ネパール評論 Nepal Review

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キリスト教牧師に有罪判決(5)

4.ケシャブ牧師訴追批判
ケシャブ・アチャルヤ牧師の逮捕・訴追については,ネパール内外のキリスト教関係諸機関が厳しい批判を繰り広げてきたことはいうまでもない。たとえば――

▼宗教の自由国際ラウンドテーブル(IRFR)公開書簡(2021年7月19日付)
「[当局の行為は]ネパール憲法の保障する法の支配を無視し,言論信仰の自由を不法に制限するものだ。このままであれば,アチャルヤ牧師の逮捕・再逮捕が悪しき前例となって,憲法26(1)条の定める安全保障がさらに掘り崩され,キリスト教徒や他の少数派諸宗教の人々は,自分たちの宗教信仰の自由を制限され,信仰の大原則を単に表明することさえ困難になってしまうだろう。」(*8)

▼メルヴィン・トマス(Christian Solidrity Worldwide 代表)
「ケシャブ牧師への嫌疑には全く根拠がない。彼の扱いは,正義に反する重大な過ちである。・・・・ネパールには,宗教信仰の自由への権利の保護促進を図っている国際社会の努力を尊重していただきたい。」(*8)

▼タンカ・スベディ(Religious Liberty Forum Nepal 議長)
「アチャルヤ裁判では,民主的世俗的ネパール憲法のもとでの最初の判決が下された。その判決は,ネパール憲法の精神を掘り崩すものであり,不当である。言論の自由や信仰告白の自由を台無しにし,少数派を抑圧するものだ。」(*14)

▼B.P.カナル(Nepal for the International Panel of Parliamentarians for Freedom of Religion or Belief ネパール代表)
「アチャルヤ逮捕の経緯だけをみても,その逮捕が不当なもので,キリスト教に対する計画的な行為であったことは明らかである。」(*14)

ここでB.P.カナルが指摘しているように,ケシャブ・アチャルヤ牧師の逮捕・訴追は,おそらく「計画的な(pre-planned)」権力行使であろう。妻ジュヌ牧師もこう指摘している。

▼ジュヌ・アチャルヤ牧師
「ケシャブ牧師の逮捕・有罪判決は,キリスト教社会全体に対する警告です。彼らは,ケシャブを処罰すれば,その有罪判決を見てキリスト教徒たちが学ぶだろう,と考えています。」(*14)

5.宗教と構造的暴力
ケシャブ牧師の逮捕・訴追につき,キリスト教会側が,内外声をそろえて,信仰の自由への権利を根拠に,ネパール政府当局を厳しく批判するのは,もっともである。信仰の自由は,もっとも重要な万人に保障されるべき基本的人権の一つである。

が,一方,その信仰の自由といえども,社会の中で行使されるのであり,社会の在り方と無関係ではありえない。

とりわけネパールのように,世界的にはむろんのこと,国内社会に限定しても,経済,教育,健康など多くの領域において構造的暴力の犠牲になっている人々がまだまだ多い場合には,たとえ信仰の自由といえども,その現状を十分踏まえ行使されなければならない。

たとえば,次のような報告。善意に疑いはないが,非キリスト教徒のネパールの人々がこれを読んだら,どう感じるか? いわずもがな,であろう。

「世界クリスチャンデータベースの数字によると,ネパールは世界で最もキリスト教人口が増加している国の一つだ。・・・・

改宗は違法のままだが,ほとんど実効性はない。キリスト教団体は社会的支援などのために入国し,その多くは活動とともに福音を伝えた。・・・・

C4Cの提携宣教団体『救い主だけがアジアの人々を贖う(SARA)』のテジュ・ロッカ牧師は,『彼らは病気の人や壊れた家族を見つけては話し掛けて祈りました。すると奇跡的にその人たちが確信を持ち,キリストに従い始めたのです』と述べた。『彼らは人々に,幾らかの食料と衣服を寄付しました。そのため,人々は彼らに耳を傾け始めたのです』」(*3)

【参照1】
*3 なぜネパールには、世界で最も急成長している教会があるのか, christiantoday.co.jp,翻訳:木下優紀, 2016/02/09
https://www.christiantoday.co.jp/articles/19022/20160209/nepal.htm
*8 Religious freedom groups call for dropping of charges against pastor in Nepal, LiCAS, 2020/07/28
https://www.licas.news/2020/07/28/religious-freedom-groups-call-for-dropping-of-charges-against-pastor-in-nepal/
*14 Pastor in Nepal Sentenced to Prison under Proselytism Law, Morning Star News, 2021/12/28
https://www.licas.news/2020/07/28/religious-freedom-groups-call-for-dropping-of-charges-against-pastor-in-nepal/

【参照2(2022/01/28追加】
「それでも、明治政府が天皇を「万世一系」「神聖不可侵」と定義したことには歴史的必然性があることは僕も認めます。幕末にアジア諸国を次々と植民地化してきた欧米帝国主義列強の圧倒的な経済力・軍事力の背景には白人種を人類の頂点とみなすキリスト教的コスモロジーがありました。だから、日本が列強に対抗するには、黒船だけではなくキリスト教にも対抗しなければならなかった。・・・・僕は神仏分離による日本の伝統的な宗教文化の破壊を悲しむものですけれども、「一神教文化に対抗する霊的な物語を創造しないと列強に対抗できない」という政治判断自体にはそれなりの合理性があったと思います。」内田樹「天皇制についてのインタビュー」『月刊日本』2022年2月号

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2022/01/15 at 17:58

キリスト教牧師に有罪判決(4)

3.事件の経過:2020年3月~2021年12月
ケシャブ牧師は,2020年3月の最初の逮捕から現在まで2年近くにわたり裁判を闘ってきた。その経過の大要は,以下の通り。

2020年3月23日
ポカラのカスキ郡警察が3月23日,コロナに関するデマ(虚偽情報)拡散の容疑でケシャブ牧師を逮捕(1回目)。根拠法は報じられていないが,刑法の虚偽情報拡散禁止(84条)などの規定に依拠しているものと思われる。

警察によれば,ケシャブ牧師は,2月22日にユーチューブに投稿し,そこで,神にお祈りすれば,コロナは治る,神がコロナを死滅させてくれる,と説教したという。

牧師自身は,この2月22日のユーチューブ投稿それ自体は全面的に否定しているが,同趣旨に近い発言であれば,牧師は繰り返し行っている。たとえば―

「コロナよ,退散し死滅せよ。主イエスの御力で,お前らの行いがすべて根絶されんことを。主イエス・キリストの御名により,汝,コロナよ,お前を叱責する。その創造の御力,その統治者によりて,汝を叱責する・・・・。主イエス・キリストの御名により,その御力で,コロナよ,立ち去り死滅せよ。」(*8,9,11)

2020年2~3月頃は,ネパールのコロナ感染はまだ始まったばかりであったが,世論はこの未知のウィルスに過敏に反応し緊張が高まっていた。そうした情況で,たとえユーチューブ投稿ではなくても,かりにそうした趣旨の発言が集会か何かにおいてなされていたとするなら,それがかなり危険な発言であったことは,おそらく否定できないであろう。

この3月23日のケシャブ牧師逮捕時の状況について,妻のジュヌ牧師は,こう説明している。彼女によると,その日,一人の男がポカラの牧師宅に来て,コロナに感染した妻のために祈ってほしい,とケシャブ牧師に頼んだ。そして,(お祈りが済んで?)男が出ていくと,すぐ警官が入ってきて,コロナに関するデマを流したという嫌疑でケシャブ牧師を警察署に連行していったという。この説明は,ユーチューブ投稿との関係は不明だが,説明そのものとしては具体的だ。牧師逮捕時の状況は,おそらくそのようなものであったのであろう。

2020年4月8日
ケシャブ牧師は,ポカラのカスキ郡拘置所から保釈金5千ルピーで保釈されたが,その直後,再逮捕(2回目)。今回の容疑は,宗教感情の毀損(刑法156条)と改宗教唆(刑法158条)。

2020年4月19日
カスキ郡裁判所が,保釈金50万ルピーでの保釈を決定するが,牧師は保釈金を納付できず,拘置継続。

2020年5月13日
ケシャブ牧師は保釈請求が認められ保釈されるが,直ちに警察により別の容疑で逮捕され(3回目),そのまま身柄を遠隔地のドルパ郡警察に送られてしまった。

ドルパ郡は,ヒマラヤ奥地の高地で人口3万人余。そのうち「ドルポ」が面積の大半,人口の約半数を占めている。車道はまだ通じておらず,徒歩,馬などで3日間は移動しないと,ここには行くことが出来ない。ケシャブ牧師も,両手を後ろ手に縛られ,3日間かけてドルパに連行された。

ドルパ郡警察によると,ケシャブ牧師の逮捕理由は,牧師がドルパで住民にキリスト教パンフレットを配布し改宗を勧めた容疑。これに対し,牧師は,パンフレット配布は認めたが,改宗を勧めたことは否定した。警察側は,改宗を勧められた証人がいると主張したが,法廷には,結局,その証人は現れなかった。

2020年6月30日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師の保釈決定。保釈金30万ルピーで牧師保釈。

2021年11月22日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師に対し,宗教感情毀損と改宗教唆の罪で有罪判決。牧師は直ちに収監。

2021年11月30日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師に対し,禁錮2年,罰金2万ルピーの判決を言い渡す。

2021年12月19日
ドルパ郡裁判所,ケシャブ牧師の保釈を決定。

カスキ郡裁判所
ドルパ郡裁判所

【参照】
*1 ネパールの改宗禁止法、信教の自由を侵害する恐れ 専門家が警告, christiantoday.co.jp, 翻訳:木下優紀,2015/07/22
*2 ネパール:昨年の大地震後、教会の数が著しく増加 聖公会の執事区が近況報告,christiantoday.co.jp, 記者:行本尚史, 2016/02/05
*3 なぜネパールには、世界で最も急成長している教会があるのか, christiantoday.co.jp,翻訳:木下優紀, 2016/02/09
*4 ネパール、国の祝日からクリスマスを除外 キリスト者側が反発, christiantoday.co.jp, 2016/04/11
*5 ネパールで「改宗禁止法」成立、大統領が署名 キリスト教団体が懸念,christiantoday.co.jp,翻訳:野田欣一,2017/10/29
*6 Police arrest pastor who said those believing in Christ are safe from coronavirus, Onlinekhabar, 2020/03/24
*7 Pastor in Nepal Re-Arrested, Morning Star News, 2020/05/15
*8 Religious freedom groups call for dropping of charges against pastor in Nepal, LiCAS, 2020/07/28
*9 Nepal sentences pastor to two years for conversion, UCA News, 2021/12/01
*10 Pastor Sentenced to Prison for Evangelism, Christian Solidarity Worldwide, 2021/12/02
*11 Pastor in Nepal sentenced to 2 years in prison for saying prayer can heal COVID-19, by Anugrah Kumar, Christian Post, 2021/12/05
*12 ネパールの牧師、新型コロナ感染症のために祈ったことで禁錮2年, Christian Today, 2021/12/10
*13 KESHAV RAJ ACHARYA,Church in Chains,2021/12/15
*14 Pastor in Nepal Sentenced to Prison under Proselytism Law, Morning Star News, 2021/12/28

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2022/01/06 at 17:23

カテゴリー: ネパール, 司法, 宗教, 人権

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キリスト教牧師に有罪判決(3)

2.牧師夫妻とその教会
ケシャブ・ラジ・アチャルヤ(33歳)さんとその妻ジュヌ・アチャルヤさんは,ともに,アバンダント・ハーベスト教会(प्रशस्त कटनी मण्डलि)の牧師。子供は,2歳と7か月の男子二人。

このアバンダント・ハーベスト教会はプロテスタント系のようだが,そのどの教派に属するかまでは,ネット情報からだけでは不明。それでも,フェイスブックなどを見ると,夫妻の教会が活発に活動し,多くの人々を集めていることは確かなようだ。

夫のケシャブ牧師はまだ33歳。妻も同年代であろう。にもかかわらず,5年前,ポカラから十数キロ東のレクナートに「アバンダント・ハーベスト教会」を開き,メンバーは400人にもなっているという。そして,ほんの数か月前にはポカラに別の教会をつくり,これもメンバーは80人に達しているという。(ケシャブ牧師投獄のためポカラの教会を閉鎖したとされるが,詳細不明。)

フェイスブックやユーチューブでみると,ケシャブ牧師はたしかに情熱的で雄弁,その魅力で多くの人々を引きつけ,夫妻の教会を急成長させてきたのであろう。

なお,ポカラ付近にも,キリスト教会は,驚くほどたくさんある。下掲地図はレクナートを含む広域だが,地図を拡大すれば表示教会数はまだ増えるし,またグーグル登録されていない小さな教会も相当数あるに違いない。ケシャブ牧師逮捕事件の背景には,こうした地域の宗教状況の大きな変化もあるとみてよいであろう。

ケシャブ・アチャルヤ牧師(FB)
ジュヌ・アチャルヤ牧師(FB)
ポカラ付近の教会(グーグル検索church+in+Kaski)

【参照】
ネパール:昨年の大地震後、教会の数が著しく増加 聖公会の執事区が近況報告, 記者: 行本尚史, christiantoday.co.jp, 2016/02/05
なぜネパールには、世界で最も急成長している教会があるのか, 翻訳: 木下優紀, christiantoday.co.jp, 2016/02/09
Pastor in Nepal Sentenced to Prison under Proselytism Law, Morning Star News, 2021/12/28

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2022/01/04 at 14:45

カテゴリー: ネパール, 宗教, 憲法, 人権

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キリスト教牧師に有罪判決(1)

年末はクリスマスの季節,ネパールでも聖俗関連行事が年々盛んになってきたが,その一方,それに危機感を募らせる勢力によるキリスト教攻撃も半ば年中行事化してきた。

今年も,いくつかキリスト教攻撃事件があったが,ネパール国内にとどまらず世界的なニュースとなったのが,ケシャブ・ラジ・アチャルヤ牧師の裁判。

ケシャブさんは,ポカラの「アバンダント・ハーベスト教会」の牧師だが,その教会活動を通して人びとをキリスト教に改宗させたり,人びとの宗教感情を毀損したとして逮捕され,裁判にかけられ,この11月30日,ドルパ郡裁判所で禁錮2年,罰金2万ルピーの有罪判決を言い渡された。

この判決が出ると,欧米のキリスト教会が直ちに厳しい抗議声明を出したし,またネパールでも抗議の声が高まりつつある。

ネパールは,いまや世界で最もキリスト教徒の増加率の高い国の一つ。そのネパールにおいて,情熱的な説教で人気の高いケシャブ牧師が,その教会活動を違法とされ,有罪判決を下された。牧師側は上訴するであろうが,その上級審での裁判や,裁判の進行とともに展開されるであろう抗議活動は,今後どうなっていくのであろうか? 争点が宗教だけに,成り行きが心配される。

【参照】キリスト教攻撃激化と規制強化 キリスト教関連記事 

▼クリスマス満載の新聞

■ゴルカパトラ(2021/12/25)
■ヒマラヤン(2021/12/25)

▼アバンダント・ハーベスト教会/ ケシャブ牧師

■アバンダント・ハーベスト教会(Google)
■ケシャブ牧師(FB)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2021/12/27 at 17:22

奄美の自然とその破壊(3)

3.カトリック信仰の村々
予備学習なしだったので全く知らなかったのだが,奄美にはカトリック教会がたくさんある。カトリックは,ある意味,柔軟であり,伝統文化をうまく取り入れ,地方ごとの特色ある教会をあちこちにつくっている。奄美でも,そうした趣が見て取れる。

奄美のキリスト教は,1891年にパリ外国宣教会フェリエ神父の来島に始まり,以後,各地に教会が建てられ信者も増えていったが,国粋化・軍国化につれ信者迫害が激しくなり,教会施設も破壊されたり事実上没収されたりした。また戦争末期には,空襲を受け,名瀬聖心教会などが破壊された。奄美の教会は,そうした苦難を乗り越え,今日に至っているのである。現在の信者数は人口の6%ほど。ちなみに長崎は4%余。

今回は,それら奄美の教会のうち,通りすがりに目にした大笠利教会,瀬留教会,知名瀬教会の3教会を見学してきた。

いずれも南国奄美らしい趣のある教会で,たまたま来られていた信者さんが教会の由来や現状について親切に説明して下さった。

▼大笠利教会
■礼拝堂
■歴代司祭
■ガスボンベ利用募金箱

▼瀬留教会
 

▼知名瀬教会
■全景
■玄関
■マリア像

▼奄美の教会(名瀬聖心教会HPより

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2019/09/14 at 11:09

カテゴリー: 自然, 宗教, 文化, 旅行

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キリスト教攻撃激化と規制強化(3)

2.教会施設の破壊攻撃
この4月以降,教会の建物への爆弾投入や放火が,前掲の表記載のように,頻発している。これらの教会攻撃で,いまのところ人的被害はないが,建物や備品には相当の損害が出ている。警察は,そのいくつかについて,ビプラブ(NB・チャンド)派共産党の犯行と疑っているが,当局は捜査に消極的であり,解明は進んでいない。(*2)

一方,教会側は,攻撃が連続的で全国に及んでいることから,ヒンズー右派によるものとみている。ヒンズー右派はいま「キリスト教改宗を警戒せよ」キャンペーンを展開しており,これが支持を拡大している。「ネパールの教会に対するこれらの攻撃は散発的なものではなく,キリスト教社会に対する計画的・組織的な攻撃に他ならないのに,政府は何も対応しようとはしない。」(BP・カナル牧師)(*3)

そうした中,著名な教会指導者が白昼,襲撃される事件が起きた。7月31日付「モーニングスター・ニューズ」記事によれば,7月19日午後2時頃,カトマンズの目抜き通りの喫茶店で,「ネパール全国クリスチャン連盟(FNCN)」書記長のサガル・バイズ牧師(ブダニルカンタ「グレースビクトリ教会」主任牧師)が男数人に突然襲撃され,滅多打ちにされた。彼らは,「お前の教会も他の教会もすべて爆破し,お前ら教会指導者をみな殺してやる」と言い残し,逃走した。

この襲撃は,記事によれば,この数か月のキリスト教への敵意の高まりの中で発生した。バイズ牧師は,「ネパールでは,毎日のように,こうした事件が起きている」にもかかわらず,政府がキリスト教徒の権利を守るに必要な対策をとらないため,ヒンズー右派諸組織がそのスキを突きキリスト教攻撃を激化させている,と見ている。(*8)

■カトマンズの主要教会(Google, 2018/08/07)


■FNCN FB(2018/08/08)/バイズ牧師襲撃(*8)

*2 “Four more churches attacked in Nepal,” Sight(World Watch Monitor), 17 May 2018
*3 “6 Christians Arrested, 4 Churches Attacked, Bombed in Nepal,” Christian Today, 7 June 2018
*8 “Assault on Christian Leader in Nepal Reflects Growing Threat,” Morning Star News, 31 July 2018

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/08/08 at 17:02

カテゴリー: 宗教, 人権

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キリスト教攻撃激化と規制強化(1)

ネパールでは,ネパール共産党(NCP)政権成立以後,特に3月以降,キリスト教に対する攻撃が激化し,規制も強化されてきた。教会施設の破壊,信者の逮捕や国外退去処分などが,あいついでいる。

ネパールの宗教別人口は,国勢調査(2011年)によればヒンズー(ヒンドゥー)教81.3%,仏教9%,イスラム教4.4%,キリスト教1.4%,その他3.9%であり,キリスト教はごくわずかの少数派だが,これは意図的過小評価であり,実際には3~7%もいるとさえいわれている。いずれが正しいか,にわかには判断できないが,いずれにせよキリスト教徒がネパールにおいて急増し,教会関係者の間ではネパールが「世界でキリスト教徒増加率の最も高い国」の一つとして注目されていることは事実である。

この春以降のキリスト教規制強化や攻撃激化が,諸状況を考え合わせるなら,キリスト教徒のこの急増と関係していると見て,まず間違いないであろう。そこで,以下,報道記事に基づき,この数か月のキリスト教規制強化・攻撃激化につき概略を紹介する。なお,キリスト教系メディアが多かれ少なかれ教会側から報道していることは,言うまでもない。また,参考のため,ヒンズー社会の側からのキリスト教布教活動批判記事の要旨も付記しておく。

 ▼キリスト教取締りと教会攻撃
03.22 女性キリスト教徒,宗教感情毀損容疑で逮捕。
04.28 カトリック教会(バンケ郡)放火。
04.30 改宗強要容疑でキリスト教徒2名逮捕(チトワン郡)。
05.04 キリスト教徒を自宅で逮捕。容疑不明。
05.08 女性キリスト教徒3名,買収による改宗勧誘容疑で逮捕。
05.09 聖歌を路上で歌ったキリスト教徒逮捕。
05.10 ヘブロン教会(パンチタル郡)放火。
05.10 エマニュエル教会(ドティ郡)放火。
05.11 エマニュエル教会(カンチャンプル郡)放火。
05.13 マヒマ教会(カイラリ郡),爆破。
05.19 キリスト教系孤児院閉鎖,事務長逮捕。
05.19 キリスト教徒2名,宗教感情毀損容疑で逮捕(モラン郡)。
06.15 女性キリスト教徒,布教中に逮捕。
07.06 外国人キリスト教徒夫妻,教会活動を理由に国外退去処分。
07.19 「ネパール全国クリスチャン連盟」書記長,襲撃(カトマンズ)。
 (注)一部,日付異同や重複があるかもしれない。


■Converge(12/28/2015)/Open Doors Australia(08/05/2018)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/08/05 at 18:05

カテゴリー: 宗教

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キリスト教とネパール政治(5)

3.キリスト教会と2017年連邦・州ダブル選挙
(1)キリスト教の急拡大[前掲]
(2)布教の法的規制[前掲]
(3)布教規制撤廃の働きかけ
キリスト教会側は,この憲法や刑法による布教(改宗)規制に対し,2017年連邦議会・州議会ダブル選挙を好機ととらえ,その撤廃を政官界に働きかけた。

国民覚醒党のロクマニ・ダカル議員は8月10日,改正刑法案の改宗(布教)処罰規定を削除するよう要求した。「私には,この国が宗教の自由と人権を守る国際規約に署名していることを忘れ刑法改正を進めている,と思われてならない。・・・・どうか,ネパールは国際法に署名しながら国内法の制定・施行においては別のことをする国だ,などと世界から言われないようにしていただきたい。」(*5)

改正刑法案への大統領署名(10月16日)直前には,「宗教信仰の自由のための国際議員パネル(International Panel of Parliamentarians for Freedom of Religion or Belief [IPPFoRB])」ネパール支部が,10月9~12日の日程で,国際使節団をネパールに招いた。

IPPFoRBネパール支部長はロクマニ・ダカル議員。訪ネ使節団に参加したのは,IPPFoRB運営委員長でカナダ国会議員のデイビド・アンダーソンをはじめ,米欧,ラテンアメリカ,アジアの諸国の国会議員ら。彼らは,ネパールの大臣や議員,市民団体代表者らと会い,宗教の自由の保障を強く要請した(*6)。

また,IPPFoRBのネパール支部長ロクマニ・ダカル議員と運営委員長デイビド・アンダーソン議員は連名でコメント「ネパールにおける宗教の自由―転落の瀬戸際」を発表,次のように現状を厳しく批判し,内外協力して抜本的改革を実現するよう訴えた(*7)。

以下,コメント要旨
訪ネ使節団は,宗教の自由を制限する憲法26(3)条や改正刑法案を見て,大きなショックを受けた。ネパールでは,「この最も基本的な人権が危機に瀕していることに疑いの余地はまずない」。

「改宗を規制する改正刑法案の第9部160条は,正当な宗教信仰の表明を幅広く規制できるものであり,これにより宗教団体の慈善活動も自分の信仰表明でさえもできなくなる恐れがある。・・・・

昨年6月,8人のクリスチャンが,子供たちにイエスを描いたコミックを見せたにすぎないのに,子供たちを改宗させようとしたとして罪に問われた。幸い,彼らは2016年12月,無罪判決を受けたが,もしこの法案が成立し法律となり,憲法が改正されないままであれば,同じような事件がこれからも起きるに違いない。

これは,市民的政治的諸権利国際規約18条の規定に違反している。同条は宗教の自由を各人の基本的権利として明確に保障しており,ネパールは自らの1991年条約法によりその施行を義務づけられている。

新憲法制定を急ぐあまり,政府は,宗教を持つこと,宗教を変えること,そしていかなる宗教をも持たないことですら,個人の権利として保障している国際規約に署名したことを忘れてしまったようだ。ネパールは,国際規約に署名しながら,国内法の制定施行においては全く逆のことをする国だ,などといった評判を立てられないよう注意すべきだ。

こうした状況は変えねばならない。ネパールの市民社会諸団体や議員らは,政府に国際的義務を果たさせるため,さらにもっともっと努力すべきである。むろん,これは極めて重要な闘いであり,国内の人々の努力だけに期待するわけにはいかないが。

70以上の国の加盟者を擁する「宗教信仰の自由のための国際議員パネル(IPPFoRB)」は,全世界の政府に対し,ネパール大統領に圧力をかけ刑法典署名を断念させ,また時機を見てネパール憲法26(3)条を改正させるための努力を,なお一層強化するよう要請する。

これらは,もしわれわれが,この美しく荘厳な山の国において宗教信仰の自由への権利が守られることを確実にしようとするなら,避けることのできない行動である。」(*7)
以上,コメント要旨

こうしたキリスト教会側からの働きかけに対し,政府や政治家らも,報道は少ないものの,ある程度の対応はしているようだ。キリスト教会代表が提出した布教(改宗)規制規定削除要請に対して,デウバ首相は世俗主義を制度化し少数者の権利を守ると語ったし,ディネシュ・バタライ首相顧問も「直ちに対処し選挙前に解決する」と述べたという(*4)。

また,教会関係行事への政官界有力者の参加も少なくない。7月のビリーバーズ教会ネパール教区主教就任式(2017年7月9日)には「新しい力党」幹部ヒシラ・ヤミ(バブラム・バタライ元首相夫人)が出席し,主賓あいさつの中で,こうのべた。「ネパールは世俗国家だが,キリスト教徒は当然享受すべき宗教の自由をまだ享受していない。・・・・すべての人々は,どの宗教,どの社会共同体に属するにせよ,平等に取り扱われるべきだ。」(8)

この主教就任式には,UMLのMK・ネパール議員(元首相),コングレス党のガガン・タパ議員(元保健大臣),国民覚醒党のロクマニ・ダカル議員など,多数の有力政治家が出席している(*8)。

年末のクリスマス集会にも政官界有力者が多数参加した。たとえば,「ネパール・クリスチャン協会(NCS)」・「ネパール教会連盟(NCFN)」共催のクリスマス集会(カトマンズ,12月3日)には,プラチャンダMC党首が出席し,世俗主義の意義について講演した(*9)。

*4 “Nepal PN ‘commits to adress’ Christian concerns ahead of election,” World Watch Monitor Nepal, 8 Nov 2017
*5 “Bill Criminalises Religious Conversion,” Christian Solidarity Worldwatch, 22 Aug 2017
*6 “Not Secular,” Kathmandu Post, 29 Oct 2017
*7 Lokmani Dhakal & David Anderson, “Religious Freedom in Nepal – Teetering on the Edge of a Precipice,” Ratopati, 2074-06-31
*8 “Two New Bishops Installed in Nepal Dioceses of Believers Church,” Believers Eastern Church, 10 Jul 2017
*9 “Christmas Greeting Exchange Program in Conjunction of NCS and NCFN,” Nepal Church com, 2017-12-19

■IPPFoRBホームページ(2017年10月25日)

(4)キリスト教系政党の政界進出
このようにみてくると,ネパールではキリスト教が信者を着実に増やし,地方レベルでは政界へも進出し始めたことがわかる。

中央でも,キリスト教会と政界との関係は日常化し深まりつつあるが,連邦議会に限定すると,キリスト教系政党の進出はまだ見られない。

制憲議会(定数601)では人民覚醒党が1議席(ロクマニ・ダカル)を得ていたが,今回の連邦議会選挙では,定数半減もあってか,下院(定数275),上院(定数59)ともキリスト教会系政党は議席を獲得できなかった。


 ■「キリスト教世界最速成長国ネパール」(The Gundruk Post, 4 Apr 2018) / ビリーバーズ・イースタン教会HP(4 Apr 2018)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/04/05 at 10:32

カテゴリー: ネパール, 議会, 宗教, 憲法, 政治

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キリスト教とネパール政治(1)

ネパールでは2017-18年,地方(町村),州,連邦の3レベルの選挙が実施された。これにより,2015年憲法の定める地方政府,州政府,連邦政府が成立,人民戦争後新体制が名実ともに正式発足した。

選挙では,新生「ネパール共産党(統一共産党・マオイストセンター連合)」が大勝し政権を担うことになり注目されているが,ここでもう一つ,見落としてはならないのがキリスト教と新体制との関係である。

宗教と政治の関係は,ネパールでは”微妙な”テーマであり,特にキリスト教については取扱注意,報道は多くはないが,いくつか散見される資料を手掛かりに,ネパールにおけるキリスト教と政治の関係の現状の一端を見ておくことにする。

1.「キリスト教徒急増」問題の複雑さと危険性
世界各国のキリスト教系メディアでは,ネパールは「キリスト教徒急増の国」として注目され,繰り返し紹介されている。それは,いわば現代ネパールの枕詞。

ネパールのキリスト教徒は,全人口に対し1991年0.2%,2001年0.5%,2011年1.4%と増加してきたとされているが,実際にはそれ以上で,現在3~7%,あるいは2~3百万人ともいわれている(正確な教徒数は不明)。日本は1%(2012年)だから,少なめに見積もってもネパールではすでに日本以上にキリスト教徒比率が高くなっていることは確かだ。

ネパールでキリスト教に改宗しているのは,ダリットなど,いわゆる「低カースト」の人々や,タマン,タルーなど差別されてきたとされる諸民族の人々が中心と見られている。そのため,キリスト教改宗問題は,カースト間闘争,貧富階級間闘争,民族闘争の様相をも多かれ少なかれ帯びざるを得ない。

さらに,ネパールのキリスト教会は,西洋やアジアの富裕な先進諸国の教会に物心両面で支援されていると見られているので,ネパールにおける改宗は外交問題でもある。たとえば,憲法の「布教禁止」規定の撤廃をあからさまに要求したスパークス駐ネ英国大使の2014年の発言は,キリスト教国の露骨な内政干渉の典型として,ネパールではいまもって繰り返し非難攻撃されている(改宗勧奨: 英国大使のクリスマス・プレゼント)。キリスト教は,ネパール・ナショナリスト,とりわけヒンドゥー・ナショナリストにとっては,不倶戴天の敵なのだ。

キリスト教布教は,このようにネパールでは,複雑で,微妙で,難しく,危険きわまりない問題である。今後,布教がさらに進めば,問題は一層深刻化するであろう。

【参照】キリスト教会ネットサイトも急増している。下掲はそれらのうちのいくつか。
  
 ■Turahi News / Churches Network Nepal

   
 ■Good News Media / Mission in Church / Assumption Church

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2018/03/25 at 16:43

カテゴリー: 宗教, 憲法

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イタリアの旅(7):カトリック教会の遍在

イタリアはカトリック教会の地元だけに,教会がいたるところにあり,だれでも入って祈ったり見学したりできる。有名教会でなくても,優れた彫刻や絵画があちこちにある。ときにはパイプオルガンが演奏されていることもあり,これはまさしく天上からの音楽,しばし時のすぎるのを忘れるほどだ。

むろん異教徒にとって,カトリック教会関係の事物には戸惑うことも少なくない。たとえば,ミラノ大聖堂(ドゥオーモ)の「聖バルトロマイ」。皮剥ぎ刑に処せられた身体の,あまりのリアルさにゾォーとする。

またトリノの教会(名称失念)の「悲しみの聖母」。胸に矢が7本も刺さっている。直視に堪えない。

アルプス地方に行くと,山の中腹や山頂に十字架が立てられている。たとえばアオスタのPunta Vallettaz中腹(2300m)には,十字架のイエス像があるが,これまたあまりにもリアル。一帯は広大なスキー場で,冬はスキー,夏にはハイキング,マウンテンバイク(専用コース多数),トレイルランニングなどが盛んにおこなわれている。それらと十字架のイエス,異教徒には違和感を禁じ得ない。

アルプス地方にはまた,小屋根付きの十字架のイエス像があちこちにある。これも,出会うたびにドキッとし緊張する。

一方,村の出入口や山道の脇にある聖母の祠は,日本のお地蔵さんのような感じ。ほほえましく,異教徒にも違和感はあまり感じられない。

そして,墓地。永遠の平和(pax)の地であり,立派な墓が多く,どこも花いっぱい,美しく維持管理されていた。生活はなお信仰に根付いているようだ。


 ▲聖バルトロマイ/ミラノ大聖堂


 ▲悲しみの聖母(トリノ)


 ▲十字架のイエス(アオスタ)


 ▲小屋根付き十字架[左右は別の十字架」(クールマイユール)


 ▲聖母の祠[左端](コーニュ)


 ▲墓地(クールマイユール)

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2017/07/24 at 17:56

カテゴリー: 宗教, 文化, 旅行

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