ネパール評論 Nepal Review

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焼身抗議死報道の自己規制

ボダナートの仏塔の側で8月6日,チベット僧カルマ・ゲトゥン・ギャンツォさん(39歳)が焼身抗議死(焼身自殺)を遂げた。ボダナートで3人目。(生死不明を含め焼身抗議総数126人)

カルマさんは,チベットで僧侶となったが,下半身麻痺となり,政府圧力により僧院追放,各地を巡礼し,ネパールを経てダラムサラに亡命していた(中原一博「ダラムサラ通信」8月9日参照)。

周知のように,ネパール政府は,「一つの中国」政策を支持し,ネパール国土を反中国活動に使用させないと繰り返し約束している。いまでは「一つの中国」を宣言してからでないと,中国側とのいかなる会合も始まらない有様だ。

ネパール政府は,こうした反中国活動取り締まり要求に応え,ボダナートなど,チベット系住民の多い地区に警官多数を配備し,さらにハイテク監視カメラ34台を設置した。

主たる監視対象はチベット系だろうが,カメラに人種差別なし。日本人でも挙動不審であれば,マークされる。当然,某国にも筒抜けだろう。ヒッピーのよき時代は今や昔。ボダナートで某国に監視され,アメリカンクラブ付近で某々国に監視され・・・・。

自由チベット運動に対しては,こうしたハードな取り締まりに加え,最近ではソフトな規制も始めているようだ。各メディア(8-9日)の記事タイトルはこうなっている。

AP「チベット僧,中国に抗議し焼身自殺」
ekantipur「僧,焼身自殺」
nepalnews.com「チベット人,ボーダで焼身自殺」
Nepali Times「また焼身自殺」
Himalayan「チベット僧,自分に火をつけ死亡」
新華社(英文)「ネパールの身元不明焼身自殺者は身体障害者だった:地元住民」

APと新華社が両極にあり,他のネパール・メディアがその中間に位置する。ネパール・メディアは,記事内容も,ほとんどが警察発表通り(後日,多少補足修正された)。自己規制しているのだろう。

興味深いのが,新華社。記事はやたら詳しく,しかも一定の方向性をもっている。カルマさんは,焼身のため200ルピーでバターランプを買った(他メディアでは100-150ルピー)。動機については,マノジ警察DSPの説明――「政治的動機か否か,また自殺か焼身抗議か,これから調査したい」――をそのまま掲載している。タイトルで,身体障害を苦に自殺したと暗示し,それをこのマノジ警察SDP説明で補強しているのだ。

このところ中国の情報収集・発信能力の強化は,目を見張るばかりだ。ネパールでも,すでにネパールのメディア自身が「新華社によれば・・・・」などと,中国情報源を利用し始めている。日本でも,中国メディアを介したネパール情報が急増し始めた。

さすが中国は大国,要所を押さえ,勢力拡大を図っている。かつて宗教は民衆のアヘンだったが,現代では情報こそが,いわば「民衆のアヘン」。情報を制するものが,世界を制する。(尖閣も竹島も,情報報道戦では,日本劣勢。内弁慶日本の悲哀を感じざるを得ない。)

130810
 ■新華社日本語版(2013.5.27)。元首相のプラチャンダ,MK・ネパール,B・バタライが「中国夢」絶賛

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/08/10 at 10:00

落日の日本,選挙報道も新華社に負け

ナショナリストの私としては,近年の秋の陽のような落日は,まことに残念至極,切歯扼腕するも,いかんともしがたい。

この情況に対し,内弁慶軍国主義者は,「固有の領土」を守るため軍艦を派遣せよとか,戦闘機を出撃させよとか,勇ましいことを言っているが,日本の衰退は別の要因によるものであり,軍事力ではどうしようもない。

たとえば,昨日の選挙について,ネパールがどう報道しているか,ネットで見ると,ほとんどのメディアがたいした扱いをしていない(日本時間16時現在)。日本の選挙など,ネパールにはどうでもよいことなのだ。

この扱いは,わからないではないが,それよりも,ショックだったのは,ネパール二大メディアの一つであるマーカンタイル(nepalnews.com)が,日本の選挙記事として,「新華社」配信記事を掲載していること。カンチプールはロイター,リパブリカはAFP。日本の選挙なのに,なぜKyodo, Jiji, Asahi, Yomiuri, Mainichiなどではないのか?

新華社配信記事そのものは,客観的なように見える。「平和憲法改正には衆参両院の三分の二が必要なので,自民党は維新との協力を目指す,と安倍は語った。」「外交については,自民党は日中関係の緊張を高めるつもりはなく,早急に両国関係の改善を図るつもりだ,と安倍は語った。」

しかし,ニュース記事などの情報源を外国に握られていることが,いかに危険かはいうまでもない。どの国も見え見えの幼稚な情報操作などやるはずがない。英米の世界支配は,英米語を世界語とすることによって可能となった。知は力なり。

もしそうだとすると,日本の出来事が新華社など外国通信社の配信記事により報道されることが,日本国益にとって,長期的に見ていかに深刻な事態を招くかは,容易に理解できるであろう。

グローバル情報化時代にあっては,軍艦や戦闘機ではなく,情報こそが,国家・国民の利益と安全の必須条件なのだ。戦艦大和の巨艦巨砲主義のアナクロニズムを,またまた繰り返してはならない。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/12/17 at 16:46

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