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山に展望台,街に人造動植物:ネパールの景観破壊
ネパールでは,山や丘の上に展望台をつくったり,道路わきや広場に人造動植物モニュメントを設置するのが流行っているという。観光客や買い物客を呼び寄せ,村おこしや街活性化を図るのが目的だろうが,自然・文化景観の観点からの反対も少なくない。
1.いくつかの事例
(1)山上の展望台
▼第1州:イラムの山の上に,予算8千万ルピーで展望台建設予定。
▼第3州:12の山の頂上に,予算1億8千万ルピーで展望台建設予定。
▼ポカラ:「サランコット開発5カ年計画(予算2億9千万ルピー)」で市近郊にケーブルカー,展望台,公園,ヘリポート,博物館,ホテルなどを設置予定。
[批判]
「連邦,州,地方自治体の権力亡者たちが,われわれの苦労して働き納めた税金を,あちこちの山の上に無用な展望台を建てるのに浪費している。彼らのスローガンは,『1つの丘に1つの展望台』。・・・・惨めなカネの浪費というべきか,バカらしい嘲笑のタネというべきか。」(*1)
「サランコットからの景観は比類なきものなのに,1千万ルピーもかけて,そこに展望台をつくるとは,まったく信じがたいことだ。」(*2)
「ネパールの山々は,もともと世界で最も高い山々だ。頂上からの景色は自然の絶景だ。それなのに,そこを20メートルばかり嵩上げすることに何の意味があるのか。そんなものではなく,これらの山々には,公衆トイレ,快適な宿,ゴミ処理施設など,もっと適切なものをつくるべきではないか。」(*1)
(2)コンクリやプラスチックの人造動植物
▼各地の道路わきや広場:コンクリ(コンクリート)やプラスチックで,コブシや沙羅の木,蓮の花,ニンニク,タマネギなどが造られ,設置されている。
▼ウダイプル:コンクリ製のブタ(予算600万ルピー)。
▼モラン郡:世界最大のコンクリ製牝牛
[批判]
「中央政府や地方自治体の役人たちは,『観光振興』を名目に巨額の予算をつけ,交差点や公園にコンクリやプラスチックのレプリカを設置している。」(*3)
「村でも町でも新しいことが流行り始めた。交差点や公園などにコンクリやプラスチックの造形物を設置することだ。」(*3)
■onlinekhabar.com, 2021/4/21
(3)万里の長城
カトマンズ北方のヘランブでは,観光振興のため,60kmにも及ぶ巨大な人造壁の建設が計画されている。
[批判]
「コンクリ製の塔や神話上の人物,あるいは石造りの壁などを見に,わざわざ訪ネする観光客がいるとは思われない。」(*1)
2.欧米や日本でも
山上の展望台や広場の人造モニュメントは,ネパールではいま急増し始めたばかりだが,欧米や日本では,はるか以前から設置されてきた。
たとえば,ヨーロッパ・アルプス。幾度かトレッキングに行き,急峻な山岳の迫力や山麓の絵のように美しい光景に魅了されたが,その一方,いたるところにケーブルカー,展望台など人造物が設置され,しかも景観とはそぐわない奇抜なデザインや色も少なくなく,いたく失望させられた。
たとえばモンブラン(モンテビアンコ)には,仏伊両国側から頂上近くまでケーブルカーで登り,そこの展望台から周囲を見回すことが出来る。が,それで何が得られるのか?
ケーブル終点の展望台は標高3777mもの高所! 観光客はすぐ高山病の症状に襲われ,寒さで震え上がる。見えるのは,相対的に――3777mも――低くなってしまった山々。氷河はあっても,山々の風景そのものは平凡。観光客は暖房の利いた軽食店や土産物屋に駆け込み,金を巻き上げられ,早々に,ケーブルカーに駆け戻り,下山することになる。
日本にも,そんな高山観光施設が,いくつもある。
が,山にしても地域にしても,有名なところは,まだましだ。悲惨なのが,そうでないところ。大金をかけ観光施設を設置しても,赤字垂れ流しで維持するか,さもなければ放置・荒廃,あるいは撤去だ。残るは,自然・文化景観の無残な破壊と赤字だけ。
そんなところが,日本中,いたるところにある。
3.先進国の景観破壊から学ぶべきこと
先進諸国の環境保護派・景観保護派は,自分たちの,これまでのすさまじい環境・景観破壊には頬かむりして途上国にお説教するきらいがあるが,彼らの主張そのものには耳を傾けるべきところも少なくない。
ネパールの人造構造物による山岳観光開発や地域振興も,いくつかは成功するかもしれないが,他の大部分は失敗し,無残な残骸と負債を残すだけとなるだろう。
先進諸国の失敗から学ぶべきことは,少なくない。
*1 “EDIFICE COMPLEX, We need more health posts, affordable medical care and quality schools. Not more statues of mythical figures, and view towers,” Editorial,Nepali Times,July 26, 2019
*2 “The decline in Nepali public aesthetics; Why are we spending millions on view towers on hilltops, where the view is already worthwhile?,” Kathmandu Post, September 3, 2021
*3 Rabindra Ghimire, “‘More trees’for less greenery: The ‘concrete’ irony in Nepal’s cities,” english.onlinekhabar, April 21, 2021
*4 “Five-year master plan mooted for extensive development of Sarangkot,” Himalayan, Dec 16, 2017
*5 Umesh Pun, “Nepal’s tallest Shiva statue being built in Pokhara, expected to boost religious tourism,” Republica, November 9, 2020
*6 日々のネパール情報
▼ ネパール各地で見られる、その土地の名産を模した像
▼ネパールの巨大猫|新宿3D猫にネコに負けてないかも!
▼ハッティチョウク、ガイダチョウク(象の交差点とサイの交差点)/チトワン・ソウラハ
*7 Ramesh Kumar, The land of the watchtower!, Himalkhabar, July 22, 2076
*8 Still Rising Nepal, Nepali Times, 2022/04/01
*9 Ramesh Kumar, Nepal’s shortsighted view-tower craze, Nepali Times,2022/04/03
*10 “How myopic they are: People in far-flung areas lack basic necessities, and they are building view towers,” Editorial, Kathmandu Post, 2022/04/04
谷川昌幸(C)
イタリアの旅(6):印象的な街の造形
イタリアはいうまでもなく古い伝統を持つ芸術の国,審美眼の乏しい私でさえ思わず立ち止まり見入るようなものが街のあちこちにあった。
といっても,特に計画し街を歩いたわけではない。アルプス山麓に行く前後にミラノとトリノに立ち寄り,ついでに街に出たに過ぎない。しかも日中は大変な猛暑,日陰に入ったり,あちこちの教会に入ったりして休んだので,歩いたのはわずか。それでも,こんなものに出くわした。
これらはいずれも,特別なものではなく街にたくさんあるものの一つであろう。それがそれぞれ印象的だということに感心した。なお,最後の自動車宣伝は,クールマイユールのもの。たしかに「伝統破壊」ではある(参照:イタリアの旅(1): 規則は知ってから破れ)。
●街のポスター
▼ミラノ:ピッコロ座/ミラノ: GAN MANZONI
●店舗/地下鉄ポスター
▼トリノ:ロリポップ/ミラノ:「共和国」駅のペット食品広告
●景観独占(クールマイユール)
▼モンテビアンコ(モンブラン)を背に宣伝
谷川昌幸(C)
建て替え進むキルティプル
カトマンズ近郊で伝統的景観がまだ奇跡的に残っているキルティプルの丘でも,震災を機に,建て替えが進み始めた。老朽化に地震被害が追い打ちをかけたためである。
地震被害は,当然ながら,古い家屋に多い。しかし,地盤の良いキルティプルの丘では,地震被害はそれほど大きくはなかった。古い家屋でも,多くは破損部分の修理で十分使用し続けられるように見えた。ところが,残念なことに,現実には修繕使用ではなく,取り壊し・建て替えがあちこちで始まった。
キルティプルは,カトマンズ市内からも空港からも40~50分。しかも,カトマンズやパタンは街並みが急速に近現代化し,伝統的文化遺産としての魅力を失いつつある。
この状況は,キルティプルにとっては,またとないチャンスであるはずなのに,気位が高いのか,ここの人々は,自分たちの街を観光地として売り出そうとはしていない。惜しい。
むろん,これは余所者外国人の勝手な感傷に過ぎないが,それにしても,返す返す惜しい。
谷川昌幸(C)
ポカラ観光ケーブルカーと東京スカイツリー
ポカラに観光ケーブルカーが新設されるという。「ペワ湖←→Pumdi Bhumdi」というから,この付近だろう。
ポカラには,30数年前に行って以来,一度も行っていない。その頃のポカラは,文字通り「地上の天国」,この世のものとは思えないほど美しかった。その「古き良き思い出」を失わないため,二度と行かないことにしている。
日本にも,そんな二度と行かないと定めたところが,いくつかある。美しければ美しいほど,破壊が恐ろしく,再訪できないのだ。
もちろん旅行者のエゴ。地元の人には生活も仕事もある。それはよく分かるが,それでも旅行者のエゴとして,行きたくない。
東京にも,「スカイツリー」とかいう塔が出来たらしい。傲慢な英語帝国主義と軽薄卑屈な拝金主義の権化のような醜悪な鉄塔らしい。直下型地震に耐えられるかな?
谷川昌幸(C)
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