は主張されるのである。

150517b■開発中のC-2(日本政府HPより)

文谷氏は,「自衛隊の展開は遅れた」という事実認識では,全くその通りであり,正しい。しかし,その事実認識から,自衛隊の海外展開能力の強化や,戦車すらも積載可能なC-17の購入といった政策が直ちに引き出されてよいわけではない。

そもそも,海外救援活動は,軍事を主目的とする軍隊には,ふさわしくない。文谷氏は,C-17があれば,自衛隊のネパール展開の遅れはなかったと主張されたいのだろうが,本当にそうか?

インドの「ともだち作戦」に対してですら,あれほどの反対があったのだ。日本が,もし戦車も積載可能なC-17などで自衛隊を運び込もうとすれば,ネパールのナショナリスト,あるいは中国やインドを多かれ少なかれバックに持つネパールの諸勢力が,どう反応するか? 自衛隊は,れっきとした日本の軍隊なのだ。

150517a■横田のC-17(米軍横田基地HP2014-11-17)

「自衛隊の展開の遅れ」は,このままでは,積極的平和主義を唱える人々により,絶好の奇貨とされてしまうであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/17 at 14:56

カテゴリー: ネパール, 軍事, 国際協力

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震災救援の複雑な利害関係(5):米国「支援の手作戦」と日本

アメリカは,「支援の手作戦(Operation Sahayogi Haat)」を展開している。いかにも世界超大国アメリカらしく,総合的で効率的な「作戦」だ。ネパールの被災住民にとって,頼りになる力強い救援「作戦」であることはいうまでもない。

150516d■支援の手作戦(海兵隊ツイッター5月11日)

米国のネパール震災救援(2015-05-14現在,在ネ米大使館FB5月14日)
  米国対ネ援助総額:$27,648,399
  国防省:$8,809,856(4万人の医療品,3か月分ほか)
  USAID外国災害救援:$21,000,000(救援物資17万5千ポンドほか)
  USAID平和のための食糧:$2,500,000(17,500人にビニールシート700巻ほか)

150516c■在ネ米大使館FB(5月14日)

その一方,この「支援の手作戦」も米軍中心の「作戦」であり,ネパールへの米軍の緊急展開や中ネ国境付近での米軍の作戦行動は,当然,軍事的意味を持ちうる。しかしながら,ネパールでは今のところ,オスプレイが風圧で民家を壊すといった苦情があるくらいで,インドの「ともだち作戦」に対するような「作戦」そのものへの表立った批判はない。

米軍「支援の手作戦」が大きな意味を持ちそうなのは,むしろ,米軍の軍用機や人員の主な発進基地となっている日本においてである。

米軍は,沖縄の海兵隊中将を指揮官とする「第505統合任務部隊」を編成し,沖縄や横田の米軍基地から軍用機で救援隊や救援物資をネパールに運んだ。

米軍派遣航空機
 オスプレイ 4機;KC-130J 2機; C17 4機
 UH-1Yヘリ 3機(1機墜落,海兵隊6名,ネ兵2名死亡との報道)

150516a 150516e
 ■C-130 Hercules,嘉手納発進(嘉手納空軍基地HP4月29日)/横田発進(在日米軍ツイッター5月7日)

この「支援の手作戦」により,軍が迅速かつ広範な「作戦」展開能力を持つことの有効性が,改めて日本の人々に強く印象づけられた。しかも,「人道支援」「災害派遣」という,誰にも反対しにくい日本人好みの平和的「作戦」によって。積極的(proactive)な平和貢献には,米軍のような積極的な「作戦」展開能力が不可欠だということ(”proactive”は米軍愛用)。

特にオスプレイは,ヘリのような運用に加え,航続距離が長く,速度も速く,大量の人員・物資を輸送できる。災害救援はむろんのこと,尖閣など離島防衛にも有効だ。あるいは,日本の領域を超えた遠方での作戦のことまで考えるなら,なおさら有効性は増すといってよいであろう。

というわけかどうか知らないが,日本政府もオスプレイを17機(3600億円)ばかり購入し,佐賀空港かどこかに配備する計画らしい。

150516b■カトマンズ着オスプレイ(沖縄海兵隊HP5月4日)

大規模災害は,いつ,どこで起こるかわからない。そのための備えは必要不可欠だ。しかし,それを軍にやらせるのは,特に日本にとっては危険だ。軍の場合,どこに派遣されようが,多かれ少なかれ軍事的意図を勘ぐられ,敵視される。

日本は,平和憲法をもつ日本こそは,いついかなる時に,いかなる場所に派遣されようとも,軍事的に警戒されることのない,完全非軍事の有能な,世界で最も信頼される常設救援隊をもつべきであろう。

【参照】野口健ツイッター(5月18日)
「先日、米軍ヘリがネパールで墜落し複数の犠牲者をだしたばかりなのに、米軍オスプレイは救援物資を積み飛び続けている。昨日カトマンズの空港でオスプレイを見ましたが、一緒にいたシェルパ達が涙ぐみながらオスプレイに手を合わせて祈りを捧げていた。」

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2015/05/16 at 11:58

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