ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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文化と「表現の自由」:インド映画禁止運動

1.CPN-Mのインド映画禁止運動
マオイスト左派のCPN-M[バイダ派マオイスト]が,9月26日,「下劣なインド映画」とインド車両の全面禁止を宣言した。すでにCPN-Mは,影響下の自称「タムサリン州」の10郡(チトワン,マクワンプル,ダディン,シンドパルチョーク,カブレなど)において,インド車両の通行を実力阻止し,インド映画・インド音楽の上映や放送を禁止している。26日の発表は,このインド映画・インド車両排除運動の全国への拡大宣言である。

この決定のうち,インド車両の禁止は,分からないわけではない。インド登録車両がどの程度ネパール国内に入り使用されているか正確には分からないが,相当数使用されていると思われ,もしそうなら独立国家ネパールの政治と経済にとって,これはゆゆしき問題であり,何らかの規制は当然といえよう。

2.CPN-Mはアナクロ全体主義か?
これに対し,インド映画禁止は,「知る権利」や「表現の自由」の真っ向からの制限であり,賛否が分かれる。CPN-Mのパンパ・ブサル報道担当は,こう述べている。

「インド映画はネパール国家とネパール人民を侮蔑し,卑猥を助長し,文化汚染を広めるものだ。それゆえ,わが党は,インド映画を禁止することにした。」(nepalnews.com, 26 Sep)

これに対し,統一共産党(CPN-UML)は,「幼児的敵対行為」と批判し,コングレス党(NC)やマデシ諸党派も同様の理由により強く反発している。

たしかに,「表現の自由」や「知る権利」の世界的常識からみると,CPN-Mのインド映画禁止運動は非常識であり,時代錯誤の極左全体主義といわざるをえない。CPN-Mは,各方面からの激しい非難を受け,すべてのインド映画が反ネパール的というわけではないので,「反ネパール的映画か否かを判定する独立機関を設置する」(Republica, 27 Sep)ことにより,有害でないインド映画は上映を許可するようにしたいと説明しているが,これとて権力による「検閲」であり,見方によれば,全面禁止よりも危険といわざるをえない。

こうしたことは今日では自明のことであり,人権論の初歩である。CPN-Mは,そんなことも知らないアナクロ全体主義政党なのだろうか?

 ネパールの映画館

3.権利の形式的保障の弱点
西洋諸国や日本の人々の多くは誤解しているが,ネパール・マオイストは人権論や民主主義論の最新の動向をよく知っており,したがって「表現の自由」や「知る権利」についても十分な知識を持っている。CPN-Mは,そんなことはわかった上でインド映画全面禁止を決定,実力をもってそれを全国実施させようとしているのである。なぜか?

それは,CPN-Mが,自由や権利の形式的保障は強者ないし多数派の側に有利であり,実際には弱者や少数派にとっては何の権利保障にもならないことをよく知っているからである。

CPN-Mの支持基盤はジャナジャーティ(少数派民族諸集団)である。これらの民族諸集団は,それぞれ独自の言語や文化をもっているが,それらは1990年革命が成功し自由民主主義体制になっても,多数派言語・文化との自由競争にさらされるばかりで,実際には保護されることなく衰退一方であった。

そして,自分たちの言語や文化の衰退は,その社会での民族としての存在の希薄化と表裏一体であるから,少数派諸民族は1990年憲法体制のもとで実際には民族としての自律性をも喪失していくことになった。言語や文化の自由競争,すなわち「表現には表現をもって」とか「言論には言論をもって」といった自由や権利の形式的保障こそが,少数派民族の危機をもたらしているのである。

4.民族の権利の実質的保障
だからこそ,CPN-Mは,民族の言語や文化,自由や権利は,実質的に保障されなければならないと考えるのである。

たとえば,1990年憲法(第18条)でも2007年暫定憲法(第17条)でも,母語による初等教育が保障されているが,自由な選択と競争に任せておけば,少数派言語を学んでも社会ではほとんど役に立たないから,親たちは,結局は,多数派言語のネパール語か,あるいは可能ならば「世界共通語」の英語を選択することになり,少数民族の言語や文化は衰退してしまう。形式的保障では,少数民族の自由や権利は守られないのだ。

CPN-Mが,ネパール文化を守るためインド映画を禁止する決定をしたことには,したがって十分な根拠がある。自由競争にゆだねると,大国インドの映画やTV番組が弱小国ネパールを席巻してしまい,ネパール語文化や諸民族語文化の衰退は免れないからだ。

CPN-Mは,断じてアナクロではない。むしろ,日本などより先行しているくらいだ。もし少数派諸集団の言語や文化,自由や権利を本気で守ろうとするなら,多数派有利の「表現の自由」や「知る権利」は制限されなければならない。

5.近代市民社会の常識と現代多文化社会
しかし,こう言ったからといって,「表現の自由」や「知る権利」が,民主主義や人格形成にとって必要不可欠の権利であることまで否定するわけではない。権力や多数派の側の情報のウソや偏向を暴き,人権を守り民主主義を前進させるためにも,また個々人の人格形成や文化発展を図るためにも,「表現の自由」や「知る権利」は最大限保障されなければならない。言論・映像・音楽など,あらゆる「表現」については,表現をもって応答し,権力や暴力で黙らせるといったことは許されるべきではない。近代市民社会では,これは常識であって,こんなことを言うのは蛇足にすぎない。

しかしながら,世界社会における少数派,多文化国家における少数派の実情を見ると,「言論には言論をもって」とか「表現には表現をもって」といった市民社会の常識が,深刻な反省を迫られているという感じがしてならない。ネパールでは,多くの少数派言語,少数派文化が,言語・言論・表現の形式的保障による自由競争のもとで衰退し,消滅しつつある。

これは余所事,他人事ではない。たとえば,日本語。以前,水村美苗『日本語のために』の紹介(下記参照)でも述べたが,このままでは日本語は「世界共通語」としての英語との自由競争に敗れ,衰退は免れない。親は日本語よりも世界に通用する英語を学ばせようとし,企業はグローバル競争に勝ち抜くため,英語を企業公用語にしてしまう。こうなると,日本社会において,一流言語=英語,二流言語=標準日本語,三流言語=他の諸言語,といった言語カースト制が成立する。これは魂=精神のカースト制であり,日本社会には深い亀裂が入り,修復は困難となるであろう。

言語・文化の自由市場競争による淘汰は,日本ではまだ緩慢にしか進行せず,激しい自覚症状は現れていないが,日本の100年の変化を数年で経験しているネパールでは,言語も文化も形式的権利保障だけで自由市場競争に投げ出されたため,相対的少数派の言語・文化から次々と衰退し消滅していっている。そして,こうした言語や文化の衰退は,その言語や文化をもつ民族の実質的な社会的地位の没落でもあるのだ。

6.ポストモダンのマオイスト
この少数派諸民族にとって酷な現実を見て,実力をもって多数派の言語や文化と対抗しようとしたのがプラチャンダの旧マオイストであり,旧マオイストの体制内化後は,現在のCPN-Mである。

CPN-Mのインド映画禁止運動は,乱暴ではあるが,多数派が見ようとはしない「表現の自由」や「知る権利」の多文化社会における問題点を鋭く突くものであることは間違いない。時代錯誤のアナクロ極左全体主義と冷笑して済ますことはできようはずがない。マオイストこそ,ポストモダンの前衛なのだ。

[参考資料]
・”CPN-Maoist declares nationwide ban on Hindi movies, Indian plate vehicles,” nepalnews.com, 26 Sep.
・”CPN-Maoist’s anti-India rant earns severe criticism,” The Himalayan Times, 26 Sep.
・”CPN-Maoist bans Hindi movies, Indian plate vehicles,” Republica, 27 Sep.
書評:水村美苗『日本語が亡びるとき』(8), 2009/06/16
書評:水村美苗『日本語が亡びるとき』(7), 2009/06/15
書評:水村美苗『日本語が亡びるとき』(6), 2009/06/14
書評:水村美苗『日本語が亡びるとき』(5), 2009/06/13
書評:水村美苗『日本語が亡びるとき』(4), 2009/06/12
書評:水村美苗『日本語が亡びるとき』(3), 2009/06/11
書評:水村美苗『日本語が亡びるとき』(2), 2009/06/10
書評:水村美苗『日本語が亡びるとき』(1). 2009/06/09

谷川昌幸(C)

権力監視下のネット社会:原子力安全規制情報

ツイッターに教えられ,「平成23年度原子力安全規制情報広聴・広報事業報告書」を覗いてみた。経産省資源エネルギー庁の事業報告なのに,報告書表紙にはなぜか事業主の名はなく,「株式会社アサツーディ・ケイ」が前面に出ている。本文中にも,「経産省」や「資源エネルギー庁」はほとんど出てこない。これだけで,十分に怪しい。

事業目的は,要するに「風評被害」防止。

「(2) 事業の目的 インターネット上に掲載される原子力や放射線等に関する情報を調査し、そこから国民の不安や疑問がどのようなところにあるのかを分析して質問(以下Q)を作成した。そのQをもとに回答(以下A)を作成し、そのQ&Aを活用することで、風評被害を防止することを目的とした。」(1-2頁)

この報告書は,「科学的な根拠に基づく、客観的な視点でAを作成すること」(2頁)をさかんに強調しているが,人々はもはやその「(原発関連)科学」を信じていない。その基本事実を見ることなく,旧態依然たる「科学信仰」で「国民の不安や疑問」を取り除くことなど不可能なのだ。

いまでは,原発科学者の「科学」よりも庶民の原発「風評」の方が,基本的には従って安全であることを国民は知ってしまっている。したがって,税金によるこんな調査や広報が何の役にも立たないことは明白である。しかし,それはそれ,ここでいいたいのは,別のこと。

この「報告書」は,国家権力によるネット監視の具体例としては,なかなか面白い。全体のフロー図はこうなっている。

(3頁)

そして,ここでは「隠語」がキーワードとして有効とされている。身に覚えがある人も少なくなかろう。

(4頁)

収集先は,ツイッターが多いが,他にも掲示板や検索エンジンからも情報収集されている。

(9頁)

むろん,この程度のことは,ネット素人の私でも時間さえあれば可能だが,問題はこれはほんの序の口で,実際にはもっと高度なネット監視が権力によって行われているのではないかということ。たとえば,個人メール。企業が従業員のメールを監視していることは常識だが,同じことを国家も国民のメールについてやっているのではないか? これからは,メールも含め電子情報はすべて監視され,検閲されていると考えて,行動すべきだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/08/23 at 20:27

カテゴリー: 情報 IT, 人権

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赤星,転身後ブロック解除

マオイスト急進派の準機関紙であった「赤星」が,華麗な転身を遂げた。ブルジョア商業紙とほぼ同じ構成で,イデオロギー臭はほとんどない。日本からは,経営の内情は分からないが,もはや「マオイスト」では商売にならないということか。

ここで興味深いのは,これまではセキュリティ・ソフトで「危険!」警告が出ていたのに,転身後は警告が出なくなったこと。

素人でよく分からないが,もし仮に,ホームページの内容分析により「危険!」を出しているのなら,むしろその方がゾッとするくらい「危険!」だ。

セキュリティ・ソフトの思想調査をしてくれるソフトはないだろうか?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/07/21 at 09:40

カテゴリー: マオイスト, 情報 IT

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バタライ首相HP、ブロックされる

四面楚歌のバブラム・バタライ首相。つい1年前は、成金趣味の豪傑プラチャンダ議長とは対照的に、インテリで繊細で、しかも国産車ムスタン使用の庶民的愛国者と絶賛されていたのに、この変わりよう。やれ権力恋々だの、インドの手先だのとボコボコにたたかれている。

政治家は権力者だから批判されて当然だが、それにしても床屋政談的で低次元、無節操で非生産的だ。バタライ首相は、経済的・社会的・政治的にきわめて厳しい状況にもかかわらず、よくやっているではないか。

バタライ首相頑張れ! とエールを送るべく首相ホームページをみたら、なんとブロックされ、こんな恐ろしい警告がでた。警告を出したのはトレンドマイクロ。専門的なことは全くわからないが、どうも怪しい。

こうした警告が出るのは、マオイスト系や急進的反体制派のサイト。つい数ヶ月前までは、マカフィーが”Red Star”に同様の警告を出し、ブロックしていた。

素人には、ブロックの仕組みは全くわからない。しかし、誰かが、どこかで、何らかの意図に基づき、ネット情報をコントロールしていることは間違いない。

ネパールからは、こんなことも学習できる。外国ながら、脳天気になりがちな日本人にとっては、学ぶこと無尽蔵と思われほど興味深い国である。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/06/12 at 14:53

カテゴリー: マオイスト, 情報 IT

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ブロックされる左翼サイト

Red Starが,またMcAfeeにブロックされ始めた。最近の紙面は精彩を欠き,人民戦争17周年記念記事も,地味で短く,ぱっとしない。危なそうに思えないのに,なぜか?

 ブロック画面(2012-02-18)

ITのことは全く分からないが,ひょっとして,この「赤星」に接続すると,テロリスト候補者名簿にでも自動的に登録されてしまうのかな? なんか釈然としない。本当に,ネット版言論統制ではないのでしょうね?

こんな画面が危険なのかな?

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/02/18 at 19:12

カテゴリー: マオイスト, 情報 IT, 民主主義

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死命を制すセキュリティ・ソフト

ネットなしには生きづらくなった現代。世界世論を常に監視し,決定的なところでその動向を決するのは,いまやセキュリティ・ソフトだ。

たとえば,もしこのブログの反動性もしくは革命性をセキュリティソフト会社の誰かが「危険」と判断し,「これは報告されている安全でない Web サイトです。このページを閲覧しないことを推奨します」といった警告を出せば,たちまち誰もこのブログを読まなくなる。

これは杞憂ではない。マオイスト系の”The Red Star”が,この数ヶ月間,McAfeeによりそうした警告を出されていた。

■ ブロックと兵糧攻め,左派HPへ

たしかに「赤星」なんか読むと「赤く」なる。MacAfee=米帝にとって危険であり,だからこそ警告を出したのだろう(たぶん?)。ところが,マオイスト左派が既得権益に恋々とし,プラチャンダ=バブラム主流派にすり寄ると,この警告が削除された。安全と判定されたのだ。なんたるご都合主義!

いまやグーグル以上に警戒すべきは,セキュリティ・ソフト。そもそ「安全保障」をいうヤカラこそが「安全」のために軍拡し,「平和」のために戦争を仕掛けるのだ。

IT技術者の皆さんには,世界人民のために,ぜひともセキュリティ・ソフトの安全をチェックする「メタ・セキュリティ・ソフト」を開発していただきたい。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2012/01/24 at 11:20

カテゴリー: 情報 IT, 文化

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ブロックと兵糧攻め,左派HPへ

IT素人の勘繰りかもしれないが,このところマオイストなど左派・過激派HPが,兵糧攻めや接続ブロック攻撃を受けているような気がしてならない。

愛読中の赤星(Red Star)を訪問すると,McAfee(本社米国)がこんな警告を出す。

また,赤星がマオイスト反主流派寄りとなったら,広告が消え,こんな惨めな画面となった。

背に腹は代えられないと観念したのか,徐々にこんな広告が戻りつつある。「ピンク」なら「白」よりましと割り切ったらしい。

ネパール・マオイスト系HPに限らず,左派・過激派系HPはアンチウィルス・ソフトによりブロックされる事例が激増した。この場合のように,「ブロックしたぞ!」と警告表示してくれるのなら,まだ対処が出来るが,もし何の警告もなく接続遮断されたら,IT素人にはお手上げだ。

ネットは米帝にすべて監視されており,ネット世論も密かに検閲され誘導されている,と覚悟した方がよい。ネットは自由など,大嘘だ。グローバル情報化時代の無検閲「生」情報は,手書き書簡と直接会話に移行せざるをえないだろう。

  ▼監視社会歓迎の無邪気報道(朝日新聞2011.12.15) 
 
「監視カメラ」「盗撮カメラ」の「防犯カメラ」への安易な言い換えは,ジャーナリズム精神の放棄。 

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2011/12/16 at 11:03

カテゴリー: 社会, 情報 IT, 文化

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