ネパール評論 Nepal Review

ネパール研究会

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汚職蔓延と権力乱用調査委員会:ネパール

1.腐敗蔓延
ネパールにおける汚職・腐敗の蔓延が,またまた国際的に実証された。先日発表された「腐敗認知指数2014」(Transparency International)によれば,ネパール社会の清潔度は,調査175カ国中の第126位,南アジアでもブータン,インドよりかなり下だ。(2013年度は177カ国中の第116位。)
腐敗認知指数(最小→最大)
[1]デンマーク [2]ニュージーランド [3]フィンランド [4]スウェーデン [5]ノルウェイ,スイス [14]英国 [15]日本 [17]米国 [30]ブータン [85]インド [85]スリランカ [100]中国 [126]ネパール,パキスタン [145]バングラデッシュ [174]北朝鮮,ソマリア(最下位)

この問題については,すでに昨年,かなり詳しく論評したので,以下では,それを前提に議論を進めることにする。
 権力乱用調査委員会(1):電力公社捜査
 権力乱用調査委員会(2):国外労働省,出入国管理省,ネパール石油会社など
 権力乱用調査委員会(3):強権行使の二面性
 権力乱用調査委員会(4):暫定憲法の規定
 権力乱用調査委員会(5):CIAA法1991(i)
 権力乱用調査委員会(6):CIAA法1991(ⅱ)
 権力乱用調査委員会(7):文化と「腐敗」
 権力乱用調査委員会(8):腐敗防止条約との関係

 141215a ■Transparency International Nepal

2.CIAAの腐敗調査
ネパールでは,憲法により「権力(職権)乱用調査員会」((CIAA:Commission for the Investigation of Abuse of Authority, अख्तियार दुरुपयोग अनुसन्धान आयोग)が設置され,権力(職権)乱用,汚職・不正・腐敗の調査取締りのための広範かつ強力な権限が付与されている(前掲拙論参照)。

CIAAは,検察/警察とは別の,憲法設置の腐敗調査取締機関であり,独立性が高く,したがって統治が正常に機能しない場合,統治のあらゆる領域に介入し「汚職」「不正」「腐敗」を調査し取り締まる機会が増える。CIAAは,独立機関だけに,迅速かつ有効に調査取締ができるが,その反面,つねに二重統治(第二の政府),独断的強権行使に陥る危険性をもまたはらんでいる。

その両刃の剣のCIAAが,昨年春の政党内閣崩壊危機前後に続き,いままた各方面への調査取締介入を強化している。2015年1月22日の憲法制定期限切迫が背景にあることは言うまでもないが,今回は昨年以上にCIAA介入への風当たりが強くなっている。最近の主な調査取締は,以下の通り。

(1)水力発電事業の認可取り消し
CIAAは,9月5日,水力発電事業の認可10件の取り消しをエネルギー省に勧告した。電力事業法第49条5では,事業調査は認可5年以内に調査開始を,発電事業ついては認可後直ちに事業着手を,定めている。ところが,これらの認可事業は,この法規定に違反し事業を進めていない,というのが理由だ(a,b)。
[取消勧告の10事業]
 調査認可取消:Bhotekoshi-5 (60 MW), Buku Khola (6 MW),Karuwa Khola (36 MW)
 発電事業認可取消:Lower Arun (400 MW), Chaharekhola (17.5 MW), Upper Mailung Khola (14.3 MW), Upper Solu Khola Sano (18 MW), Midim Khola (3.4 MW), Upper Khoranga Khola (6.8 MW),Lower Indrawati (4.5 MW)

(2)教育不正
CIAAは,教育分野の不正・腐敗にも,大規模な調査取締介入を始めた。

[1]幽霊学校の摘発
ネパールには,学校登録をし国庫補助金を受け取りながら,実際には授業をしない学校,いわゆる「幽霊学校」が多数あるという。CIAAは,これまでにそうした幽霊学校737校を摘発し,最近も54件の情報提供があり捜査される見込みだ(c,d)。

[2]教員免許状偽造の摘発
CIAAは,現在,偽造教員免許状の告発を約1000件受けており,これを捜査するため,全国の郡教育事務所に対し,教員免許状を回収し,CIAAに提出するよう命令した。教員定員は16万2千人。調査は大規模となり,影響も大きい。ちなみに,2013年度の教員免許状偽造の摘発は80件(c)。

[3]入試問題漏洩の摘発
CIAAは,12月6日,医学部(MBBS=医学士)入学試験問題漏洩事件の捜査に着手した。NAME Institute for Medical Education, Golden Gate International College, Orbit Medical Entrance Preparation などの関係学校やMBBS入試準備センターを捜査し,コンピュータや書類など多数の証拠品を押収,数名を逮捕した。

ネパールでも医学部(MBBS)は人気が高く,受験生は約6千人。逮捕された容疑者らは,入試問題のうち「生物A・B」を密かにコピーし,1部100万ルピーで受験生に売っていた。容疑者の一人の自宅からは,小切手450万ルピー,現金10万ルピーが見つかり,押収された。(e,f,g)

[4]公務員汚職の捜査
CIAAは,現在,公務員約1000人について,汚職容疑で捜査している。詳細は不明。(h)

 141215b ■CIAA

3.CIAA批判の高まり
CIAAの介入がこのように拡大するにつれて,CIAAへの批判も高まってきた。

(1)CIAAの強権化
一つは,腐敗の調査取締をするCIAAの強権化と,CIAA自身の不正・腐敗をどうするかという問題。「番犬の番を誰がするのか?」(S.B.タマン議員)

番犬が強力になればなるほど,その利用価値も大きくなる。すでに,事業実施や職場において不満を持つ側が,妨害目的でライバルをCIAAに訴える事例が激増しているという。「CIAAに訴えてやる」という脅し。

CIAAが,このようにして「第二の政府」のようなものになり,「第一の政府」の統治に介入すればするほど,国家統治は混乱し,皮肉なことに,腐敗は逆に増えていくことになる。そして,強権化したCIAA自身もまた,「第二の政府」として腐敗に蝕まれていくことは免れない。「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対的に腐敗する。」(アクトン卿)(i)

(2)カルキ委員長の適格性への疑問
CIAA批判のもう一つの理由は,カルキ(Lok Man Singh Karki)氏は委員長にはふさわしくないというもの。

カルキ氏がCIAA委員長に任命されたのは,2013年5月8日。その頃,ネパール政治は,第一次制憲議会解散後の混乱で制憲議会選挙も出来ず,政党政治は行き詰まっていた。主要諸政党は,窮余の策として,最高裁判所のレグミ長官を議長(首相)とする非政党の選挙管理内閣をつくり,暫定的に統治を一任した。

この混乱の中でレグミ議長(首相)が,高次政治委員会(マオイスト,NC,UML,UDMF)の推薦に基づき,CIAA委員長に任命したのがカルキ氏であった。任期は,2013年5月8日から6年間。

このカルキ氏のCIAA委員長任命には,当初から反対が強かった。理由は主に二つ。一つは,カルキ氏がギャネンドラ国王の側近として「人民運動II」の弾圧に加担したというもの。ラヤマジ委員会が調査し,有罪と判定されたとされるが,詳細は不明。もう一つは,カルキ氏には贈収賄スキャンダルが多いというもの。横領容疑でCIAAに捜査されたこともあると報道されているが,その詳細は不明。(j,k,l)

 141215c ■カルキ委員長ツイッター

4.CIAA・議会対立の不毛性
CIAAの活動強化は,カルキ委員長の豪腕によるところが大きい。カルキ委員長就任後,CIAAは予算も人員も数倍に急拡大している。カルキ議長の最近の説明によれば,CIAAは2万3千件の申し立てを受け,800件を調査し,そのうち168件を腐敗問題を扱う特別裁判所に回したという。事実とすれば,CIAAの活動がいかに拡大したかをよく物語る数字である。

このようにCIAAの活動が拡大すると,当然,「第一の政府」との利害対立も激化してくる。たとえば,この11月4日,議会の3委員会(会計委員会,財務委員会,農業・水資源委員会)が,CIAA活動の権限逸脱問題を審議するため,カルキ委員長をそれぞれの委員会に召喚した。

この召喚に対し,カルキ委員長は,召喚に応じる義務はない,と真っ向から反論した。それでも,11月5日の財務委員会には出席し,CIAAは権限を守り活動しているが,それよりもなにより「議会運営規則(2070年)第110,115条により,CIAA活動については統治監視委員会でのみ説明する」のが筋であり,それを伝えるために出席したと述べ,委員からの質問には答えず,退席してしまった。とりつく島もない。

このようなカルキ委員長の態度に対しては,議会議員からは様々な批判が出されている。
 プラカシ・ジャワラ財務委員会委員長:CIAAは公務員に「テロル(恐怖)」を与えている。
 スレンドラ・パンディ議員(UML):カルキ委員長は,「番犬」の権限を越え,噛みつく「凶暴な犬」になった。
 チャンドラ・バンダリ議員(NC):CIAAは「法の支配」を守る義務がある。権限を越えるべきではない。
 農業・水資源委員会:委員会出席を拒否したカルキ委員長の責任追及をネバン制憲議会議長に要求。

こうした様々な批判に対し,カルキ委員長は,こう反論している。
 ・「CIAAは,ロック・マン(カルキ)の相続財産ではない。」
 ・「私は,独立の立場から,任務を果たしている。」
 ・水力発電事業については,エネルギー省筋からの調査依頼に基づき,法令に則り調査し,14件(11月現在)の事業認可の取消勧告を出したまで。
 ・CIAAは権限を守っており,「法の支配」をまもる「番犬」の役割を果たしているにすぎない。

このCIAAをめぐる論争において,いずれの側の言い分が正当かは,にわかには判定できないが,こうした争いがネパール政治の混乱と,それに伴う腐敗拡大の深刻さをよく現していることに疑いの余地はない。まったくもって不毛きわまりない争いといわざるをえない。(m,n,o,p,q,r)

[参照資料]
(a)BHADRA SHARMA,”CIAA asks ministry to scrap licences of 10 hydropower cos,” Kathmandu Post, 2014-09-06
(b)”CIAA Instructs Govt To Scrap 4 Hydro Licenses,” Republica,2014-10-29
(c)”CIAA to launch nation-wide probe into teachers’certificates,” nepalnews.com,2014-12-09
(d)”Lokman Singh Karki,” http://en.wikipedia.org/wiki/Lokman_Singh_Karki. ただしWikiのこの項目および「CIAA」の項目は,記述が不自然であり,注意を要する。
(e)”CIAA to launch nation-wide probe into teachers’certificates,” nepalnews.com,2014-12-09
(f)”MBBS Questions Leak : Seven More Under CIAA Scanner,” Republica,2014-12-09
(g)”NAME Director Sharma Arrested,” Republica,2014-12-12
(h)”Over 1,000 Nepal’s politicians under scrutiny: anti-graft chief,” Xinhua, 2014-12-09
(i)”Watching the watchdog,” Editorial, Nepali Times,#731,7-13 Nov.2014.
(j)”Lok Man the New Superman of NEPAL,” CNN iReport, 2013-05-08
(k)”Maoist nominee sworn-in as chief of Nepal’s anti-graft body,” Business Standard, 2013-05-08
(l)Gyanu Adhikari,”Royalist touches a raw nerve in Nepal,” The Hindu, 2013-05-08
(m)Rajendra Pokhrel,”Finance Committee members criticise CIAA chief Karki,” Nepalnews.com,2014-11-05
(n)”PAC summons CIAA Chief Karki,” Ekantipur,2014-11-04
(o)”CIAA chief Karki refuses to attend House committee, Thapa-led committee draws speaker’s attention,” Ekantipur, 2014-11-16
(p)”‘CIAA is not Lokman’s inherited property’,” Ekantipur,2014-12-05
(q)”House panel summons CIAA chief 2nd time,” Kathmandu Post, 2014-12-01
(r)”Another parliamentary committee summons CIAA,” HIMALAYAN,2014-11-04

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2014/12/15 at 20:38

権力乱用調査委員会(8):腐敗防止条約との関係

1.国際法上の義務となった腐敗防止
ネパールにおける不正・腐敗防止は,2011年3月の「国連腐敗防止条約(UN Convention against Corruption)」批准により,国際法上の義務となった。

腐敗防止は,もはや単なる国内問題ではない。自らの伝統文化の重要部分の否定となるが,欧米先進諸国の腐敗概念を全面的に受け入れ,「腐敗防止条約」に署名・批准したのだから,腐敗防止は国際社会に対する法的義務ともなったのである。

その結果,権力乱用調査委員会(CIAA)も,憲法設置機関ではあるが,その権力の正統性の根拠を,正統性の怪しい自国政府というよりもむしろ国際社会の国際法に求めることが可能となった。

換言すれば,国際社会,つまり欧米先進諸国は,国際法を根拠に,ネパールの不正・腐敗問題に強力に介入できることになったのである。

2.腐敗防止条約の批准
国連腐敗防止条約は,2003年10月,国連総会で採択された。署名140カ国。
 (国 名)………….(署 名)…………….(批 准)
 ネパール……..2003//12/10……….2011/03/31
 アメリカ ………2003/12/09………..2006/10/30
 中 国…………2003/12/10………..2006/01/13
 インド………….2005/12/09………..2011/05/09
 日 本…………2003/12/09………….未批准

日本は,まだ批准していない。堂々と日本の意思を貫き,世界に独自性を示している。この条約だけでなく,特に人権等に関しては,日本は,多くの場合,ネパールよりもはるかに遅れている。たとえば,人種差別撤廃条約(採択1965,発効1969)では,ネパールの受諾1971年1月30日に対し,日本は1995年12月15日。世界に冠たる人権小国だ。

131006a ■腐敗防止条約未批准国=赤・橙(UNODC)

3.腐敗防止条約の概要
腐敗防止条約は,前文+71カ条の長大な条約。その要点を外務省がうまく要約しているので,以下,それを転載する。
―――――――――――――――――
条約のポイント
(1)腐敗行為の防止のため、公的部門(公務員の採用等に関する制度、公務員の行動規範、公的調達制度等)及び民間部門(会計・監査基準、法人の設立基準等)において透明性を高める等の措置をとる。また、腐敗行為により不正に得られた犯罪収益の資金洗浄を防止するための措置をとる。
(2)自国の公務員、外国公務員及び公的国際機関の職員に係る贈収賄、公務員による財産の横領、犯罪収益の洗浄等の腐敗行為を犯罪とする。
(3)腐敗行為に係る犯罪の効果的な捜査・訴追等のため、犯罪人引渡し、捜査共助、司法共助等につき締約国間で国際協力を行う。
(4)腐敗行為により不正に得られた犯罪収益の没収のため、締約国間で協力を行い、公的資金の横領等一定の場合には、他の締約国からの要請により自国で没収した財産を当該他の締約国へ返還する。
(外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/treaty/treaty164_8_gai.html)
―――――――――――――――――

131006b ■腐敗防止条約概念図(外務省)

4.ポストモダンの腐敗防止条約
腐敗防止条約は,適用範囲の広い条約である。主な対象は公的部門の公務員(自国公務員,外国公務員,国際機関職員)だが,民間部門の腐敗防止もまた,当然,規定されている。

この幅広い分野の腐敗行為を監視するため,腐敗防止条約は,各国が専門機関を設置し,独立性を付与することを定めている(第6,36条)。また,それに加え,「市民社会,非政府機関,地域社会の組織等の公的部門に属さない個人および集団の積極的な参加」をも規定する(第13条)。

このような権力の分割・分有・市民参加は欧米先進諸国の流行であり,腐敗防止条約もその流れに棹さしているわけだ。

しかし,ネパールのような途上国の場合,この点には十分な警戒が必要だ。国家主権が安定し強力な場合,国家が内外の様々な機関や集団の利害を調整し一つの国家意思へと統合する。ところがネパールの場合,外国援助依存であり,しかも現在,まともな正統性をもつ国家機関は一つもない。だから,腐敗防止を目標とするにしても,国家権力の分割弱体化を結果するような方法では逆効果,実際には内外の諸機関・諸組織が,それぞれ目先の成果を狙って勝手なことをやり,かえって混乱を拡大させる。腐敗防止どころではない。

5.ネパールに適した腐敗防止政策
そもそも腐敗防止条約やCIAA法の目標は,「合理的な法の支配」の実現。ところが,そのような「合理的な法」は強力かつ安定した国家権力なくしては制定できず,またその公平な執行には強力で安定した「合理的な官僚制」と司法機関が不可欠である。

腐敗防止条約やCIAA法の目標とするような腐敗防止は,ネパールの伝統文化の重要部分を否定するものである。そのような大きな変革は,ネパールの人々自身が正統な国家権力を確立し,強力かつ安定した国家主権の下で自主的に取り組む以外に成功はおぼつかない。

同じ腐敗防止でも,近代以後の西洋先進諸国と近代以前の(側面の多い)ネパールとでは,方法が異なるはずだ。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/10/06 at 22:11

権力乱用調査委員会(7):文化と「腐敗」

ネパールにおける権力(職権)乱用撲滅運動は,他の場合と同様,国際社会,つまり欧米先進諸国の強力な働きかけを受け推進されてきた。内政干渉そのもの,欧米モデルにネパールを鋳直そうというわけだ。

たとえば,「ノルウェー開発協力庁(Norwegian Agency for Development Cooperation)」の報告書『ネパールにおける腐敗と反腐敗(Corruption and Anti-Corruption in Nepal)』(Prepared by Sarah Dix, 2011)を見ると,完全な上から目線,厳父が子を叱りつけ,行儀作法をしつけるといった感じだ。

槍玉に挙げられているのは,例のチャカリ(चाकरी)やアフノ・マンチェ(आफ्नो मान्छे),あるいはジャギール(जागिर)やビルタ(बिर्ता)などの慣習や伝統。これらが不正・腐敗の文化的源泉として容赦なく批判されている。(ジャギールやビルタは恩賞地。現在ではジャギールは「官職」やそれがらみの「権益」となっているという。)

私も,以前は,何回かチャカリをやったことがある。高官に面会するため公邸やシンハダーバーの執務室に出向き,何時間も何時間も,お出ましを待っていた。ほかにもたくさんの人が,同じようにして,待っていた。たいへんな時間の無駄だ。不合理。そして,そうして得られる高官からの恩恵は,当然,人間関係に依存するものとなり,非公式であり,不安定,不公平なものとなる。

あるいは,役所でも銀行の窓口などでも,何かをしてもらおうとすれば,有力者に口を利いてもらうか,何らかの贈り物を渡す必要があった。最近はかなり少なくなったが,それでもまだあちこちに見られる。これらも,不合理・不公平であり,著しく透明性に欠ける。

131005 ■伝統文化批判の古典:ビスタ『運命論と開発』

これらのネパールの伝統的慣行は,近代的な「官僚制」や「法の支配」の観点からすれば,不正,腐敗である。しかしながら,それは近代的な「官僚制」や「法の支配」を価値基準とするからであり,もしそれらを前提としなければ,不正・腐敗とは言えない。チャカリにせよアフノ・マンチェにせよ,ネパールの伝統文化であり,その限りでは十分な存在理由があるのである。

この歴史的な存在理由をもつ伝統文化を,欧米先進諸国は,近代的な「官僚制」や「法の支配」を基準として,不正・腐敗として一方的に断罪し,根底から廃棄させようとしてきた。ノルウェー開発協力庁報告書は,こう書いている――

「ネパールでは,非公式な統治諸慣行が蔓延し腐敗を存続させている。政治は実際には不文の『ゲームの規則』により行われている。」

この不文の「ゲームの規則」こそ,チャカリやアフノ・マンチェなどの伝統文化に他ならない。したがって,不正撲滅,腐敗防止は,必然的に伝統文化の否定に向かわざるを得ないわけだ。

ここに,ネパールにおける不正撲滅・腐敗防止政策の難しさがある。欧米先進諸国の支援の問題点は,近代的官僚制=法の支配(法による支配)をグローバル・スタンダードとして絶対視し,一方的にそれを押しつけるところにある。デリカシーに欠け,非文化的。伝統文化から見れば,「腐敗」は腐敗でなく,「不正」は不正ではない。

むろん,伝統や文化を理由に何でも許されるか,という難問は残る。一夫多妻や性器切除など。

ネパールにおける不正撲滅・腐敗防止は,こうした難問を頭に置きつつ,やはり基本は,一方的な押しつけではなく,ネパールの人々から求められたとき,側面から協力するということを原則とすべきであろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/10/05 at 18:45

ボーナス支給の罪で逮捕:CIAA

権力乱用調査委員会(CIAA)が,9月25日,ネパール石油会社(NOC)の社長(ないし常務取締役)Suresh Kumar Agrawalと他の幹部3人を逮捕した(ekantipur & Republica,Sep.25)。

ネパールには「ボーナス法1974」があり,これによりボーナスは利益の10%以内とされ,また赤字ないし財務危機の場合はボーナス支給禁止が定められているという。NOCは政府が98.36%の株を保有。赤字であり,膨大な負債がある。

CIAAによれば,NOC幹部4人は,会社がこのような経営状況にあるにもかかわらず,「ボーナス法1974」を無視して社員にボーナスを支給し,しかも証拠隠滅の恐れがあった。そのため,CIAAは4人を逮捕したのだという。

この幹部4人の逮捕に対し,NOCの3労組は,給油拒否闘争で対抗している。

日本から見ると,これは不思議な構図だ。やはり,ネパールはまだ社会主義の国であり,CIAAがこのような強権行使をできるのも,そのためなのであろう。

Nepal Oil Corporation नेपाल आयल निगम लिमिटेड
Board of Directors
Er. Suresh Kumar Agrawal
Designation: Member Secretary
Department: For Managing Director, Nepal Oil Corporation Ltd.

130929

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/29 at 19:37

権力乱用調査委員会(4):暫定憲法の規定

3.2007年暫定憲法の規定

暫定憲法 第11編 権力乱用調査委員会
第119条 権力乱用調査委員会
 (1)委員長および他の必要な数の委員から構成される権力乱用調査委員会を置く。委員長に加え他の委員が任命されるときは,委員長が権力乱用調査委員会の議長となる。
 (2)大統領*は,憲法会議**の推薦に基づき,委員長と他の委員を任命する
   * 第4次改正(2008年5月28日)以前は「首相」。
   ** 第149条 憲法会議(संबैधानिक परिषद, Constitutional Council)参照。
 (3)第7項(a)の但し書きにより,委員長と他の委員の任期は,任命から6年とする。
  ただし,
  (a) 委員長または委員は,任期満了以前に65歳に達したときは,退任する,
  (b)委員長または委員は,最高裁判所の裁判官の解任の場合と同じ理由により,また同じ方法で解任される。
 (4)委員長または委員の職は,次の場合は空席と見なされる。
  (a)辞表を大統領*に提出したとき,
    * 第4次改正(2008年5月28日)以前は「首相」。
  (b)第3項により任期満了となるか,または解任されたとき,
  (c)死亡したとき。
 (5)以下の条件を満たす者を除き,何人も委員長または委員に任命される資格を有しない。
  (a)ネパール政府の承認した大学の学士号所有,
  (b)任命直前において政党の党員ではない,
  (c)会計,税務,エンジニアリング,法律,開発または調査の分野での20年以上の経験,
  (d)45歳以上,および
  (e)道徳的に高潔。
 (6)委員長と委員の報酬および他の勤務条件は,法律で定める。委員長と委員の報酬および他の勤務条件は,在職中は不利となるように変更されてはならない。
 (7)委員長または委員にひとたび任命された者は,他の公職に任命される資格を有しない。
  ただし,
  (a)本項の規定は,権力乱用調査委員会の委員の委員長への任命を妨げるものではないし,また委員が委員長に任命されるときは,その任期は委員の任期も含めて算定される。
  (b)本項の規定は,政治的性格をもつ職,または何らかの問題に関する研究,調査もしくは探究を任務とする職,または何らかの問題に関する研究もしくは調査に基づき助言,意見もしくは勧告を提出することを任務とする職への任命を妨げるものではない。

第120条 権力乱用調査委員会の機能,義務および権限
 (1)権力乱用調査委員会は,法律に従い,公職者の不正行為もしくは汚職を調査・取り調べること,または調査・取り調べさせることができる。
 ただし,本項はこの憲法自体が当該行為に関する別の規定をもつ場合,および他の法律が別に特別規定をもつ場合には,いかなる公職者にも適用されない。
 (2)不適切行為を理由に弾劾決議により解任された憲法設置機関の公職者,同様の理由により司法委員会により解任された裁判官,または軍隊法により訴追され解任された者に対しては,法律に従い,調査・取り調べをすることができる。
 (3)権力乱用調査委員会が第1項により調査・取り調べを行い,公職者が法律により不適切と規定されている行為を行い権力乱用をしたと認定したときは,委員会はその者に訓戒を与えるか,または関係機関に文書をもって機関としての処置もしくは法律に定める他の必要な処置をとることを勧告することができる。
 (4)権力乱用調査委員会が第1項により調査・取り調べを行い,公職者が法律で汚職と定める行為をした事実を認定したときは,委員会は,その者またはそれにかかわった他の者に対する訴訟を法律により管轄権をもつ裁判所に提訴するか,または提訴させることができる。
 (5)権力乱用調査委員会が第1項により調査・取り調べを行い,公職者の職務が他の機関の管轄であることが判明したときは,委員会は文書をもって当該機関に必要な処置をとることを勧告することができる。
 (6)権力乱用調査委員会の他の機能,義務および手続きは,この憲法に従い,法律で定める。
 (7)権力乱用調査委員会は,調査,捜査または提訴に関する権限および義務のいずれをも委員長またはネパール政府のいずれかの公職者に委任し,一定の条件の下に,これを遂行させることができる。

第121条 年次報告書
 (1)権力乱用調査委員会は,この憲法に従い遂行した任務に関する年次報告書を大統領*に提出し,大統領は首相をして**この報告書を立法議会に提出せしめる。
   * 第4次改正(2008年5月28日)以前は,「首相」。
   ** 第4次改正(2008年5月28日)以前は,「首相は」。
 (2)第1項により提出される年次報告書には,以下のことを必ず記載する。すなわち,当該年度内に権力乱用調査委員会に提出された訴えの総数,捜査完了の件数,法律により管轄権のある裁判所に起訴した事件および保留中の事件数,警告を発するか,または文書をもって機関としての処置もしくは他の必要な処置を執ることを勧告した事件,腐敗防止の成果,および今後の改善のための勧告。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/10 at 09:24

権力乱用調査委員会(3):強権行使の二面性

2.CIAAの強権行使の二面性
(1)広範な調査管轄権
CIAAは,司法と軍を除く国家統治の広範な領域を調査対象としている。前述のように,この数ヶ月だけでもCIAA捜査は各方面に及んでいるが,それに留まらず,今後さらに捜査を拡大していく方針だという。捜査予定の主な部署は,以下の通り(機関名は仮訳)。
 ・土地改革省 ・税務署 ・郡庁 ・交通局 ・武装警察 ・警察 ・ネパールテレコム ・エネルギー省 ・技術職業教育委員会(CTEVT) ・内務省 ・負債裁定所 ・医療委員会 ・工業技術委員会 ・都市開発事務所 ・灌漑省 ・農業省 ・カトマンズ盆地飲料水会社 ・トリブバン国際空港事務所 ・民間航空局 ・農業開発委員会 ・BP.コイララ保健機関,BP癌病院(チトワン) ・ノーベル医科大学 ・トリブバン大学 ・プルバンチャル大学 

130909■CIAA調査対象者(6月末,Himalayan, Jun.30)
(参照)ekantipur, Jun28; Anticorruption Nepal, Jul.1; Himalayan, Jun.30 & Aug.23; Republica, Aug.24; Insight Nepal, Aug.29.

(2)喝采と批判
CIAAの権力乱用摘発は,統治清潔度139位(176国中,2013年度)のネパールにあっては,庶民をスカッとさせるものであり,拍手喝采を浴びている。

CIAAは,この10年ほどめぼしい活動をしてこなかった。たとえ捜査し起訴しても,たとえば2006年2月~2008年11月の36件のうち35件がそうであったように,あれこれ不透明な理由で,その多くが特別法廷において却下され,無罪とされてしまっていた(Karobar, Jul.3)。

ところが,2013年5月,Lok Man Singh Karkiが委員長に就任すると,CIAAは積極的に活動するようになった。カルキ委員長は,就任後すぐ,役得のあるとされる職をまず捜査ターゲットとすると述べ,「脱税や横流しを助長するような役人には一切容赦しない」と宣言した(Insight Nepal, Aug.29)。

このようなカルキ委員長の断固たる態度や,その下でのCIAAの積極的な権力乱用調査活動は,各メディアで賞賛され,たとえばカンティプル紙には「砂漠の慈雨だ」といった声が寄せられた。また日本在住のシャンブ・タパさんも“権力乱用で蓄財した人びとを直ちに捜査し拘置すべきだ”とフェイスブックに書いているという(Khabar,Aug.25)。

カバラ記事はこう結ばれている。「社会的慣習や文化を口実に権力乱用を続けてきた人びとが,CIAAの動きを警戒するようになった。あらゆる部署の腐敗をCIAAが監視し続けてくれるなら,法の支配は確立されるだろう,と人民は期待している」(Khabar,Aug.25)。

しかし,その一方,CIAAの強権行使拡大には批判もある。インサイトネパール記事「CIAAの動きは税務署に風波を立てている」(8月29日)によれば,最近,各役所で権限と役得の多い職からそうでない職への移動希望が続出している。ある職員は,カルキCIAA委員長就任以前に,コネを使い,やっとの思いで役得のある収税関係職に就いたが,事情が一転,またコネを使い,今度は役得のない下位の職への移動を必死になって働きかけているという。このような職員が他にもたくさんいる。CIAAカルキ委員長の腐敗一掃キャンペーンが,役所にパニックをもたらし,役人たちを,仕事そっちのけで,一時避難へと駆り立てているのだ。

このような状態だから,税務調査に当たっても,厳しく調べることができない。もし厳しくすると,恨みを買い,CIAAにあることないこと密告されるからだ。CIAAの活動が税務署員を萎縮させ,結果として,税収の減少となっている(Insight Nepal, Aug.29)。このような士気の減退は,他の役所にも見られる。

また,これまでのCIAAの権力乱用調査は,多くの場合,有力政治家たちには及んでいない。むしろ,CIAAは政党や政治家の争いに利用されがちであった。

結局,これは権力乱用をチェックする権力乱用委員会の権力乱用を,誰が,どのような方法でチェックするか,という問題に帰着する。これは,近代的な「法の支配」や合理的な官僚制の未成熟なネパールにとっては,非常に難しい課題であるといってよいだろう。

谷川昌幸(C)

Written by Tanigawa

2013/09/09 at 09:22

権力乱用調査委員会(2):国外労働省,出入国管理省,ネパール石油会社など

(2)国外労働省・出入国管理省・TIA警察の捜査
CIAAは,8月23日,国外労働省(Department of Foreign Employment)職員17人,出入国管理省(Department of Immigration)職員18人を逮捕した。翌24日には,下記人材斡旋会社の社員4人も逮捕している。
 ▼Sanaa International
 ▼Progressive Placement
 ▼Advance Recruitment

報道によれば,国外労働省職員は,人材斡旋会社から賄賂を受け取り,労働者77人の渡航書類を偽造し,カタールへ出国させようとした。このうち,すでに34人は出国済み。

この国外労働汚職には,当然,トリブバン国際空港(TIA)も絡んでいる。そこでCIAAは,TIAの出入国管理事務所や空港警察も捜査した。

国外労働を希望して関係官庁を訪れる青年は1日1500人にのぼる。今回の大量逮捕で,国外労働関係事務所はどこも大混乱に陥っているという。(ekantipur, Aug.24;Republica,Aug.24;Himalayan, Aug.23)

130907a 130907b
 ■人材斡旋会社の宣伝

(3)ネパール石油会社の捜査
CIAAは,8月31日,石油類輸入汚職容疑で,ネパール石油会社(NOC: Nepal Oil Corporation,国有)のビラトナガル支店を捜査した。

報道によると,インドから輸入する石油類は,タンクローリー1台当たり,規定より60リットル少ない。あるいは,200リットル少ないという指摘もある。その分は,石油販売会社の損失となる。また,検査官らは,タンクローリー1台当たり1000ルピーの賄賂を取っているという。(Himalayan,Aug.3; nepalnews.com,Aug31)

捜査結果の報道はまだ無い。

130907c ■ネパール石油会社

(4)道路通行税事務所の捜査
CIAAは,6月2日,ダディング郡の道路通行税徴収所2カ所を捜査し,現金100万ルピー,領収証,銀行書類等を押収,また職員の自宅等も捜査した(Republica, Jun.2)。

そして,職員6人を通行税243万ルピー横領の罪で特別法廷に起訴した(Republica, Sep.1)。

(5)公用車私用捜査
CIAAは,8月6日,各機関の公用車の私的利用の捜査に着手した。

ネパールでは,日常的に,公用車を自家用車代わりに使い,寺参り,食事,家族旅行などに出かけている。これに対し,CIAAは,交通警察などに指示し,取り締まりを強化させた。その結果,公用車の私的利用は激減した。

6日以降の2週間で,摘発は5台(Himalayan, Aug.24)。

(6)ナラヤニ病院の捜査
CIAAは,9月1日,ナラヤニ地域病院(ビルガンジ)の4人を特別法廷に起訴した。
 ▼医師 1人
 ▼病院開発委員会議長 1人
 ▼病院開発委員会委員 2人
容疑は,偽造書類をつくり24人を病院に雇用したというもの。

また,CIAAは,ラウタート郡保健事務所に不正な方法で83人を雇用したとして,保健省幹部1人を摘発し,保健省に省としての処分を要請した(Republica, Sep.1)。

130907d ■ナラヤニ地域病院(Google)

Written by Tanigawa

2013/09/07 at 17:44